![]() ![]() 石橋英子 The Dream My Bones Dream felicity ExperimentalSound CollageMinimalPop |
いまだとらえどころのない、石橋英子の過去作品を簡略して言い表すことはできないけれど、そのすべては決してアプローチしづらいものではない。ポップと呼べるかどうかはさておき、その多くには歌があり、リズミカルな旋律があり、ピアノは美しく響き、なんだかんだ言いながらも優美で、曲によってはかわいいメロディや爽やかさもあったのではないかと思う。それは敢えて描かれた、廃墟から見える青空なのか、あるいは自然に出てきたものなのか、ぼくにはわからないけれど、たとえ破壊的な何者かがその奥底でうごめいていたとしてもそうそう気が付かれないような、表面上の口当たりの良さはあった。シンガーソングライターと勘違いされるほどには。
新作はしかし、そういうわけにはいかない。そして同時に、ムシのいい話で恐縮だが、この作品こそぼくがこの異端者に求めていたものではないかとさえ思う。『The Dream My Bones Dream』は、彼女の新しい文体、新しい描写による新しい冒険だ。まっさらなカンバスに描かれる時間の旅行。遷移する「瞬間」の連続。それがある種のミニマル・ミュージックを呼び起こす。型にはまらない音楽をやることは簡単なことではないし、また、それがゆえに人がすぐに理解しうるものではないかもしれないけれど、この作品には、ゆえに生まれたであろう美しい何かがあると思う。それは難しい話ではない。ただ耳を開けば、聞こえてくるもの。『The Dream My Bones Dream』は素晴らしいアルバムだ。

聴こえてくる音と外の世界と心のなかを混ぜてひとつの方向にむかう。そういう行為を続けているだけかもしれないです。自分がどう世界を見るのか、どう対峙するかというときに、これしかできないからというのがあります。この歳になってますますそう思います。
■いやー、素晴らしい作品ですね。
石橋:ありがとうございます。
■まずこの作品は、これまでとは音楽に対するアプローチを変えている作品ですよね。4年ぶりのソロ・アルバムになるわけですけれど、この4年の間にカフカ鼾であるとか、公園兄弟とかあって、石橋さんとしてはいろんなチャレンジがあったと思うんですけど、しかし、石橋英子のソロ作品だけを追っている人からすれば、今作には驚きがありますよね。とくに『アイム・アームド』みたいな作品を「石橋英子」というふうに思っている人からみたら、「おや?」っていう感じになると思います。だって、今回のアルバムには、ある意味石橋作品のトレードマークであったピアノの演奏がないんですから!
石橋:トレードマーク(笑)? “To The East”という曲だけピアノを弾いています。あとは、ローズとかCPとかシンセですね。
■言ってしまえば、ドローンとかミニマルとか、サウンド・コラージュというかミュージック・コンクレートみたいなものを大幅に導入しています。やっぱり石橋さんの作品のひとつの特徴は、ピアノの響きと変拍子であったり、転調であったり……なんかひとつの石橋作品の世界があると思うんですけど、今回はいまで構築してきたそういう自分の世界をいちどまっさらにして、まったく違うアプローチを見せているんですよね。
石橋:そう聴こえるかもしれませんね。
■そういう意味では、大胆な変化に挑戦した作品ですね。歌われている歌詞は、日本語でも英語でもなく中国語であったりしますし。この大きな変化はどのようにして起きたのでしょうか?
石橋:自分ではいままでのそういう特徴といわれているものは、作る音楽にとって必要とされ、自然に出てきたことなので、そういう意味では今回も同じといえば同じなのです。4年の間に、もっと言えば6、7年くらいかな、バンドキャンプにいろいろ上げていた作品とかあるんです。フルートだけで作ったりとか、声だけで作ったりとか、シンセの作品など。
そういうものと、4年の間で自分のまわりに起きたこと、いろんな作品、例えばお芝居や映画の音楽を作ったりとか、ノイズの方と一緒にやったりとか。そういうものが全部出ていると思うんですよね。自分がそれを意識してこのような作品になっていったというよりは、ライヴとかレコーディングとかがないときに、4年間、毎日音を探した結果ではないかと思います。今回のアルバムができるまでの行程はひとりの作業が多かった分、その結果がいままでよりも前に出てきたのだと思います。
■じゃあわりとごく自然に?
