「UR」と一致するもの

interview with Andrew Weatherall - ele-king


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 夜だ。雨が窓を強く打っている。以下に掲載するのは偉大なるDJ、アンドリュー・ウェザオールのインタヴューだ。彼はテクノのDJに分類されるが、その音楽にはクラウトロックからポスト・パンクなどが注がれ、その美学にはいかにも英国風のゴシック・スタイルがうかがえる。最新の彼の写真を見ると、19世紀風の趣味がますます際立っているようにも思える。その気持ちも、僕は英国人ではないが、ある程度までは理解できる。
 僕は彼と同じ歳なので、世代的な共感もある。パンク、ポスト・パンクからアシッド・ハウス、テクノへと同じ音楽経験をしてきている。この人のお陰で、我々は人生のなかでいろいろな人たちと出会い、話すことができた。ポスト・パンクのリスナーをハウス・ミュージックと結びつけてくれたのはアンドリュー・ウェザオールである。彼が正しい道筋を示してくれたと僕はいまでも思っている。
 ちょうどこの取材の最中『テクノ・ディフィニティヴ』というカタログ本のために昔の作品も聴き返したが、全部良かった。彼の新しいプロジェクト、ジ・アスフォデルス名義のアルバム『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト(情熱に支配され、欲望に滅びる)』も良い。まだ何10回も聴いているわけではないが、きっと後で良く思える気がする。だいたい題名が示唆に富んでいる。以下の彼の発言に出てくるが、彼なりに「人間特有の悲劇」を表しているそうだ。
 アンドリュー・ウェザオールはこの取材で、本当に誠実な回答をしてくれたと思う。彼には最初から、ある種日陰の美しさのようなものがあった。古風な親分肌というか、謙虚さのようなものがあったが、今回の取材では、寛容さも身に付けているように僕には感じられた。自分もこうでありたいものだと思う。 

俺が音楽の道を選んだ理由のひとつに、競争というくだらないものに関わりたくないという理由があった。俺は自分が野心家ではないと話したが、じつはそうではなくて競争心がないということなんだ。野心はあるが、競争なんてしたくない。「野心はあってもいいけどがんばるな」なんて若い人向けのメッセージとしては最低だな(笑)。

2009年に『ア・ポックス・オン・ザ・パイオニアズ』を出して以来のアルバムになるんですよね? あれ以降の3年間はあなたにとってどんな時間でしたか? 

アンドリュー・ウェザオール:俺は次の構想を練るというようなことはしない。つねに音楽を作り、レコーディングをしている。そして6ヵ月から1年おきにまとまった量の音楽ができあがり、アルバムになる可能性が出てくるわけだ。『ア・ポックス・オン・ザ・パイオニアズ』につづく作品を作っていたけど、それは結局リリースされないね。1年くらいかけて制作に取り組んでいたんだけど、ある法的な事情によってリリースできなくなった。そのときいっしょに制作していた人を解雇したので、それまで作ってきた音楽をリリースするのが複雑になってしまったんだ。
 だからこの3年間、レコーディングはつねに続けていた。ただリリースする予定だったものがリリースできなくなったというだけのことだ。俺は音楽制作という仕事をストップすることはないよ。「これからアルバムを作ろう」って具合に取り組むのではなく、つねに音楽を作っている。そしてたいてい、マネージメントのほうから「そろそろアルバムを出す時期なのでは」と言われるから、パソコンに保存してある音楽を確認し、アルバムに収録できそうなものを選んでいき、それをリリースするということになる。

〈ロッターズ・ゴルフ・クラブ〉からも作品を出しませんでしたよね? それは、先ほどお話しされていた理由からなのでしょうか? それともそれ以外の理由もあったのでしょうか?

AW:さっきの話も一因としてある。それに、ほかのアーティストのレコードをリリースするというのはけっこう責任の重いことでね。音楽業界の現状からして、俺はその責任を負いたくなかった。だから〈ロッターズ・ゴルフ・クラブ〉は、自分の音楽をリリースするためのレーベルになると思う。それは俺の責任だからいいんだ。
 俺は最近、〈バード・スケアラー〉という別のレーベルも立ち上げた。そこではほかのアーティストの音楽をリリースしているよ。このレーベルはアナログ・レコードのみ限定300枚のリリースをするためのもので、ダウンロードはなし。あまり責任も重大じゃないし、レコードはすべて売れる。300枚だから1日で売れるんだ。俺は音楽をリリースできるし、アーティストもレコードが何千枚と売れるなどと期待していないから、責任も重くない。

この3年ものあいだ、あなたのことですから他の名義で作品を出していたんじゃないでしょうか? 

AW:いや、ないよ。たとえあったとしても教えない(笑)。だって他の名義で作品を出す意味が失われてしまうだろ?

ティム・フェアプレイは、『ザ・ボードルームVol.2』にも参加してましたね。彼とはどのように出会って、そしてどのようにジ・アスフォデルスは誕生したのでしょうか?

AW:ティム・フェアプレイと俺は90年代なかごろから2000年代初期まで〈ヘイワイヤー〉というパーティでDJしていて、ティムはそのパーティの常連だったんだ。だから共通の友人もたくさんいた。彼と出会ったのはそんな経緯だね。その後、彼はバッタントというバンドにいて、ギターを担当していた。それから彼は俺の所有するスタジオのひと部屋に移ってきたよ。俺のスタジオは4、5部屋あって、そのひと部屋が空いたから、彼がそこに自分のスタジオを移してきた。だから彼はつねに俺がいる隣の部屋で作業していたのさ。
 彼とは長年友だちで、あるときから俺のとなりのスペースで仕事をしていた。そして、俺がエンジニアを必要としているとき、ティムが理想的なパートナーだと気づいた。彼は俺の仕事の仕方もわかってるし、俺が求めているサウンドもわかっている。彼は、俺のキーボードやドラムマシンの好みなんかも知ってる。とても自然な成りゆきで彼と組むことになったよ。そしていっしょに音楽を作るようになった。俺たちの作品はアンドリュー・ウェザオールの作品ではなくいっしょに作ってできあがったものだから、ユニット名が必要だということになって、俺が「ジ・アスフォデルス」という名をつけた。アスフォデルはユリ科の花の名前。ギリシャ神話では「死」や「破壊」を意味する不吉なものとされていた。だが同時にとても美しい花だ。こんなにも美しいものが、悪の象徴とされている。俺はそういう組み合わせが大好きなんだ。
 とにかくティムと組んだのは自然な流れからだ。俺がギタリスト、エンジニアを必要としているときにティムがいた。彼は俺の現場につねにいたから自然とそういうふうに発展したんだ。

あなたからみてティム・フェアプレイのどんなところがいいと思いますか? 

AW:ギターがめちゃめちゃうまいところ。それからプログラマー、エンジニアとしての腕もいい。そして何よりも、すごくいいやつだ。音楽、文学、アートの好みがとても近い。これは非常に重要なことだね。

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ポップ・カルチャーやトラッシュ・カルチャーが、そのへんの哲学者よりも簡潔に人間のありようについて言及できているのをみると俺はうれしくなってくる。40年代50年代のパルプフィクションもそうだ。路上にいる人びと、通勤中の人びとを魅了するためには、還元主義的で直接的な表現を用いなければいけなかった。


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ジ・アスフォデルスのトラックは、公式には今年あなたが出した3枚組のミックスCDが最初になるのですか?

AW:そうだ。あのCDにはジ・アスフォデルスの曲がふたつある。"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"とたしか"ロンリー・シティ"だったと思う。初めてレコーディングした曲がこのふたつというわけではないけど、公式リリースとしてはそうだ。俺は〈ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース (以下ALFOSと略)〉というパーティをやっていて、この2曲もそのパーティ向けに作られた曲だ。だからよくパーティでかけてたね。
 みんなが、「ジ・アスフォデルス」という名前をはじめて見たのはこのミックスCDでだと思う。いまだにジ・アスフォデルスが俺だということを知らない人もいる。CDに記載されてる細かい文字を読まないんだ。よく「ALFOSのあのヴァージョンいいね」と言われるが、俺が「ああ、あれは俺が歌ってるんだ」と言うと驚かれる。「本当に? 本当にお前が歌ってるの?」ってね。細かい文字を読めば俺とティムの名前が載ってるのにね。

"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"の最初のヴァージョンはあのミックスCDにも収録されていましたよね。『マスターピース』と今回の『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』とはどのような関係にあるのでしょうか?

AW:共通点をひとつ挙げるとすれば、〈ALFOS〉の雰囲気やそこでかけている曲かな。ミッドテンポで、ディスコ、ポスト・パンク、テクノ、ハウスの要素が入っている。俺が作る音楽というのは、無意識的にだけど、俺がいままで35年間聴いてきた音楽が反映されている。俺がいままで聴いてきた音楽は、いいものも悪いものも、俺の骨の一部、音楽的DNAを構成している。俺が作る音楽というのは、俺がいままで聴いてきたものの産物といえるだろうね。
 このアルバムのスタート地点として、〈ALFOS〉でかけられるような音楽を作るっていうコンセプトがあり、そこから発展していった。スタート地点はダンスフロアだったが、そこから枝分かれしていったよ。ダンスフロア向けのトラックを曲にしていくことによってそのトラックが聴く側にとってよりおもしろいものになる。そういうフロア向けのトラック集というのももちろんいいが、俺はたまに曲が聴きたくなるんだ。だから、アルバムのなかに〈ALFOS〉向けではない曲を入れることによって、作品をダンスフロアから少し遠ざけたのさ。

『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』はじつにあなたらしいタイトルですが、同時にいままでにない直球な言葉表現を使ってきましたね。そのココロは何でしょう?

AW:『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト(情熱に支配され、欲望に滅びる)』というのは、俺に言わせると、人間特有の悲劇を表現する6単語なんだ。人間を前進させるのは情熱だ。新しいものに対する情熱、向上心に対する情熱......だけどときどきその情熱の方向性を間違えて、権力に対する欲望や金に対する欲望と化してしまう。それが結果として我々を滅ぼすことになる、というね。どこでこの表現を見つけたかというと、じつは見つけたのはティムなんだが、ティムはB級映画やホラー映画が大好きで、70年代のゲイ・ポルノ映画のポスターを持っていた。その映画には古代ローマ時代の剣闘士が登場するんだけど、ポスターのいちばん下に、「ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト」と書かれていてね。それを見て最高だと思ったんだ。
 ポップ・カルチャーやトラッシュ・カルチャーが、そのへんの哲学者よりも簡潔に人間のありようについて言及できているのをみると俺はうれしくなってくる。40年代50年代のパルプ・フィクションなんかもそうだ。路上にいる人々、通勤中の人びとを魅了するためには、還元主義的で直接的な表現を用いなければいけなかった。それと同じ意味で、直接的に簡潔に書くというのは、着飾った文章を書くことよりも難しいのかもしれない。だからダシール・ハメットのような作家は偉大だと思う。人間のありようを一文で表現できるから。
 誤解しないでほしいんだが、俺は着飾った文書の本を1冊まるごと読むのも大好きだ。俺は19世紀末から20世紀初めのヨーロッパ小説が好きで、その文体には着飾った文章や長々しい説明も多い。だが同時に、気のきいた言い回しとか、安っぽい格言とかも大好きなんだ。自分で気に入ったものは書きとめておくね。1冊の本になるくらいの量があるよ。小説や映画などからピック・アップするんだ。とにかくアルバムのタイトルは人間のありようについての哲学的な言及だが、ゲイ・ポルノ映画のキャッチ・コピーでもあるというわけだ。受け取り方は人次第さ。

たしかに今回のアルバムにはパッションとラストを感じました。何がきっかけでそうなったのでしょうか?

AW:おもしろいことに、俺の音楽はそう捉えられることが多いらしい。先日、『CSI』という警察モノのテレビ番組を見ていたら、俺の音楽が使われていたんだが、それがSMかなんかのセックス・クラブみたいな場所でかかっている音楽として使われていたんだ。ほかにも人から「お前の音楽は情熱的でセクシーでいかがわしい雰囲気がある」とよく言われる。なんでだろうな? よくわからないけど、たんに俺がいかがわしいやつなのかもしれない(爆笑)。
 でも、そういう雰囲気の音楽が好きだからだと思うよ。この35年間、もっとも心を動かされたのはそういう音楽だったんだ。情熱的な音楽。自分たちのやっていることに対して情熱を感じて音楽を作っている人たちの音楽さ。自分の音楽について「パッションを強く感じる」と言われたらそれは最高の褒め言葉だと思うよ。意識的にそういうものを作っているのではないし、先も言ったようにそれは35年間の経験からにじみ出るものだ。恋に落ち、恋に冷め、誰かを愛し、誰かを愛するのをやめる、誰かに愛されなくなる......人間の人生経験は、芸術経験と同じくらい大切なものだ。俺は音楽を25年間作り続けているから、自らの音楽というものを極めてやろうという決意を持っている。君に、さまざまな音楽を聴かせて、当時の俺がどの地点にいて、どんな精神状態だったかというのをひとつひとつ説明していくこともできるよ。当時の俺は調子がよかったとか。アルバムをかけて、振り返ってみれば、この作品を作っていたときは俺の精神は崩壊する直前だった、とか(笑)。
でもそれも情熱なんだ。悪い方に向けられた情熱だが、情熱に変わりない。俺は音楽に対して情熱を持っている。だから25年間続けていられる。そしてときに音楽に対して欲望もある。それはまたあるときに俺を破滅へと追い込む(笑)。
 とにかく、自分の信条にそった音楽を作っていれば、聴いた人にそれが自然と伝わると思う。だから俺の音楽はパッションやラストが感じられると言ってくれるのは俺にとっては最高の褒め言葉だ。

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そのとき俺たちの頭のなかにはソフト・セルの"セイ・ハロー・ウェイヴ・グッドバイ"がかかっていた。そして俺は、「マーク・アーモンドに電話してヴォーカルを歌ってもらおう」なんてことを考えてた。俺がもっと金持ちで大きなレコード会社と契約していたら、そう言っていると思うけどね。そういう無意識的なソフト・セルへの愛がこめられている。


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『マスターピース』もそうでしたが、あなたのこれまでの人生で愛した音が詰まっていると、『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』でも感じました。テクノ風ですが、よく聴くとロックンロールのグルーヴもあるし、ダブもあるし、ベースやギター、ヴォーカルにはこの10年あなたが追求してきたサウンドがある。セイバース・オブ・パラダイス、トゥー・ローン・スウォーズメンのときと比較した場合、ジ・アスフォデルスでのあなたは、音楽的なアプローチにおいて、どこが違っているのでしょう? 

AW:音楽的なアプローチにおいてはあまり違いはない。最終的な結果が違うだけだ。先も話したように、俺は毎日スタジオに出勤して音楽を作る。もちろん海外へ出かけるときや休みを取りたいときは別だが、それ以外は俺は毎日ふつうに音楽の仕事をしているんだ。それをこの25年間やってきた。アプローチに変わりはないよ。俺は音楽制作という過程を楽しんでやっている。そして芸術を作ることによろこびを感じる。絵を書くのが楽しいと感じるように音楽を作るのが楽しい。あまり最終的な結果にはこだわらずに、プロセスを楽しんでいる。
 ただ、セイバース・オブ・パラダイスとしてやっていたのは15年前のことだ。当然ながらいまの俺は当時の俺とはまったく違う。あれから20年間分の音楽を聴き、20年間分の人生経験やスタジオでの経験を積んだ。25年間の見習い期間をようやく終えた気分だよ。そしてようやく仕事のやり方がわかってきた感じだ。いま俺が作っている音楽は、俺の頭の中に25年前からあったサウンドだ。25年前、俺は頭のなかにあるサウンドを表現する技術力を持っていなかった。音楽を25年間やり続けて、スタジオでいろいろなことを学んでいくと、そういうことができるようになる。頭のなかにあるサウンドを、具体的な形にして最終的な作品として作りだすことができるのさ。
 どの媒体でもそうだが、頭にあるイメージを実際の形にして表現するのは、長い訓練と勉強が必要だ。ただ、俺はけっして学問的にやれといっているのではない。自然に身につけていけばいいと思う。俺だってこの25年間、パソコンのマニュアルやドラムマシンのマニュアルばかりを読んできたわけじゃない。俺の身体的な技術は、ほかのエンジニアに比べるとそこまでいいものではないから、エンジニアを起用するけど、いまではエンジニアに、どのようなサウンドをイメージしているかを技術的に伝えることができる。以前は曖昧な表現でしか自分のイメージしたサウンドを伝えることができなかったからね。

人間的にはどのように変化したと思いますか? 歳を重ねて見えてきたことはありますか?

AW:かなり落ちついた人間になったと思う。いまでは自分の地位が確立されたから、自分の作品がなかなかいいものであると自分でも信じられるようになったね。俺は長年、不安を感じていた。俺は若いころから注目を浴びて、多くの人から自分の作品がとれだけ素晴らしいかを聞かされていた。それがかえって俺を不信にさせた。俺の音楽キャリアの最初の5~6年はすさまじいスピードで進んでいった。そして俺は防御的になった。誰かが俺の正体を見破るんじゃないかと恐れていたんだ。「あいつは郊外出身の、服屋の店員だった男だ」ってね。
 俺自身、俺のデキは、他人の俺に対する評価よりもよくないと思っていたんだ。でもそれが20年や25年続いていると、証明すべきものがなくなってくる。それはある意味、すでに証明されてきたからだ。25年後もその場に居つづけているということ自体が証明になっているということだ。それに気づいたときには、肩の荷が下りた気がしたよ。もちろんそれは徐々に気づいていくもので、いまでも疑問に思うときはある。もちろんその疑問を感じるのはいいことで、それがあるから前進できる。それを感じなくなったら、もう音楽はやっていないだろう。いまの俺は95%の満足感と5%の疑問で成り立っている。その5%があるから俺は前進しつづける。
 とにかく、人間的にはより自信がつき、傲慢さが減ったと思う。もう証明するものはないと感じると同時にいまの立場を当然のものとしてはとらえてはいない。証明すべきものは、じつを言うとまだあるんだ。この先、25年間築き上げてきたものをそのままの状態かそれ以上にキープすることだ。俺は野心的な人間じゃないんだ。とくに目標もゴールもない。いまの状態で幸せだ(笑)。自分の仕事は大好きだし、俺のスタジオは家とはべつの場所にある。だから毎日、俺は家を出てそこへ仕事をしに行かなければいけないようにしている。俺は若い頃に家を飛び出してから、自分で仕事をして生き抜いていかなければいけないとわかっていた。その考えがいまでも身についているから、音楽を作るということに関しても毎日仕事に行くのと同じように考えている。
 よく、「芸術」を生業としている人がそれを「仕事」と称すると、それを聞いた人はおかしな印象を受ける。芸術に対して屈辱的な言い方だと感じるようだ。芸術は仕事ではなく、神秘的な行為のように考えている人が多い。けど実際はそんなことはない。俺にとっては仕事だ。俺が大好きな仕事だ。だから俺のいまの立場でこの仕事をつづけられていることに対してとてもうれしく感じている。べつに昇進しようとがんばっていない。もちろんいい音楽を作ろうという野心はある。だけど、競争心はないんだ。俺が音楽の道を選んだ理由のひとつに、そういった競争というくだらないものに関わりたくないという理由があった。
 さっきも俺は自分が野心家ではないと話したが、じつはそうではなくて競争心がないということなんだ。野心はあるが、競争なんてしたくない。「野心はあってもいいけどがんばるな」なんて若い人向けのメッセージとしては最低だな(笑)。

いや、最高ですよ。今日の日本では、いちど痛い目に遭っているのにかかわらず、さらに追い打ちをかけるように競争と自立が主張されはじめています。「がんばるな」は良いメッセージでしょう(笑)。そういえば、少し前のあなたの写真を見ると、ヴィンテージなファッションを着て、古いレコードや楽器を持っています。それはちょっとしたアンビヴァレントなユーモアに見えますよね。あなたが古いモノが好きだということと、現代社会へのちょっとした皮肉というか。

