「S」と一致するもの

Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra - ele-king

 ファースト・アルバムのリリースから早20年。ソロからオーケストラまで多角的に活動をつづける音楽家、最近ではアニメ『花緑青が明ける日に』の劇伴も記憶に新しい蓮沼執太だが、来たる8月6日(木)、赤坂のサントリーホールにて活動20周年記念コンサートが開催されることになった。彼が率いる「蓮沼執太フィル」に、今回新たに編成された弦楽オーケストラを加えた、総勢41名から成る「蓮沼執太Wフィル」によるパフォーマンス。詳しくは下記より。

蓮沼執太活動20周年記念コンサート「蓮沼執太Wフィル」総勢41名となる蓮沼執太フィル+弦楽オーケストラの出演者発表!

2006年に米国のインディーズレーベルから1stアルバムをリリースし、今年で20年を迎える蓮沼執太。これまでの活動20周年を記念したコンサート「蓮沼執太Wフィル | Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra」を、2026年8月6日(木)、東京・赤坂のサントリーホールにて開催する。自身のオーケストラ・蓮沼執太フィルと、新たに編成した弦楽オーケストラによる、総勢41名の「蓮沼執太Wフィル」のメンバーが本日発表された。また、公演に向けてリハーサルを重ねている様子も公開となった。

今回は従来の蓮沼執太フィルに、打楽器奏者の宮坂遼太郎がゲスト参加。さらに、弦楽オーケストラのディレクター・徳澤青弦のもと、コンサートマスター・金子昌憲をはじめとする弦楽器奏者24名が集う大編成となる。

会場は、今年開館40周年を迎え「世界一美しい響き」をもつと言われるサントリーホール。蓮沼は、弦楽オーケストラ編成による新たな挑戦の場として、この会場を選んだ。20年の活動の集大成となる、一夜限りの本公演。この空間、メンバーだからこそ生まれる新たな響き、「最高の音楽体験」をお見逃しなく。

■公演概要

活動20周年記念コンサート
蓮沼執太Wフィル | Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra

日時:2026年8月6日(木)開場 18:00 / 開演 19:00
会場:サントリーホール 大ホール(東京都港区赤坂1-13-1)
詳細:https://www.shutahasunuma.com/products/suntoryhall-w-phil

出演:蓮沼執太Wフィル

蓮沼執太フィル

蓮沼執太
石塚周太 (Guitar)
itoken (Drums)
大谷能生 (Saxophone)
音無史哉 (Sho)
尾嶋優 (Drums)
葛西敏彦(FOH)
K-Ta (Marimba)
小林うてな (Steelpan)
ゴンドウトモヒコ (Euphonium)
斉藤亮輔 (Guitar)
千葉広樹 (Bass, Violin)
手島絵里子 (Viola)
宮地夏海 (Flute)
三浦千明 (Flugelhorn)

宮坂遼太郎 (Percussions)

String Ensemble Director
徳澤青弦

Concertmaster
金子昌憲

1st Violins
村田晃歌
浅倉美羽佳
新井桃子
大久保良明
門倉茜
佐藤瞳子
奈須田弦

2nd Violins
町田匡
藤岡瑞季
伊藤梢
廣田碧
盧佳那
若杉知怜

Violas
世川すみれ
宮川清一郎
武市華奈
難波洸

Cellos
日下部杏奈
築地杏里
秋津瑞貴
岡本梨紗子

Contrabasses
谷口拓史
廣永瞬

舞台監督:高野洋
音響:葛西敏彦
照明:佐藤円
舞台美術:HYOTA
宣伝美術:前田晃伸
映像:井前隆一郎
制作:高木鉄平 (TETO)、芳田詠心 (windandwindows)、平松隼人
物販:sakumotto
コーディネーター:河村美帆香、佐々木奈美、永江大

主催:J-WAVE / windandwindows / ホットスタッフ・プロモーション
企画/制作:windandwindows /TETO
問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077 (平日12:00〜18:00)
http://www.red-hot.ne.jp/

■チケット情報

PG会員先行(e+)
4月15日(水)10:00〜4月26日(日)23:59
イープラス(国内)
e+(Overseas Sales)

PG会員先行(ぴあ)
4月29日(水)10:00〜5月10日(日)23:59

PG会員先行(ローソン)
5月13日(水)10:00〜5月19日(火)23:59

オフィシャル最終先行(e+)
2026年5月22日(金)18:00〜5月28日(木)23:59 ※抽選イープラス
e+(国内)
e+(Overseas Sales)

一般発売
2026年6月6日(土)10:00 ※先着
イープラス(国内)
e+(Overseas Sales)
チケットぴあ
ローソンチケット

■チケット料金 (税込)

SS席 ¥15,000 / S席 ¥12,000 / A席 ¥9,500 / B席 ¥6,600 / C席 ¥4,400
/ U-20席 ¥3,300 / 親子席おとな ¥6,600 親子席こども ¥2,500

小学生以上有料。未就学児童は無料 (大人1名につき、こども1名まで膝上可) 。但し、座席が必要な場合はチケット必要。小学生以下のお子さま連れの方は親子席エリア以外での鑑賞はできません。必ず親子席チケットをお買い求めください。

◆PROFILE

蓮沼執太Wフィル|Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra

音楽家・蓮沼執太、活動20周年を記念したコンサートにて結成。自身のオーケストラ・蓮沼執太フィル15名に加え、パーカッションに宮坂遼太郎、弦楽オーケストラのディレクター・徳澤青弦のもと、コンサートマスター・金子昌憲を迎えた弦楽オーケストラ24名の総勢41名から成る。2026年8月6日のサントリーホール「蓮沼執太Wフィル」に出演。

蓮沼執太フィル|Shuta Hasunuma Philharmonic Orchestra

蓮沼執太がコンダクトする、現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ。2010年に結成。2014年にアルバム『時が奏でる』、2018年に『アントロポセン』をリリース。2019年にフジロックフェスティバルへ出演、日比谷野外音楽堂での単独公演を成功におさめる。2023年にアルバム『シンフィル』をリリースし、オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル公演『ミュージック・トゥデイ』を開催した。

蓮沼執太|Shuta Hasunuma
音楽家、アーティスト

1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して、国内外での音楽公演をはじめ、映画、テレビ、演劇、ダンス、ファッション、広告など様々なメディアでの音楽制作を行う。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、彫刻、映像、インスタレーション、パフォーマンス、プロジェクトを制作する。

近年のアルバムに蓮沼執太チーム『TEAM』(2025)、灰野敬二 + 蓮沼執太『う       た』(2025)、『unpeople』(2023)。東京2020パラリンピック開会式にてパラ楽団を率いてパラリンピック讃歌編曲、楽曲「いきる」を作詞、作曲、指揮を担当。近年のコンサート・パフォーマンスに「unpeople 初演」(草月プラザ石庭『天国』/ 2024)、「ミュージック・トゥデイ」(オペラシティ・コンサートホール・タケミツメモリアル / 2023)など。

主な個展に「Compositions」(Pioneer Works 、ニューヨーク/ 2018)、「 ~ ing」(資生堂ギャラリー、東京 / 2018)などがある。また、近年のプロジェクトやグループ展に「Someone’s public and private / Something’s public and private」(Tompkins Square Park 、ニューヨーク/ 2019)、「FACES」(SCAI PIRAMIDE、東京 / 2021)、など。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

2026年8月6日に活動20周年記念コンサートを東京サントリーホールで開催。

蓮沼執太:http://www.shutahasunuma.com
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NordOst - ele-king

 ついにこの日が……DJのNordOstこと松島広人、この春ele-king編集部を飛び出した男による2年ぶりのワンマン公演が5月8日(金)、幡ヶ谷FORESTLIMITにて開催される。題して「第四の道:alone」。6時間のオープン・トゥ・ラストのセットである。PAにYuri Kimを迎え、Tシャツも予定と気合い十分。松島のこの2年の経験がすべて詰め込まれるだろう一夜、これはぜひ駆けつけましょう。

NordOstによるAll Night Long公演「第四の道:alone」開催

NordOstが主催するパーティーシリーズ〈第四の道〉が、5月8日 (金)に2年ぶりのOpen to Last公演「第四の道:alone」として幡ヶ谷FORESTLIMITにて開催。今回は深夜開催での6時間オールナイトロングセットを披露。

PAにはポスト・ダブ・バンドPADOのコンポーザーの傍ら、小箱のパーティーから大規模公演、野外レイヴ、〈Protest Rave〉までを幅広く手がけるPA/Sound EngineerのYuri Kimを迎える。フライヤーデザインはcosgasoが手がけた。なお、本イラストは数量限定で〈第四の道〉初のTシャツ化予定とのこと。

DJとしてのNordOstは、2021年6月に〈K/A/T/O MASSACRE vol.325〉でデビューして今年で5年を迎える。今回は古巣である幡ヶ谷FORESTLIMITを舞台に、信頼するPAと並走しつつ一夜を作る試みとなる。これまでのワンマンはいずれもデイタイムで開催されてきたが、「第四の道:alone」は初のオールナイトロングセット。ワンマンという機会を通して、ダンスフロアへとより接近していった2年間の足跡をたどる。

2026/5/8 (Fri)
第四の道:alone -NordOst All Night Long-
at 幡ヶ谷FORESTLIMIT
23:00 OPEN / 5:00 CLOSE (?)
DOOR : ¥2000 +1d
BEFORE 0AM / AFTER 4AM : ¥1500 +1d

DJ : NordOst (All Night Long set)
PA : Yuri Kim
Flyer : cosgaso

Masaaki Hara - ele-king

 おかげさまでどんどん読者を増やしている『アンビエント/ジャズ――マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜』ですが、ここへきて新たなお知らせです。熊本の喫茶店、ENDELEA COFFEE京町にて5月15日(金)、著者・原雅明を招いたトーク・イベントが開催されます。『アンビエント/ジャズ』を入口にレコード紹介なども交えつつ、いろいろな角度から音楽を楽しむ好機。詳細はENDELEA COFFEE 京町のインスタグラムより

5月15日金曜日
19:00 start
ENDELEA COFFEE京町 2Fにて
熊本市中央区京町2丁目12-75
¥2000+1coffee

予約(DM)
@endeleacoffeekyomachi

Stones Throw - ele-king

 マッドリブ作品やJ・ディラのリリースで知られ、近年はジャズやアンビエントなども含むさまざまな音楽のリリースをつづけているLAのレーベル〈Stones Throw〉が設立30周年を迎える。これを記念し、日本ツアーが開催されることとなった。6月5日(金)大阪はJOULE、6月6日(土)東京はSpotify O-EAST。レーベル創設者のピーナッツ・バター・ウルフをはじめ、ノレッジ、マインドデザイン、さらに今回が初来日となるソウル・シンガー、ミチが出演。特別な一夜に期待しよう。

LA発・世界最高峰インディーレーベル〈Stones Throw〉設立30周年
Peanut Butter Wolf、Knxwledge、Mndsgn、Michiによる
スペシャル・ジャパンツアーが開催決定

