「Nothing」と一致するもの

Shintaro Sakamoto - ele-king

 先日、6年ぶりのニュー・アルバム『物語のように』をリリースした坂本慎太郎。この絶好のタイミングでワンマン・ライヴが決定している。LIQUIDROOMの18周年記念でもあり、メンバーとしてAYA、菅沼雄太、西内徹も出演。行かない理由がありません。

坂本慎太郎、LIQUIDROOMにてワンマンLIVE決定!

LIQUIDROOM18周年を記念して、坂本慎太郎ワンマンLIVEが決定致しました。 
6月3日(金)に6年ぶり4枚目のアルバム「物語のように」をリリースした坂本慎太郎。
まさに待望の新作発売後最初のワンマンLIVEになります。
メンバーは、坂本慎太郎、AYA、菅沼雄太、西内徹。
イープラスでのプレオーダーは本日6月6日から始まります。

*開催にあたっては、現在のガイドラインに沿い、感染防止を徹底して行います。

LIQUIDROOM 18th ANNIVERSARY

坂本慎太郎
-坂本慎太郎LIVE2022-

2022年7月14日(木曜日)
LIQUIDROOM
開場: 19:00 / 開演: 20:00
前売: ¥4,500 (drink代 別)
pre-order イープラス 2022年6月6日(月)正午~12日(日) 18:00
一般発売 6月25日(日) イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/3637340001-P0030001

問い合わせ : LIQUIDROOM 03-5464-0800 www.liquidroom.net

主催: LIQUIDROOM
企画制作: LIQUIDROOM / zelone records

坂本慎太郎プロフィール

1989年、ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。
2010年ゆらゆら帝国解散後、2011年に自身のレーベル、“zelone records”にてソロ活動をスタート。
今までに3枚のソロ・アルバム、1枚のシングル、9枚の7inch vinylを発表。
2017年、ドイツのケルンでライブ活動を再開し、国内だけに留まらず、2018年には4カ国でライヴ、そして2019年にはUSツアーを成功させる。
今までにMayer Hawthorne、Devendra Banhartとのスプリットシングル、ブラジルのバンド、O Ternoの新作に1曲参加。
2020年、最新シングル『好きっていう気持ち』『ツバメの季節に』を7inch / デジタルで2か月連続リリース。
2021年、Allen Ginsberg Estate (NY)より公式リリースされる、「Allen Ginsberg’s The Fall of America: A 50th Anniversary Musical Tribute」に参加。
2022年、4thアルバム「物語のように」をリリース。

様々なアーティストへの楽曲提供、アートワーク提供他、活動は多岐に渡る。

official link: https://linktr.ee/shintarosakamoto_official

Jo Montgomerie - ele-king

 ここにあるのは音である。世界に満ちていた音である。

 スコットランド出身、マンチェスター在住の音楽教師、サウンド・アーティストであるジョー・モンゴメリー。その新作『From Industry Home』が、環境音+アンビエント系譜の作品として、なかなか興味深い出来だった。
 彼女のこれまでの作品以上にフィールド・レコーディング/サウンドスケープを追求したアルバムに仕上がっていたのだ。音と音が溶け合い、響き合い、混じり、現実が溶けていってしまうような音響……。

 ジョー・モンゴメリーが最初にアルバムをリリースしたのは、2019年のことだ。ノース・ヨークシャーの〈Industrial Coast〉から『Early Works pt. II』を発表した。薄暗いアンビエンスを基調としつつも、〈raster-noton〉直径のグリッチな電子音楽であった。
 そして2020年と2021年にセルフリリースした『selected isolation works』と『ISO2​.​0』から環境音と具体音と電子音が交錯するアンビエント作品へと変化しはじめた。そして2022年に『From Industry Home』を送り出したわけだ。
 『From Industry Home』の音は、マンチェスターの都市の音を採取することで生まれたサウンドスケープである。そこに自身の身体の音なども細やかにミックスされていく。いわばマクロとミクロが交錯するようなサウンドだ。
 聴いていると具体音と電子音の持続によって、聴覚の遠近法が溶け合っていくような感覚を得ることができるほど。ここに「コロナ禍における世界/都市の音」という側面も想像することは容易いが、むろん実証はない。
 自分は(音楽性はまったく違えども)どこかイーライ・ケスラーの『icons』(2021)を想起してしまったのだ。同時代の音響を感じたとでもいうべきかもしれない。都市の音が音響のなか溶けあっていくような感覚である。そう、『icons』もまた(コロナ禍の)都市の音を採取したアルバムであった。
 一方、アルバムのリリース・レーベルは、ロンドンの〈touch〉などからリリースしているヤナ・ヴィンデレンやクリストフ・ヒーマンとアンドリュー・チョークによるミラーと隣接すると語っている。

 ちなみにリリース・レーベルは〈Helen Scarsdale Agency〉というカルフォルニアの実験音楽レーベルである。このレーベルはフォッシル・エアロゾル・マイニング・プロジェクトをはじめ、ジム・ヘインズ、BJ・ニルセン・アンド・スティルアップステイパ、ローレン・チャス・アンド・ノータムなど極めて通好みの音響作家の作品を00年代以降、多くリリースしてきたマニア御用達の音響レーベルといえよう。
 このアルバムの音もまたディープにして、深淵、どこか崇高のようなムードもあり、まさに〈Helen Scarsdale Agency〉に相応しい仕上がりだ。世界の片隅から広がる音響の神秘か。「ただの音」に宿る音の霊性か。
 
