「Not Waving」と一致するもの

Lemzly Dale - ele-king

 UKでは怒濤の勢いで成長を遂げているグライム。そのムーヴメントの一端を担うブリストルの〈Bandulu〉から、幅広い音楽性でシーンを支えるレムズリー・デイルが来日、東京と福岡を回るツアーを開催する。グライムを中心にUKの音楽にスポットライトを当てたイベント《Mo'fire》の一環として催される東京公演では、〈SVBKVLT〉からの新作も好評の Prettybwoy をはじめ、Double Clapperz や UNSQ、1-drink らが出演。Double Clapperz と UNSQ は福岡公演にもゲスト出演するとのこと。UKアンダーグラウンドの息吹に触れる格好の機会をお見逃しなく。

■東京
2/17 (土) 23:00 -
Mo'fire pres. Lemzly Dale
@CIRCUS TOKYO

ADV: 2,000yen
DOOR: 2,500yen

Lemzly Dale
Prettybwoy
1-drink
Double Clapperz
UNSQ
+ More

イギリスの若者に影響を与え続けているグライムを中心にUKミュージックに焦点をあてるクラブ・ナイト《Mo'fire》。
3回目となる今回は、イギリスはブリストルを拠点にグライム、ダブステップなど様々なムーヴメントを起こしてきた〈Bandulu Records〉より、Lemzly Dale を招いて開催される。
ハードなインストゥルメンタルから、R&B やヒップホップをサンプリングしたメロディックな音まで、作風の幅を見せながらも一貫した音作りでシーンの支持を得てきた。
また、〈Sector7〉や〈Pearly Whites〉といったグライム・レベールを運営するなど様々な角度から音楽シーンに貢献している Lemzly Dale 初の海外ツアー。
プロデューサー、レーベル・オーナーと様々な一面を持つ Lemzly Dale を迎えるゲストは、上海のレーベル〈SVBKVLT〉からのリリースも好評のUKガラージ・アーティスト Prettybwoy、ジャンルを自在に横断する DJ 1-drink ら。
UKグライムの進化と深化を体感する一晩。

CIRCUS Tokyo
3-26-16, Shibuya, Shibuya-ku, Tokyo 150-0002 Japan
+81-(0)3-6419-7520
info@circus-tokyo.jp

■福岡
2/16 (金) Start 21:00
BLOCK PARTY SP
~Lemzly Dale Fukuoka Tour~
@The Dark Room

Charge: 2,000yen

SP Guest DJ
Lemzly Dale (Pearly Whites / Sector 7 Sounds)
from Bristol UK

Guest DJ
Double Clapperz from Tokyo
UNSQ from Tokyo

DJ
IGB (GLOCAL COMBO)
CRANK (BLOCK PARTY)
Nishiura (DSA DUB)
Lo-P (AVALANCHE MUSIC)
svv (AVALANCHE MUSIC)
Gonorrhea (AVALANCHE MUSIC)

Guest MC
ONJUICY from Tokyo

MC
NINETY-U
BOOTY
脳発火
NAB

Live Paint
MSY

SNAP
KURA1985
Nanako


Bekon - ele-king

 ケンドリック・ラマーの『DAMN.』は、〈ブラック・ライヴズ・マター〉という米国の社会現象ともリンクした『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』(2015年)とはまた異なる色合いのアルバムで、比較的オーソドックスなスタイルのラップ、トラップ以降のヒップホップ・サウンドをベースとしたものだった。プロデューサーにはマイク・ウィル・メイド・イット、ジェイムズ・ブレイク、DJダヒなどを迎え、ジャズやファンクの要素が絡み合った『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』に対し、比較的シンプルなプロダクションでまとめられた印象だ。そして、これらプロデューサー陣の中でも、最多となる8曲を任せられていたのがベーコンことダニエル・タネンバウムである。ベーコンはトラック制作に加えて歌やコーラスなども披露しているが、彼の手掛けたトラックは非常にゆったりとしたビートをバックに、スウィート・ソウルやドゥー・ワップのような古き良き時代の米国黒人音楽のエッセンスと、1960年代のソフト・ロックやアシッド・フォークなどのサイケデリック・サウンドが合体したような不思議なムードを持っていた。ときにニーノ・ロータとかエンニオ・モリコーネのようなイタリアの映画音楽のような印象もあり、ビーチ・ボーイズからフリー・デザイン、ロータリー・コネクションからピンク・フロイドの一部のサウンドにも通じるところもあるなといった感想を抱いた。近年のプロデューサーでは、同じくケンドリックの『アンタイトルド・アンマスタード』(2016年)に起用されたエイドリアン・ヤングに近いタイプだろうか。

 ロサンゼルスをベースに活動するベーコンは、少年時代は教会の聖歌隊で歌い、バッハやモーツァルトのようなクラシックから、フィリップ・グラスのような現代音楽も学んだ。こうした経験が後の作曲活動に生かされることになる。2000年代に入ってDJカリルと一緒にヒップホップの制作活動を始め、そのカリル繋がりでエミネムの『リカヴァリー』にも参加している。その頃はダニー・キーズ名義で制作活動をしており、主な仕事ではスヌープ・ドッグの『ドギュメンタリー』、RZAの『ディジ・スナックス』、レクレーの『グラヴィティ』、ドクター・ドレーの『コンプトン』から、近年ではBJ・ザ・シカゴ・キッドの『イン・マイ・マインド』へ参加している。主にソングライターとしての裏方仕事が多かったのだが、『DAMN.』でのメイン・プロデューサーへの抜擢で、一躍アメリカ西海岸の注目のアーティストのひとりとなった。2017年は『DAMN.』のほかにも、同じくアンソニー・ティフィス主宰の〈トップ・ドッグ〉からリリースされたSZAの『Ctrl』にも参加している。そして、『コンプトン』に参加したアンダーソン・パークが、その後ソロ・アルバムをリリースしてプロデューサー/シンガー・ソングライターとしてブレイクしたのを追うかのように、ベーコンも初のソロ・アルバム『ゲット・ウィズ・ザ・タイムズ』をリリースした。

