Home > Reviews > Album Reviews > The Orb featuring Lee Scratch Perry- The Orb featuring Lee Scratch Pe…
出自は、リー・スクラッチ・ペリーがダブでジ・オーブがテクノだが、基本的にはレゲエ・アルバムじゃないものをめざしたらしく、ジ・オーブが基本的なトラックを作り、リー・ペリーはヴォーカル/トースティングでの参加。ダブの鍵を握るミキシングは、ジ・オーブが担当した。
それでもリー・ペリーを意識したからか、ジ・オーブにしては、ドロっとした音色のダブのサウンドが目立つ。遠心分離器にかけられて大気圏外に飛んで行きそうなそのダブのサウンドを、建築的なテクノのリズムでつなぎとめた感じとでもいうか、以前からダブの影響を受けていたジ・オーブだが、正直言って、ここまでダブ的な音を作るとは予想していなかった。
レゲエ・アルバムでないものをめざしたとはいえ、たとえば"マン・イン・ザ・ムーン"のようにレゲエ的なベース・ラインがはっきり出てくる曲があったり、ザ・クラッシュもカヴァーした"ポリスとこそ泥"のようなレゲエ・クラシックを再演していたりする。
また、ギター、ベース、ドラムのそれぞれのリズム、あるいはいずれかの組み合わせなど、細部を見ると、レゲエ色が濃厚に残っている。どの曲がわからないが、スタジオ・セッション中にリー・ペリーの指示したベース・ラインを使った曲もあるそうだ。
それにリー・ペリーの語りや声質自体がレゲエ/ダブならではのアクセントや声色を持っている。ミニマルなリズムとアンビエントなサウンドにはじまり、続いてアフリカ風の打楽器が入ってくる"コンゴ"のように、レゲエから遠い曲ですら、彼の声が入ってくると空気が一変する。この曲の前の短い曲"アッシズ"に使われているモロッコのゲンブリ(ベースのように聴こえる楽器)ともども、ジャマイカの文化がアフリカとつながっていることを、ヨーロッパを介して確認することになるあたりは、このアルバムの顔合わせの妙というものだろう。
ダブ・アーティストとしてのリー・スクラッチ・ペリーの作品では70年代の『スーパー・エイプ』が有名だが、リー・ペリーがコンソールを楽器のように扱って、踊りながらミキシングする姿はきっともう見られないのだろうな。
とはいえ今回のアルバムでジ・オーブが用意した音楽的な要素やサウンドは『スーパー・エイプ』のころより多彩で、ダブもはるばる遠くまで来たものだ。ぼくにはクラブに足を運ぶ体力は残っていないが、しかるべき環境で大音量で聴いてみたい誘惑にかられずにいられない。
北中正和