AW:いやその通りだよ。当然皮肉も少し混じっている。ただ、俺はテクノロジーにとくに感嘆させられないというだけだ。現代のありように対してとくに素晴らしいことだとは思っていない。たしかに60~70年間で人間は空中飛行から、月に上陸するという宇宙飛行まで可能にした。そういうことに対してはたしかに近代の人間の可能性というものに感心するが、最新のテクノロジー機器をすべて持つ必要性は感じない。テクノロジーは俺にとってはツールだ。自分に必要ないツールは家に置いておく必要がないのと同じことだ。たとえば木を切り倒すためのノコギリは俺は持っていない――必要ないからだ。ある時期まで俺にとってパソコンは絶対不可欠のものではなかった。だが、契約書を確認するのに、わざわざ会社に出向かなくてもいいとか、仕事をする上で便利なもの、時間や経費を削減するものだということがわかった。だからパソコンを買っていまはパソコンを使っている。ライブラリーとして使うときもあるし、仕事に使うときもある。
 それがはたして常識なのか皮肉なのかはわからないけど、俺のテクノロジーに対するアプローチはそんなところだ。自分の人生をよりよくすると思ったら使う。俺はiPhoneを持ってない。車のなかからメールする必要もないし、つねに自分のオフィスと連絡が取れる状態にする必要性も感じないからだ。『ニンジャフルーツ』とかいうゲームをする必要もないし、アングリーバードを投げる必要もない(笑)。iPhoneに対してステイトメントがあるとかいうのではなくて、俺には必要ないと言っているだけだ。
 よく、人は俺のテクノロジーに対するアプローチを見て最初はそれを疑問に思う。「こんなにたくさんのプログラムを見逃してるよ」とか言うけど、しばらく話していると彼らは「たしかに、こういうのがなかったら俺の人生はずっといまよりもシンプルになっているな」と認める。俺は来年で50になるから、もし俺がいま18だったらもう少し違っていたかもしれない。それでも、俺が18のころを振り返ってもやはり同じだったと思う。俺はティーネイジャーの頃からそういうガジェットといったものに興味がなかった。読書に興味があった。誰かのスクリーンを見つめるよりも、自分の想像力に興味があった。それはある種の傲慢かもしれないが、それがテクノロジーに対する俺の意見だ。
 俺のスタイルはたしかにユーモアが含まれていると思う。それが君に伝わってうれしい。俺が近代の生活に立ち向かっている、と思っている人も多い。俺はヴィクトリア朝やエドワード朝の衣装の美的感覚が好きなだけだ。むかしから俺は、19世紀末あたりのエドワード朝のスタイルが好きだった。だからその時代の格好をするし、テクノロジーはとくに必要性を感じないから使わないというだけだ。けど、そのふたつを合わせて、100年前の格好をして古い楽器を持っている写真を撮ったら誤解されても仕方ないね。
 これはステートメントというよりは、美学の話だよ。芸術の民主化というのはいい面もあるが悪い面もある。あらゆる人が芸術に触れることができるというのはとてもいいことだと思う。ただそのアクセスのよさを利用する人間が出てくる。そうすると、膨大な量の中途半端な芸術がこの世に広まってしまう。中途半端な芸術は、悪い芸術よりもさらにひどい。悪い作品なら、話し合って何が悪いと議論できる。中途半端な芸術は誰に何のメリットももたらさない。いま、そういった中途半端な芸術がインターネットを通じて出回りすぎていると感じるよ。それがよくない面だね。インターネットについて批判するのはこれくらいにしておこうか。とにかく、俺は、ライフスタイルや服装に関しては現代の美学よりも100年前の美学を好む。そうは言っても家にパソコンはあるし、100年前の暮らしをしているわけでもない。ふたつの時代のいいところをとっているだけだ。気分によって過去に戻ったり未来へ行ったりしているよ。

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俺は若いころから注目を浴びて、多くの人から自分の作品がとれだけ素晴らしいかを聞かされていた。それがかえって俺を不信にさせた。俺の音楽キャリアの最初の5~6年はすさまじいスピードで進んでいった。そして俺は防御的になった。誰かが俺の正体を見破るんじゃないかと恐れていたんだ。「あいつは郊外出身の、服屋の店員だった男だ」ってね。


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あなたのようなレコード愛があるDJは、PC中心になった現代のDJスタイルを複雑な感情で見ていると思いますが、最近ではむしろ若い世代がデータにうんざりしてレコードを作ったりしていますよね。あなたはそういう動きをどう見ていますか? USのアンダーグラウンドなシーンでは、ヴァイナルとカセットしか出さないレーベルもありますよね。

AW:それは自然なことなんだ。それも『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』に当てはまる。たとえば、子どもは段ボール箱ひとつで楽しく遊べてしまう。それをお城に見立てて遊んだりしている。そこに親がクリスマス・プレゼントで新しいおもちゃを与える。子どもは興奮し、新しいおもちゃで1日ほど遊ぶ。だけど、きっと2日後にその子は再び段ボール箱でお城ごっこをして遊んでいるだろうね。結局、人間とはそんな生き物で、新しいものには情熱を感じ欲望を感じる。だが十中八九、もともとあったものでじゅうぶんだった、という結論に達するのさ。むしろ、もともとあったものの方がよかったということも多い。とくに芸術――音楽やヴィジュアル・アート――の分野においては、いままで完璧であったものを、よりクイックで簡単なもので以前のものほどよくないものに置き換えてしまった。それに最近になってみんな気づいてきたんだと思う。
 シンセの場合もそうだ。当初、シンセのソフトウェアが出たときはみんな夢中になった。このプラグインがあるから、もうシンセは必要ない、と言っていた。それから5年後のみんなの感想はこうだった「これはいいけど、実際のシンセよりも音がよくないし、いじっていてシンセほど楽しくない」。そしてシンセを買い直していた。だから当初100ドルで買えたシンセがいまでは1000ドルになっている。われわれの時代の人間は新しいものに飛びつく。だが、その後に以前使っていたものの方がよかったと気づくんだ。それは人間性というものだからしかたない。同じことがレコードとデータでも起こっているということだと思うよ。
 俺はべつにパソコンで音楽を作ってもいいと思う。大切なのはどう聴こえるかだ。ロー・レゾリューションのMP3の音楽は、俺にとって爪で黒板をひっかくのと同じように聴こえるが、レコードを録音してパソコンに取り込み、それをWAVファイルで再生しているのなら、問題ない。手法は何でもいいんだ。大事なのは最終的なサウンド、もしくは仕上がりだ。パソコンでアートを作ってもいいと思う。そのアートがパソコン以外の世界でも存在できると感じられることができるならね。それが最近のアートの問題だ。現実味に欠ける。パソコンのなかでしか存在しないものに感じられる。たとえそれをプリントアウトしても、スピーカーで再生して聴いたりしても、パソコンの世界でしか生きられないものに感じてしまう。
 俺が好きな音楽は、たとえパソコンで作られたとしても何らかの雰囲気が感じられるものだ。どこかでレコーディングされた感じ。どこかで描かれた、撮影された感じ。そういう雰囲気を持つ芸術に興味がある。そういったことを若い人も同じように感じているのだと思う。よく若い人が俺にアドヴァイスを求めてくる。「音楽を作ったけど、音がフラットに聴こえる。どうしたらもっと生き生きとしたものにできるのか?」と。レコーディングもちゃんとやっているし、音自体も悪くない。けどフラットに聴こえる。俺はこう訊く。「パソコンから一度取り出したか?」、そうすると、していない、と言う。だから、こうアドヴァイスする。「古いテープ・レコーダーを買ってテープ・サチュレイションしてみればいい。音楽に少し息を吹き込んでから、再びパソコンに取り込めばいい」、人びとはそういうやり方に気づきはじめているのだと思う。
 俺はパソコンもアナログ機材も両方使う。アナログ機材をひとつ使うだけで、サウンドをパソコンの世界から引き離して、現実性といういち面を与えることができる。そのサウンドはパソコン以外の、外の世界を経験して再びパソコンの世界に戻っていった。最近の芸術の多くはそれがされていない。現実の世界を経験していないんだよ。

詩人ジョン・ベッチェマンがどんな人か、あなたなりに紹介してください。

AW:彼はイギリスの詩人で、20世紀のはじめに生まれて、1980年代に亡くなったと記憶している。とてもイギリス人らしい詩人で、イギリスの郊外や田舎など、とても心地よく見える情景についての詩を書いた。同時に彼には狡猾で鋭いウィットがあり、イギリスの上品で礼儀正しい生活態度は、皮をはがすと、かなりめちゃくちゃで腐敗していることを知っていた。イギリス人にジョン・ベッチェマンというと、みんな「イギリス人すぎる。ベタだ」と言ってうんざりするだろう。ジョン・ベッチェマンはイギリス人のステレオタイプを詩にしてきた人だよ。
 だけど、アルバムの"レイト・フラワリング・ラスト"はとてもダークな詩で、詩の内容は、ふたりの元恋人同士が酒の勢いでヤるために再会する、という話だ。かなりダークでいかがわしいだろ? 俺はそういうイギリスらしさに惹かれるんだ。とくにヴィクトリア朝、エドワード朝の時代はイギリスは歴史的にも最高潮に達して非常に礼儀正しく上品だった。だが、その裏では、あらゆる種類のいかがわしいことがおこなわれ、ダークな部分がたくさんあった。当時は非常に整った社会で、イギリスは礼儀正しく上品とされていたが、表面を取り除いてみると、当時のイギリスは非常にダークな世界だったということがわかる。俺はジョン・ベッチェマンのそういうところに惹かれる。彼は桂冠詩人にもなった人だ。年代は忘れてしまったけど、とにかく彼の描くイギリスの二面性というものに惹かれるね。

あなたはいろいろなスタイルのDJパーティを企画してきましたよね。『フロム・ザ・ダブル・ゴーン・チャペル』の頃は、50年代のロックンロールをかけるパーティをパブでやっていました。たしかダウンテンポの曲だけのパーティをやっているという噂を聞いたこともあります。この3年のあいだ、何かこの手のユニークなテーマのイヴェントも続けていたのでしょうか?

AW:それが〈ALFOS〉だよ。ダウンテンポばかりというか、BPM90あたりからはじめて、120BPMくらいまで持っていくんだ。3年くらい前、古い友人のショーン・ジョンストンといっしょに車でいろいろなギグに行った。そこでミッドテンポというか、少しディスコっぽくてポスト・パンクっぽい、テクノなのかハウスなのかわからない音楽にたくさん出会った。それからそういう音楽を自分たちで探して、お互いにかけたりして、ついに「こういう音楽をかけるイヴェントをやろう」という話になった。
 でも、最近はみんなもう少し速めBPMが好みだからちょっと難しいかもしれないと思った。だから規模は小さめではじめよう、と言ってパブの地下でイヴェントをはじめた。キャパは100人くらい。それが2年半前くらいにはじまって、いまはみんながイヴェントのコンセプトを理解するようになってきた。3枚セットのCD『マスターピース』は、〈ALFOS〉に行ったらどんなサウンドが聴けるかというのを表現したものだ。最近はヨーロッパの各地でも〈ALFOS〉をやっているよ。イヴェントはオールナイトでやる。10時からはじまって、朝4時に終わる。もしくは12時からはじめて6時に終わる。ひと晩かけてイヴェントをやるのが大事なんだ。テンポの変化もゆっくりだから、クラウドがイヴェントの雰囲気を理解してそれにとけこむまで時間がかかる。魔法がかかるまでには時間がかかるのさ。秘薬が効くにはたくさんのミックスを必要とする。これがいまの俺のメインのプロジェクトだ。いまでもロカビリーのDJセットやテクノのセット、ハウスのセットをたまにやったりもするが、〈ALFOS〉がメインだよ。

ちょっとロカビリー風の"ワン・ミニッツ・サイレンス"では何について歌っているんでしょうか?

AW:俺とティムはクラスターというドイツのバンドにはまっているんだけど、そのバンドの時代の特有のリズムというものがある。クラウトロックやグラム・ロックのリズムだ。俺たちはとくにそこにはまっていて、この曲を作っていたときにクラスターを聴いていたんだと思うよ。俺たちは曲を作るとき、いつもリズムとベースから入る。ドラムとベースだ。そのときもたしかティムがリズムをプログラムして、俺がベースラインを書いた。そこから曲を作り込んでいくんだ。
 曲の内容について、俺はふだんあまり話したくないんだけど、この曲は多少政治的な意味を持った曲なんだ。具体名称は出さないが、ある女性が悲劇を経験した。それに対して彼女は、政府にその行為を正式に認めることを求めていた。要は、彼女の家族がテロ攻撃の被害者となった。政治的な話になってしまうから、どの国のどちら側ということは伏せておく。彼女が求めていたものは、被害者の亡くなった記念日に自分の国で1分間の沈黙を得るということだった。ただそれだけだ。その記事を読んだときに、それだけを望んでいる人もいるのだ、と気づいた。多くの人は富や名声を望む。だが、彼女が望んだものは、遺族を思うために国民にだまってもらい、静かな時間を1分間だけくれ、ということだった。それを読んで感動したんだ。だから曲の内容はそういうことだ。
 俺はこういうふうに、新聞の記事をとって曲にする、ということはあまりしない。まじめになりすぎてしまうし、他人の苦しみや政治的な動きをポップ・ソングにしてしまうのはどうかと思う。価値を落としてしまう可能性がある。彼女の経験をエレクトロなアルバムの曲にしたことによって、その価値を落としていなければいいと願うよ。

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「芸術」を生業としている人がそれを「仕事」と称すると、それを聞いた人はおかしな印象を受ける。芸術に対して屈辱的な言い方だと感じるようだ。芸術は仕事ではなく、神秘的な行為のように考えている人が多い。けど実際はそんなことはない。俺にとっては仕事だ。俺が大好きな仕事だ。


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"ザ・クワイエット・ディグニティ・オブ・アンウィットネスト・ライヴズ"からはちょっとバレアリックな、80年代末のようなピースなアトモスフィアを感じます。何からこの曲はインスピレーションを得たのでしょうか?

AW:ティムがはじめエレクトロっぽいビートを作ったから、俺がそれにベースラインを書いたんだ。もともとはダブのトラックにする予定だったと思う。だから聴いてみるとダブ寄りのサウンドになっているよ。そこから曲が発展して、俺がキーボードをのせたからよりポップな感じになった。そしてティムがさらにパートを加えていく。そのとき俺たちの頭のなかにはソフト・セルの"セイ・ハロー・ウェイヴ・グッドバイ"がかかっていた。無意識的にね。そして俺は、「マーク・アーモンドに電話してヴォーカルを歌ってもらおう」なんてことを考えてた。俺がもっと金持ちで大きなレコード会社と契約していたら、たしかにそう言っていると思うけどね。そういう無意識的なソフト・セルへの愛がこめられている。ニュー・オーダーのアルバム『パワー、コラプション&ライズ(権力の美学)』の要素も入っている。それも80年代中旬な感じがする一因かもしれない。
 でも最初からそういうのを意識して作ってるのではなくて、曲ができあがってから、ほかの人に「この曲は○○に似ているね」と指摘される。アルバムのすべての曲はドラムとベースラインが基本で、そこから作り上げられている。そこから曲がどう発展するのかはわからない。それがアナログ・シンセを使うよろこびでもある。すべての曲はドラムとベースラインからはじまり、シンセなどを使って、「ジャム」しながらできあがっていく。「ジャム」という表現はつまらないしロックっぽいから本当は使いたくないんだが、プロセスとしてはそういうことになる。
 バンドがギターやドラムを使って徐々に曲を書いていく作業と同じように、俺たちも自然なセッションをしながら曲を作っていく。作っている曲は電子音楽だけど、手法は基本的な作曲の手法だ。お互いにパーツを作って、「これはどうかな?」とアイデアを投げ合っていく。ふたり以上の人がいっしょに音楽を作るということはそういうことだ。だから俺はエンジニアといっしょに仕事をするのが好きだし、過剰に独学で習得しようと思わない。アマチュアでいいんだ。エンジニアとのやりとりに楽しみを感じるからだ。エンジニアから学ぶのはおもしろい。
 俺は50になるけど、まだ知らないことがあると認めることができるよ。すると人生はいちだんと楽なものになって、学ぶ作業も楽しく感じられる。ひとりでやる作業よりも、共同作業の方が俺にとってはずっと楽しい。最近の電子音楽を作るミュージシャンはひとり作業が好きな人もいるが、俺にとって音楽制作において好きなプロセスは共同作業の部分だ。お互いと競いあうのではなくお互いを笑わせようとする共同作業。もちろん音楽に対する態度は真剣なんだが、たまにはおもしろいことをやる。たとえば、絶対ありえないようなパーツをわざと入れる、とかね。お互いを笑わせるためだけにね。ジ・アスフォデルスはそういうふうに音楽制作をする。たとえダークな音楽を作っていても、意外な要素を入れたりして、お互いをニヤリとさせる。仕事をするにしても、楽しんで仕事をするべきだと思うんだ。会社で座っていても、向こうに座っているやつと冗談を言い合って笑う。それでいいと思う。

そして、クローザー・トラックの"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"へとつづきます。80年代末に生まれたA.R. ケインのこの曲もある種の前向きさを感じる曲ですね。この曲についてコメントをお願いします。

AW:"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"は俺が長年好きな曲だった。A.R. ケインも大好きなバンドだ。イギリスの、少し変わったポスト・パンク・バンドで、"ALFOS"は俺のこれまででいちばんお気に入りのひとつに入る。あの曲には、リリースされてからずっといい思い出が残っていて、俺は曲のファンだったから、そのカヴァー・ヴァージョンは自分の頭のなかにはつねにあったよ。そしてイヴェントをやるときに〈ALFOS〉とつけて、その名前をつけたからにはヴァージョンを作らなければいけないなと思った。
 曲はとてもアップ・リフティングな曲だ。俺はそれをバラードにしようなんて思わなかったけど、自分なりのヴァージョンを作りたかった。このアルバムに入っているヴァージョンは、『マスターピース』に入っているヴァージョンと少し違う。ストリングスを加えたんだ。そうすると、ハッピーな曲なんだけれど、メランコリックな要素が少し加わる。俺は鬱になったりはしないが、ものがなしい雰囲気は好きだ。メランコリックな感情というのはポジティヴだと思うから、自分が実際にメランコリックでいる状況を好むよ。だから、ハッピーな曲にものがなしさやメランコリックな要素を多少加えるのが好きなのかもしれない。

DJはどのくらいのペースでやっているのでしょうか?

AW:毎週末だよ。俺の週末は来年の半ばまで空きがない。5年前「DJギグはいつまでもつかな」なんて思っていたけど、いまは(DJ依頼の)電話が鳴りやまないんだ。電話が鳴りやまないからいまでもつづけている。電話が鳴らなくなったらほかのことをすると思うけど、いまのところはやりつづけるよ。とても疲れる仕事だけどDJするのは楽しい。平日の4~5日間はスタジオで仕事をして、金曜と土曜はクラブでDJをすると。とても疲れるよ。だから俺にとっては仕事だね。とても素敵な仕事だとは思う。世界中を旅して、2~3時間ほかの人の音楽をかける。他人にうらやましがられる職業だ。だけど、日曜日に帰宅した俺を見ると、みんな、俺がどんなに働きものかということがみてとれるだろうね。もちろんDJはとても楽しい仕事だよ。

UKではダブステップ以降のダンス・ミュージックがものすごく大きくなっているとききます。若い子たちはみんなレイヴによく行くそうですが、あなたは現在のUKのダンス・カルチャーをどう見ていますか?

AW:いまの時代、UKのダンス・カルチャーをほかのダンス・カルチャーと切り離すことはできない。アメリカのおかげでダンス・カルチャーは世界的なカルチャーとなり、ポップ・カルチャーとなった。情報が普及するスピードがこんなに速いおかげで、ジャスティン・ビーバーの新曲にはダブステップの要素が入っていたりする。最近はディプロがジャスティン・ビーバーといっしょに仕事をしているらしいじゃないか。アンダーグラウンドからオーバーグラウンドへの移行がすぐにできる現代では、現状をうまく分析することはできないな。
 たとえば、誰かが曲を週末にレコーディングしてそれがロンドンのダブステップのクラブで翌週にプレイされ、同じ週の木曜にサウンドクラウドにアップされる。翌週の月曜日には何万人もの人がその曲を聴いている――世界中の映画会社関連の人、レコード会社関連の人、プロデューサーなども含めてだ。そういう人がそれを聴いて「いまロンドンで流行っているのはこれだ。これを使おう」と言ってその要素を自分たちのポップ・ソングに注入する。ダンス・カルチャーがポップ・カルチャーだというのはそういう意味だ。だからダンス・カルチャーに関してはこういうコメントしかできないよ。
 それに、俺は自分の道は自分で決めて、その上を歩んでいくことにしている。まわりを見渡してほかに何があるのか、この先何が起こりうるかということを少しは気にするけど、この年になると方向を外れることはない。昔はよくいろんな方面に行っていたよ。ある週はドラムンべースにはまっていたり、翌週は別のことをしていたり......昔はほかの人が何をやっているかということに気を取られ過ぎていた。いまでは自分が好きなもの、やりたいことにしか集中していない。だから他のカルチャーもあまり見ていないんだ。ダブステップを聴いて、いいと思うものがあればそれが誰か探して、そこからさらにいろいろ聴いていくかもしれない。ほかの人のクラブ・カルチャーは視野に入っているけど、いまもっとも集中しているのは、自分がクラブで何をやりたいのかということだね。

あなたはリミキサーとしてもひとつの道筋を作ってきたと人ですが、ここ最近であなたがリミックスをしたくなるような若いバンドがいたら教えてください。

AW:好きなグループを聴いて「このバンドをリミックスしたい」とはあまり思わないよ。リミックスという行為自体を批判するわけじゃないけど、世のなかにはリミックスが必要ない曲もある。大好きな曲のリミックスを頼まれたが、断った経験は何度もあるさ。オリジナルの曲が好きすぎて、リミックスをしたいと思ってもできないんだ。曲を聴いて、もうこれ以上よくならないと感じたり、反対に、自分が共感できるパートがひとつもない場合、その曲のリミックスはしない。好きな音楽は、リミックスしようと考えるのではなくて、そのままにしておくことが多いかな。

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俺はティーネイジャーの頃からそういうガジェットといったものに興味がなかった。読書に興味があった。誰かのスクリーンを見つめるよりも、自分の想像力に興味があった。それはある種の傲慢かもしれないが、それがテクノロジーに対する俺の意見だ。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

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では最近であなたを興奮させた音楽作品は何でしょうか?

AW:たくさんありすぎるよ。スタジオを歩き回って見てみよう。最近聴いている音楽が山のように積み上げられているからね。レイランド・カービィというダークなアンビエントを作るミュージシャンがいるが、その人の作品はとても好きだ。ザ・ケアテイカーという名義で活動しているが、彼のアトモスフェリックな音楽は素晴らしい。それから今年リリースされたモダン・ソウルのレコード、ヴェニス・ドーンの『サムシング・アバウト・エイプリル』はアナログ・サウンドが美しい作品で、むかしのソウル・アルバムのようなサウンドだが、それにモダンなダーク・タッチが入っている。今年のリリースで大好きな作品のひとつだね。
 渋谷に6階建てのタワーレコードがあるだろう? あそこで、俺はエレクトラグライドのプロモーションとして「今年のベスト10アルバム」を紹介している。だからタワーレコードに行ってみてくれ(笑)。それから、カントリーのアルバムで『カントリー・ファンク:1960-1975』というのも好きだな。『パーソナル・スペース』という80年代のエレクトロニック音楽のコンピレーションも素晴らしい。最近のバンドでトイというバンドがいるけど、トイは好きだよ。リミックスもやった。最近聴いているのはそんなところかな。

エメラルズOPNのようなUSの電子音楽なんかは好きですか?