 今までの経歴からすると、多くのラッパーやR&Bシンガーが参加しても不思議のないところだが、数名のスタジオ・ミュージシャンやバック・シンガーらが参加するのみで、基本的にベーコンが独力で作り上げたアルバムとなっている。彼は作詞作曲、ヴォーカル、プロダクション、キーボード、ピアノ、ヴァイオリン、ミキシングをこなしており、ヒップホップやR&Bのアルバムというより、シンガー・ソングライター・アルバムというべきだろう。本作を聴いて、近年のモッキー、ディグス・デュークフランク・オーシャン、初期のメイヤー・ホーソーンなど、いくつか思い起こされるアーティストがあるのだが、一番ピンときたのがニック・ハキムの『グリーン・ツインズ』(2017年)である。「RZAがポーティスヘッドをプロデュースしたら」と形容された『グリーン・ツインズ』だが、『ゲット・ウィズ・ザ・タイムズ』も『DAMN.』の延長線上にあるスウィートなソウル・ミュージック、ロー・ファイなダウン・ビート、サイケデリックな音響が有機的にブレンドされたものとなっている。シングル曲の“コールド・アズ・アイス”にそうした彼のサウンドの特徴が表われており、トラップを基調としたプロダクションだが、メイヤー・ホーソーンのようにノスタルジックなヴィンテージ・ソウルのエッセンスに溢れ、優美なストリングスやドリーミーな音響で包み込んでいる。コーラスも含めたヴォーカル・アレンジには、聖歌隊で歌っていたという彼の教会音楽やゴスペルからの影響も見つけられるだろう。『DAMN.』収録曲“XXX.”のイントロのコーラス部分をそのまま使った“アメリカ”も、賛美歌を思わせる重層的なヴォーカル&コーラス・アレンジが印象的。モリコーネからビーチ・ボーイズなどの影響も顕著で、ベーコンの幅広い音楽性が露わになっている。アルバム中で唯一のラッパーをフィーチャーした“ゲット・ウィズ・ザ・タイムズ”も、バック・コーラスは聖歌隊による賛美歌をイメージしたものだ。“マダム・バタフライ”もまるでモリコーネのサントラ風だが、プッチーニの“蝶々夫人”のようにクラシックやオペラからの影響がベーコンの作品にあることを示す好例だろう。“30”はオペラなどの素養がないと生まれてこない作曲技法だろう。

 “オクシゲン”や“キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン”あたりに見られるように、ヴォーカル・アレンジと共にオーケストレーションやギター、ヴァイオリンなどのストリングス・アレンジも非常に効果的なアルバムだ。“ママ・オリヴィア”でのムーディーなサックスの音色もそうだが、こうしたレトロさやノスタルジックなムードと、現代的なビート・メイキングのセンスをうまく融合しているのが『ゲット・ウィズ・ザ・タイムズ』である。ピッチシフト・ヴォーカルを駆使した“イン・ユア・オーナー”は、ベーコンがプロデューサーとして多くのアーティストからオファーを受けるのがわかるプロダクションである。そして、ピンク・フロイドとかキング・クリムゾンのようなプログレと同列に聴いてもおかしくないような“7 pm”から、ボサノヴァ調の“キャンディ・アンド・プロミス”まで、幅広く豊かな音楽性に溢れたアルバムである。

yahyel - ele-king

 あれ? 彼らってたしか、宇宙人じゃなかったっけ?
 2015年に結成、2016年にファースト・アルバム『Flesh and Blood』を発表、昨年はシングルのリリースやマウント・キンビー、アルト・ジェイらの来日公演のサポートなど、デビューから短期間でどどどんと鮮烈な印象を残し続けている新世代5人組バンド、ヤイエル。そんな彼らのセカンド・アルバムが3月7日にリリースされる。タイトルは『Human』。
 デビュー時は自分たちのことを「宇宙人」、すなわち外部の者、フォーリナーとして規定していた彼らだけれど(紙版『ele-king vol.19』掲載のインタヴュー参照)、ここへ来て「人間」というタイトルを掲げることになったのだから、きっと大きな変化があったに違いない。いったい彼らに何が起こったのか? 続報を待て。

ヤイエル、待望のセカンド・アルバム『Human』を3月7日(水)リリース!
初のリリース・ツアー開催も決定! プレイガイド最速先行予約は1月20日から!

2016年11月にリリースされ、コアな音楽愛好家達を超えて同世代のリスナーへと鮮烈なインパクトを与え、一気にそのプロップスを引き上げたデビュー・アルバム『Flesh and Blood』。2010年代以降のR&Bと電子音楽のリアリティ――すなわちジェイムス・ブレイクやフランク・オーシャン以降のオルタナティヴR&Bと、フライング・ロータスやアルカ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー以降のエレクトロニック・ミュージックに対するリアルな共鳴を、今この世界で生きる自分達自身が抱く違和感/思想をもってユニークな音楽表現へと昇華する存在として、たった一作で評価と信頼を勝ち得たのがyahyelだった。そんな彼らが自身のアイデンティティを突き詰め、よりクリアで強固なものとして具現化することに挑んだのが、今回リリースされるセカンド・アルバム『Human』だ。

