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The Sea And Cake

Indie Rock

The Sea And Cake

Any Day

Thrill Jockey / HEADZ

Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Jul 17,2018 UP

 あのザ・シー・アンド・ケイクが、『Runner』(2012)以来、6年ぶりの新作アルバム『Any Day』を発売した。相変わらずとても良い。手に入れてからというもの何度も繰り返し聴いている。リリースはお馴染みの〈スリル・ジョッキー〉だ(日本盤リリースは〈HEADZ〉)。
 初夏から夏にかけてのムードに合う爽やかなアルバムだが、むろん、それだけが繰り返し聴き込んでしまう理由ではない。彼らの音楽は「間」のアンサンブルが絶妙なのだ。このアンサンブルの独特さはなんだろう? と思いつつ、気が付けば20年以上もずっとアルバムを買い続けている。
 なぜだろう。いわゆる最小限のアンサンブルが風通しが良いからだろうか。だが、ザ・シー・アンド・ケイクは、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスという、ごく普通のロック・バンド編成にも関わらず、まったく普通ではない妙味がある。演奏とヴォーカルの関係性、ドラムとベースの関係性など、これまでのアルバムを聴き込んでいけば一目瞭然だ。こんなロック・バンドはほかにない。ポップであっても変わっている。変わっているけど変ではない。聴きやすく、ポップで、やさしくて、まろやか。一筋縄ではいかなくて、それでも音楽は親しみやすい。少し不思議な音楽。それがザ・シー・アンド・ケイクの印象だ。

 もちろん、サム・プレコップ、アーチャー・プルウィット、ジョン・マッケンタイア、エリック・クラリッジら希代の演奏家・音楽家らがメンバーなのだから、豊穣な音楽性を有していることは当然といえば当然である。じっさい、サム・プレコップのフローティングするようなヴォーカル、アーチャー・プルウィットの味わい深いギター、ジョン・マッケンタイアの複雑にして軽やかに弾むドラミング、エリック・クラリッジの個性的なベースというアンサンブルは「必然と魔法」のように、ザ・シー・アンド・ケイクの本質を形作っていた。
 だからこそ、前作以降、病で演奏活動ができなくなったエリック・クラリッジの脱退は、バンドにとって、ほとんど存続にかかわる事態だったのではないか。そう、本作は、エリック・クラリッジが不在のままサム・プレコップ、アーチャー・プルウィット、ジョン・マッケンタイアら3人によって制作されたアルバムなのである。
 彼らはエリック・クラリッジの代わりに新たなベーシストを入れることをしなかった。たしかに3曲め“Any Day”に、ザ・ジンクスや、ユーフォンで知られるニック・マクリがゲスト・ベーシストとして参加しているが、そのほかの曲はジョン・マッケンタイアがシンセ・ベースを演奏している。

 空白をほかの誰かですべて埋めるのではなく、空白は空白のままにしておくこと。彼らはエリック・クラリッジ脱退以降、そんな方法をとった。これは素晴らしい選択に思える。
 なぜか。その「間」を活かした方法論が、とてもザ・シー・アンド・ケイクらしいのだ。むろん、エリック・クラリッジのベースがなくなったことでバンドのアンサンブルは変わった。当然だ。しかしジョン・マッケンタイアのシンセ・ベースは、その空白を埋めようとはしていない。彼のベースを模倣するのではなく、あくまで空白を空白のままにしておくように、シンプルなベースラインを刻んでいる。
 これは新しいベースを全面的に導入するよりは、ザ・シー・アンド・ケイクがザ・シー・アンド・ケイクであるための重要な選択だったと思う。むろんベースという文字通りバンド・アンサンブルを支えていた存在を失った事実は途轍もなく大きい。だが彼らは「間」のアンサンブルのバンドなのだ。不在を不在のまま存在に変えること。

 喪失から継続へ。このアルバムは人生における喪失への哀しみと、しかしそれでも続いていくこの美しい世界への慈しみがある。全10曲、まるでアートワークに用いられたサム・プレコップの写真そのもののような作品だ。こうして新作が録音され、リリースに至ったことは、ひとつの「奇跡」にすら思える。人生の傍らで鳴り続ける音楽がここに。

デンシノオト