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デイヴことデイヴィッド・サンタンは、南ロンドン出身のラッパー。ストームジーを敬愛するが、ラナ・デル・レイ、ピンク・フロイド、ハンス・ジマーの作品も好む寛容性を持つ19歳だ。『NARUTO -ナルト-』や『ドラゴンボール』といったアニメからも多大な影響を受けており、それは2016年に発表したファーストEP「Six Paths」のジャケットにも表れている。なんでもこのジャケットは、『NARUTO -ナルト-』がモチーフだという。
デイヴの知名度を飛躍的に高めたのは、その「Six Paths」だった。このEPはタイトルが示すように、デイヴが想像した6つの道筋を音楽で紡いだ作品。お世辞にも容易いとは言えない生活のなかで、こうなるかもしれないという将来像を描いている。そのためにデイヴは、ジョゼップ・グアルディオラ、ダニエル・クレイグ、果てはゲーム『鉄拳』の三島一八など様々な固有名詞を駆使する。そうすることで、自身から見た日常の風景や、そこに漂う人々の呼気を浮かびあがらせる。刑務所にいる友人、生活に潜むどす黒い誘惑、先が見えない不安といった、多くの事柄にデイヴは想いを馳せる。このような「Six Paths」は、デイヴの鋭いラップも相まって、心に響く重厚さを醸している。
そんな重厚さが、セカンドEP「Game Over」では一層増している。とりわけ目立つのは、政治的な事柄をより前面に出していることだ。たとえば“Question Time”では、グレンフェル・タワー火災に関する対応やブレグジット、さらにNHS(国民保健サービス)の予算削減など、さまざまな社会問題へ向けた批判を7分近くにわたって展開する。淡々と言葉を紡ぐデイヴの姿や、それを際立たせる音数の少ないビートが見せるのは、激しい怒りを通り越した沈痛さだ。そこには問題の本質を突く鋭利な本能と、その本能を支える高いインテリジェンスが横たわっている。
パーソナルなことをラップしたものでは、“My 19th Birthday”が秀逸だ。曲名通り、19歳の誕生日を迎えたことについて描かれたそれは、大勢に注目されても日常に大きな変化がないことを示している。『グランド・セフト・オート』や『風雲!たけし城』を引用するユーモアにはクスッとさせられるが、EMA(教育維持助成金)に言及するなど、やはりハードな場面が多い。楽しさ、哀しさ、侘しさという多くの感情が渦巻く言葉は、荘厳な迫力をまとっている。
サウンド面の変化も見逃せない。「Six Paths」は、トラップの要素も見られたりと、USヒップホップからの影響がうかがえた。しかし「Game Over」では、その影響が薄い。これまで以上にデイヴのラップを強調するプロダクションが印象的で、音数はだいぶ削ぎ落とされている。こうした変化には、自らの言葉に自信を持ったデイヴの姿がちらつく。これは表現者としての進歩を意味するものであり、今後のさらなる飛躍を考えても頼もしいかぎり。
その頼もしさがもっとも顕著なのは、“How I Met My Ex”だ。この曲は元恋人との関係がテーマで、ラップとピアノのみというミニマルな構成。しかもラップはもちろんのこと、ピアノもデイヴが演奏しているのだ。おまけにプロデュースもデイヴが務めており、文字通り自分の力だけで曲を完成させている。これほど内面を曝けだせるからこそ、デイヴの言葉には群を抜いた説得力があるのだろう。
「Game Over」は、現在19歳とは思えないデイヴの老練さと、世情を切り取る大人びた視線が際立つ作品だ。しかし筆者は、それを才能あふれる表現者の輝きとして楽しむ一方で、ここまで大人にさせてしまう世の中なのだという想いも抱いてしまう。デイヴの言葉に耳を傾けることは、世界が抱える暗部や罪深さを見つめることと同義なのかもしれない。
近藤真弥