以前の匿名性の強いアーティスト写真にも表れていた通り、結成~『Flesh and Blood』期の yahyel は、人種・国籍・性別といった、エスニシティをはじめ様々な個にまとわりつく付帯情報を削ぎ落とすこと=雑音を削除することによって、逆説的に、“出自による差異と先入観に縛られた社会”から純粋なる“個の存在”、“個の感情”を浮かび上がらせようという意識をもって音楽活動を行っていた。対して今回は、『Flesh and Blood』から『Human』へというアルバムタイトルの変化にも表れている通り、そんな彼らの本来の目的にして本質と言っていい“個が有する生々しい感情とメッセージの発露”をダイレクトに際立たせる方向へと舵を切っている。

具体的には、それを実現するため、本作に関しては「ヴォーカリストである池貝峻の感情表現に寄り添うように突き詰める」、「池貝という人間の感情と生き方をどれだけ際立たせることができるのか? に重きを置く」ことを明確に制作の軸としたという。さらにはその過程で5人――池貝峻、篠田ミル、杉本亘、大井一彌、山田健人の互いの感覚の擦り合わせと音に対する思想/イメージの落とし込みをストイックに行っていった。世界のミュージック・シーンの文脈やトレンドと照らし合わせた相対的な解ではなく、5人の中における絶対的な解をひたすらに探す作業。結果、「自分達の予測を超えた、ある種、自分達自身の制御も超えた地点へと到達するアルバムとなった」と彼らが話す通り、歌はもちろん、音色にしてもリズムにしても前作以上にエグみも深みもある、美しく豊かな感情表現が息づく作品となった。格段に重層的に作り込まれ、織り込まれたひとつひとつの音のテクスチャー、アブストラクトなビートも多分に含んだリズムトラックの深化といったもの自体から、彼ら5 人にしか生み出し得ない確かなオリジナリティを感じることができる。

本作『Human』には、昨年ミュージック・ビデオと共に発表したシングル「Iron」と「Rude」、韓国の気鋭のラッパー・Kim Ximya(キム・シムヤ)をフィーチャリング・ゲストに迎えた「Polytheism」など全10曲を収録し、3月7日(水)リリース。また初回限定盤CDは、ボーナス・ディスク付の2枚組となり、アナログ盤にはDLカードが封入される。iTunesでアルバムを予約すると「Iron」と「Rude」の2曲がいちはやくダウンロードできる。

Iron (MV)
https://youtu.be/VrwXQ-JvLis

Rude (MV)
https://youtu.be/R4H7k2apm-Q

今回の最新アルバム『Human』の発表に先駆け、先々週には1年3ヶ月ぶりとなる2度目のワンマンライヴ(東京公演)を発表。想定を大幅に上回るアクセスによって、主催者先行チケットの販売が中止となったことも話題を集める中、初となるレコ発ツアーの開催も決定! さっそく1月20日から最速先行が開始!


yahyel
- Human Tour -

3/29 (THU) 東京~3/31 (SAT) 京都~4/5 (Thu) 札幌~4/6 (FRI) 名古屋~4/7 (SAT) 大阪~4/8 (SUN) 高知

2016年11月にデビュー・アルバム『Flesh and Blood』をリリースし、翌12月に渋谷WWWにて行われたワンマンは、アルバム発売日を前に完売。その後も、FUJI ROCK、VIVA LA ROCK、TAICOCLUBなどの音楽フェスへの出演も果たした他、ウォーペイント (Warpaint)、マウント・キンビー(Mount Kimbie)、アルト・ジェイ(alt-J)ら海外アーティストの来日ツアーでサポート・アクトにも抜擢されるなど、活況を迎えるシーンの中で、独特の輝きを放ち続けた yahyel(ヤイエル)が、1年3ヶ月の時を経て、2度目のワンマンライヴそしてレコ発ツアーが決定!
宇宙人を名乗る yahyel があえて「Human」と冠した今回のレコ発ツアー、果たして観る者にどんな体験を与えてくれるのか?
映像作家としても活躍する山田健人によるミュージック・ビデオと共に発表したシングル「Iron」と「Rude」を経て、なお成長スピードを加速させる彼ら。特異な楽曲とアレンジ、高い演奏力そして独創的な映像が一体となった圧巻のライヴは、更なる進化を続けている。ネクスト・レベルへ達した yahyel の最新パフォーマンスは必見! チケットの確保はお早めに!

3/29 (THU) 東京 LIQUIDROOM
OPEN 19:00 / START 19:30前売¥3,500(税込/1ドリンク別途)
INFO: BEATINK 03-5768-1277 www.beatink.com
★イープラス・プレイガイド最速先行受付(抽選):1/20(土)12:00~1/25(木)23:59

3/31 (SAT) 京都 METRO
OPEN 18:00 / START 18:30 前売¥3,500(税込/1ドリンク別途)
INFO: 京都 METRO 075-752-4765 https://www.metro.ne.jp
★イープラス・プレイガイド最速先行受付(抽選):1/20(土)12:00~1/25(木)23:59

4/5 (Thu) 札幌 DUCE
OPEN 19:00 / START 19:30 前売¥3,500(税込/1ドリンク別途)
INFO: WESS 011-614-9999 https://www.wess.jp
★イープラス・プレイガイド最速先行受付(抽選):1/20(土)12:00~1/25(木)23:59

4/6 (FRI) 名古屋 RAD HALL
OPEN 19:00 / START 19:30 前売¥3,500(税込/1ドリンク別途)
INFO: JAILHOUSE 052-936-6041 www.jailhouse.jp
★イープラス・プレイガイド最速先行受付(抽選):1/20(土)12:00~1/25(木)23:59