6月6日(土)東京・Spotify O-EAST
6月5日(金)大阪・JOULE


Tour Flyer Designed by Mndsgn

ロサンゼルス発、世界最高峰のインディーレーベル〈Stones Throw〉が、設立30周年を記念したスペシャル・ジャパンツアーを開催する。

出演は、レーベル創設者であり世界屈指のレコードコレクター/DJとして知られるPeanut Butter Wolf、グラミー賞受賞ユニットNxWorries(アンダーソン・パーク × ノレッジ)の一員としても活躍するビートメイカーKnxwledge、LAビートシーンを牽引するマルチアーティストMndsgn、そして今回が初来日となる注目のソウル/R&BシンガーMichiの4組。

6月6日(土)東京・Spotify O-EAST「MIDNIGHT EAST」、6月5日(金)大阪・JOULEにて開催され、レーベルの過去・現在・未来を体現するラインナップが一堂に会する。

1996年の設立以来、〈Stones Throw〉はMadlib、J Dilla、MF DOOM、NxWorries(Anderson .Paak × Knxwledge)、Mayer Hawthorne、Aloe Blaccなど数々の革新的アーティストを輩出し、ヒップホップを軸にジャンルを横断する独自の音楽カルチャーを築いてきた。

今回、Peanut Butter Wolfは2018年以来の来日出演が決定し、レーベル30周年をテーマにした特別な“Video DJ set”を披露予定。貴重な映像と音楽を融合させた唯一無二のパフォーマンスは見逃せない。

本公演では、各アーティストによる最新音源やエクスクルーシブなパフォーマンスが披露される。東京公演は3フロア構成のクラブイベントとして、DJ/ビートメイカー中心の濃密な一夜を展開。さらに、国内アーティストの追加ラインナップも後日発表予定となっている。

さらに本ツアーでは、アメリカ西海岸発のブランド〈HUF〉とのコラボレーションも実現。来日ツアーを記念した限定コラボTシャツの販売も予定されている。

2026年、設立30周年を迎える〈Stones Throw〉の歴史と進化を体感できる本ツアー。LAのリアルな音楽カルチャーを日本で体感できる、貴重な一夜をお見逃しなく。


Peanut Butter Wolf


Knxwledge


Mndsgn


Michi

<出演アーティスト>
Peanut Butter Wolf (Stones Throw 30 Years Video DJ set)
Knxwledge
Mndsgn
Michi (Singer Live)
*その他、国内アーティストのラインナップは後日アナウンス

<公演情報>

◆東京 TOKYO:
MIDNIGHT EAST presents
STONES THROW 30 YEARS TOKYO
supported by HUF

2026年6月6日(土)at Spotify O-EAST & Azumaya(MIDNIGHT EAST)
OPEN 24:00 / CLOSE: 05:00
ADV: 4,000 Yen +1D (Zaiko | Resident Advisor (RA) | e+)
Under23: 3,500 Yen + 1D
DOOR: 4,500 Yen + 1D
INFO: https://shibuya-o.com/east/schedule/stonesthrow30/

15日 正午から発売開始
ZAIKO https://midnighteast.zaiko.io/e/stones-throw-30yrs-tokyo
RA https://ra.co/events/2416233

※ドリンク代別途必要。
※U23チケットは当日券のみの販売になります。(要顔写真付き身分証明書。)
※20歳未満入場不可。(要顔写真付き身分証明書。)
※出演者は予告なく変更になる場合がございますので、予めご了承ください。
※客席を含む会場内の映像・写真が公開されることがあります。
※ 1 Drink fee will be charged upon arrival.
※Under23 tickets are only available on the day of the event. (Photo ID required.)
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter.
※Please note that the performers are subject to change without notice.
※Please be aware that videos and photos during the event, including the audience , may be released.

◆大阪 OSAKA:
STONES THROW 30 YEARS OSAKA
supported by HUF

2026年6月5日(金)at club JOULE
OPEN: 22:00 / CLOSE: 5:00
後日、チケット情報などアナウンス。More Info Coming Soon.
INFO: https://club-joule.com/events/stones-throw-30-years-osaka/

interview with Cameron Picton (My New Band Believe) - ele-king

 2010年代後半、サウス・ロンドンを中心に英国の各地やアイルランドから現れた新世代のバンドたち。その群れは、ひとつのムーヴメントをなしていたことはたしかだ。なかでも特に国際的な注目を集めたブラック・ミディは、もっとも刺激的なレコードを作っていたし、その動きを象徴するバンドだったと言っていいだろう。
 それゆえに2024年10月に表面化した彼らの活動休止ないし解散の問題、メンバー個々が今後ソロ・キャリアを追求していくという報は、ここ日本のファンの間でもそれなりの衝撃をもって受けとめられた。とはいえリード・シンガーのジョーディ・グリープは直後に、ブラジルでの録音を含むアルバム『The New Sound』でもって文字どおりの意味で“新しい音”を提示し、リスナーを力業で納得させてしまったのだが。

 そしてバンドのベーシストだったキャメロン・ピクトンも、ジョーディのようにわかりやすく“New”を掲げた。マイ・ニュー・バンド・ビリーヴという、ちょっと笑える名前のプロジェクトである。
 キャメロンの“新しい音”とは何か。それは、まずはアコースティック・ギターという楽器の可能性の追求である。アコースティック・ギターのテクスチャーをさまざまな手触りで鳴らしていることは、ここに届けられた『My New Band Believe』というアルバムを聴けばよくわかる。さらに「電気楽器を使わない」という縛りプレイを自身に部分的に課し、ストリングスなどを配してチェンバー・ロック的な領域に足を踏み入れたことも、アルバムの方向性を決定づけている。
 キャロラインのメンバーも多数参加したこのアルバムには、即興性もかなり感じられる。しかし、そこにはポスト・ロック的なカット&ペーストのメスが入れられており、実はバンドとしてのアンサンブルではないことが、キャメロンの口からは語られた。通訳の青木絵美からは、「ブラック・ミディが『コントロールされたカオス』と評されたのに対して、キャメロンは、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴの音を『コントロールされた即興』と表現していたのが印象的でした」というメモが届いている。
 コントロールされた即興。つまり、トータスの『TNT』のフォーク・ロックやチェンバー・ロック・ヴァージョンとでも言えばいいだろうか(奇しくも2026年は、『Millions Now Living Will Never Die』やガスター・デル・ソル『Upgrade & Afterlife』のリリ-スから30周年である)。演奏を切り張りするなんていまではまったく珍しいことではないが、即興と編集の実験ということでは、テオ・マセロがマイルス・デイヴィス・バンドの演奏を切り張りしていた時代からhikaru yamadaがおこなっている近年に至るまで、刺激的な歴史がある。『My New Band Believe』は、その最新の成果として新鮮に、しかも親しみやすいメロディを伴ってじつに心地よく響く。
日本のリスナーにとっては、特に興味を惹かれる部分もあるだろう。松丸契の参加や、Dos Monosの没 a.k.a NGSとの会話から生まれた曲名などがそうだ。山上徹也の存在にキャメロンがインスパイアされている、なんて事実もおもしろい。
 それでは、キャメロンがどのようにして“新しい音”を手に入れたのか。彼へのインタヴューをお届けしよう。

エレクトリック楽器を否定するというよりは、単純にこの質感にフォーカスしたかった、ということなんだ。アコースティック・ギターを使ったときに生まれるテクスチャーや、その可能性に集中してみたかったって感じだね。

まずマイ・ニュー・バンド・ビリーヴというプロジェクトはいつ、どんなところから始まり、どう発展していったのでしょうか?

キャメロン・ピクトン(以下、C):このプロジェクトが始まった明確な一点があったわけではないと思う。ブラック・ミディを離れたあとに自分が何をやりたいのか、そして、このプロジェクトを始める前に何をやりたいと思うのか、その両方についてじっくり考えつづけるなかで、長い時間をかけて形になっていったものなんだ。

なるほど。アルバムでは、全編にわたってアコースティック・ギター、コントラバスやヴァイオリンなどの弦楽器、ピアノといったアコースティック楽器が使われています。「電気楽器を使わない」というルールを設けたそうですが、アコースティックな音にした理由は?

C:アコースティック・ギターに関して、自分のなかで面白い音やテクスチャーを探れるんじゃないかというアイデアがあったんだ。そこにエレクトリック・ギターを加えると、そういう部分が逆に損なわれてしまう気がしていた。だからそうした、というだけなんだよね。エレクトリック楽器を否定するというよりは、単純にこの質感にフォーカスしたかった、ということなんだ。アコースティック・ギターを使ったときに生まれるテクスチャーや、その可能性に集中してみたかったって感じだね。

ギタリストとして、エレクトリック・ギターと異なるアコースティック・ギターの好きなところ、あるいは難しいと感じるところを教えてください。

C:音の発生源と直接つながっている感覚があるのが好きなんだ。もちろんエレクトリック・ギターには、いろいろなプロセスを経て音が出てくる面白さがあって、自分以上の大きなものを扱っているような感覚になるのも魅力だと思う。でも一方で、アコースティック・ギターは音を生み出す行為とすごく密接につながっているのがいいんだよね。
 あと、ギターのボディを叩いてリズムを出すような、いわゆるパーカッシヴな奏法ってあると思うんだけど、ああいうのって時々ちょっとベタに感じてしまうこともある。でも実際には、まだまだ可能性はあると思っているんだ。そういう既存のやり方も含めて、まだ掘り下げられていない部分がたくさんあるはずだと思って、僕はそこをもっと追求してみたかった。

アルバムのなかで、ギターはさまざまな音で響いています。スティール弦のものやナイロン弦のものなど、複数の種類を弾いているんですか?

C:うん。アコースティック・ギターで出せるいろいろな質感をかなり試していたんだ。いろんな種類のアコースティック・ギター――たとえばクラシック・ギターも含めて使っていて、そのなかには安いものもあれば高いものもあるし、古いものも新しいものもある。そういうちがいによって生まれる微妙なテクスチャーの差をいろいろ試していた、という感じだね。

アルバムに先駆けてリリ-スされたシングル2曲“Lecture 25”“Numerology”は、アルバムには未収録です。これはなぜ?

C:特に理由はないんだけど、でもこの作品にはどちらの曲も合わないと感じたんだ。それは、実際に聴けばわかると思う。あとはタイミング的な理由もあって、“Numerology”のレコーディングが終わったのが、曲がリリースされた2週間前くらいで、アルバムはすでに提出して承認されていないといけなかった。(2025年)12月の初めにはテスト・プレスに回す必要があったからね。だからもし“Numerology”を収録していたとしたら、もっと出来の悪いヴァージョンが収録されていたよ。

それでは、具体的な収録曲についてお聞きします。“In the Blink of an Eye”と“Actress”は弦楽器のアレンジが特に印象的です。どのように編曲していったのでしょう?