AW:両方好きだよ。とくにエメラルズは好きだね。ギターを使ったサウンドだから、スピリチュアライズドやスペクトラムのようなバンドを彷彿させる。ああいう、チラチラ光るようなメタリックなサウンドは昔から好きだよ。エメラルズの音楽はキーボードやギターを使ってそういうサウンドを表現している。それが良い。さっきの質問の答えにエメラルズも入れてくれよ。
 エメラルズのサウンドはパソコンで作っているかもしれないけれど音が生き生きとしている。音に空間が感じられるから好きなんだ。けっしてフラットな音ではない。サウンドを聴くと、アップル・マークの後ろでパソコンをいじっている人のイメージではなく、どこかのスペースでレコーディングされたのだというイメージがわく。実際彼のライブをみると、アップル・マークの裏でパソコンをいじっているんだけどね(笑)。けれど彼の音楽はそれを超越している。

家でリラックスしたいときには何を聴いていますか?

AW:家ではめったに音楽を聴かないよ。俺は週7日間、1日8時間音楽を聴いていられるという特権を与えられているからね。だから一日中音楽に関わる仕事をして、さらに帰宅して家で音楽を聴くことはあまりない。音楽関連のドキュメンタリー番組をテレビでやっていると観たりはするけど、朝11時に出勤して7時に帰宅するまではずっと音楽を聴いているから、その後にはあまり聴かないんだ。家ではたいていラジオをつけているけどBBCラジオ4で、ドラマ、ドキュメンタリー番組、ディスカッションなどいろいろな内容の番組をやっているチャンネルだね。帰宅した後はそういうことをしている。それか読書。読書していることが多いな。俺はつねに、小説、歴史、芸術に関する3冊をいっしょに置いておいて、それらを気分に合わせて読んでいる。
 俺のなかで音楽とリラックスは同じカテゴリーに入らない。もちろん仕事中は椅子に座ってるからリラックスしているけれども、君の言うリラックスは頭のスイッチを切る、ということだと思う。俺は音楽がかかっているときに頭のスイッチを切るということはしないんだ。それがたとえひどい曲であっても「ひどい曲だ、なんだこのひどい曲は?」と思ってしまう(笑)。音楽に対しては、いい悪いという反応が俺のなかで絶対に生まれてしまう。だから音楽とリラックスは別物だ。そして俺はリラックス(頭のスイッチを切る)ということもしない。だから本当は瞑想やヨガなどをやるべきだと思うんだけど、俺の頭のなかはつねに時速160キロで進んでいる(笑)から無理だと思うんだ。
 俺はつねに外部からのインプットを必要としている。たとえそれが風呂に10分間入っているときでもだよ。新聞か本か何かしら読んでいる。外出するときは音楽を聴かない。携帯用音楽プレイヤーは持ったことがない。音楽的インプットよりも、外の世界で起こっている情景の方がよほどおもしろい。だけど同じ場所に長い間座っていなければいけない状況のときは必ず本や新聞を持っていくよ。とにかく、音楽とリラックスは俺にとっては別物だけど、音楽でリラックスできるってことは素敵なことだね。

いまもっとも欲しいものは何でしょうか?

AW:いまもっとも欲しいもの? それはむずかしい質問だね。いまその答えを考えて「いま欲しいものといったら、飲み物かな」と思ったら、ちょうど、スタッフのスコットくんが紅茶を入れて持ってきてくれたんだ。

願ったり叶ったりですね!

AW:そうなんだ。完璧なタイミングでお茶を持ってきてくれた。欲しいものは手に入ったよ。とにかく、いまの状況をキープして、この仕事をつづけることかな。さっきも話したけど、俺の野心は、野心を持たずにいまの状態と同じところに居つづけるということだ。すでにほどよい量の作品を生み出したし、スタジオもいい感じで動いている。スタジオのスタッフは素晴らしい人たちばかりだ。この10年間で最高の状態になっていると思う。それ以上を願うのは欲ばりなんじゃないかと思う。もちろん世界平和や食料飢饉や飢餓をなくすという願いはあるけれど、個人レヴェルの話をすると、いまやっていることを続けるということになるね。

なるほど。それではエレグラでお会いしましょう!

interview with secretsundaze - ele-king


JAMES PRIESTLEY & GILES SMITH - 10 YEARS OF SECRETSUNDAZE

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 ロンドンが誇るハウス、テクノ・パーティ、secretsundaze(シークレットサンデーズ)のことを初めて知ったのはたしか、アンドリュー・ウェザオールにインタヴューした時だったと思う。彼の口から長らく下火になっていた非定住型のウェアハウスやオープン・エアのパーティ、それも日曜午後の時間帯に始めた新世代として名前が挙がったことで、海の向こう彼らをチェックするようになり、ジャイルズ・スミスとジェームス・プリーストリーというふたりのDJからなるsecretsundazeがハウス、テクノの最前線と全体像を見事にとらえた人気パーティであることを知った。
 そして、ほどなくして届けられた初の、そして2枚組となるミックスCD『Secretsundaze vol.1』。この作品に衝撃を受けたこともよく覚えている。2007年当時、いまのように顕在化していなかったミニマル・テクノからディープ・ハウス回帰の流れをいち早く予見していたばかりか、スタジオ「Life's A Beach(Todd Terje Remix)」のようなバレアリック・トラックやDOCTOR'S CAT「Feel The Drive」のようなイタロ・ディスコまでもがそこにはミックスされていて、ジャンルの細分化をまるで無視するかのような、現場感覚のクロスオーヴァーがとにかく面白かった。そして、それからというもの、個人的にはダンス・ミュージックの新しい動きを知りたいときは、彼らの動向を気にするようになったほどだ。

 彼らの歴史と功績、その後の飽くなき進化は後述のインタヴューに譲るが、2004年のジェームス・プリーストリー初来日を皮切りに、secretsundazeとしてもたびたび来日してきた彼らが本国でのパーティ始動から11年目にして日本で心機一転。さすがにいきなりデイタイム・パーティとまではいかなかったが、今回は早い時間のパーティの楽しみを紹介するべく今週末に来日を果たす。ジャイルスは先頃、モダン・ディープ・ハウスの傑作と評されるデビュー・アルバム『Golden Age Thinking』を発表したトゥー・アーマディロスの一員として、ジェームスもダン・ベルクソンやマルコ・アントニオをパートナーに、プロデューサーとしても活躍。さらにはレーベル、secretsundazeやDJマネージメントのシークレット・エージェントも運営するなど、その活動は多岐に渡っているが、なにはともあれ、まずはパーティとしてのsecretsundazeについて掘り下げるべく話を聞いたのだが、意気上がる彼らの日本でのパーティが本当に楽しみだ。

僕らは好きな場所で、好きなようにDJできるパーティが作りたかった。ただそれだけで、最初はゲストDJすらいなかったし、それほど壮大なヴィジョンがあったわけではなかったんだ。のちに僕らの代名詞となる「日曜午後のパーティ」というアイディアについても、考えていなかったわけではなかったけど、どちらかといえば偶然でそうなったところが大きいね。

90年代末のスーパー・クラブの時代を経て、2000年代初頭のロンドンのハウス、テクノ・シーンは低迷期にあると言われていたように思うのですが、そんな2002年におふたりはどのような思いからsecretsundazeをスタートさせたんですか?

ジャイルス(以下G):はじめたきっかけは、他のあらゆるパーティと同じで、誰にも指図されず、自分たちが好きな音楽をかけて、好きな人を呼びたかっただけなんだ。その頃の流行はというと、エレクトロが台頭してきていて、イースト・ロンドンではブロークンビーツが人気で、いわゆるアンダーグラウンド・テクノ/ディープ・ハウスは人気もなく、そういった音楽がプレイされるパーティもいまのようにはなかった。だから、僕らは好きな場所で、好きなようにDJできるパーティが作りたかった。ただそれだけで、最初はゲストDJすらいなかったし、それほど壮大なヴィジョンがあったわけではなかったんだ。のちに僕らの代名詞となる「日曜午後のパーティ」というアイディアについても、考えていなかったわけではなかったけど、どちらかといえば偶然でそうなったところが大きいね。
 なぜかというと、僕たちが絶対ここでやりたいと思っていた(ブリックレーンの)「93 Feet East」というクラブがあって、いまもそのクラブ自体は存在しているんだけど、そこにはもう無くなってしまった「The Loft」という部屋があった。その部屋は、初めて足を踏み入れたときから、「ここだ!」と感じたところだった。理由はうまく説明できないんだけど、そういう場所ってあるだろう? とにかく、「ここでパーティをやりたい!」と思ったんだ。他にもロンドン中のクラブを見て回ったけど、「The Loft」以上の場所は見つけられなかった。そこで、店に話をしに行ったんだ。当初は金曜か土曜にやるつもりだったんだけど、クラブには他にも2つ部屋があったから、店側からは「金、土にやるのであれば、全部の部屋使うイベントを優先したい」って言われたんだよ。当時、僕たちはまだロンドンでパーティをやった経験がなかったし、いきなり3部屋を使ったパーティをやるのは荷が重過ぎた。そもそも僕らは「The Loft」を使いたかっただけだったから、話し合いのなかで「日曜日はどうかな?」って逆に提案したんだ。店側も、「日曜日?」と最初は驚いていたけど、普段は閉めている日だから、別に構わないということで日曜にやることになったんだ。

では、最初のsecretsundazeはクラブでの開催だったんですね。

G:そうだね、普通のクラブだった。「The Loft」は建物の二階にあって、テラスがついているところが普通のクラブとは少し違っていたところだね。キャパシティは150人くらいかな。テラス側の壁が全面窓になっていたから自然光が入って、まるで屋外にいるような雰囲気があったし、テラスにも自由に出入りすることができた。

その後、どうして、箱を移動することになったんですか?

G:1年目は「The Loft」の5月から9月にかけて隔週でやっていたから、それだけでもかなりの回数になるんだけど、2年目をはじめたところで近隣から騒音の苦情が来たんだよ。パーティ自体はすごく調子が良かったのに、会場からは追い出されることになってしまった。最初は50人くらいのお客さんからはじめて、1年目の終わりには150人くらい。その後、オフシーズン中に口コミで評判が広がったのか、2年目のシーズンになったらいきなりお客さんが増えて500人くらいになったんだけど、いずれにせよ、会場に収まり切らないほどだったから、「The Poet」という場所に移ったんだ。そこは「The Loft」よりさらに素晴らしいロケーションで、完全にイリーガルだった。表向きはイースト・ロンドンのパブだったんだけど、そこはビジネス街にあって、日曜日は人気がなかったし、その店には500~600百人収容できる大きな裏庭があったんだ。ここで1年半ほど続けたんだけど、結局、ここも警察に見つかって追い出されることになった。とてもスペシャルな場所だったんだけどね。

(会場の雰囲気が分かる映像見つけました:https://youtu.be/5g2I-J28SHw

では、secretsundazeは会場を変えて行うパーティにしようという意図は元々なかったんですね?

G:全くなかったよ(笑)。でも、何事にもそうなる理由があるんだろうね、そうこうしているうちに、僕らの会場に対する考え方もオープンになっていったし、色んな可能性を考えるようになった。そして移動することにも慣れた。いまの時点でも、「夢の会場」と思える場所を見つけられたかどうかは分からない。もし見つけられたならそこを離れる理由はないだろうし。でも、常に「よりよい会場」を探し続けることが日常になってしまった感じだね。お客さんも場所が変わることが当然だと思っているし。2007年からの2シーズンやった「Canvas」という会場は本当にアメージングなところで、僕たちは離れたくなかったんだけど、離れざるを得なかった。キングスクロスのビルの屋上で、3000人収容できたんだ。実際に3000人入ったことも何度かあったね。

(ここですね:https://youtu.be/mNnQ6TSGUJQ

都心の屋外でそんな大規模なパーティをやるなんて、東京では考えられないんですが、ロンドンではどうしてそれが可能だったんですか?

G:ロンドンでもいま現在は考えられないね。でも、2007年頃までのイースト・ロンドンはもっとカッティング・エッジな街だったんだ。いま頃になって「イースト・ロンドンはカッティング・エッジだ」って言ってる人もいるけど、いまはメインストリームな街だよ。仮にいま同じことをやろうとしたら、ずっと遠く東の住居がなくて工業ビルしかないような地域へ行かないと無理だ。でもそうすると、今度はそこまで出かけるのが大変になってしまう。だから、実際どんどん難しくなっているよ。でも、2002年にはじめた頃のブリック・レーンやイースト・ロンドンは、ずっとオープンマインドだったし、当局もずっと放任主義的だったんだ。

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最初は50人くらいのお客さんからはじめて、1年目の終わりには150人くらい。その後、オフシーズン中に口コミで評判が広がったのか、2年目のシーズンになったらいきなりお客さんが増えて500人くらいになったんだけど......。

ここ数年はロンドンでもクラブではない会場を使った「ウエアハウス・パーティ」がどんどん増えているようですが、これについてはどう思いますか?

G:そういうスタイルでパーティをはじめたのは僕らが最初じゃないし、日曜のパーティだって、90年代にはベン・ワットの「Lazy Dog」や「Full Circle」といったパーティがあって、実際に僕も行ったことがあった。でも、secretsundazeほどのスケールのものはなかったかもしれないね。だから、偶然の産物とはいえ、日曜の午後に本気で遊ぶパーティを確立させたとは言えると思う。ロンドンの「Half Baked」やローマの「Confused」はsecretsundazeに遊びに来た人たちが「俺たちもやりたい」といってはじめたsecretsundazeにインスパイアされたパーティで、これは賞賛だと受け止めているよ。
 日曜の日中という時間帯にやると、普通のクラブとはまた違った層のお客さんが来るんだ。月曜日の朝に会社に行かなくてもいいような、アーティスト系の人たちも多いし、ロンドンの平均的なクラブの金曜や土曜の夜の客層よりもいいお客さんが集まるんだよ。

クラブも多く、パーティ激戦区であるロンドンでこれほど成功できた理由は何だと思いますか? ふたりはケンブリッジからロンドンに移ったばかりで初めてオーガナイズしたパーティだったわけですよね?

G:理由はたくさんあると思う。ロンドンではないとはいえ、ケンブリッジは車で1時間ほどの街だから、ロンドンには十分馴染みはあった。北部から出て来た、というわけじゃなかった。当初は、僕とジェームスと、主に制作面を仕切ってくれていたクリストフという友だちと、もうひとりの4人で始めたんだけど、成功の理由は、まず情熱を持ってやっていたからじゃないかな。パーティをはじめること自体は誰でもできるけど、僕らはそれ以前にずっと音楽にのめり込んできた。だから自分たちのスタイルもある。
 あとは、レジデントである僕ら自身を強調した点も重要だったと思う。大物のゲストに頼るのではなく、自分たちのスキルを上げることに注力した。レジデントが1時間ずつやって後はゲストに盛り上げてもらって終わりっていうパーティは多いけど、とくに初期の頃はゲストではなく自分たちにお客さんがつくように努力したね。それと、プラスアルファの努力をして面白い会場を見つけて毎回お客さんを飽きさせないように心がけた。楽な選択肢を選ぶのではなく、ね。マーケティング/プロモーションの仕方も控えめに、ロゴやデザインもミニマルに、シンプルにアンダーグラウンドに、情報を与えすぎないようにしたのも良かったと思う。

ジェイムズ(以下J): 僕らに正しい土台、正しい理由があったからじゃないかな。つまり本当に自分たちがやりたいという純粋な気持ちからやり始めたことだったし、元々大きな計画を立てていたわけではなかった。はじめた当初はみんな別に仕事を持っていたし、これで稼がなきゃいけないというプレッシャーもなかった。若かったし、エネルギーもあった。愛情があったから育っていったんだと思う。それが最高のプロモーションだからね。当時はソーシャル・メディアなんかなかったから、僕ら4人自身が「パーティ大使」になって交遊を広げていた。その頃はそれぞれかなりパーティで遊びにも行っていたからね(笑)。情熱を持っていたこと、自分たちのやっていることを信じていたこと、そこに運が加わって、ちょうどいいタイミングにちょうどいい場所にいたんじゃないかな。いわゆるスーパー・クラブの時代が終わり、オルタナティブなものが求められていたときに、それを提供できたんだと思う。

当時、secretsundazeではどんな音楽をプレイしていたんでしょう?

J:secretsundazeの特徴のひとつは、午後の早い時間からはじまるから、リラックスした、ウォームアップの時間が長いところ。初期の僕はこの午後早めの時間にプレイすることが多かったから、ジャズやソウル、ファンク、ブロークンビートからはじまって、徐々にハウスに近づけていくような感じでやっていた。僕は自分をハウスDJだと思ったことはなかったけど、secretsundazeと共に成長して、いまはかなりハウスに寄ったスタイルになっていると思う。でも、元々フリースタイルだから、伝統的なハウスDJとはちょっと違うと思うんだけどね。

今では、かつて、オルタナティブだったディープ・ハウスも再び主流になってきているように思うんですが、おふたりはいまのsecretsundazeをロンドンのクラブ・シーンでどのように位置づけられていますか?

J:secretsundazeのサウンドは、レジデントである僕とジャイルスと、僕らが選ぶゲストによって定義づけられている。それは常に進化してきたし、もともと戦略のようなものがあったわけでもない。単純に僕らがインスパイアされた音楽や、好きなものを取り入れて来ただけなんだ。いつも新しいアーティストや違うDJをブッキングするのもそういう理由からさ。現在のsecretsundazeがどんなパーティかという点に関しては、パーティ自体は11年目になるんだけど、いまも全く新しいDJを呼んでいるし、いまもカッティング・エッジであり続けていると思いたいね。とくに僕とジャイルスは、最近、元気だと感じられるイギリスのプロデューサーに注目しているんだ。
 ここ3~4年、イギリスから面白いものがたくさん出ていると思うよ。パーティをはじめた頃は、UKのアーティストで呼びたい人はほとんどいなかったんだけど、いまはたくさんいる。僕らはそうしたプロデューサーたちの多くをサポートしているつもりだし、secretsundazeにも出演してもらっていて、その何人か、例えばジョージ・フィッツジェラルドやジョイ・オービソンはいまやかなり成功している。彼らはダブステップやUKガラージをバックグラウンドとしていて、根っからのハウス・プロデューサーではないけれど、クロスオーヴァーする可能性を持っている。そういうアーティストをハウスのパーティにブッキングするプロモーターはほとんどいなかったけど、secretsundazeではそれをだいぶ前から試みているんだ。

secretsundazeは新しい才能、知られざる才能の紹介の場としても機能していますよね。リカルド・ヴィラロボスにルチアーノ、スティーヴ・バグ、マティアス・タンツマンといった才能をロンドンで始めて招聘したパーティとも言われていますが、secretsundazeのブッキング・ポリシーは?

G:リカルドやスティーヴ・バグは、たしかに彼らがビッグになる前、かなり早い段階で呼んだのは間違いないけれど、secretsundazeがはじまったのと同じ頃にオープンした「Fabric」が先か僕らが先か、という感じだった。それ以外ではジョシュア・イズやドック・マーティンといったサンフランシスコのDJをよく呼んでいたのと、キャシーやローソウル、サッセのUKデビューもsecretsundazeだった。Innervisionsの面々なども、かなり早い時期に呼んだと思う。今年もいままでイギリスに来たことがなかったエイビー(Aybee)を呼んだしね。もっと楽をしようと思えば、確実に人が入って盛り上がるDJをブッキングすることはできるけど、それはやらないようにしている。

J:僕たちが好きでリスペクトしている人たちを呼ぶという以外では、どんなにプロデューサーとして名前が知られていてもDJがちゃんとできる人しか呼ばない。それは僕らにとって最初から守っているとても重要なポリシーだ。ただ新しくハイプなだけのプロデューサーには飛びつかず、DJとしてのバックグラウンドがあるかどうかを確認してからブッキングする。そして、少なくとも、彼らにプロフェッショナルなレヴェルまで成長できる時間を与えるね。
 例えば、サシャ・ダイヴは、5年ほど前に僕らがふたりとも作品をすごく気に入っていたアーティストだったけど、ずっとブッキングしなかったんだ。なぜなら、彼はDJをはじめて間もないことと知っていたから。いいレコードを作ることとDJをすることは別物だからね。結局数年経ってからブッキングしたよ。他には、僕たちはオリジナルというか、生粋のUSアーティストも積極的に呼ぶようにしている。彼らは取り組み方が真剣だし、ヴァイブもアプローチもヨーロッパのアーティストとは全く違う。よりハードコアでピュアリストというかね。そういう、既に確立されたアーティストと、カッティング・エッジなアーティストを両方ブッキングすることで面白いコンビネーションにしようと努めているんだ。そして、もちろん、単にフライヤー上の見栄えがいいからというだけでなく、きっちりとパーティ全体の流れを考えてその組み合わせを考えるようにしてるね。

G:パーティをはじめた頃といまではブッキングするアーティストもだいぶ変わっていると思うけど、変わっていないのは質の高いハウスとテクノを核とする点だ。僕らのルーツはシカゴとデトロイトにあって、それは揺るぎないね。僕らがやっているDJのマネージメント・エージェンシーにシェ・ダミエやデラーノ・スミスやパトリス・スコットが入っているところにもそれは表れている。
 ただ、それだけが全てではないよ。僕たちはただ、いい音楽に対してオープンマインドでいようとしているだけなんだ。僕個人はかなりテクノも聴くし。でも1回1回のパーティのブッキングについては、全体の流れの中でそれをどうバランスよく配分するかを考える。secretsundazeの特徴、あるいは強みのひとつは、その日のパーティの流れをとても慎重に考えてプログラムするところにあるんだ。例えば今年のオープニング・パーティではクラシックなサウンドとフレッシュなサウンドの両方を取り入れたかったから、ジョイ・オービソンとリル・ルイスをブッキングしたんだけど、ジョイ・オービソンはとてもUKっぽいサウンドのアーティストでリル・ルイスとは全然違うから、僕たちがそのバランスを取るようにして、その日の最初から最後までの流れを上手く作るようにしたんだ。

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情熱を持っていたこと、自分たちのやっていることを信じていたこと、そこに運が加わって、ちょうどいいタイミングにちょうどいい場所にいたんじゃないかな。いわゆるスーパー・クラブの時代が終わり、オルタナティブなものが求められていたときに、それを提供できたんだと思う。

おふたりはいまお話に出てきたように、自分たちで運営するエージェンシーでたくさんのアーティストを抱えていますよね。

G:そうなんだ。30名ほどのアーティストがいるから、その中だけでパーティを回そうと思えば、それもできる。でも、エージェンシーの方は必ずしもsecretsundazeに合うアーティストばかりではないんだ。エージェンシー名にsecretsundazeとつけずにThe Secret Agencyとした理由もそこにあるんだよ。パーティの枠に縛られず、UKガラージやベース系など、もっと幅広い音楽を紹介したいからね。だからエージェンシー所属のアーティストでsecretsundazeにブッキングするのは8割くらい。オクトーバーやパトリス・スコット、Wビーザ、スヴェン・ヴァイズマンなんかがそうだね。

近年、secretsundazeはパーティだけでなく、DJのマネージメント・エージェンシー、さらにはレーベルと、その活動範囲を広げていった理由は?