4/7 (SAT) 大阪 (詳細後日発表)
★TBC

4/8 (SUN) 高知 CARAVAN SARY
OPEN 18:30 / START 19:00前売¥3,000(税込/1ドリンク別途)
INFO: 088-873-1533 www.caravansary.jp/sary/topsary.htm
★2/5(月)~CARAVAN SARY店頭、ぴあ、LAWSON、DUKE TICKET

label: Beat Records
artist: yahyel
title: Human

release date: 2018.03.07 wed ON SALE
初回限定盤2CD BRC-567LTD ¥2,800+税
国内盤CD BRC-567 ¥2,300+税
国内盤LP+DL BRLP567 ¥3,000+税

【ご予約はこちら】
beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9264
amazon
BRC567LTD: https://amzn.asia/hypOdKG
BRC567: https://amzn.asia/1P9YGdB

[TRACKLISTING]
DISC 1
01. Hypnosis
02. Nomi
03. Rude
04. Battles
05. Polytheism (feat. Kim Ximya)
06. Acedia (Interlude)
07. Body
08. Iron
09. Pale
10. Lover

DISC 2 (BRC-567LTD)
*Bonus Disc

Dave - ele-king

 デイヴことデイヴィッド・サンタンは、南ロンドン出身のラッパー。ストームジーを敬愛するが、ラナ・デル・レイ、ピンク・フロイド、ハンス・ジマーの作品も好む寛容性を持つ19歳だ。『NARUTO -ナルト-』や『ドラゴンボール』といったアニメからも多大な影響を受けており、それは2016年に発表したファーストEP「Six Paths」のジャケットにも表れている。なんでもこのジャケットは、『NARUTO -ナルト-』がモチーフだという。

 デイヴの知名度を飛躍的に高めたのは、その「Six Paths」だった。このEPはタイトルが示すように、デイヴが想像した6つの道筋を音楽で紡いだ作品。お世辞にも容易いとは言えない生活のなかで、こうなるかもしれないという将来像を描いている。そのためにデイヴは、ジョゼップ・グアルディオラ、ダニエル・クレイグ、果てはゲーム『鉄拳』の三島一八など様々な固有名詞を駆使する。そうすることで、自身から見た日常の風景や、そこに漂う人々の呼気を浮かびあがらせる。刑務所にいる友人、生活に潜むどす黒い誘惑、先が見えない不安といった、多くの事柄にデイヴは想いを馳せる。このような「Six Paths」は、デイヴの鋭いラップも相まって、心に響く重厚さを醸している。


 そんな重厚さが、セカンドEP「Game Over」では一層増している。とりわけ目立つのは、政治的な事柄をより前面に出していることだ。たとえば“Question Time”では、グレンフェル・タワー火災に関する対応やブレグジット、さらにNHS(国民保健サービス)の予算削減など、さまざまな社会問題へ向けた批判を7分近くにわたって展開する。淡々と言葉を紡ぐデイヴの姿や、それを際立たせる音数の少ないビートが見せるのは、激しい怒りを通り越した沈痛さだ。そこには問題の本質を突く鋭利な本能と、その本能を支える高いインテリジェンスが横たわっている。
 パーソナルなことをラップしたものでは、“My 19th Birthday”が秀逸だ。曲名通り、19歳の誕生日を迎えたことについて描かれたそれは、大勢に注目されても日常に大きな変化がないことを示している。『グランド・セフト・オート』や『風雲!たけし城』を引用するユーモアにはクスッとさせられるが、EMA(教育維持助成金)に言及するなど、やはりハードな場面が多い。楽しさ、哀しさ、侘しさという多くの感情が渦巻く言葉は、荘厳な迫力をまとっている。

 サウンド面の変化も見逃せない。「Six Paths」は、トラップの要素も見られたりと、USヒップホップからの影響がうかがえた。しかし「Game Over」では、その影響が薄い。これまで以上にデイヴのラップを強調するプロダクションが印象的で、音数はだいぶ削ぎ落とされている。こうした変化には、自らの言葉に自信を持ったデイヴの姿がちらつく。これは表現者としての進歩を意味するものであり、今後のさらなる飛躍を考えても頼もしいかぎり。
 その頼もしさがもっとも顕著なのは、“How I Met My Ex”だ。この曲は元恋人との関係がテーマで、ラップとピアノのみというミニマルな構成。しかもラップはもちろんのこと、ピアノもデイヴが演奏しているのだ。おまけにプロデュースもデイヴが務めており、文字通り自分の力だけで曲を完成させている。これほど内面を曝けだせるからこそ、デイヴの言葉には群を抜いた説得力があるのだろう。

 「Game Over」は、現在19歳とは思えないデイヴの老練さと、世情を切り取る大人びた視線が際立つ作品だ。しかし筆者は、それを才能あふれる表現者の輝きとして楽しむ一方で、ここまで大人にさせてしまう世の中なのだという想いも抱いてしまう。デイヴの言葉に耳を傾けることは、世界が抱える暗部や罪深さを見つめることと同義なのかもしれない。


Media Culture in Asia: A Transnational Platform - ele-king

 魅力的なカルチャー・イヴェント情報が編集部に届きました。
 “Media Culture in Asia: A Transnational Platform”、略して「MeCA(ミーカ)」が2月9日から18日までの10日間開催されます。近年急速な発展を続けているというアジアのメディアカルチャーを、展覧会やオールナイト・ライヴ、ワークショップなどを通して発信する試みのようです。
2月9日にはWWW、WWW Xにて<Maltine Records>のトマドがディレクターを務めるオールナイト・イヴェントも開催されるようで、日本からはトーフビーツ、ヤング・ジュブナイル・ユース、パークゴルフらのほか、KimoKal、Meuko! Meuko! などアジア諸国のアーティストも出演する。またモートン・サボトニックが作り上げた電子音楽史に残る60年代の名作『Silver Apples of the Moon』を、アルバム・リリース50周年記念ヴァージョンとして、リレヴァン、アレック・エンパイアらと再構築するパフォーマンスも見逃せない。
 展覧会では坂本龍一+高谷史郎をはじめとした様々な地域からのアーティストが、日本初公開作品を含むメディアアートの展示が行われる。
 アジア・ハイカルチャーの最先端をお見逃しなく!

