七尾旅人が、2018年の『Stray Dogs』以来のアルバムをリリースすることが先週、本人のツイートによって発表された。タイトルは『Long Voyage』、全17曲、CD2枚組の大作で、そのスケールの大きさからいって、ファンのなかにはあの『911FANTASIA』を思い出す人も少なくないだろう。コロナ以降の2年間の七尾旅人がやってきたこと(対コロナ支援配信「LIFE HOUSE」や感染者家庭に食料を届ける「フードレスキュー」はいまも継続中)を思えば、それもむべなるかなで、期待は高まる。発売は9月14日、曲名や参加ミュージシャンなどアルバムの詳細は彼のホームページを参照してください。
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世界の多様な環境音と音楽的な要素。このふたつは現代の音響作品にあって既に違和感なく融合している。たとえば〈12k〉などエレクトロニカ経由のアンビエント/ドローン作品を思いだしてみれば理解できるだろう。シネマティックな環境音とやわらかい持続音が交錯し、聴き手に深い心地よさをあたえてくれるタイプの音楽である。
テキサス州のサンアントニオを拠点とするクレア・ルーセイのサウンドも表面上はそれらアンビエント/ドローンと同じような要素でできあがっている。2019年あたりからリリースを開始したルーセイは、環境音を主体としたエクスペリメンタル(実験的)な作風である。そこにクラシカルな要素をおりまぜつつ、独自の音響空間を生みだしているのだ。だが彼女のサウンドスケープは、凡庸なアンビエント・ドローンとは一線を画すような独自の「間」がある。ありきたりな心地よさに落とし込まない/逃げない「意志」があるのだ。
なかでも2021年の『A Softer Focus』は彼女の最高傑作といえるアルバムだった。繊細で大胆な音響空間によって、「音を溶かす」かのごときサウンドスケープが生成されていた。環境音、ノイズ、クラシカルな器楽などを用いつつも彼女の音楽は、いわゆるアンビエント/ドローン作品とはやや異なる「時間」が流れている。
なぜか。彼女のパフォーマンスおよび録音は、物理的なオブジェクトの「潜在的な音」を引き出すことで、クィアネス・人間関係・自己認識を探求していくタイプのものである。自己と世界があり、その齟齬があり、関係があり、自律がある。それら社会と個の関係をサウンドスケープのなかに生成させているように思えるのだ。
不用意に音が溶けていない。音に依存していない。自己がある。反復という規律性に抗い、いま、ここにある自己の音をつなげている、とでもいうべきか。
新作『Everything Perfect Is Already Here』はピアノやハープ、ヴァイオリンなどが奏でる静謐な響きと環境録音などが、ゆったりとした時間のなか交錯し合う、まさにクレア・ルーセイならではの音に仕上がっていた。
前作であるモア・イーズとの共作『Never Stop Texting Me』 が、ハイパーポップな作風だったので、その振れ幅にも驚いてしまう。この『Everything Perfect Is Already Here』はリリース・レーベルである〈Shelter Press〉から2021年にリリースした『7 Roles (All Mapped Out)』で提示したルーセイのミニマリズムを受けつぐものだ。ハープのマリル・ドナヴァン、マスタリングのシュテファン・マシューなどの参加・制作メンバーも共通している。
加えて2021年に〈American Dreams Records〉からリリースした傑作『A Softer Focus』に特徴的だった環境音やノイズ、そしてクラシカルな楽器音などの音要素をコンポジションする作風をより突き詰めたアルバムともいえる。
アルバムには “It Feels Foolish To Care” と “Everything Perfect Is Already Here” など15分ほどの長尺2曲が収録されている。両曲とも聴き込んでいくうちに、音の一音、音の一粒に耳が繊細になり、その音の柔らかで、しかし硬質な響きに、不意にふれあっていくような感覚になってくる。
