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Matmos

ElectronicaPost Modern Pop

Matmos

The Marriage of True Minds

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木津 毅   Apr 04,2013 UP
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 世界一クールなインディペンデント・ゲイ・カルチャー・マガジン『BUTT』に、全裸で肩車をして登場していたのは、世界一クールなゲイ・カップルであるマトモスだった。記事は2002年、ドリュー・ダニエルとマーティン・シュミットのふたりはすでに理知的で奔放なアウトサイダーとしてそこにいる。マトモスがいなければ、マシュー・ハーバートはアルバムのコンセプトを見つけられなかったかもしれないし、ビョークは先鋭性とポップを両立させられなかっただろうし、アメリカの音楽シーンにおけるゲイ・カルチャーはいまより遥かに退屈なものになっていたに違いない。彼らを一躍有名にした、外科手術のサンプリング音が素材である『ア・チャンス・トゥ・カット・イズ・ア・チャンス・トゥ・キュア』の頃から、マトモスはつねに狂気じみた笑いを携えながらきわどい実験を繰り返してきた。
 マトモスはいつだって知性としてのユーモアを忘れることはなかったが、しかしたとえば2006年に発表された『ザ・ローズ・ハズ・ティース・イン・ザ・マウス・オブ・ア・ビースト』は、ブッシュ政権下における闘争宣言とも思えるほど目的意識に貫かれたものだった。キリスト教原理主義が同性愛を罪悪とするならば、あるいは良識のあるリベラルが結局安全なゲイ・カルチャーを周到に選んで支持するのならば、マトモスは同性愛者やジェンダーのはぐれ者のもっとも厄介な部分を抽出し、それを讃えてみせた。精液のしたたる音、カタツムリがテルミンを演奏する音、ハッテン場でのゲイのセックスの音、タバコを腕に押し当てる音など......を使って。エクストリームにヤバい同性愛者として、過剰な生を送った先達を音で描写するというコンセプト自体がラディカルだったし、何よりも......それを心から楽しそうにやってのけるふたりの姿こそが、退屈な常識とモラルに縛られた社会に対する、朗らかゆえに危険な反逆のようだった。

 だから、タイトルにある「婚姻」という言葉は同性婚についての言及なのだろうと思ったが、それはあまりに短絡的な発想だったようだ。ゲイ性を強調してもしなくても、マトモスはいつでも異端者なのである。
 シャープなシンセ・ポップがマトモスとしては新鮮だった『シュプリーム・バルーン』からじつに5年ぶりとなる新作『ザ・マリッジ・オブ・トゥルー・マインズ』は、ふたりのマッド・サイエンティスト的な側面が健やかに発揮されたアルバムだ。ドリュー・ダニエルのライナーノーツ、あるいは〈スリル・ジョッキー〉のインフォメーションを読めば、このアルバムのテーマはテレパシーだという。用いられたのはガンツフェルド・エクスペリメントという実験メソッドであり、ボランティアの被験者はピンポン玉を半分に割ったもので目を覆われ、ノイズを聴かされながらダニエルに新作のコンセプトを心理のなかに「送られた」という。そして、被験者は心に浮かんだ形や音を口頭でレポート、それが本作の音楽的構造の基本となる。......と、言われても......?? 凡人にはにわかに理解しがたいがしかし、マトモスの本領はもちろん、再生ボタンを押した瞬間から発揮される。
 アルバムを通して言えるのは、迷いなくマトモスらしさ、彼らの「節」が開放されているということだ。オープニングの"ユー"はレスリー・ウェイナーと(パレ・シャンブルクの)ホルガー・ヒラーの曲のカヴァーで、ピアノが妖しく鳴り響きながらエレクトロニカとジャズとテック・ハウスの狭間をさ迷う。そのなかをニューエイジ的に声が囁く、「テレパシー......わたしたちが知りたいもの」。続く"ヴェリー・ラージ・グリーン・トライアングル"は4小節ごとにさまざまなリフやループ、サンプリングがカットイン/カットアウトする最高にスリリングなハウス・トラックで、まるでコズミック・ディスコ......というか〈パラダイス・ガラージ〉時代のディスコ・ナンバーとグリッチ・テクノとIDMが「婚姻」を交わすようだ。"メンタル・レイディオ"のパーカッシヴなトロピカリアとラグタイムと、ふざけたフリー・ジャズのいい加減なミックス。"ティーンエイジ・パラノーマル・ロマンス"の、不気味でメロディックでファニーなテクノ。ダン・ディーコンが参加し、まさにディーコン的に無闇なアップリフティングさでシンセがトランス状態へ突入する"トンネル"もアルバムのピークを演出する。耳に残る奇怪な音色に彩られながら、マトモスの音楽は愉しさに満ち溢れている。ここではポップとアヴァンギャルドは矛盾せず、くっつけられてグチャグチャに丸められて、何か経験したことのない快感へと姿を変える。
 ラストの"E.S.P."はバズコックスのカヴァー。8分間でパンク的な皮肉とユーモア、テクノの実験主義が手を取り合って、わけもなくユーフォリックな領域へとリスナーを連れて行ってしまう。ダニエルが被験者の心に送ったというコンセプトはシュミットにすら明かされていないというが、彼のテレパシーはアルバムにおいてビザールなサウンドとなって放たれている。これはダニエルによる奇を衒ったジョークでありつつ、真摯なコミュニケーション欲求でもあるのだ。そして僕には、"E.S.P."のサイケデリアが歓喜そのものに聞こえる。ふたりが20年近くに渡って体現してきた、規範からの遠慮のない逸脱についての。その歓びはそして、僕たちが生きるための矜持にすらなるだろう。

木津 毅