MeCA
Media Culture in Asia: A Transnational Platform

開催期間:2018年2月9日(金)~18日(日)
会場:表参道ヒルズ スペースオー、ラフォーレミュージアム原宿、Red Bull Studios Tokyo、WWW、WWW X 他

スケジュール:
メインイベント
1 展覧会(Art Exhibition):2月9日(金)~18日(日)
2 音楽プログラム(Music Program):2月9日(金)
3 教育普及プログラム(Education Program):
  2月10日(土)、12日(月・振休)、17日(土)、18日(日)
4 関連プログラム(トークイベント、ギャラリーツアー):会期中
同時開催イベント
1 公募型キャンププログラム(Camp Program):2月10日(土)~17日(土)
2 国際シンポジウム(International Symposium):2月11日(日・祝)

<展覧会>
会期:2月9日(金)~18日(日) 開場時間:11:00~20:00(最終日は17:00まで)
会場:表参道ヒルズ スペース オー、ラフォーレミュージアム原宿
出展アーティスト:坂本龍一+高谷史郎(日本)、平川紀道(日本)、Guillaume Marmin and Philippe
Gordiani(フランス)、Couch(日本)、Bani Haykal(シンガポール)ほか(約10組を予定)

入場料(MeCAチケット):ワンデイチケット 1000円/オールデイパス 1800円 / 中学生以下無料
※トークイベント、ギャラリートーク、ワークショップにも参加可。

<音楽プログラム>
日時:2月9日(金)21:00~29:00(開場20:00)
会場:WWW、WWW X(渋谷)
出演者:tofubeats(日本)、Meishi Smile(アメリカ)、similarobjects(BuwanBuwan Collective トーフビーツメイシスマイルシミラーオブジェクツ
/フィリピン)、KIMOKAL(インドネシア)、Morton Subotnick(アメリカ)、Lillevan(ドイツ)、キモカルモートンスボトニックリレヴァン
Alec Empire(ドイツ)、Jacques(フランス)、ほか(全13組を予定)

チケット:前売り 3500円/当日 4000円
※MeCAチケットをお持ちの方は当日受付にて1ドリンク無料。

詳細は以下のリンクにて。
https://meca.excite.co.jp/projects/ticket/

 おかげさまで大好評の『バンドやめようぜ!』。そのリリース・パーティが決定しました。2月5日下北沢THREE、入場料は無料! 
 なので、ぜひ、ぜひ、イアン・マーティン推薦のインディ・バンドの演奏とDJをお楽しみください!
 

■Call And Response Indie Disco presents:
『バンドやめようぜ!』リリース・パーティ

PLACE: 下北沢THREE
DATE: 2/5(月)
TIME: 19:30 open/start
CHARGE: FREE
LIVE:
・The Fadeaways
・(m)otocompo
・JEBIOTTO
DJs:
・Fumie (Bang The Noise)
+ more

行松陽介 - ele-king

新年DJチャート

ルイの9番目の人生 - ele-king

 1970年代にニューエイジはオカルト化した。精神世界が善への一辺倒からだんだんと両義的なものになり、媒体と化した人間がそれまでとは異なるものを自らの内側に呼び込むようになる。紙エレキング最新号でも取り上げた『哭声/コクソン』が韓国版『エクソシスト』のような様相を示していたのに加え、このところ立て続けに観た3本の新作もその過程にあることを示している……かのようだった。これはそのうちの1本。オカルト映画はホラー映画とはちょっと違う(と思う)。
 9歳になるルイ・ドラックス(エイダン・ロングワース)は毎年、もう一歩で死にかけるような事故に遭っていた。シャンデリアがベビーベッドに落下し、コンセントにフォークを刺して感電死しかけ、毒グモかと思えば食中毒と、生死の間を何度も彷徨ってきた。そして、ついに9年目に家族でピクニック中に崖から落ちて昏睡状態に陥る。小児神経科で昏睡が専門というアラン・パスカル(ジェイミー・ドーナン)が担当となり、治療の過程で母親のナタリー・ドラックス(サラ・ガドン)に興味を持つ一方、ルイが崖から落ちた日から消息のわからない父親・ピーター・ドラックス(アーロン・ポール)の行方をダルトン刑事(モリー・パーカー)は捜索し始める。物語は過去と現在を往復し、だんだんとルイがどのような少年であったかがわかってくる。どこか悟りきったようなところがあるルイは学校で友だちができないためにペレーズ先生(オリヴァー・プラット)のセラピーを受けていたこともあり、どこか悪魔的な表情を印象付ける。大人を小バカにしたようなことを言うのは日常茶飯事で、「ペットは平均寿命よりも長生きしたら殺してもいい」などと言い、自分が飼っていたハムスターを『ハリー・ポッター』の本で潰して殺したり(あるいはそうしたかのように思わせたり)。

