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Eli Keszler

AmbientAvantgardeElectronicJazz

Eli Keszler

Stadium

Shelter Press

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デンシノオト   Nov 15,2018 UP

 ニューヨークのドラム奏者/サウンド・アーティストであるイーライ・ケスラーは、2017年にローレル・ヘイローのアルバム『Dust』に全面参加し(実質上のコラボレーターともいえる)、2018年に『Age Of』をリリースしたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのワールド・ツアーにドラマーとして参加したことで、その名を広く知らしめることになった。
 むろんイーライはそれ以前もドラム奏者/サウンド・アーティストとして充実した活動をおこなってきた。2006年以降、自身のレーベル〈R.E.L Records〉から精力的に多くのアルバムをリリースし、2011年にはベルリンの実験音楽レーベルの〈Pan〉から『Cold Pin』を、2012年に『Catching Net』を発表する。両作ともドラム演奏とインスタレーション的なコンセプトを音盤化したエクスペリメンタルな音響作品だ。この2作で彼にとって演奏/インスタレーションという極の融合を示してみせた。そして2016年には香港のフリー・ミュージック/実験音楽レーベル〈Empty Editions〉のリリース第1作として『Last Signs Of Speed』をリリースする。
 ソロ作品のリリースのほかに、コラボレーション作品の発表も盛んにおこなっており、2012年にイタリアはヴェニスのフリー・ジャズ・レーベル〈8mm Records〉からベテラン・サックス奏者のジョー・マクフィーとの『Ithaca』を、同年、アメリカ合衆国はバーリントンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈NNA Tapes〉から電子音響/音楽家キース・フラートン・ウィットマンとの『Eli Keszler / Keith Fullerton Whitman』を、2014年にロンドンのフリー・ミュージック・レーベル〈Dancing Wayang〉からオーレン・アンバーチとの『Alps』などをリリースしている。私見ではこういったコラボレーションの成果が(あくまで音楽的方法論であって、人脈的なものではない)、ヘイローの傑作『Dust』に結実したのではないかと考えている。
 いずれにせよ、イーライのドラム演奏とサウンド・インスタレーションを融合させていく作品は観客/聴き手/アーティストに大きなインパクトを与えた。じっさい音源リリース以外でも作品展示(自身の演奏も含む)やアート作品の発表なども多くおこなっている。それは彼のサイトでも確認できる。

 本作『Stadium』は『Last Signs Of Speed』以来、2年ぶりとなるイーライのソロ・アルバムである。今回は電子音楽家フェリシア・アトキンソンとアート・ディレクター/デザイナーのバルトロメ・サンソンによって運営される注目のエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル/ブック・レーベル〈Shelter Press〉からのリリースだ。
 このアルバムの制作中にイーライはサウス・ブルックリンからマンハッタンへ拠点を移したようで、それに伴う意識の変化や、近年のツアー生活にともなう風景の変化が、楽曲の隅々にまで影響・反映しているようにも感じられる。トラックは意識の変容にように滑らかに変化し、光景/記憶の再生のように生成していく。私見では現時点におけるイーライの最高傑作ではないかと思う。音響の構成や構築度がこれまでの段違いにオリジナリティを獲得しているからである。

 ドラム、パーカッションのグルーヴのみならず、それらのテクスチャーをも精密に抽出し、細やかにスライスし、細やかな粒子のように電子音などとレイヤーさせる手法と手腕によって、ジャズ的/フリー・ミュージックな演奏イディオムをサウンド・アートやインスタレーション、エレクトロニクス音楽の中に分解していく。いわば音と音の関係性が複雑な音響空間の中で、音、音楽、演奏の関係性が、その都度「結び直されていく」かのごとき独自の音響と聴取感が生まれているわけだ。
 1曲め“Measurement Doesn't Change The System At All”や5曲め“Simple Act Of Inverting The Episode”のグリッチするような細やかでハイブリッドなドラミングと柔らかい電子音/サウンドのレイヤー、2曲め“Lotus Awnings”、4曲め“Flying Floor For U.S. Airways”などのズレとタメが多層的にコンポジションされる非常に現代的なリズム構造など、どの曲もハっとするような聴きどころに満ちており、一瞬たりとも聴き逃せない。
 中でも注目したいのが3曲め“We Live In Pathetic Temporal Urgency”だ。この曲は音響とアンビエンスとリズムの時間軸が伸縮するような構造と構成になっており、どこか意識と身体に浸透するようなサウンドを生成している。意識と風景。サウンドとミュージック。マテリアルとアブストラクト。それらの関係が別の地点から結び直されていくような感覚を覚えた。アルバムを代表する曲ではないかと思う。
 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(ダニエル・ロパティン)はイーライのドラミング/サウンドを「バクテリアのよう」と彼らしい表現で語っているようだが、確かに、サウンドの中に粒子のように浸透する彼のサウンドと演奏は、微生物のような蠢きを持っているように思える。ドラム演奏の粒子化。そこから生まれる伸縮する時間軸を持った音響空間。知覚を拡張するという意味において、彼の音楽と演奏はそれ自体がアートであり、一種のインスタレーションでもある。

 となればフィジカル盤もまたそんな彼による最新のアートフォームといえよう。アートワークはレーベル主宰のひとりでもあるバルトロメ・サンソン。タイポグラフィと写真を効果的に活用したクールな出来栄えである。アナログ盤とCDのデザインを大きく変更している点も興味深い。アナログはタイポグラフィを効果的に使ったミニマルな仕上がりであり、CDはプラスチックケースに特殊印刷でタイポグラフィを印刷、盤面に写真をトリミングして印刷した仕様である。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『Age Of』のCDデザインと同様に、CDだからこそ可能なアートワークといえよう。

デンシノオト