J:エージェンシーをはじめた理由は、これまでやって来たことから自然に派生したということ。つまり、僕たちの願いであり、恐らく特技でもある「新しい才能の発掘」だ。僕らは、他から有名アーティストを引っ張って来たりすることに興味はなくて、草の根から一緒に育っていくようなアーティストを応援しているんだよ。そして、エージェンシーとしてプロモートすることで、そういう人たちに対して、1回や2回の出演チャンスをあげるだけでなく、もっと踏み込んで共にキャリアを築いていくことができる。僕とジャイルスは、これまでとても幸運に恵まれていて、音楽でここまでやって来ることができた。だから、その分、僕たちで力になれるなら、他のDJやプロデューサーのゴールなり夢なりを実現する手助けをしたいんだ。
 実際、エージェンシーをはじめたことによって、家族のような絆もできたしね。そして、もちろん、イベントやパーティをやる際にラインナップに加えられるようなアーティストが既に揃っていることも心強いよ。それからレーベルは、エージェンシーの機能を補完する役割、それからsecretsundazeの精神とサウンドを世界中に伝えることにあるんだ。僕たち自身がいつも色んなところへ出かけられるわけじゃないし、例えば日本も通常年に一度しか行かない。だから、レコードで少しでも楽しんでもらうことは、secretsundazeにアクセスするひとつの方法になる。
 来年はもしかしたらサブレーベルもはじめるかもしれないよ。まだ決まってはいないんだけど、secretsundazeに縛られずより幅広い音楽もリリースしていけたらと思っているからね。さらにそうやってエージェンシーとレーベルの両方を機能させることで、アーティストは次のステージに成長していける。実際に、エージェンシーに入った時はほとんどギグをやっていなかったのに、いまは忙しくなったり、より遠いところへブッキングされたり、より高い出演料をもらえたりしているアーティストを見ると自分のことのように嬉しいし、そうやって、全てがとても有機的に発展したのがいまの状況なんだ。

おふたりがいま注目しているDJ、プロデューサーは?

J:いい質問だね。えっと......ブレイデン(Braiden)というロンドンのアーティストがいるんだけど、彼はDJとしてとてもエキサイティングな才能で、既に二回出演してもらっている。リリースは現時点でジョイ・オービソンのレーベルDoldrumsからの1枚しかないけれど、もうすぐRush Hourから2枚目が出るよ。僕が今年最も気に入っているレコードのひとつだ。とてもユニークでフレッシュな、UKベースにインスパイアされたテクノという感じ。うちのエージェンシー内でいうと、Fear of FlyingなどのレーベルもやっているBLMというプロデューサーかな。secretsundazeレーベルの8枚目も彼の曲なんだけど、テクノのヴァイブを持ったハウスを作っているんだけど、そのバランス感覚がフレッシュだね。
 エージェンシー以外では、まだほとんどヨーロッパでプレイしていないシカゴのスティーヴン・タンかな。彼はここ2年ほどの僕のお気に入りだね、デトロイトの影響を受けたハウス/テクノでとても最高なんだ。もうひとりはトレヴィーノ(Trevino)かな。彼は僕らのエージェンシーに所属しているわけではないけど少し関係している。彼はかつて、マーカス・インタレクスという名義でドラムンベースを作っていて、実は昨年出した僕らのミックスCD『10 Years of Secretsundaze』にも彼が2001年に出した曲を収録したんだ。その曲「Taking Over Me」は僕以外で誰もかけてなくて、ちょっとした秘密兵器だったんだよね(笑)。その彼が、今年からトレヴィーノという名義でハウス寄りのトラックを作るようになって、実は今度secretsundazeから出る僕の曲「Speed」も彼にリミックスしてもらったんだ。
 この曲は、かつてLTJブケムがレジデントだった「Speed」というパーティにインスパイアされていて、ブケムが「Horizons」というドラムンベース・クラシック曲に使ったのと同じヴォーカル・サンプルを使っているんだ。だからリミキサーとしてトレヴィーノはぴったりだったんだよね。あとはWビーザとジョン・ヘックル、エティル(Ethyl)とフローリ(Flori)、それからアンソニー・ネイプルズというニューヨークの新人も注目株だね。

おふたりのDJプレイに関して、実体験した印象としてはジャイルズがどちらかといえばテクノ寄り、ジェームスがディスコ寄りのプレイに特徴であるように思ったんですが、DJのパートナーとして、お互いの音楽性についてはどのように思われていますか?

G:そうだね、僕がディープ・ハウス~テクノ寄りで、ジェームスは元々ドラムンベースがバックグラウンドにあって、そこからディスコ、ハウスへと変化していった。僕もガラージやベースものをかけたりもするけど、基本的にハウス/テクノのピュアリスト(純粋主義者)だ。僕から見たジェームスの強みは、僕よりも「パーティDJ」だということ。何をプレイするかよりも、プイレのし方の面においてね。僕がプレイする曲を彼もプレイするんだけど、プレイのし方が違って展開がもっと速い。僕はどちらかといえばもっと伝統的なスタイルで、徐々にビルドアップして、また落としていくルーティーンをなるべくスムースに繰り返していくスタイルで、終盤の、着地に向かっていく時間帯が得意なんだけど、ジェームスは自分のプレイしたいものを恐れることなく奔放にぶち込んでいくスタイルだね。そして、常にお客さんの期待に応えるだけでなく、いい意味での裏切りがあるんだ。だから、ジェームスはパーティの前半や中盤にプレイすると映えると思う。
 僕らは毎年Robert Johnson(フランクフルト近郊のクラブ)でロングセットをやるんだけど、そのときのジェームスのプレイが僕はいつも楽しみなんだ。そこでは音楽好きのお客さんが集まることもあって、ジェームスの幅の広さが発揮されるんだよ。ディスコ、ブレイクビーツ、ブロークンビーツ、ハウス、テクノ......彼のそういう多彩な部分が僕は好きだね。

J:ジャイルスは、伝統的なハウスのプログラム方法で、物語のように曲をつなげていき、流れを作ることができるDJだね。彼のようにそれができる人は他にはそう多くない。僕は逆に、リスクを恐れずに異なるジャンルや時代、リズムの曲を織り交ぜてかけることが多いよ。UKベース/ガラージ系の曲をかけるのも好きだしね。お客さんにサプライズをもたらすようなプレイを目指しているんだ。お客さんにショックを与えることなく、いい驚きをもたらすことができるのも優れたDJの条件だと思うからね。だから、僕のプレイは、ファンク・パンクやテクノを多めにかけていたときもあれば、ディスコを多めにかけていたときもあるし、その時々で変化しているんだ。

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ジョイ・オービソンとリル・ルイスをブッキングしたんだけど、ジョイ・オービソンはとてもUKっぽいサウンドのアーティストでリル・ルイスとは全然違うから、僕たちがそのバランスを取るようにして、その日の最初から最後までの流れを上手く作るようにしたんだ。

そんなおふたりが続けてきたsecretsundazeはイビザやベルリンを含むヨーロッパでの評価を確立しながら、トレンドの移り変わりが激しく、飽きっぽい遊び人相手に、11年に渡って良質なパーティを提供してきましたよね。この11年のハイライトは? 

G:ハイライトはあり過ぎて挙げ切れないけど...... 強いて3つ挙げると、ひとつはイースト・ロンドンのストリート・パーティだな。元々は小規模のサイクリングのプロモーション・イベントだったんだけど、secretsundazeがそれを乗っ取ったようなかたちになったんだ。あれはたしか、2004年か2005年頃だったと思うけど、道路に3つサウンドシステムが出ていて、他ではレゲエなんかがかかっていて、その一つをsecretsundazeが担当したんだ。その道路に沿って電車の高架があったんだけど、そこにミラーボールを吊るしてね。4000人かそれ以上の人たちが集まったよ。フリーパーティだったから、イースト・ロンドンの地元の人たちが遊びに来ていて、とても特別な雰囲気だった。
 ふたつめは、2006年にイビサ島でリカルド・ヴィラロボスを呼んでやったパーティだね。その頃の彼は有名になりはじめたばかりの頃だったんだけど、イビサ島というのは、地元にネットワークがないとパーティをするのがとても難しいところでね、それでも僕たちはパーティの数日前に島へ渡って、とにかく死にものぐるいでパーティをオーガナイズしたんだ。「The Blue Marlin」という島の南側にある美しいロケーションでできることになって、いまは金持ち向けの気取った店になってしまったけど、その頃はとてもシンプルなビーチ・バーだった。サウンドシステムもとても良くてね。この日も2000人くらいが詰めかけて、ビーチが人でいっぱいになって近くの道路も渋滞するほどだったんだけど、そのときの雰囲気が素晴らしかった。イビサでも、他の場所であんなヴァイブのパーティは体験したことはないね。もう6年も前のことなのに、いまでもイビサに行くと、そのときのパーティの話をして来る人が時々いるよ。
 3つめは...... どれにしようかな。2年目の「The Poet」でやったシーズンは全て最高だったね。イヴァン・スマッグ、ルチアーノ、ローソウル、トレヴァー・ジャクソンなんかを呼んだけど、どのDJも会場に入ると顎が外れそうに驚いていたよ(笑)。屋外だったけど、壁に囲まれていたから音も良かったし、何人かのDJは、お客さんの勢いや会場の雰囲気に飲まれそうになって緊張していたほどだったよ。僕らは毎回やっていたから慣れていたけど、それくらいパーティに勢いがあったんだ。

最後の質問です。いま、日本のクラブ・シーンは古くからある法律を振りかざした公権力の過度な取り締まり対象になっていて、箱自体が営業停止に追い込まれたり、極端にいえば、深夜に踊ることが禁止されているような状況下に置かれていて、ダンス・ミュージックというもの、そして、パーティを続けることの根源的な意味が問われています。そこでお聞きしたいのは、ふたりが困難な状況に直面しても続けてきたパーティとは?

J:多くの人にとって、パーティをすること、踊ることは極めて重要な意味を持っていることは間違いないよね。とくに震災のような厳しい体験を経た日本では、厳しい状況のときこそ、多くの人で集まって楽しい時間を共有する体験が必要だと思う。ただ楽しいから遊びに行くというのも十分な動機だけど、日常のことや心配事を忘れて自己を解放したくなるときもあるだろ?  そういうときこそ、パーティはより大きな意味を持つんだと思う。
 日本が今直面している法律の問題はとても難しい課題だから、向こう数年どんな変化が起こるのかということにも興味があるよ。今回の僕たちのツアーも早めにはじまって深夜に終わるスタイルだから、それがどう受け入れられるのかも気になるね。例えば、ここ数年ロンドンではナイトクラブではなく、ウエアハウスのパーティが主流になってきている。そういう単発のイベントの方が、クラブを営業するよりも規制が緩いからだ。そのせいで、クラブの営業が厳しくなって来ている現実があって、実際に何軒ものクラブが閉店してしまった。クラブ営業だけでやっていける店は本当に少なくなって来ているんだ。新しいお店の多くは、クラブだけではやっていけないので日中はアートスペースとして運営しているよ。それは面白い動きだと思うけれど、残念なのはクラブとしての設備投資が十分にできないから、音響などに資金が回らないこと。この経験が日本でどう応用され得るかはわからないけど、いま起きている問題のせいで日本の素晴らしいサウンドシステムを持ったクラブが存続できなくなるとしたらとても悲しいね。日本のクラブの素晴らしいところ、そして世界中のDJから愛される理由は、妥協を許さない音作りにあると思うから。
 とはいえ、みんなの音作りの情熱が消えることはないだろうから、ロンドンのようにアンダーグラウンドなウエアハウス・パーティが主流になっても、仮設の素晴らしい音響を実現してくれるのかもしれないけどね。あるいは今後、時間帯を早めた、日中のパーティが多くなってくるのかもしれないよね。少なくともロンドンではそうなって来ているし、僕らが最初に日曜の日中のパーティをはじめた動機のひとつに、ロンドンの土曜日の夜だと多くのクラブが3時に閉店してしまって、ひとつのパーティを作り上げるには時間が短過ぎるという不満があった。だから日曜の午後2時~10時半までの時間があれば、もっと色んなことができると思ったんだ。だから、そうやって遊び方を変えてみるのもひとつの方法かもしれない。

つまり、secretsundazeみたいなパーティをやってみれば? と(笑)。

J:その通り(笑)!

インタヴューの完璧な〆をどうもありがとうございました。それでは日本でお待ちしてますね。

J:ありがとう。パーティで待ってるよ。

11/8(木) 21:00~ secretsundaze presents Giles Smith and James Priestley @ Dommune
観覧の予約はこちら:https://www.dommune.com/reserve/2012/1108/

11/10(土)20:00~ secretsundaze tokyo @ Galaxy
出演:Giles Smith, James Priestley & Kez YM
https://www.thegalaxy.jp/programme/secretsundaze.php

11/11(日)19:00~ secretsundaze osaka @ Circus
出演:Giles Smith, James Priestley, Ageishi & Ono
https://circus-osaka.com/events/secretsundaze/

interview with DJ Fumiya - ele-king


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 DJ Fumiyaは、リップスライムのトラックメイカーとして瀟洒たるポップネスをグループにもたらし、ヒップホップ/ラップ・ミュージックを広く世間に知らしめた立役者のひとりであり、今日まで一貫してカラフルでダンサブルなトラックを作り続けている。
 『ビーツ・フォー・ダディ』は、DJ Fumiyaの長いキャリアのなかで意外なことに初のソロ・アルバムである。ここでも、彼はブレることなくクラブ・ミュージックを彼なりにポップに咀嚼した楽曲を、人気のシンガー奇妙礼太郎や森三中といったような想定外だがその軽妙なキャスティングに納得させられるユニークな共演を交えて披露している。
 今作でのトラックの行き先は、リップスライムで見せてきたカラフルさを持ちつつも、ダンス・ビートをいかに親しみやすく聴かせることができるかに向かっている。"ENERGY FORCE"などを聴くとギャング・ギャング・ダンスがジャングルのなかJ-POPを流して満面の笑顔で踊っているみたいだ。とくにメロウなクラシック・ギターの音色に激しいドラムが絡むロリータ・ポップ"HOTCAKE SAMBA"は、聴いていて本当に幸福な気持ちにさせてくれる。DJ Fumiyaは、多彩なダンスの要素を取り入れ、ポップ・ミュージックとして結実させる。そこにいやみなく窮屈なメッセージは忍ばせようとしたりもしない。とにかく楽しそうなトラックと声、そしてスクラッチがここにある。

 しかし、そのヒップホップ/ポップのトラックメーカーとしての熱量は、池を何時間でも見ていられるという自然児の平静な心にともなって生まれている。今作のテーマカラーらしきパープルは、いささか性的で猥雑な印象をあたえる色でもあるが、冷静のブルーと興奮のレッドの間に位置する色だ。寡黙なヒップホップ/ポップ・ヒーローに、クラブ・ミュージックとポップの関係について語ってもらった。

僕は単純に動物が、とくに水辺の生き物とかが、すごく大好きなんですよ。池とか小川とか田んぼとか海とか。なのでメダカとか亀とか。犬とか猫も飼っているんですけど。小学生のころは毎日のようにザリガニとかカエルとかを捕っていましたね。

野田:フミヤさんのことはリップスライムがデビューした時から名前は存じていたんですけども、デビューの頃はテクノDJの田中フミヤと間違えられたりしませんでしたか?

DJ Fumiya:全然ないですね。僕がデビューした時にはすでに田中フミヤさんは有名な方だったので。僕はまだお会いしたことないんですけども。

野田:まあ、ジャンルも世代も違いますしね。とはいえ、田中フミヤはテクノの第一人者でやってきているので、フミヤさんがリップスライムでデビューした時、「あ、もうひとりのDJでフミヤがいる」と思ったんですよ。

DJ Fumiya:ああ、いえいえ......!

野田:なんか、すみません。

......では、はじめます。すみません。

DJ Fumiya:はい!

リップスライムでメジャーデビューしたのが2001年で、遡るとインディーのリリースは1995年からですね。長いキャリアをお持ちですが、元からソロ・アルバムを出したいっていう願望はあったのですか?

DJ Fumiya:(※即答)もう、ずっとありましたね。24~25歳のころから。リップ(スライム)で使っていないトラックのなかで自分のお気に入りトラックをまとめて出してみたいなと思っていました。

おお、ということは、2004年前後からすでに構想があったのですね。リップスライムでのインタヴューで、トラックは70%くらいまで作ってラップが乗る約30%の隙間をつくるとフミヤさんが仰っていたんですけども、今作『ビーツ・フォー・ダディ』はどうですか?

DJ Fumiya:今回はもうオケの状態でけっこう作り上げていたので、声が乗ってからシンプルにしていくという作業があったかもしれないです。

ああ、削ぎ落としていったわけですね。

DJ Fumiya:そうですね。どういうレコーディングをしていらっしゃるのか把握できていない人たちと共演したので、やりながら探っていったという具合でした。トリプル・ニップルズ(Trippple Nippples)は曲を通してつくるのではなく、断片をいっぱい録っていって、「ではフミヤさん、あとよろしくお願いします」みたいな。

素材だけで、まさにサンプリング的な感じで。

DJ Fumiya:そうですね。「べつに意味が通らなくてもいいんで」という具合でした。

リップスライムのときから、ありもののサンプリングというより、スタジオ・ミュージシャンの方を呼んでレコーディングしていたんだと思いますが、それは今作でも同様ですか?

DJ Fumiya:いや、今作はほとんど自分でギターなどを演奏しましたね。リップ(スライム)のときも、スタジオ・ミュージシャンとはいえど、家に来て弾いてもらって、僕がそれをサンプリングするというやり方が多かったんです。だいたいもの凄くバラバラにチョップして、レコードからサンプリングして録ったかのように乗せるというのをよくやっていたので、そのまんま乗せるっていうことはあまりしたことがないんです。

野田:とくに好きな音楽エディターっています?

DJ Fumiya:チョップとか打ち込みが上手いと思うのはテイ(・トワ)さんですね。緻密ですし、チョップされたスネアとかを聴いてすぐテイさんだとわかるその個性が打ち込みに表れてますね。あとは、アトム(Atom™)とかもそうだと思いますし、まりんさん(※電気グルーヴの砂原良徳)とか。

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鎮くんはどうしても1回やってみたいというのがありましたね。声がすごいし、本人自体もすごいですけど、やっぱ、声がすごいなって。で、この曲が一番時間かかったんですよ。3ヶ月くらいかかったかな。


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フミヤさんはテイ・トワさんによる事務所〈huginc.〉に所属していますね。今作の"HOTCAKE SAMBA"という曲に参加している事務所メイトのBAKUBAKU DOKINというユニットについて調べたんですが、情報があまりなく、謎めいていて......。いったいどういう人たちなんですか?

DJ Fumiya:もう5年位前にクラブで「プロデュースしてください」って。

おお、急に頼まれたんですか!

DJ Fumiya:そうですね。それからよくデモを作っていたりなんかして、2年前にはテイさんのところからちょこっと出していて、今回の曲もほんとうは彼女たちにあげてたんですけど、ちょっと返してって言って(笑)。

(一同笑)

DJ Fumiya:そして、もうひとり参加してもらった方が僕のソロっぽくなるかなと。BAKUBAKU DOKINがオモチャっぽい声をしているので、大人っぽい声の人とギャップを出してもらうためにorange pekoeのナガシマさんにお願いしました。

なるほど。共演の話でいくと、ライムスターや鎮座DOPENESSやリップのリョージさんなどのラッパーをフィーチャーするのはよくわかるのですが、芸人である森三中の黒沢かずこさんをフィーチャーしていますね。これにはどういう思惑があったんですか?

DJ Fumiya:森三中のことはむかし「ガキ使」(テレビ番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』)とかに出はじめた頃からすごく好きで、黒沢さんもリップのことを好きでいてくれて、自分でチケットを買ってライヴに来てくれていたんです。テレビでよく黒沢さんがフリースタイルで歌いはじめたりするのを観ていて、「この人、やっぱ、歌いけんじゃね~かな~」と思って、なにか曲をふってみたいなという考えがありましたね。

すごくクレイジーな歌ですよね。

DJ Fumiya:クレイジーでしたね。

イントロからすごいなと思って。

DJ Fumiya:あのモードにガラっと変わるのが、やっぱ......。

すごいですよね(笑)。演技力がヤバいなと思いました。

DJ Fumiya:プロだな、っていう。ただ、その、歌は上手いんですけど、やっぱ、こう、人とは違うな、っていう。全然キーと違うところを歌ったりするんで。

面白いですね。

DJ Fumiya:面白いですし、それが大変でした。

大変そうですね(笑)。"TOKYO LOVE STORY"でフィーチャーしている奇妙礼太郎はいま人気の歌い手ですけども、どういう経緯で共演になったんですか?