石橋:そうですね。だから、アプローチとかを変えていったというよりは、例えばこのアルバムにとって列車の音というのがひとつのキーになったので、曲によっては列車をイメージしたドラムのリズムから作っていきました。
■2曲目“アグロー”とか、3曲目“アイロン・ヴェール”とか?
石橋:そうですね。ドラムのある曲は全部ドラムから作っていこうかなと思って。
■この4年の間に秋田昌美さんとコラボレーションをしたり、海外ツアーに行かれたり。そして最近は地方に引っ越しもされて、東京から離れた。いろいろな経験があるなかで、もっとも大きな影響を与えているものは何ですか?
石橋:作品に直接反映させるつもりはあまりなかったのですが、こういう作品になったキッカケとして、あるとしたら父の死は大きいかもしれないですね。音的なことで言うと、引っ越しをしたこともすごく大きいですね。ドラムをずっと叩いても大丈夫というか、長い時間ドラムを叩いても誰も何も言わない環境(笑)。
■それは大きいですね。
石橋:大きい音でスピーカーから音を出しながら音を作っていても誰も何も言わないというのはすごく大きいと思いますね。
■いままでは都内で叩いていたんですよね?
石橋:都内で叩いていましたよ。雨戸を閉めて(笑)。いまはドラムが家のなかですごく良い感じに響くんですよね。叩いていてすごく楽しくって。響きで何倍もご飯いけるみたいな(笑)。
■しかしドラムから作ったというのは意外ですね。
石橋:1曲目の“プロローグ:ハンズ・オン・ザ・マウス”は、実験的にエレクトリック・フルートでいろいろ音を重ねていくうちにできたり。曲によってアプロ―チが違うのですけど、ドラムのある曲はそうですね。実際の録音のドラムは山本達久さんとジョー・タリアさんに叩いてもらっています。ふたりの繊細なドラムの響きは今回のアルバムの大きな特徴です。“Tunnels To Nowhere”という曲はシンセとコラージュから作りました。
■お父さんの死というのは石橋さんにとってはすごく個人的なことであり、リスナーに共有して欲しいということを望んでいるわけではないと思うんですけど。
石橋:はい、全然そこは望んでいないですね。
■お父さんの死別みたいなものがこの作品にとってひとつキッカケというか何か方向性であるとか、そういうものを与えたとしたらどんなことですか?
石橋:父は生前に全然語りたがらなかったんですけど、満州の引き上げの人で、そのときの写真とかが出てきて。父の死の前後、母と喋ったり親戚から聞いたりして。やっぱりそのことが気分というか頭を支配していて、いろいろ自分なりに調べていったことが曲に反映されていったということがすごくあると思いますね。満州のことについてどういう状況だったのかとか。父はどうやって引き揚げてきてそのあとどうなったのかとか。どういう状況で暮らしていたのかとか。学校でもそのときの歴史をあまり学ぶことができないので、そんな昔のことではないのに、遠い過去の出来事のようになっていると思いました。外国に短い間だけしか存在しなかった国があり、自分の国の人びとがそこにユートピアを求めたという異常な出来事なのに。
■満州国ですね。
石橋:満州国の成り立ちを調べていくうちにいまの日本が置かれている状況とあまり変わらないと思いました。だからといってそのことをテーマの中心に置くつもりはなかったのですが、自分はいまの時代と、昔と未来とがすごく繋がっている感じがします。そのことを考えているうちにできあがっていった音が今回のアルバムを構成していきました。
■アルバムの途中に出てくる汽車の音がすごく印象的でした。ところで、今回のアルバムを聴いていて、初めて石橋さんの言葉が耳に入ってきたんですよね(笑)。日本語で歌われている曲の歌詞が。
石橋:面白い(笑)。
■いままでは、歌は入ってくるのですが、言葉までクリアに耳に入ってきたのは今回が初めてです。
石橋:歌い方が変わったかもしれないですね。
■ぼくだけかもしれませんが(笑)。ところで、いまの満州の話を聞いて、なぜ中国語で歌われたのかもわかりました。
石橋:ドラムで作りはじめたときは考えていませんでしたが、曲になるにつれ、どうしても中国語を必要とする曲になっていったのだと思います。
■これはどなたかが中国語に訳しているのですか?