 俳優のマックス・ミンゲラが父・アンソニー・ミンゲラが生前に撮ろうとして叶わなかった作品の脚本と制作を推し進めたもので、いわゆる文芸肌だった父親よりもこれをズバッとエンターテインメントに仕上げている(監督は現在、寺沢武一『コブラ』の映画化を進めているらしきアレクサンドル・アジャに依頼)。そこはある種の週刊誌的な興味が入口となって見始めた作品で、そうなると『イングリッシュ・ペイシェント』や『リプリー』など重厚長大な作風で知られるアンソニー・ミンゲラが撮っていればこうはならなかったろうという面も含めてトラップだらけのつくりには驚かされる。伏線というよりは誤解させる要素を可能な限り詰め込み、テーマをはぐらかし続けるというか。実際、最後に真実が明かされ、真相がわかってみると、あれもこれも引っ掛けだったことが判明し、自分でも騙され過ぎだとは思うけれど(以下、ネタばれです)それらをすべて納得させてしまう代理ミュンヒハウゼン症候群という病気(実在する)にはかなりたじろいでしまった。代理がつかないミュンヒハウゼン症候群は周囲の関心を引くための自傷行為、代理ミュンヒハウゼン症候群だと自分ではない人間を代わりに傷つけることで自分に注目を集めようとする病気だという。これに子どもの側から母親の望むことを汲み取るというファクターを付け加えたのがこの作品のオリジナルで、子どもの賢さが裏目に出ていたことがわかった瞬間は実にやるせない瞬間でもあった。『シックス・センス』や『ハサミを持って突っ走る』など母親よりも子どもの方が大人びていて、周囲からは異常に見える少年がトリックスターを演じるという設定はひとつのスタイルとして定着してきたとはいえ、ルイによる「昏睡状態が気に入っている」というセリフにはこれまでにない諦観が滲み出ていた。子どもからしてみれば、このままの状態でいれば、これ以上、死にかけることはなくなり、それと引き換えにするほどこの世界には興味が持てなかったという意味にもなる。とはいえ、それがジ・エンドではない。価値観の転倒はまだその先にもある。

 ルイが昏睡状態で意思の疎通が不可能になっていることから、いわゆるオカルト的な解決策がこの作品には導入される。催眠術と憑依である。「昏睡状態が気に入ってい」なければ、昏睡状態からは目覚めてルイが真実を語り出すという展開でもよかったんだろうけれど、昏睡状態に陥るきっかけとなった母子関係ではなく、義父との関係もミステリーとして閉ざしているために、このような手段に訴えるしかなくなったのだろうか。言ってみれば虐待を受けている児童に本当のことを話させるのは、それぐらい困難なことであり、『エクソシスト』で少女とのコミュニケーションが不可能に近かった頃と何かが変わっているわけではないとも言える。ニューエイジというのは、もともと人類は無意識で全員が結ばれているという考え方であり、『Her 世界でひとつだけの彼女』では人工知能がそのようなものの具現だといえるし、『インターステラー』や『メッセージ』もその変形に思えるけれど、そのような意識状態に対して、ここへ来て「悪魔が来たりて個人に分断する」という流れが生まれているとしか思えない。この映画では「海にいる全部の魚より愛している」というセリフが繰り返され、全体が無意識で結ばれている状態を「魚」に喩えた上で、それ「より」もひとりの人間がひとりの人間を「愛する」ことに価値があると言いたいのではないだろうか(デル・トロの新作『シェイプ・オブ・ウォーター』も海を比喩として使い、『ルイの9番目~』とは結論が正反対だった)。海以外の景色がすべて冴えない色調で撮られているのもわざとなのか。いわゆる「目に焼き付けたくなるシーン」が一箇所もない作品というのも、なんというか珍しく、「昏睡状態が気に入っている」というセリフには、そういう意味でも説得力があった。病室のセットは逆にエキセントリックで不思議な感じが醸し出されていたり。

「9番目の人生」というと普通はネコのことである(エジプト起源の考え方らしい)。9回殺されかけても生き延びたルイはまさにネコであり、ハムスターを殺してもいいというのはそこから来た発想だったのかもしれない。ハムスターにはラスプーチン3世という名前がつけられていて、だとすると博学なルイはハムスターにラスプーチンの特徴としてよく知られる性豪という意味を与えていたということだろう。母親が代理ミュンヒハウゼン症候群になった理由は作中では明かされず、彼女が妊娠している姿で映画が終わるということは淫乱であることは明らかだし、一方で、ルイはレイプされてできた子どものように思えるセリフもあり、途中まで僕はそれが児童虐待を引き起こす原因だろうと推理しながら観ていた。ミュンヒハウゼンというのはホラ吹き男爵の本名に由来する病名なので、最終的には嘘だったと取るべきなんだろうけれど、やっぱりこれは紛らわしい。レイプという問題をそのようにギミックであるかのようにして扱うのはちょっとどうかなと。


Moritz von Oswald & Ordo Sakhna - ele-king

 「テクノ/ミュージック」はどこに向かうのか。これまでの世界を規定していた西欧中心主義の枠組みが壊れ、固有の領域における自律性が保てなくなり、末期資本主義の限界(現在の世界はもはや単に金融至上主義である。また加速度的なグローバル資本主義が一種のファンタジーのように希求されるようになったことも資本主義の終焉を意味しているといえよう)が明確になり、「欧米中心の世界地図」というファンタジーが成立しなくなった以上、「テクノ」という音楽ジャンルもまた不可避的に変容を迫られている。
 だが、むろん、この問いは「テクノ」が誕生(だが、それはいつのことか? そもそも「テクノ」は誕生などせず、ただミュータントのように派生・増殖したものではないか? という当然の疑問はあるだろう)して以降、常に発せられ続けてきたものでもある。そもそも「テクノ」は非中心的/週辺的な音楽ではなかったか。