DJ Fumiya:名前をずっとお聞きしていました。やっぱり、声が好きなんです。この曲が今作中で一番最後に声録りをした曲だったんですけど、録音の1週間前くらいにお願いをして、お忙しいギリギリのなかでウチに来てもらって、その場で詞も書いてもらうようなかたちでした。

野田:あと、"JYANAI?"で鎮座DOPENESSをフィーチャーしてるのがいいと思いました。

DJ Fumiya:や、もう鎮くんはどうしても1回やってみたいというのがありましたね。声がすごいし、本人自体もすごいですけど、やっぱ、声がすごいなって。で、この曲が一番時間かかったんですよ。3ヶ月くらいかかったかな。

野田:どこでかかったんですか?

DJ Fumiya:鎮くんは、やっぱ、けっこうリリックで悩んでくれて。あのフリースタイルを見てると、すごく早く書けるんじゃないかって思うんですけど。

たしかに。

DJ Fumiya:逆なんですね。たぶん言葉が出て来すぎて。それで言葉のチョイスに時間がかかるっていう。だから、ほぼ飲んで終わるみたいなのがすごく続きましたね。

(一同爆笑)

打ち合わせという名の飲み会だったり。

DJ Fumiya:飲んで終わるみたいな。

野田:そういうキャスティングするうえでの基準というかポイントってどんなところに置きました?

DJ Fumiya:まずオケがあって皆さんにふっていくというかたちが多かったので、そのオケに対してのカウンターでもイメージどおりでも、パッと思いついた人たちと共演したという感じでしたね。



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僕はやっぱポップが好きなので、もともと聴いているヒップホップなどの音楽にしてもそういうのが多かったと思いますし、とくに無理してるっていう感覚はないんですね。


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音に関して言うと、今作『ビーツ・フォー・ダディ』もそうですし、リップスライムのときから一貫してポップなトラックをつくってきていますね。このインタヴューで主に訊きたいのは、フミヤさんがポップに開けていることについてなんです。一貫したポップさはやっぱり意識的なものなのですか?

DJ Fumiya:僕はやっぱポップが好きなので、もともと聴いているヒップホップなどの音楽にしてもそういうのが多かったと思いますし、とくに無理してるっていう感覚はないんですね。

僕は中学生の頃からリップスライムのファンで、インターネットも普及していたのでいろんな情報が見れたわけですが、例えばキングギドラの"公開処刑"という曲でK・ダブ・シャインがリップスライムとキック・ザ・カン・クルーの二組にちょっかいを出していたことをインターネットを通して当時知りました。その二組はラップというものを知らなかった子供さえファンにしてしまうポップ・スターでもあった訳ですが、ポップを打ち出していたフミヤさんの側に葛藤みたいなものはありましたか?

DJ Fumiya:僕個人はまったくなかったんですよ。

おお、そうなんですね。

DJ Fumiya:なんでしたっけ、「屁理屈ライム」と言われたんでしたか。いや、もう、めっちゃ「屁理屈」だしなって思いましたね(笑)。

あ、でも、「屁理屈」だと思ったんですか?

DJ Fumiya:そうですね、なんというか、詞が言葉遊びのグループなんで、そのとおりと思いましたね。でも、僕はそれが全然悪いと思っていないし、そこが楽しいとこだと思っているから、ちっきしょーとかは全然思わなかったですね。

その横槍へのアンサーだと言われている"BLUE BE-BOP"のミュージック・ヴィデオの最後に出てくるメッセージ「THANK YOU FOR YOUR KIND ADVICE AND SUPPORT!」は誰の発案だったんですか?

DJ Fumiya:俺、全然知らなかったんですよ。できあがったらああなってたんです。

そうなんですか(笑)。

DJ Fumiya:あの頃、すごく忙しかったので記憶があまりないんですよ。

野田:とくに当時はいろんな意味で熱かったし、「ヒップホップとはこうでなければいけない」みたいな空気も強かったように覚えていますね。

DJ Fumiya:そうですね。いまでこそあまりないですが、僕が昔にやっていたころは強くあったなという気がしましたね。

野田:まあ、いきなり売れてしまったわけだし(笑)。

DJ Fumiya:そうですね。だから、逆に「ここで守んない! もっと破んなきゃ!」という......(笑)。自分はずっとヒップホップ好きで聴いてきて、だから「僕が新しいことをしていかないと」というか。「僕がやることはヒップホップだから」っていう。なんかこう、変な......(笑)。

おお、使命感みたいなものはあったんですね。

DJ Fumiya:はい。そうですね。

野田:そう考えてみると、リップスライムみたいなグループのほうが少数派かもしれないね。

DJ Fumiya:本当にそうなんですよね。たぶんアメリカのヒップホップ・シーンでさえ少ないんじゃないかと思います。

今作『ビーツ・フォー・ダディ』のタイトルは、自分と同じ父親の立場にいるような世代のひとたちに向けた音楽だという意味だそうですね。

DJ Fumiya:僕が父親になったっていうのと、ビル・エヴァンスの"ワルツ・フォー・デビー"をちょっと捩らせてもらいました。それで1曲目もワルツなんです。

そういった父親世代とは逆に、リップスライムやキック・ザ・カン・クルーを聴いて育ってきたような子ども世代からユニークなヒップホップのアーティストがインターネットを通じるなどして現れていますが、そういう若い世代の音楽って気にされたりますか?

DJ Fumiya:あ、はい、ちょくちょく。例えば、鎮くんなんかも曲作り終わってみて、やあ、本当に頑張ったね、時間かかっちゃったね、みたいな話をしてる時に、「本当すみません。すっげー緊張してました」って言い出してきて。「5年前じゃフミヤさんとやるなんてことは有り得なかったから」と言われて、「そうなんだ」と思いました(笑)。全然わからなかったです。

なるほど(笑)。

野田:一応、斎藤くんもラップをやってるんで。

DJ Fumiya:あ、そうなんですか!

野田:それを言いたかったんじゃないかと(笑)。

DJ Fumiya:ははは(笑)。

いや、全然そういうことじゃないですよ(笑)! 僕だけではなくて、例えばシミ・ラボ(SIMI LAB)の人たちもele-kingのインタヴューでアメリカならエミネムあたり日本ならリップスライムやキック・ザ・カン・クルーを聴いていたと言ってるんです。なんていうか、言ってみればフミヤさんはヒーローなんですよ、本当に! ヒップホップの道をひとつ切り拓いたひとりだと思います。

DJ Fumiya:いやいや(笑)。僕はネットとか恐いのであまり見ないんですが、嫌われてるんじゃないかとずっと思ってたんです(笑)。

えー! そうなんですか?

DJ Fumiya:でも最近、そういったお褒めの言葉を言われることが多いから、嬉しいですね。

あ、でもそれは最近になって改めて言われるようになったという感じなんですか?

DJ Fumiya:そうですね。それこそ、小学生くらいだった子が大きくなって自分でも音楽をやるようになって、「あの子たち、リップ好きらしいよ」っていう話を聞くようになりました。リョージくんなんかは日本語ラップをよく掘っているので、そういう話をよく聞くみたいですね。

ではまさにシミ・ラボはその一例ですね。リップスライムとは方向性が違いますけど、シミ・ラボについてはどういう感想をもっていますか?

DJ Fumiya:すごくカッコいいと思います。なんか、爆発力というと違うかもしれないですけど、なんていうんですかね。初期衝動っていう感じのものがありますし。

野田:『ビーツ・フォー・ダディ』はとても良いアルバムだと思ったんですね。リミックスしているからっていうわけではないのですが、やっぱディプロっぽいというか、コミカルな感じとか、パーティっぽい調子、ビートや展開がころころ変わる面白さなんか、ある意味メイジャー・レイザー(Major Lazer)のヒップホップ版かなと思いました。彼らはダンスホールですけど、フミヤさんはああいう突き抜けた感覚をヒップホップのスタイルでやってるのかなと思ったんですね。彼らに対する共感はありますか? 

DJ Fumiya:ありますね。音楽を楽しんでる感じのところに。ディプロが歳も同じくらいの同世代で、あの音楽の雑多さが......たぶん色んなの好きじゃないですか。あのふたりには「さすが!」って思いました。ビートとメロディで好きなように遊んでるなっていう。なんかこう、例えばテクノのいいところも入ってるんですけど、全部それとは言えなくて、完璧にメイジャー・レイザーの音楽というか。すごく楽しそうだなと、やっぱり「楽しそう」というのが重要ですね!

野田:バカなことやりながら、アンチ・ゲイ的な暴力を批判したりとか、ああいうところも良いですよね。あとフミヤさんと共通しているのは、リズムの面白がり方だと思うんです。色んなリズムをカット・イン/カット・アウトして。

DJ Fumiya:で、レゲエやっても、それがすごく楽しそうで。本場のひとに言わせたら思うことがあるのかもしれないですけど。

野田:しかも、あれがジャマイカで売れたっていうのがすごいですね。

DJ Fumiya:やっぱり、ディプロだけでなくスウィッチ(Switch)がいるからすごくいいんだと思います。

野田:ああ、なるほどねー。

ディプロと実際にお会いしたことはありますか?

DJ Fumiya:DJのとき一度だけ会いました。すごかったですね、彼のDJも.........テイ(・トワ)さんと「軍隊みたいだ」って。

野田:軍隊じゃないまずいじゃないですか(笑)、なんでですか!?

DJ Fumiya:身体も屈強そうだし、ずっとなんかもう、こう(※右に左に身体を動かして機材をいじっていく真似)......後ろから見たら兵隊に見えて。汗もビショビショで。

野田:ああ、ちょっとスポーツが入ってる感じなんですね。

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ピート・ロックとDJプレミアはコスリも上手かったですね。当時はコスリのコピーばっかりやっていました。DJプレミアのコスリは、いまでも口ずさめるコスリですね。


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「楽しそう」という面についてですと、リップスライムの『Masterpiece』がリリースされた頃、NHKの『トップランナー』に出演なさっていましたよね。そこでファーサイドの"ソウル・フラワー"を流していらっしゃったのが、当時エミネムしか知らない中学生だった僕にはすごく衝撃的でした。90年代のヒップホップというのはなかなか知りえなかったですし、「こんなに楽しそうでカッケえヒップホップがあるんだ!」と思うと同時に、リップスライムがそれを標榜していたのかなというのも感じました。

野田:僕もファーサイドは好きだったんですけど、でも、微妙ですよね、日本でも(笑)。昔「ヒップホップで何が好き?」って訊かれて「ファーサイド」って答えて怒られたこともありますね、硬派な人から。

そうなんですか...! 本国でも叩かれていたらしいですしね。

DJ Fumiya:ファースト・アルバムが売れて、本人たちもちょっとハードな感じに変わっていったりもしたんですけどね。それでメンバーやめちゃったりとかもあって。

アルバムを発表順番に並べると、メンバーがだんだんと減っていったのが目に見えてわかりますよね。

DJ Fumiya:やっぱり、ジェイ・ディーが参加していた頃が最高ですね。本当、5人揃って好きだって言えるグループってファーサイドくらいしかいなかったですね。

ソロをやるにしてもファットリップなんかもファーサイドをやめてからだったわけで。そういう意味ではリップスライムって、バラバラになっていったファーサイドとは対照的に、ソロ活動と並行してちゃんと5人揃ってグループが長く続いていますよね。それって凄いことだと思うのですけど、どういう実感がありますか?

DJ Fumiya:そうですね.........みんな、あんまり、深く考えてないのかもしれないですね。

フミヤさんはなにか考えていることってありますか?

DJ Fumiya:曲自体にはありますけど、「これからリップはこう変わっていくんだ」みたいなことは考えてないですね。俺だけ考えても絶対無理なんで! また具合悪くなっちゃうんで、そんなこと考えても。

なるほど。最近だとリップのペスさんもソロ活動をしてイルマリさんもバンドを始動させていますよね。リップスライム以外の横の活動が積極的に行なわれているように感じますが、そういう流れは自然にあるいは同時多発的に起こったりするものなのですか?それとも「ちょっとしばらく休もうか」とみなさんで決めていたりとか?

DJ Fumiya:どっちもと言いますか。たぶんこのタイミングで、休憩じゃないですけど、自分で違う場所に行ってみて呼吸して戻ってみて、またリップスライムの活動に活かすこともあるんだと思います。ちょっと、リップの一番最近のアルバム『STAR』を作り終わってから、それからどういう曲を作ったらいいのか個人的にわからなくなっていた時期でもあったので。次をすぐ作れって言われても無理だな、と。他の刺激が欲しかったんですね。

ソロ作品をつくることはメンバーと話してからでしたか?

DJ Fumiya:いちおう言いましたが、みんなも同じことを考えいたのではないかと。

リョージさんがツアーDVDのなかでリップスライムはスライムみたいに柔軟なんだというようなことを言っていたと思うんですが、まさにそのとおりですね。その柔軟さの出処はどういうところでしょうか?

DJ Fumiya:たとえば楽曲制作でいうと、どんなトラックを持っていってもラップを乗せてくれるので柔軟だなと思います。ふざけて作っためちゃくちゃ速い曲とかリズムがない曲とかでも、みんな詞を頑張ってつけてくれるので、自分の遊びを引き受けてくれる柔軟さがありますね。

そもそもトラックはいつから作られてたんですか?DJ活動は14歳からということですけども。

DJ Fumiya:トラックは16歳くらいからですね。

野田:最初のサンプラーはなんだったんですか?

DJ Fumiya:最初はAKAIのS01っていう、8個しか音が出ないし、ツマミが一個しかついてないもので、本当にただのサンプラーでした。ただ音が出てくるだけっていう。それからAKAIのS900とか950とかヒップホップの名機に戻ったっていう感じですかね。ピート・ロックだとかが使っていたような。

DJやトラックをはじめた時の模範の音っていうのはありましたか?

DJ Fumiya:やっぱりヒップホップでしたね。90年代前半の......。

ニュー・スクール的な?

DJ Fumiya:そうですね。それこそピート・ロック、DJプレミア、ジェイ・ディーとかですね。あと、トライブ。あそこら辺のひとたちはいまでも聴きますね。ピート・ロックとDJプレミアはコスリ(※スクラッチ)も上手かったですね。当時はコスリのコピーばっかりやっていました。DJプレミアのコスリは、いまでも口ずさめるコスリですね。

それを聴きながら、当時はどういう現場でやられてたんですか?

DJ Fumiya:DJでよくプレイしていたのはライムスターさんたちとの「FG NIGHT」が中心ですね。

野田:ああ、クラブは渋谷のFAMILYですよね。僕も行ったことあります。

その時からすでにFGの中にいらしたのは、ダンサーだったお兄さんとの繋がりがあってですか?

DJ Fumiya:ですね。リップのスーっていうやつとウチの兄が同じチームでダンスをしていて、イースト・エンドのダンサーになって、そこからですね。中二とか中三の頃だったと思います。

野田:黄金時代ですね。

DJ Fumiya:黄金時代ですね(笑)。まだイースト・エンドも売れる前の時代ですね。

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日本のクラブとターンテーブルがないところもありますからね。あってもメンテナンスされてないボロボロのものとか。「あー、もうダメかな」とけっこう諦めモードになる瞬間があります。


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リップスライムに加入した時はペスさんもトラックを作っていた訳ですが、ライバルというか、競い合っていましたか?

DJ Fumiya:あー、でも僕は最初ペスくんのトラックがカッコいいなと思って、ペスくんみたいな音を作りたいというところから始まってたんですよ。

あ、なるほど。

DJ Fumiya:"STEPPER'S DELIGHT"っていう曲がメジャー・デビューのシングルになるとき、「なんで俺のトラックじゃねえんだ」ってペスくんは怒ってましたね。

なるほど(笑)。

DJ Fumiya:でも、そのときの他の候補がペスくんの"ONE"だったので、どっちにしろリリースされたんですね。

リップスライムのベスト盤『グッジョブ!』が2005年の夏にリリースされた頃、フミヤさんが自律神経失調症でお休みになったじゃないですか。その後の1年間は沖縄県の小浜島で暮らしていたとのことですが、それらの一連の事象で音楽的に作用している事ってありますか?

DJ Fumiya:小浜島ではほとんど音楽を聴いていなかったです。信号もないような島だったので。民謡しか本当にないみたいな(笑)。その間に耳を休ませたっていうのがあって、また音楽活動をはじめるにあたって、どんな音楽も刺激的に聴こえましたね。だから、すごく作りたいっていう欲求が出てきたということがありました。

あー、なるほど。その島にいた間は自分の音楽も聴いたりしなかったんですか?

DJ Fumiya:一応機材は持っていったんですけど、打ち込みをするっていうことがまったく似合わない環境だったので(笑)。やる気が全然起きないっていう。でも、いいやそれで、と。無理して作ることもないしな、と思いましたね。

それで、逆に、制作を再開するときにまた気持ちがドライヴしたんですね。

DJ Fumiya:そうですね。気持ちが跳ね返りました。

野田:トラックの話でいえば、トラックを作るときにヴァイナルを掘るのってフミヤさんの世代が最後なんじゃないかと思うんですよ。いまの20代前半の子が曲を作るとき何処へ行くかって言ったら、TSUTAYAだっていう話を聞いたことがあります。

DJ Fumiya:TSUTAYAですか、あああ......(笑)。

野田:たしかに安上がりですからね。

SLACKなんかは父親のレコード・コレクションも使ってるんだと思いますが、たしかに若い世代になると、トラックを作るときって自分で全部打ち込んでしまうかサンプルネタをネットで拾うかということが少なくないかもしれません。

DJ Fumiya:僕は音の面でヴァイナルじゃないとっていうのがあるんですよね。ちょびっとでも隠し味的に入れると曲の表情が本当に変わるので。音域が広がりますね。

野田:お金をかけずにネットで拾ったようなデジタル音源のサンプルだと、音質が均質化されがちで、個性を出すのが難しいですよね。 

DJ Fumiya:僕もスクラッチは入れてるんですけど、PCのヴァイナルを使ってるんです。波形を見れば一目瞭然なんですけど、デジタルだとどんなに激しくコスっても波形が一定なんですよ。ちゃんとやるんだったら本当は皿(ヴァイナル)に焼いてやらないといけないくらい、アナログは深いですね。

いまアナログはどのくらい買っていらっしゃいますか?

DJ Fumiya:月に何万円とかですね。ビートポートでもいいんだけど、皿で持っていたいなっていうのがありますね。でもビートポートでしか売らない人たちもいますよね。

フミヤさんのいまのDJスタイルは完全にPCですか?

DJ Fumiya:僕はヴァイナルを買って、PCに取り込んでプレイします。4~5年くらい前からそうなりましたね。CDJはすごく下手で、それまではずっとアナログでした。アナログの感触でも回せるということでPCに移行しました。

デジタルのよさも活かしたいっていう思いもあったんですね。

DJ Fumiya:やっぱもう、(ヴァイナルは)重いっていう......。

(一同笑)

野田:最初にDJがデジタル化したのってヒップホップなんですよね。

DJ Fumiya:けっこう前にジャジー・ジェフ(Jazzy Jeff)が来日した時に、誰かが「PCでやってたよ」と言っていて、すげえなと。ジャジー・ジェフがPCでやっていたっていうのは自分にとって大きいきっかけでした。

野田:でも、また最近アメリカのヒップホップのDJもヴァイナルに戻ってきているみたいですよ。

DJ Fumiya:やっぱり、PCでの自分のDJから次のヴァイナルのDJに交代すると、ヴァイナルの音のほうが明らかに良くて、考えちゃいますね。

野田:ハウスのシーンでいえば、ニューヨークではギャラが違うっていう話も聞いたことありますよ。どこまで本当かわからないですけど、ヴァイナル使った方がギャラが高いとか(笑)。

DJ Fumiya:えー、そうなんですか......! じゃあ僕アナログにします(笑)。でも日本のクラブとターンテーブルがないところもありますからね。あってもメンテナンスされてないボロボロのものとか。「あー、もうダメかな」とけっこう諦めモードになる瞬間があります。もうCDにいくか、完全にアナログに戻るしかないかな、と。

フミヤさんから見て、いまの日本のクラブ界隈と言うか業界ってどういう風に見えますか? 機材のこともありつつ、昔と比べてでもいいですし。

DJ Fumiya:どーですかねえ.........。あの、その、いいかわるいかは別ですけど、みんなすぐDJになれていいなって思いますね。

(一同笑)

羨ましさもあるという。

DJ Fumiya:ピってCDをかけてBPMも合っちゃうのが、いいなあって思います。

クラブの話だと、いま風営法で営業形態に関して色んな議論がでていますが、フミヤさんとしてはどう思いますか?

DJ Fumiya:やっぱり、夜中から朝までというパーティを経験してきていますし、そういうところに入っちゃいけない中学生の頃から通っていたので、ちょっと悲しいなとは思いますね。逆に早い時間から終電までのイヴェントにして、それこそ高校生とかを呼べるようなパーティにしていくっていうのもありなんじゃないかと思いますね。そこでクラブって楽しいだろっていうふうに教えていくということができますし。もし日本が「(深夜営業を)絶対やらせないよ」ということになったら、そういうふうにしていくのもありだと。

風営法について、それこそリップスライム内で話題にあがることはありますか?