 全4曲(カセット版にはA面とB面で各2曲ずつ)、どのトラックも採取された都市の環境音とノイズが深い残響の中でコラージュされ、まったく別の音響のように変化していく。
 どこまでが環境音か。どこまでが加工されたものなのか。どこまでが電子音なのか。その境界線が次第に曖昧になり、音と音が溶け合っていく。まるで映画の音響部分だけを聴いているような感覚だ。
 音楽教師ということだから、おそらく音楽的な知識や理論なども熟知しているのだろう。だが彼女の音は理論に縛られた音ではない。精密で生々しく、自由に音の波にアクセスしていくような感覚があるのだ。今年になって聴いたフィールド・レコーディング・アンビエント作品の中でも印象的なアルバムのひとつである。

 最後に冒頭の言葉をもう一度繰り返しておこう。ここにあるのは音である。世界に満ちていた音である、と。

 2016年7月に急逝したWOODMAN(2013年 ele-king vol.12に、ペイズリー・パークスとの対談あり)、彼が残した膨大な作品のなかから、1999年に制作、MACARONIMAN名義でリリースされた『Downtown Science』がレコード店JET SETによってアナログ化された。日本のフットワークや食品まつりにも影響を与えた彼のあまりにもオリジナルなプロダクションが聴けるチャンスです。チェックしてください。
https://www.jetsetrecords.net/i/814006021169/
 

第9回 増え続けるショッピングモール - ele-king

 ワイア入りガラスウィンドウの菱形にスライスされた、約2キロ先に聳え立つビル群と、首都高を走る車に向けられた巨大な歯科医の看板。デスクから右を向けば常にそこにある景色。ビル群の高層階は霧がかかっていて見えないが、中から届く仰々しいライトアップの光でその高さが把握できる。権威主義と資本主義の結晶の輝き。

 私が育った街は、山手から見下ろす人たちに100万ドルの夜景と呼ばれていた。それが何の金額かは知らないけど、とにかくそう呼ばれていた。おそらくその金額分の電力を消費し、その金額分のカーボンを排出し、その金額分の輝きを維持していたんだろう。その100万ドルの輝きの中が私の日常だった。当たり前だけど、自分の目に映る日常に100万ドルの価値があるとは、これっぽっちも思っていなかったし、100万ドルという金額のスケールもよくわかっていなかった。薄いガイドブックに載るような観光客向けのエリアでは、電柱は埋められて、適度に清掃もされて、一通り取り繕われていたけど、私が日々を過ごしたエリアで目に入るものは少し違っていた。開かないシャッター、幾重にも塗り重ねられたグラフィティ、積層するステッカー、ひび割れたコンクリート、瓦礫、ショーウィンドウに並ぶナイフ、怪しげな漢方薬、パワーストーン、ブラックライトに照らされた何種類もの爬虫類や両生類、鈍い光沢のフックに吊るされた動物の肉、乱雑に箱に詰め込まれたレコードやカセット、染みや汚れがついたままの軍用品、動く保証のない電化製品の山だった。決して美しくはなかったけど、私はそれが好きだった。毎週のように流行を量産するタブロイド誌が説く「時代」からは取り残されているけど、そこに積み重なった愛着や歴史の厚みは、そんなものに左右されないと思っていた。しかし、消えるときはあっけない。押井守の『機動警察パトレイバー the Movie』を久しぶりに観ていたら、大規模再開発中の東京を舞台に「ここじゃ過去なんてものには一文の値打ちもないのかもしれんな」「数年後には、目の前のこの海に巨大な街が生まれる。でも、それだってあっという間に一文の値打ちもない過去になるに決まってるんだ。タチの悪い冗談に付き合ってるようなもんさ」という会話が交わされていた。昭和の時代からこの街のやり方は変わっていないらしい。そういえば、ギブスンの『モナリザオーバードライブ』では、ロンドンの露店に並ぶアンティークの小物を見た久美子が「これって “ゴミ” じゃない」と言っていたっけ。東京では、それらは埋め立て用だそうだ。「夢の島」というネーミングは案外、供養のようなものなのかもしれない。