C:あれはキーラン・レナードがアレンジしているんだ。だから編曲そのものについては、僕の手柄というわけではないよ。ただあの2曲には、弦を入れたいという考えは最初からあった。エレクトリック・ギターを使わないと、簡単に音を長く伸ばすことができなくなるんだよね。いわゆるサステインの部分が失われてしまう。でも弦楽器は弓で弾くことで音を持続させることができるから、その役割を自然に補ってくれる存在だった。だから、エレクトリック・ギターの代わりとして弦を使うのはすごく自然な流れだった、という感じだね。

またソングライティングについてですが、全体的にメロディアスで、旋律が魅力的な曲が多いです。ザ・ビートルズやクイーン、初期のジェネシスなどを思わせる、英国らしいメロディだと感じる曲が多いと思いました。メロディを書く際に意識したことは?

C:もともと多くの曲は、たった一度のライヴのためだけに書いたものなんだ。ただそれをやるためだけに書いて、もしかしたら二度と演奏しないかもしれない、という前提で。だから僕にとっては、ギター一本で曲全体のアレンジとして機能するような面白いパートが必要だったし、同時に人が口ずさめるような魅力的なメロディも必要だった。そして、その一度きりの場でその曲を聴いた人が、もう二度と聴くことがなかったとしても、何かしら心に残るようなものにしたかったんだ。
それに加えて歌詞も、歌い方によっていろいろな解釈ができるようなものにしたかった。たとえば、誰か特定の人物について歌っているようにも受け取れるし、別の意味にも取れるような、そういう余白のあるものにしたかったんだ。

本作の音楽性はチェンバー・ロック的だと思います。制作にあたって参考にした作曲家や作品はありますか?

C:うん。主に1960年代後半のイングランドのフォーク・リヴァイヴァルの作品だね。ペンタングル、ジョン・レンボーン、バート・ヤンシュ、フェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパン、その辺だね。

“Heart of Darkness”の曲名は、映画『地獄の黙示録』の原作としても有名なジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』に由来しているとのことです。この曲名と歌詞は、どのようにして書いたのでしょう?

C:歌詞について言うと、もともとこの曲は『闇の奥』との関連を特に意識せずに作っていたんだ。最初は別のタイトルがついていたんだけど、それがしっくりこなくて、タイトルを決めるのにかなり時間がかかった。それで、マスタリングの終盤あたりで、ジョゼフ・コンラッドのことだったか、彼の『闇の奥』という本のことを思い出したんだよね。そうしたら、この曲の物語とすごく似ていることに気づいた。
 曲のタイトルって、歌詞で起こっていることを示唆するような役割があると思うんだけど、このタイトルはその“鍵”としてちょうどいいと思ったんだ。とはいえタイトル以外の部分で、両者に明確な意図的なつながりがあるわけではないんだけどね。

そして、その“Heart of Darkness”は8分31秒の大曲ですよね。クラシックやプログレッシヴ・ロックの曲のように構成が複雑で、3、4章に分かれた物語のように壮大です。どのように書いて、構成していったのでしょう?

C:これは……もともとコロナ禍のロックダウン中に作り始めた曲なんだ。そのあとしばらく完全に忘れていて、ブラック・ミディが解散したあとにまた作るようになって、そこからさらに発展させていった。いわゆるコーラス(サビ)みたいなものがある感じではなかったんだけど、サクッと作ったセクションがあって、それは覚えている。それを軸にしながら広げていった感じかな。
 最初、コロナ禍のときに作っていたときは、ブラック・ミディに持っていくつもりもなかったし、正直、誰かに聴かれるとも思っていなかった。ただ自分のためにやっているという感覚で、思いつくままにどんどん要素を足していったんだ。完全に自己満足的なものだったね。

曲の後半では、インプロヴィゼーションの要素がかなり増えています。バンドでどうやって演奏したのでしょう?

C:いや、実は一緒に演奏しているわけではないんだ。そこがポイントなんだよ。まず僕がハーモニクスを録音して、その上にスティーヴ・ノーブルが2回オーヴァーダブしている。それが、聞こえているものなんだ。それで次の日に、カイアス・ウィリアムズがさらに2回オーヴァーダブして、それが重なっている。あと少しサックスも入っていて、断片的なフレーズが差し込まれている。これも同じように即興的な要素ではあるんだけど、いわゆる全員が同じ部屋で一緒に演奏している即興ではないんだ。いくつものレイヤーを重ねていく形で作っていて、ハーモニクスもいろんなギターで何層にも重ねている。だから、いわばコントロールされた即興(controlled improvisation)、という感じだね。

かなりレイヤリングやエディットがされているというわけですね。“Heart of Darkness”や“Pearls”には、クワイアのような合唱が重ねられています。合唱を入れた理由や、編曲方法について教えてください。

C:音楽の専門家じゃない人たちでも、何かしらの形でこのレコードに関われるようにしたいと思っていたんだ。そういう意味で、いちばんやりやすい方法は歌ってもらうことだと思ったんだよ。

“Actress”について、あなたは「アルバムのなかで最も編集を重ねた曲。今作に収められたストリングスの音は、すべてのテイクを重ね合わせ、それぞれのレイヤーから目立つミスだけを切り取っている」と書いています。ということは、これも録音をかなり切り刻んで編集しているのでしょうか?

C:そうだね。でも、できるだけ自然に聞こえるようにはしているつもりなんだ。自然な流れや感触は保ちたかった。とはいえ実際にどう録音されたかを意識して聴くと、編集されているのはわかると思う。一部はちゃんとしたスタジオで、コントロールされた音響環境で録音しているし、曲の終盤には自分のベッドルームで録った部分もあって、窓を開けていたからアコースティック・ギターの余韻が消えたあとに鳥の声が聞こえるんだ。全体としては、かなり細かく編集して、すべてを意図的に配置している。ただそのうえで、できるだけ自然に感じられるようにしたんだ。

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主に1960年代後半のイングランドのフォーク・リヴァイヴァルの作品だね。ペンタングル、ジョン・レンボーン、バート・ヤンシュ、フェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパン、その辺だね。

続いてアルバムの参加メンバーについてですが、キャロラインのメンバーが多数参加しています。その理由は? キャロラインの音楽についてどう思っていますか?

C:彼らの音楽は素晴らしいと思うし、人としてもすごく好き。すごくオープンでフレンドリーな人たちなんだ。ブラック・ミディが終わったあと、そういう存在を求めていたところもあったと思う。それに、もう少し一緒に時間を過ごしてみたいと思えるような、すごく魅力的な人たちに感じたんだよね。少しだけ会ったことはあったし、音楽も好きだったけど、どこか距離がある存在でもあった。共通の友人もたくさんいたんだけど、まだそこまで親しいわけではない、でももっと近づきたい、と思えるグループだった。それが惹かれた理由のひとつだね。
 その時点ではセカンド・アルバムはまだ聴いていなかったから、すべてファースト・アルバム(『caroline』)の印象に基づいていたんだけど、その後の『caroline 2』の展開を見て、本当に素晴らしい作品だと思っているよ。多くのアルバムって、リリースされた直後に大きな話題になって、1、2週間くらいで忘れられてしまうことも多いと思う。でもこの作品は、時間が経つにつれてどんどん評価が高まっていって、聴く人も増えている。そういう点もすごくいいと思う。それに、自分が好きなタイプのポップ・ミュージックでもあるんだよね。表面的には少し難しい要素もあるけど、それでもちゃんと開かれていて、多くの人に届くような音楽だと思う。

それと“Numerology”には、日本を拠点に活躍しているサクソフォニスト松丸契が参加しています。彼とはDos Monosとのツアーを介して出会ったのでしょうか?

C:彼とはDos Monosを通じて何度か会ったんだ。彼らがブラック・ミディのヨーロッパ・ツアーでサポートをしてくれたことがあって、そのときに契も一緒に演奏していた。それで知り合った。その後、契が石橋英子と一緒に演奏するためにロンドンに来ていて、数日オフがあったんだ。それで彼から「会わない?」って連絡が来て、「いいね。じゃあ、曲を一緒に演奏してみない?」って僕が言ったのがきっかけだよ。

歌詞や曲名など、言葉の面についても聞かせてください。“Opposite Teacher”の曲名は、Dos Monosの没 a.k.a NGSに「人が成長する過程で親とは反対の性質を持つようになること」を表す日本語の英訳だと教えてもらったそうですね。「実際の日本語の言葉は見つからず、彼自身も思い出せないらしい」とあなたはセルフライナーノーツで書いていましたが、これは日本語の「反面教師」の訳だと思います。この曲での没とのエピソードについて教えてください。

C:2022年のクリスマスの時期に、没と一緒に日本にいたんだ。そのときは、ただ一緒に遊んでいて、ギャラリーや本屋に行ったりして、街を歩きながらお互いの言語のイディオムについて話していた。僕がどんな英語のイディオムを話したかは覚えていないんだけど、“Opposite Teacher”という言葉だけはすごく印象に残っていて、面白いなと思ったんだよね。それで、あとになってそのまま曲のタイトルにした、という感じ。

歌詞にはどんなメッセージが込められているのでしょう?

C:さっき“Heart of Darkness”の話でも言ったけど、この曲にとっての“鍵”はタイトルなんだよね。このアルバムのほかの曲と同じで。

あるふたりの人間の関係を歌ったものだと思ったのですが。

C:誰にでも当てはまるような、すごく普遍的なものにしたかったんだ。ポップ・ソングの作詞スタイルに興味があって、すごく具体的とも捉えられるのに、実際にはいろんなことを指していて、ひとつの意味に限定されないようなもの。誰でも自分なりに解釈できるような、そういうものにしたかったんだ。

なるほど。“Target Practice”について、あなたは「テツヤ・ヤマガミ(山上徹也)、ルイージ・マンジョーネ、ガイ・フォークス(中略)ほかにも多くの人物が、この曲の中に登場する」と書いています。つまりこれは、マーダー・バラッドのような暗殺犯についての曲なのでしょうか?

C:そうだね、ある意味ではマーダー・バラッド的な要素もあると思う。なんというか、情けない復讐のファンタジーという感じ。何か大それた計画を立てて、すごいことをやろうとしている人物がいるんだけど、それがうまくいかないのは明らかで……というような。悲劇的でもあり、どこか滑稽でもあるような感じだね。

“In The Blink of an Eye”の説明で、あなたはロンドンと東京の監視カメラの数に触れています。これは現代の監視社会についての歌?