 ドイツのモーリッツ・フォン・オズワルドはその問いに対して、サウンドの領域を拡大してみせることで新しいフォームを生み出してきたアーティストである。あのベーシック・チャンネルやリズム&サウンドは、ミニマル・テクノとダブ・サウンドを融合させ、ミニマルであることとサウンドの「深み」を相反することなく同居させ、「テクノ」における新しい快楽と刺激を生み出した。それがミニマル・ダブという潮流を生み出したことは言うまでもない。彼は機能性のもたらす快楽を拡張してみせたのだ。
 近年も、カール・グレイクと行ったクラシック音楽(カラヤン指揮のベルリン・フィルによるラベル「ボレロ」「スペイン狂詩曲」、ムソルグスキー「展覧会の絵」)のリコンストラクション『リコンポーズド』(2008)や、〈ECM〉からのリリースでも知られるジャズ・トランペッターのニルス・ペッター・モルヴェルとのコラボレーション・アルバム『1/1』(2013)、デトロイト・テクノのオリジネーターのひとりホアン・アトキンスとのコラボレーション・アルバム『ボーダーランド』(2013)、『トランスポート』(2016)、さらにはモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオにおけるトニー・アレンとの共演など、常に「テクノ」の領域を刷新するような活動を行ってきた。そんなモーリッツ・フォン・オズワルドの最新の活動成果が、中央アジアにあるキルギス共和国の音楽集団オルド・サフナ(ORDO SAKHNA)とのコラボレーションである。オルド・サフナのライヴ演奏はこちら。

 この『Moritz Von Oswald & Ordo Sakhna』のリリース元は〈オネスト・ジョンズ〉で、フィジカルは10インチ盤の2枚組仕様となっている。収録曲はアカペラ、マウスハープ、キルギスの伝統的な楽器によるオルド・サフナの演奏/曲のベルリンでのスタジオ録音、キルギスの首都ビシュケクでのライヴ音源、そしてモーリッツ・フォン・オズワルドによるダブ・ミックスが収録されており、まるで「新しい音楽地図」を描き出すように、ヨーロッパ/中央アジアの音楽を交錯させていく。じっさいキルギス共和国は、中国、ロシア、そしてイスラムのあいだに位置する中央アジアの多民族国家である。本作では、そんな複雑な文脈を持った国家の伝統的な音楽とミニマル・ダブという、まったく異なる音楽性の差異を尊重しつつ、音楽と音楽、響きと響きが溶け合う瞬間があるのだ。
 アルバムとしてみればコンピレーションと共作の中間にあるようにも思えるし、今後、さらに本格的な共作へと行き着く可能性も感じるが、しかしこれは「テクノ」を進化/深化させるための貴重な仕事であることに違いはない。そのうえ安易なオリエンタリズムにも軽率なクロスオーヴァーにも陥っていないのだ。世界が断絶しつつある今、モーリッツ・フォン・オズワルドは世界のさまざまな音楽と協働を行おうとしているかのようである。

 オルド・サフナによる演奏の曲もどれも素晴らしい(特にC2のアカペラ“Talasym”と、C3の歌唱とギターによる“Kolkhoz Kechteri”は心の奥底の泉に落ちるような演奏である)が、C4 “Bishkek, May 2016”以降、D1 “Draught”、D2 “Draught Dub”で展開されるモーリッツ的なミニマル・ダブとオルド・サフナの音楽とが見事に交錯するトラックも貴重な試みであろう。
 なかでも音楽の境界線の融解という意味で、B面すべて(つまりアルバムの中心に位置する場所にある)を占める長尺トラック“Facets”も忘れがたい出来栄えである。15分におよぶこのトラックにおいては、ビートもダブもノイズもドローンもオルド・サフナによる音楽もそのすべてが溶け合っている。ここまでエクスペリメンタル/ノイズなモーリッツのトラックも珍しい。そして、その響きのむこうにうっすらと聴こえるオルド・サフナによるキルギス共和国の伝統音楽……。ダブ、ノイズ、そして伝統的な民族音楽が融解する音響空間には、本作の「理想」と「思想」が見事に体現されているように思えてならないのだ。

嘘八百 - ele-king

 邦画をバカにしていた頃、とくにエンターテインメントだと、観終わってから「ハリウッド・リメイクあり」か「なし」を判定して遊ぶということをやっていた。「日本人にしかわからないからいい」という場合もあるのでややこしいけれど、まあ、たいていは面白くて外国の人にも通じる普遍性があれば「あり」というような判断だった。その習慣にならっていえば『嘘八百』は「リメイクあり」。ハリウッドというよりイタリアかフランスには楽しんでくれる人がいそうだなと。最近のフランス映画でいえばクザビエ・ボーヴォワ監督『チャップリンからの贈りもの』ともよく似ていて「駆け引き」で見せるところも通じている。『チャップリンからの~』はチャップリンの遺体が墓から盗まれ、遺族に身代金が要求されたという史実を元にしたコメディ。企画を持ちかけられたチャップリンの遺族は思い出したくもない過去をほじくり返され、最後は……ノリノリで出演までしているという制作話がまたよかった。これにストーリーもテーマも被るものがあり、「チャップリン」の位置にくるのは『嘘八百』では「千利休」ということになる。『百円の恋』の監督と脚本家が再タッグを組んだということだけで興味を持った僕は何も知らずに見始めたので、まさかコメディで、しかも「利休の茶碗」をめぐるスウィンドル・ムーヴィーだとは思ってもみなかった。外国の人に伝わらないとしたら、この「利休の茶碗」というモチーフになるのでしょうか(「風流」というのはクール・ジャパンなんだろうかどうだろうか?)。

