ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Shuya Okino & Joe Armon-Jones ジャズはいまも私たちを魅了する──沖野修也とジョー・アーモン・ジョーンズ、大いに語り合う
  2. Doechii - Alligator Bites Never Heal | ドゥーチー
  3. Columns Talking about Mark Fisher’s K-Punk いまマーク・フィッシャーを読むことの重要性 | ──日本語版『K-PUNK』完結記念座談会
  4. Kafka’s Ibiki ──ジム・オルーク、石橋英子、山本達久から成るカフカ鼾、新作リリース記念ライヴが開催
  5. キング・タビー――ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男
  6. Masaya Nakahara ——中原昌也の新刊『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』
  7. Fennesz - Mosaic | フェネス
  8. The Cure - Songs of a Lost World | ザ・キュアー
  9. Tashi Wada - What Is Not Strange? | タシ・ワダ
  10. cumgirl8 - the 8th cumming | カムガール8
  11. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  12. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  13. Albino Sound & Mars89 ──東京某所で培養された実験の成果、注目の共作が〈Nocturnal Technology〉からリリース
  14. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  15. 音と心と体のカルテ
  16. Wool & The Pants - Not Fun In The Summertime | ウール&ザ・パンツ
  17. FRUE presents Fred Frith Live 2025 ——巨匠フレッド・フリス、8年ぶりの来日
  18. 工藤冬里『何故肉は肉を産むのか』 - 11月4日@アザレア音楽室(静岡市)
  19. Columns 12月のジャズ Jazz in December 2024
  20. aus - Fluctor | アウス

Home >  Reviews >  Album Reviews > Félicia Atkinson- Hand In Hand

Félicia Atkinson

Experimental

Félicia Atkinson

Hand In Hand

Shelter Press

Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Jul 05,2017 UP

 フランスの電子音楽家フェリシア・アトキンソンの新作が〈シェルター・プレス〉からリリースされた。活動初期には〈ホーム・ノーマル〉や〈スペック〉などからアンビエントな作品をリリースしていた彼女だが、2015年に同〈シェルター・プレス〉から発表した『ア・レディメイド・セレモニー』あたりから作風がよりエクスペリメンタルな音響作品へと変化。2016年に〈ルーツ・フェスタ〉の主宰としても知られるアンビエント/サウンド・アーティスト、ジェフリー・キャントゥ=レデスマとのコラボレーション作品『コム・アン・スル・ナルシス』をリリースしたことで、「2010年代的エクスペリメンタル・ミュージック・アーティスト」としての存在感が再浮上してきた(その意味で、フェリシア・アトキンソンの創作活動には2015年前後を境に大きな変化と断絶を聴き取ることは可能のはず)。

 本作『ハンド・イン・ハンド』は、フェリシア・アトキンソンの新たな代表作としてカウントすべき傑作である。少なくとも今年前半にリリースされたエクスペリメンタル・ミュージック/電子音楽の中でも格別の出来栄えを示している。昨年あたりからやや飽和気味ともいえるこの種の音楽にあって個性と洗練が絶妙なバランスで同居している稀なアルバムに仕上がっているのだ。

 ロバート・アシュリーやジョアン・ラ・バーバラなど電子音楽史にその名を残す巨匠たちからインスパイアを受けたとされる本作は、電子音楽/ミュジーク・コンクレートの系譜にあるともいえるが(じっさい、GRMのフェスで演奏されるという)、同時に〈ポッシュ・アイソレーション〉からリリースされるノイズ作品のような衝動と色気が同居するような現代性も強く刻印している。この境界や流域の越境性において、2017年現在のエクスペリメンタル・ミュージック/ノイズ・サウンドとして格別な存在を刻み込んでいるアルバムとなっている。

 楽曲の構造も独特だ。即興と構築の「あいだ」を融解させ、連続と非連続の「はざま」に乾いた電子音や環境音の交錯/構造/結晶体が生成し、消えていき、そしてまた生成する。そこには明確な構造の意志と構造を超えたところに表出する感覚的なモノへの感性がある(彼女自身の「声」が、アルバム全編に渡って、モノローグのように、ポエトリー・リーディングのように挿入/レイヤーされていることも重要だ)。

 アルバムには全10曲(ヴァイナルは2枚組)が収録され、フェリシア・アトキンソンは、コンポジション/ミックスのみならずアートワークまでも手掛けている。
 電子音、環境音、声。そしてアートワーク。それらが「意味」を超えて、質感の官能を露わにしていくことで生まれる新世代の実験性と先進性。そう、本作に蠢く音響は、2017年的な新しいエクスペリメンタル・ミュージックの姿を見事に象徴しているように思えてならないのだ。先端的エクスペリメンタル・ミュージック/電子音楽/実験音楽における最良の作品が、いま、ここに生まれた。2017年前半における最良のエクスペリメンタル・ミュージックである。

デンシノオト