石橋:程璧(チェン・ビー)さんというシンガーソングライターの方に私が書いた詩を翻訳して頂いて、デモを歌ってもらいました。
■ぼくは日本人なので、すごく興味深い感覚にとらわれますよね。中国という遠くて近い外国、日本との歴史、当事者でありながら、東アジアをどういう風に見たらいいのか、まだぼくたちはよくわかっていないところがあると思います。
石橋:私も中国に実際行ったことがないし、遠くに感じるときもあります。でも実際、身の回りや歴史を見渡すと私たちの生活やルーツに深く関係している国だし、未来のことを考えるときに避けては通れないと思います。
■そうですね。ところで、今回はなぜピアノを全面には出さなかったのですか? ある意味では石橋印と言えるじゃないですか(笑)。
石橋:いやいやいや! 自分がそう思っていないからかもしれないですね。自分をピアニストだと思っていないということはあると思いますね。
■『アイム・アームド』みたいなアルバムを出しておいて(笑)。
石橋:そうですね。あれは平川さん(※felicityのA&R氏)の希望で(笑)
■あれがすごく好きだって人が多いよね(笑)。
石橋:私は残念な事にまだ自分を「◯◯の人」と言う事ができないんです。
■いつも思うのですが、石橋さんの音楽はジャンル分けができないんですよね。
石橋:どこに行っても居心地が悪いですよね(笑)。
■いまでも良く覚えているのは、石橋さんに最初にインタヴューをしたときに、自分は本当はステージに立ちたくないんだと仰っていたことです。ステージに立ちたくないし、ピアノも楽しくないと。それがすごく印象に残っています。いまでもそうなんですね。
石橋:そうです、そうです。
■で、あのあとも思ったのですが、石橋さんはなぜ音楽を作っているのだろうって。すごく大きな話で失礼ですけれど、そういうふうに思ったんですよ。
石橋:それは私もいつも思います。聴いたことのない音、自分を別の場所に連れていくような不思議な響きを追い求めているだけかもしれないです。楽器はなんでも良くて。ライヴをやっていてもそうだし、作品を作っていてもそうだし。聴いたことがない、見たことがない、音の世界を探しているだけという感じはします。
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父の死の前後、母と喋ったり親戚から聞いたりして。やっぱりそのことが気分というか頭を支配していて、いろいろ自分なりに調べていったことが曲に反映されていったということがすごくあると思いますね。満州のことについてどういう状況だったのかとか。父はどうやって引き揚げてきてそのあとどうなったのかとか。
![]() ![]() 石橋英子 The Dream My Bones Dream felicity ExperimentalSound CollageMinimalPop |
■もうひとつよく覚えている話は、高校生のときに地方に居て、いちばん好きだったことは音楽を聴きながら自転車で徘徊をすることだったと仰っていたことです。それはヘッドホンをして?
石橋:そうですね。ウォークマンとかで聴いていました。
■いまの話を聞いて、それとリンクした話なのかなと思いました。
石橋:そうですね。聴こえてくる音と外の世界と心の中を混ぜてひとつの方向にむかう。そういう行為を続けているだけかもしれないです。自分がどう世界を見るのか、どう対峙するかというときに、これしかできないからというのがあります。この歳になってますますそう思います。
■どんどん円熟を極めているじゃないですか。
石橋:どうかなあ。
■高校生のときにヘッドホンをしながら自転車で徘徊をすることが好きだったということは、当時の石橋さんにとって音楽というものは、シェルターみたいなものだったのですか?
石橋:そうですね。うん。
■生々しい日常みたいなものから離れられるもの?
