「Nothing」と一致するもの

Self Jupiter & Kenny Segal - ele-king

 新しい音楽は過去の音楽の集積のなかから生まれてくる。ロサンゼルスのビート・シーンのクリエイターはこのことを証明してくれている。マッドリブがそのいい例だ。マッドリブはレコード店の倉庫の片隅に置きっぱなしにされていた古いレコードからサンプリングしたかのような、粒の粗いビートと擦り切れそうな音でもって耳に新鮮に響くトラックを作る。それでもそこには、ただひたすらに時代の先端を追い求めているところはない。古き良き音楽を懐かしみ、楽しんでいるとも思える、おおらかな雰囲気が漂っている。それはビート・シーンのクリエイターが生み出す音楽の特徴でもある。ティーブストキモンスタシュローモの音楽を思い出してみよう。彼らの音楽は新しいのと同時に、古い――という言葉を飛び越える、太古の――と言ってもいいぐらいの、おおらかな雰囲気がある。もちろんジャンルの壁も飛び越えている。新しい音の向こう側には、膨大な数の過去の音楽のかげがある。

 ビルド・アン・アークやアモンコンタクトなどの活動で知られる、プロデューサー/クリエイター/DJのカルロス・ニーニョはロサンゼルスの魅力をたずねられてこう答えている。「すべての良いところは繋がっている。マッドリブがデイデラスをサンプルして、MF・ドゥームがラップするトラックのビートにしたり、ディンテルがヒップホップのトラックを作っていたり。ロサンゼルスでは素晴らしいことがいろいろ起こりつつある」。ヒップホップからエレクトロニカ、クラシックまでを取り込んだデイデラスのトラックにある音を使って、マッドリブがトラックを作り、それがMFドゥームへと渡る。エレクトロニカのクリエイターであるディンテルはヒップホップのトラックを作る。過去の音楽は誰かの手によって掘り起こされ、新しい音楽となって姿を変えて現れる。その中で異なるジャンルの音楽同士、クリエイター同士が交錯する。ロサンゼルスではそんな光景を目にすることができる。

 この作品が生まれたことも、ロサンゼルスで起こったすばらしいことのひとつである。ロサンゼルスのアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンにおけるレジェンドとも言えるクルー、フリースタイル・フェローシップのMCであるセルフ・ジュピターと、プロデューサー/クリエイターのケニー・シーガルによるユニットの作品。ゲストにはノーキャンドゥやサブタイトル、アブストラクト・ルードなどのMCに加えて、シンゴ02も招かれている。彼らはここでロサンゼルスの古のアンダーグラウンド・ヒップホップと最近のロサンゼルスのビート・シーンを繋いでいる。そしてフライング・ロータスが『ロサンゼルス』や『コスモグランマ』にヒップホップのMCをひとりもフィーチャーせずに、未来に向かっていくような新しいヒップホップを提示したというのであれば、ここでは多くのMCがすばらしいラップを聴かせながら新しいヒップホップを提示している。

 フリースタイル・フェローシップはソウルフルであったり、ジャジーであったりするトラックを展開していた。そのクルーのMCのひとりであるジュピターが、この作品ではそれとはまったくと言っていいほど異なるトラックに挑んでいる。このことはロサンゼルスの人気パーティ、<ロウ・エンド・セオリー>のオーガナイズや、<アルファ・パップ>というレーベルの運営を行っているダディ・ケヴがDJハイヴ(アメリカのドラムンベースDJ)とともにはじめた、<コンクリート・ジャングル>なるパーティにおいて、フリースタイル・フェローシップのマイカ9やピースがドラムンベースのトラックでフリースタイルをした……、という話を思い起こさせる。<コンクリート・ジャングル>はドラムンベースをメインにしたパーティだという。ジュピターはマイカ9やピースとは違うフィールドで自身のスキルを解放している。異なるジャンルに身を置く者同士が交わっている。こんなところにロサンゼルスの音楽シーンに流れているのであろう開放的な空気を感じる。

 ジュピターはアブストラクト・ヒップホップとも、ビート・ミュージックとも、ダウンテンポとも思えるトラックの上に、ドスの利いた声でもって素晴らしいラップを乗せていく。ノサッジ・シングやフリー・ザ・ロボッツ、テイクあたりのロサンゼルスのビートをユルくスローにして、古いジャズやソウルのレコードから拝借したピアノや弦楽器のフレーズなんかを織り込み、ウォンキーを思わせるエレクトロニクスを絡み付けたようなトラックが並んでいる。ダブステップやジューク/フットワークで刻まれている、複雑でせわしないシャープなビートに追い抜かれていく、のっそりとしたビートがゆっくりと進んでいく。古めかしい音と新しめのビートが交錯した、古さと新しさを行ったり来たりする、特異な印象を与えるヒップホップだ。ワルくてコミカルでユーモラスな感覚もある。ジュピターとシーガルはマッドリブと同じように、時代の前に進むことだけを考えているわけではない。たまには過去にも戻りながら、ヒップホップの新しい姿を見せつけている。ゆるやかに時代を行き来する、おおらかな雰囲気がある。この音楽とフリースタイル・フェローシップのメンバーの動きは、様々な音楽とシーン、人物が混ざり合うロサンゼルスの空気を映し出している。

Pernett - ele-king

 チェルノブイリで事故があった後、忌野清志郎が初めて放射能について歌った“シェルター・オブ・ラヴ”について音楽評論家の北中正和氏は「ニューウェイヴ風にアレンジしてあるけれど、基本はメンフィス・サウンドだ」というようなことを書いてくれたことがある。自分で原稿を頼んでおきながら、なんのために書いてもらったのか、なにひとつ覚えていないものの、アレンジに誤魔化されない聴き方があることを、その時、僕は学んだ。僕がライターになろうと決めた2年前のことである。それから5年ぐらいして忌野清志郎がR&Bもカントリーも譜面的には同じなんだよといって、カントリーのアルバムをつくりたがっていたこともある。その意向はレコード会社によって却下され、以後、忌野清志郎はセールス的には低迷しはじめる。昨日の30万枚が今日の4万枚。レコード会社の言い分もよく覚えている。しかし、あの時、カントリーのアルバムをつくっていたら清志郎はどうなっていたんだろうと、いまでも時々、僕は考えてしまう。「ニューウェイヴ風にアレンジしてあるけれど、基本はメンフィス・サウンドだ」という指摘は、アレンジを変えたぐらいでは本質は揺るがないという示唆でもあっただろう。「譜面的には同じ」なら尚更である。

 コロンビアからアルゼンチンに伝わってディジタル化したクンビアが再度、コロンビアに回帰したことで、ボンバ・エステーレオやキング・コジャといった新世代がコロンビアからも出てきた。なかでもサイドステッパーのサポートからソロになったペルネットはクラブ・ミュージックの取り入れ方がハンパなく、3作目となる最新作のタイトルも『カリビアン・コンピュータ』と、ディジタル化されたことをことさらに強調している。そして、実際、シンセサイザーは縦横に飛び回り、類稀なる洗練度を印象づけていく。ところが、やはり、北中正和氏は言うのである。
 「DJ的な手法を加えてはいるけれど、彼はあくまでもルーツ・ミュージックを知的でひねりのあるものにしているのだ」と。いつの間にか北中さんとは毎月、朝日新聞の定例会議でそのような話を聞かせてもらう関係になっている。僕とは違って、長くクンビアを聴いてきた方なのだから、その見識に疑いの余地はない。ペルネットのことを教えてくれたのが、そもそも北中さんだし、アレンジに誤魔化されない聴き方が…僕にはまだできていなかった。ライターになろうと決めてから22年も経ったのに。