DJ Fumiya:「あー、また何処そこの箱がやられちゃったね」っていう感じですね。東京はまだそうでもないですが、ツアーで全国をまわっていると、僕が最後で夜1時までとかってあるので。みんな、いきなりバサッと終わられて可哀相だなと思います。

野田:あと、公共の交通手段が深夜に動いていないこともどうにかしてほしいと思うんですね。現代の都市として、ナイト・ライフというものに対する寛容さや公共の施設がなさすぎるっていうか。

DJ Fumiya:そうですね。お正月だけですもんね。

野田:ロンドンなんかだとなぜか3時までのパーティってあるじゃないですか。

僕が行ったイヴェントもそうでした。

野田:あれいいと思うんですけどね。別にがんばって朝5時までやる必要ないっていうか。

DJ Fumiya:けっこうみんな3時とか4時で帰りますからね。

みんなどこかで休んでから始発で帰りますよね。

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ディプロなんかはアメリカなので、雑なんですよね。スウィッチがそれを綺麗にまとめる構図がメイジャー・レイザーはいいですね。僕の今作のリミックスでもディプロはザックリしてますね。


Beats For Daddy

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野田:レコードは中古屋さんに売らないですか?

DJ Fumiya:ヴァイナルは売ったことないですね。全然かけない曲とかでも思い入れがあるというか。CDはちょいちょい友だちにあげたりします。

ヴァイナルの話でいうと、リップスライムは主に『Masterpiece』あたりのちょっと昔のリリースがヴァイナルでも出ていますよね。最近だとフミヤさん選曲のベスト盤ですね。最近の若い世代でも、ヴァイナルとかカセットを聴くというアナログの風習が、アメリカとかイギリスのインディーの精神といいますか、日本にも流れてきてはいるんですよ。

DJ Fumiya:ふーむ。ふむふむふむ。

子供のときからデジタルだった世代にしてみれば、リヴァイヴァルというよりは、アナログの音が新しいものとして受け止められているんです。そういう世代に対して、ヴァイナルのべテランとしてなにかコメントはありますか?

DJ Fumiya:やっぱり、あの音を知ってるか知らないかっていうのはけっこう変わってくるんじゃないかと。とにかく自分が聴いてきたなかで一番いい音なので。箱とかで聴いてもいい音だし。たとえば、レコーディングのとき音の設定で僕は44kHzにするんですが、96kHzとかでやる人もいるんですよね。本当にノイズも聞こえるくらい、違った意味でめちゃくちゃいい音っていうか。僕の趣味はわざと44kHzでやっています。結局CDを取り込んだときに44kHzになっちゃうんですが、でも、アナログを取り込むときはなるたけそのままの音を取り込みたいという気持ちはあります。

アナログのリリースはリップでも一昔前ですし、今作『ビーツ・フォー・ダディ』もアナログではリリースされないですよね。せっかく若い世代がアナログを買いはじめているので、ぜひこれからもアナログを作って欲しいのですが、そういう願望はありますか?

DJ Fumiya:ありますあります! こないだもリップのヴァイナル・リリースのときに、レコードの溝を見るマスタリングの技をイギリスまで観に行きました。本当、手に職っていう感じでしたね。

野田:あれはもう職人芸ですよね。海外だと、プロデューサーの次にクレジットが書かれてるくらいマスタリングは地位が高いというか、認められていますよね。

DJ Fumiya:ヴァイナルは盤にマスタリング・エンジニアの名前が彫られているので、見たりします。

リップスライムのマスタリングはロンドンのスチュアート・ホークス(Stuart Hawkes)という人がずっとやっていらっしゃいますよね。どういう経緯でそうなったんですか?

DJ Fumiya:テイ(・トワ)さんが同じエンジニアさんで、おすすめされたんです。その人はドラム'ン'ベースもやっていて、僕もロニ・サイズ(Roni Size)とか〈フルサイクル〉系のドラム'ン'ベースをずっと聴いていたので、いい音だな、と。その人は4ヒーローもやってましたし。でも、去年くらいにロンドンへ行ってはじめて会ったんです。

あ、そうなんですか(笑)?

DJ Fumiya:飛行機が恐くて。

(一同笑)

どんな人でしたか?

DJ Fumiya:(リップの)イルマリに似てましたね。イルマリに似てるなっていう...。

.........(笑)。

DJ Fumiya:あと、飯が激マズいっていう。「いい加減お前ら聴きにこい」と言われたので、リップのメンバーでその人に会いにいったんです。ロンドンには何回か行っているんですが、マスタリングに立ち会ったのはそのときが初めてでした。イギリスのクラブは音もいいし。でも、日本になんとなく似てるなと思いますね。音楽の好みとか、曲の作り方も緻密な人が多いイメージがありますね。

なるほど。

DJ Fumiya:だから、ディプロなんかはアメリカなので、雑なんですよね。スウィッチがそれを綺麗にまとめる構図がメイジャー・レイザーはいいですね。僕の今作のリミックス("Here We Go feat. Dynamite MC(Diplo Remix)")でもディプロはザックリしてますね。

ロンドンでDJはやらなかったんですか?

DJ Fumiya:ミレニアム・パーティというか、年末にもの凄く広いところでドラムンベースやらテクノやらをかけるパーティに行きました。DJはやらなかったんですけど、レコードは買いました。

ロンドンでやりたいと思いますか?

DJ Fumiya:やりたいと思いますね。もうすこし飛行機が速かったら......。

(一同笑)

DJ Fumiya:一睡もしなかったこともありました。映画を観たり、飯をいっぱい食べたり。でも最初に海外の飛行機に乗ったとき、英語が分からなくて全部「Yes」と答えてたらご飯がでてこなくて。

(一同爆笑)

アメリカではなくロンドンというのも......。

DJ Fumiya:イギリスの音楽が好きだからですね。それこそドラム'ン'ベースですね。

野田:ミックスCD『DJ FUMIYA IN THE MIX』なんかだと、ヒップホップって感じではなかったですよね。

ダンス・ミュージックで。

DJ Fumiya:そうですね。あれはもう本当に四つ打ちでいくっていうのがコンセプトだったんです。

野田:それはDJをやっていくうちに選曲の幅が広がっていったということなんですか?

DJ Fumiya:時期によってはドラム'ン'ベースばっかり回してることもあったし、いまは、四つ打ちカッコいいなあと思ってハウスとかを掘り下げています。打ち込みの音楽だと四つ打ちが一番難しいとずっと思っていて、奥が深いなあっていつも思いますね。

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いまは、四つ打ちカッコいいなあと思ってハウスとかを掘り下げています。打ち込みの音楽だと四つ打ちが一番難しいとずっと思っていて、奥が深いなあっていつも思いますね。


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最近聴いた音楽でとくに素晴らしかったものととくにくだらなかったものをそれぞれ教えてください。

DJ Fumiya:えー! なんでしょう.........。

言いづらかったら、無回答で大丈夫ですので。

DJ Fumiya:今作の"LOVE地獄"っていう曲はすごくくだらないなーと思いますけどね。

ご自身の曲ですか(笑)。

DJ Fumiya:あはははははは(笑)! いや嘘です、嘘です(笑)。

くだらない音楽というか、嫌悪感がわく音楽ってありますか?

DJ Fumiya:嫌悪感のわく音楽ですか...(笑)。大丈夫かな......。なんですかね...。でも本当に家でテレビの音楽番組とか観ないので.........最近よかった音楽の話をしましょうか!

(一同笑)

DJ Fumiya:最近よかった音楽は.........。

(沈黙。8秒)

DJ Fumiya:サブトラクト(SBTRKT)とかすっごく好きですね。

野田&斎藤:おー!

DJ Fumiya:打ち込みなんだけどいい音していて、耳にガッて来ない。あと黒人のシンガーの声もよくて。制作作業に入る前によく聴いていましたね。

野田:そろそろ最後の質問にしましょうか。

最後にカッコいい質問をしたいんですけど......。あ、ではふたつお願いします。ペットが家にたくさんいらっしゃるそうですがそれはなぜなのか、というのと、リップスライムのウェブサイトを見たら「将来の夢:バカみたいな幸せ」と書いてあったのですが、現在のその達成率を教えてください。

DJ Fumiya:僕は単純に動物が、とくに水辺の生き物とかが、すごく大好きなんですよ。池とか小川とか田んぼとか海とか。なのでメダカとか亀とか。犬とか猫も飼っているんですけど。小学生のころは毎日のようにザリガニとかカエルとかを捕っていましたね。

それは地元柄(※神奈川県藤沢市辻堂)ですか?

DJ Fumiya:そうですね(笑)。田舎だったからっていうのもあります。でも、つい最近も用水路に手を突っ込んでザリガニを捕りましたね。嫁さんはビックリしてたんですけど(笑)。

(一同爆笑)

DJ Fumiya:気持ち悪いって言って、走って逃げてっちゃいました。僕は自然児だったので、毎日のように虫とか捕っていましたね。

野田:まさかタガメとかゲンゴロウとかは飼ってないですよね?

DJ Fumiya:さすがに......子供が生まれてからペットに手間をかけれなくなりましたね。

でも、時間があったら......。

DJ Fumiya:もう自分の家に池つくりたいですね。

ははは(笑)。クラブの文化とは真逆の......。

DJ Fumiya:真逆だから、それがなんかこう.........池とか見て何時間でもボーっとしていられるというか。

なるほど。では、最後の「バカみたいに幸せ」についてお願いします。

DJ Fumiya:「バカみたいに幸せ」.........いま「幸せ」ですけど、まだ「バカみたいに」はなってないですね...。

まだ未経験なのですね。

DJ Fumiya:「バカみたいに幸せ」って生きてるうちに経験できるのかがわからないですけど。もしかしたいまのこの状態で「バカみたいに幸せ」だったのかもしれないですけど......。

ああ、あとで気づくかもしれないと。なるほど。

(沈黙。5秒)

DJ Fumiya:なんかちょっとさみしい感じになりましたけど。

(一同笑)

いえいえ、それはそれで、また味わいが。今日はありがとうございました!

DJ Fumiya:ありがとうございました。楽しかったです。これで大丈夫ですかね?

滅相もないです。長い時間ありがとうございました!

----------------

 帰り際、エレヴェーターを待つ間、なにとなく「『自分もラップをしたい』と思ったことはありますか?」とDJフミヤに問うた。その答えは、同時に話しかけてきた野田編集長の声によって僕の記憶から消えてしまった。DOMMUNEでもういちど訊こうか.........。


Chart - DISC SHOP ZERO 2012.11 - ele-king

この1年くらいで、所謂"ポスト・ダブステップ"を超越し「新入荷した時点ではどうにも説明できない」
サウンドが増えてきています。今回はそんなレコードの代表格を10枚紹介します。コメントにキーワードをちりばめたので、それらも要チェックで。

FIS - Duckdive EP (Samurai Horo)
ドラムンベースのレーベルとして知られるSamurai Musicのサブ・レーベルから、ニュージーランドのプロデューサー。何処に向かおうとしているのかさえわからないエクスペリメンタルな3曲と、トライバルなミニマル・ドラムンベースの4。このレーベルは全て要チェック。

ENA - Purported / Whereabouts (7even Recordings)
海外の精鋭たちとリンクしながら、リリース毎に「何処へ向かっているんだ?」度を上げている日本人Enaの最新作。今回も間違いありません!

AIRHEAD - Pyramid Lake (R&S)
James Blakeグループのギタリストとしても知られるプロデューサーの最新シングル。"ポスト"なダブステップよりも更に先、「ここからどこへ向かうんだ??」と思わずにいられない作品が数多く出始めてきた昨今のなかでも、本作はポップなセンスとその破壊力で群を抜いていると思います。

PANGAEA - Hex / Fatalist (Hemlock)
Ramadanman、Ben UFOと共にHessle Audioを運営するPangaeaによる、UntoldのHemlockからのシングル。両レーベルのキレキレの部分が露出したような(してしまった?!)「ヤバいよね~」としか言えない2曲。先日リリースのアルバムも素晴らしいです。

EGOLESS - Before/After EP (LoDubs)
クロアチアのプロデューサー2作目。前作に続くヴィンテージなキラー・ダブ1、ジャジーなブロークンビーツ2、そしてコロンブスの卵的なダブ・ガラージ3と、やっぱりヤバい!!!!

A MADE UP SOUND - Take The Plunge (A Made Up Sound)
2562別名義。1は、昨年末のHessle Audio日本ツアーでPangaeaがプレイし、そのクレイジーなビートにフロアも盛り上がった曲。ヒプノな感触もありつつ、ビートの根っこにはザックリした感じがしっかりあるのが◎。

STICKMAN - The Verge (Mindset)
マンチェスターのIndigoが運営するMindsetからの新鋭。ここ数年、ポスト~な流れからベース・ミュージックを追ってきた方々には、今まで「ヤバい!」と盛り上がってきた要素の多くがサラリとここで溶け合わされているという風に感じるんじゃないかと思います。レーベル他作はもちろん、Indigoも要注目。

VERSA - Shadow Movement (On The Edge)
そのIndigoやSynkroもリリースするマンチェスターのOn The Edgeから。ガラージを抜きに抜いたようなミニマルなテック・サウンドに、ザラザラとした上モノがBurialというよりはRhythm & Sound的に響く1ほかダブ好きテック派に大推薦の3曲。

CHAMPION - Crystal Meth / Speed (Butterz)
Blackdownが"Eskifunk"と名付ける、グライムとUKファンキーの突然変異体。全ての音がリズムとなって飛び回ります。

MORPHY & THE UNTOUCHABLES / FLATLINERS - Tread This Land / Raw Fi Dub (45Seven)
dBridgeのExitと、Boddika(Instra:mental)によるNonplusを中心としたAutonomicなど、ハーフステップのドラムンベースがここ数年面白いことになっていますが、その中でジャマイカ流のダブワイズに焦点を当てた新レーベルがこの45seven。ここから新しい流れが生まれるはず。

How To Dress Well - ele-king

こういう音楽が存在する 文:北中正和

E王 How To Dress Well
Total Loss

Weird World/ホステス

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 人間、元気なときは、出かけて他の人と接触するのが苦にならない。たとえひとりで過ごすとしても、前向きな気分でいられる。しかしときには、そうでないことだってある。そんなときは、出かけて人に会う気も起こらないし、何かを思い浮かべようとしても、考えが悪いほうに転がりやすい。
 『トータル・ロス』は、どちらかといえば、後者の気分にフィットしやすいアルバムではないだろうか。浮かない気分や冴えない考えのすきまにしみこんできて、痛みをわかちあい、凝った心を静かにほぐしてくれる音楽。
 ヴォーカルにはR&B的なファルセットの影響が感じられるが、"ラニング・バック"を除けば、一般的なR&Bとちがって、サウンドにビートやリズミカルなグルーヴがそれほど重視されているわけではない。曲はアンビエント的というか、ゆっくりと東の空が白んでいく様子を眺めているような穏やかな起伏をともなって進むように構成されている。サウンドはときには未来的で、ときには室内楽的。歌はメロディ重視で、"オーシャン・フロア・フォー・イヴニング"あたりでは、歌声が古い賛美歌めいて聴こえる部分もある。
 この種の音楽の歌は「こんなにかわいそうな私」「こんなに美しいぼく」の肯定のスパイラルに陥りがちだが、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルの歌には人に向かって語りかけてくるところがある。トム・クレルのヴォーカルにも、感情を強調するのではなく、そっと取り出して置いて眺めているようなニュアンスがある。ぼくはこういう音楽が好きだが、いつも聴いていられるかというと、そうではない。しかしたとえ聴かなくても、こういう音楽が存在することを知っていることによって回避できるストレスがあることはまちがいないと思う。


文:北中正和

»Next 木津 毅

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性の揺らぎのR&B 文:木津 毅

E王 How To Dress Well
Total Loss

Weird World/ホステス

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 昨年の爆音映画祭の目玉、『THIS IS IT』の爆音上映を観に行くべきだったとつくづく後悔している。この世を去ったことによってスクリーンのなかで生き生きと華麗に踊ることを許されたマイケルが、立体的な音を手に入れたときに文字通り飛び出してくる様を目撃できたはずである。通常の上映を観た僕の記憶には、モニターで音を聴くのに慣れないマイケルが「いつも生の音を聴くように言われていたから」と説明するときの悲しい横顔があるばかりだ。マイケルの幽霊はしかしスクリーンのなかで踊り続け、時折そこから飛び出してくる。これからもそうだろう。

 ブリアルがR&Bの亡霊たちを呼び覚ました後、それらは後続のアーティストが生み出す様々な音にも憑依していったが、ノイズやドローンを出自とするハウ・トゥ・ドレス・ウェルのゴーストリーなR&Bはそれらと地続きでありながらも、ポップスへの関心を他のアーティストよりもちらつかせていたために新種の奇形として生み出されていた。彼、トム・クレルの新作『トータル・ロス』はそのポップス趣味をより前に出した作品になっており、得意のアトモスフェリックな音作りになっている"ランニング・バック"などはマイケル・ジャクソンの亡霊が漂っているようだ。
 ......が、たまげたのは続く"&イット・ワズ・U"である。指を鳴らす音がリズムを刻めば、ファルセットでクレルが妙に明るいメロディをシンコペートさせる。ダークウェイヴの霧は晴れている。そこに入ってくる、簡素なストンプ・ビート......下手したら、マライア・キャリーの生霊も取り憑いているのではないか。僕は思わず、必要以上にこのトラックばかりをリピートする......かつてMTVで「ヘビーローテーション」と呼ばれた行為のように。何しろクレルはここでダンスしているのである。それはフロアでのダンスでも、もちろん祭の踊りでもない。ステージの上でのダンスであり、80年代末から90年代半ばのMTVのPVのなかのそれである。
 とはいえ、『トータル・ロス』がクレルによるポップス解釈に終始しているかといえばそんなことはない。とくに前半に顕著なダークなその音には、たしかに彼が通ってきた場所の痕跡が残されているからだ。けれども『ラヴ・リメインズ』で過剰にまぶされていたノイズや音の割れは消えている。本作においてもっともストレートな成果は"コールド・ナイツ"のような、より音がクリアにゴージャスになった、ムーディなトラックに見て取るべきだろう。病的なモチーフも彼らしい??「きみの幽霊を連れて帰って一緒に休めば/君をもっと運命的存在にできる」。あるいは、前作の暗さが穏やかに消えていくことを印象づける"トーキング・トゥ・ユー"のとろけるようなトーチ・ソング以降の流れ、"シー・イット・ライト"の壮大な聖歌そして"オーシャン・フロア・フォー・エヴリシング"のアンビエント・ポップのスウィートな響きは、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルのことをもはやウィッチ・ハウスなどといったタームでは説明できない領域にいることを鮮やかに証明している。『ラヴ・リメインズ』はホリー・アザー『ウィズ・U』の横に並べられただろう。が、本作と『ヘルド』の間にはかつてよりも微妙な距離が生じている。そんななか、"&イット・ワズ・ユー"は本作では......クレルのトラックでは、異色だと見なすのが妥当なのだろう。

 だが、アルバムを貫いているのはまさにハウ・トゥ・ドレス・ウェル、「華麗な着飾り方」という感覚であるように思う。去勢されたようなファルセット・ヴォイスと、セクシャリティの所在が曖昧なラヴ・ソング。"&イット・ワズ・ユー"で歌う相手は、フランク・オーシャンのそれと同じく「ボーイ」である。"トーキング・トゥ・ユー"で血管が切れそうな高音で歌うとき、人称は女性のものを借りている(「あなたは私を誰よりも愛してくれたわ、ぼうや」)。ただ、オーシャンのラヴ・ソングが切実な告白であったのに対し、クレルのそれはどこか衣装を借りてきているようなのである。ここにあるのは、クイアな感性である。クレルはジャネット・ジャクソンのバラッド"アゲイン"のカヴァーも披露しているが、それはアントニー・ハガティがビヨンセの"クレイジー・イン・ラヴ"をカヴァーするのと......は少し違うかもしれないが、ジェームズ・ブレイクがジョニ・ミッチェルを歌うのや、オーウェン・パレットがライヴで好んで(それこそ)マライア・キャリーの"ファンタジー"を演奏するのと、もしくはパフューム・ジーニアスが新しいヴィデオでアメフトのユニフォームとハイヒールを同時に身に着けているのと、そう遠くない振る舞いではないかと感じるられるのだ。そこにあるのは、男性性が消えていくことへの抗いがたい快感だ。
 ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはここで、喉仏を失った男として恐ろしく感傷的なバラッドを歌い上げ、セクシャリティの非常にマージナルな地点へと肉薄している。なんて奇妙にねじれた、そして魅惑的なラヴ・ソング集なんだろう。自由と呼ばれるものの定義はさまざまだろうが、いち部の感性の鋭い男性アーティストは、自らに内在する性の揺らぎにそのヒントがあるのではないかと探っているように見える......これまでよりも、それは自然なやり方でなされている。そしてその鍵はいま、間違いなくR&Bにある。


僕らがエレグラに行く理由 - ele-king

竹内:エレクトラグライド2012〉、いよいよ開催がせまって参りました。とりあえず、木津さんのお目当ては?

木津:今年で言うと、アンドリュー・ウェザオールとコード9の親父ズかな。

竹内:それは見た目的な話ですか?(笑)

木津:それも込みで(笑)。ウェザオールはヒゲ生やして圧倒的にセクシーになったから......。トゥナイトも超楽しみ。竹内くんは?

竹内:僕はフライング・ロータスです。あとは電気(グルーヴ)。

木津:おお! すごくいいエレグラ参加者だ! ちょっと先にそっちの話からしよう。そもそも、竹内くんはエレグラ初めて?

竹内:初めてです。というか、この規模の会場でダンス音楽を聴くこと自体、初めてです(笑)。

木津:そうか、じゃあ2009年の〈ワープ〉20周年のイベントのときも行ってないってことやんね?

