「HIKARU」と一致するもの

hikaru yamada and mcje - ele-king

 ジャンルの壁を溶解する奇才・山田光が率いるジャズ集団、ヒカル・ヤマダ&mcje(旧名ヒカル・ヤマダ&メタル・キャスティグ・アンサンブル )のライヴ盤『live』が〈Local Visions〉からリリースされた。
 これは「10人のジャズ・ミュージシャンがヘッドフォンから流れるビートに対してインプロヴィゼーションを同時に行う特殊アンサンブルで、実験的な手法それ自体が目的ではなく、和声を薄くし、奏者同士の反応を減らし、大人数アンサンブルにありがちな祝祭感を封じるのが狙いだ。基本的に譜面もアレンジも存在せず、合奏の悦びはありません」とのこと。
 また、「本作は2023年10月に神保町試聴室で行われたライヴ音源を元に構成されている。ジャズ・インプロの現場で山田と共演してきたメンバーに加え、太田裕美や吉川晃司のツアーメンバーとして活躍したエリック笠原(近年発掘された松原みきのテレビ収録動画でもサックスで参加)やR&Bコレクティブw.a.u所属の關街が参加。2曲のヴォーカル曲の他、ギル・エヴァンス・オーケストラのライヴ盤を全員で聴きながら演奏したトラックなどを含む12曲を収録」とうことです。

Undefined meets こだま和文 - ele-king

 まさか“Requiem Dub”を聴けるとは思いも寄らなかった。もしもフランクフルト学派がこの日のこだま和文のライヴを見ていたら、泣いて喜んだことだろう。20世紀前半のもっとも重要な文化研究グループとされる彼らは、アートがこの資本主義社会で果たす役割があるとすれば、それは「耐え難いこの世界を告発することだ」とした。「偉大なる拒絶」の一部になること。2024年8月24日の21時、渋谷のWWWで、いまだにそれをやっているひとがいた。
 ぼくはフランクフルト学派ではないが、泣いた。同じように、たぶんフランクフルト学派ではないマヒトゥ・ザ・ピーポーも「泣いた」と言って、ライヴ終了後に楽屋でこだまさんをハグしていた。ほかにも、多くのひとが泣いたに違いない。ひょっとしたらその涙は、こだまさんが自分の詩を朗読しながら訴えたパレスチナの現実および自分たちが生きているこの悲しい世界に対する憤りの涙で、と同時にそれは、悲しくも美しいダブをバックにそれを表現するひとがいま目の前にいることの嬉しさでもあって、あるいは、まあ、いろいろだろう。個人的には松岡正剛さんのことがあったので、悼みながら聴きいていたが、いつしか無心になって、ただただ聴き入っていた。
 
 その夜ぼくと編集部コバヤシは、河村祐介監修『DUB入門』の先行発売という口実で、渋谷のWWWで開催の、虎子食堂の15周年記念イベント「SUPER TIGER」に混ぜてもらった。天候も不安定だったし、ライヴ・イベント会場だし、多くは売れないだろうなと思っていたら、ありがたいことに完売した(DUBの未来は明るい。いや、河村人気なのかな? とにかく、あのとき購入していただいた方々、どうもありがとうございました。DUBが女性に人気というのはほんとうでした)。そんなわけでぼくとコバヤシは物販スペースで本の売り子をしながら、SOUL FIREのライヴ、1TA&Element、HIKARUらのDJタイムは代わりばんこにフロアに出入りしていたのだけれど、Undefined とこだま和文のライヴ前には売り切っていたので、幸いなことに最初から集中して聴くことができたのである。

 『A Silent Prayer』からは“T-Dub”(“Move”だったかも?)と“One-Two”をやった。この日はUndefinedとのライヴなので、ほとんどのひとがあの素晴らしい『2 Years』の曲を待っていたと思う。しかしこだまさんは、既発作品の再生ではなく、“いま現在のこだまさんの思い”を表現した。
 そんなことをしても変わりっこない、そういうシニシズムがアートを支配しはじめたのは1980年代後半のことだった。メッセージなどダサい、どうせ変わらないのだから受け入れた方がいい、笑えればいい、格好よければいい、それがミュート・ビートが輝いていた1980年代後半に芽生えた新しい表情のひとつだった。美術館の売店でモネのスカーフが5千円で売られても誰も気にすることもなくなった時代、やがてルイ・ヴィトンとタッグを組むジェフ・クーンズが登場した時代、要するにフランクフルト学派みたいなことをいうのはもうダサくなりはじめた時代のムードに、こだまさんが違和感を覚えていたという話はこれまでの取材で知っている。そう、知っているけれど、それをブレることなくずっとやり続けていることは、やはり、すごいことだという思うし、ぼくはこだまさんのいまも変わらない「悲しみを隠さないDUB」をますます愛おしく思う。この国に、こだま和文がいてくれてほんとうに良かった。

 たとえば、以前松島君がreviewしたA. G. Cookの〈PC Music〉は、言うなれば、J-POPもAFXも同じだろうというある種のなかば熱狂的な相対主義をいまの時代に全開した代表的なレーベルだ。ぼくはその考え方も善し悪しだと思っているが、じつはいろんなことがどうでもよくなっていて、楽しさをもとめた挙げ句に不正なゲームのうえで踊らされるのはまっぴらだとも思っている。この夜の、虎子食堂15周年のお祝いに駆けつけたひとたちも同じ思いだろう。アートはそれを失うべきではない。小さなことだけれど、最高に美しい夜だった。

しばてつ・山田光・荒井康太トリオ - ele-king

 自身のhikaru yamada and the librariansをはじめ、入江陽前野健太などの楽曲参加から「小さなポップ・ミュージック」をテーマにしたコンピレーション『tiny pop』の監修まで、フリー・ジャズ/即興演奏の分野に留まらぬ活動をつづけてきたサックス奏者/トラックメイカーの山田光。そんな彼の新プロジェクトは、80年代から活動するヴェテラン鍵盤奏者、しばてつと、さまざまな民族音楽から影響を受けたというドラマー、荒井康太とのトリオだ。『じゃフリージャズやろう』とのタイトルどおり、生々しいフリー・ジャズに挑んだ45分ノンストップのアルバムがすでにbandcampにて販売中。ぜひチェックしてみて。

しばてつ・山田光・荒井康太トリオによるアルバム“Jya, let​’​s play free jazz​.​”が2024年6月15日(土)にリリースされる。

hikaru yamada and the librariansやmcjeといった自身のユニットで活動するアルトサックス奏者/トラックメイカーの山田光。今回、彼はピアノのしばてつ、ドラムの荒井康太とともに、この時代に敢えて伝統のベースレストリオ編成でLPサイズのフリージャズ(ノンストップ45分間)を演奏する試みを始めた。

最初の作品となる“Jya, let​’​s play free jazz​.​”は2024年3月25日に行われたライブ録音でピアノ・サックス・ドラムの打点を生々しく捉えたオンマイクサウンドにより、フレッシュなフリージャズサウンドを聴かせる。

しばてつは1959年東京に生まれ、1980年代より活動を続けるピアノ / 鍵盤ハーモニカ奏者。2016年に鍵盤ハーモニカによる即興演奏集『Plastic Pneuma』をHitorriレーベルからリリースしているが、ピアノによるフリージャズ演奏の音源化は今回が初めて。

荒井康太は伊豆諸島最南端の孤島 青ヶ島出身。アフリカを代表するカメルーンのドラマーBrice wassyの演奏に衝撃を受けBriceと弟のVincentに師事。現地カメルーンに渡りトラディショナルのリズムをエッセンスとしたドラミングを学ぶ。ジャズ、ポップス、ロック、はたまた韓国の農楽やシャーマン音楽、台湾原住民音楽、ブラジル、アフリカなどの民族音楽から、即興音楽や実験音楽、ライブペイントやダンスとの共演など、現代音楽アートフェスや舞台音楽などジャンルにとらわれない幅広い演奏活動を行っている。現在は田中圭や奈緒らと共に舞台『Medicine メディスン』に出演中。

[リリース情報]
アーティスト名: shibatetsu (p) + Hikaru Yamada (sax) + Kota Arai (ds) Trio
タイトル: “Jya, let​’​s play free jazz​.​”
リリース日: 2024年6月15日(土)12:00(正午)
レーベル: OPAC
カタログナンバー: OPAC-1001
フォーマット: Bandcampでのダウンロードとストリーミング

https://opaclabel.bandcamp.com/album/jya-let-s-play-free-jazz

価格: 1000円

■曲目
1. movement1
2. movement2
3. movement3
4. movement4

ミックス/マスタリング: 山田光
アルバムジャケット: しばてつ

■参加ミュージシャン
しばてつ: piano
http://www4.plala.or.jp/soodemonai/

山田光: sax
https://ekytropics.blogspot.com/2024/04/httpswww.html

荒井康太: drums
https://kotatatakataton.jimdofree.com/

■プロフィール
山田光: 1988年生まれのアルトサックス奏者、トラックメイカー。サンプリングを主体とするトラックメイキングとサックスでのフリージャズ/即興演奏をおこなう。自身のユニットであるhikaru yamada and the librariansやfeather shuttles foreverで作品をリリースするほか、入江陽、前野健太、South Penguin、毛玉、んミィバンドなどの楽曲に参加している。監修作品にコンピレーションアルバム『tiny pop – here’s that tiny days』(2020年、P-VINE)がある。

SOUL FIRE meets Chica/Undefined meets こだま和文 - ele-king

 いまダブの波が来ている。宇田川町に居を構える虎子食堂の15周年記念イベント特別編、強力な面子×2組による熱い一夜のお知らせだ。
 ひと組は、大阪のダブ・マスターHav率いるSOUL FIRE。バンドとしてはひさびさの東京でのライヴで、ヴォーカリストChicaとともに出演する。
 もうひと組はレジェンドこだま和文と、共作『2 Years / 2 Years In Silence』を残すUndefinedによるタッグ。こちらもひさびさのライヴとなる。
 DJ陣も抜かりない。レゲエ・セレクターのパイオニアのひとりである佐川修、blastheadのHIKARU、そして先日seekersinternational & juwanstocktonの強烈なダブ・アルバムを送り出したレーベル〈Riddim Chango〉(1TA&Element)の3組。
 さらに会場では、SOUL FIREの7インチが先行販売されるという。8月24日は渋谷WWWに集合です。

超の付くダビーな15周年、超虎子の宴開幕です!