 しかし、『カリビアン・コンピュータ』を聴いて、即座にこれがコロンビアの伝統的な音楽だと判断できる人はそうはいないに違いない。アルゼンチン産のものに較べると、たしかにナチュラルではあるし、ドラムスを使わずに複数のパーカッションでリズムを構成するという基本も守られている。“クンビア・コンピュータ”でリードを取るのはケーナを思わせる笛だし、象の声も……これはサンプリングかな……ヴォコーダーやラップ(え!)、リリカルなシンセサイザーの使い方もとにかくシャレている。だって、ちょっとトライバルなリズムを取り入れたハウスにはこういう曲は少なからずあったし(ファビオ・パラス!)、ディスコ・ダブとの溝も狭い。宇宙の果てまで飛んでいくようなギターはレフトフィールドもかくやで、ヘタをするとトランスにも聴こえかねない曲もあれば、“モノリス”に至ってはミックスマスター・モリスを思わせる透明なアンビエント・チューンとなっている。「クンビアなのに声が暗いのがいい」とは北中さんの弁で、それもあって、ヴォーカルが入っていてもどことなくヨーロッパ風といえ、「銀河系マヤ人の帰還」など壮大なヴィジョンにも無理がない。明日にも、あるいは、すでにスフェン・フェイトがDJで使っていてもおかしくはない。クンビアは下層階級の音楽で、サルサのように上流階級には受け入れられないという慣習も突破してしま……ったりするかも(ちなみにブラジルが経済新興国になるまで、地球上で南米だけには中産階級が存在していなかった)。
 
 オンダトロピカが、そして、正反対のことをやっている。クアンティックことウィル・ホーランドがコロンビアの伝統的なミュージシャンたちと結成した新たなグループはペルネットよりも伝統的な音楽に聴こえるものの、軸足は西側のマーケットに置かれている。猥雑なムードはペルネットをはるかに上回り、厚いブラスのリフレインやアコーディオンの響きは見たこともなければ行ってみようとも思わないコロンビアをはっきりとイメージさせる。これこそ「アレンジ」の妙である。シンセサイザーなどはほとんど使われず、ベース・サウンドが何よりもコンクリートのダンスフロアを意識させ、このにぎやかさが実質的にはクンビア風フュージョンであることを物語る。ものすごく穿っていえば、アンダーグラウンド・レジスタンスやデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンと同じ種類の音楽である。都会的と言い換えてもいい。

 ペルネットもオンダトロピカも、コロンビアの音楽を外に連れ出そうとしているという意味では同じ衝動に駆られているといえる。僕はもう、すでに興味を持ってしまったし、どちらからアプローチするかは人それぞれ。ラス・マラス・アミスタデスといい、コロンビアの音楽が近年になく大きく動き出していることだけはたしかだといえる。

NHK yx Koyxen - ele-king

例えばこんな感じのを聴いたりしますが, 10個選ぶとか難しかったので順位は適当+曲名とアルバムタイトルが入り乱れているのは、聴き方の偏りがあるからです。

(photo by AOKI Takamasa)

NHK Bells on Chart


1
Morton Feldman- Morton Feldman - Edition RZ

2
Conrad Schnitzler - CON - Paragon Records

3
Panasonic - Vakio - Blast first

4
Robert Ashley - Automatic Writing - Lovely Records

5
Lego feet - SKA001CD - Skam Records

6
Anti Pop Consortium - Stretch Time - Blackhoodz

7
Drum Circle - trying_01 - Demo

8
Fairuz - Sakan el Layl - ?

9
Sensational - Cipher - Wordsound

10
NHK Koyxen - Dance Classics - PAN

[music video] ♯2 - ele-king

Givvn - One Day (In The City)(DEMO)



 リリックに山下達郎の歌詞が引用されているからそう感じたのか、山下達郎"Dancer"をイエスタデイズ・ニュー・クインテット(マッドリブ)が大胆にリミックスしたようなクールな曲だ。が、このグルーヴィーなトラックの作者は、中盤からソウルフルな歌声を響かせ、ふてぶてしい表情でラップをかますギヴン(Given)という日本人のアーティストで、タイトルに(DEMO)とエクスキューズがついている通り、数日前にyoutubeにアップされて世に出ている。現段階で再生回数が574回であるのが信じられないほど、ある意味で、彼のアートは成熟している。
 ところで、この、ラップもトラックメイキングもこなすギヴンは、DJ/トラックメイカーのティー・ラグ(tee-rug)とロウパス(LowPass)というヒップホップ・デュオを組んでいる。彼らはまだ22、23歳の新人だ。彼らが昨年末に発表したデビュー・アルバム『Where are you going?』と今年3月にインターネットで無料配信した『Interludes from"Where are you going?"』は、新旧のブラック・ミュージック・ファンを同時に唸らせるであろうブリリアントな魅力を有している。ベースは心地良くうねり、マーヴィン・ゲイ『I Want You』が引用される。アフロ・ファンクやブラジル音楽の要素もある。また、ロウパスの音楽には、〈ストーンズ・スロウ〉に通じるソウルがあり、元カンパニー・フロウのエル・Pが主宰する〈デフ・ジャックス〉を思わせる、謎めいたムードがある。ちなみに、QNとシミ・ラボのオムスビーツは、ロウパスのアルバムの1曲に参加している。彼らのアルバムの曲のいくつかはyoutubeでも聴ける。
 では、最後のオマケにもう1曲。ギヴンがラップし、Mirugaiという謎のトラックメイカーがプロデュースしたQN"Ghost"(『New Country』収録)のカヴァー。なんともかっこいいコズミック・エレクトロ・ファンクじゃないか!

Ghost (QN Cover)



Ghost (QN Cover) by Mirugai feat. Given from LowPass.
Prod. by Mirugai.

Sensational meets koyxeи Japan tour 2012 - ele-king

 野蛮人が来日する。センセーショナル、人は彼をラップ界のリー・ペリーと呼ぶ。ラップ界には、ある意味ではかなりの数のリー・ペリーがいるかもしれない。その強豪揃いのシーンのなかにあって、センセーショナルはよほどのことがあるからそう呼ばれている。音楽ライターのスペクターがはじめた〈ワードサウンド〉は、IDMとヒップホップの水を埋めたレーベルだが、1997年、1999年と、そこから出た最初の2枚はぶっ飛ぶためだけに生きている男の美しい記録として忘れがたい。


Scotch Bonnet

 NHK名義で知られる、大阪人かつベルリン人のコーヘイ・マツナガは、2006年に最初のコラボレーション・アルバム『Sensational Meets Kouhei』を〈ワードサウンド〉から出すと、2010年にはマンチェスターの〈スカム〉(ゲスコムのメンバーによる)から『Sensational Meets Koyxeи』も出している。つい先日も、NHKはセンショーナルとDJスコッチエッグと一緒にヨーロッパをツアーしている。

 今回は、センセーショナル+コーヘイ以外には、言わずと知れた才人Scotch Bonnet(DJスコッチエッグ)、そして大阪ではAOKI Takamasa(ele-kingは彼の音楽が大好きです)、東京では中原昌也(『エーガ界に捧ぐ(完全版)』を出したばかり!)、そしてこれまた注目のKakato ( 鎮座Dopeness x 環Roy )が出演する!
 そして、センセーショナルとNHK、DJスコッチエッグは9月12日(水)21:00~@DOMMUNE、あります。前半、この伝説の奇人に編集部野田がインタヴューします。

Sensational (ex, Jungle Brothers aka Torture)
 Tortureの名前で活動していた頃、Jungle Brothersとして94年の3作目『JBeez Wit Da Remedy』に参加、そして彼の伝説ははじまった。
 芸術家はいつの時代も気ちがいじみた特質性、風変わりな人柄に富んでいるが、sensationalは他に類を見ない正に唯一無二の超オリジナルなラッパーだ。95年、Sensationalに改名しソロアルバム『Loaded With Power』(WSCD022) 、3作目のアルバム『Heavyweighter』 (WSCD037)をリリースした頃には、NY『タイムアウト』誌で「Sensational is underground hip-hop's number one upstart-in-waiting(待ちに待ったヒップホップ・アンダーグラウンド界のNo.1の成り上がりMC)」と称された。多くのラッパーがサンプリングを使うなか、彼はすべてオリジナルトラックで臨み、そのブレイクビーツに乗せた彼の鈍りきったフロウ、詩のように優美なフロウがILLなヘッズを虜にしている、まさに伝説の奇人!