竹内:あのときはさすがに盛り上がりを感じていて、記念コンピレーションを買って家で聴いていました(笑)。LCDの"ダフト・パンク・イズ・プレイング・アット・マイ・ハウス"を地で行っている人間なわけです。

木津:へええ! じゃあ、今年参加するのはどうして?

竹内:カジュアルに言うと、今年からライヴをわりと見るようになって、「ライヴっていいもんだなあ」と素直に思えるようになったから、くらいのものなんですけど(笑)。クラブ音楽って、「この曲がどうしても聴きたい」っていうような目的性からは離れているわけですよね。つながった時間のまとまりを享受するという。それがこの規模になったときにどうなるのか、単純に興味があります。

木津:なるほど。じゃあ僕の話をすると、エレグラには何回も行っておりまして、フジロックのときに発表があったんだけど、すんなり「お! 行こう」という感じで。いま関西に住んでいて、ある程度ダンス・ミュージック好きだったら、オールナイト自体が貴重なので。

竹内:そうなると、多少、政治性を帯びる可能性もある?

木津:うん、今年はやっぱり少しはね。でも、みんな基本的には楽しみたいだけですよ。今年も大阪でも開催するし、みんなすごく楽しみにしていると思う。

竹内:なるほど。僕のことを言うと、「地方の因縁から離れて、誰も自分を知らない空間に逃避したい」というのがあります。暗い(笑)。

木津:いやあ、好き勝手に楽しめばいいんですよ!(笑) 以前も書いたけど、僕のオールナイト体験で、いちばん強烈だったのがオウテカのライヴで。

竹内:あらためて教えてください。

木津:フロントがLFOで最高に盛り上がった後、電気が全部消えて、真っ暗闇のなかであのビートの応酬っていう。

竹内:おお(笑)。

木津:あれは凄まじかった。で、2005年のエレグラでオウテカがやったときは、大きい会場だからそこまで真っ暗にはできないんだけど、彼らのことを全然知らなかったひともけっこう衝撃を受けたと思う。

竹内:なるほど。

木津:この規模のイベントの醍醐味はそういうところなんじゃないかな。

竹内:未知との遭遇ということですか?

木津:うん。〈ソナー〉のときに、スクエアプッシャーが観てみたいという、クラブに行ったことのない2こ下の男子を連れて行ったんだけど、アフリカ・ハイテックをすごく好きになってた。

竹内:いい話ですねー。

木津:電気だけを目当てで来たひとが、コード9にやられる可能性だってあるだろうしね。

竹内:ところで、ゼロ年代の後半にエレグラは沈黙を強いられたわけですよね。内部的な事情はともかく、この期間になにか文化事情的な意味はあると思いますか?

木津:うーん。まあ理由はいろいろあるんだろうけど、ダンス・アクトに大物が目立たなくなったということはあるのかなあ。だって、いつまでもアンダーワールドに頼るのもねえ。

竹内:その話は重要な気がします。当時の現実的でシニカルな若者は、本当はダンス・ミュージックを聴きたくても、たぶん「こんな単純な4/4に乗れるか!」とか思っていたんじゃないでしょうか。まあ、僕の話ですけど(笑)。

木津:ほお。

竹内:そこでいうと、やはりダブステップは大きいのかも。

木津:ダンス・ミュージックの本質がアンダーグラウンドに潜ったってこと?

竹内:快楽が形骸化した一面はあるのでは、みたいな感じです。

木津:なるほど。

竹内:その反発はジューク/フットワークにまでもつれ込むのだと思っていて。ダンス・ミュージックが新しいステップを踏むには、ある種のアングラにならざるを得なかったのかなあ、みたいな。

木津:まあ、〈ワープ〉の第一世代が完全にクラシックになったタイミングでもあるよね。だから、今年はフライング・ロータスがいちばんの顔になっているのはいいことじゃない?

竹内:ですね。そこでいうと、今回フライング・ロータス(〈ワープ〉の新たな顔役)とコード9(〈ハイパーダブ〉代表)が来るのは大きい。ハドソン・モホークとルナイスが組んだトゥナイトもですね。

木津:フォー・テットも最近、かなりフロア・ミュージックになってるしねえ。

竹内:出所はエレクトロニカですもんね。それでいうと、ロータスはヒップホップですよ。やはり、どこかのタイミングでダンスへの再接近があったと。フォー・テットもブリアルとやっていますね。あれは凄まじかった。

木津:うん。わりと最近ライヴ観たときはかなりダンサブルだったよ。とまあ、今年は本当に「ダンス」のあり方が多様でいいと思う。

竹内:ですよね。これまでの話とまったく逆をたどれば、クラブのオリジナル世代からしたらダンスと呼びたくないようなものまで、もしかしたら入っているかもしれない。

木津:そっか。でも、DJクラッシュやDJケンタロウのようなベテランもいるし。

竹内:ですね。年長組で言うと、木津さんはアンドリュー・ウェザオール? ファック・ボタンズのセカンドで名前を聴きましたね。

木津:うん、ソロではロカビリーをやったりするんだけど、DJのときはしっかりハウスのときがけっこう多いかな。あとオールドスクールのエレクトロ。でも、新しい音もけっこうかけるのかなあ。

竹内:どうでしょうかね。僕はやっぱり、電気が観てみたい。ライヴの間くらい、馬鹿になるのが目標なので(笑)。

木津:はっはっは。このラインアップに電気がいるのは、けっこう面白いよね。ある意味、いちばん浮いてる。

竹内:ですよね。それだけ、信頼が厚いと?

木津:そうなのかな。いちばん、変な感じになりそうやけど(笑)。

竹内:楽しみです(笑)。あと、視覚を活かしたアーティストが何組かいますね。

木津:それで言うと、まずはアモン・トビンでしょう! 前作の『アイサム』のときのフィールド・レコーディングのコンセプトを、ライヴで具現化したものになる......らしい。この前のDVD作品もすごく評判だけど、ライヴだとパワー・アップするでしょう。これが観たいので、僕は大阪から幕張に行きます(笑)。映像ものはクリス・カニンガムのときもすごく盛り上がったけど、大きいイベントならではやね。スクエアプッシャーは〈ソナー〉のときにLEDヴィジョンを使ってたんだけど、今回はそれに加えてベースもプレイするとか。

竹内:ほお。それはフィジカルな。

木津:スクエアプッシャー最近、妙に元気やんね。ライヴに燃えてる。

竹内:オービタルは?

木津:僕は、2004年でいったん活動やめるっていうからその年の〈WIRE〉に観に行ったよ! 往復青春18きっぷで(笑)。

竹内:愛だ!(笑)

木津:だから、最近ふつうに再活動しててちょっと納得がいかない(笑)。でも、あの大らかなテクノは大バコに映えるでしょうな。

竹内:他のイベントとの差別化って、どんなところにあるんでしょう?

木津:エレグラは〈ワープ〉周辺がとくに好きなひとに訴えるような作りになっている気がするなー。いち時期、LCDとか!!!とかも出てたんだけど、そういう意味ではインディ・ロック好きにもちょっと寄ってるし。普段クラブ・ミュージックは聴かないけどフライング・ロータスは聴くってひともけっこういるんじゃない?

竹内:ですね。どんなプレイ・セットになるのかなあ。

木津:前回観たときは生ベースがあったりで、かなりグルーヴィーだった。

竹内:アルバムからいくと、また今回は違った雰囲気かもしれないですね。

木津:もうちょっとチルな感じなのかなあ。でも、そのときはドラゴンボールのコスプレで「カメハメハー!」って言ってたよ(笑)。

竹内:うわああ(笑)。

木津:いやいや、でも今回の顔なのは間違いないでしょう!

竹内:でしょう!

木津:でも、2ステージに分かれてこれだけアクトが揃ってると、ほんとにそれぞれ好きに楽しめそうやね。

竹内:ですね。「しばらくクラブから遠ざかってたけど、さすがに今回のエレグラは行くかなあ」なんて声も聞きました。

木津:おお、いいことですなあ。それは特定のアクト目当てで?

竹内:というより、ダンス・ミュージックに再燃の兆しを認めている感じかもしれません。

木津:お! でもたしかにそういう説得力のあるラインアップですよ。

竹内:どんと来いと(笑)! 「僕がエレグラに行った理由」を、みんなでぜひ語り合いましょう!

木津:そうやね。じゃあ、最後にお互いイチオシを挙げときましょうか。僕はウェザオールとコード9......としつこく言いたいところだけど、アモン・トビンとTNGHTで。

竹内:僕はいろいろあるけど、フォー・テットで。ゼロ年代インディ以降の代表格が見つけたダンス・ミュージックを生で聴いてみたい。彼のキャリアの軌跡って、いまの若いリスナーが通った道ともかなり近い気がするんですよね。

木津:うん、フォー・テットのいまのモードは、シーンのモードだと思うよ。それはともかく、飲まされすぎないようにしないと、僕はトイレが近いので......。〈ソナー〉のときも、ひたすら飲まされ続けたからなあー。

竹内:ははは、今回は各自楽しみましょう(笑)。

木津:そうやね(笑)。

竹内:願わくは、レポのことなんて気にしないで......。馬鹿になりましょう!(笑)


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CARNATION
SWEET ROMANCE

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 わたしは先日(といっても、取材のときの先日だから、いまからだと1~2ヶ月前になるのが、読者、関係諸氏にもうしわけありません)、今年リリースされたカーネーションの『天国と地獄』の「20周年記念コレクターズ・エディション」を聴き直して、彼らは、先鋭的であること、ロックであることが、当然のごとくポップでもあるということをやってのけた、音楽において稀有な、音楽ファンにとってはありがたいバンドだとあらためて思った。一回だけならそう珍しいことではない。ポピュラー・ミュージックの歴史はそれほど短いわけではない。そういったミュージシャンはいくらでもいる。ところがカーネーションは一回こっきりではない。
 "夜の煙突"のころからの彼らの足穂的な情景を喚起する力をコンテンポラリー・ブラックミュージックのグルーヴに乗せた表題曲で幕を開ける『Edo River』(1994年)、5人体制の強みをみせた『Booby』(97年)、リフレインが耳にこびりついてなかなか離れなかった『Parakeet & Ghost』(99年)の"Rock City"とか"たのんだぜベイビー"とか、あるいは音楽の思索を立体化した2000年の『Love Sculpture』など、彼の実験と実践は10枚あまりの音盤に刻まれてきた。もちろん、順風満帆だったわけではなく、作品には音楽中毒者の悩ましさもある。どうしたら、時代ととっくみあいながら聴く楽しみをつづけていけるのか、聴く側にそれをもたらし、音楽に返せるのか、と。それを追求する過程で、カーネーションは5人組からトリオになり、2009年1月の矢部浩志の脱退をもって、直枝政広と大田譲のふたり組になった。
 『SWEET ROMANCE』はその体制でつくった、『Velvet Velvet』以来となる、3年ぶり15枚目のアルバムである。彼らはふたりになったが、このアルバムには、大谷能生、岸野雄一、山本精一をはじめ、ゲストは多彩であり、張替智広の助演をボトムにしたバンド・サウンドは引き締まっている。
 つまり彼らはいまもなお、走りつづけている。先週は甲府にいた。来週は北陸だ。高地の秋は深く、日本海側はすでにもう肌寒い。そろそろ音楽の密度が空気を暖める季節である。
 みなさん、カーネーションをお聴きください。

レコードをつくるのはずっとやめたくないし、そういうことがなくなってほしくないっていうのはあるから。今回も、架空のA面、B面みたいな、そういうつくりにはこだわっているしね。そういうのがやっぱり楽しいよね。音楽について考えるにしてもね。そういうフックを効かせていかないとやっている意味がないと思うよね。

大田さんは『天国と地獄』から加入されたんですよね?

大田譲:そうですね。

『天国と地獄』を聴くと、カーネーションは渋谷系の前に渋谷系の完成形を提示していたということがわかります。しかも、いま聴いても古びていない。あの頃といまと、心境の変化というと、いきなりボンヤリした質問になっちゃいますが、そういうものはありますか? とくに大田さんは、カーネーション在籍20周年記念でもあるわけですし。

大田:あれがいちばん憶えているかな、カーネーションに入って最初のアルバムだし。

直枝政広:練習しまくっていたよね。

大田:そう。

直枝:何か見えない敵とずっと戦っていたね。競いあっていたっていうか。

大田:レコーディング前に合宿したからね。

直枝:2回ぐらい合宿したかな。

大田:2回に分けてトータルで2週間くらいやったんだよね、たぶん。レコーディング自体も合宿だった。伊豆のほうに行ってやったんだよね。だから、(メンバーで)ずっといっしょにいたんだよな?

直枝:うん、煮詰まってたね。

大田:まあ若かったからね(笑)。

直枝:僕らは、作品性という部分でも、つねに評価っていうのかな、正しい評価ってされてこなかったので「ちくしょー! ちくしょー!」って、なんとかおもしろいものつくろうってがんばっていたんですよ。

当時は正しく評価されていないと思っていたんですか?

直枝:まったく評価がなかった。湯浅(学)さんがはじめて『ミュージック・マガジン』で書いてくれて、当時はそれがいちばん好意的だったのかもしれないな。「青臭い」って書かれたんだけど、でも最終的にはいいっていうか、わかるよっていってくれたんですよ。あとは理解されていなかったので。『天国と地獄』だって、評価されるまで20年かかって、ジワジワと、なんとなくおもしろいアルバムあるよって浸透していったっていう感じですね。

理解しない音楽メディアに目にもの見せてやる、という気持ちはありましたか?

直枝:そう思っていた! いままったくそんなこと考えてないというか、逆に、もっとこう、抜けているかな。戦ってないね、そこは。

戦ってない?

直枝:批評みたいなところとは戦っていないということだね。たとえば、点数何点とか。「そんなところじゃないんじゃないか? 」っていうところはあるかもしれない。

逆に、いま自分たちにとっていちばん大切なものっていうのはなんだと思いますか?

直枝:やっぱりやり続ける以上は、純度とか気持ちの問題なんじゃないかな。

透徹したというか、バンドというものを客観的に眺めた上で、何をなすべきか、わかってやっているというのが今回の作品には感じられますね。

直枝:ありますか?

そう思いました。自己愛的なものでもなくて、かといって、皮肉めいているわけでもなくて、適度な距離感で自分たちと外を見ている感じがあると思いました。レコード文化がたとえば終焉を迎えるかもしれない時期にあって、まだそういうことがアルバム作品としてできるっていうのがちょっとした希望のような感じに思いましたね。すばらしいと思いました。

直枝:レコードをつくるのはずっとやめたくないし、そういうことがなくなってほしくないっていうのはあるから。今回も、架空のA面、B面みたいな、そういうつくりにはこだわっているしね。そういうのがやっぱり楽しいよね。音楽について考えるにしてもね。そういうフックを効かせていかないとやっている意味がないと思うよね。

『UTOPIA』を去年だして、間髪置かず『SWEET ROMANCE』の制作に入ったんですか?

直枝:いや、しばらくは迷っていましたね。去年の震災以降、スケジュールが立てにくくなっちゃって、動きにくくなっちゃったところがあったので、アルバムの制作の予定は一回ストップしたんですよ。それで、『UTOPIA』っていうミニ・アルバムにして、一回ちょっと考えてみようっていう。それでようやく、今年の3月くらいに曲出しがあらためてはじまって、5月からレコーディングで。『UTOPIA』は先行ミニ・アルバムだったんですが、そのわりに間が空いたっていう感じですね。

そのストップしたのは心情的な事情ですか?

直枝:そうですね。去年は心情的なものはとても大きかったので。どうなんのっていう。

でもそれもどこか新作には反映されてますよね?

直枝:もちろん、(前作『Velvet Velvet』からの)ここ3年くらいの流れで、葛藤みたいな心理的な揺れみたいなものは絶対あると思う。でも、それがよくなったとかそういうことじゃなくて、全部同じで、何も変わってないっていうことは、俺はもう理解してるっていうか、そのなかで大きく見ていくっていう感じになっていると思うんですよね。

まさにそうですね。現状は簡単に変えられないにしても、そのなかで自分をもってやっていかざるをえないっていうことですよね?

直枝:ある覚悟とかいうところもあるのかもしれない。開き直りというか。

ハラがすわった感じですか?

直枝:うん、泣くとこは泣くよっていう。正直に。

酸いも甘いも辛いも苦いも噛みしめているところが『SWEET ROMANCE』には出ていますよね。

直枝:そういう意味では、つい昨日じゃなくて、もうちょっと離れたところからつづけて流れを見ていかないと、形にならない。もしかして、3年っていい空白だったかもしれないです。じゃないときつい作品になったかもしれない。20年前の曲を今回、入れてみたり、10年前にまだ形になってなかったコード進行がどっかにあったり、大きな流れでやっていかないと動かない、すごく難しいデリケートなパズル・ゲームをやっていた気がしますね。

いま流行をそれほど気にすることはなかった?

直枝:全然ないね。逆に、気持ちいいものっていうところでアナログ・レコーディングっていうものを捉えていったんですよ。「ああ、俺たち、アナログといい感じに出会っているね」というかね。すごく運命的な、奇跡に近い出会いだと思った。そこを大切にしていきましたね。だからいろんな人と出会って、混ざりあって、ひとつの作品にしてくっていうことがとっても楽しかったし、新鮮に響いたんですよ。誰もやっていないものっていうよりは、どこにもないものっていう。なにか決まりきってないものとか、わけのわからないグシャとした何かとか、そのいろんな感覚が混ざりあう、そのスリルみたいなものがよかったですね。

矢部さんが辞められたときに、バンドとして、ドラマーがいなくなるのはどうなんだろうというのを、いちファンとしてはとっさに思いましたが、心配をよそに、その空白さえうまく作用したっていう感じですね。

直枝:そうですね、作用していますね。

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ある覚悟とかいうところもあるのかもしれない。開き直りというか、泣くとこは泣くよっていう。正直に。


CARNATION
SWEET ROMANCE

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おふたりになって、何か変わったことはありますか? 音楽というより、バンド内の関係性の面で。

直枝:ますますなにかこう、言葉でないところで交流してるよね?

大田:まあ、(そのことについては)いままでもあんまり意識をしてきてないからね。なんだろう、細かいところまで話し合ってやんなきゃいけないバンドじゃないんですよ。いままでもそういうところもなかったし、まあ、直枝くんがどう考えているかは、俺はわからないけど。俺は(カーネーションは)話し合いながら民主的にものをつくっていくバンドだとは思ってないからいいんですよ。敷いてもらったレールの上を走っていればいい。それに乗っかっていっしょにやれるのがバンドで、イヤになったら降りるしかないんだから、それはそれでしょうがない。だから、あんまりいろんなこと考えないほうが気が楽だと思いますね。

そうはいっても、スタジオやライヴの現場でそれまでと違ってきたところはありますよね。

大田:うーん、どうなんだろうな......。でも音出しているときには、そんなに意識をしないかな。やっぱりさすがにね、あのドラムがなくなったわけだから、違いはありますよ。だけど、まあ結局はカーネーションの曲をやるんだから、そしたらまあ自分が弾けるベースを弾くしかないし、歌をちゃんと聴かせるしかない。だからバンドですよ、ふたりでも(笑)。まあ最低限の人数じゃないですか? ふたりって。

『SWEET ROMANCE』の制作はスムーズでしたか?

直枝:スムーズだったよね。すっごい順調。

つくっているときの楽しさみたいなものがすごく伝わるアルバムですよね。

直枝:アナログ・レコーディングの、あまり直しが効かない、なんか制約される感じがまたよかったっていうかね。

レコーディングのときはふつうに順録りだったんですか?

直枝:そうそう。データでドンカマとかパーカッションとか、ガイドのリズムになるトラックとかを入れてやっていました。それを聴いて「せーの」で演るんですよ。俺ら、だいたいレコーディング用のリハーサルをしないで、いきなりスタジオなんですよ。そこでセッティングして、音決めして、「じゃあ練習!」そしたら「録音しよう!」って。で、アッという間に仕上げる。

そんなに簡単にいくものなんですか?

大田:なんかそれでいけるようになってきたよね?

直枝:なんかいけるね。

アレンジもアイデアをどんどん試していくということですか?

直枝:基本的にデモ・テープのアイデアみたいなものを聴いといてもらって、それぞれが解釈してもらう形ですね。それでいい感じになればいいかなっていう。

そこにゲストの方々も、そのつど、録る曲ごとにきていただくということですね。

直枝:そうです。ピアニストの方とかにきていただいて。

岸野(雄一)さんもスタジオにいらっしゃったんですか?

直枝:岸野くんは現場にいっかい見にきましたね。それでいっしょにコーラス歌って、帰っていきました(笑)。あと、彼は自分の家で"Bye Bye(Reprise)"という曲をミックスしてくれたんですよ。

"Spike & Me"には大谷(能生)さんをラップとサックスでフィーチャーしていますね。DCPRGとか〈Black Smoker〉から出した『Jazz Abstractions』とか、大谷さんは最近よくラップしていますよね。

直枝:かっこつけるよね(笑)。大谷くんは露骨にかっこつけるんですけど、本当にそういうかっこつける人たちがいいなって思うんだ、俺(笑)。そういうことってなかなかできないからね。そういう人たちは時間をかけて積み上げてきてるから。どう見せるかって考えてきてるでしょ?

見せると同時に、どう見えるかということにも自覚的かもしれないですね。『SWEET ROMANCE』は基本的に全曲を直枝さんが作詞/作曲されていて、ラップをやった大谷さんは作詞でクレジットされていますが "Bye Bye"でミントリ(岡村みどり)さんに編曲を依頼されたのは何か理由があったんですか?