石橋:というよりも、生々しい日常をどう見るかというフィルターみたいなもの。
■『キャラペイス』を作ったときもインタヴューをしたと思うんですけれど、『キャラペイス』は甲羅という意味だから、自分は殻に閉じこもるということ。
石橋:そうですね。子供のときも家の部屋でラジオとかを大きな音でかけるとすごく怒られました。でもラジオっ子だったし、音楽を聴くことがすごく好きだったので布団のなかに潜って聴いていたんですよ。だからそういうのもあるかもしれないですね。
■石橋さんは子供の頃からというか、思春期の頃からひとりでいても平気なタイプだったんじゃないのかなという気がします。
石橋:平気かどうかはわからないけれど、ひとりでいないといけない時間があったと言ったほうが正しいのかな(笑)。人と何かを共有したい気持ちはあったとは思うのですが、子供の頃は自分の気持ちをちゃんと話せるタイプではなかったので、共有できない事と決めていた方が楽だったのでしょうね。本当は人と共有できていたことなのかもしれないですけどね。
■でもそうやすやすと共有させたくないという気持ちが石橋さんの音楽にはあるじゃないですか。
石橋:どうでしょう。そういう気持ちはないですが、ひとりで部屋にこもって日々つくっているものを、わりとそのまま作品にしているわけですから、難しいとは思います。共有したいという気持ちがあっても。
■そうでしょうね。作っている以上は。なんだろう、それは僕の質問の仕方がおかしかったんですけど、例えば、音楽のなかで、語られる物語がいろいろあるとしたら、わりと安易に人と人が出会うじゃないですか。そういう音楽ではないんじゃないかと?
石橋:うんうん。そうですね。そういうものに自分は惹かれていないかもしれないですね。やっぱり自分も何回も何回も同じ音楽を聴くことが好きだし、そうやって聴いていくなかで見えてくるものを探したいと思っているし、自分もそういうふうにしか音楽を聴かないのでやっぱりそういうふうに聴いて欲しいなとは思います。
■なんとなく共同体意識を持つんだったら、ひとりで居る方が良いくらいな感じ?
石橋:そうですね。人と人が出会うということは同時に別れていることも含まれているから、共同体意識というのはそもそも幻想でしかないと思います。たとえば私が小さな所でライヴをやるとお客さんがひとりでフラッとやってきて、所在なさげにひとりで帰っていくんです。私も所在なく機材を片付けて帰る……でも何かは共有している、そういうのが好きです。

また全然別の話で、こっちの話はもうどうでもいいとは思っているのですが……一昨年にニューキャッスルのフェスに出たときに、即興演奏で共演する予定だった方は私のことをネットで調べ「シンガーソングライター」だと定義し、即興をできない、あるいはやらない人だと思ったそうです。また逆のこともあるのです。どこに行っても端っこですね(笑)。
■つい最近、ele-kingでイアン・マーティンがジムさんにインタヴューをさせてもらって。すごく面白かったのですが、石橋さんとジムさんは似ているところがあるなと思ったんですよね。例えば、こないだ松村と一緒にやったインタヴューであれはちょっと失礼な質問だったかなと思ったのは、なんで前野健太さんと一緒にやっているんですか? みたいな質問をしたんですよ。
石橋:いまなぜか私も前野さんのことを思いました!
■たとえば、ジムさんって、アカデミックな教養もあるから、ちょっとマニアックな現代音楽家の名前や理論が出てくるんですね。それで「さすがジムさん」みたいなノリがネット上で起きたりするわけです(笑)。
しかし、ジムさんにおいて重要なのは、リュック・フェラーリやローランド・カインのような人のことを並列して、真顔で『L.A.大捜査線/狼たちの街』のことやコメディの下ネタの話までしていることですよね? 現音系をありがたがってしまう人には下ネタは入ってこないんでしょうね(笑)。ちょっと昔の言い方でたとえると、ジムさんは決してハイカルチャーじゃないんですよね。
石橋:全然! 全然!