Scotch Bonnet ( Scotch Egg / Berlin )
 DJ Scotch BonnetはDJ Scotch Eggとして活動するUK在住の日本人、本名「シゲ」の新プロジェクト。ヨーロッパを中心に活動。活動の初期はガバ~ブレイクコア~チップチューンを演奏する次々世代のテクノアーティストとしてブレイクコアのアーティストを多数輩出している〈ADAADAT〉〈wong music〉から2枚のアルバムと7インチ、10インチのアナログシングルを各1枚ずつリリースしている。ATARI TEENAGE RIOT /ALEC EMPIREとのヨーロッパツアーで頭角を現わし、その後μ-ziq / APHEX TWIN/ Bong-ra. /VENETIAN SNARES等、ブレイクコアや異端テクノ系のビッグネームと多数共演、UKでは2ndアルバムリリース時に英国ラジオ局BBCが彼の特別番組を放送する等、ほぼ毎日行われるGIGでヨーロッパ全土を席巻し、注目の的となっている。マンチェスターの「FUTURE SONIC FESTIVAL」やロンドンで行われるエレクトロニック・ミュージックの祭典「GLADE FESTIVAL」、70年代から続く老舗巨大フェス「Glastonbury festival」など多数のフェスティヴァルに出演。

■大阪公演at Conpass
9月14日 (金)
18:30 open / 19:00 start

Sensational meets koyxeи ( ex, Jungle Brothers + NHK )

DJ Scotch Bonnet ( aka DJ Scotch Egg / small but hard / Berlin )
Jemapur ( Saluut, Beta, Phaseworks )
Yuki Aoe ( concept )
DJ AOKI Takamasa
DJ Kouhei Matsunaga

ADV 2500 . DOOR 3000
https://www.conpass.jp


■東京公演at Super deluxe
9月16日(日・祝日前)
19:30 open / 20:00 start

Sensational meets koyxeи ( ex, Jungle Brothers + NHK )

Kakato ( 鎮座Dopeness x 環Roy )
DJ Scotch Bonnet ( aka DJ Scotch Egg / small but hard / Berlin )
Jemapur ( Saluut, Beta, Phaseworks )
DJ NHK fm
DJ 中原昌也

ADV 2800 . DOOR 3500
https://www.sdlx.jp/2012/9/16



https://koyxen.blogspot.com
https://nhkweb.info
https://twitter.com/kouheimatsunaga

Teengirl Fantasy - ele-king

 チルウェイヴのバブルがはじけたあと、そのポスト・ヒプナゴジックの原野には、大きくふたつの方向へと分化する才能たちがあらわれた。アンビエントやドローンへと先鋭化していくものたちと、ダンス・ミュージックとしての純化をめざすものたちである。前者はチルウェイヴのメタフィジカルな延長であり、後者はフィジカルな延長だ。〈ヒッポス・イン・タンクス〉と〈100%シルク〉の相違に、そのひとつの例があざやかに浮かび上がっていると言えるだろう。
 ティーンガール・ファンタジーもセカンド・アルバムにおいては何らかの選択をしなければならなかった。ピッチフォークのインタヴュアーが、今作への質問においてテクノやハウスからの影響を指摘することからはじめたのは、彼らが再帰的にダンス・ミュージックを指向しはじめたことを端的に物語っている。

 2010年のデビュー作は、もっとあいまいでどっちつかずな作品だった。ローファイでドリーミーでダンス・オリエンティッドなシンセ・ポップ……トレンドをそつなくつなぎあわせる年若い頭脳が感じられたし、いち部のメディアからは高評価で迎えられたが、後続を生むような強靭なスタイルを持っていたわけではなく、どちらかと言えば自らが優秀な後続であったという印象だ。また、USではガールズタンラインズアンノウン・モータル・オーケストラなどを擁する〈トゥルー・パンサー〉からのリリースであったことは、彼らのよって立つ基盤がインディ・ロック寄りであったことを証している。すでにオベリン大学とはべつにアムステルダムへも留学し、テクノやハウスに深く触れて帰ってきていたにもかかわらず、そうした材を直接的に表出しなかったのは時代を読む才にたけていたからなのかもしれない。ともあれ、今作『トレイサー』においてそれは全面的に解放されることになった。リリース元は〈R&S〉、そういうことである。

 結果としてそれはとてもよく作用している。『トレイサー』こそ彼らの名刺となる名作だ。あのよくわからない『7AM』のジャケットに比し、つめたい薔薇のグラフィック・アートは今作のクリアで硬質なプロダクションにしっくりとかたちを与えている。けっしてメロウにならないドリーム感は、チルウェイヴの残り香を鱗粉のようにふりまきながら、ケレラのヴォーカルとともにR&Bへの軌跡も示す(やはり彼らもR&Bをつぎの射程に入れているのだ)。ケトルやボーズ・オブ・カナダの叙情をくぐり抜け、パンダ・ベアのヴォーカルをフィーチャーする“ピジャマ”では、4つ打ちを相対化しながらもアクロバティックにハウスを模索する。パンタ・デュ・プランスがパンダ・ベアを求めるのとは逆の回路で、しかし到達点としては同じ地平をみるような好トラックだ。ローレル・ヘイローに目をつけるのもうまい(というか必然だ)し、ピアノをシックにあしらう“エンド”もいい。よりベタな意味でのダンス・サイドである後半のトラック群を控え、前口上を述べるかのようである。このアルバムがいかなるものであるのか。自分たちはどこを通ってここへやってきたのか。「模倣には限界がある」と語る彼らが教育課程を修了し、いよいよ本当の進水式をむかえたと言えるこの『トレイサー』を祝福したい。卒業おめでとう。

interview with Mala - ele-king

E王
Mala - Mala in Cuba
Brownwood Recordings / ビート

Amazon iTunes

 これはロマンスである。冒険であり、成熟でもある。多くのダブステッパーはベルリン、アメリカに行った。アフリカを選んだ連中もいる。昨年のDRCミュージックの『キンシャサ・ワン・トゥ』、今年の『シャンガーン・シェイク』のような作品は、21世紀のワールド・ミュージックのあり方の一例となった。
 マーラはキューバに行った。その結実として生まれた『マーラ・イン・キューバ』は、今日のDJカルチャーによるベストな1枚となった。これは大げさな表現ではない。プロデューサーのジャイルス・ピーターソンは、1990年代に彼がロニ・サイズや4ヒーローで実現させたことを、マーラというダブステップ界の英雄の才能、そして、彼の努力を信じることで再度成功させた。ピーターソンはまさに鉱脈を掘り当てたと言える。
 "Introduction"の打楽器によるシンコペーション、ピアニストのロベルト・フォンセカによる穏やかなコードの重なりは、この名作のはじまりに相応しく美しい。ロンドン郊外の冷たいコンクリートの地下室で生まれたアンダーグラウンド・ミュージックがカリブ海諸島でもっとも大きな島、多彩なリズムを擁するキューバと結ぶばれたのだ。
 