 骨董品を扱う小池則夫(中井貴一)が娘を連れて民家を訪ねてまわり、蔵などから掘り出し物を探すところから話は始まる。企画の発端は堺市に焦点を当てることだったそうで、最初から堺市の町並みを強調していたのかもしれないけれど、僕は行ったことがないので、映像にそのような醍醐味があるのかないのかもわからなかった。貧富の差に関わらず全編を通して堺市の町並みには閉塞感だけが感じられた(道を歩いていても誰かに会う気がしないという)。小池が最初に尋ねた家には野田佐輔がいて、気安く蔵の中を見せてくれる(野田役を演じる佐々木蔵之介はちなみに『夫婦フーフー日記』で「”I’M FISH”」のTシャツを2回も着ていた人気の京男)。そして、骨董品屋に売りつけられたという茶碗を見せられた小池はそれは偽物ですねといって安く買い取り、その茶碗を売った骨董品屋に詐欺の証拠品として突きつけてみるも店主には軽くいなされてしまう。あぶく銭をせしめられず腐っている小池に今度は野田の方から電話が入り、小池はある書状を手掛かりに「利休の形見」を発見する。しかし、案の定(以下、ネタばれ)それは偽物で、しかも野田はその家の住人でもなければ蔵の持ち主でもないことが判明。野田の足取りを追って小池が発見したのは居酒屋を拠点とする贋作グループの存在であった(そのひとりとして『0.5ミリ』でも抜群の演技を見せた坂田利夫が登場~)。

『ウルフ・オブ・ストリート』はディカプリオ演じるジョーダン・ベルフォートとジョナ・ヒル演じるダニー・アゾフが投資会社を始めるところから話は滑りだす。同じくジョナ・ヒルとマイルズ・テラーが手を組んだ『ウォー・ドッグス』もふたりが兵器の輸入会社を興すところから話は大きくなっていく。統計を取ったわけではないけれど、邦画には『トラック野郎』や『まほろ駅前多田便利軒』のように似た者同士がタッグを組むということはあっても、ひとりが独特な才能を持ち、もうひとりがマネージメント能力でこれと結びつくという関係が軸になる作品がすぐには頭に浮かんでこない。ひとりで孤独な戦いに挑むか3人以上の集団で何かを成し遂げるという話はいくらでもあるのに、そもそも「ふたり」という単位が少ないというか、映画的な主人公はひとりであっても、その動きが「ふたり」を起点としているという発想になかなか出会うことがない。『昭和残俠伝』はパートタイム的だし、『下妻物語』も戦う場所は別々。うまく言えないけれど、師弟コンビのように上下のある関係ではなく、ある種の才能とそれを管理する才能があくまでも対等に位置しながら世界に対していくという設定が不勉強のゆえかどうしても思いつかない。強いて言えば夫婦で結婚詐欺を繰り返す『夢売るふたり』がそうかなと。『嘘八百』も詐欺を仕掛けるのはグループといえばグループなんだけれど、集団性がそのダイナミズムを生み出したり、大きな波が個人を飲み込んでいくようなものにはなっていかない。「小池と野田が手を組んでから」はあくまでも個人と個人が力を引き出し合っていく。

 日本の雇用は流動性が低いとされる。非正規雇用の増大には流動性を高めるという目的もあったと記憶しているけれど、それは小池と野田が手を組むように、ケース・バイ・ケースで個人と個人が能力を引き出しあう機会を増やし、特定の関係や組み合わせを固定しない社会を生み出したかったということではなかったかと記憶している。しかし、実際に非正規雇用が増えると、そのマイナス面ばかりが目立ったということは、非正規は労働の組み合わせを変える要因ではなく、タテ社会そのものはまったく変更が加えられていないので、単にその下部組織にしかならなかったという結論が出ているのではないかと。日本の労働はやはり家父長制的で、部下の能力を正確に評価するよりも忠実な奴隷と化した者に権力を譲渡するというパターンが大半なのだろう。こうした組織のあり方に馴染めなかった人たちが結果的に非正規として締め出されただけだとすると、個人の能力が生かされる場面などはこれからもとうてい望めないだろうし、日本企業が活性化せず、異次元緩和で延命しているだけという現状はやはり危機感を抱かざるを得ない(いまから思えば日テレもよく『ハケンの品格』などというドラマをつくっていたなーというか)。『嘘八百』で組む「ふたり」がすでに中年だというのはとても象徴的で、従来の組織で生かされなかった「ふたり」の才能が出会い、詐欺とはいえ経済を動かすということは、まるでかつて非正規が夢見せられた働き方を異次元で成立させているかのようなファンタジーにも見えてくる。「非正規よりも正社員に」という流れの中にこの作品を置いてみると、なんというか、これが最後の「抵抗」にさえ思えてくる。

 また、小池と野田が能力を発揮する場面が上等な部類に入るものだとしても、やはり詐欺行為にカウントされるということはある種の示唆に富んでいる。就職氷河期と呼ばれ、いわゆる正規職につけなかった世代の始まりと共に増大したのがオレオレ詐欺で、そもそもそれは政策の失敗から導かれた犯罪ではなかったかと思ったりもするからである。相関関係を証明した人はいないかもしれないけれど、正規雇用の門が閉ざされればそのようなスピン・オフが起きることは経済の専門家さんたちに予想されてもよかったのではないかと。
『嘘八百』にはまた、並行してラヴ・ストーリーも描かれている。その収め方というか、メイン・ストーリーとの絡め方も意表をついていて楽しかった。惜しむらくは「嘘八百」の「八百」は江戸八百八町に由来しているので、堺市なりのタイトルをひねり出して欲しかったということくらい。

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