うまい飯とうまい酒、そして音楽とそこに集まる人、人、人──宇田川町に居を構えて15年、虎子食堂、今年の周年のスペシャル・ヴァージョンは現地を飛び出し、同じく渋谷のWWWにて「これしかない」と店主熟考の下に集めたラインナップで開催決定!この国のダブのオリジネイターのひとり、こだま和文、そして海外のモダン・ダブの牙城〈ZamZam Sounds〉などからもリリースするダブ・ユニット、Undefined。2022年にコラボ・アルバム『2 Years / 2 Years In Silence』をリリースした両者が、同年の同じくWWWでのライヴ以来、ひさびさにライヴを行う。もう一方のスペシャルなライヴ・アクト、大阪のダブ・マスター、Hav率いるSOUL FIREがヴォーカリスト、Chicaと共に出演。バンドとしては虎子7周年記念以来の東京でのライヴ。この国の東西のある意味でレジェンダリーでありながら、現在進行形のダブ・サウンドが直撃する一夜となる。DJには、この国のレゲエ・セレクターのパイオニアのひとりであり、「溶け出したレコード箱」などここ数年、虎子食堂での出演が活発化している佐川修。想像の外側からエコーの残響にのってダビーにアシッドの熱風を呼び込む、HIKARU。国内外の現在進行形のダブ・サウンドをリリース、1TAとElement──今回会場で先行で販売されるSOUL FIREリイシュー7インチをリリースするなど過去の国内産ダブの遺産を紹介する1TA〈Rewind Dubs〉、そして I Jahbarとのコラボなどカッティング・エッジなダブ・サウンドをリリースするElementによる〈Parallel Line〉というサブ・レーベルもそれぞれ運営──によるセレクター・デュオ / レーベル、Riddim Changoも登場する。レゲエやダブを後景にしつつ、さまざま音楽とそれを愛する人が集まるあの場所の、15年の集大成、いわば超虎子食堂的な一夜を!(河村祐介)

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公演タイトル:SUPER TIGER

出演:
〈LIVE〉SOUL FIRE meets Chica/Undefined meets こだま和文
〈DJ〉佐川修/HIKARU (blasthead)/Riddim Chango (1TA & Element)

日時:2024年8月24日(土曜日)開場/開演 18:00
会場:WWW
前売券(2024年6月12日(水曜日)18:00発売):3,500円(税込・ドリンク代別)
前売券取扱箇所:イープラス、虎子食堂店頭
問い合わせ先:WWW 03-5458-7685

フライヤー画 : 西加奈子

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★国産Dubリイシュー・レーベル〈Rewind Dubs〉より、関西のレジェンドDubバンドSOUL FIREのアーカイブから7インチアナログレコードがリリース決定、そして本イベントにて先行販売!
2000年初期にリリースされたアルバム「SOUL FIRE」から煙立ち込めるルーディなステッパーチューン"Rizla”と、未発表曲"Who is DirtyHarry?"をカップリングした一枚。

7-inch Vinyl single
Soul Fire - Rizla w/ Who is DirtyHarry?
Catalog number : RWDS7-001
Price : ¥1,980 (tax in)

https://www-shibuya.jp/schedule/018020.php

interview with Larry Heard - ele-king

 1980年代なかばの、黎明期のシカゴ・ハウスにおいて、ラリー・ハードはディスコの変異体であるこの音楽を地球外の幻想的な境地へと導いた。その当時、ラリー・レヴァンの〈パラダイス・ガラージ〉やデイヴィッド・マンキューソの〈ザ・ロフト〉でもプレイされた“Mystery of Love”というその曲は、いま聴いてもなお、ミステリアスな妖しさをまったく失っていない。時代を超越した曲のひとつだ。遅めのピッチと不安定なシンセサイザー音のなか、ブライアン・イーノにいわく「官能的で流動的なブラック・ミュージック」の本質を内包し、ジョン・サヴェージにいわく「ジョー・ミークが60年代初頭に目指した不気味なサウンド」にも近接している。リヴァーブのかかったロバート・オウェンス(のちのFingers Inc. のメンバー)の声は奇妙でありセクシャルで、ドラムマシン、意表を突いたクラップの残響にピアノ、すべてが異次元で乱舞し、こだましている。これほどハウス・ミュージックが持っている音楽的な可能性が凝縮されたトラックは、当時はほかになかった(まあ、アシッド・ハウスのことはひとまず置いておこう)。同じことが“Can You Feel It”にも言える。キング牧師の演説ともミックスされることになる、ディープ・ハウスを定義したあの曲のアンビエントなフィーリングとミニマリズム、そしてモノ悲しいメロディがデトロイト・テクノ(とくにデリック・メイとカール・クレイグ)に与えた影響はあまりにも大きい。
 ハードは、それから40年近くの時間を経て、15枚のソロ・アルバムと50枚以上のシングル盤を出している。アンビエント、ダウンテンポなジャズ、R&B、アシッド・ハウスからテクノ……。高校時代はジャズ・フュージョンのバンドのドラマーとして奇数拍子を叩くのが好きだったハードは、卒業後、市の社会保障局での夜間勤務をはじめたため、当時街を席巻したハウス・ミュージックをクラブではなくラジオで知った。彼は最初、ドラムマシンを買い、しばらくしてからローランドのJupiter 6を買った。そしてカセットレコーダーで録音したのが、“Mystery of Love”(そして “Washing Machine” )だった。1985年、自身のレーベル〈Alleviated Records〉を設立し、ハードはその曲の12インチ・シングルを自分で売った。
 クラブ・ミュージックの歴史では、素人が偶発的に作ったモノが大受けし、ものすごい影響力を持ってしまうことがある。ラリー・ハードにそれはない。すべての曲は彼が意図をもって創造したものだった。『Another Side』(1988)と『Ammnesia』(1989)という決定的なアルバムのあと、メジャーからの2枚のアルバム『Introduction』(1992)と『Back To Love』(1994)ではR&Bからニュー・ジャック・スウィングまで披露したハードだが、彼はメジャーで稼ぐことよりも自分の音楽道を優先することにした。ゆえにハードは、数年のあいだは、仕事をしながら音楽制作をするというライフスタイルを選んでいる。彼にとって重要なのは、その音楽が自分にとって純粋であるということなのだ。それはいまでも一貫している(1994年から2005年にかけて、ハードは自身の名義で9枚のアルバムを出しているが、それはメジャーに「Mr.Fingers」という名義を買われてしまったからだった)。
 だが、2018年、20年ぶりにミスター・フィンガーズ名義のアルバム『Cerebral Hemispheres』を〈Alleviated Records〉からリリースし、昨年と一昨年には『Around the Sun』を連続でリリースして、世界のいろんなところにいる彼のファンを喜ばせた。ここにきて精力的な展開を見せているハウス・ミュージックから登場した眩い巨星の、以下、来日直前インタヴュー。どうぞ。

シカゴはときどき恋しくなります。 何年も住んでいたから、シカゴの人びとや物事、そして全体的な雰囲気が恋しい。 しかし、私は別のところへと進化してきた。

まだメンフィスに住んでいますか?

LH:はい、いまもメンフィスに住んでいます。引っ越しというのは、住む場所を変えるという大きな仕事だ。だから、いつも遊び半分でやっているわけじゃない。だから、メンフィスに定住して楽しんでいます。

シカゴが恋しいですか?

LH:そうですね、シカゴはときどき恋しくなります。 何年も住んでいたから、シカゴの人びとや物事、そして全体的な雰囲気が恋しい。 しかし、私は別のところへと進化してきた。そのほうが自分にとって平和だし、自分の考えを聞いたり、自分のアートに集中するために必要な静けさが得られるんです。

2022年〜2023年、2年連続で『Around the Sun』をリリースしました。この2作には、ハウス、ソウル、ジャズ、フュージョンなど多彩な音楽性があり、あなたの集大成的な作品のように感じました。

LH:ああ、これらのレコーディングはすべてロックダウン中に完成しました。そしてそれはいつも......作品の集大成なのかどうかわからないけど......以前は別々に使っていたプロジェクト名が、いまはひとつの場所に集まったような感じなんです。
 そう、だから、そういうことなんです。 ジャズもあれば、クラシックもあるし、トライバルな要素もある。いろんなところに行ける。 音楽は冒険です。

家ではどんな音楽を聴いていますか?

LH:なにか特定の音楽というよりは、ほとんどすべてのスタイルの音楽を聴いています。自分のリスニングを自分で記録はしてないので、それが何かは……、そんなことを考えること自体が私には不自然なんです。私は本当に、いま自分が楽しんでいることを楽しんでいるだけです。その瞬間にいるのであって、そのことを記録したりはしていません。でも、じつはメンフィスでラジオ番組をやっているんです。誰でもそれを知ることができるように、あらゆる種類の音楽をブラウズしています。WYXR.org、 そこに私の番組がアーカイヴされています。ここにはプレゼンターという仕事をしているときの私の仕事があります。自分のためだけでなく、つねに人びとのために音楽をかけています。

あなたは、ここ数年は、聴力器官の関係でDJとしての活動はあまりしていないのでしょうか?

LH:ツアーはいくつかやりました。 2017年からロックダウンがはじまるまでのあいだは、ライヴ・ツアーをしました。自分の聴覚は、いまでも守る必要があるんですけど。できるだけ気をつけようと思っています。

日本のツアーに関してコメントをいただけますか?

LH:日本に戻れてうれしいです。そして、私が来ることを喜んでくれていることもうれしく思います。

誰かに何かを感じろと言うつもりはありません。「それ」とは、人それぞれです。 何を感じるかを人に指図するのは、ある意味支配的です。

「Can you feel it?」は、ハウス・ミュージックの本質を言い表しているような言葉ですよね。今回の日本ツアーを通じて、もちろん音楽を楽しんでもらうことが前提ですが、リスナーに何を感じてもらいたいと思いますか?

LH:誰かに何かを感じろと言うつもりはありません。「それ」とは、人それぞれです。 何を感じるかを人に指図するのは、ある意味支配的です。 そう、ひとびとには自由が必要です。参加することで、その人が個人として何を感じるかを感じることができます。すべての人が同じ人間ではありません。だからひとりひとりが違う何かを感じることになります。私はつねに最高の音楽をプレイしようと心がけています。 可能な限り最高のものをです。 そして、オーディエンスが何に反応するかに注意を払います。そして、必要に応じて調整します。

あなたは数年前に、ようやく自分の曲の権利をTRAXから得ることができましたが、あなた自身の過去の作品のアーカイヴ作業は進んでいるのでしょうか?  コンピレーションを出す予定はありますか?