C:必ずしもそういうテーマとして書いたわけではないんだ。レコーディングしたあとに考えたことではあるんだけど、ロンドンってすごく監視されている街ではあると思う。ただそれは、政府が個人を直接監視しているというよりは、人と人とのあいだでの“相互監視”みたいなものなんだよね。みんながお互いを見ている、というか。そういう感覚に近いんだ。

法泉寺颯(ベガーズ・ジャパン):東京も同じですよ。

C:そうだね。CCTVカメラは、ロンドンほどは多くないと思うけどね(笑)。

interview with Adrian Sherwood - ele-king

 風向きが変わっているのを、またしても感じた夜だった。去る4月10日、大入りのリキッドルーム、午前2時をまわったところだろうか、ダディ・Gがあの素晴らしい “Teardrop”、楽園とダークサイドを往復するマッシヴ・アタックらしいあの名曲をよりレゲエに近づけたヴァージョンをドロップした。エリザベス・フレイザーの声は、やがてホレス・アンディと交わり、“Man Next Door” へと。で、ここにあの洞窟からの深いエコ−、“Karmacoma” がミックスされる。だが、それでもまだまだ足りない、ウィリー・ウィリアムズの “Armagideon Time” だ。「今夜、人びとは夕食にありつけない/今夜、人びとは正義を得られない/戦いはますます激しくなる」
 パンキー・レゲエ・パーティにダブは欠かせないのは当然だ。ダブは瞑想であり、ダブは実験であり、そしてパーティ・ミュージックだ。昨年の〈ダブ・セッション〉も大入りだった。で、ここに来て、またもや魅力的なダブが発売されるのだ。今年20周年を迎えたナイトメアズ・オン・ワックスの2006年の傑作、『In a Space Outta Sound』のエイドリアン・シャーウッドによるダブ・アルバムである。これはひとことで言うなら、ソウルのこもったヴァージョン。このミキシングには、オリジナルに対する無垢な愛情と尊敬がある。実験性はそれほどないが、しかし好きだからやっている感が、いまは嬉しい。
 『In a Space Outta Sound』(2006 年)は、ジョージ・エヴリンによるナイトメアズ・オン・ワックスにとっては決して派手なリリースではなかった。画期的な作品『Smokers Delight』(1995)やソウルフルな『Carboot Soul』(1999)のころに比べたら、実のところ、地味なモノだった。時代はすでにダブステップ、新世代のエレクトロニカ勢(グリッチとかいろいろ)の目新しさを歓迎していたのだから無理はない。
 逆に言えば、このアルバムは時代のトレンドにいっさい迎合しなかったという意味で反時代的だった。そんなものが10年後、20年後に輝くということは、音楽の世界ではけっこうある。 『In a Space Outta Sound』のなかにあるのは、レゲエ、ダンスホール、ソウル、ファンク、古きヒップホップ(リキッドでのSHINCOのDJも最高だった)といった、当時の前線からはこぼれたモノたちで、だからこれは、いわばヴィンテージをエヴリン流に解釈、再構築したアルバムだった。メロウな感覚が全面に出ているのは、時代に対するある種の感傷があったのかもしれない。それは彼が、流行もシーンの動向もガン無視して、自分がほんとうに好きなものを作ってみたという意味で無垢なアルバムだったと言える。ゆえに少し時間がかかったが、 『In a Space Outta Sound』は歳月のなかでゆっくりと支持者を増やし、いつの間にかこれは彼の代表作という地位を獲得したのである。そんな音楽(もともとが音響加工された作品)をさらに再構築するには、まずはこの音楽に対する愛情がもっとも必要となる。
 以下、どうぞエイドリアン師匠の話を楽しんでください。(文:小林拓音+野田努)

ジャマイカには「Each one teach one(互いが教えあう)」って言葉があるだろ。だから、〈On-U Sound〉のことも、コールドカットのことも皆から認知されていた。遠く離れていても、互いのことを把握していたから。そこにジョージがNoW として想像力をかき立てるような曲を作った。NoWが音楽シーンにあらわれたとき、まさに新鮮な風が吹いた感じだったね。

お時間、ありがとうございます。ナイトメアズ・オン・ワックスのリミックス、3年前のパンダ・ベア&ソニック・ブームの『Reset In Dub』(2023年)も興味深いプロジェクトでしたが、今回もまたじつにユニークな企画だと思いました。

エイドリアン・シャーウッド(以下AS):ありがとう!

まずはあなたが、ナイトメアズ・オン・ワックスについてどのように思っていたのか、そこから教えてください。

AS:ナイトメアズ・オン・ワックス(NoW)の作品がリリースされた当時、彼らの溢れる興奮や魅力を感じたよ。エキサイティングで凄くいい作品だし、じつに素晴らしいアーティストだと思っていた。イギリスでは家で友人たちと「自分たちも音楽作れんじゃない?」って感じで大の音楽ファンが自分たちの作品を手掛けたりすることがあるけど、ジョージは才能あるミュージシャンやシンガーを集めたと思う。たとえば、LSKはNoWのアートワークを手がけただけでなく、音楽面でも貢献した。純粋に熱狂的かつ才能ある音楽ファンが集まり、彼ら独自の音楽を作った結果がNoWだと思う。

彼のスモーキーなダウンテンポは、ヒップホップとソウル、レゲエからの影響があり、ダブとは親和性が高い音楽かもしれませんが、彼の出自は、80年代末のイングランド北部のダンス・カルチャーでした。あなたはどうやってNoWのことを知りましたか?

AS:まあ、イギリスってそんなに広い国じゃないから「リーズやシェフィールド、エジンバラから凄くいいのが来てる」という感じで情報が入ってきたし、(リーズの)ジョージ(・エヴリン)の他に、ブリストルには影響力のあったマッシヴ・アタックがいたりして、皆が互いの影響を受けていた。ほら、ジャマイカには「Each one teach one(互いが教えあう)」って言葉があるだろ。だから、〈On-U Sound〉のことも、コールドカットのことも皆から認知されていた。遠く離れていても、互いのことを把握していたから。そこにジョージがNoW として想像力をかき立てるような曲を作った。NoWが音楽シーンにあらわれたとき、まさに新鮮な風が吹いた感じだったね。ジョージは優れたプロデューサーかつDJだから、目立っていたよ。

実際、ジョージ・エヴリン本人と会話したのはいつのことになりますか?

AS:今回のアルバムがきっかけで初めて話したんだ。互いの存在はもう30年以上前から知っていたけど、昨年初めて話した。ギタリストのクリス・ドーキンスをはじめとして、共通の友人もたくさんいて……クリスは素晴らしいミュージシャンだよね。ジョージはルーツ・マヌーヴァなど大勢のアーティストたちと親しく、皆ジョージのことをとても高く評価していたよ。

今回のプロジェクトはどのようにはじまったのでしょうか?

AS:俺のレーベルは〈Warp〉傘下で、NoWは〈Warp〉第一号のアーティストということもあり、以前から両者で何か共同プロジェクトはできないかという話は挙がっていた。そして、今回彼ら(〈Warp〉側)からコラボの話が来たんだ。

『In A Space Outta Dub』を聴くと、あなたがオリジナル盤を愛していることがわかります。あなたにとって、このオリジナル盤のなかで、もっとも魅力を感じるのはどの点でしょうか?

AS:このオリジナル盤はじつに素晴らしい作品で、個人的に大好きだよ。いま聴いても最高のアルバム。そんなこともあり、今回取り組むにあたり、新たな方向性へと導きつつも、このアルバムの特徴をしっかりと残すことを心がけたね。

『Reset In Dub』のときと同様、ナマの演奏(ダグ・ウィンビッシュとサイラス・リチャード)を追加していますが、今回、あなたがもっとも注力したのはどんな点でしたか?

AS:オリジナル曲もとても良かったけど、サンプリング・ソースがこのアーティスト、あのアーティストといった具合だったから、偉大なるダグ・ウィンビッシュ、アレックス・ホワイト、マーク・バンドラ、サイラス・リチャードといった〈On-U Sound〉クルーを起用することに注力した。同じミュージシャンが演奏することで、まるでひとつのハウス・バンドのような(一貫した)サウンド作りを目指した。そこに、エンジニアのマット・スミスと俺が加えた独自のエフェクトやミックスを組み合わせることで、アルバム全体を通してまったく新しい、新鮮なサウンドを作り出すことができた。

『Reset In Dub』、あの多幸的なサイケデリアに「On-U的哲学」を注入するような感覚があったと思うのですが、今回は、どうでしょうか? ある意味、〈On-U Sound〉的な感性とも共通点があるサウンドだし、ダグ・ウィンビッシュのベースが入って、さらにあなたが空間をねじ曲げるようなミキシングをすると、ほとんど〈On-U Sound〉の作品になっているというか、『Reset In Dub』のときとの違いを話してもらえますか?

AS:これは、素材によるね。パンダ・ベア&ソニック・ブームの『Reset In Dub』はもともと凄くサイケデリックだけど、NoWにはそういう(=サイケデリックな)要素は一部あるだけだよね。目指したのは、彼ら独自のアイディアやサウンドを際立たせ、強化して、それを拡大していくことだった。今回のNoWの場合も、オリジナル楽曲のメロディや雰囲気を強調させていった。


ナイトメアズ・オン・ワックス

間違いなくアナログでのミキシングが好きだね。作業の一部はコンピュータを使用しているけど、そのデータをコンピュータから取り出して卓に入れて、そこからライヴで加工していくんだ。

あなたは、ジャマイカのダブに敬意を払いながら、新しいことをやろうとやってきた先駆者なわけですが、NoWのようなサンプリング・ミュージック──規則正しいループ、素材がクリアなデジタル音源──を解体し、再構築する際は、まずはどこから着手するのでしょうか?

AS:ベースラインとグルーヴから着手するね。

だいたい1曲につき、どのくらいの時間を費やすものなのでしょうか?

AS:楽曲によりけりだし、その曲をどうしたいかにもよるよね。自分の作品の場合、同時進行でアルバム3枚分を進めることもあるし……(笑)。ミュージシャンをスタジオに呼び、自分の頭のなかで描いている各曲のパーツごとに演奏してもらうんだ。ずっとひとつのことに集中しつづけるわけじゃないから、3~4時間何かを制作した後に、別の作業に移ったりする。数時間やって、休憩を挟んで別の曲に移り、その後また前やっていた曲に戻ったりして、そんな調子で制作するのが好き。そうすれば、飽きずにいられるから。
 他のアーティストに依頼されて仕事するときは、その作品に参加してもらえるミュージシャン押さえがポイントになる。ちなみに、ダグ・ウィンビッシュには全曲で演奏してもらっている。それでたとえば、あるギタリストに4曲演奏してもらうのと並行して、同時に他の作業を進めたりするんだ。じっくり1曲ずつ制作するのではなく、3、4曲を並行して進める傾向がある。
 ダグ・ウィンビッシュは数時間でアルバム1枚分の演奏が録れるくらい凄い人だけど、1日でアルバムの半分……たとえば5曲分レコーディングして、残りを翌日という感じだね。じっくり時間をかけて作業することもある。とはいえ、俺たちの作業は非常に効率的で、かなり速い。1曲に何時間もぶっ通しで取り組むというよりは、次の曲を制作した後に「あの曲のベースラインはちょっとせわしいから、少し違うアプローチで試してみよう」だとか、「オフビートでスウィング感を出してみよう」というふうに、納得のいく結果が出るまで様々なアイディアを試していくんだ。

ちなみに、ミキシングの際は、基本、いまでもアナログ・ミキシング・コンソールを(ほとんど楽器のように)使っているんですか?(もちろん、Pro Toolsなど現代のデジタル環境を取り入れつつ)

AS:うん。Soundcraft社のSapphireを愛用していて、間違いなくアナログでのミキシングが好きだね。作業の一部はコンピュータを使用しているけど、そのデータをコンピュータから取り出して卓に入れて、そこからライヴで加工していくんだ。

今回の音の響きにかんして、あなたがどう加工するのか興味があります。とくに今回は、アナログ的な響き、繊細で、温かみのあるサウンドに加工していますよね? 作業のどの時点で、サウンドの加工がほどこされるのですか?