世界との融解から遠く離れて、個と世界の音を鳴らすこと。ありきたりなアンビエント/ドローンの心地よさとはまた別種の感覚が、このアルバムと、クレア・ルーセイの音にはあるのだ。
昨年〈Hyperdub〉から『Reflection』というすばらしいアルバムを発表し、高い評価を獲得したプロデューサー、ロレイン・ジェイムズ。今年もワットエヴァー・ザ・ウェザー名義でこれまたハイクオリティなアンビエント作品を送り出しているが、早くも本名名義での新作がアナウンスされている。NYの作曲家ジュリアス・イーストマン(メレディス・モンクやアーサー・ラッセルとのコラボで知られる)にオマージュを捧げたアルバムで、彼の作品を再解釈した楽曲により構成されている。リリースは10月7日。
artist: Loraine James
title: Building Something Beautiful For Me
label: Phantom Limb
release: 7th Oct 2022
tracklist:
01. Maybe If I (Stay On It)
02. The Perception of Me (Crazy Nigger)
03. Choose To Be Gay (Femenine)
04. Building Something Beautiful For Me (Holy Presence of Joan d’Arc)
05. Enfield, Always
06. My Take
07. Black Excellence (Stay On It)
08. What Now? (Prelude To The Holy Presence Of Joan d’Arc)
先日出た紙版エレキング「フォークの逆襲」号のディスク・ガイドのページでもちょこっと紹介したが、改めてレヴューしておこう。紙版まで手を伸ばさない読者も多いだろうし、何よりもスティック・イン・ザ・ホイール(SITW)こそは現在の英国フォーク・シーンにおける最重要バンドだから。
と言いつつも、最近出たばかりの本作は、SITW名義の正式なニュー・アルバムとは言い難い。ヴェアリアス・プロダクションというダブステップ・バンドで活動していたイアン・カーターとニコラ・キアリーによって2015年にロンドン下町で結成されたSITWは、これまでにスタジオ録音フル・アルバムとしては『From Here』(2015)、『Follow Them True』(2017)、『Hold Fast』(2020)の3作品をリリースしてきたが、それ以外にも実験的アイデア(エレクトロニクスの使用その他)を試す「ミックス・テープ」シリーズとして『This And The Memory Of This』(2018)、『Against the Loathsome Beyond Mixtape』(2019)、『Tonebeds For Poetry』(2021)などを出し、更にプロデューサーとしても、英フォーク・シーンの新しい才能を集めたコンピレイション・シリーズ「English Folk Field Recordings」をキュレイトしてきた。3人のミュージシャンとコラボレイトした本作『Perspectives on Tradition』は「ミックス・テープ」シリーズの4枚目としてカウントすることができるが、しかし同シリーズの過去作品とはまた別立ての特別企画アルバムだったりもする。
ここでのコンセプトは明快だ。ロンドンのセシル・シャープ・ハウスの民俗音楽ライブラリー(音源や映像のアーカイヴ)に眠る素材と今現在のフォークがどのようなつながりを持てるのか、その可能性を探ることである。セシル・シャープ(1859-1924)は20世紀初頭に英国民俗音楽の最初の復興運動を推進した民謡蒐集家/研究者/作曲家であり、彼が収集した素材は、50~60年代のトラッド・フォーク・リヴァイヴァル(イワン・マッコール、マーティン・カーシー他)の隆盛にも大きな貢献を果たした。1911年に彼が共同設立者となった「The English Folk Dance Society」は32年には「The English Folk Dance and Song Society」(EFDSS)に発展し、現在も伝統音楽の普及/教育機関として運営されている。その総本山たる建物のセシル・シャープ・ハウス内のヴォーン・ウィリアムズ記念図書館にあるのが、伝統音楽やダンスに関する44000枚ものレコードと58000以上のデジタル画像を収蔵する世界最大級の民俗音楽アーカイヴだ。民謡をめぐるセシル・シャープの活動に関しては、人種差別や性差別的スタンス、あるいは貴族主義的、帝国主義的視線が認められることもあって、SITWの2人は全面的に肯定しているわけではないと思われるが、そういった批評性も込みで、今回のプロジェクトにとりかかったようだ。
