Home > Reviews > Album Reviews > Metronomy- Love Letters
『snoozer』が2008年のベスト・アルバムに選んだ名盤『ナイト・アウト』。みんなエッとびっくりしましたが、『NME』の年間ベスト第6位でもありましたし、それほど間違ってはいなかったですよね。こんな思い切ったことをやってくれる雑誌がなくなったのは残念です。
『ナイト・アウト』の頃のメトロノミーは機材オタクの宅録野郎という感じがしていたんですが、次のアルバム『イングリッシュ・リヴィエラ』は、イギリスに井上陽水が必要なのかというAORなアルバムでびっくりしました。
僕は、彼らは『ナイト・アウト』のジャケットのように、ロスの夜景じゃない、イギリスの何もない夜景をバックにして、親父のクソしょうもない安いフォードから流れるイギリスのダンス・ミュージック──これが俺たちのR&Bでありヒップホップだというアルバムを作っていくのだと思っていました。
それはまさにプレ・パンク。ブライアン・イーノらがクラウト・ロックにハマって、新しい音楽を作ろうとしていた頃とリンクするような、イギリスの新しいダンス・ミュージックであって、『snoozer』が年間ベストに選ぶにふさわしいアルバムでした。
『ラヴ・レターズ』は『イングリッシュ・リヴィエラ』をすこしパンク前夜の方向に修正してくれたアルバムです。人によってはビーチ・ボーイズだと言うんでしょうけど、何でもかんでもビーチーボーイズと言うな。
ダフト・パンクのアルバムがすごいと言っている人にお薦め。メロウで最高です。80年代に〈ファクトリー〉の連中がやろうとしていたイギリスのソウルをうまくやってます。リズムマシンの使い方がうまい。曲もいい。女性メンバーのアンナ・プリオールのヴォーカルもいい。
このあたりの音って、完全にアメリカのアーティストやバンドに負けている感じがしたのですが、唯一メトロノミーは勝っていますよね。そういうところに気づいているのかどうか、『ピッチフォーク』の点数はなかなか辛いです。何でやねん、です。
この点数の低さは、彼らが目指している音がどこでもない場所だからなのかもしれません。いまのアメリカのアーティストは自分たちの音を探していますから。『ナイトアウト』のジャケ写について、さっきイギリス的って書きましたが、あんな光景はイギリスにはないんですよね。ピータパンが降りてきそうな感じです。『イングリッシュ・リヴィエラ』というタイトルにしても、そんなもんないよと誰からもツッコまれるでしょう。メトロノミーの音は、俺を/わたしをどこかに連れていって、という音なんですよね。そして、どこにもいけないと気づいている音、だから、メトロノミーの音はリアルでメロウなんです。これが彼らの魅力です。どこかに行けるなんて幻想を抱いていない。どこにも行けないよ。アメリカ人というのは、サイバー・パンクでどこにも行けないと気づいた人たちなのに、なぜまだ行けると思っているんでしょうね。ジェレネーション・Xへの反発なのかもしれませんが。しかし、そうやってもがくのも仕方がないことかもしれません。メトロノミーを聴いていたらそんなことを思ってしまいます。どこにもいけないなら、おもしろい機材でいい曲でも作っていようよという感じ。僕は10点をつけます。
久保憲司