AS:最初の時点から、ベースもコードも温かみのあるサウンドに仕上げている。制作初期段階からミキシングの最後の段階に至るまで、つねにサウンドに息吹と輝きを与えるよう心がけているからね。

ダブ・ミキシングに臨む前に、ダブの教科書――キング・タビーであったり、キース・ハドソンであったり――を聴き直すことはありますか?

AS:ノー、アハハハハ(笑)! そういったアーティストのレコードはもう何千回も聴いてきたから、自分の魂に染み付いてる(笑)。

『A Space Outta Dub』の制作中に、面白いアクシデントがあったら、教えてください。

AS:このアルバムには、至るところに「嬉しいアクシデント」が散りばめられている。突然魔法のようなことが起きて、「これだ!」と叫びたくなるような瞬間がいくつもあったけど、具体的に挙げるのは難しいなぁ。クリエイティヴなミュージシャンたちがいると、そういう嬉しいハプニングはつねに起きる。たとえば、彼らがチューニングをしている最中に演奏したものが面白くて、それをある箇所に入れてみたりね。そうやって、いつも嬉しい偶然が生まれていった。

今回DUB SESSIONS 2026にてナイトメアズ・オン・ワックスとの共演になりますが、見どころはどんなところでしょうか?

AS:DUB SESSIONS 2026にかんしてはまだ具体的な内容は決まっていないけど、「Dub Sessions」はいつもゲスト・ミュージシャンを招待して開催している自分たちのイベントだ。昨年は特別な1年だったな。デニス・ボーヴェルやマッド・プロフェッサーを招待した「Dub Sessions」を昨年日本でも開催した。DUB SESSIONS 2026では、ジョージを前面に押し出して、自分は裏方に回るかもしれない。具体的にどんな企画になるかはまだ100%決まっていないけど、もちろんいつものように、素晴らしいショウにするよ!
日本は特別な場所で、つねに非常に強い親近感を抱いている。日本では素晴らしいバンドが次々と登場し、音楽シーンはつねに活気に満ちているね。それから、日本のオーディエンスは非常に熱心で、新作が発売されるたびにチェックしてくれるのが本当に嬉しい。そして、〈DUB SESSIONS〉をおこなうたびにオーディエンスの輪が広がっていき、とてもいいヴァイブスを感じているよ。

今年もエイドリアン・シャーウッド 〈On-U Sound〉 のDUB SESSIONSが開催決定!
〈Warp Records〉の象徴、ナイトメアズ・オン・ワックスが降臨!
極上のサウンドが交錯する、唯一無二のセッションが実現!

ADRIAN SHERWOOD presents
DUB SESSIONS 2026
featuring
ADRIAN SHERWOOD
VS
NIGHTMARES ON WAX
AND MORE

TOKYO 2026/09/09 (WED) O-EAST
OSAKA 2026/09/10 (THU) META VALLEY

OPEN / START 18:00
INFO:BEATINK [WWW.BEATINK.COM] / E-mail: info@beatink.com

DUBという魔法でジャンルの壁を溶かし、革新的なサウンドを世に送り出して来たエイドリアン・シャーウッド。コアなミュージックラヴァーから絶大な支持を集めるDUB SESSIONSは、年々そのスケールと熱量を拡張し続けている。そして2026年、再び新たな化学反応が起こる。

今回迎えるのは、英〈Warp Records〉の重鎮にして象徴的存在の一人、ナイトメアズ・オン・ワックスことジョージ・エヴリン。名盤『In A Space Outta Sound』の20周年を記念した再発にあわせ、エイドリアン・シャーウッドによるダブミックス盤『In A Space Outta Dub』がリリース。そしてその両者が、ついに同じステージで交差する。これは絶対見逃せない!!!!!

30年以上にわたり、エレクトロニック/ソウル・ミュージックの最前線を走り続けながら、唯一無二の温度感を持つ音楽を生み出してきたナイトメアズ・オン・ワックス。その彼が、子供のころからなれ親しんだレゲエ・カルチャーへのオマージュとして産み出した名盤が『In A Space Outta Sound』であり、その原体験たるジャマイカ由来のサウンドを軸に、ソウル、ジャズ、ヒップホップを自在に融合させ、耳に残るフックへと昇華させるジョージ・エヴリンの比類なきセンスと手腕、そしてソウルフルなヴァイブレーションを宿したそのサウンドは、多くの人々の日常に寄り添うサウンドトラックとして、長く愛され続けている。

その楽曲群を素材に、〈On-U Sound〉主宰エイドリアン・シャーウッドが解体/再構築を施した『In A Space Outta Dub』は、原曲の魅力を保ちながらも大胆に変容させた、極めてスリリングなダブ作品へと昇華。

時代と世代を超えて影響を与え続ける2人が、遂にいま同じ空間で音を交わす。
刺激ありチルありそして爆音あり・・・究極のサウンド対決!DUB最前線の極楽へようこそ。

【チケット詳細】
前売:8,000円 (税込 / 別途ドリンク代 / オールスタンディング) ※未就学児童入場不可

先行発売:
BEATINK主催者先行:4/1(WED)18:00 (※限定枚数・先着、Eチケットのみ)
イープラス・プレイガイド最速先行受付(抽選):4/3(FRI)10:00~4/8(WED)23:59

[東京]
LAWSONプレリクエスト:4/9(THU)10:00~4/13(MON)23:59
イープラス・プレオーダー:4/9(THU)10:00~4/13(MON)23:59

[大阪]
イープラス・プレオーダー:4/9(THU)10:00~4/13(MON)23:59
チケットぴあプレリザーブ:4/9(THU)10:00~4/13(MON)23:59
LAWSONプレリクエスト:4/9(THU)10:00~4/13(MON)23:59

一般発売:4月18日(SAT)10:00~

[東京]
イープラス [ ]
LAWSON TICKET [ ]
BEATINK [ ]
INFO: BEATINK 03-5768-1277  www.beatink.com

[大阪]
イープラス [ ]
チケットぴあ [ ]
LAWSON TICKET [ ]
BEATINK [ ]
INFO: SMASH WEST 06-6535-5569  https://smash-jpn.com/

公演詳細: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15671
チケットリンク: https://linktr.ee/dubsessions2026

Robert Johnson - ele-king

 驚きのプロジェクトがはじまる。ロバ―ト・ジョンスンが〈Vocalion〉に残したSP盤12タイトルが、当時のリリース順どおりにリイシューされる。1発目は、かの有名な「Cross Road Blues / Ramblin' On My Mind」。RJの各SP盤は多くても10枚くらいしか世界に残っていないそうだが、今回のプロジェクトでは貴重なその原盤(髙地明所有)から起こしたマスターを使用、日暮泰文(著)『ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯』所収のRJ全曲解説から該当曲の記述もライナーノーツとして封入される。いま生々しく蘇るRJの演奏に触れてみたい。

ブルース、そしてロックに多大な影響を与えた戦前ブルースの超人、ロバ―ト・ジョンスン。彼が遺したSP盤12タイトルを、 Pヴァイン創業者の一人 髙地明が所有するオリジナル原盤SPレコード(!)から独自に盤起こししたマスターでリイシュー敢行!第1弾として『Cross Road Blues / Ramblin' On My Mind』10インチ盤が4/15(水)リリース!まるですぐ目の前で演奏しているかのような音の粒立ちと迫力のジョンスン、その生々しい姿を浮かび上がらせる!

ブルース、そしてロックに多大な影響を与えた戦前ブルースの超人、ロバ―ト・ジョンスン。十字路で悪魔と契約しその卓越したテクニックを得たとされる伝説はあまりにも有名であり、「Cross Road Blues」「Sweet Home Chicago」等今でも愛されるクラシックを生んだ、現代ブルースの起源にして頂点とも言える存在。その彼がVocalionに遺したSP盤12タイトルを、設立から半世紀に渡りブルースの魅力を伝え続けてきたPヴァインが、創業者の一人 髙地明が所有するオリジナル原盤SPレコード(!)から独自に盤起こししたマスターでリイシュー敢行!第1弾として『Cross Road Blues / Ramblin' On My Mind』10インチ盤が4/15(水)リリース。以降、リリース順に沿ってすべての10インチ盤がリイシューされる。
是非比べてみてほしい、これまでLPやCDで紹介されて来たものとは明らかに違う、まるですぐ目の前で演奏しているかのような音の粒立ちと迫力のジョンスン、その生々しい姿を浮かび上がらせる、ブルース史上に残る特大プロジェクト!

なお、今回のリイシューには、日暮泰文『ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯』(ele-king books)から抜粋した各曲の解説が付属する。聴き手の想像力を大きく掻き立てる日暮氏の文章とともに、今回のリイシューの原音に近いサウンドを味わってほしい。

デジタル補正処理一切なしのアナログ原音。配信イヤホンで聞くのは厳禁、ご法度! 現存する、それも盤質の良い原盤SPレコードの現存枚数は作品によって異なるが、多くても10枚程度、中には5枚未満というロバート・ジョンスンの世界がある。その78回転の原盤にPヴァインがいま針を落とした、まさにこれが原音となるロバート・ジョンスンでデルタ・ブルースの時代を味わう
ー 髙地明

【リリース詳細】
アーティスト:ロバート・ジョンスン / Robert Johnson
タイトル:
クロス・ロード・ブルース / ランブリン・オン・マイ・マインド
Cross Road Blues / Ramblin' On My Mind
フォーマット:10インチ・シングル(45回転)
発売日:2026/04/15
品番:P10-7022
定価:¥4,400(税抜¥4,000)
レーベル:P-VINE
■Track List
SIDE A: Cross Road Blues
SIDE B: Ramblin' On My Mind
★Pヴァイン50周年記念企画
★解説:日暮泰文(『ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯』から抜粋)

全SP盤リイシュー、今後も続々リリース!
https://anywherestore.p-vine.jp/collections/robert-johnson

日暮泰文によるブルース探究書の決定版、『ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯』も好評発売中。

ロバート・ジョンスン――その音楽と生涯
日暮泰文(著)
2026/3/4 発売
本体 3,000円+税 
ISBN:978-4-911484-06-7
https://www.ele-king.net/books/012126/