SITWに誘われてプロジェクトに参加したのは、ジョンファースト(Jon1st)、ナビアー・イクバル(Nabihah Iqbal/別名Throwing Shade)、オルグベンガ(Olugbenga)の3人。ジョンファーストは英国を代表するターンテーブリスト/クラブDJであり、SITWのイアン・カーターとはゴールズ(Goals)なるエレクトロニク・ユニットもやっている。エレクトロニク系ミュージシャン/プロデューサーにしてアフリカ史の専門家でもあるナビアー・イクバルはBBCでも番組を持つなどラジオ・プレゼンターとしても有名だ。そして、ナイジェリアとケニアの血を引くラゴス出身ブライトン在住のオルグベンガはポップ・ロック・バンド、メトロノミーのベイシスト。デーモン・アルバーンのプロジェクト「アフリカ・エクスプレス」の一員でもある。英国フォーク/伝統音楽との接点がなく、出自も文化的背景も異なる、しかしエレクトロニク・ミュージックという共通分母を持った3人がセシル・シャープ・アーカイヴの中から何を見つけ出し、それを元にしたSITWとのコラボレイションによってどういう世界を描き出すのか。その実験を通して、現代英国人としての自分たちの歴史的連続性を検証し、同時に、伝統音楽の持つ意味と機能性を問い直してゆく──まさに『Perspectives on Tradition』なるタイトルどおり、伝統への視点を巡る冒険である。
ペンタングルのデビュー・アルバム『The Pentangle』(68年)のオープニング曲としてよく知られ、アン・ブリッグスやシェラ・マクドナルド、ジューン・テイバーなどたくさんのトラッド系シンガーたちも歌ってきた5曲目 “Let No Man Steal Your Thyme” は、その起源を17世紀末にまでさかのぼれる有名なラヴ・ソングだが、霧の彼方から聴こえてくるようなリヴァーブたっぷりのニコラ・キアリーの歌唱はジョンファーストによるミニマル・テクノ風のビートと絡まりながら300年の時空を浮遊する。
1曲目 “The Milkmaid” と3曲目 “Farewell He” で英国南部ドーセット州の民謡をアンビエント・テクノ・マナーでドリーミーに解釈したのはナビアー・イクバル。
ケニアでのフィールド・レコーディング音源やナイジェリア民話を細かく接合して雄大なエレクトロニク・ワークに仕上げたオルグベンガによる4曲目 “Devil In The Well / Bright-Eyed Boy” も面白い。セシル・シャープが民謡の調査、採譜をおこなったのは英国と米国アパラチア地方だけだったはずだが、現在のアーカイヴには旧植民地の素材も収蔵されているということか。旧植民地の文化と現在の移民文化という英国の歴史全体を射程に入れているあたりにも、SITWの批評性を感じる。
紙版エレキングに掲載したSITWのインタヴューの中で、イアンとニコラは「我々は、薔薇色に彩られた過去の景色を創ったり、観光客の理想のようなものを助長したいわけでもない。私たちにとってフォーク・ミュージックは、過去の人たちと人間対人間として関わることに他ならない。それはリアルで、具体的な人間同士の繋がりであり、本物になることを意味する」と語り、旧来のトラッド・フォーク・シーンを支えてきた “偽りのノスタルジア” を厳しく糾弾した。その実証例としての最新の回答が本作である。彼らの本邦初のインタヴューは実に力強く、多くの示唆に富んでいるので、是非読んでいただきたい。