LH:ええ、そうです。 何百曲も何千曲も作ってきましたが、私の音楽カタログの大部分は〈TRAX〉とは関係ありません。3、4曲はあるかもしれません。とんでもないことになっていましたが……。とにかく、過去の曲を使っていろいろなことができるようになるにつれて、私は、自分の作品のカタログの大きな部分に焦点を当てなければならないでしょう。ただ、いまはまだその予定はありません。

あなたのシカゴ時代、80年代に作った作品で、いまでもとくに思い入れがあるのはどの作品でしょうか?

LH:“Mystery of Love”は初期の曲だけど、いまも特別な曲です。あの曲にはロバート(オウェンス)も参加しています。いま、私たちは一緒に交流し、創造しはじめています。だから特別なんです。 この曲のヴォーカル・パートは私にとっては画期的な出来事でした。なんとかうまくいったし、素晴らしいことでした。ただ、どの曲にも特別な思い入れがあります。プレハブのサンプルをただ寄せ集めたようなものではありません。長い年月と進化を経ていま振り返れば、前時代的な方法で作られたものです。それでも私から生まれたものであって、私の小さな小さな手で演奏されたものなんです。

“Mystery of Love”がカニエ・ウェストにサンプリングされたことで、あなたのリスナーは増えたと思いますか?

LH:そうは思いません。 ビッグネームが来て、突然自分の大ファンになったからといって、感動することはないでしょう。 名前が重要ではありません。その名前と一緒に去っていくことが問題です。誰かの宣伝に頼りたいとは思いません。 トレンドや誰かの影響などではなく、私が出会いたいのは、自分の音楽に真摯に向き合ってくれる人たちです。

シカゴの若い世代が生んだ、フットワークのような音楽は聴かれますか?

LH:フットワークが何なのか正確には知らないのです。だから、それについて何か言うには、実際に見たり聞いたりする必要があります。それに、ジャンル用語というものは、世代から世代へと移り変わるものです。私は引退した人間ではないし、音楽を聴く以外は何もせずに座っているわけでもありません。 音楽以外のことをする生活もあります。家事や育児も自分でしています。だから、あらゆるスタイルやムーヴメントを研究する時間がないのです。

私はそして、その状況に美を吹き込み、穏やかさのなかにセラピー効果のある音楽を吹き込もうとしています。 躁鬱で怖くて抑圧的とか、そういうものではありません。つねに問題があるからこそ、私は安らぎを注入しています。世界は完璧ではないし、これからも完璧にはならないでしょう。

あなたが若かった80年代、90年代のアメリカに比べて、現代のアメリカ社会は良くなっていると思いますか?

LH:政治的な質問ですね。 私はミュージシャンです。ミュージシャンとして、いま起こっていることにポジティヴな何かを吹き込もうとしています。私がいる場所、他のみんながいる場所のために。みんなここにいるんです。だから、何が良いのか、何が悪いのか、すべてを議論しています。悪いと思うのなら、良くするために何かしているのでしょうか?  悪くするようなことをしているのでしょうか? ポジティヴなことをしているのなら、それ自体が良くしようとしていることになります。アメリカが良くなろうが悪くなろうが、私にはどうすることもできません。 私はひとりの人間に過ぎない。ここには何億人もの人びとがいます。他の人たちが何をしようと、私にはどうすることもできない。私がコントロールできるのは、私がすることだけです。私はそして、その状況に美を吹き込み、穏やかさのなかにセラピー効果のある音楽を吹き込もうとしています。 躁鬱で怖くて抑圧的とか、そういうものではありません。つねに問題があるからこそ、私は安らぎを注入しています。世界は完璧ではないし、これからも完璧にはならないでしょう。しかし、音楽や芸術のような、ちょっとした楽しみや癒しみたいなものがあるんです。。

いま、あなたが音楽を制作するうえでのインスピレーションはどこから来るのでしょうか?

LH:哲学的な質問のひとつですね。 実際に音楽家になっている人たちが、インスピレーションがどこから来るのかを考えているのか、あるいは、別のシナリオとして、インスピレーションを受けるたびに、横道にそれてドキュメントを書き始めるということもないでしょう。音楽をやりながら自分の伝記作家にもなるという、これらふたつのことは同時にできません。私は、作曲、クラフト、エンジニアリング、そして最近必要とされている他のすべてのことに100パーセント集中したいと思っています。新しい音楽テクノロジーやその他もろもろに。 そんなことをしていると、 宇宙のなかで物思いにふける時間もないのです。私はスタジオにいなければならないんです。

最後に、日本のファンにメッセージをください。

LH:愛しています。 私のことを気にかけてくれてありがとう。 また日本に来て音楽を分かち合えることを楽しみにしています。そして、特別な経験をしましょう。まだ経験したことがない、その経験が何であるかは言えない経験を。いいものになると期待しています。

【Larry Heard aka Mr.Fingers Japan Tour 2024】

4.26(Fri) 名古屋 @Club Mago
music by
Larry Heard aka Mr.Fingers
ayapam D.J. (WIDE LOOP)
Longnan (NOODLE)
2nd room DJ:
xxKOOGxx (Raw Styelz, VINYL)
HIROMI. T PLAYS IT COOL.
food: ボヘミ庵
Open 22:00
Advance 3,000yen(https://club-mago.zaiko.io/item/363289
Door 4,000yen
Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818

4.27(Sat) 東京 @VENT
=ROOM1=
Larry Heard aka Mr.Fingers
CYK
=ROOM2=
SHOTAROMAEDA
SATOSHI MATSUI
Pixie
Hikaru Abe

Open 23:00
DOOR: 5,000yen
ADVANCE TICKET: 4,500yen (優先入場)
(https://t.livepocket.jp/e/vent_20240427)
SNS DISCOUNT: 4,000yen
Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652

4.28(Sun) 江ノ島 @OPPA-LA
- the ORIGINAL CHICAGO -
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ IZU
artwork SO-UP (phewwhoo)
supported Flor de Cana
Open 16:00 - 22:00
"Limited 134people" Mail Reservation  *SOULD OUT*
5,000yen / U-23 : 3000yen (http://oppa-la.net)
Door
6,000yen / U-23: 4,000yen
Info: OPPA-LA http://oppa-la.net
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-12-17 江ノ島ビュータワー4F TEL 0466-54-5625

5.2 (Thu) 大阪 @Club Joule
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ Ageishi, YAMA, Chanaz (PAL.Sounds)
PA: Kabamix
Coffee: edenico
Open 22:00
Door 5,000yen
Advance 4,000yen (e+ 3/22~販売
https://eplus.jp/sf/detail/4073520001-P0030001)
U-23 3,000yen
Info: Club Joule www.club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F TEL 06-6214-1223

Larry Heard a.k.a Mr.Fingers (Alleviated Records & Music)

ゴッドファーザー・オブ・ディープハウス、シカゴハウスのオリジネーター、Mr.FingersことLarry Heardはシカゴのサウスサイドで生まれ、両親のジャズやゴスペルのレコードコレクションから音楽に興味を示すようになる。ローカルバンドでドラムを演奏していたが、シンセサイザーに魅かれ、1984年からシンセサイザーとドラムマシンでの音楽制作を開始する。1985年、Mr.Fingersとして”Mystery Of Love” でレコードデビュー。シカゴではハウスミュージックが全盛期を迎える中、1986年にリリースされたMr.Fingers ”Can You Feel It”は説明不要のハウスミュージック名曲として知られる。
1988年にリリースされたMr.Fingersファーストアルバム『Amnesia』や、Fingers Inc.(Larry Heard、Robert Owens、Ron Wilson) アルバム『Another Side』ではハウスミュージックの創造性を追求し、シカゴハウス最高峰アルバムとして評価されている。1992年、ディープハウスを背景にR&Bやジャズ、コンテンポラリーな要素を取り込んだ、Mr.Fingers アルバム『Introduction』でMCAよりメジャーデビュー。
1994年、Black Market Internationalよりリリースされた、Larry Heard名義としてのファーストアルバム『Sceneries Not Songs, Volume One』では、フュージョンやニューエイジをLarry流に昇華し、チルアウトやダウンテンポに傾倒した作風によってアンビエントハウスという言葉を産んだ。
作品はその後もコンスタントにリリースされながらもLarryは突如シーンからの引退を宣言し、コンピュータープログラミングの仕事に専念するためにメンフィスに移る。
Track Mode主宰のBrett Dancerを筆頭に、アトランタのKai AlceやデトロイトのTheo Parrishらの功労によって、アンダーグラウンドなネットワークを通じてLarryは再度シーンと接触し、2001年にLarry Heard名義のアルバム『Love's Arrival』のリリースを伴いカムバックする。
現在もメンフィスを拠点に活動し、Mr.Fingers名義での最新アルバム『Around The Sun Pt.1』(2022年)、『Around The Sun Pt.2』(2023年)を自身主宰のレーベルAlleviated Records&Musicからリリース。
彼の過去の作品が数多く再発されている近今、13年振りの来日となる。

http://alleviatedrecords.com

interview with Yo Irie - ele-king

いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。

 水、仕事、SF、FISHときて、恋愛。なんのことだかわからないかもしれないが、それが入江陽という異才シンガーソングライターのディスコグラフィである。

 デビュー・アルバム『水』(2013年)の発表からちょうど10+1年。大谷能生がプロデュースした『仕事』(2015年)、soakubeatsらとの『SF』(2016年)、自主レーベルからの『FISH』(2017年)と、入江は4作のアルバムをリリースしてきた。その間に、ネオ・ソウルやヒップホップやジャズやエレクトロニック・ミュージックを大胆にかき混ぜながら、滲みでる前衛性と溢れでる歌心と諧謔に満ちた歌詞とで彩られた異形のポップ・ソングを歌ってきた。

 異才、異形と似たような貧しい語彙で形容したものの、今回、『恋愛』での入江からは「異」がぽろっととれた、かもしれない。映画やドラマやゲームといった対外的な現場での音楽制作などを経て、ツイストした自我の中からストレートな志向を発見した入江は、まっすぐにポップへと向かった。ビースティ・ボーイズとの仕事で知られるマリオ・Cを筆頭に、あまりにも幅広いコントリビューターたちからの助力も得た結果、アルバムは清々しく、実に風通しがよい、群像劇のような作品に磨きあげられている。

 アルバムのタイトルでありコンセプトの「恋愛」は、自ら語るとおり、2010年代以降のジェンダーとセクシュアリティの多様性の(遅ればせながらの)認識の拡大、アロマンティックやアセクシュアルについてのそれを含む知識が広がった時代に、どこか古臭さと、古臭いがゆえの滑稽さを帯びている。それでも、少なからぬ人びとがいまも恋愛に心をかき乱されているし、それらが商品や見世物として流通してさえいる。その「恋愛」という不思議な共有性を通じて、入江がポップの鍵を掴んだことは想像に難くない。

 ところで、今回のインタヴューで入江の口からたびたび出てきたのは、「信用」や「信頼」といった言葉だった。それは、他者へのものであるのと同時に、音楽それ自体に向けられたものでもある。この歌い手は、「恋愛」というミクロなものを拡大し、なにか大きなものにアクセスしようと試みているようだ。

影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。

入江さんの新作、7年ぶりですか!