 私は10年と少し、渋谷エリアに住んでいる。この「馴染みの街」になってしばらく経つはずの街を歩いていると、私は頻繁に自分が幽霊にでもなったかのような錯覚に陥ることがある。あるはずのものがなく、何がなくなったのかも思い出せない。ただ「ない」ということだけがわかる。喪失感とも少し違った寂しさ。もしくは、マーク・フィッシャー流に言い換えるなら、ここは「集団健忘症の街」。流動的につねに塗り替えられていく街には、愛着や記憶が定着する隙は与えられないらしい。駅周辺の横丁がなくなるとき、あるいは宮下公園がいまの形になるとき、もっと派手に抵抗しておけばよかったと、いまになって思う。高円寺では再開発反対のパレードがおこなわれたらしい。渋谷ではどうだったっけ。その記憶もすでに曖昧になってる。街全体で絶えずおこなわれている終わりのない工事が、既成事実として機能し、受け入れざるを得なくしたようにも思う。今年の夏が終わると同時に、Contact と Vision という馴染みのクラブが永久にその扉を閉ざす。道玄坂エリアの再開発に伴うものだそうだ。これも人類史以前から決まっていたことかのように、諦めを伴ってコトが運ばれている。跡地には “また” 大規模商業施設やホテルができるそうだ。渋谷区の北側でも再開発は進んでいて、そこにも大規模な商業施設ができるらしい。こちらはホテルではなく、タワーマンション付き。
 何年か前に、人気のカルチャー誌のいくつかが立て続けに台北特集を組んだときの出来事を思い出したので、ついでに書いておく。そのときに雑誌のカバーを飾ったものは、お世辞にも洗練されているとは言えない小さな飲食店や、それらが並ぶ街並み、あるいはナイトマーケットだったと思う。そして、それを批判する文脈で「台北は今や近代化された街であり、エキゾチズム的な消費をしてほしくない」というような意見が台北の人の声としてネットの一部で拡散された。話の流れは忘れたが、そのときにあげられたカバーにすべき近代化の象徴のひとつが台北101だった。エキゾチズム的な消費をしてほしくないという意見に対して共感できる部分もあって、台北に住む友人にこの話をしたことを覚えている。台北101に対してその友人が言ったのは「あんなところには、台北に暮らす人たちのスピリットもカルチャーもない」だった。確かに、欧米のカルチャー誌が東京の特集をしたときにヒカリエをカバーにしたとしたら、と想像すると、その可笑しさが理解できる。私が台北に行ったときに過ごすのはナイトマーケットや小さい店が並ぶエリアだし、東京に海外から友人を招いたときに連れていくのは、いつもそんな感じのエリアだ。ショッピングモールじゃない。エキゾチズム的な一方的な消費には問題もあるが、それに対する回答がショッピングモールというのは、反動的で極めて資本主義的な価値観のように感じる。ショッピングモールは、だいたい世界中のどこにでもあって、どれもが同じようなエクステリア、同じようなインテリア、同じようなサービスを備えている。だいたい街の中に突如として現れて、その街が持つ固有の匂いや色を消そうとする。そして固有の匂いを消され、あらゆるグラデーションを均一に塗り固められて規格化された街は、そこに暮らす人びとにも規格化を求める。「世界から常に人と注目を集め続ける街の実現を目指す」という文言が、渋谷区の再開発事業の案内では喧伝されている。平凡な資本主義のルールのもとでショッピングモールによって規格化された街が、どういう理屈で「世界から常に人と注目を集め続ける」ようになるのだろうか。

 手垢で光沢の出た木製テーブルや、油と湿気と埃で半透明になったガラス窓、蔦植物のように有機的な成長を遂げたケーブルやダクトの類、不規則に消えるネオン、ドアの隙間から溢れ出す低音、ラッカーやマーカーの軌跡、街の匂いや色を作っていたものたちが、連続した消臭漂白によって消えていく。跡に現れるのは、シットコムのセットのような安っぽい昭和風の店や、サビ加工を施したボルトとヴィンテージ加工用塗料を塗りつけた板でできたカウンター、読めない外国の言葉で存在しないメニューが書かれた札のかかる壁、あるいは徹底的に消臭漂白された平坦な表面の連続。これがタチの悪い冗談じゃないとしたら何なのだろう。
 ギブスンの有名なクオートに「ストリートは、モノに独自の使い方を見出す」というものがある。レントゲン写真にはグルーヴが掘られ、消化器はインクを吹き出し、強粘着出荷用ラベルは都市に匿名の痕跡を残す。私たちは、この街に増え続けるショッピングモール群にどんな使い方を見出すことができるのだろうか。


Síntomas de techno - ele-king

 1985年から1991年のペルーのアンダーグラウンド・シーンで活躍したテクノ音源の編集版『Síntomas de techno : Ondas electrónicas subterráneas desde Perú (1985-1991)』がリマの〈Buh Records〉から先週末リリースされた。タイトルは英訳すると『Symptoms of techno:
Underground electronic waves from Peru (1985-1991)』、和訳すると「テクノ症候:ペルーのアンダーグラウンド・エレクトロニック・ウェイヴ」。
Disidentes、Paisaje Electrónico、T de Cobre、Meine Katze Und Ich、El Sueño de Alí、Cuerpos del Deseo、Círculo Interior、Ensamble、Reacciónといったバンドによる、パンクに触発されたペルー生まれのDIYテクノ(テクノ・ポップ、EBM、インダストリアル、ミニマルシンセなど)が収録されている。解説によると「ほぼすべてが入手不可能な曲で」「ラテンアメリカのテクノやインダストリアル・ミュージックの歴史を語るうえでは避けられないレファレンス」とのこと。フィジカルは限定300枚で7月15日発売。英語とスペイン語のブックレット付き。まずは聴いてみましょう。面白いです。

African-American Sound Recordings - ele-king

 シャレた滑り出しに意表を突かれる。まさかのラウンジ的展開。これまでは実験音楽をはじめ試行錯誤の連続だったアフリカン-アメリカン・サウンド・レコーディングス(以下、AASR)がスタイルをガラッと変化させた。よく聴くとラウンジ風の演奏(?サンプリング?)には細かくダブ処理が施され、シンコペーションを効かせたドラムに複雑なループがいくつも絡み合うなど細部までサイケデリックに染め上げられている。いわゆるひとつのドープ・サウンドで、ボトムの締め方はきちんとしたもの。ホーンや各種の金属音が異様に華やかなために、パッと聞いた感じは明るいアンチコンというか、メランコリーを返上したDJシャドウというか。そう、大雑把にいえば『Tamika's Lodge』はダン・ナカムラやマッドリブとは異なるタイプのインストゥルメンタル・ヒップホップで、20年前にブルース・ミュージシャンの故郷レッド・バンクスがジェントリフィケーションから逃れて宇宙に移転したという設定のコズミック・サウンド。AASRのデビュー作『Divine Comedy(神曲)』にはサン・ラーとダンテの言葉が長々と引用され、そうした含みは最初からあったとも言える。リヴァーブをかけたピアノに不穏なドローンが虚しく響く“9000th Hour”だけが、そして、宇宙の虚しさを漂わせる。