 マーラのバイオグラフィーを簡単に紹介しよう。ダブステップのオリジナル世代で、コード9と並ぶ硬派、伝説的レーベル〈DMZ〉のメンバー、デジタル・ミスティックズ名義で作品を出し、ゴス・トラッドの作品をリリースしている〈ディープ・メディ〉の主宰者でもある。
 マーラの作風は、レゲエからの影響を反映していることで知られているので、カリブ海とは必ずしも遠いわけではない。が、サルサのリズムがダークなベース・ミュージックとどのように交流し、混合されるのかは未踏の領域だった。ジャイルス・ピーターソンのような知識豊富なプロデューサーがついているとはいえ、勇気を要する挑戦だったろう。以下の取材においてもマーラは、彼自身がキューバ文化に関して無知だったことを正直に明かしている。
 たとえば"Changuito"、この曲ではシンコペートするカウベルの音からはじまり、しばらくするとド迫力でダブステップのビートが挿入される。このシンプルな構造には、しかし激烈な移転の魅力がある。このような見事な雑食性は、"Mulata"のようなサルサのピアノを注いだ曲をはじめ、アルバムの一貫した態度となっている。無理矢理日照時間を引き延ばすわけでもないが、真夜中の美学で統一されているわけでもない。マーラはその両者の反響を手際よく捉えている。スペイン語の歌が入った"Como Como"は前半のハイライトのひとつだが、こうした不安定な異国情緒は、ラロ・シフリン(映画音楽で知られる)の領域にまで接近している。

 DJカルチャーらしい大胆なミキシング......つねにそこには多彩なリズムがあり、低周波が響いている。"Calle F"はラテン・ジャズのベース・ヴァージョンだし、マーラ自身もお気に入りだという"Ghost"にいたっては、リズム・イズ・リズムの"アイコン"のリズミックな恍惚とも近しい。宝石のようなアルバムが欲しいかい? ここにあります!

キューバについて実はあまり知らなかったんだ。キューバ音楽といえば、多くの人が知っている『ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ』くらいのもので、音楽のことも文化のことも、ほとんど何も知らなかった。

あなたのバックボーンにレゲエがあるのは有名な話ですが、同じカリブ海とはいえキューバは言葉も文化も違います。キューバの文化や歴史に関してどう思っていましたか?

マーラ:実はあまり知らなかったんだ。キューバ音楽といえば、多くの人が知っている『ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ(Buena Vista Social Club)』くらいのもので、キューバ音楽のことも、キューバ文化のことも、ほとんど何も知らなかった。

ジャイルス・ピーターソンとの出会いについて話してもらえますか? 彼からはどのようなアプローチがあったんでしょう?

マーラ:ジャイルスとは、彼のBBCラジオ番組でインタヴューを受けたり、〈ブラウンウッド(Brownswood)〉のポッドキャストに出演したりしたことが数回あったのと、以前から僕の音楽をプレイしてくれていたし、イヴェントで共演したこともあったから、お互いのことはよく知っていた。けれども直接制作で直接関わることはなかったから意外だったね。
 ある晩に突然電話がかかってきて、「キューバで『ハバナ・カルチュラ(Havana Cultura)』というアルバムを作るんだが、少し趣の違うアーティストを入れたいから、一緒にキューバに来ないか?」と声をかけてくれた。それが最初で、一度ロンドン・ブリッジの近くのパブで会って、ギネスを飲みながら、プロジェクトについて話し合ったんだ。そのときに彼が知っているキューバの話をしてくれて、僕は逆にキューバのことは何も知らないことを伝えた。話を聞いたら、とても誠実なプロジェクトだと感じて、それに誘ってもらえたことをありがたく思って、2011年の1月に最初のキューバ訪問に出かけたんだよ。

彼は長いあいだ、世界のクラブ・ジャズ・シーンをリードしている人物ですが、あなたから見てジャイルスの良さはどこにあると思いますか?

マーラ:ジャイルス・ピーターソンのような人物は、本当に音楽にとって重要だ。これまで素晴らしい功績を残していて、素晴らしいミュージシャンたちと仕事をしてきただけでなく、つねに最先端で、気持ちが若々しい。彼はつねに新しい切り口や、新しい音楽、新しいアーティスト、新しい音楽の紹介の仕方を考えている人。ジャイルス・ピーターソンみたいな人はそういない。僕の知っているなかで近い存在といえばフランソワ・Kもそういう人だね。年齢はずっと上だけど、音楽に対する考え方はとても先駆的で、古いやり方にとらわれていない。
 とにかくジャイルスと一緒に仕事が出来たことは幸運だと思っているし、彼は僕がこのアルバムを制作していた1年のあいだ、とても辛抱強く見守ってくれた。ジャイルスはずっと僕の作った音楽を楽しんでくれていた人だから、僕は別に誰かに認められたいと思っているわけじゃないけれど、自分のやっていることに自信を持たせてくれた。誰でもそう思わせてくれるわけじゃないからね、ジャイルスのこれまでの歴史があるからこそそう思わせてくれる。彼は根っからの「ミュージック・マン」。そんな彼に信頼してもらえて本当に嬉しく思うし、ジャイルスとは生きている限り、いい友人でいられるんじゃないかな! プロジェクトが終わったからといってなくなる関係ではなく、一生続いていくものだと思う。

最初このプロジェクトに誘われたとき、あなたに迷いはなかったでしょうか?

マーラ:誘われたときにすぐ「やりたい」と思ったよ。だから、すぐにやる気があることを伝えたけど、そう返事してから、家族や友だちにプロジェクトのことを話してどう思うか意見は聞いた。でも、絶対に逃してはいけない機会だと最初から思ったよ。こういう企画はそう頻繁にあるものではないし、むしろ一生に1回あるかないかのチャンスだ。それくらい、大きな意味があるものとして受け止めた。僕の慣れ親しんだものとはまったく違うから、冒険でもあったけど、ときにはそういうものに飛び込んでみるべきだと思った。

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ダブステップに興味は持ってくれたね。ベースの大きさに驚いていたのは間違いないけど(笑)。エンジニアが、「こんな低い周波数をどうやって歪まないように録音するんだ?」って不思議がっていた。彼らが聴き慣れている音楽とはだいぶ違ったと思う。

E王
Mala - Mala in Cuba
Brownwood Recordings / ビート

Amazon iTunes

実際、ハバナで体験したことについて教えてください。印象に残っていること、感銘を受けたことはなんでしたか?