入江陽(以下、YI):気づいたら、浦島太郎のように7年も経っていました(笑)。体感は2、3年……っていうと嘘で、さすがに5年くらい経っていそうな気がしたんですけど、7年も経っているとは思わなかったですね。「7年経っている」とみんなが言っていることが、嘘かもしれません(笑)。ただ正直、もっと早くつくればよかったって思ってはいます。

2019年から配信シングルを継続的に出していて、映画音楽の仕事もされていたので、それほどタイムラグを感じません。

YI:自分でおもしろいと思うのが、シングルを大量に出していたにもかかわらず、アルバムにほとんど入っていないことですね(笑)。

シングル集的なアルバムにはしなかったんですね。

YI:『FISH』やそれ以前のアルバムを聴き返すと、曲がバラバラすぎて、どういうシチュエーションで聴いたらいいのか悩むなって、リスナーとして客観的に思ったんです。それで、ジョン・コルトレーンの『Ballads』(1962年)のようなロマンティックなジャズ・バラード集が好きなので、「恋愛」というコンセプトのアルバムにまとめることで、聴くシチュエーションがわかりやすくなるかなと。……ですが、いま聴くと、意外と曲調がバラバラで(笑)。

いえ、入江さんの作品の中で最も統一感やコンセプチュアルなまとまり、完成度の高さを感じますし、最高傑作だと思います。ゲストも多いですし、入江さんがつくっていない曲もあって風通しがよく、それなのにこの統一感はなんなんだろう? と。

YI:アレンジャーさんも制作経緯もバラバラで、ドラマや映画への提供曲も収録していますからね。まとめる作業はストロング・スタイルで、曲をひたすら並べ替え、夜に散歩しながら聴きまくったんです(笑)。その作業をずっとやっていたら、自然と物語性が出てきました。前半は楽しげで恋愛のワクワク感があって、後半は切なげになってくる感じで。

そもそも、なんで恋愛がテーマなんだろう? と思ったんです(笑)。「はいしん狂」の入江さんだから、恋愛映画やドラマを見まくっていたのかな? とは考えましたが。

YI:まさにそれはあって、恋愛リアリティ・ショーを見まくっていたんです(笑)。『あいのり』や『テラスハウス』あたりがクラシカルなところだと思うんですけど、最近は各社乱立していて。ご覧になりますか?

まったく見ませんが、存在していることは知っています(笑)。

YI:たとえば、ふたつの島が舞台で、移動のタイミングが限られているから、その偶然性でカップルが成立するかどうかが決まる番組とか。元カレと元カノを集めて嫉妬させあう、醜悪な……「醜悪」は言い過ぎました(笑)。そういう練られた座組の番組とか。いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。
あと、「恋愛」って言葉自体が古びてきていると思うんです。ジェンダー観が多様化し、アップデートされて、10年前と現在とでは『恋愛』というタイトルのアルバムを出す意味がかなりちがっているなと。そこで、「恋愛」という旗をあえて振る少数派になってみたらおもしろいかなって思ったんです。

たしかに、漢字で「恋愛」というタイトルのアルバムがどーんと出ると、すごくインパクトありますね。

YI:あえての「恋愛」なのか、単にやばい人なのか、わかりづらいですね(笑)。この古びた「恋愛」って言葉、ちょっと笑える感じがするんです。

昭和感がありますね。

YI:平仮名で「れんあい」とすることも考えたんですけど、そういう逃げはやめて、ストレートにわかりやすく「恋愛」としました。
過去のアルバムはコンセプトがわかりにくくて、内面的で抽象的なテーマだと思った理由もありましたね。ひねくれたことをやめて、自分を知らない方々にも興味を持って聴いてもらえ……るかはわからないんですけど、フックがある作品にしたかったんです。

亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。

入江さんって、井上陽水が好きですよね。入江さんにも井上陽水にも、滲みでる変態性と、どストレートなポップさがあると思うのですが、今回は後者が強調されていると感じました。そのぶん、エゴが抑えられているとも感じたんです。

YI:変な曲はなるべく外す方針でした。最近のシングルだと “Juice”(2023年)は気に入っていて、入れるかどうか迷ったんですけど、流れやバランスがよくならなかったので、泣く泣く外したんです。恋愛がテーマの曲なんですけど、それでも外すくらいアルバムの空気を尊重したんですね。変態さを抑えたサウンドにしたつもりなんですけど、“すあま” はピアノの即興演奏だったり、“Dracula” はアヴァンギャルドめだったり、匙加減がわからなくて不安になったので、ポップにかなり寄せたかもしれないです。

作品を客観視していたんですね。

YI:そうしつつ、実は、制作しながら素直な自分を発見しました。恋愛リアリティ・ショーをおもしろがって、キャッキャして見ている自分とか。あと、TikTokでバズっている曲を普通にいいなって思う自分とか。照れ隠ししていた素直な自分にアルバムの制作で出会えたというか、自分は難解なサウンド・プロダクションの曲が本当に好きだったのか? と疑問に思ったり(笑)。

ただ奇を衒っていただけなんじゃないかと。私が好きなエピソードで、入江さんとhikaru yamadaさんがエリック・ドルフィーのmixiコミュニティで出会ったというのがあるんです。でも今回は、エリック・ドルフィー成分は影を潜めているなと(笑)。

YI:変にしなきゃいけない、と思っていた部分もあったかもしれなくて。そこで音数を極力減らして、歌を聴かせるトライをしたんです。

TikTokのヴァイラル・ヒット曲の話がありましたが、参考にした曲はありますか?

YI:意識的に参考にはしていませんが、影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。ストレートな初期衝動の強さを目の当たりにして、ハートに火がついたのはあったかもしれないですね。
“酔いどれ知らず”(Kanaria)って曲、わかります? TikTokの全動画についているんじゃないかってくらいバズった曲なんですけど、「プロジェクトセカイ」でその曲をボカロや声優さんにカヴァーしてもらうために聴いていたら、「みんなが好きな曲、自分も好きだな」と気づいて。抵抗なく自然に体が動いてる自分がいて、「俺、ひねくれていないかもしれない」と(笑)。

ところで、歌詞にご自身の恋愛経験は反映されていますか?

YI:当社比50%以上は入っているかもしれないですね(笑)。自分で歌う曲だと照れやひねくれたところがあって、実体験をさりげなく込めがちなんですけど、このアルバムにはドラマやほかのアーティストへの提供曲もあるので。たとえば、4曲目の “ごめんね” はNONA REEVESの奥田(健介)さんのZEUSというソロ・プロジェクトに提供した歌詞なので、「奥田さんが歌うんだったら」ということで赤裸々に書けたりしたんです。あと、ほかの方が作詞された曲で、自分の気持ちにも合っている曲を取り入れたり。実体験もなるべく込めたものにしたほうが、おもしろいかなと。
 ただ、自分の話をずっとされるのも、リスナーが聴いていてしんどいかなと思いました。生々しすぎてイヤホンを外されるなり、スピーカーをオフられるなり、再生を止められるなりされるのも怖かったので、メタ視点は心がけました。

“ごめんね” について、奥田さんが「彼の音楽って、ちょっと不吉じゃないですか。(中略)スイートな曲のなかにも不吉・不穏な部分を入れたくなる、そういうことをやってるのがラー・バンドだったりするんですけど、入江くんの魅力も良い意味で不吉なところなんですよね」、「すごくストレートなんですが、ちょっとコワい歌詞なんですよね」とMikikiのインタヴューで語っていました(笑)。

YI:「不穏」はいいんですけど、「不吉」というのはすごいですね(笑)。『水』を出したときに、柴田聡子さんから「もう死んだ人が歌っているみたい」って言われたんですよ。スピっているわけじゃないんですけど、それはちょっと意識しています。亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。そう考えると、なおさら自分が作詞作曲した曲じゃなくてもよくなってくる。そういう意味で、「自分がつくる」というエゴが薄まってきているかもしれないですね。

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映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

入江さんってコラボレーションや他者に委ねる制作をしてきたわけですが、その傾向が近年は前景化したと思うんです。

YI:それはかなりありますね。他人に任せてできたものに修正希望を出して直したものより、最初の形のほうがおもしろいなって感じた経験が多くて。それで、任せた方の判断を尊重して信頼する傾向が強まりました。

先日、「これまで音楽に対して信じて倒れ込む、倒れ込み方がちょっと足りなかったかもしれません。次のアルバムでは完全にゆだねて、音楽をベッドと思って倒れ込んでおる気がします」とXにポストしていましたよね。いまのお話と関係しているのかなと。

YI:それ、忘れていました(笑)。そうなんですよ。以前は音楽を信じきれていなくて、ちゃんと倒れ込めていなかったんです。人類が音楽をずっと好きでいる事実――カラオケで歌うのが楽しいとか、子どもたちは歌うのが好きだとか、料理しながら歌をつい口ずさんじゃうとか、そういう音楽と人類の深い、ズブズブの関係に対する信用が足りなかったんですね。なので、個性的なものやエゴを込めないといけないと思っていたのですが、今回はそういうものをなるべく外して、人類と音楽のズブズブの関係に安心して倒れ込もうと。……なにを言ってるのか、自分でもよくわからなってきたんですけど(笑)。いろんなこだわりを脱ぎ捨てよう、という気持ちは強まっていますね。

パンツ一丁、いや、真っ裸になったという(笑)。

YI:まだパンツとタンクトップは着ちゃっていますね(笑)。それでも、だいぶ脱ぎ捨てられました。一時、軽い鬱っぽくなったりもしていたので、精神的にやばくなるのを予防するために、カウンセリングを定期的に受けるようになったんですよ。

