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Diggs Duke

JazzSoul

Diggs Duke

Offering For Anxious

Brownswood / ビート

Tower Amazon

小川充   Jan 21,2016 UP

 どこかつかみどころがない、というのがディグス・デュークの印象だ。これはネガティヴな批評ではなく、褒め言葉である(デヴィッド・ボウイがまさしくそんな存在だった)。まず、どのジャンルのアーティストかと尋ねられると困ってしまう。CDショップなどではR&Bやネオ・ソウルのコーナーに置かれることもあるようだが、これにはどうも違和感を覚える。むしろ、一般的なネオ・ソウルからするとずいぶんと逸脱したサウンドだ(同じことはハイエイタス・カイヨーテにも言える)。たしかにソウル・ミュージックの下地はあるが、同様にジャズの割合も強く、他にもポップス、フォーク、ロック、AORとかの要素もあるし、恐らくクラシックの影響も受けているのだろう。昨年リリースされた作品の中で、個人的に近いものを感じたのはモッキーとジェイミー・ウーンのアルバムだ。それぞれ今のメインストリームの音楽の流れからは外れ、○○風、○○的と安易に形容できないアルバムで、それはすなわち掴みどころがないということでもあった。しかし、そんなカテゴライズできないところ、比較対象を持たないことこそがアーティストとしての個性というわけだ。

 ディグス・デュークの本作『オファリング・フォー・アンクシャス』は2013年末の発表で、今回あらためて再リリースされる。インディアナ州ゲーリー出身で、現在はワシントンDCを拠点に活動する彼は、キーボード、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、サックス、トランペットなど、あらゆる楽器を演奏するマルチ・プレーヤーにしてシンガー・ソングライターだ。作曲面ではスティーヴィー・ワンダー(とくに『シークレット・ライフ』あたり)やビートルズ、スティーリー・ダン、ダニー・ハサウェイなどの影響も伺えるが、ハービー・ハンコックに捧げた作品集も出すなどジャズの演奏にも通じている。2011年からbandcamp経由で作品を発表し、EPの『グラヴィティ』や『ブラック・ゴールド』などが耳の早いリスナーたちの間で注目を集めていく。2012年にEPの『マス・エクソダス』を発表し、その収録曲“ナイン・ウィニング・ワイヴズ”はジャイルス・ピーターソンのコンピ『ブラウンズウッド・バブラーズ』に取り上げられた。それをきっかけに〈ブラウンズウッド〉と契約を結び、ファースト・アルバムの『オファリング・フォー・アンクシャス』をリリースしたという流れだ。『オファリング・フォー・アンクシャス』は『マス・エクソダス』をベースに、サンダーキャットのカヴァー“イズ・イット・ラヴ”など既発曲と新曲を交えた構成だ。その後も〈ブラウンズウッド〉からは『ジ・アッパー・ハンド・アンド・アザー・グランド・イルージョンズ』というEPを出し、2015年より自身のレーベルの〈フォローイング・イズ・リーディング〉を設立。2015年の末には新しいアルバム『シヴィル・サーカス』を発表している。

 『オファリング・フォー・アンクシャス』は基本的に打ち込みのビートによるものだが、それを補う豊富な楽器群を盛り込み、感触としてはアナログなサウンドだ。ゲスト・ミュージシャンは必要最小限で、ほぼ独りで多重録音している。民族音楽的なモチーフをジャズ・ロックに織り込んだ“ハーシュ・ワーズ・ウィズ・ジ・オラクル”、アフロ・キューバン調のエキゾティックな“ライオンズ・フィースト”、レトロなオルガン/ピアノとハンド・クラップによるビートが不思議なムードを作り出す“スウィート・ライク・シーヴズ”と、冒頭でも述べたようにUSのネオ・ソウル的なサウンドとは一線を画す世界が広がる。ディグス・デュークはアメリカの黒人アーティストだが、どこか無国籍な味わいを感じさせる折衷的なサウンドだ。“サムシング・イン・マイ・ソウル”と“コーズ・アイ・ラヴ・ユー”は比較的ネオ・ソウル寄りの作品で、“マス・エクソダス”のビートはJ・ディラ的なヒップホップ感覚を有しているが、そうした中でも“マス・エクソダス”のコーラスが一瞬見せる聖歌風の和声や後半のメロディ展開などは風変わりで、どうもひと筋縄ではいかない。“クレイジー・ライク・ア・フォックス”でのスキャット・コーラスも印象的で、ラウンジ・ミュージックとソフト・ロックが出会ったような感覚を抱かせる。“イズ・イット・ラヴ”における弦楽器、木管楽器のアレンジなどにもそうした非黒人的というかヨーロッパ的なセンスは顕著で、そこがクラシック的な味わいを感じさせるところかもしれない。“ボーン・フロム・ユー”や“ナイン・ウィニング・ワイヴズ”でもオーボエやクラリネットなど木管楽器の音色が印象的で、彼の作品に温かみや柔らかさ、ぬくもりが感じられるのは、こうした楽器使いによるところも大きい。さりげなく高度で新しいこともやっているが、アナログでヒューマンな味わいがあり、時流などに流されることなく独自に育んできた、それがディグス・デュークの音楽だろう。

小川充