マーラ:キューバでは本当に印象に残る体験をたくさんしたんだけど、例えば、僕が作ったトラックをスタジオで流していたときにダナイがそれを聴いて、「この曲私にちょうだい」というので渡したら、翌日それに合わせて歌詞を書いて来て、すぐに録音した。こういう体験だけでも、僕にとってはとても新鮮だった。これまでヴォーカリストと一緒に曲を作ったことはほとんどなかったから。しかもスペイン語で歌う歌手なんてね。彼女の歌詞の意味はわからないけど、でも雰囲気で伝わることがたくさんある。あれはハイライトと呼べる瞬間のひとつだった。
 もうひとつは、ある夜にジャイルスと僕がホーム・パーティに呼ばれてプレイしていたときに、男性がやって来て「一緒にプレイしていいか?」と聞かれたんだけどどういう意味かわからなくて、MCでもするのかと思ったら、トランペットを出して来た。「いいよ、どうぞどうぞ」と言ったら、僕のトラックに合わせて演奏し出した。それがとても良かったから、「明日スタジオに来ないか?」と誘ったんだ。そしたら実際に来てくれて、アルバム中の2曲で彼のトランペットがフィーチャーされてる。もしそのパーティに僕たちが出ていなかったら、彼が参加することもなかったわけだから、特別なことだったと思う。
 あとは、ドブレ・フィロ(Doble Filo)というキューバのヒップホップ・グループのエドガロ(Edgaro)とイラーク(Yrak)というラッパーの家に遊びに行ったら、小さな煉瓦造りの家で、中庭でラップトップ、ドラマー、ベーシスト、ギタリストとキーボーディストがいてリハーサルをしていた。その光景だけでもとても印象に残ったし、キューバはとてもカラフルな場所でどの場面を切り取っても絵になるし、ストーリーがある。他にも思い出はたくさんあり過ぎて話しきれないけどね!
 それに、町中には、たくさんの音楽が溢れている。

どのぐらいの滞在で、具体的にはあなたはどのようなセッションをしたのでしょうか? あなたはビートを作って、そこに現地の演奏を録音していったんですか? 

マーラ:キューバには合計で3回行ったけど、毎回1週間ほどの滞在だった。1回目は10日間だったかもしれないな。3回目は最近だったんだけど、それは(制作ではなく)プレイしに行ったんだよね。
 1回目のキューバ訪問の際に、ロベルト・フォンセカ・バンドが、約15種類のキューバン・リズムを僕のために録音してくれた。ロベルト・フォンセカはピアニストで、他にドラム(ラムセス・ロドリゲス)、コンガ(ヤロルディ・アブレウ)、ベース(オマー・ゴンザレス)がいた。それに、キューバの有名なティンバレス奏者であるチャンギートに参加してもらった曲もある。あと、"Calle F"という曲ではトランペット奏者(フリオ・リギル)にも参加してもらった。基本的には、キューバで彼らの演奏を録音し、それを僕が自分のスタジオに持ち帰って、僕がその素材を使ってアルバムにまとめたんだ。

作業自体はスムーズにいきましたか?

マーラ:難しかったことはたくさんあったけど、もっとも苦労したのは、開始してから9ヶ月くらい経って、録音した素材とひとりでスタジオで格闘していたときかな。僕はこれまで、完成品のイメージを事前に持って曲を作ったことがなかった。普段はとにかくスタジオに行って、やっているうちにかたちが出来ていって曲が完成するという風に作っていた。でも、これだけたくさんの素材を前に、それから何か作らなければいけないということだけ決まっていて、実際に何をしたらいいのかわからなくなってしまった。客観性を持てなくなったというのかな。そういう体験をしたことがなかったから、新たな挑戦だった。
 僕にとって音楽作りは迷路のようなもので、ゴールに辿り着くためにはいろんな経路を辿ることができる。でも、どれか道を進んでみないと、それが正しいかどうかはわからない。間違っていたら突き当たってしまい、また同じ道を逆戻りすることになる。でも、その迷路自体を自分が作っていて、自分で作った迷路のなかで迷子になってしまったような感覚だった。その過程で、何度かジャイルスや〈ブラウンウッド〉に「行き詰まってしまって、完成させられるかどうか分からない」なんて連絡したこともあったよ(笑)。そのときに、ジャイルスとも仕事をしたことがあって、僕の友人でもあるプロデューサーのシンバッドが手を貸してくれた。何度もスタジオに来てくれて、僕がやったものを聴いて客観的な意見をくれた。何曲かは共同プロデュースになっている。ミックスも一緒にやった。彼の協力は本当に有り難かった。彼のお陰でどんなアルバムにすればいいのか、より明確なイメージを掴むことができたよ。

キューバのミュージシャン、キューバの人たちはダブステップのことを知っていましたか? 

マーラ:興味は持ってくれたね。ベースの大きさに驚いていたのは間違いないけど(笑)。ロベルト・フォンセカのエンジニアが、「こんな低い周波数をどうやって歪まないように録音するんだ?」って不思議がっていた。彼らが聴き慣れている音楽とはだいぶ違ったと思うけど、ロベルト・フォンセカと彼のバンドは世界中をツアーしているから、エレクトロニック・ミュージックにも触れているし、平均的なインターネットを使えないし外国にも行けないキューバ国民より、いろんな音楽を知っている。

アルバムの冒頭に入っている言葉は何を言ってるんですか?

マーラ:ははは。あれね、実は僕も何を言っているのかずっとわからなかったんだよ。スペイン語だしね。彼が言っているのは、「僕たちの音楽は止めようとしても止まらない、こういう風にもできるし、ああいう風にもできる......」というようなこと。この言葉を冒頭に持って来たのは、最初に「ハロー」って入っているだろ?あれを家で流したときに、息子が聞いて「ハロー」って返事をしたんだ(笑)。だからアルバムのはじまりにちょうどいいかと思って。喋っているのはコンガのプレーヤーなんだけど、実際にセッションのはじまりに、少し話しながらウォームアップしていく感じが、アルバムのイントロとして相応しいように感じたんだ。

アルバムの曲で、あなた個人のお気に入りはなんでしょうか?

マーラ:うーん。どれかなぁ~。強いて言うと、最後に一晩で作った曲かな。他の曲のミックスダウンの途中で、その作業がとても長かったから、すこし飽きていたところだった。何か気分転換をしようと思って、おもむろにビートを作りはじめた。そうやって、ほぼ一晩で作ったのが"Ghost"というトラックだった。他の曲もすべて気に入っているけど、この"Ghost"は僕をどこか違う次元に誘ってくれるような曲。最後の最後に、どうして突然作り上げることができたのか、自分でもよくわからない曲なんだ。今年の3月に作ったばかりだよ。翌日にシンバッドがミックスを手伝いにスタジオに来たんだけど、彼にこの曲を聴かせたら椅子から転げ落ちそうになっていたね(笑)。一緒にメロディカや生のハンドクラップを足して、アルバムに加えることにしたんだ。
 あとは、"Changes"という曲もすごく気に入っている。でも完成させるまでに苦労した分、すべての曲に思い入れがあるし、苦労が報われたと思えるよ。

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多くの人は〈DMZ〉のリリースやイヴェントが、ダブステップの基礎を築いたと言うけれど、もともと僕は自分がやりたいことを追求しようとしてきただけで、シーンをどうこうしようと思ったことはない。

E王
Mala - Mala in Cuba
Brownwood Recordings / ビート

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ジャイルス・ピーターソンから何らかのサジェスチョンはありましたか?

マーラ:制作の途中で、いくつかのトラックを送って聴いてもらったときに、どれが好きかという意見はもらったけど、最終的に収録した14曲の順番や中身に関してはジャイルスもレーベルのスタッフもまったく関わっていない。出来上がったものを、「完成品です」と渡しただけだったよ。それをジャイルスが聴いて、幸運にもとても気に入ってくれた。彼は完全に僕を信頼してくれて、僕の作る音楽を信じてくれていた。その分、距離を置いて見守ってくれたね。

それだけ信頼してくれたからこそ、あなたも自信を持って取り組めたということですね。

マーラ:そう、その通り。

今回のプロジェクトをやってみて、もっとも良かった点はなんでしょうか?