Laurel Halo - ele-king

 ロサンゼルスを拠点に活動する音楽家ローレル・ヘイローの最新作『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』は、やわらかく広がる音の質感と、重なり合いながら持続する音の層によって、聴き手の意識をより深い部分へと導いてくれるアルバムだ。リリースは自身が主宰するレーベル〈Awe〉から。
 本作はスイス出身のアーティスト、ジュリアン・シャリエールによる映像作品『Midnight Zone』に付随するサウンドトラックである。シャリエールは、地質学的時間や環境変動、さらには人間の知覚の限界を主題とする作家だ。その映像作品『Midnight Zone』においても「深海」という極端な条件下の空間が参照される。イメージと音響は相互補完的に配置されるが、ヘイローの音は説明的な役割を担うことない。音響/音楽が自律しているのだ。
 本作に至る過程として、ヘイローのアンビエントおよびドローンへの志向の変化を整理する必要がある。2018年に〈Latency〉から発表された『Raw Silk Uncut Wood』、2020年に〈The Vinyl Factory〉からリリースされた『Possessed (Soundtrack To The Film By Metahaven & Rob Schröder)』は、いずれも映像やインスタレーションと連動して制作された作品だが、これらの作品では、持続音の重層化や時間の引き延ばしを通じて、音を出来事ではなく空間として提示する姿勢が明確に示されていた。
 その延長線上に位置する『Atlas』は、ヘイローの重要作である。『Atlas』は2023年に自身のレーベル〈Awe〉から発表された。パリのINA-GRMスタジオを含む複数都市での制作を経て完成された『Atlas』は、ピアノを軸にサックスや弦、声といったアコースティック要素と電子音響を精緻に接続したドローン作品だ。リズムや旋律は後退し、やわらかな音色の持続音が緩やかに配置されることで、流動的で多層的な音響空間が形成されていた。さらに、ベンディク・ギスケルーシー・レイルトンコービー・セイらの参加により、有機的な揺らぎと即興性が全体に浸透している。その結果、『Atlas』はジャンルを横断する「音の地図」として機能する作品となった。その後、ヘイローは〈Portraits GRM〉からEP『Octavia』(2024)を発表している。本作はジェシカ・エコマネとのスプリットとして制作された。ここでも『Atlas』で確立された持続音内部で生じる微細な「揺らぎ」と「空間性」は継承されていた。

 こうした流れのなかで完成したのがこの『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』である。『Atlas』が開放的な空間の広がりを志向していたのに対し、本作では音はより圧縮され、密度と圧力を伴って迫る。霧状の音が空間を満たし、重層的な持続音が深海の水圧のように作用する。ここでは微細な変化以上に、音が環境へと浸透していくプロセスそのものが重視されているように思えた。
 音楽的には、本作『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』は、現代音楽的要素とダーク・アンビエントの融合として位置づけられよう。すなわち、クラシック音楽を基盤にしながら新たな音の表現を追求する態度と、暗く没入的な空間性を持つ環境音楽が結びついたものだ。エリアーヌ・ラディーグやポーリン・オリヴェロスに連なる持続音楽の系譜を踏まえつつ、より閉鎖的で陰影に富む音響が展開される。同時に、ダーク・アンビエントの没入的空間性を取り込みながらも、それをジャンルの枠内に収めることなく、音響そのものの存在様式へと昇華している。
 リズムの面でも変化は顕著である。これまでの作品で探求されてきた拍の希薄な時間構造はさらに推し進められ、本作では拍はほぼ消失している。時間は均質に流れるのではなく、揺らぎや断続として知覚される。この点ではカリ・マローンに近い時間感覚も想起されるが、ヘイローの音響はより環境的であり、聴き手の意識へと静かに浸透していく。また、本作を通底する要素として「青」の感覚が挙げられる。この傾向は『Atlas』にも見られ、夕暮れの青、すなわち昼と夜のあいだの移行的時間が音として表現されていた。一方、『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』では、その青はさらに深く沈み込み、深海の青、すなわち光の届かない領域の色として提示される。夕暮れから深海へと至る青の連続性は、近年の作品を貫く重要な軸である。

 本アルバムには全9曲が収録されている。冒頭の11分に及ぶ “Sunlight Zone” から、サウンドの深海へと沈み込むようなリスニング体験が始まる。音の細やかな粒子、硬質な持続音、微かなノイズが相互に浸透するように鳴り続ける。この曲によってアルバムの構造はほぼ決定づけられており、2曲目 “Clarion - Clipperton Zone” 以降は、音の色彩(トーン)を変化させながらも、見事な音響空間を成立させていく。いわば、音響のトーン変化による電子音響/アンビエントの交響曲とでも言うべき、ダイナミックな展開を遂げていくのだ。
 さらに重要なのは、深く沈み込むような8曲目 “Hadal” が終局を迎えたあと、最終曲 “Sunlight Zone (Strings Version)” において、曲名どおり冒頭の “Sunlight Zone” の弦楽ヴァージョンが展開される点である。まるでエリアーヌ・ラディーグの近作を想起させる弦楽ドローンは、聴き手の聴覚の遠近感を変化させるような響きに満ちている。さらに弦楽ドローンに加え、硬質で煌めくような電子音の断続的な響きや、環境音にも聴こえるサウンドもじつに美しい。その音は壮大にして厳粛、厳粛にして開放的である。まるで深海から海面へと遡行し、現実世界へ帰還するかのような音像が立ち上がるのだ。本作はこの曲によって幕を閉じるが、全曲を聴き終えたとき、「耳」は未知の領域へと開かれているような感覚を覚えるだろう。それほどまでに見事なサウンドスケープが展開されている。

 『Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière)』は、ヘイローのアンビエント系譜の音楽の流れを汲みつつ、聴き手を新たな知覚の領域へと導く作品なのだ。サウンドトラックでありながら独立した音響作品でもある。ヘイローのキャリアの中核を成す重要作であると同時に、現代音響芸術におけるひとつの指標としても位置づけられるだろう。

interview with Ego Ella May - ele-king


Ego Ella May
Good Intentions

Believe UK / Silent Trade

JazzSoul

Link HMV

 サウス・ロンドン出身の注目の女性シンガー・ソングライターのエゴ・エラ・メイ。ナイジェリアにルーツを持つ彼女は、歌と同時にギター演奏からトラック制作もおこなうマルチな才能を有しており、ジャズとネオ・ソウルをミックスしたような音楽性のなかで、オーガニックな質感とエレクトリックな要素もブレンドしている。2019年のファースト・アルバム『So Far』、2020年のセカンド・アルバム『Honey For Wounds』では、ジャズ系を中心にサウス・ロンドンを拠点とするミュージシャンとも多く共演してきたが、そんなエゴ・エラ・メイの新作『Good Intentions』のリリースにあわせ、これまでの歩みからニュー・アルバムに至る話を訊いた。

※編注:エゴ・エラ・メイの略歴と新作『Good Intentions』のレヴューはこちら

ニーナ・シモンにはすごく心を動かされたし、特にリリックの面で大きな影響を受けた。彼女の曲にはレジスタンスをテーマにしたものも多くて、日常のなかで実際に起きていることや、葛藤について書くという姿勢にすごくインスパイアされた。

あなたはサウス・ロンドンのクロイドン出身ですが、両親はアフリカのナイジェリアからの移民ですね。あなたが音楽をやるにあたって、そうしたルーツからの影響はありますか?

エゴ・エラ・メイ(以下、EEM): どちらも大きく影響している。ナイジェリアにルーツがあることは、自分の音楽のサウンドにも確実に影響しているし、ナイジェリアの音楽についてもっと知っていくことも、自分にとってすごく大事なことだと感じている。それから、食文化も自分のなかではとても大きな要素で、そういう部分も含めて、人としての自分を形作ってきたと思う。一方で、サウス・ロンドンで育ったこともすごく大きくて、そこで出会った人たちやミュージシャンたちが、いまの自分の音楽を作っていると言っていいと思う。もしサウス・ロンドンのミュージシャンたちと出会っていなかったら、どんな音楽をやっていたのか想像がつかないくらい(笑)。みんなで一緒に時間を過ごして、最初はただ純粋に音楽を作ること自体を楽しんでいたし、気づけば周りには素晴らしいミュージシャンたちがたくさんいて、そういう環境のなかで育ってきたことが、自分のサウンドにも、人としての自分にも大きく影響していると思う。

ちなみにあなたの名前はジャズ・シンガーのエラ・フィッツジェラルドから取られたそうですね。父親がジャズ好きだったからとのことで、その影響でジャズやゴスペルなどに親しんできたそうですが、どんなアーティストが好きでしたか?

EEM:最初に聴いたジャズ・ヴォーカリストはやっぱりエラ・フィッツジェラルドだったと思う。自分の名前の由来でもあるし、自然と最初に触れる存在だった。そこからビリー・ホリデイやサラ・ヴォーン、ニーナ・シモンへと聴いていくようになっていって。なかでもニーナ・シモンにはすごく心を動かされたし、特にリリックの面で大きな影響を受けた。彼女の曲にはレジスタンスをテーマにしたものも多くて、日常のなかで実際に起きていることや、葛藤について書くという姿勢にすごくインスパイアされた。たんなるラヴ・ソングだけじゃなくて、もっと厳しい現実や深いテーマに向き合った曲も多くて、そこもすごく魅力的だったし、声のトーンも本当に素晴らしい。だからニーナ・シモンは自分にとってとても大きな存在だった。ジャズやジャズ・ヴォーカルは、自分にとって最初の “初恋の音楽” という感じ。また、ゴスペル音楽にも強く影響を受けている。自分の曲のなかでも、聖歌隊のコーラスが歌っているような響きがあると思うけど、それは私自身が教会で育って、聖歌隊やゴスペルに囲まれてきたことが大きいと思う。いまでもゴスペルを聴くと強く心を動かされるし、たくさんの声がひとつになって祈るように響くあの感覚は、本当に力強くて大好き。

19歳の頃から独学でギターをマスターし、そしてビートメイクも習得して自身で音楽を作るようになりました。そして、ロンドンのICPM(The Institute of Contemporary Music Performance)に進学し、本格的に音楽を学ぶと同時に音楽仲間のコネクションを広げていくわけですが、ギター演奏や音楽制作において参考にしたアーティスト、歌を歌うことに関して影響を受けたシンガーなどありますか?

EEM:ギターに関しては、やっぱりエイミー・ワインハウス、コリーヌ・ベイリー・レイ、インディア・アリー、それからローリン・ヒルが大きい。みんな本当に素晴らしいミュージシャンで、しかもギターの腕もすごい。彼女たちを見ていると、「自分にもできるかもしれない」と思えた。ヴォーカルだけじゃなくて、ちゃんとしたミュージシャンとして、自分で曲を書いて、自分で伴奏しながら表現できるんだと気づいた。そういう意味で、彼女たちは間違いなく自分に影響を与えてくれた存在。ヴォーカルについては、さっきも言ったように、ジャズ・ヴォーカリストの影響が大きくて、すごく惹かれるものがあった。ジャズって本当に自由に表現できるジャンルで、とくにスキャットなんかは、まるでトランペットになったみたいに声を使ったりして、とにかく楽しいの。すごく解放感があって、表現の幅も広くて、声を探っていくことができるジャンルだと思う。そういうところが本当に好き。

制作面ではどうですか?参考にしている人はいますか?