 AASRの正体はよくわからない。メンフィスを拠点とするW.G.M. がその主体らしく、動画サイトには黒人男性が1人で演奏する姿があり、ジャケ写やストリーミング・サイトのアー写などには黒人女性の姿もある。W.G.M. 名義では2019年にデビュー・アルバム『AND EYE (seen what i saw)』、20年にはシングル「RUNAWAY TRAIN」やミニ・アルバム『Outreach Ministries』をリリースし、やみくもに実験的な作品だけでなく、叙情性に焦点を当てたゆるゆるのコンポジションから本格的なアンビエントまで、いわゆる習作的な作品が並ぶ。AASR名義は2020年からW.G.M. 名義と入れ替わるように使われ始め、デビュー・アルバム『Erasure Poetry』では延々と続く雨の音に始まり、統一性のない音楽スタイルが雑多に煮込まれていく。正直、何をやりたいのかよくわからない。ジェントリフィケーションによって覆い隠されたホームレスやアル中など「忘れられた個々人」に焦点を当て、ヒューマニティを推進していくというステートメントが記されてることがそれまでとは大きく異なった。テーマのせいか、全体にうらぶれた感じで、しつこく繰り返される雨の音がとくに効果を上げているとも思えない。

 スピーカー・ミュージックやグリーン-ハウスなど、滑り出しはそうでもなかったのに急に完成度が高くなるミュージシャンがたまにいる。『Tamika's Lodge』もまさにそうした作品で、外部からプロデューサーを招いたわけでもないのにここまでのキャリアとは断絶していると言いたくなるほどサウンドも曲もすべてが一新されている。宇宙空間に移動したという設定が想像力の向かう方向に何も制約を設けなかったということなのだろう、“Astral Breakin’”でギターのコードを単純に鳴らすだけとか、“Coffee Cake”でジャズ・ベースが正確にループされ続けるといった地味な要素がここまで丁寧につくられたことはなく、その上でインプロヴィゼーションに移ったり、妙な部分にダブ処理を施すので、ノーマルな演奏からどこかに連れ去るというイメージの飛躍が威力を増している。“Kitchen Clean-Up Crew”や“The Gxian Airstream”など、もっと聞いていたいのに、あっさりと終わってしまうのは本当に残念。“Knight Of Cups”などはフリー・ジャズのドラムに様々なドローンが絡んでいくにもかかわらず、それこそラウンジ・ミュージックのように聴かせてしまい、初期の808ステイトを思わせる“Mars Mathematics”など、とにかく聴かせ方が巧みで技あり。

 気になるのは「アフリカン-アメリカン」という呼称で、2年前の大統領選でバイデンがインド系のカマラ・ハリスを副大統領候補にすると予告した際も、これに反発したアフリカ系がドナルド・トランプに票を投じるという動きがあったため、カラード同士の分断を避けるためにアフリカ系も「ブラック」と呼ぶことが増えているなか、あえて「アフリカン-アメリカン」を名乗るというのはどういうことなのだろうか。ジェルー・ザ・ダマジャのような逆差別主義者の可能性もあるし、そのあたりは機会があればちょっと確認しておきたいところ。

tofubeats - ele-king

 新型コロナウイルスの急襲から2年以上が過ぎている。状況は国によって異なるけれども、以前わたしたちがぼんやりと思い描いていた将来像が一度キャンセルされたことは疑いない。心情面のみならず、実際に経済的な打撃をこうむり先のことが見通せなくなった者も少なくなかったはずだ。以前からあった「資本主義リアリズム」の概念を、パンデミックが加速させたともいえる。資本主義以外の社会を想像することが難しくなったというマーク・フィッシャーの考えが、より強度をもって人びとに実感されるようになった、と。
 今月末発売の紙版エレキング夏号ではフォーク特集を組んでいる。そこでインタヴューを掲載しているマリサ・アンダーソンの昨年のアルバム・タイトルは『Lost Futures』だった。共作者のウィリアム・タイラーが読んでいたフィッシャーの著作『わが人生の幽霊たち──うつ病、憑在論、失われた未来』からとられたものだ。タイラーがその語を用いたのは、たんに「クールなフレーズ」だと思ったからにすぎない。けれども作品の完成後、そのことばの文脈を再検討したくなったと、彼は『Foxy Digitalis』のインタヴューで語っている。特権のある連中が抱くペシミズムもあるから、と。たとえば「白人男性」が考える、失われた未来──でも「わたしたちは日常生活を送っていますよね?」とアンダーソンのほうもおなじ記事で発言している。「子どもに、未来はないんだよと伝えてみてください。わたしたちが暮らしている現在は、ノスタルジアのうえに築かれた幻想なんだよって。そうじゃないですよね。今日は今日です」。
 tofubeats による4年ぶり通算5枚目のアルバムもまた、果敢にペシミズムを乗りこえようともがく作品である。