直枝:3年前に岸野くんの誕生日ライヴ(岸野雄一は毎年、1月11日の誕生日に渋谷O-Westでライヴを行っている)にカーネーションが誘われたことがあるのね。そのときに岡村さんと知り合って、宮崎貴士くんと岡村さんと3人で夜ステーキを食べる会みたいな感じで集まって遊んでいたんですよ。そのうち、ファイルとかやりとりしたりして、いつか何かできたらいいですねみたいな話をしていて、それで今回、これは絶対お願いしようと思ったんですよ。岡村さんなら、歌をすごく理解してくれるという自信があったから、内容のことに何もふれずに「お任せします」って渡したんですよ。

曲を、ですか?

直枝:いや歌詞です。歌詞を理解してくれたんです。

それはすばらしいですね。

直枝:俺はあとはなにもいいませんから、その感じでやってくださいって。もう伝わっているはずなんで、ディテールやイメージはあえて伝えませんでした。感じたままやってもらえればいいので、と。

アナログでいえばA面の最後にあたる"Bye Bye"からB面の頭の"Gimme Something, I Need Your Lovin'"への流れが、涙が出ちゃいそうなくらいいいですよね。あと本当、大田さんの歌がすごくよかった。

直枝:すっげー評判いいのよ、大田くん(笑)。

やっぱりそうですよね! 大田さんが歌う"未来図"から"遠くへ"の流れも最高でした。大田さんは"未来図"をご自分で歌うとなったときどう思いました?

大田:まあとにかく歌えと。つくるから歌え、と。「はい」って渡されました(笑)。

XTCのアルバムなんかでも、コリン・ムールディングが1曲歌ったりするじゃないですか。わたしはあれがすごい好きなんですよ。

直枝:最高ですよね。大田くんは、コリンの役割なんですよ。リンゴ・スターじゃないからね。

ハハハハ。

大田:あと、スティーリー・ダンのデイヴィット・パーマ。ファーストで、1曲歌ったりしているじゃない? あのへなちょこさ。なにこの歌みたいなさ。ああいう歌が大好きで(笑)。わざわざ呼んできたヴォーカリストなのにへなちょこじゃん。じつはそういうところ目指したいと思っていたんだよね。

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バンドで、すぐ反応してくれる人たち、俺の考えたフレーズをいっかい噛み砕いてすぐ吸収してもらえて、すぐ表現できる人たちがいるから進むんだと思うんですよ。エンジニアさんも含めて、みんなが反応し合って、みんなで高め合っているから、気持ちいいんだよね。


CARNATION
SWEET ROMANCE

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さっきの見せ方の話にもつながるんですが、弱い部分を滲ませながら、それでもかっこつけてみせるのが、非常に効いていて、これをライヴの後半に聴いたらさぞや感動するだろうって、そんなことまで想像しました。そこから"遠くへ"につながるのが白眉だと思いました。

直枝:ありがとうございます。

これが比較的、全体的に抜けてるというか、自然に出てきた曲たちがあるべきところに並んでいるアルバムっていう。

直枝:そうですね。3年のあいだ、もしくは10年、20年、それくらいの考えみたいなものがずっとつながってきて、ここに結実しているんですけど。

つながっているっていう感じはありますか?

直枝:ずっとつながっているんです。このアルバムはそのくらいの長い時間で成り立っていて、かつ、俺はこうじゃなきゃいけない、ああじゃなきゃいけないっていう思いが、いま、あまりないんですよ。そのままやりゃいい、なんも考えるなっていうところにいるので、曲順なんかも考えてないかもしれない。だからそれは流れっていうか、奇跡なんですよ、ある意味ね。

それはでも、やろうと思ってできることではないと思いますが。

直枝:うーん、たまたまそうなったっていうかね。だから、とてもいい状況だったんじゃないですかね。緊張感もあって、本当に作業進めなきゃいけなくて。あと、いろんなスケジュール調整も自分でやったりして、きつかったんですけど、でもそのかわりスタジオにいる時間が幸せなときだったっていうのかな、こんなに楽しいスタジオはないなっていうくらいだった。このくらい自分が楽しいと思えなきゃウソだっていうのも最近ようやくわかってきた。雑務はやるけど、スタジオではこのくらい楽しんでいいんだなって。過去は追いつめてたっていうかね。責任をへんに背負おうとしたところがあったから。

大田:カーネーションのスタジオはむかしはピリピリしていたから。そういう時間がものすごく長かったじゃん?

直枝:長かったね。

大田:ここ何年の変わりようはすごいですよ、やっぱり(笑)。ライヴとかだと、メンバーがどんどん減ってきて、本当は自分の責任が多くなっていくじゃない? でもスタジオなんか見ていると、意外に逆をいってるというか、責任をそんなに背負っているように見えてこないというか、見ていると前より全然楽にできているのよ。

じゃあ昔はもっとカチッとつくっていたんですね。

直枝:そうそう! むかしは1ミリでも狂っちゃダメみたいな。俺のイメージはこうなんだからダメだよ! って怒って灰皿蹴飛ばしたり、そういう世界ですよ。最悪ですよ(笑)。

それは緊張感ありますね(笑)。 

大田:そんなにいうんだったら、わかった! やり直すよとかいって、ずっとベース弾いていたからね。朝まで直しとかやっていたよ、レコーディングってこういうもんなんだなって思いながらも、しょうがねーなって(笑)。

直枝:ほんとうに『Velvet Velvet』のあたりから、僕らは解放されてきていますね。いろんな人との交流みたいなものがとても自然になってきて、作業が楽しめるようになった。みんなも信頼してきてくれるし、それを理解してくれてやってもらえているのがいちばんいいのかなって。

大田:そうだね。結局言葉でいっぱい説明しないで済む人が自然にきてやってくれてるから。

それはこれだけ活動してきて、これだけのクオリティの作品を出し続けているからだとも思いますよ。たとえば、わたしたちの世代はカーネーションを十代のときに聴いているわけだから、その世代の血肉になっているんだと思います。それは教育とかそういうことじゃないですけど、音楽、あるいは文化はそういうことでまわっていくとも思いますし。

直枝:そういう循環のなかにいるんだろうな。

いると思いますね。

直枝:それはね、少しずつ結びついてきているんだよ。閉じ込められた状況から、どこかカギ外したっていう瞬間があったのかもね。僕らが楽になって、まわりももっと入りやすくなっている。これからもっとそうなってくるかもしれないし。

バンドがあって、アンサンブルをよくして、曲をよくして、自分たちでがっちりやっていかなきゃいけないっていう状況から変わったんでしょうね。

直枝:なんかね、もっと大切にするポイントが増えたっていうか、もっと重要なこともある、もうひとつ、なにかやり方があるよというか、柔らかくなっているのかもしれないですね。

柔らかさというのは、なんか柔和になったっていうのとはまたちょっと違うんですよね。

直枝:違いますね。考え方というか。それはね、ドラムの張替(智広)くんもそうなんですけど、大田くんとか、曲の理解能力がすごく早いので、立ち止まらなくていい、ストレスのなさがいい効果を与えていて、プレッシャーはあるんだけど、スピードだけは落とさねーぞっていう意地がそれぞれにあるから、気持ちいいんですよね。

打てば響く?

直枝:そうそう! で、俺はひとりで音楽ができるとは思ってないから。イメージはつくれるけど、それやろうとしたらね、ソロ・アルバムで5ヶ月かかりました(笑)。それでも人の助けが必要だったですから。だからこういうバンドで、すぐ反応してくれる人たち、俺の考えたフレーズをいっかい噛み砕いてすぐ吸収してもらえて、すぐ表現できる人たちがいるから進むんだと思うんですよ。エンジニアさんも含めて、みんなが反応し合って、みんなで高め合っているから、気持ちいいんだよね。これ、ほかだったらムリじゃないかなって思いますね(笑)。ムダに遊ばないからね。

まあでも音楽のなかに遊びはいっぱいありますよね。

直枝:そうそう(笑)。

まあ、でもそういうようなバランスというか、まさにチーム・カーネーションみたいなものができあがっているところのなかもしれないですね。

直枝:今回はチームというよりも、バンドは怪物みたいなもの、それでいいんじゃないかなって思いましたね。

カーネーションは直枝さんのバンドというより、直枝さんの手を離れていっている?

直枝:だんだんそうなってるかもしれない。どんどん勝手に進んでいる感じがするので。

自分もこう、カーネーションに助けられているという感じがありませんか?

直枝:うん。参加してくれている人たちみんなに助けられているし、外側の、ジャケットまわりの仕事とか、いろんなことに対してもそうで、やっぱりこっちがいい具合にテンションを高めたり緩やかになったりしながら、なんとなくできてくるんですね。そういうのを楽しんでますね。

そういう時期というか、誰かとめぐり会って、別れもあるでしょうけど、それは完全な別れではなくて、またどこかで出会うかもしれない予兆を孕んでいる。そのニュアンスが『SWEET ROMANCE』にはすごく出てると思いました。

直枝:あとこういうアルバムを聴いた誰かが、「こんなアルバム作りてーな!」って思うような流れとか、あったらいいなと思いましたね。そういうマジックがあればいいなって。

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チームというよりも、バンドは怪物みたいなもの、それでいいんじゃないかな。


CARNATION
SWEET ROMANCE

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楽曲に目を移すと、毎回そうなんですが、今回もやはりヴァリエーションに富んでいる。

直枝:幅みたいなものが出てきちゃいますね。あんだけ、音楽を聴いてるとね(笑)。

ところが、『天国と地獄』の頃のように、それを引用、素材として使うというよりも、もっと滲みだしてくるような感じで、そのリスナー体験がでてきているような気がしました。

直枝:うん、ちょっと笑えるようなところはありますけどね。体験なんでしょうがないんですよね。それを自分は通ってきているっていう意識はつねに忘れないようにしていますし、音楽に対してはいつも感謝していますよ。

ハハハハ。

直枝:リスペクトは、それはもうありますから、キーワードとしてかき出せばいくらでもありますよ。

その厚みですよね(笑)。

直枝:とてつもないね(笑)。わかりやすいところでこうやって人と音楽のキーワードについて話はしますけど、「それだけじゃないんだよなー」っていうのもいつもあって、そこが難しいところですね。そこから外れたいって思いも一方ではありますから。だけど、他者の音楽を好きになっていくこと、聴きつづけること、そういう作業は忘れたくないね。「俺は俺」それだけになりたくはない。自分に溺れないためにも。

文章にも書かれていましたもんね、「ひとりよがりになってるか、なっていないか」っていうのは。

直枝:あれはいろんな意味でとれますけど、ほんとうにそういうところもありますよね。

カーネーションの言葉が喚起する情景がわたしは大好きなんですが、『SWEET ROMANCE』の歌詞について、これまでと変化はありますか?

直枝:歌詞については深く考えないようにはしていました。この3年間のなかで曲が生まれて、そのうねりに身を任せればいいかなっていうところはありましたね。感情的になりすぎてはいないか、状況判断をしっかりしないといけない、デリケートな時期だから、とはもちろん思っていました。

デリケートだっていうのは震災のことをおっしゃっていますか?

直枝:感情が渦巻く時期だから、へたをすると、そういうことが歌に出てきちゃうんですよ。そこに溺れちゃうっていうことの怖さっていうのはなんとなく感じるので、言葉が武器にならないように、気をつけたところはありました。

直枝さんは歌詞を書くのははやいですか?

直枝:どうだろうな。決まるときはだいたいはスッといくんですけど、決まんないときは長いですね。今回は苦しみはあまりなかったですね。曲と詞がいっしょに出てきた曲がわりと多かったからかもしれない。

なるほど、わかりました! ツアーは10月からですが、ツアーの準備はもうそろそろやってますよね? ツアーにかける意気込みをうかがえればと思います。

直枝:いっぱい練習しますよ!

大田:今回は再現するのがなかなか大変だろうな。

直枝:だから再構築になると思うけどね。でも、そこはまた、決まったことはやらないんでね。どこか、毎回違うっていうかね。(了)

ツアー情報(2012年11月以降)

2012年11月9日(金)
富山・総曲輪かふぇ橙 (ACOUSTIC LIVE)
SPECIAL GUEST:小貫早智子
OPEN 18:30 START 19:30
前売:3,500円 当日:4,000円 (1ドリンク別)
(問)オレンジ・ヴォイス・ファクトリー 076-411-6121

2012年11月10日(土)
金沢AZ
SPECIAL GUEST:小貫早智子
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,000円 当日:4,500円 (1ドリンク別)
(問)AZ 076-264-2008

2012年11月11日(日)
名古屋TOKUZO
SPECIAL GUEST:大谷能生、小貫早智子
OPEN 17:00 START 18:00
前売:4,500円 当日:5,000円 (1ドリンク別)
(問)JAILHOUSE 052-936-6041

2012年11月17日(土)
札幌COLONY
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,000円 当日:4,500円 (1ドリンク別)
(問)WESS 011-614-9999

2012年11月18日(日)
旭川CASINO DRIVE
OPEN 18:00 START 19:00
前売:3,500円 当日:4,000円 (1ドリンク別)
(問)旭川CASINO DRIVE 0166-26-6022

2012年11月24日(土)
仙台enn 3rd
SPECIAL GUEST:ブラウンノーズ
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,000円 当日:4,500円 (1ドリンク別)
(問)GIP 022-222-9999

2012年11月25日(日)
石巻La Strada
SPECIAL GUEST:ブラウンノーズ
OPEN 18:00 START 19:00
前売:3,500円 当日:4,000円 (1ドリンク別)
(問)La Strada  0225-94-9002

2012年12月8日(土)
渋谷WWW
SPECIAL GUEST:梅津和時、大谷能生、小貫早智子
OPEN 18:00 START 19:00
前売:4,500円 当日:5,000円 (1ドリンク別)
(問)WWW 03-5458-7685

The Orb featuring Lee Scratch Perry - ele-king

 出自は、リー・スクラッチ・ペリーがダブでジ・オーブがテクノだが、基本的にはレゲエ・アルバムじゃないものをめざしたらしく、ジ・オーブが基本的なトラックを作り、リー・ペリーはヴォーカル/トースティングでの参加。ダブの鍵を握るミキシングは、ジ・オーブが担当した。
 それでもリー・ペリーを意識したからか、ジ・オーブにしては、ドロっとした音色のダブのサウンドが目立つ。遠心分離器にかけられて大気圏外に飛んで行きそうなそのダブのサウンドを、建築的なテクノのリズムでつなぎとめた感じとでもいうか、以前からダブの影響を受けていたジ・オーブだが、正直言って、ここまでダブ的な音を作るとは予想していなかった。

 レゲエ・アルバムでないものをめざしたとはいえ、たとえば"マン・イン・ザ・ムーン"のようにレゲエ的なベース・ラインがはっきり出てくる曲があったり、ザ・クラッシュもカヴァーした"ポリスとこそ泥"のようなレゲエ・クラシックを再演していたりする。
 また、ギター、ベース、ドラムのそれぞれのリズム、あるいはいずれかの組み合わせなど、細部を見ると、レゲエ色が濃厚に残っている。どの曲がわからないが、スタジオ・セッション中にリー・ペリーの指示したベース・ラインを使った曲もあるそうだ。

 それにリー・ペリーの語りや声質自体がレゲエ/ダブならではのアクセントや声色を持っている。ミニマルなリズムとアンビエントなサウンドにはじまり、続いてアフリカ風の打楽器が入ってくる"コンゴ"のように、レゲエから遠い曲ですら、彼の声が入ってくると空気が一変する。この曲の前の短い曲"アッシズ"に使われているモロッコのゲンブリ(ベースのように聴こえる楽器)ともども、ジャマイカの文化がアフリカとつながっていることを、ヨーロッパを介して確認することになるあたりは、このアルバムの顔合わせの妙というものだろう。

 ダブ・アーティストとしてのリー・スクラッチ・ペリーの作品では70年代の『スーパー・エイプ』が有名だが、リー・ペリーがコンソールを楽器のように扱って、踊りながらミキシングする姿はきっともう見られないのだろうな。
 とはいえ今回のアルバムでジ・オーブが用意した音楽的な要素やサウンドは『スーパー・エイプ』のころより多彩で、ダブもはるばる遠くまで来たものだ。ぼくにはクラブに足を運ぶ体力は残っていないが、しかるべき環境で大音量で聴いてみたい誘惑にかられずにいられない。

セオ・パリッシュJAPANツアー決定 - ele-king

 古いやつだとお思いでしょうが、わたしは1NIGHT-1DJというスタイルが大好きである。気の合ったDJ同士が織りなすひと晩のプレイも悪くはないが、ひとりのDJとしてそのひと晩をどのように演出してくれるのか、前者のほうがその力量がハッキリと出る。もちろんそれには確かな技量、知識、経験、情熱、そして興行としての成否もあり、名の知れた箱でそれを許されるのはある意味「選ばれし者」だけが得ることのできる名誉と言っても過言ではないと思っている。

 わたしが2度めの東京生活をはじめた以降も心に残る名場面がいくつかあり、LOOPでのNORIさんの30時間セットを筆頭に、同じくLOOPでのDJ CHIDA君、マイクロオフィスでのMOODMAN、最近ではリキッドルームでのDJ NOBU君の7時間セットも記憶に新しい。

 とくに近年はお客さんも短時間で簡単に判断してしまう傾向が強く、ひと晩その人の叙事詩をじっくり愛でるといった遊び方が少し敬遠される向きがあり、こういった思い切った興行が少なくなったのもさびしいところだ。何百何千の人をフォローして140文字のタイムラインを眺めるのも結構だが、タマには大家の長編小説をじっくり腰を据えて読んでみてほしい! といったところでしょうか。

 さてさてそんなことを思っていた折も折、恵比寿に移って以降めでたく8周年を迎えたリキッドルームがまたまたやってくれます。前述のDJ NOBU君のOPEN - LASTを終えて以降、メインフロアのスピーカーを一新して初の「OPEN - LAST」に指名されたのは、やはりセオ・パリッシュでした。ご存知の方も多いとは思うが、セオはあのフロアにとてもよく似合う。「デトロイトのやんちゃ坊主」といった感じもすでに過去の話で、リキッドルームで見る彼の姿はすでに風格さえ漂う。

 余談だが12インチばかりでなくLPも多用する彼のスタイルがリキッドルームの新しいスピーカーでどのように響くのか? という個人的な楽しみもある。えっちゃんの粘土を使ったフライヤーも最高だ!!!

 ぜひぜひ皆さんお誘いあわせの上、セオ・パリッシュ一晩の叙事詩をじっくり楽しんで朝方ゾンビ顔で再会しましょう!!

五十嵐慎太郎


Theo Parrish Japan Tour 2012

■11.16(FRI) Fukuoka @Kieth Flack
DJ: Theo Parrish, DJ Saita(Back To Basic)
Groove Drops Lounge
DJ: Osaki, Shibata, Ikeda, MANTIS(3rd Stone)

open 19:00 - close 1:00
Advanced 3000yen
Door 3500yen

INFO: KIETH FLACK https://www.kiethflack.net
TEL 092-762-7733
福岡県福岡市中央区舞鶴1-8-28 マジックスクウェアビル 1F/2F

■11.17(SAT) Tokyo Ebisu @LIQUIDROOM
- BLACK EMPIRE feat.THEO PARRISH -

DJ: Theo Parrish(open-last set)

open/start: 23:00
Door 3500yen
With Flyer 3000yen

INFO: LIQUIDROOM http:/www.liquidroom.net
TEL 03-5464-0800
東京都渋谷区東3-16-6

20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。You must be 20 and over with photo ID.

■11.22(THU) Nagoya @Club Mago
- AUDI.-

Guest DJ: Theo Parrish
DJ: Sonic Weapon, Jaguar P
Lighting: Kool Kat

Advanced 3000yen
With Flyer 3500yen
Door 4000yen

INFO: Club Mago https://club-mago.co.jp
TEL 052-243-1818
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F

■11.23(FRI/祝日) Akita @JAMHOUSE
- TIME&SPACE -

Guest DJ: Theo Parrish
DJ: SOU(codomoproduction), DOVE CREW

open/start 21:00
Door 3000yen
INFO: JAMHOUSE http:/www.jamhouse-akita.com
TEL 090-7796-9608
秋田県秋田市中通4-5-9

■11.24(SAT) Kobe @troopcafe
- Deep Sessions -

Special Guest: Theo Parrish
Act: Telly, Mituo Shiomi

open/start 23:00
With Flyer MB 3000yen with 1Drink
Door MB 3500yen with 1Drink

INFO: troopcafe https://troopcafe.tumblr.com
TEL 078-321-3130
兵庫県神戸市中央区北長狭通2-11-5

TOTAL TOUR INFO: AHB Production www.ahbproduction.com
TEL 06-6212-2587



Theo Parrish (Sound Signature)

デトロイトに拠点をおくプロデューサー、DJ。ワシントンDCに生まれ、年少期をシカゴで育つ。またその後カンザスシティー、Kansas City Art InstituteではSound Sculpture(音の彫刻)を専攻。1994年、デトロイトに移住。1997年、レ-ベルSound Signatureを立ち上げ、常に新しい発想と自由な表現で次々に作品を世に送り出す。現在Plastic People(London)にて毎月第一土曜日のレギュラーパーティーをもつ。

"Love of the music should be the driving force of any producer,performer or DJ. Everything else stems from that core, that love. With that love, sampling can become a method of tasteful assembly, collage, as opposed to a creative crutch, plagiarism. Using this same understanding openly & respectfully, can turn DJing into spiritual participation. It can turn a few hours of selection into essential history, necessary listening through movement."(Theo Parrish)

「音楽への愛」こそがプロデューサー、パフォーマー、DJたちの原動力であるべきだ。この想いがあれば、サンプリングという方法は、盗作でもなく、音作りへの近道でもなく、個性ある音のコラージュになる。それと同じ理解と想いを持つことにより、DJもまたスピリチュアルな行為となり得る。数時間分の選曲が、本質を伴った歴史の物語となり、動きを伴った音楽体験となる。
(セオ パリッシュ  訳: Yuko Asanuma)

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