ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Shane MacGowan 追悼:シェイン・マガウアン
  2. interview with Kazufumi Kodama どうしようもない「悲しみ」というものが、ずっとあるんですよ | こだま和文、『COVER曲集 ♪ともしび♪』について語る
  3. 蓮沼執太 - unpeople | Shuta Hasunuma
  4. Sleaford Mods ——スリーフォード・モッズがあの“ウェスト・エンド・ガールズ”をカヴァー
  5. Ryuichi Sakamoto ──坂本龍一、日本では初となる大規模個展が開催
  6. interview with Waajeed デトロイト・ハイテック・ジャズの思い出  | ──元スラム・ヴィレッジのプロデューサー、ワジード来日インタヴュー
  7. interview with Shinya Tsukamoto 「戦争が終わっても、ぜんぜん戦争は終わってないと思っていた人たちがたくさんいたことがわかったんですね」 | ──新作『ほかげ』をめぐる、塚本晋也インタヴュー
  8. Lost New Wave 100% Vol.1 ——高木完が主催する日本のポスト・パンクのショーケース
  9. DETROIT LOVE TOKYO ──カール・クレイグ、ムーディーマン、DJホログラフィックが集う夢の一夜
  10. Oneohtrix Point Never - Again
  11. SPECIAL REQUEST ——スペシャル・リクエストがザ・KLFのカヴァー集を発表
  12. Galen & Paul - Can We Do Tomorrow Another Day? | ポール・シムノン、ギャレン・エアーズ
  13. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2023
  14. Felix Kubin ——ドイツ電子音楽界における鬼才のなかの鬼才、フェリックス・クービンの若き日の記録がリイシュー
  15. interview with FINAL SPANK HAPPY メンヘラ退場、青春カムバック。  | 最終スパンクハッピー
  16. yeule - softscars | ユール
  17. 『壊れゆく世界の哲学 フィリップ・K・ディック論』 - ダヴィッド・ラプジャード 著  堀千晶 訳
  18. シェイン 世界が愛する厄介者のうた -
  19. interview with Evian Christ 新世代トランスの真打ち登場  | エヴィアン・クライスト、インタヴュー
  20. interview with Gazelle Twin UKを切り裂く、恐怖のエレクトロニカ  | ガゼル・ツイン、本邦初インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Claire Rousay- Everything Perfect Is Already He…

Claire Rousay

AmbientSound Collage

Claire Rousay

Everything Perfect Is Already Here

Shelter Press

Amazon

デンシノオト Jul 25,2022 UP
E王

 世界の多様な環境音と音楽的な要素。このふたつは現代の音響作品にあって既に違和感なく融合している。たとえば〈12k〉などエレクトロニカ経由のアンビエント/ドローン作品を思いだしてみれば理解できるだろう。シネマティックな環境音とやわらかい持続音が交錯し、聴き手に深い心地よさをあたえてくれるタイプの音楽である。
 テキサス州のサンアントニオを拠点とするクレア・ルーセイのサウンドも表面上はそれらアンビエント/ドローンと同じような要素でできあがっている。2019年あたりからリリースを開始したルーセイは、環境音を主体としたエクスペリメンタル(実験的)な作風である。そこにクラシカルな要素をおりまぜつつ、独自の音響空間を生みだしているのだ。だが彼女のサウンドスケープは、凡庸なアンビエント・ドローンとは一線を画すような独自の「間」がある。ありきたりな心地よさに落とし込まない/逃げない「意志」があるのだ。
 なかでも2021年の『A Softer Focus』は彼女の最高傑作といえるアルバムだった。繊細で大胆な音響空間によって、「音を溶かす」かのごときサウンドスケープが生成されていた。環境音、ノイズ、クラシカルな器楽などを用いつつも彼女の音楽は、いわゆるアンビエント/ドローン作品とはやや異なる「時間」が流れている。
 なぜか。彼女のパフォーマンスおよび録音は、物理的なオブジェクトの「潜在的な音」を引き出すことで、クィアネス・人間関係・自己認識を探求していくタイプのものである。自己と世界があり、その齟齬があり、関係があり、自律がある。それら社会と個の関係をサウンドスケープのなかに生成させているように思えるのだ。
 不用意に音が溶けていない。音に依存していない。自己がある。反復という規律性に抗い、いま、ここにある自己の音をつなげている、とでもいうべきか。

 新作『Everything Perfect Is Already Here』はピアノやハープ、ヴァイオリンなどが奏でる静謐な響きと環境録音などが、ゆったりとした時間のなか交錯し合う、まさにクレア・ルーセイならではの音に仕上がっていた。
 前作であるモア・イーズとの共作『Never Stop Texting Me』 が、ハイパーポップな作風だったので、その振れ幅にも驚いてしまう。この『Everything Perfect Is Already Here』はリリース・レーベルである〈Shelter Press〉から2021年にリリースした『7 Roles (All Mapped Out)』で提示したルーセイのミニマリズムを受けつぐものだ。ハープのマリル・ドナヴァン、マスタリングのシュテファン・マシューなどの参加・制作メンバーも共通している。
 加えて2021年に〈American Dreams Records〉からリリースした傑作『A Softer Focus』に特徴的だった環境音やノイズ、そしてクラシカルな楽器音などの音要素をコンポジションする作風をより突き詰めたアルバムともいえる。
 アルバムには “It Feels Foolish To Care” と “Everything Perfect Is Already Here” など15分ほどの長尺2曲が収録されている。両曲とも聴き込んでいくうちに、音の一音、音の一粒に耳が繊細になり、その音の柔らかで、しかし硬質な響きに、不意にふれあっていくような感覚になってくる。

 世界との融解から遠く離れて、個と世界の音を鳴らすこと。ありきたりなアンビエント/ドローンの心地よさとはまた別種の感覚が、このアルバムと、クレア・ルーセイの音にはあるのだ。

デンシノオト