 前作『RUN』のあと、tofubeats は拠点を神戸から東京に移している。積極的にDJをやったり仕事を増やしたりいろんなひとに会ったりするためだ。が、まさにそのタイミングどんぴしゃでリボ核酸が人類を襲撃。想定していた活動ができなくなった彼は、パンデミック前から考えていたという「鏡/反射」のテーマをより深めていくことになる。検温器で自身の顔を目にする機会が増えたことも影響したらしい。つまり本作は tofubeats の内省の反映と言えるわけだが、しかし湿った感じはまるでない。せつなさはあるけれど、ナルキッソスはおらず、全体的にからっとした前向きなムードに包まれている。
 ゲスト不在だった前作とは打ってかわり、多彩な顔ぶれが招かれているところも大きい。サグさを売りにしない点でいまもっとも注目すべき神戸のラップ・デュオ Neibiss をフィーチャーしたヒップホップ・チューン “don’t like u”。おなじく神戸のシンガーソングライター UG Noodle が気だるげな歌を聴かせるモンド~ボサノヴァ調の “恋とミサイル”。tofubeats はこれまでのように、将来を担うだろう若手をフックアップするというみずからの役割をしっかりこなしている。
 クラブ・ミュージックのリスナーにとっては、後半のほうがより魅力的に映るかもしれない。9曲め “Solitaire” 以降の基調はハウスだ。『わが人生の幽霊たち』でフィッシャーは音楽が大きくは進化しなくなってしまったことを指摘していたけれど、「音楽ってもうダメなのかなー?/そんなことないって言ってくれよ」という “VIBRATION” の Kotetsu Shoichiro のラップは、4つ打ちという既存のフォーマットと組みあわせられることにより、フィッシャーへのアンビヴァレントな感情を表現しているようにも聞こえる。“SOMEBODY TORE MY P” や “Okay!” ではDJピエール・ファンとしての本領を発揮、ノイズのないJポップの世界(=資本主義リアリズム)で盛大にアシッド音をぶちかますことも忘れていない。
 そうしてアルバムは表題曲へとたどりつく。『竜とそばかすの姫』で飛躍的に知名度を高めたシンガー、中村佳穂がメイン・ヴォーカルを務めるこのジャングル・チューンこそ本作のハイライトだ。「溺れそうになるほど 押し寄せる未来」。これはペシミズムに覆われた時代のムードにたいするストレートな反骨である。同様の価値転覆は、複数のビートが入れ替わる最終曲 “Mirai” にも引き継がれている(「未来が押し寄せる」「未来まだ止まらない」)。「Mirai」は冒頭 “Mirror” にかかっている。「鏡」を覗きこむことからはじまった内省が「未来」の洪水へといたるこのストーリーは、今日の閉塞感を突破する起爆剤となるにちがいない。
 未来が失われているっていう発想、もうやめません? tofubeats の新作はそう主張している。そろそろ次のステップに行きませんかと。ここに、未来はリセットされた。

 ネット上でたまに見かける「lilacoustic」という単語はプロデューサー名なんだろうか、新しい音楽用語なんだろうかと思っていたら、『フォートナイト』で知られるエピック・ゲームズに買収されたbandcampで初めて「lilacoustic」というタグ付けを発見。韓国の새눈바탕/セヌンバタン(Bird's Eye Batang)がそれで、実はこのプロデューサー、4年前に『무너지기/ムノジギ(Crumbling)』がアメリカで話題となり、日本ではくるりが持ち上げていた공중도둑/コンジュンドドゥク(空中泥棒/Mid-Air Thief)の別名義であった。공중도둑/コンジュンドドゥク(空中泥棒)自体が공중도덕/コンジュンドドク(公衆道徳/Gongjoong Doduk)の変名で、그림자 공동체/クリムジャ コンドンチェ(Shadow Community)という名義もあったりして、この人はアルバムをリリースするごとに名義を変えるのかと思っていたら、공중도덕/コンジュンドドク(公衆道徳)名義の2作目も出ていたりで、実にややこしい [ 공중도덕/コンジュンドドクは「公衆道徳」、공중도둑/コンジュンドドゥクは「空中泥棒」、그림자 공동체/クリムジャ コンドンチェは「影共同体」、새눈바탕/セヌンバタンは「鳥瞰バタン(地名?)」という意味だそうです ]。しかし、なぜ새눈바탕/セヌンバタンは『손을 모아/ソヌル モア』に「lilacoustic」というタグを付けたのだろうか。공중도둑/コンジュンドドゥクは基本、フォークトロニカと呼ばれることが普通だったとはいえ、『손을 모아/ソヌル モア(Flood Format)』に関しては全編エレクトロニクスだし、『무너지기/ムノジキ 』のようにロック色がないところが気に入って僕は聴いていたのだけれど、エレクトロニクスがメインになったものに改めて「lilacoustic」というタグを付けるのもヘンな話である。「lilacoustic」というワードは実のところ何を意味しているのか。音楽用語などというものは実際、ふわっと始まって定着することもあればそうはならなかったりもするので、あまり早くから考えてもしょうがないことはわかっている。ちなみにフォークトロニカというのはフォーテットやカリブーのようにアコースティック音源を多用したエレクトロニカを指し示すのがいまでは一般的だけれど、最初はバッドリー・ドラウン・ボーイ周辺のを表現するために生まれた表現であり、モーマスなどが積極的に使ったこともあって、『무너지기/ムノジギ 』を聴いてロック系がフォークトロニカというタグ付けを取り戻すのは自然なことだったと思う。