コーネリアスが本日(7月22日)より“変わる消える (feat. mei ehara)”を配信している。これは2021年春に作詞作曲され同年5月にレコーディングされた曲で、ヴォーカルにはmei eharaをフィーチャー、作詞を担当したのは坂本慎太郎。昨年7月のリリース直後から配信停止状態が続いていたが、ようやく聴けるようになった。(リミックス・ヴァージョンでは、〈ストーンズ・スロー〉からの作品やソランジュの仕事で広く知られるLAの音楽家、John Carroll Kirbyがリミックスを担当)
また、本日よりワーナーミュージック・ストアではリリースを記念したTシャツの販売も開始されている。
Dancer:Hiro Murata
Director/DoP/Animator:Koichi Iguchi
https://youtu.be/2Je4dhaRtmc
サン・ラー・アーケストラが2020年の『Swirling』に続く新作『Living Sky』を2022年10月7日に〈Omni Sound〉からリリースする。録音は、現バンド・リーダーのマーシャル・アレンをはじめ、総勢19名のミュージシャンが参加し、フィラデルフィアのRittenhouse SoundWorksで2021年6月、まる1日かけておこなわれたという。アルバムにはサン・ラーの名曲のひとつ、“Somebody Else's Idea”のインストゥルメンタル・ヴァージョンが収録される(ヴォーカル・ヴァージョンは1971年の『My Brother The Wind, Vol II』に“Somebody Else's World”として収録されている)。
なお、バンドの声明文には以下のような力強い言葉が記されている。「私が生きている世界は、私が変えることができる世界だということを肯定するもの。変化の第一段階は、現状のステイタスを受け入れないこと、現状を拒否すること。それから、私たちは無限に広がる可能性へと自分を解放することができる。それが私たちの願いです」
レーベル〈KiliKiliVilla〉が2022年の後半に気合いを入れてリリースするのが、Strip Jointのデビュー・アルバム。ポスト・パンク、ギター・ポップからクラッシック・ロックまで70年代以降のロックのエッセンスを取入れた、レーベルうわく「狂った日常を見つめもがく世代への正直なメッセージ」。発売は9月21日。なお、先行の7インチEP「Liquid」は本日発売。

9月21日発売
Strip Joint / Give Me Liberty
CD
KKV-136
Strip Joint
Strip Jointは日本のインディー・ロックバンド。2017年に結成され、現在まで東京を拠点に活動している。10以上のシングル・EPリリースを経て、2022年にから1stアルバム “Give Me Liberty” をリリースする。音楽的には、ギター・ボーカルDaiki Kishiokaによるリリカルなソングライティングと、トランペット、キーボードを含むメンバー6人による多彩なサウンドを特色とする。
2017年にCeremonyとして結成。メンバーの変動を経て、2019年にStrip Jointに改名。
現在は、Daiki Kishioka(ギター・ボーカル)、Aya Tominaga(キーボード)、Momoka Amemiya(トランペット)、Hiroyuki Nishida(ドラム)、Rio Shimamoto(ギター・コーラス)、Kei Nakatsuka(ベース)の6人のメンバーで活動している。
アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアと、ソニック・ブームによるコラボレイション・アルバム『Reset』がリリースされる。両者はこれまでもパンダ・ベアの『Tomboy』以降、とくに『Panda Bear Meets The Grim Reaper』で親密な関係を築いてはいたが、連名でアルバムを発表するのは今回が初めて。デジタル版は8月12日、フィジカル盤は11月18日に発売。現在、収録曲 “Go On” のMVが公開中です。
Panda Bear & Sonic Boom
コラボレーション・アルバム『Reset』のリリースを発表!
先行シングル「Go On」がミュージックビデオと共に解禁!
8月12日にデジタル/ストリーミング配信
11月18日にはCDとLPが発売!