EEM:制作に関しては、じつは最初に影響を受けたのは友だちなの。エマヴィ(Emmavie)っていうんだけど、彼女も本当に素晴らしいミュージシャンよ。シンガーでもあるし、ときどきラップもするし、プロデューサーでもある。ヴォーカルのプロダクションについても彼女から影響を受けていて、Logic Proの使い方を教えてくれたのも彼女だった。本当にすごいプロデューサーで、正直に言うと、いちばん影響を受けたのは彼女かもしれない。だからエマヴィには感謝している。

2013年に自主制作となるEPの『The Tree』を発表してデビューし、その後も2014年に『Breathing Underwater』、2015年に『Zero』をリリースしてキャリアを積んでいきました。この頃のあなたのサウンドはオーガニックなネオ・ソウルとジャズの折衷的なスタイルで、そこにエレクトリックな要素もブレンドしたものでした。それはいまでも変わらずあなたのスタイルとなっているわけですが、こうした自身のサウンドはどのようにして形作られるようになったのでしょう?

EEM:かなりいろいろ試していくなかで形になっていったと思う。その頃はまだ自分のサウンドが何なのか探っている段階だったから、ちょっとクセのあるビートだったり、トラックのなかでいろんなことをやってみたりしていた。とくに当時のハーモニーは、いま振り返るとかなり自由というか、まとまりきっていない部分も多かったと思う。とにかく試しながら録音して、それをSoundCloudにアップして反応を見ていた感じだった。まだ誰にも知られていなかったからこそ、思い切って実験できたし、そういう環境のなかであのサウンドができていったんだと思う。当時はミニ・D(Mini D)っていうプロデューサーと一緒にやっていて、本名はダニエルなんだけど、ふたりでスタジオに入って、とにかくやってみようという感じで制作していた。彼は本当に優れたプロデューサーで、彼のビートのスタイルが、自分がその上でやることにも影響していたと思う。彼のビートはある程度完成された状態で出来上がっていたから、そのうえでどう表現するかという作業になっていて、プロデューサーと一緒に作ると、どうしてもすでにある枠のなかでやることになる部分もある。でもその分、自分もそのトラックのなかでできることを最大限やろうとしていたし、「自分はこういうことができる」というのを見せたかったところもあった。そういう意味で、自分のサウンドはかなり彼の影響も受けていたと思う。もうだいぶ前のことだけど、最初はダニエルと一緒に、とにかく実験しながら作っていったのが出発点だったと思う。

当時のメディアは、あなたについてUSのムーンチャイルドを引き合いに出しているところもあれば、同じUKでは前述のコリーヌ・ベイリー・レイほか、ローラ・マヴーラ、リアン・ラ・ハヴァスといったシンガー・ソングライターたちの枠で評論するところもありました。また、USのネオ・ソウルの源流であるエリカ・バドゥの影響が見られるのは当然ながら、私の意見ではアコースティックなジャズやソウルとエレクトリックなサウンドとのバランスでは、UKのファティマやヤスミン・レイシーなどのスタンスが近いのかなとも思います。あなた自身はこうしたアーティストたちについて何かシンパシーを感じたり、影響を受けたところはありますか? または、彼らとは異なるということであっても構いませんが。

EEM:たしかに音楽のなかに共通点は感じると思う。たぶん、みんな同じようなアーティストを聴いて、影響を受けているのよ(笑)。それにヤスミンとはすごく長い付き合いで、彼女のやっていることも本当に好き。むしろ影響も受けていると思うし、本当に素晴らしいアーティストだと思っている。すごく正直な表現をする人だし、リリックも大好きだし、声のトーンも本当に独特で魅力的だと思う。だから、もし似ている部分があるとすれば、それはやっぱり共通して影響を受けているアーティストがいるからだと思うし、普段聴いている音楽にも共通点が多いからなんじゃないかな。

ナイジェリアの作家たちに意識的にフォーカスしていて、彼女たちがどんなふうに物事を描写しているのか、どう物語を語っているのかをすごく大切にした。

2019年にファースト・アルバムの『So Far』をリリースします。このアルバムではいろいろなプロデューサーとコラボしていて、そのなかにはウー・ルー(Wu-Lu)もいます。じつは彼とは最新作でもコラボしているわけなのですが、どのようにして共演するに至ったのでしょう?

EEM:最初のきっかけは、ウー・ルーがブリクストン出身だったことからだったと思う。ブリクストンはサウス・ロンドンにあって、どうやって知り合ったか正確には思い出せないんだけど、もともとは元彼を通じて知り合ったの。当時、ライヴをやるためにバンドを作ろうと思っていて、元彼がキーボードを弾いていたんだけど、その頃ウー・ルーはベーシストとしていろんなバンドで演奏しながら、自分の音楽も作っていた。元彼と彼はすごく仲が良かったから、「ウー・ルーっていう人がいるんだけど、一緒にやってみたらどう?」って紹介してくれたの。それで出会ったときは、彼は主にベーシストとして知られていて、ロウ・マテリアルっていう彼が働いていた場所というか音楽プラットフォームでセッションをよく主催していた。そこにたくさんのミュージシャンやシンガーが集まって、みんなで演奏していた。そういう場所で一緒に演奏するようになって、関係が始まった感じかな。彼は自分にとって最初のバンド・メンバーでもあったし、一緒に音楽も作っていた。それから12年くらい経って、またこうして一緒に音楽を作れているのは本当に素晴らしいこと。最新作では “What We Do” をプロデュースしてくれていて、この曲はアルバムからの最初のシングルでもあるんだけど、とても楽しい曲になっている。こうして振り返ると、ほとんどすべてのプロジェクトに彼が関わってくれているのも、本当にうれしいことね。

2020年のセカンド・アルバム『Honey For Wounds』では、ジャズ・ミュージシャンとのコラボが目につき、アルファ・ミストジョー・アーモン・ジョーンズオスカー・ジェローム、エディ・ヒック、アシュリー・ヘンリー、シオ・クローカーらと共演しています。シオ・クローカーを除いてサウス・ロンドンを中心としたジャズ・シーンで活躍する面々です。同時にあなたはジョー・アーモン・ジョーンズほか、ブルー・ラブ・ビーツ、ヘクター・プリマー、スクリムシャーなどのアルバムにも参加しています。また、サウス・ロンドン勢が集まった〈ブルーノート〉の企画『Blue Note Re:imagined』にも参加しています。改めてとなりますが、あなたとサウス・ロンドン・シーンとの結びつきについて伺えますか?

EEM:私とサウス・ロンドン・シーンには深い結びつきが間違いなくあると思うし、本当に恵まれていることだと感じている。いまでは「サウス・ロンドンのジャズ・シーン」なんて呼ばれているけど、当時は本当に、音楽業界に入りたてのミュージシャンたちが、ただ演奏したくて集まっていたっていう感じだけだったの。それで、「あっちでセッションがあるらしいよ、行こう」とか、「ここで何かやるみたいだから参加しよう」とか、そういう流れで自然とみんな集まっていった。そういうなかでお互いに知り合っていった感じ。それがすごく楽しくて、いまでもその一員でいられるのは本当にうれしいことだと思う。それからすごくいいなと思うのは、いまでもお互いのプロジェクトに関わり続けているところで、みんながいまでも声をかけ合っているというか、そういうコミュニティとしてのつながりがすごく大切だと思っているし、誇りにも思っている。できればこの関係がずっと続いてほしいとも思っている。たとえば『Honey for Wounds』に収録されている “Table for One” ではジョー・アーモン・ジョーンズがキーボードを弾いてくれていて、そのあと彼が「自分のアルバムでバック・ヴォーカルをお願いできる?」って声をかけてくれたりして。そういうふうに、「じゃあ今度は私がやるね」っていうやりとりが自然に生まれている。みんな同じネットワークのなかにいるからこそできることでもあるし、お互いの才能をこうやって分かち合えるのは、本当に素敵なことだと思う。

『Honey For Wounds』ではアフロ・ジャズ・バンドのヌビヤン・ツイストのリーダーであるトム・エクセルがプロデューサーとして参加していて、逆にあなたがヌビヤン・ツイストのアルバムに参加したこともありました。彼とあなたは結びつきが強いようで、最新アルバム『Good Intentions』では主要なプロデューサーとしてコラボしています。彼はどんなプロデューサー/ミュージシャンで、『Good Intentions』のコラボにおいてはどんなイメージで臨みましたか?

EEM:彼は本当に、音楽性がまったく別次元というか、すごい人。私がトムに「こういう音にしたい」って説明するとき、けっこう支離滅裂になってしまうこともあるんだけど、それでも彼はちゃんと理解してくれるの。私の言っていることがどんなに曖昧でも、それを受け取ってくれる。それだけ私のことをわかってくれているということだと思う。それって、一緒に過ごしてきた時間の長さや、信頼関係があるからこそで、あまり多くを言葉にしなくても、お互いに理解できる関係なんだと思う。さっきも話したように、同じ人たちと長く一緒にやってきたのは、まさにそういう関係性を築くためでもあって、お互いに弱さを見せ合えるような関係ができている。アルファ・ミストやウー・ルーとの関係も同じで、いまではもう、あまり言葉にしなくても通じる部分がある。それってすごく特別なことだと思う。それに、お互いのプロジェクトに参加し合っているというのもあって、私はヌビヤン・ツイストの作品にも参加しているし、彼も私のアルバムに参加してくれている。そういうコミュニティとしての関係が、トムとの間にもある。本当に素晴らしいアーティストだと思うし、彼は私に対して、「私はただのシンガーじゃない」ということを気づかせてくれる存在でもある。プロダクションや音楽的な部分にも自分の意見を持っていいんだと感じさせてくれるし、自分のアイデアをもっと広げていくことを後押ししてくれる人でもある。だから彼にはすごく感謝している。

『Good Intentions』は話に上ったトム・エクセル、ウー・ルー、アルファ・ミストのほか、ヤスミン・レイシーを手掛けるプロデューサーのメロー・ゼッドたちとコラボし、シンガーのロージー・ロウやマルチ・プレイヤーのアマネ・スガナミらが参加しいます。こうして多彩な面々とコラボすることにより、これまで以上にヴァラエティに富んだ作品集となった印象ですが、意図的にあなたの多様な側面を表現しているのでしょうか?

EEM:もともと、自分のいろんな側面を表現したいという気持ちはずっとあって、このアルバムはそれを実現するのにすごくいい機会だったと思う。もっと広がっていけるというか、いろんなミュージシャンと一緒に制作してみたいと思っていたし、もっと自由に実験してみたかった。このアルバムのテーマはまさにそこにあって、何かに縛られるような感覚は持ちたくなかった。ひとつの枠のなかに収めるのではなくて、とにかく自由に、ただ音楽を楽しみながら作っていきたいという気持ちが大きかった。

ずばり “Footwork” という曲があったり、アフロとブロークンビーツが融合したようなリズムの “What You Waiting For”、1990年代初頭のアシッド・ジャズ風とも言える “What We Do” など、ダンサブルでグルーヴィーな曲が多いのも本作の特徴かと思いますが、そのあたりは何か意識するところはあったのですか?