マーラ:このプロジェクトに携わったことで、僕の考え方は大きく変化した。理由はたくさんあるけれど、そのひとつが、まず僕はアルバムの制作を依頼されたことがなかった。僕自身は、アルバム制作にこれまであまり興味がなかった。だから、それが大きな変化だった。ミュージシャンと共同制作するという体験も大きな変化だった。それもこれまで体験したことがなかった。キューバを訪れたことも、初めての体験だったし、外国でレコーディングすることも初めてだった。テープを使ってレコーディングするのも初めてだったし、それを64チャンネルの巨大なSSLデスクを通してやるのも初めてだった。あんな美しいスタジオで、レコーディング・エンジニアと一緒に仕事をしたことなんてなかった。録音された素材に対して、自分がやることを周りがどう思うかなんていままで気にする必要がなかった。ひとりでしか音楽を作ったことがなかったからだ。
 だからこのアルバムの制作過程のすべてが、僕自身のエゴを捨てて、自分がわかっていると思っていた音楽の作り方をいちど忘れなければならなかった。このプロジェクトにアプローチするためには、自分自身を変えなければいけなかったんだ。自分がやりたいこと、やるべきことに真摯に向き合うということだけでなく、ジャイルスや、〈ブラウンウッド〉や、『ハバナ・カルチュラ』、そして何よりもロベルト・フォンセカと彼のバンド、ダナイ・スアレスなどのミュージシャンたちに対してリスペクトを持つことの大切さを学んだ。彼らが僕に教えてくれたこと、それは音楽だけでなく、人として教えてくれたことは本当にかけがえのないものだった。

この経験、そしてこの作品は、ダブステップのシーンにどのように還元されるのでしょう?

マーラ:この経験は間違いなく、僕の今後に大きく影響してくると思うよ。一度、新しい考え方や仕事の仕方を学んでしまうと、もうその前の自分には戻れないよ。今後も、いままでやって来たように音楽は作り続けるけど、キューバの要素は、常に僕のなかのどこかに留まり続けるんじゃないかな。それはグルーヴかもしれないし、新たなサンプリングの仕方かもしれないし、とにかく多くのことを学ばせてくれたプロジェクトだった。

今回のような音楽的な成熟はダブステップのシーンのひとつの可能性だと思うのですが、あなた自身は今日のダブステップのシーンについてどのような意見を持っていますか? 

マーラ:たしかに僕はダブステップのシーンに深く関わって来たし、多くの人は〈DMZ〉のリリースやイヴェントが、ダブステップの基礎を築いたと言うけれど、もともと僕は自分がやりたいことを追求しようとしてきただけで、シーンをどうこうしようと思ったことはない。そもそも「シーン」というのは誰かがコントロールできるものではないし、誰かが支配出来るものでもない。だから、僕は自分自身の方向性や、やりたいと思うことだけを考えるようにしている。この作品が、シーンに有益な何かをもたらせることができれば嬉しいとは思うけどね。

最後に〈ディープ・メディ〉について質問させてください。スウィンドルの「ドゥ・ザ・ジャズ」が今年の自分のなかのベストなシングルなんですが、あの曲に関するあなたの評価を教えてください。

マーラ:あれはアメージングなレコードだね。僕は音楽を聴くときに、好きか嫌いかということはあまり考えなくて、何を感じるかということに重きを置いているんだけど、スウィンドルの作品は僕にとってもとても興味深くて、さまざまな影響の消化の仕方がとても独特だと思う。例えばハービー・ハンコック......彼はジャズの人間だからね、彼の音楽の作り方はとてもジャズ的だと思う。そんな彼のベース・ミュージック、サウンドシステム・カルチャーへの取り組み方は他の人とまったく違う。
 スウィンドルのことは、シルキーとクエストを介して知ったんだ。彼らがスウィンドルの曲をかけていて、僕は聴いた途端に「何だこれは? 面白いぞ」と思った。その後いくつか彼の曲を聴いて、2ヶ月くらい経ってから、連絡してみようと思った。〈ディープ・メディ〉からリリースする気はないかと訊いてみた。そしたら幸運なことに、彼もとても喜んでくれてレーベルに加わることになったんだ。
 ちょうど彼の2枚目のシングルのマスタリングが終わったところだよ。今回のはまたジャズとは少し違ったアプローチの作品になっている。発売は10月頃になると思う。彼はとても若くて、たしか僕よりも10歳くらい年下なんだけど、とても集中力があって、行動力があって努力家だ。もうすでに何年もがんばってきている。自分のレーベルもやっているし、とてもアクティヴだね。最近の多くの若いアーティストは、いちどレーベルと契約すると、あとはすべてレーベルがやってくれると思いがちだ。でも実際はそうではない。アーティスト自身も努力してがんばり続けないといけない。彼にはそういうミュージシャンシップがある。彼はいま本当にがんばっているから、向こう数年間たくさんの作品を聴けると思うよ。アルバムの制作にも取りかかっているし、常に曲を作っているからね。僕自身も彼の活躍をとても楽しみにしているよ。

最後に、〈ディープ・メディ〉がヴァイナルにこだわる理由について、あなたの考えを教えてください。

マーラ:僕らはデジタル配信もしているけど、僕個人ににとってヴァイナルは大事なフォーマットなんだ。〈ディープ・メディ〉でリリースしている曲の99%は僕が実際にプレイする曲で、僕はヴァイナルをプレイするから。どちらかというと、僕個人のわがままだね(笑)。僕がレコードを集めるのが好きで、僕のレコード・コレクションに加えたいから(笑)。やはり音質が一番いいしね、大きなシステムで鳴らせばわかるけど、とくに僕の関わっているような音楽に関しては、このフォーマットで再生するのが最良の方法なんだ。それに、アーティストが血と汗と涙を流して作った作品だからさ、やはり手で触れるモノとして持っておきたいと思うのは自然だと思う。完成したという証でもあるしね。モノになって、やっと次の新しいことに取り組める。僕自身は、デジタルで発表するだけでは達成感が得られないな。

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MALA & COKI / DIGITAL MYSTIKZ JAPAN TOUR 2012

11/2(金) 大阪CONPASS (問) TEL:06-6243-1666
11/3(土・文化の日)DBS 16th Anniversary 東京UNIT (問) TEL:03-5459-8630
https://dbs-tokyo.com/

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Toddla T - ele-king

 「DJパイプスとロス・オートンは俺の最大のヒーローだ」と、トドラ・Tは話しているが、ふたりは彼にとって地元の先輩である。トドラ・Tが学校を辞めてシェフィールドのスケート場で働く「瞳孔の開いた」十代だった頃に、パイプスなる、怪しい名前のDJと会っている。このベース・フーリガンこそ地元クラブの顔役的なDJであり、そしてジャーヴィス・コッカー(パルプ)のDJチーム「ディスペレイト(絶望的な)・サウンドシステム」のメンバーでもある。彼らがオーガナイズするパーティ「ディスペレイト・ナイト(絶望的な夜)」において、トドラ・T、そしてパイプスとロス・オートンはダンスホール愛によって結ばれた。
 ロス・オートンは10年前の、エレクトロ時代のシェフィールドを代表するファット・トラッカーのメンバーであり、ジャーヴィス・コッカーのバンドのドラマーでもあり、アークティック・モンキーズやなんかの曲のプロデュース、MIAのリミックスも手がけるような名の知れた音楽人だった。トドラ・Tに作り方を教えた先生である。そういう地元の先輩ふたりが、トドラ・Tのセカンド・アルバム『ウォッチ・ミー・ダンス』を再構築したのが本作「アジテイティッド・バイ・ロス・オートン&パイプス」というわけだ。