長年の友人であるアニマル・コレクティヴのパンダ・ベアことノア・レノックス、とソニック・ブームことピーター・ケンバーが、コラボレーション・アルバム『Reset』を〈Domino〉からリリースすることを発表した。8月12日にデジタル/ストリーミング配信でリリースされ、11月18日にCDとLPが発売される。
ソニック・ブームは高い評価を集めたパンダ・ベアのソロ・アルバム『Tomboy』(2011年)と『Panda Bear Meets the Grim Reaper』(2015年)に参加するなど、2人は互いの音楽を知らないわけではないが、『Reset』は初の共同リリース作品となる。ソニック・ブームが所有する50年代、60年代のアメリカン・ドゥーワップやロックンロールのコレクションからインスピレーションを受けたという楽曲群は、パンダ・ベアとソニック・ブームそれぞれの輝かしいキャリアを通してリリースされてきたどの曲よりもキャッチーで明るく、共同作業やコラボレーションの素晴らしさを証明するものとなっている。今回解禁された「Go On」は、ザ・トロッグスが1967年に発表した楽曲「Give It to Me」をサンプリングしており、ミュージックビデオと共に解禁された。
Panda Bear & Sonic Boom - Go On (Official Video)
https://youtu.be/_9_zoL7Jkr4
今から6年前、ソニック・ブームは故郷のイギリスを離れ、パンダ・ベアが住むポルトガルに移住している。パンダ・ベアがソロ作品『Person Pitch』のライナーノーツでソニック・ブームの元バンド、スペースメン3に対して感謝の言葉を述べたことをきっかけに、ソニック・ブームからも感謝の気持ちを込めて彼にメッセージを送るようになった。2011年の『Tomboy』以来、パンダ・ベアのリリース作品のミキシングと共同プロデュースを担当し、特に2015年の『Panda Bear Meets the Grim Reaper』ではより密な共同作業を行うなど、2人は継続的なパートナーシップを築いている。
『Reset』を制作する上で描いたソニック・ブームのヴィジョンはシンプルだった。ポルトガルまでレコードを運んだ後、新鮮な空間でターンテーブルにレコードを乗せ、何年も聴いていなかった古い名曲の魅力を再確認した。例えば、偉大なロックンローラー、エディ・コクランや、アメリカの素晴らしいハーモニーを奏でるエヴァリー・ブラザーズ。また他の発見もあったという。それらのスタンダード曲のイントロそのものが、それに続く楽曲のメインパートとはまた別のものとして、まるで舞台のステージカーテンのように魅力的だということに気づいた。ソニック・ブームはそれらをループさせ、金属を捻じ曲げるように変形させて楽曲のベースを作っていった。パンダ・ベアはその上で何を演奏し、何を歌うかを即座に理解し、それを完成した楽曲に仕上げた。
国際的なロックダウンが始まって間もなく『Reset』の核が形作られてきた。だから、これらの曲で一緒に仕事をする機会そのものが、ある種のメディケーションでもあり、憂鬱な現実を生き抜き、そこから未来へと向かう出発点となった。『Reset』は、暗い時代の中で、蛍光灯のような光を放つ40分の作品である。決して少なくない現実の苦難を見つめ直し、その反対側への道を提示すること。パンダ・ベアとソニック・ブームにとって『Reset』を作ることが一時的な薬になったとすれば、それを聴くリスナーにとっては永久的な存在になるだろう。友人と一緒に古いお気に入りの曲を演奏し歌うだけで、世界が少しだけ明るくなることをこの作品は教えてくれる。

label: Domino
artist: Panda Bear & Sonic Boom
title: Reset
release: 2022.11.18 FRI ON SALE
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12912
TRACKLISTING