EEM:意識したとも言えるし、そこまでしていないとも言えるかな。このアルバムではたしかにいろんなサウンドの幅を持たせたいとは思っていたし、スタイルの違う曲を入れたいという気持ちはあった。でも最初から「こういう作品にしよう」と決めていたわけではなくて、単純に「やってみたい」という気持ちがあっただけだった。もし合わなかったり、うまくいかなかったらアルバムに入れなければいいだけだし、でも試してみることで、自分がそういうスタイルでどう表現できるのかを知ることはできるから。結果的にはそれがちゃんと形になったんだけど、根本には自分らしさがあると思う。ただ、少し違う方向に踏み込んでみた、という感じなのかな。うまく言えないけど、そんな感覚。

一方で、“We’re Not Free” や “Tarot” はあなた本来のオーガニックなテイストが出たアコースティック・ソウルですし、“Hold On” はジャズとソウルのちょうど中間的な楽曲です。“Back To Sea” や “Good Intentions” はギターの弾き語りによるフォーキーな楽曲で、“Love is a Heavy Thing” は往年のジャズ・シンガーのペギー・リーのようなコケティッシュな魅力の歌が印象的です。これらの楽曲ではあなたのシンガーとしての魅力が一段と深みを増しているように感じますが、あなた自身ではこれまでの作品から進化したのはどのような点だと思いますか?

EEM:自分としては、シンガーとしては確実に成長してきていると思うし、そうであってほしいとも思っている。時間も経っているし、歌う機会も増えてきたなかで、自分の声をよりコントロールできるようになってきたと感じている。とくにテクニックの面ではそうで、というか、テクニックを探求しているというよりは、「ちゃんとテクニックというものがあるんだ」と実感できるようになってきたという感じかな(笑)。2013年の頃や、2020年、2022年の自分と比べても、いまの方が確実に強いシンガーになれていると思うし、それが目指しているところでもある。歌い手としての自分を磨いていくことが大事だと思っているから、今回のアルバムではヴォーカル面でもしっかり自分を押し広げたいと思っていた。ただ同時に、完璧なものにはしたくなかったという気持ちもあった。ジャズ・ヴォーカリストたちの録音って、同じ部屋でライヴで録って、その一発で終わり、みたいなものが多いと思うんだけど、そういう空気感がすごく好きなの。だから何テイクも録って編集で整えるようなことはしたくなくて、できるだけ自然なままのヴォーカルにしたかった。後から聴き返して「もう少しこうできたかも」と思う部分があったとしても、その不完全さも含めていいなと思っているし、それも自分にとっては意図的なことだった。

“Pot Luck Baby” はチャールズ・ステップニーがプロデュースしたロータリー・コネクションを思わせる楽曲です。あなたの歌もミニー・リパートンを彷彿とさせるところがあって、そこにエリカ・バドゥのようなフレージングもミックスしているように思うのですが、いかがですか?

EEM:そうかもしれない。実際ミニー・リパートンやエリカ・バドゥからはすごく影響を受けているから、その要素が自然と出ているのかもしれない。ただ、この曲を作っているときに、あのふたりを具体的に意識していたわけではなかった。でも、あのトラックの雰囲気もあって、レコーディングしているときに無意識のうちにそういうシンガーたちの感覚が浮かんできていた可能性はあると思う。

アルバムのインフォ・シートには、あなたが愛読する作家たち――Chimamanda Ngozi Adichie、Patti Smith、Chinua Achebe、Ayobami Adebayo、Joan Didion――からも影響を受けて形作られている、とあります。パンク・ロックにも多大な影響を与えた詩人/ミュージシャンのパティ・スミスと、1960年代の米国カウンター・カルチャーを代表する作家のジョーン・ディディオンというアメリカ人を除いてナイジェリアの作家で、なかでチママンダ・ンゴズィ・アディーチェとアヨバミ・アデバヨは年代的にも同時代の女性作家と言えます。どのような影響を受けて『Good Intentions』は作られたのでしょうか?

EEM:とくに同時代のナイジェリアの女性作家たちの作品はたくさん読んでいて、それがこのアルバムにも影響していると思う。彼女たちの書く物語には、自分自身の歴史のようなものを感じる部分があって、すごく強く影響を受けているからこそ、その流れのなかに自分の声も加えたいと思ったというか、その世界を自分なりに引き継いでいきたいという気持ちがあった。だからナイジェリアの作家たちに意識的にフォーカスしていて、彼女たちがどんなふうに物事を描写しているのか、どう物語を語っているのかをすごく大切にした。そういう意味で、自分もその会話の一部になりたいと思っていたし、同時に彼女たちの素晴らしさをもっと広く伝えたいという気持ちもあった。そういう影響を受けながら、自分もいつか優れた書き手になれたらいいなと思っている。だからこそ、こういう形になったんだと思う。

Thundercat - ele-king

 「人脈」という言葉はどのように英訳できるだろう。「人」は person だとして、「脈」は繋がり connections と脈絡 context のどちらが適切なのか。大方は connections という語で説明できる気もするが、前後の時系列を加味した適切な人間関係の間でのみ育まれることを考慮すると context が場合によっては正解になりそうな気もしている。脈拍 pulse ではまさかないだろう……いや、人肌の通ったコミュニケーションのみを「人脈」と定義するのならば、あながち外れていないのでもないのか???

 サンダーキャットの新作を聴きながら考えていたのは、そんなことだった。ジャズ・ベーシストの教育と並行してハードコア/スラッシュメタル・バンドのスイサイダル・テンデンシーズへ兄とともに参加し、以降はエリカ・バドゥやスヌープ・ドッグのステージに参加。ここまでが20代前半の物語であり、フライング・ロータスの主宰する〈Brainfeeder〉のメンバーに名を連ねてからはLAを代表するプレーヤーとしてさらに頭角を表す。同郷のカマシ・ワシントンテラス・マーティンとともにケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』へ名を連ねたのが最も象徴的だっただろうか、あれから10年以上が経過し最早捕捉できないほどの神出鬼没っぷりで彼は忙しなく動いている。ジャスティスであれゴリラズであれケラーニであれハイムであれ……いや、とてもじゃないが書き連ねていられない。ライヴ・パフォーマンスへの飛び入りを含めれば、ここ10年に限っても恐らく3桁では足りないほどのアーティストとのコネクションを彼は紡いできたのだ(実際、これを書いている現在開催中の Coachella にも、スイサイダル・テンデンシーズとピンク・パンサレスのステージにサンダーキャットは顔を出していた)。

 ただ、サンダーキャットはたんなる都合の良いプレイヤーではない。ベーシストとしては異端そのものだ。Ibanez 製の6弦ベース──ボディの中央部には彼のオタク趣味を反映してか、『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカがペイントされている──にワウをかけて、リズムと低音部を担うというオーセンティックなベースの役割から外れたプレイが彼のシグネイチャーだ。テクニックを存分に盛り込んだ素早い運指はむしろクラビネットのような音色であり、アンサンブルを邪魔しないプラスアルファとしてこの上なくファンキーに融和する。

 サンダーキャットの強烈な個性は、どこにいても一聴すれば「あ!」と気付けるような音色にこそ表れており、結果的にセッション・マン以上の深い繋がりを世界中のアーティストと築くことに至った。これまでのソロ作しかり、『Distracted』では彼らとのホーム・パーティよろしく、豊富な面々を招いている。フライング・ロータスやマック・ミラーといった旧友たちとの再会もあれば、例えば冒頭の “Candlelight” でのドミ&JD・ベックに “ThunderWave” でのウィロー・スミスなど、20代の才能溢れるスターたちとの共演もある。さらに “No More Lies” でのケヴィン・パーカー(テーム・インパラ)や “What Is Left To Say” でのダダリオ兄弟(ザ・レモン・ツイッグス)など、全くの異領域からオーヴァーグラウンドな地点にリーチしてきたソングライターたちもアルバムの環世界に組み込んでいる。『Drunk』でマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスに声をかけただけあってか、自身の愛したカルチャーに忠実な愛を注ぐとともに、音に対して誠実な姿勢で向き合う作家を積極的に評価するサンダーキャットの嗜好がここには見て取れる。

 そうした誠実さは作品自体の風通しの良さにも表出している。ドライヴ・ミュージックであることを念頭に置いたマック・ミラーとの “She Knows Too Much” は彼へのトリビュートであるという背景を考慮してもなお疾走感に溢れているし、エイサップ・ロッキーがライミングする “Funny Friends” ではミドルテンポながらもマキシマムな迫力で突き進む。こうしたアッパーなナンバーが前後を取り囲む80’sライクなAORと失恋からくるリリック──およそ半数以上が「She's gone」な内容だ──によって絶えずチルされるからこそ、フュージョン・バンドによるセッションという構造を保ったまま、まるでプレイリストを流しているかのようなヴァラエティ豊かな内容に「錯覚」するのだ。「1,2,3,4」というカウントとともにその魔法が解かれる “What Is Left To Say” 以降、そのチルなフィーリングはより深淵へと向かっていく。

 中盤から後半にかけてのチルな展開にもかかわらず、サンダーキャットのキャラクターは損なわれることなく描かれていく。『Distracted』(つまり「気が散る」)のテーマとも密接に繋がる “A.D.D. Through the Roof” ではたおやかなサウンドのなかで自身の注意散漫な性を開陳しているし、続く “Great Americans” では《炎の中で1日が始まる/君にテキストを返さなかったから?》と歌われる。“Great Americans” ではこうも歌われている、《よくわからないけど/僕ずっとSOSを出しているんだ/明らかにどこかおかしいけれど/診断を受けてはいない》と。彼の悩みの種を掘り下げると、そこにはアテンションを四方八方から要求される現代病の影がついて回る。

 だが彼はこの病理に対しても、あくまでユーモラスに付き合うことを選ぶ。最終曲 “You Left Without Saying Goodbye” のラストのライン──つまりアルバムを閉じる言葉──はこうだ。《OnlyFansに参加して脚でも見せてみようか?》。AORやシティ・ポップを意地悪く遅回しにして皮肉を突きつけるのは Vaporwave の連中の仕事だ。サンダーキャットは「むしろ」誠実に、遅回しにも早回しにもすることなく、適度に心地よいテンポを保ったまま、自身のメランコリーをシェアする。露悪に陥ることなく事物と向き合うことに慣れた者のみに許された特権を、サンダーキャットは仲間と共に謳歌しているのだ。

THUNDERCAT
JAPAN TOUR 2026

TOKYO 2026/5/19 (TUE) TOYOSU PIT *SOLD OUT
TOKYO 2026/5/20 (WED) TOYOSU PIT *SOLD OUT
OSAKA 2026/5/21(THU) NAMBA HATCH
NAGOYA 2026/5/22 (FRI) COMTEC PORTBASE *SOLD OUT

OPEN 18:00 / START 19:00
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