 トドラ・Tは明るすぎるし、アホすぎるかもしれない。ビートたけし系のヒューマニズムに心底感動しているファッキン真面目な青年、竹内正太郎の文章を読んでいると、この国の湿度の高さが精神に与える影響もあるのでは……。「3.11以降」という彼の好きな言葉を使わずとも、昔から日本では、暗い風が吹くとファッキン内側に籠もりがちだ。島国だから? 現実が絶望的だから? 政治が大衆のために機能しないから? 『CRASS』の後書きでも書いたことだが、イギリスの若者文化は1978年の時点であたり一面の絶望に直面している。ノー・フューチャー、未来なんかない、俺にもあんたにも……ジョニー・ロットンはそう笑ってみせた。「ノー・フューチャー」を繰り返し聴かされたUKの若者文化はむしろ元気になって、ポスト・パンクの時代へと展開した。ポスト・パンクが何をしかったって? サッチャーという英国を愛する頑固なおばさんが絶対に許さない連中──たとえばジャマイカ移民に代表される──とつるんだ。英国らしさの真逆に突き進むことで、音楽も多様化した。結果、そうしたポスト・パンクの抵抗が「ノー・フューチャー」な英国に自由な領域を創造した。レイヴ・カルチャーはそのなかで生まれた。トドラ・Tがダンスホールと結ばれたのもそうした過去と無関係ではない。

 それにしてもトドラ・Tのふたりの先輩は、後輩以上にアホじゃないかと思われる。「アジテイティッド・バイ・ロス・オートン&パイプス」からは……いわばガンジャ節というか、ファッショナブルでポップ・ソングを意識した『ウォッチ・ミー・ダンス』をさらに深くクラブ・サウンドのほうへと変換している。アシッド・ハウスのフレイヴァーが全体を通底しているが、これは最近のモードだ。ショーラ・アマと一緒に作った最新シングル「アライヴ」も、まあ、お洒落で良かったが、僕は先輩がいじった本作のほうを推したい。ちなみに日本にも「ノー・フューチャー」で「未来を見せる」ことのできる人たちはいる。最近で言えばドタマとか、再結成したタコとか……。

(※)文中の「ファッキン」は竹内君に毒づいているというよりは、9月からはじまる編集部が大好きなライターの新連載の予告です。さて誰でしょう。こうご期待!

Chart JET SET - ele-king

Shop Chart


1

Maria Minerva - Will Happiness Find Me? (Not Not Fun)
『Cabaret Cixous』から約1年ぶりとなるロンドンの才媛Maria Minervaのセカンド・アルバム。Not Not Funからのリリース!!

2

Ashes To Machines - Resistance Ep (Leleka)
ここ2,3年の間で40カ国をもラウンドしたLionel Corsini(Dj Oil)とJeff SharelによるコンビAshes To Machinesが世界中からインスパイアしたものを具現化したサウンドスカルプチャー作品!

3

Mind Fair Pres. Sundown Drive - Sundown Drive (Rogue Cat Sound)
気鋭Dean MeredithによるプロジェクトMind Fairが送り出す新鋭プロデューストリオSundown Driveによるサンセットをも思わせるバレアリック作品!

4

Being Borings - E-girls On B-movie (Crue-l)
Kenji TakimiとTomoki Kanda手掛ける新ユニット、Being Boringsによるファン待望の第二弾が遂に解禁。

5

Eddie C - Aim (Crue-l)
ニューディスコ~ビートダウン系リエディット作品で知られるカナディアン・プロデューサーEddie Cによる最新2トラックス。Being Borigsユニットによるリミックスも2種収録されたマスト・バイ・アイテムです!!

6

Ricardo Villalobos - Dependent And Happy 1 (Perlon)
圧倒的なクリエイティビティーとDjセンスで現在のミニマル・シーンの頂点に立つ寵児、Ricardo Villalobosが、ミニ・アルバム『Vasco』以来、約4年振りとなるアルバムをリリース!!

7

Funinkevil(Kyle Hall & Funkineven) - Night / Dus (Wild Oats)
Ukベース名門Hyperdubからのリリースでも注目を集めたデトロイトの新星ハウサーKyle Hallと、Floating Points主宰Egloのアシッディ・ベース鬼才Funkinevenによるプロジェクト第1弾です!!

8

Alchemist - Russian Roulette (Decon)
先日リリースされたビート集も好事家に大好評だったAlchemistが、UsのアンダーレーベルDeconより新作を発表! ゲートフォールド・ジャケット仕様。

9

Tiago - Souljam (Jolly Jams)
世界水準のドメスティック・レーベルEneや世界的名門Dfa等に加えEsp InstituteやGolf channel、Leng等の作品でも注目を集めるポルトガルの気鋭Tiagoによる最新作を3トラック収録した大注目作品!

10

Twice - Black Aroma Ep Vol.4 (Blend It!)
イタリアを拠点に活動するヴァイナル・コレクター兼プロデューサーTwiceが手掛ける"Blend It! Records"からの新作4エディッツ。Theo Parrishとの「Stop Bajon」傑作スプリット・エディットも記憶に新しいIsoul8 A.k.a. Volcovによるエディットも収録されています!!

vol.2 硬派なのは見た目だけじゃない - ele-king

 みなさんこんにちは。NaBaBaです。連載もはやくも2回目となりましたが、今回は前回の予告通り、今年発売された新作をご紹介したいと思います。その名も『Max Payne 3』。

 『Max Payne 3』は01年に発売された初代『Max Payne』の続編で、03年の『Max Payne 2: The Fall of Max Payne』から数えると、実に9年ぶりの最新作。開発は1作目、2作目までの〈Remedy Entertainment〉(以下Remedy)から代わり、〈Rockstar Games〉(以下Rockstar)が担当しています。

■現代によみがえる“演出されるゲーム・プレイ”の仕上がりやいかに

 本作のレヴューに入る前に、作品の周辺事情から先に解説をいたしましょう。『Max Payne』シリーズはジャンルとしてはTPS(サード・パーソン・シューティング)で、前回ご紹介した『Half-Life 2』のFPSと違い、操作するキャラクターが画面に映っている形態のゲームです。

 初代『Max Payne』は言うなれば“演出されるゲーム・プレイ”の新境地でした。本作の最大の特徴である“バレット・タイム”という、『Matrix』さながらにスロー・モーションになるシステムが象徴するように、精密な射撃を要求されるゲーム性と、アクション映画さながらの演出が両立する内容が当時高く評価されました。

『Max Payne』より。いまでは当たり前となったバレット・タイムはこのゲームから始まった。

 それに加えてグラフィック・ノベルの形式を用いたストーリー・テリングも魅力的で、ハード・ボイルドで劇的な雰囲気を演出するという面で、ゲーム・プレイ内外ともにさまざまな技巧が凝らされていたのです。


こちらは『Max Payne 2: The Fall of Max Payne』より。ノベルシーンは今見ても完成度が高い。

 いっぽう今回〈Remedy〉にかわり開発を引き継いだ〈Rockstar〉は、映画的な演出や雰囲気を構築する手腕においては右に出るものはないスタジオです。クライム・アクション・ゲームとしてももっとも有名な、〈Rockstar〉の代表作である『Grand Theft Auto III』を筆頭に、最新作『Grand Theft Auto IV』までの一連のシリーズや、近年では西部劇をテーマにした『Red Dead Redemption』等、このスタジオは一貫してハード・ボイルドな設定を売りにした作品を作り続けています。