 「lilacoustic」というワードを脇にどかして、改めて『손을 모아 /ソヌル モア』を無邪気に聴いてみよう。オープニングからいきなり桃源郷。さらにマウス・オン・マーズを思わせるスラップスティックなエレクトロニカへと続き、アレンジもどんどん派手になっていく。ごちゃごちゃとした音響自体がそういえば久しぶりで、爽やかに空を駆ける“빙의빙/ビンウィビン(Ripplippling)”もこのところ忘れていた感覚かも。時にノイジーにもなる過剰な装飾性と巧みに緩急をつけていく構成力でどんどん聞かせていき、後半はビートが刻まれない曲が続くのに、それでも独特の磁場をキープし続ける。エンディングはパスカル・コムラードのようなトイ・ピアノが哀愁や儚さを印象づけ、すべてを裏切るような終わり方。往生際の悪いエンディングも意外と悪くない。『무너지기/ムノジギ』に漲っていたコーネリアス色は希薄になり、ビーチ・ボーイズのメソッドも表面上からは消え去っている(ロック的なアプローチは공중도덕/コンジュンドドク名義でやり尽くしたということなのか)。昨年、アメリカで話題になったパク・へジン『Before I Die』でもサビの出てこない“Star Fruits Surf Rider”みたいな曲があったりして、コーネリスが韓国のアンダーグラウンドに与えた影響ってもしかしてかなり大きいのかなと思うと同時に2000年前後のレトロなムードが新鮮に聞こえたことには驚いた。『イカゲーム』は実際には10年前の企画だというし、『愛の不時着』のスチャラカも虚しく尹錫悦大統領は北への宥和政策は終わりにするというし、韓国の気分が本当のところはどうなのかいまいちよくわからないけれど。

 공중도둑/コンジュンドドゥク(空中泥棒/Mid-Air Thief)=새눈바탕/セヌンバタン(Bird's Eye Batang)がスゴいなと思うのは本人はSNSを一切やらずにここまで知名度を伸ばしたこと。フィッシュマンズが世界的に支持を増やしたのと同じくRateYourMusicがジャンピングボードになったようで、フォーク好きの人がエレクトロニック化した새눈바탕/セヌンバタンにも期待を持続させるなど書き込みの熱さは草の根のフィードバックがそのまま反映されているように感じられる。

(編集部註)韓国語のカタカナ読みは、八幡光紀氏によるものです。ありがとうございました!

Jazz Is Dead - ele-king

 キイパースンはふたり。アンドリュー・ウェザオールも褒めていたというマルチ楽器奏者にしてプロデューサーのエイドリアン・ヤング。もうひとりは、ア・トライブ・コールド・クエストのDJ/プロデューサーのアリ・シャヒード・ムハンマドだ。ケンドリック・ラマー作品にも参加しているこのコンビは、レジェンドたちとコラボしていくシリーズ「Jazz Is Dead」を2020年にスタートさせている。
 ele-kingでも取り上げた「001」にはロイ・エアーズ、マルコス・ヴァーリ、アジムス、〈Black Jazz〉のダグ・カーン、ゲイリー・バーツ、ジョアン・ドナート、ブライアン・ジャクソンと、そうそうたる面子が参加しているが、彼らとはそれぞれ単独のアルバムまで制作(「002~008」)、その後インスト盤「009」とリミックス盤「010」をもって同シリーズは完結した……。
 のだが、嬉しいことに、第2シーズンの開始がアナウンスされた。今回も腰を抜かすようなレジェンドたちに召集がかけられている。ロニー・リストン・スミス、〈Tribe〉のフィル・ラネリンにウェンデル・ハリソン、まさかのトニ-・アレン(生前録音)……まずは第1シリーズ同様、多彩な面々が参加した挨拶がわりの一発「011」が6/29に、その中から最初の単独コラボ・リリースとなるジーン・カーンとの「012」が6/15に発売(どちらもアナログはもうちょい先)。これは見逃せない案件です。

“僕たちは先人に敬意を払いながら音楽を作る。それが僕たちの目的なんだ” - アリ・シャヒード・ムハンマド

プロデューサー、マルチ・ミュージシャンとして60~70年代のSOULやJAZZを新たな視点で現代に甦らす鬼才 "エイドリアン・ヤング" と、"ア・トライブ・コールド・クエスト" のメンバーとして90年代以降の HIP HOP シーンに多大な影響を与えた "アリ・シャヒード・ムハンマド" によるプロジェクト「Jazz Is Dead」第2シーズンがついにスタート!

偉大なる先人達と繰り広げた濃密なライヴ・イベント「Jazz Is Dead」を発端に現代における "JAZZ" をあらゆる角度から切り崩し再構築していくこの新たな試みは、JAZZ ファンはもちろんのこと HIP HOP、レア・グルーヴなどジャンルやカテゴリー、そして世代をも超越したリスナーを惹きつけるサウンド!

ロイ・エアーズ、ゲイリー・バーツといったジャズ~ジャズ・ファンクのレジェンド奏者達やアジムス、マルコス・ヴァーリらブラジル音楽シーンの重鎮らと繰り広げられた第1シーズンでのコラボレーションに続き、第2シーズンではコズミックなジャズ・ファンク~フュージョンの先駆者である鍵盤奏者ロニー・リストン・スミスを皮切りに、伝説的なブラック・ジャズ・レーベル〈Tribe〉の創始者であるフィル・ラネリン、ウェンデル・ハリソンとの競演、さらにはフェラ・クティの右腕としてアフロビートを創造したドラム奏者トニー・アレン生前のレコーディングなど、ボーダレスにさらなる深化を遂げたコラボレーションを展開!

