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새눈바탕/セヌンバタン(Bird's Eye Batang)

Electronica

새눈바탕/セヌンバタン(Bird's Eye Batang)

손을 모아 /ソヌル モア(Flood Format)

Bandcamp

三田格   Jun 01,2022 UP
E王

 ネット上でたまに見かける「lilacoustic」という単語はプロデューサー名なんだろうか、新しい音楽用語なんだろうかと思っていたら、『フォートナイト』で知られるエピック・ゲームズに買収されたbandcampで初めて「lilacoustic」というタグ付けを発見。韓国の새눈바탕/セヌンバタン(Bird's Eye Batang)がそれで、実はこのプロデューサー、4年前に『무너지기/ムノジギ(Crumbling)』がアメリカで話題となり、日本ではくるりが持ち上げていた공중도둑/コンジュンドドゥク(空中泥棒/Mid-Air Thief)の別名義であった。공중도둑/コンジュンドドゥク(空中泥棒)自体が공중도덕/コンジュンドドク(公衆道徳/Gongjoong Doduk)の変名で、그림자 공동체/クリムジャ コンドンチェ(Shadow Community)という名義もあったりして、この人はアルバムをリリースするごとに名義を変えるのかと思っていたら、공중도덕/コンジュンドドク(公衆道徳)名義の2作目も出ていたりで、実にややこしい [ 공중도덕/コンジュンドドクは「公衆道徳」、공중도둑/コンジュンドドゥクは「空中泥棒」、그림자 공동체/クリムジャ コンドンチェは「影共同体」、새눈바탕/セヌンバタンは「鳥瞰バタン(地名?)」という意味だそうです ]。しかし、なぜ새눈바탕/セヌンバタンは『손을 모아/ソヌル モア』に「lilacoustic」というタグを付けたのだろうか。공중도둑/コンジュンドドゥクは基本、フォークトロニカと呼ばれることが普通だったとはいえ、『손을 모아/ソヌル モア(Flood Format)』に関しては全編エレクトロニクスだし、『무너지기/ムノジキ 』のようにロック色がないところが気に入って僕は聴いていたのだけれど、エレクトロニクスがメインになったものに改めて「lilacoustic」というタグを付けるのもヘンな話である。「lilacoustic」というワードは実のところ何を意味しているのか。音楽用語などというものは実際、ふわっと始まって定着することもあればそうはならなかったりもするので、あまり早くから考えてもしょうがないことはわかっている。ちなみにフォークトロニカというのはフォーテットやカリブーのようにアコースティック音源を多用したエレクトロニカを指し示すのがいまでは一般的だけれど、最初はバッドリー・ドラウン・ボーイ周辺のを表現するために生まれた表現であり、モーマスなどが積極的に使ったこともあって、『무너지기/ムノジギ 』を聴いてロック系がフォークトロニカというタグ付けを取り戻すのは自然なことだったと思う。

 「lilacoustic」というワードを脇にどかして、改めて『손을 모아 /ソヌル モア』を無邪気に聴いてみよう。オープニングからいきなり桃源郷。さらにマウス・オン・マーズを思わせるスラップスティックなエレクトロニカへと続き、アレンジもどんどん派手になっていく。ごちゃごちゃとした音響自体がそういえば久しぶりで、爽やかに空を駆ける“빙의빙/ビンウィビン(Ripplippling)”もこのところ忘れていた感覚かも。時にノイジーにもなる過剰な装飾性と巧みに緩急をつけていく構成力でどんどん聞かせていき、後半はビートが刻まれない曲が続くのに、それでも独特の磁場をキープし続ける。エンディングはパスカル・コムラードのようなトイ・ピアノが哀愁や儚さを印象づけ、すべてを裏切るような終わり方。往生際の悪いエンディングも意外と悪くない。『무너지기/ムノジギ』に漲っていたコーネリアス色は希薄になり、ビーチ・ボーイズのメソッドも表面上からは消え去っている(ロック的なアプローチは공중도덕/コンジュンドドク名義でやり尽くしたということなのか)。昨年、アメリカで話題になったパク・へジン『Before I Die』でもサビの出てこない“Star Fruits Surf Rider”みたいな曲があったりして、コーネリスが韓国のアンダーグラウンドに与えた影響ってもしかしてかなり大きいのかなと思うと同時に2000年前後のレトロなムードが新鮮に聞こえたことには驚いた。『イカゲーム』は実際には10年前の企画だというし、『愛の不時着』のスチャラカも虚しく尹錫悦大統領は北への宥和政策は終わりにするというし、韓国の気分が本当のところはどうなのかいまいちよくわからないけれど。

 공중도둑/コンジュンドドゥク(空中泥棒/Mid-Air Thief)=새눈바탕/セヌンバタン(Bird's Eye Batang)がスゴいなと思うのは本人はSNSを一切やらずにここまで知名度を伸ばしたこと。フィッシュマンズが世界的に支持を増やしたのと同じくRateYourMusicがジャンピングボードになったようで、フォーク好きの人がエレクトロニック化した새눈바탕/セヌンバタンにも期待を持続させるなど書き込みの熱さは草の根のフィードバックがそのまま反映されているように感じられる。

(編集部註)韓国語のカタカナ読みは、八幡光紀氏によるものです。ありがとうございました!

三田格