01. Gettin’ to the Point
02. Go On
03. Everyday
04. Edge of the Edge
05. In My Body
06. Whirlpool
07. Danger
08. Livin’ in the After
09. Everything’s Been Leading To This

CD

通常盤LP(ブラック)

限定盤LP(イエロー)
震天動地の要人暗殺事件ですっかり話題に上らなくなってしまったが、先の参院選では音楽業界の4団体が特定の政党候補者への支援を表明するという、こちらもまた前代未聞の事態が起こり、当の音楽関係者による抗議声明をはじめ数多くの人びとから批判が集まった。それであらためて「音楽と政治」に関する議論も浮上した。ここでは深入りしないが、そしてくだんの問題とはやや論点が異なるが、政治を美学化するための道具として音楽を利用することの大きな問題点のひとつは、音楽が特定の役割、それも暴力装置としての役割を果たすためにあらかじめ決められた目的に沿って聴かれることへと向かってしまうことにある。象徴的な事例が軍歌だ。人びとは軍歌を歌うことで自らを鼓舞し戦争という目的へと向かって突き進む。注意するべきなのは何も軍歌だけにそのような力があるわけでなく、感情を動かし身体を揺さぶる音楽それ自体にそもそもそのような力が備わっているのであって、ひとたび目的を課せられれば軍歌であろうと流行歌であろうとポップスであろうと人びとを戦争へと駆り立てるための有用な手段となる。そして目的に沿って方向づけられた音楽を余白を欠いた音楽と言い換えるなら、その力の危うさを見定めるためにわたしたちはあらためて音楽の余白に耳を傾ける必要があるとも言える。
シンガーソングライターの寺尾紗穂による通算10作目にして2年ぶりとなるオリジナル・アルバム『余白のメロディ』がリリースされた。タイトルだけでなく作品それ自体の内容としても特定の目的や役割を持たない余白にスポットが当てられているように感じた。アルバムはカヴァー曲を除き全て寺尾による作曲だが、まずピアノの弾き語りをホーンとストリングスが彩る松井一平作詞の “灰のうた” で幕を開けると、続く MC.sirafu 作詞の “良い帰結(Good End)” ではヴォイスの多重録音やエレクトリック・ピアノも駆使しながら軽快なサウンドを聴かせる。3曲目 “確かなことはなにも” は寺尾が作詞作曲、ユニット「冬にわかれて」と同じく伊賀航(ベース)、あだち麗三郎(ドラム)とのトリオ編成で、4曲目 “ニセアカシアの木の下で” も寺尾の作詞作曲だがこちらは Mom のリズム・トラックと編曲が他の楽曲と比べて一風変わった雰囲気を醸している。そして野太いベースラインが印象的な5曲目 “期待などすてて” は再び松井一平作詞で、「冬にわかれて」のメンバーに加えてアルトフルートで池田若菜が客演。
ここまで聴き進めて、多数のミュージシャンが参加し、コラボレーション色の濃い楽曲の数々は、ヴァリエーションに富んでいるとも、一見するとまとまりに欠けるようにも聴こえるがしかし、後半5曲を通じて一気にアルバムは深化する。カヴァー曲の6曲目 “森の小径” はこのアルバムの重要曲のひとつだ。太平洋戦争前夜、すでに日中戦争の戦時下だった1940年に佐伯孝夫が作詞、灰田有紀彦が作曲し、有紀彦の弟・灰田勝彦が歌った “森の小径” は、勇ましい軍歌で溢れていた当時としては異色と言っていい、感傷的な歌詞をハワイアン調のスライド・ギターとシャッフル・ビートに乗せて歌う楽曲だった。だが特攻隊として戦地に赴く若者たちはそんな “森の小径” を愛唱したのだという。あまりに悲痛だ。その悲しさを受け継ぐように寺尾紗穂は奥行きのある音像で情感豊かにピアノを奏でつつ透き通るような声で歌う。間奏にはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」を挿入するというアレンジだが、その意味は説明するまでもない。あたかも1曲目 “灰のうた” が、灰田兄弟の楽曲の伏線となっているかのようでもある。