-SERIES 2 Teaser-
https://youtu.be/HISI1kFlSss

アーティスト:ADRIAN YOUNGE & ALI SHAHEED MUHAMMAD / エイドリアン・ヤング&アリ・シャヒード・ムハンマド
タイトル:JAZZ IS DEAD 011 / ジャズ・イズ・デッド 011
【CD】発売日:2022.6.29/定価:¥3,300(税抜 ¥3,000)/PCD-17842/輸入盤国内流通仕様/帯・日本語解説付
【LP】発売日:2022.11.23/定価:¥6,600(税抜 ¥6,000)/PLP-7844/5/輸入盤国内流通仕様/帯

[試聴]
https://jazzisdead.bandcamp.com/album/jazz-is-dead-011

「Jazz Is Dead」セカンド・シリーズ開幕!! コロナ禍の中、レーベルの原点でもあるライヴ・イヴェントが開催できない苦しい状況においても無事に完走したファースト・シリーズ全10作品により、LAアンダーグラウンドやジャズの界隈でいま最も衆目を集める存在となった〈Jazz Is Dead〉が早くもセカンド・シリーズをスタート。開幕を告げる鐘となるのは、前回と同じく、セカンド・シリーズでリリースが予定されているアルバムから1曲ずつを収録したコンピレーション。

今回のラインナップには、コズミックなジャズ・ファンク~フュージョンの先駆者であるロニー・リストン・スミスを皮切りに、〈Black Jazz〉からのリーダー作や、同レーベルの数々の名盤で印象的な演奏を残したベーシストのヘンリー・フランクリン、同じく〈Black Jazz〉を代表する歌姫にして、ファースト・シリーズでもアルバムをリリースしたダグ・カーンの奥方であったジーン・カーン、さらには伝説的なブラック・ジャズ・レーベル〈Tribe〉の創始者であるフィル・ラネリン、ウェンデル・ハリソンまでもが登場。これだけでも、レア・グルーヴ~ブラック・ジャズの好事家たちにとっては夢のような企画ながら、ジャンルや世代を越境したコラボレーションをその魅力とする〈Jazz Is Dead〉らしく、2020年に惜しくも亡くなった、フェラ・クティの右腕としてアフロビートを創造したトニー・アレンや、1973年に名門〈Impulse!〉に唯一残したアルバム『En Medio』がラテン/チカーノ・ジャズの傑作としてLA界隈で今なお語り継がれるギャレット(ゲイリー)・サラチョもそのラインナップに名を連ねる。

そして、もしかしたらセカンド・シリーズにおけるダークホース、最大の聴きどころになるかもしれないのは現行LAジャズ・シーン注目のコレクティヴ、カタリストとのコラボレーション。これまでのリリースでも、カタリストのドラマー、グレッグ・ポールが随所でプレイしていたため、気心知れた関係故に他の大御所陣との作品とは一味違うサウンドに乞うご期待。前回同様、最後にはエイドリアンとアリのユニット、ザ・ミッドナイト・アワーによる新曲も収録。

[Track List]
1. The Griot feat.Henry Franklin
2. Love Brings Happiness feat.Lonnie Liston Smith and Loren Oden
3. El Cambio Es Neccesario feat.Garrett Saracho
4. The Avenues feat.Katalyst
5. Come As You Are feat.Jean Carne
6. Ebun feat.Tony Allen
7. Running With The Tribe feat.Phil Ranelin and Wendell Harrison
8. Phoenix feat.The Midnight Hour
* LP収録曲 SIDE A:M1-M2 / SIDE B:M3-M4 / SIDE C:M5-M6 / SIDE D:M7-M8


アーティスト:ADRIAN YOUNGE & ALI SHAHEED MUHAMMAD / エイドリアン・ヤング&アリ・シャヒード・ムハンマド
タイトル:JEAN CARNE (JAZZ IS DEAD 012) / ジーン・カーン(ジャズ・イズ・デッド 012)
【CD】発売日:2022.6.15/定価:¥3,300(税抜 ¥3,000)/PCD-17843/輸入盤国内流通仕様/帯・日本語解説付《JAZZ/RARE GROOVE》
【LP】発売日:2022.7.27/定価:¥4,950(税抜 ¥4,500)/PLP-7862/輸入盤国内流通仕様/帯《JAZZ/RARE GROOVE》

[試聴]
https://jazzisdead.bandcamp.com/album/jean-carne-jid012-preorder

〈Jazz Is Dead〉、セカンド・シリーズ第二弾! コロナ禍の中、レーベルの原点でもあるライヴ・イヴェントが開催できない苦しい状況においても無事に完走したファースト・シリーズ全10作品により、LAアンダーグラウンドやジャズの界隈でいま最も衆目を集める存在となった〈Jazz Is Dead〉、セカンド・シリーズの第二弾が登場。第一弾のコンピレーション『JAZZ IS DEAD 011』で狼煙を上げ、いよいよ本始動と言える今作は、〈Black Jazz〉を代表する歌姫、ジーン・カーン!!

〈Jazz Is Dead〉のファースト・シリーズの5作目にて登場したダグ・カーンの奥方でもあったジーン・カーン。70年代前半の〈Black Jazz〉時代には、ダグ・カーンのスピリチュアル~ブラック・ジャズの名盤『Spirit Of The New Land』、『Revelation』の二作にて、「featuring the voice of Jean Carn」という表記で文字通りヴォーカリストとして参加。その後、フィリー・ソウルの総本山〈Philadelphia International〉に移籍し、ギャンブル&ハフやデクスター・ワンゼルのプロデュースの元、あのラリー・レヴァンがヘヴィ・プレイした “Free Love” や “Was That All It Was” など数々のガラージ・クラシックを収録したディスコ・クラシック・アルバムを3枚吹き込み、ジャズ・ファンだけでなく、ソウル~ディスコ界隈からも支持の厚い彼女。