“続・充電器” の歌詞にもありますね。

YI:歌詞にも出てくるスズキさんのカウンセリングを受けていて、内観するようになって、素直な自分を発見したことも影響があったかもしれないですね。日本のカウンセリングって、村の老賢者みたいな方が人生訓やアドバイスを授けるようなものも多いんです(笑)。西洋的なカウンセリングは、自分の話を鏡のようにずっとミラーリングしてくれて、自分のイメージが歪んだときにだけちゃんと映してくれるんですね。そういうスタイルのカウンセラーであるスズキさんにたまたま出会えたのは幸運でしたね。

“続・充電器” は内省的な歌詞ですよね。

YI:前半部分は元々の “充電器”(2019年)の歌詞で、後半に後日談を継ぎ足しました。

原曲の、バキバキのエレクトロニックなアレンジからも変わっています。

YI:あれは服部峻さんという狂気じみた……「狂気じみた」は言い過ぎかも(笑)。服部さんというかっこいいサウンド・クリエイターの方によるものでしたが、歌を活かしたアレンジにしたかったのと、「生のストリングスを録ってみたい!」って無邪気な願望があって。ストリングス・アレンジを廣瀬真理子さんという方にやっていただいています。
廣瀬さんが実は、このアルバムの隠れたエリック・ドルフィー性をかなり担っているんです(笑)。「廣瀬真理子とパープルヘイズ」というビッグ・バンドをやっていらっしゃるのですが、微分音を使ったり、かなり変態的なサウンドで。廣瀬さんに参加いただいたのは、“続・充電器” とシングルの “知ってる”(2023年)ですね。今回、ストリングスを入れた曲が増えました。

ストリングスが入っている曲では、“気のせい” の編曲がシンリズムさんで、“道がたくさん” が大沢健太郎さん(元・北園みなみ)。“道がたくさん” はフレスプの石上嵩大さんが作詞作曲をされていて、歌はsugar meさんとのデュエットですね。大沢さんの編曲は、スティーヴィー・ワンダーやシュガー・ベイブなんかのそれを感じさせるものです。

YI:“道がたくさん” は、石上さんのプロジェクトで10年ほど前につくったままお蔵入りになっていた曲のデータが残っていたので、サルヴェージしたんです。ずっと気になっていて、デモを聴きつづけていたんですけど、アルバムの締めくくりに合いそうだと思って。

“気のせい” のシンリズムさんの編曲は、冨田ラボの愛弟子感がよく出ている見事なシティ・ポップですね。

YI:エンジニアの中村公輔さんが京都精華大学でレコーディングの授業を受け持っていて、歌を録音する実践として、当時の生徒さんだった清田(尚吾)さんが書いた曲に、僕が急いで作詞した曲ですね。あとで聴き返したら、意外といい曲だな~と思って。ばーっと書いたから軽やかで、こだわりが希薄になったのかな。

「LINEの返事 書くだけで時間かけて」なんて、すごくいい歌詞だと思いました。

YI:「LINEの返事を返さない人にどうしたらいいの?」みたいな恋愛相談の動画がTikTokで流れてくるんですよ。それで「返事がこないってことは、大切に書いている可能性があるから待ってみて!」と言っていて、なるほど~! と思ったんですよね(笑)。

1曲目の “とまどい” は元々、NHK Eテレのドラマ『東京の雪男』(2023年)の挿入歌だったんですね。

YI:雪男と人間の女性が出会う話なんですけど、前半の歌詞がその出会いを描いたドラマに提供したもので、後半の藤岡(みなみ)さんパートはアルバム用に追加しました。

藤岡さんの声がすごく儚げで、それこそ霊界から響いてきているような歌ですね。藤岡さんは「タイムトラベル指南」ともクレジットされているのですが、これは(笑)?

YI:藤岡さんって、タイム・トラベルがすごく好きなんです。タイム・トラベル専門書店の「utouto」というのをやっているくらい。

タイム・トラベル専門書店ってすごいですね。

YI:明らかにタイム・トラベルしたであろう人も店に現れるらしくて(笑)。まったく同じ人が店の前を2回通過したり、侍が付近を歩いていたりするって、藤岡さんが言っていましたね。
以前、『ミュージック・マガジン』さんの連載(「ふたりのプレイリスト」)で藤岡さんにインタヴューしたとき、縄文土器とか藤岡さんが好きなものはタイム・トラベルに繋がっているとおっしゃっていたんです。それで今回、タイム・トラベル指南をレコーディングの際にしていただきました。僕は、タイム・トラベルはできなかったんですけど(笑)。

「指南」って、具体的にどういうことなんでしょうか(笑)?

YI:タイム・トラベルのおすすめ映画を教えてもらったりとか、それくらいです(笑)。タイム・トラベルという要素やテーマは僕も大切にしていて、時間軸を引き延ばしたり短くしたりするのが好きなんですね。なので、藤岡さんを今後のタイム・トラベルの師匠として招き入れたく、まず歌の客演でオファーしました。

他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。

“とまどい” は、若干ローファイ・ヒップホップっぽいプロダクションですよね。

YI:前半と後半でビート・チェンジする曲が好きで。“とまどい” では、商用利用OKのサンプリング素材を使って、エンジニアの林田涼太さんにミックスしていただいたんです。その素材と歌とのバランスをどうするかという点で、なるべく歌以外の音を減らしたかったので、楽しみながらつくって勉強になりました。

ミックスで歌を大きくしてど真ん中に置いたことも、アルバムをポップにしているのでしょうね。

YI:ドレイクをずっと聴いていたら、歌心やラップが生々しくて真に迫るから、みんなドレイクが好きなのかなって思ったんです。ドレイクの影響っていうと、恥ずかしいんですけど(笑)。ドレイクの影響で、どんどん「歌デカ」にしていこうと思ったんですね。

ビート・スウィッチの話がありましたが、近年の入江さんの作品の特徴ですよね。それもやはり、最近のヒップホップと関係していますか?

YI:かなりありますね。「別曲だと思って聴いてたわ~」みたいなビート・スウィッチの曲って最近、多いじゃないですか。ドレイクと21サヴェージの『Her Loss』(2022年)も、頻繁なビート・スウィッチの曲が多くて好きなんです。それをポップな歌ものでやれたらおもしろいんじゃないかなって。自分は多動傾向があるので、多動欲求を1曲で2曲分満たせるって理由もあるかもしれません(笑)。

あと、やはり気になるのが3曲目の “ときめき” で、マリオ・Cことマリオ・カルダート・Jr.が参加していることに驚きました。

YI:マリオさんから「入江くんの歌、おもしろかったから、なんか一緒にやってみない?」とフランクなメッセージをいただいて、送っていただいた曲に歌をのせてつくった曲です。OMSBさんとの “やけど”(2015年)で知ってくださったんだったかな? カクカクした譜割りじゃない、ふわっとのっている歌の気持ちよさをおもしろがってくれたようです。

作曲にマリオさんと並んでジョナサン・マイアさんという方がクレジットされていて、調べてみたところ、ラテン・グラミー賞を受賞しているブラジルのプロデューサー/エンジニアのようですね。

YI:全楽器をマリオさんとジョナサンさんが担当されている、としか書かれていないので、分担はわからないんですけど、たくさん演奏してくれているのかもしれません。

“ときめき” は「メロディの作曲」が入江さんと記されていますが、入江さんがトップラインだけを書いているというのが、いまどきのコライト的な作曲法だなと思いました。

YI:送られてきたトラックに歌をのせて、お互いの仕事を全尊重、全活かしで完成させたので、楽しかったですね。

ラブリーサマーちゃんとの “海に来たのに” は、シングルとして2023年にリリースされていましたね。

YI:元々、ラップ・デュオのOGGYWESTのメンバーであるLEXUZ YENさんとつくっていた曲です。それを下地に、僕と林田さんがつくり直して、ラブサマさんに歌をのせてもらったので、これもコライト色が強いですね。

ラブサマちゃんのヴォーカルが普段の歌い方とはちょっとちがっていて、90年代J-POP/J-R&Bっぽい発声がいいですね。

YI:ご本人はCharaさんのオマージュだと言っていました。

なるほど! グランジっぽいギターが途中から入ってきますが、これはラブサマちゃんの演奏ですか?

YI:そうです。ラブサマさんだったらギターと一緒にじゃないと、って気持ちがあって。シューゲイザー的な音も好きなので入れたかったんです。
こういうコライト的なつくり方は自分の頭の中と合っているようで、楽しいんですよね。完成したCDを送るために関係者リストをつくったら、70、80人ぐらいいて(笑)。みなさんには感謝しているんですけど、思ったより多かったのが自分でもおもしろかったですね。逆に、全部自分だけでつくったアルバムもおもしろいかなと思うんですけど、多動傾向にあるので、おそらく今後もこのスタイルだろうと思います。海外の作品のクレジットを見ると、作曲者がめちゃくちゃ多くて笑っちゃいますよね。

カニエ・ウェストの作品とか、そうですよね。そこに近づきつつあると。

YI:20人くらいで作曲するスタイルは、いつか挑戦してみたいですね(笑)。

息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

6曲目の “interlude(映画「街の上で」より)” は、サウンドトラックから収録されたのでしょうか?

YI:ミックスは直しましたが、そうです。今泉力哉監督の『街の上で』は下北沢を舞台にした若者たちの恋愛映画なんですけど、そのオープニングで流れる曲だったので、遊び心でアルバムに入れました。
曲として気に入っているのもあるんですけど、今泉監督は映画に参加した作家や俳優を活かそうとするタイプで、僕もすごくのびのびと音楽をつくらせていただいたことが楽しかったんですね。あと、映画音楽をやっている自分と歌を歌っている自分をもうちょっと繋げていきたいというか、壁を溶かしていきたので、アルバムに入れたのもありますね。

そう考えると、『恋愛』というアルバム自体が映画のようで、先ほど関係者リストの人数が多いという話があったとおり、たくさんの出演者やスタッフが関わっている群像劇のように感じますね。

YI:たしかに、自分は映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

8曲目の “あ・ま・み” は元々、姫乃たまさんがnoteで発表した曲ですよね。作詞作曲はスガナミユウさんで、入江さんが編曲しています。姫乃さんが精神的にしんどかった時期に、スガナミさんから贈られた曲だという経緯がありますね。

YI:スガナミさんって、LIVE HAUSの店長をされていて、コーディネーターやイベンターとして世間的に知られていると思うんですけど、ソングライターとしての顔をもっとムキムキ出していってほしい、という思いを勝手に抱いているんです。もちろん、この曲が純粋に好きだったので収録しました。

私も最近、LIVE HAUSのカウンターでしかスガナミさんと会っていなくて、しばらくちゃんとお話ししていないし、ライヴも見にいけていないんです。でも、ソングライターやパフォーマーとしてすごいんですよね。

YI:そうそう! パフォーマーとして最高なんですよね。すごく派手で、エルヴィス・プレスリーばりのステージングをしますからね。
アルバムの流れとして、“続・充電器” で辛い気持ちになって気絶して、“あ・ま・み” は夢の中、“すあま” でみんなが「入江さん!」と呼んで起こそうとしている、というひとつの解釈があります。

たくさんの人びとの声が入江さんに呼びかけている “すあま” は、このアルバムを象徴する曲だと思うんです。どうしてこの曲をつくったんですか?