“森の小径” のカヴァーでアルバムの雰囲気が少しばかり変化すると、残る4曲にそのまま耳が惹きつけられていってしまう。7曲目 “光のたましい” では一部にプリパレーションを施したピアノがいびつなノイズを微かに響かせながら、気づけば1曲目 “灰のうた” と同じ音型をピアノが踏襲しつつ、聴き手を優しく包み込むような歌声をじっくりと聴かせる。そして8曲目 “僕の片割れ” でもやはりピアノが同じ音型を繰り返し、中盤からは寺尾の歌とピアノが、客演した池田若菜の音が空間に滲み出すようなフルートと絡み合いともに歩む。9曲目 “歌の生まれる場所” では「冬にわかれて」のトリオにホーン・セクションが加わり、ポリリズミックなシャッフル・ビートからサビではゆったりと引き伸ばされ壮大に彩られた歌を歌う。しかし歌の生まれる場所とはどこか──その答えがおそらく次の、アルバムを締め括るカヴァー曲 “Glory Hallelujah” だ。西岡恭蔵のこの楽曲と出会い、そして初のワンマン・ライヴでカヴァーしたことが、寺尾の音楽活動のひとつの出発点となったのだった。ここから彼女の歌は生まれた。
いわばアルバム全体を通じて、わたしたちは寺尾紗穂の声とともに彼女の歌が生まれる場所へと遡行していく。前半の楽曲群がコラボレート色が濃くヴァリエーションに富んでいるのは、歌の発生から分化した先にある多様な現在地をまずは並べているのだと受け取ることもできる。それらは “Glory Hallelujah” とは似ていないが、ゲスト・ミュージシャンのひとり池田若菜がファースト・フル・アルバム『Repeat After Me (2018-2021)』で示したように、様々な記憶と混じり合い全く別の形に変化した歌の数々として、“Glory Hallelujah” を何かしら受け継いでいるのかもしれない。歌は言葉とメロディをそのまま辿り直すこと以上に、人間の個別的な経験を通じてつねに変化し得る生き物のような存在でもあるところに代え難いリアリティを宿す。そしてそこには様々な方向へと開かれた余白がある。寺尾紗穂は著書『天使日記』の中で、以前ライヴで “森の小径” を歌ったときのことを振り返りながら「世の中に軍歌があふれても、人の心の色まで染め上げることはできなかったと思う」とこの曲について記していた。それは激動の時代にいくばくかの希望を見せてくれる。人の心が染まらないのはすなわち感情に余白があるからだ。反対に余白を失い、ひとつの方向へと感情が方向づけられたとき、人の心は「軍歌」──それは「流行歌」あるいは「ポップス」で置き換えることもできる──で恐ろしくも単色に染め上げられてしまう。歌の生まれる場所、様々な方向へと開かれた場所に遡行していく『余白のメロディ』は、“森の小径” がそうであったように、こわばりゆく感情を解きほぐす希望の余白を響かせている。
この春〈On-U〉よりリリースされた新作『Midnight Rocker』が高い評価を獲得しているホレス・アンディ。たとえば英『ガーディアン』のレヴューでは五つ星を獲得、同紙が選ぶ2022年の上半期ベストにも選出され、いちばん最初に掲げられている。
そして朗報だ。同作の続編にあたる新作『Midnight Scorchers』が9月16日に発売されることになった。『Midnight Rocker』のオリジナル・セッションをエイドリアン・シャーウッドの「サウンドシステム」が引き継いだもので、近年の例でいえば2019年のリー・ペリー『Rainford』にたいする『Heavy Rain』のような立ち位置の作品である。現在、収録曲 “Feverish” のMVが公開中。オビつきLPやTシャツつきセットも販売されるとのことなので、早めに予約しておこう。
Horace Andy
新たなるホレス・アンディの名盤、『Midnight Rocker』の続編として、“サウンドシステム” 版となる『Midnight Scorchers』が9/16リリース!
収録曲 “Feverish” をMVと共に先行解禁!
数量限定で日本語帯付きLPやTシャツ・セットも発売!