今回、ザ・ミッドナイト・アワー(エイドリアン・ヤング&アリ・シャヒード・ムハンマド)のバックアップの元で送り出す久しぶりのソロ・アルバムは、“People Of The Sun”、“The Summertime” といった曲名にも表れているように、暖かく、陽気なムードの楽曲を中心とした内容に。思わず惚けるメロウなソウルと、否が応でも踊り出したくなるグルーヴィーなジャズが等しく配合された極上のバッキング・トラックの上で、とても齢75とは思えない衰え知らずのきめ細かなヴォーカルを披露するジーン・カーン。70年代のソウル・ジャズ系のレア・グルーヴ・アルバムにひっそりと収録されていそうな “People Of The Sun”、ジャズ・ヴォーカリストとしての本領を発揮する “My Mystic Life”、ネオ・ソウル調のお洒落な “The Summertime”、これから踊れるジャズ系DJのレコード・バッグの常連になりそうな緩急の効いた “Black Love” と、繰り返しになりますが、70代とは思えない歌声の力強さ、表現力にはただただ驚くばかり。ザ・ミッドナイト・アワーの二人の音楽の懐の広さも堪能できる、またまた素晴らしいアルバムが誕生。

[Track List]
1. Come As You Are
2. People Of The Sun
3. Visions
4. My Mystic Life
5. The Summertime
6. Black Rainbows
7. Black Love
* LP収録曲 SIDE A:M1-M4 / SIDE B:M5-M7

Horace Andy - ele-king

 ホレス・アンディは黄金の喉を持っている。ヴィブラートのかかったファルセット・ヴォイス。甘い声だが、しかし言葉は反骨的だ。「金、金、金、金、それがすべての悪の根源(Money, money, money, money/Is the root of all evil)」、永遠の名作『ダンス・ホール・スタイル』の冒頭でこう歌った彼は、本作『ミッドナイト・ロッカー』でもこう歌っている。「金、金、お前には心がない」。ホレンス・アンディだけがマッシヴ・アタックの全作品で歌っているのは、彼がブリストル・サウンドの根幹のひとつとしてあるジャマイカのレゲエ・シーンから出てきた歌手だからという、ただそれだけの理由ではないだろう。両者のあいだには精神的な繋がりもあるに違いない。
 
 ホレス・アンディが70年代に残した全作品が必聴盤であり、1982年にNYの〈ワッキーズ〉からリリースされたくだんの『ダンス・ホール・スタイル』までの全作品が人気盤だ。その魅力的なバックカタログにおいてもホレス・アンディは傑出したシンガーのひとりと言えるが、彼はしかもマッシヴ・アタックの作品でフィーチャーされたことによって専門的なレゲエ・リスナー以外にも広く知られるにいたっている。でもっていまこうして〈On-U〉からアルバムをリリースしたと。UKのポスト・パンク時代に生まれたこのレーベルは、それこそブリストル・サウンド創造における重要な起爆剤であり、影響源のひとつでもある。それを思えば〈On-U〉からホレス・アンディのアルバムが出ることそれ自体が、じつに感慨深いことなのだ。
 もっとも、このプロジェクトに人一倍気合いを入れたのは、レーベルの主宰者であり、ミキシングボードを操作しているエイドリアン・シャーウッドだろう。故スタイル・スコットのドラムも使いながら、御大に失礼のないようレーベルのオールスター的なメンツをバックに揃えている。ベースにはダブ・シンジケートや古くはアスワドやニュー・エイジ・ステッパーズの仕事で知られる故ジョージ・オーバンの演奏を使っているが、ダグ・ウィンビッシュも参加している。
 話は少し逸れるが、超絶なテクニシャンであるウィンビッシュは、元々はシュガーヒル・ギャング(オールドスクール・ヒップホップのもっとも有名なレーベルのハウス・バンド)のメンバーで、80年代はタックヘッドなどで活躍、その後はマーク・スチュワートからミック・ジャガーのバックまで務めるという、恐ろしく幅広い活動を続けている。ぼくとしては、30年前の来日ライヴで初めて彼の演奏を目の当たりにし、心底ぶっ飛ばされた思い出がある。だから、本作の目玉のひとつであるマッシヴ・アタックの“セイフ・フロム・ハーム”の最初のベースライン(オリジナル曲はサンプリングのループ)をウィンビッシュが弾いているという細部にも、けっこう熱くなったりするのだ。
 
 『ミッドナイト・ロッカー』は完璧なルーツ・レゲエの作品で、シャーウッドはこのスタイルの純然たる輝きを研磨することに専念している。アレンジも緻密で、適切なタイミングをもって最高の演奏を挿入する。シャーウッドらしい空間の美学も健在だが、まあとにかく、これでもかというくらいにルーツ・レゲエの作品に仕上がっている。ルーツ・レゲエらしい旋律、展開、曲調、味付けがされているし、ホレス・アンディは終始その豊かな歌声でリスナーを魅了しているが、まずはアルバムの冒頭でラスタを高らかに語り、いかにもいまの時代に合いそうな、ルーツ・レゲエらしい黙示録的な終末観を歌い上げている。よく言われていることだが、ラスタはその旧約聖書に基づいたジェンダー観においてときに左派リベラルからの反感を誘発している。が、サイモン・レイノルズが言うように、そうした留保事項を、(良くも悪くも)音の勢いがかき消してしまう。議論の余地はあるが、その音がポスト・パンク時代の女性たちの創造行為にも影響を与えたことも事実なのだ。

 『ミッドナイト・ロッカー』は、ホレス・アンディのキャリアの後期における代表作になるだろう。シャーウッドの長年の研究が活かされているし、ホレス・アンディの黄金の歌声も衰えることを知らない。そしてシャーウッドは、つい先日は〈On-U〉レーベルの最新のコンピレーション『ペイ・イット・オール・バックVOL.8』をリリースしたばかりで、7月には先にニュースを流したように、ダブ・シーンにおける女性たちをテーマにコンピレーションを出すことになっている。
 

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