YI:ポップなアルバムをつくりたかったので、実験的な要素を抑えてたのですが、それを発散しようと思って “すあま” と “Dracula” に込めました。ちょっと自分を解放するというか、こういう変なことをする自分も忘れずにいようと。

入江さんの活動に関わっているKotetsu Shoichiroのええ声なんかも聞こえますが、関係者や友人が参加しているのでしょうか?

YI:姉や甥のような家族、制作期間に会った友だち、恩師や同級生、〈P-VINE〉の前田(裕司)さんとか、全方位的に入江と関わってくれている方々の声です。あと、飼っている猫のすあまも「入江さん」と言っています(笑)。「プロジェクトセカイ」でお世話になっている初音ミクさんの声も入っていますね。

LPはヴァージョンちがいで、CDと配信が “にぎやかVer.” となっているのは?

YI:LPは尺がちょっと短くて人が減っているんです。単純にCDのほうが納期が長かったので、その間に人が増えたんですね(笑)。LP版でフィックスしてもよかったんですけど、諦めきれなくて。

次の “Dracula” はヴォーカルの変調が特徴的ですね。それこそ初音ミクのようにも聞こえますが。

YI:ムーグのアナログ・ヴォコーダーを入手して、そのリッチな音と自分の声を重ねています。ジョルジオ・モロダーの “E=MC²” なんかで使われているヴォコーダーの復刻版らしいですね。林田さんがセッティングに詳しいので、お力添えいただきました。

ポップなアルバムの中で、“Dracula” は最もエレクトロニックで実験的ですよね。

YI:この曲もビート・スウィッチさせるために、前半と後半で音の作家さんが別々なんです。前半が黄倉未来さんで、後半が耶麻ユウキさんというhikaru yamadaくんのサークルの先輩で、アンビエントをつくっている方ですね。おふたりにはどうなるかを知らせずにつくってもらって、それを強引に繋ぎました。歌詞もぐちゃぐちゃしているので、やりたい放題、楽しんだ曲ですね。

“Dracula” の歌詞、すごいですよね。「ウーバー」という言葉が耳に残ります。

YI:Uberで知り合った人たちをモチーフに、いろいろな意味でのマイノリティ、社会からちょっとはぐれている者たちの出会いを描きたかったんですよね。あと、「目を見りゃわかる」って暴力的な表現が好きで。僕は他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。“ときめき” でも、そういうことは歌っているんですけど。

恋愛に引きつけるなら、一目惚れがありますよね。

YI:一目惚れとか、気が合うと思っていたけど全然そんなことなかったとか、そういう勘違いを含めて豊かなことだなと思うんです。
よく考えたら、息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

4月6日にタワーレコード渋谷店のTOWER VINYL SHIBUYAで、4月13日にタワーレコード梅田NU茶屋町店でインストア・ライヴの開催が予定されていますね。

YI:ライヴはリハビリも兼ねてなんですけど、自信がなくなってきたので、ギタリストの小金丸慧さんにサポートしてもらいます。小金丸さんは「プロジェクトセカイ」でもお世話になっているし、このアルバムでも “ごめんね” のアレンジとか、かなりがっつりといろいろな形で参加してもらっています。“海に来たのに” では、ラブサマさんのギター・テックもやってもらっていますね。ほんとに、小金丸さんなしでは成り立っていない作品です。

小金丸さんって、メタラーでありながらジャズ・シーンでも活躍されていて、ユニークなミュージシャンですよね。先日、ちょうど取材しました(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/36890)。

YI:もともと音大を次席で卒業するくらい優秀なミュージシャンなんですけど、ジャズ科の卒制がメタル作品だという破壊的な部分もあり、人柄はすごく優しくて、最高におもしろい方ですね。

入江さんのひさびさのライヴ、楽しみですね。

YI:今年からは、ライヴもやっていけたらと思ってます。全然やっていないくて、今回のインストアはかなりひさしぶりなので、入念に準備して、「絶対にできる!」って確信した状態じゃないとできない(笑)。

【入江陽『恋愛』 リリース記念 ミニライブ&サイン会】
◎TOWER VINYL SHIBUYA
日時:4/6(土) 15時~
場所:タワーレコード渋谷店6F
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://towershibuya.jp/2024/04/06/193759

◎タワーレコード梅田NU茶屋町店
日時:4/13(土) 14時~
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店(NU茶屋町 6F)
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://tower.jp/store/event/2024/4/096003
※ミニライブ・サイン会の参加方法は各店のHPをご参照ください。

【ライヴ情報】
「入江陽 New Album「恋愛」Release Event in 愛知」
日時:4/14(日)open18:00 start18:30
会場:金山ブラジルコーヒー
https://kanayamabrazil.net/index.html

出演:
・入江陽(れんあいset)
・森脇ひとみ(その他の短編ズ)
・The Kota Oe Band

予約:¥2500(+1d¥600) 当日¥3000(+1d¥600)
予約窓口:nqlunch@gmail.com(金山ブラジルコーヒー)

Larry Heard - ele-king

 シカゴ・ハウスのレジェンドのなかのレジェンド、ラリー・ハードが13年ぶりに来日する。ディープ・ハウスを定義した“Can You Feel It”、ハウスの妖しい光沢を示した“Mystery Of Love”、アシッド・ハウス・クラシックの“Washing Machine”……多くのクラシックを残した重鎮、この機会を見逃すな。

■Larry Heard aka Mr.Fingers Japan Tour 2024

4.26(Fri) 名古屋 @Club Mago

music by
Larry Heard aka Mr.Fingers
ayapam D.J. (WIDE LOOP)
Longnan (NOODLE)

2nd room DJ:
xxKOOGxx (Raw Styelz, VINYL)
HIROMI. T PLAYS IT COOL.

food: ボヘミ庵

Open 22:00
Advance 3,000yen(https://club-mago.zaiko.io/item/363289
Door 4,000yen

Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


4.27(Sat) 東京 @VENT
=ROOM1=
Larry Heard aka Mr.Fingers
CYK
=ROOM2=
SHOTAROMAEDA
SATOSHI MATSUI
Pixie
Hikaru Abe

Open 23:00
DOOR: 5,000yen
ADVANCE TICKET: 4,500yen (優先入場)
(https://t.livepocket.jp/e/vent_20240427)
SNS DISCOUNT: 4,000yen

Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652


4.28(Sun) 江ノ島 @OPPA-LA
- the ORIGINAL CHICAGO -

DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ IZU
artwork SO-UP (phewwhoo)
supported Flor de Cana
Open 16:00 - 22:00
"Limited 134people" Mail Reservation  *SOULD OUT*
5,000yen / U-23 : 3000yen (http://oppa-la.net)
Door
6,000yen / U-23: 4,000yen
Info: OPPA-LA http://oppa-la.net
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-12-17 江ノ島ビュータワー4F TEL 0466-54-5625


5.2 (Thu) 大阪 @Club Joule
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ Ageishi, YAMA, Chanaz (PAL.Sounds)
PA: Kabamix
Coffee: edenico
Open 22:00
Door 5,000yen
Advance 4,000yen (e+ 3/22~販売
https://eplus.jp/sf/detail/4073520001-P0030001)
U-23 3,000yen

Info: Club Joule www.club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F TEL 06-6214-1223

Larry Heard a.k.a Mr.Fingers (Alleviated Records & Music)

 ゴッドファーザー・オブ・ディープハウス、シカゴハウスのオリジネーター、Mr.FingersことLarry Heardはシカゴのサウスサイドで生まれ、両親のジャズやゴスペルのレコードコレクションから音楽に興味を示すようになる。ローカルバンドでドラムを演奏していたが、シンセサイザーに魅かれ、1984年からシンセサイザーとドラムマシンでの音楽制作を開始する。1985年、Mr.Fingersとして”Mystery Of Love” でレコードデビュー。シカゴではハウスミュージックが全盛期を迎える中、1986年にリリースされたMr.Fingers ”Can You Feel It”は説明不要のハウスミュージック名曲として知られる。
 1988年にリリースされたMr.Fingersファーストアルバム『Amnesia』や、Fingers Inc.(Larry Heard、Robert Owens、Ron Wilson) アルバム『Another Side』ではハウスミュージックの創造性を追求し、シカゴハウス最高峰アルバムとして評価されている。1992年、ディープハウスを背景にR&Bやジャズ、コンテンポラリーな要素を取り込んだ、Mr.Fingers アルバム『Introduction』でMCAよりメジャーデビュー。
 1994年、Black Market Internationalよりリリースされた、Larry Heard名義としてのファーストアルバム『Sceneries Not Songs, Volume One』では、フュージョンやニューエイジをLarry流に昇華し、チルアウトやダウンテンポに傾倒した作風によってアンビエントハウスという言葉を産んだ。
作品はその後もコンスタントにリリースされながらもLarryは突如シーンからの引退を宣言し、コンピュータープログラミングの仕事に専念するためにメンフィスに移る。
 Track Mode主宰のBrett Dancerを筆頭に、アトランタのKai AlceやデトロイトのTheo Parrishらの功労によって、アンダーグラウンドなネットワークを通じてLarryは再度シーンと接触し、2001年にLarry Heard名義のアルバム『Love's Arrival』のリリースを伴いカムバックする。
現在もメンフィスを拠点に活動し、Mr.Fingers名義での最新アルバム『Around The Sun Pt.1』(2022年)、『Around The Sun Pt.2』(2023年)を自身主宰のレーベルAlleviated Records&Musicからリリース。
 彼の過去の作品が数多く再発されている近今、13年振りの来日となる。

http://alleviatedrecords.com

Don Letts - ele-king

 最後に来日にしたのが2018年だから、6年ぶりの来日。1976年/1977年のUKパンクにレゲエをたたき込んだひとりです。レッツの素晴らしい経歴に関しては、エレキングの過去の記事を参照してください。
 今回は、ドンの18年来の友人である『Hatchuck』とドン・レッツで’23年に設立したクロー ジングプロジェクト『REBEL DREAD HARDWARE 』のローンチを記念したツアーとなる。とにかく、パンクとレゲエが好きな人たちはみんな集合です。
www.rebeldreadhardware.com
2024.01.22. Rebel Dread Hardware