■ローカルチャーと言ったら前野さんに失礼だけど、要するにそういったものを転覆したいから、あのように言っているわけで。石橋さんのなかにも、そこは同じような転覆があるんじゃないかと思います。そこがまた、ある種石橋さんのわかりづらさというものというか……。
石橋:私のなかでは、たぶんジムさんにとっても、ローランド・カインも、前野さんも、フリードキンも全部つながっているので、ハイカルチャーとかローカルチャーとかよくわかりませんが、わかりづらさといえば、前野さんの作品をこの前プロデュースしたときに実感したことがありました。私と岡田(拓郎)さんと、武藤(星児)さんと荒内(佑)君という4人でプロデュースをして。アルバム全体ではなく何曲かだけプロデュースというのは難しいなと思いながら、前野さんの歌がとても素敵なのでチャレンジしてみることにしました。歌の向かう場所を探してアレンジし、演奏の熱量をそのまま音にしたことは古いやり方かもしれませんが、そのやり方がいいと思いました。しかしあのアルバムのなかにあって、パッと聴いた感じは決して聴きやすくはない、と実感しました。前野さんの歌のなかに深く潜りたかった、でもそれがいいのか悪いのかはまた別なのではないかといまでも葛藤しています。
また全然別の話で、こっちの話はもうどうでもいいとは思っているのですが……一昨年にニューキャッスルのフェスに出たときに、即興演奏で共演する予定だった方は私のことをネットで調べ「シンガーソングライター」だと定義し、即興をできない、あるいはやらない人だと思ったそうです。また逆のこともあるのです。どこに行っても端っこですね(笑)。
■異端ではあると思いますね。じゃあ何が主流なのか? という話でもあるんですよ。
石橋:そうですね。わかりませんね。
■だから石橋さんとか、ジムさんみたいな人は逆にいえば作り甲斐があるんじゃないですか? つまり、それが普通にこれがドローンやミニマルやミュージック・コンクレートだけの作品だったら、それこそピエール・シェフェールとか昔のミニマリストたちの名前をあげて説明をすれば良いだけの話だけど、それでは完結できない何かがあるからこそ歌われたりしているんだろうし。そこがすごく新しいんじゃないかなと思うんですよね。
石橋:シンプルにはみえない。
■でもそのシンプルさに対抗をしているわけじゃないですか。
石橋:対抗するつもりはなかったんですけど、こうなっちゃった(笑)。でも対抗するつもりはなかったんです。なんでこうなっちゃったんだろう(笑)。教えてください(笑)。
■はははは。でも今回は聴き易いです。逆に言うとドローンとか、ミニマルとかミニマリズムとかそういうものを導入していると言っちゃわない方がむしろ良いのかなと感じます。音のテクスチャーはぜんぜん違いますけど、コンセプト的にはイーノの『ビフォアー・アンド・アフター・サイエンス』とか『アナザー・グリーン・ワールド』とかにもリンクするんじゃかって。だから、聴きづらいとはまったく思わなかったですし、むしろ入りやすかったですよね。
石橋:私のなかですごく繋がっているから、今回変えたぜ! みたいな感じではないんですけど、聴きやすいと言われます。
■そりゃそうですよ! ピアノがないんだもん(笑)。ピアノがないし、あぁいういつもある転調とかがないし、根幹にあるのはミニマリズムだしね。でもだからと言って、これがわかりやすいミニマムのアルバムとして着地をしていないんですよ。そこがやっぱり良いんじゃないですかね。
石橋:やっぱり、良い意味でも悪い意味でも正直にしか作品を作れないんだなというふうに思いますね。アルバムを作るにあたってたくさんの音や言葉のメモがあるのですが、これから作品として出すのかどうかは別として、終わってからもしばらくこのテーマがまだ続いている感じがあるんですよね。いつも作品が終わったら、大体いろんなデータとかを消してしまうんですけど。でも今回は消さないでいます。
■“サイレント・スクラップブック”からタイトル曲にいく流れがすごく最高でした。 “ゴースト・イン・ア・トレイン”もすごく好きな曲。このタイトルってどういう意味?
石橋:アルバムタイトルですか? そのタイトル曲を弾き語りで作っているときに自然に出てきた言葉だったんです。自分が直接体験してなくても、あるいは話を聞かなくても、あれは、私だったかもしれないと想像する力、あるいはDNAレヴェルで伝わるものがあるということがあるのではないかと思ってそのタイトルにしました。
■最後の曲、“エピローグ”はイェイツの詩からとっているんですよね?