音楽というのは素晴らしいものだ、なぜなら人に刺激を与えられるからだ。薄っぺらい音楽ではそうはいかない。心血を注ぎ、全精力を込めてこそ、スピーカーから襲い掛かってくるようなものができるんだ。そして、その時に爽快感を覚えたなら、何かが達成できたっていうことだ ──Adrian Sherwood
70年代、80年代に〈Studio One〉や〈Wackies〉などのレーベルで制作した「Skylarking」、「Money Money」他、数々の名作によって、世界中のレゲエファンから愛される存在となった伝説的シンガー、ホレス・アンディ。90年代以降はマッシヴ・アタックの作品に参加したことでレゲエ以外のシーンに衝撃を与え、彼らの全てのスタジオ・アルバムに参加、更に常に彼らのツアーを支える主要メンバーとして活躍しており、より幅広い音楽ファンを虜にし続けている。そんな彼が、エイドリアン・シャーウッドをプロデューサーにむかえて〈On-U Sound〉よりリリースした『Midnight Rocker』は新たなるホレス・アンディの名盤としてメディア、ファンから受け入れられたが、この度その「サウンドシステム」版となる『Midnight Scorchers』が9月16日にリリースされることが明らかとなった。現在、収録曲 “Feverish” がMVと共に先行解禁されている。
Horace Andy - Feverish (Official Video)
https://youtu.be/JxtGxugS4-8
ホレス・アンディは50年を越える音楽キャリアを通じて、みなに愛され続けてきた存在だが、プロデューサーのエイドリアン・シャーウッドとホレスが数年をかけて丹念に組み上げたアルバム『Midnight Rocker』は、2022年初めにリリースされ、この偉大なシンガーを現役アーティストとして第一線のど真ん中へと復帰させた。リリース以来、各方面から絶賛されてきたこの作品を、ガーディアン紙は現時点における年間アルバムのトップに挙げており、「円熟期の傑作」と激賞している。
アルバム『Midnight Scorchers』はダブ・プレート・スタイルのリラブ(ローン・レンジャーとダディー・フレディーもヴォーカルとして参加)で物語をさらにその先へと推し進めたものだ。『Rockers』のシークエンスではしっくりこなかったけれどもこの新たなセットにおいて輝くチャンスを与えられた曲、そして鮮烈なアレンジメントをリズミカルな空の旅へと離陸させてくれるフレッシュなミックスなどが含まれている。楽曲が再構築されたのと同様に、アートワークも受賞歴のあるアニメーター、ラフマーシー(ゴリラズ、アール・スウェットシャツ、トム・ヨーク)を起用し、ストリートスタイル・グラフィティ風に再構築された。ファースト・シングルの「Feverish」では、彼のサイケでカラフルな画が際立っており、ホレス・アンディの〈Studio One〉時代の名曲が鮮烈に刷新されている。
ハードコアなレゲエ・ファンは無論のこと、全音楽愛好家必聴の作品『Midnight Scorchers』は9月16日にCD、数量限定のCD/LP+Tシャツセット、LP、デジタルでリリース! 国内盤CDには解説が封入され、ボーナストラックが収録される。LPは日本語帯付き仕様の限定盤(クリア・オレンジ)に加え、通常盤(ブラック・ヴァイナル)でのリリースが予定されている。また、長らく在庫切れとなっていた『Midnight Rocker』の新カラーとしてゴールド・ヴァイナルも9月16日に発売されることが発表されている。

label: On-U Sound
artist: Horace Andy
title: Midnight Scorchers
release: 2022.09.16
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12905
tracklist:
01. Come After Midnight
02. Midnight Scorcher
03. Away With The Gun And Knife
04. Dirty Money Business
05. Sleepy’s Night Cap
06. Feverish
07. Ain’t No Love In The Heart Of The City
08. Dub Guidance
09. More Bassy
10. Hell And Back
11. Carefully (Bonus Track)

CD

ブラック・ヴァイナル

クリア・オレンジ

CD+Tシャツ

LP+Tシャツ

label: On-U Sound
artist: Horace Andy
title: Midnight Rocker (Gold Vinyl)
release: 2022.09.16
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12906
tracklist
A1. This Must Be Hell
A2. Easy Money
A3. Safe From Harm
A4. Watch Over Them
A5. Materialist
B1. Today Is Right Here
B2. Try Love
B3. Rock To Sleep
B4. Careful
B5. Mr Bassie