■ツアースケジュール

2/8(木) 東京 DOMMUNE : Talk Session
司会:高木完 トークゲスト:HIKARU (BOUNTY HUNTER)・小林資幸 (PHINGERIN) + more
https://www.dommune.com/

2/9(金) 広島 Club Quattro :DJ with DJ光(BLASTHEAD)
https://www.club-quattro.com/hiroshima/schedule/

2/10(土) 松山 FAKIE STANCE : 映像上映会
https://www.instagram.com/fakiestance

2/10(土) 松山 Bar Caesar : DJ
https://www.instagram.com/barcaezar

2/11(日) 博多 KiethFlack : DJ
https://kiethflack.net/schedule/rebel-dread-hardware-kf30th-01/

2/14(水) 東京 Shimokitazawa Club Que : 映像上映会
https://clubque.net/schedule/3647/

2/16(金) 東京 DJ BAR Bridge SHINJUKU : DJ with 高木完・EMMA・クボタタケシ ・DJ MAGARA (MASTERPIECE SOUND)・ Shoma fr,dambosound
https://djbar-bridge.com/

2/17(土) 岡山 YEBISU YA PRO : DJ with KENJI TAKIMI (Crue-L)
http://yebisuyapro.jp/events/v/1341

2/18(日) 大阪So-Core : DJ
https://socorefactory.com/schedule/2024/02/18/don-letts-rebel-dread-hardware-japan-tour-24/

また、このツアーを記念し、偉大なるパンク・バンド “THE SLITS” のスウェットシャツを、 REBEL DREAD HARDWARE にて制作。デザインは CORNELIUS, GEZAN などのアートワークでも知られる 北山雅和氏が手掛けた。(https://www.instagram.com/ktymmasakazu

 REBEL DREAD HARDWARE official site、VIVA Strange Boutiqueなど、全国の正規取扱店にて 2/8(木)より販売。

“ARI UP FROM THE SLITS” Crew Shirts
(アリアップ フロム ザ スリッツ クルーシャツ) GREY, WHITE / 各 20,350円(税込) / S, M, L, XL

“THE SLITS MEMBER” Crew Shirts
(ザ スリッツ メンバークルーシャツ) GREY, WHITE / 各 20,350円(税込) / S, M, L, XL

REBEL DREAD HARDWARE
https://www.rebeldreadhardware.com

VIVA Strange Boutique
https://www.vivastrangeboutique.com/

L’Rain - ele-king

 ブルックリン育ちのミュージシャン兼キュレーターのロレインことタジャ・チークは、3作のアルバムを通じて、彼女が「approaching songness(歌らしさへの接近)」と呼ぶ領域間で稼働してきた。その音楽は、記憶と連想のパリンプセスト[昔が偲ばれる重ね書きされた羊皮紙の写本]で、人生のさまざまな局面で作曲された歌詞とメロディーの断片が、胸を打つものから滑稽なものまで、幅広いフィールド・レコーディングと交互に織り込まれている。それはつねに変化し、さまざまな角度からその姿を現す。ニュー・アルバム『I Killed Your Dog』の “Our Funeral” の冒頭の数行で、チークはオートチューンで声を歪ませて屈折させ、息継ぎの度に変容させていく。焦らそうとしているわけではなく、一節の中に複数のヴァージョンの彼女自身を投影させるスペースを作り出そうとしているのだ。高い評価を得た2021年のアルバム『Fatigue』のオープニング・トラックは、「変わるために、あなたは何をした?」との問いかけではじまっている。ロレインは確かな進化を遂げながら、その一方でチークは、これまでの作品において、一貫性のある声を保っているのだ。ループするギター、狂った拍子記号、糖蜜のようににじみ出る、心を乱すようなドラムスなど、2017年の自身の名を冠したデビュー盤でみられた音響的な特徴は、『I Killed Your Dog』でも健在だ。同時にロレインは、これまでよりも人とのコラボレーションを前面に打ち出している。今回は、彼女とキャリアの初期から組んできたプロデューサーのアンドリュー・ラピンと、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チャポトー=カッツの両者が、彼女自身と共にプロデューサーとしてクレジットされているのだ。チークが過去の形式を打ち破ることを示すもっとも明白なシグナルは、気味が悪くて注意を引く今作のアルバム・タイトルに表れている。『I Killed Your Dog』の発売が発表された際のピッチフォークのインタヴューでは、これは彼女の「基本的にビッチな」アルバムであり、リスナーの期待を裏切り、意図的に不意打ちを食らわせるものだと語っている。また他のインタヴューでは、最近、厳しい真実を仕舞っておくための器としてユーモアを利用するピエロに嵌っていることに言及している。これは、感傷的なギターとピッチを変えたヴォーカルによる “I Hate My Best Friends(私は自分の親友たちが大嫌い)” という1分の長さの曲にも表れている。(念のため、実際には彼女は犬好きである。)
 メディアは、ロレインの音楽がいかにカテゴライズされにくいかということを頻繁に取り上げている。だが、チークが黒人女性であり、予期せぬ場で存在感を発揮していることから、これがどの程度当たっているのかはわからない。その点では、彼女には他のジャンル・フルイド(流動性の高い)なスローソン・マローン1(『Fatigue』にも貢献した)、イヴ・トゥモア、ガイカやディーン・ブラントなどの黒人アーティストたちとの共通点がある。「You didn’t think this would come out of me(私からこれが出てくるとは思わなかったでしょ)」と、彼女は “5to 8 Hours a Day (WWwaG)” で、パンダ・ベアを思わせるような、幾重にも重ねられたハーモニーで歌っている(「この歌詞の一行は間違いなく、業界へ向けた直接的な声明だ」と彼女はClash Musicでのインタヴューで認めている)。
 『I Hate Your Dog』 では、チークがこれまででもっともあからさまにロックに影響された音楽がフィーチャーされているが、彼女のこのジャンルとの関係性は複雑なものだ。最初に聴いたときに、私がテーム・インパラを思い浮かべた “Pet Rock” について、アルバムのプレス・リリースにはこう書かれている──2000年代初期のザ・ストロークスのサウンドと、若い頃のロレインが聴いたことのなかったLCDサウンドシステム──これには、一本とられた。
 彼女の初期のアルバムと同じくシーケンス(反復進行)は完璧で、各トラックを個別に聴くことで、その技巧を堪能することができる。これは、トラックリストに散りばめられたスキットやミニチュアに顕著で、アルバムのシームレスな流れに押し流されてしまいがちだ。33秒間という長さの “Monsoon of Regret” は、微かな焦らしが入ったような、混沌とした曲であり、“Sometimes” は、アラン・ローマックスがミシシッピ州立刑務所にループ・ペダルをこっそり忍び込ませたかのような曲だ。
 “Knead Be” がアルバム『Fatigue』の言葉のないヴォーカルとローファイなキーボードによる1分間のインタールードで、ヴィンテージなボーズ・オブ・カナダのようにワープし、不規則に揺れる “Need Be” をベースにしている曲だと気付くには、注意深く聴き込む必要がある。この曲でチークは、そのトラックに沈んでいたメロディーの一節を、小さい頃の自分に、物事がうまくいくことを悟らせる肯定的な賛歌へと拡大した。ただ、その言葉(「小さなタジャ、前に進め。あなたは大丈夫だから」)はミックスの奥深くに潜んでいるため、歌詞カードを見ないと、何と歌っているのか判別するのが難しい。
 初期の “Blame Me” のような曲では、チークはひとつのフレーズのまわりを、まるでメロディーの断片が頭の中に引っかかってリピートされているかのようにグルグルと旋回する。『I Killed Your Dog』では、何度かデイヴィッド・ボウイの “Be My Wife” のようなやり方で、一度歌詞を最後まで通したかと思うと、またそれを繰り返して歌う。あらためて聴き返すと、彼女が足を骨折した後に書いたバラード調の “Clumsy(ぎこちない・不器用)” ほどではないが、歌詞は、その歌詞に出てくる問いかけ自体に回答しているかのように聴こえる。“Clumsy” では曲の最後に、冒頭で投げかけた問いへと戻る。「想像もつかないような形で裏切られたとき、(自分が足をついている)地面をどのように信頼しろというの?」
 彼女はまだ、答を探り続けているのかもしれない。
 終曲の “New Years’ UnResolution” は、チークがアルバムを「アンチ・ブレークアップ(別れに反対する)」レコードと表現したことを端的に表している。この曲でも、歌詞がループとなって繰り返されるが、今回はその繰り返しの中で、歌詞が大きく変えられているのだ。彼女はその言葉には、別れた直後と、かなりたってから、後知恵を働かせて書いたものがあると説明している。バレアリックなDJセットで、宇多田ヒカルの “Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-” と並べても違和感のない、ダブ風のキラキラと揺れる光のようなグルーヴに乗せて、チークは、陰と陽のような、互いを補いあう2つのヴァースを生み出している。

ひとりでいるのがどんな感じか忘れてしまった
雨を吐いて 雪を吐き出す。
日々は、ただ古くなっていく
何も持たないということがどんなものか知っている?
どんなものかは知らないけれど
あなたは今夜ここに来る?
私から電話するべきか あるいは無視するべき? 私は……する
恋をするということがどんな感じか忘れてしまった
太陽を飲み込んで 雪を吐き出す
日々は、古くはならない。
何かを持っているということがどんなことか知っている?
ふたりともそれを知っている。
ただ真っ直ぐに私の目を見て
あなたから私に電話するべきか あるいは私を無視するべき? あなたは……する

 彼女はいまや、人生を両側から眺めることができたのだ。


L’Rain - I Killed Your Dog

written by James Hadfield

Across three albums, L’Rain – the alias of Brooklyn-raised musician and curator Taja Cheek – has operated in an interzone that she calls “approaching songness.” Her music is a palimpsest of memories and associations, interleaving fragments of lyrics and melodies composed at different points in her life, with field recordings that range from poignant to hilarious. It’s constantly shifting, revealing itself from different angles. During the opening lines of “Our Funeral,” from new album “I Killed Your Dog,” Cheek contorts and refracts her voice with AutoTune, morphing with each breath she takes. It isn’t that she’s playing hard to get, more that she’s making space for multiple versions of herself within a single stanza.