石橋:「Innisfree」というサブタイトルはイェイツの詩からとりましたが、歌詞は私が書きました。ジョイスやイェイツの、生きている人と死んでいる人がつながっている世界観に子供の頃にすごく影響を受けたと思います。
■“プロローグ”のオーケストラはコラージュですか?
石橋:2本くらいトランペットが入っていますけど、それ以外はフルートを加工してトランペットやホルンやチューバの音にして実際に吹いて作りました。歌は船のなかで歌っている子供のニュアンスを出したくて、タバコのケースのビニールを使いました。
■ちなみに録音はいつからいつまで? 構想を含めるとやっぱりお父さんが亡くなられてから?
石橋:構想を含めたら、3年前くらいからはじまった感じかな? 実際にバンドの方たちにお願いしたのは去年ですね。ドラムの録音をやったりとか、ストリングスの録音をやったりとかは去年ですね。その後、半年くらいひとりの作業と、ジムさんとのミックスについてのやりとりが続きましたね。
■とく時間がかかったのって何?
石橋:もちろん曲の土台作りは全部時間がかかっていますが、自分の作業以外だと、ジムさんのミックスじゃないかな。自分の作業はそれぞれ全部に時間がかかっているから……。フルートもたくさんかさねました。
■どのくらい重ねたんですか?
石橋:たくさん重ねましたが最終的には20本くらいですね。短波ラジオや汽車の音のコラージュなども結構時間がかかったなぁ。
■フルートを録るだけでも相当時間が掛かっていますよね。
石橋:そうですね。
■汽車の音はフィールド・レコーディングをしたんですか?
石橋:資料として、当時満州で流れていたであろう昔のロシアの歌のレコードや日本の歌などのレコードなどを集めていて、その中に蒸気機関車のレコードもあり、それは満州の蒸気機関車の音ではなかったのですがそのレコードから録音しました。
■それ以外は全部演奏したもの? ミックスしたり、コラージュしたりとか。
石橋:そうですね。あとは短波ラジオの音も録音しました。
■短波ラジオはジムさんのアルバムでも楽器として使ったと言っていましたよね。
石橋:そうですね。私も去年ハードオフで見つけて。ジョンさんとツアーをしたのが大きかったかもしれないですね。私もジムさんも。元々ジョンさんが短波ラジオで音源とかを作っていて。ジョン・ダンカンさんのツアーで私たちも短波ラジオモードになりました(笑)。
■短波ラジオってどうやって使うんですか?
石橋:短波ラジオはこうやって動かしながら、それにマイクを当てて、そこでかかっているオペラの様な音楽やニュース、雑音やチューニングの音も全部録音して、曲のイメージのなかに置き換えて解釈してコラージュしました。
■石橋さんは自分の内面みたいなものを音にはしようと思わないんですか?
石橋:どうなんだろう。
■以前、セシル・テイラーがすごく好きだって仰っていましたね。ジャズの人というのはわりと自分の内面を音で表現したりするものじゃないですか。
石橋:内面は出そうとするものじゃなくて、どうしても出てしまうものなので、けっこう自分ではこれでもエモいと思います(笑)。
■そうなんですね(笑)。僕が誤解していたな。もっとすごくストイックに作っているのかなと。
石橋:そぎ落としはします。内面を音にしているからこそ、ストイックにならなければと思っています。
■いまでもヘッドホンをして自転車で音楽を聴いたりとかはしているんですか?
石橋:いまは車ですね。車で暗闇のなかを(笑)。音楽を聴きながら車を走らせていますね。暗い夜道を。
■あ、もう東京じゃないから。
石橋:暗―いですよ。電灯とかも無いから。暗―い夜道を音楽を聴きながら。
■どんな音楽を聴くんですか?
石橋:うーん。いろいろ。いまは車のなかでZ'EVがかかっている。オウテカ、イングラム・マーシャルも車のなかにいっぱいあります。
■それを暗闇のなかで聴いて交通事故を起こさないで下さね(笑)。
石橋:はい、気を付けます(笑)。



label: Warp Records