“What have you done to change?” asked the opening track of her widely acclaimed 2021 album “Fatigue.” L’Rain has certainly evolved, but Cheek has maintained a consistent voice throughout her work to date. Many of the sonic signatures from her self-titled 2017 debut – looping guitar figures, off-kilter time signatures, phased drums that ooze like treacle – are still very much present on “I Killed Your Dog.” At the same time, L’Rain has become a more collaborative undertaking: She’s quick to credit the contributions of producer Andrew Lappin – who’s been with her since the start – and multi-instrumentalist Ben Chapoteau-Katz, both of whom share producer credits with her this time around.

The most obvious signal that Cheek is breaking with past form on her latest release is in the album’s lurid, attention-grabbing title. As she told Pitchfork in an interview when “I Killed Your Dog” was first announced, this is her “basic bitch” album, pushing back against expectations and deliberately wrong-footing her listeners. She’s spoken in interviews about a recent fascination with clowns, who use humour as a vessel for hard truths. In this case, that includes a minute-long song of gooey guitar and pitch-shifted vocals entitled “I Hate My Best Friends.” (For the record, she loves dogs.)

Media coverage frequently notes how resistant L’Rain’s music is to categorising, though it’s hard to say how much this is because Cheek is a Black woman operating in spaces where her presence wasn’t expected. In that respect, she has something in common with other genre-fluid Black artists such as Slauson Malone 1 (who contributed to “Fatigue”), Yves Tumor, GAIKA and Dean Blunt. “You didn’t think this would come out of me,” she sings on “5 to 8 Hours a Day (WWwaG),” in stacked harmonies reminiscent of Panda Bear. (“That line is definitely a direct address to the industry,” she confirmed, in an interview with Clash Music.)

“I Hate Your Dog” features some of Cheek’s most overtly rock-influenced music to date, although her relationship with the genre is complicated. According to the press notes for the album, “Pet Rock” – which made me think of Tame Impala the first time I heard it – references “that early 00’s sound of The Strokes and LCD Soundsystem that L’Rain never listened to in her youth.” Touché.

Like her earlier albums, the sequencing is immaculate, and it’s worth listening to each track in isolation to appreciate the craft. That’s especially true of the skits and miniatures scattered throughout the track list, which can get swept away in the album’s seamless flow. The 33-second “Monsoon of Regret” is a tantalising wisp of inchoate song, reminiscent of Satomimagae; “Sometimes” is like if Alan Lomax had snuck a loop pedal into Mississippi State Penitentiary.

It takes close listening to realise that “Knead Be” is based on “Need Be” from “Fatigue,” a one-minute interlude of wordless vocals and lo-fi keyboards that warped and fluttered like vintage Boards of Canada. Here, Cheek takes the wisp of melody submerged within that track and expands it into a hymn of affirmation, in which she lets her younger self know that things are going to work out – though her words of encouragement (“Go ’head lil Taja you’re okay”) lurk so deep in the mix, you’d need to look at the lyric sheet to know exactly what she’s singing.

On earlier songs such as “Blame Me,” Cheek would circle around a single phrase, like having a fragment of a melody stuck in your head on repeat. Several times during “I Killed Your Dog,” she runs through all of a song’s lyrics once and then repeats them, in the manner of David Bowie’s “Be My Wife.” Heard again, the words sound like a comment on themselves – no more so than on the ballad-like “Clumsy” (written after she broke her foot), when she returns at the end of the song to the question posed at its start: “How do you trust the ground when it betrays you in ways you didn’t think imaginable?” It’s like she’s still grasping for an answer.

Closing track “New Year’s UnResolution” – which best encapsulates Cheek’s description of the album as an “anti-break-up” record – also loops back on itself, except this time the lyrics are significantly altered in the repetition. She’s explained that the words were written at different points in time, both in the immediate aftermath of a break-up and much later, with the earned wisdom of hindsight. Over a shimmering, dub-inflected groove that wouldn’t sound out of place alongside Hikaru Utada’s “Somewhere Near Marseilles” in a Balearic DJ set, Cheek delivers two verses that complement each other like yin and yang:

I’ve forgotten what it’s like to be alone
Vomit rain spit out snow.
Days, they just get old.
Do you know what it’s like to have nothing?
I don’t know what it’s like.
Will you be here tonight?
Should I call you or should I ignore you? I will...
I’ve forgotten what it’s like to be in love
Swallow sun spit out snow
Days, they don’t get old.
Do you know what it’s like to have something?
We both know what it’s like.
Just look me in the eye.
Should you call me or should you ignore me? You will...

She’s looked at life from both sides now.

李劍鴻 Li Jianhong - ele-king

 『The Wire』2021年7月号で北京のトゥ・ウェンボウ(朱文博/Zhu Wenbo)が運営するレーベル〈Zoomin’ Night〉の特集が組まれたほか、同8月号では恒例企画「めかくしジュークボックス」にリー・ジェンホン(Li Jianhong/李剣鴻)とウェイ・ウェイ(Wei Wei/韋瑋)が登場するなど、ここにきて中国のアンダーグラウンドなノイズ/即興/実験音楽シーンがにわかに注目を集めはじめている。5月にイタリアの〈Unexplained Sounds Group〉から中国実験音楽のコンピ『Anthology Of Experimental Music From China』がリリースされたことも記憶に新しいが、本稿ではアンダーグラウンドなシーンにおける重要人物のひとりリー・ジェンホンにスポットを当て、彼が今年の春に発表した2枚の新作アルバム『山霧 Mountain Fog』『院子里的回授 Feedback in the courtyard』を紹介する。

 リー・ジェンホンは〈P.S.F. Records〉からのリリースでも知られる中国の実験音楽家/ノイズ・ミュージシャン/ギタリスト。1975年に生まれ、中国・杭州で90年代よりバンド活動をはじめ複数のグループで活躍。90年代後半に中国でインターネットが普及しはじめたことをきっかけに、ノイズや即興、実験音楽なども聴くようになっていったという。2003年には知り合いのミュージシャンとともにレコード・レーベル〈2pi Records(第二層皮独立唱片機構)〉を設立、同年にファースト・ソロ・アルバム『在開始之前、自由交談 Talking Freely Before The Beginning』を発表。また2003年から2007年にかけて 2pi 音楽フェス(第二層皮音楽節)を開催し、中国有数の前衛/実験音楽の祭典として知られるようになる。ゼロ年代後半から北京でも活動しはじめ、2011年に移住。同年には Vavabond 名義で知られるノイズ・ミュージシャン、ウェイ・ウェイとともに新たにレーベル〈C.F.I Records〉を立ち上げる。以降、これまで中国内外のレーベルから多数のアルバムを発表しており、中国においてアンダーグラウンドな音楽シーンが誕生した初期から活動を続けている代表的なミュージシャンのひとりとして高い評価を得ている。

 同じく中国出身で現在はフランスを拠点に活動しているミュージシャン、ルオ・タン(Ruò Tán/若潭)が運営するレーベル〈WV Sorcerer Productions〉からリリースされた『山霧 Mountain Fog』は、ジェンホンの真骨頂とも言うべきノイズ・ギターをソロとデュオで収録したライヴ・レコーディング作品。1曲目のソロではいきなり激烈なフィードバック・ノイズが鳴り響き、高柳昌行や大友良英を彷彿させる攻撃的な展開が延々と続く。だがオクターバーを使用して重低音を効かせ、フィードバックの持続音を強調した演奏内容は、ハーシュなノイズ・ミュージックではなくドゥームメタルにも近いダウナーなアンビエント/ドローンのようにも聴こえてくる。こうした傾向は中国の若手サックス奏者ワン・ズホン(Wang Ziheng/王子衡)を迎えた続く2曲目のデュオ・セッションでより顕著に表されており、ドローン状のギターとサックスが時に渾然一体となる特異な音楽内容は、フリー・インプロヴィゼーションの歴史に多数の名演を刻んだ編成(高柳昌行と阿部薫のデュオをはじめギターとサックスによる即興の系譜についてはhikaru yamada hayato kurosawa duo『we oscillate!』のライナーノーツで掘り下げたのでより詳しく知りたい方はそちらをご参照ください)でありながら、これまでのどの作品とも似ていない唯一無二のサウンドを生み出している。

 他方の『院子里的回授 Feedback in the courtyard』はジェンホン自身のレーベル〈C.F.I Records〉からリリースされたソロ・アルバム。フィールド・レコーディングとインプロヴィゼーションのあわいをいくような作品で、人びとの話し声や咳払い、虫の音、航空機の音など環境音と一体化するように、ギターの繊細なフィードバック・ノイズや電子音響のようなサウンドが聴こえてくる。紙版『ele-king vol.25』に寄稿したジャンル別2019年ベストのインプロヴィゼーションの項で触れたように、近年の即興音楽には環境音を活用した作品が多数発表されているものの、ジェンホンはこうした試みにすでに10年以上にわたって取り組み続けている。というのも彼は2010年に3枚組のアルバム『環境即興 Environment Improvisation』*をリリース、雨音や鳥の鳴き声、羽虫の飛び交う音といった自然環境の響きから、人びとの生活音、例えば日常会話やテレビから流れる音声、果ては酒場から聞こえてくる楽しげな音楽までをも相手取りながらギターによる即興演奏を行ない、その後も環境音と即興演奏を統合する独自の方法論を探求してきているのだ。今作では「おもちゃを片付けようとしない子供たち」や「夕食後のキッチンの片付け」、「夜10時、母はまだ咳き込んでいた」といった各楽曲のタイトルが示すように、まるでドラマ仕立てで日常生活のワンシーンを切り取るような環境音の響きとともに演奏を行なう内容となっている。

 冒頭で述べたように『The Wire』が中国のアンダーグラウンドなシーンを相次いで取り上げているものの、ジェンホンをはじめ中国で活躍するミュージシャンたちの多くは独自のコンテクストですでに長期間の活動を継続してきているのであり、その蓄積を見落としてはならないということは付け加えておきたい。なお、ギタリストとしてのジェンホンの活動を辿り直した記事が2019年に Bandcamp に掲載されているほか、コロナ禍に見舞われて以降の中国の実験的な音楽シーンについてはウェブ・マガジン『Offshore』主宰の山本佳奈子さんが多数のコラムを精力的に執筆されているので、あわせてお読みいただけるとより理解が深まるのではないかと思います。

*『環境即興 Environment Improvisation』は現在Bandcampでそれぞれ『十二境 Twelve Moods』『空山 Empty Mountain』『在这里 Here Is It』として個別に購入することもできる。

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