 いまだほとんどのゲームが映画的であることをアクションやスペクタクルの迫力という観点からの解釈しかできていないなか、〈Rockstar〉の脚本やシチュエーションという部分においてより映画的であろうとしている姿勢は、他作品より抜きん出ているとともにユニークであり、それは一種の〈Rcokstar〉ブランドを築くまでにいたっていると言えるでしょう。


『Red Dead Redemption』より。Rockstarなりの西部劇映画へのリスペクトに溢れた作品だ。

 こうした〈Rockstar〉の強みは『Max Payne』シリーズが志向しているハード・ボイルドさや映画らしさにも合致します。しかしいっぽうで〈Rockstar〉の作品はどれもシューティングとしてのできは平凡以下という悪しき慣習があり、シリーズのストイックなシューターとしての側面をどこまで引き継げるのか危ぶむ声も少なくありませんでした。

 しかしふたを開けてみると、実際にはいろいろな面で予想とはちがうでき映えだったのです。

■シンプルながらよく作りこまれたゲーム性

 結論から言ってしまえば、TPSとして非常によくできていたのがなによりも驚きでした。〈Rockstar〉作品としてはもちろん、歴代『Max Payne』シリーズや近年のゲーム全体で見ても屈指のでき映えです。

 基本的なシステムは前作までのプレイ感を踏襲しており、敵は体力がそこそこある反面プレイヤーは撃たれ弱く、なにより回復手段が有限なので、何も考えずに戦うとすぐやられてしまうバランスです。

 そのためつねに頭や心臓などを狙って一撃でしとめること、相手から攻撃を受ける前に沈めることといった、言うなれば居合い斬りのような戦い方を求められます。そしてこの戦法を実現させるための手段として、時間を遅くするバレット・タイムというシステムがある、という構造ですね。


バレット・タイムで周囲がスローになっている内に相手の頭を的確に撃ち抜く。これが本作の基本だ。

 バレット・タイムとひと口に言っても『Max Payne』シリーズには2種類あり、ひとつが単純に周囲の時間が遅くなる、字のままのバレット・タイムと、もうひとつに任意の方向に飛び込み、空中に浮いている短い間だけ時間が遅くなるシュート・ドッジというものがあります。それぞれ得手不得手があり状況に応じてこれらふたつを使い分けるのがこのシリーズの醍醐味と言えますが、本作『Max Payne 3』は特にこれらの役割づけが過去シリーズ以上によくできていると感じました。

 前作まではなんだかんだと言って、どっちか片方が性能いいかで、使用頻度も偏りがちだったのが欠点でした。今作ではバレット・タイムは発動の手軽さ、汎用性の高さから、咄嗟の状況への対応や、こちらが比較的有利または安全な状況下から多くの敵を相手にするのに向いていて、いっぽうのシュート・ドッジは発動中はダメージをいっさい受けなくなるので、敵の攻撃が激しいなど不利な状況から活路を見出したいときに使えるなど、差別化が非常にうまくいっています。

 これらふたつの典型的な使い分け例としはこんな感じ。部屋に入ると大勢の敵がいるが相手はこちらに気づいていない。なので木箱の陰からバレット・タイムを使って先制攻撃、数人捌いた時点で敵の反撃で木箱は崩れ、このままではやられるというところでシュート・ドッジを発動し、残りの敵を華麗に迎撃......。こうした瞬時の使い分けが本作の肝であり、こちらのもくろみどおり綺麗に決まったときの気持ちよさは度し難いものがあります。

 ちなみにエリアの最後の敵を射抜いた瞬間はファイナル・キル・カメラといって『Matrix』を彷彿させる独特の演出が入り、勝利をみごとに演出してくれます。僕がこのシリーズを“演出されるゲーム・プレイ”と呼び表すゆえんであり、その精神は本作でも健在と言えましょう。


本作のキル・カメラは状況に合わせて演出内容が変化するなど、9年ぶりも納得の進化を感じさせる。

 また上記の駆け引きを盛り上げるレベル・デザインの秀逸さも抑えておきたいポイントです。本作はバレット・タイムを使い分けてのシューティング、この1点におもしろさを求めたストイックなゲームなのですが、そのシンプルさを維持しつつも状況のバリエーションを生み出すことに成功しており、単調になりがちだった前作、前々作から大きく改善されています。

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■『Max Payne 3』最大の強みはシステムのアレンジ力にあり

 さて、ここまで述べた本作の特長は、いまどきのTPSとしてはじつはかなり異端です。急所への一撃に賭ける短期決戦型のデザインは、いま流行の物陰に隠れながらジリジリ敵勢を削っていく、いわゆるカバー・シューターとは相反する。むしろ本作のデザインはカバー・シューター登場以前によく見られたものだと言っていい。

 しかしそれをもってして本作を古くさいゲームと評価する向きがあるようですが、僕はそれは支持しない。とは言えいまっぽいとも当然言えないわけで、じゃあなんなんだろうってところに、このゲームの魅力があると思っています。

 まず古い作法に則るだけの懐古趣味と異なるのは、現代のシステムを取り入れている部分もちゃんとあるということですね。いち例として挙げればカバー・システム自体は実装されているし、武器所持数が制限されるところもいまどきです。

 ただしどれも通りいっぺんとうな運用はされておらず、前者であればあくまでも相手に踏み込む際のつなぎとして、後者は所持する武器が目まぐるしく変わりつづけることで戦闘にバラエティを出すためにと、核となるゲーム性に合うようにアレンジが加えられているのがおもしろい。システムとしての体裁は他のゲームと同じでも、実際の役割が異なっているんです。


本作のカバーは脆くて役に立てづらいが、むしろそれが本来のゲーム性を引き立てている。

 本作の優れた点とはとどのつまりこの細やかなアレンジ力で、ゲームの目指す方向性に合わせて個々の要素にしっかり独自の意味づけをおこなえているところが他とはちがうのです。これはバランスがいいと言いかえることもできて、システム同士の相互作用をしっかり吟味した上で調整されており、浮いている要素がひとつも無い。前述したバレット・タイムとシュート・ドッジの役割のちがいや、レベル・デザインの秀逸さも、すべてはここに集約されます。

 実際これは地味なことではあるのですが、むしろシステムの見かけ上の古い新しいにおもねることなく仕上げてきたところに、本物のゲーム・デザインを見た思いです。しかもそれを〈Rockstar〉が実現してきたことが何よりも驚きでした。

■カット・シーンの濫用に甘えたストーリー・テリング

 シューティングとしての完成度の高さがうれしい驚きだった反面、もともと期待していたストーリー・テリングの方は逆に〈Rockstar〉作品としてはいろいろとものたりない内容でした。問題点は大きくふたつあって、ひとつがストーリーそのものの質、もうひとつが伝達手法の欠陥ですね。

 物語は前作からの続きではありますが、主人公Maxは妻子を亡くしているという基本設定を引き継いでいるのみで、実質過去作からは独立した話になっています。フィルム・ノワールという根幹の様式は貫きつつ、舞台をNYからブラジルへと大胆に移したのは斬新で、『City of God』等の近年のブラジル映画からの影響を明言する、〈Rockstar〉らしいセンスを感じさせます。


とりわけファベーラの作りこみはみごと。フィルム・ノワールの様式にも意外とマッチしている。

 しかし裏を返すとそれがすべてといった感じで、設定以上の魅力が無いのが残念。妻子を亡くしたMaxの苦悩がクローズ・アップされるかと思いきや、結局は悪者をやっつけるというベタな内容に収まってしまう。もっともゲーム・プレイの動機づけとしてのストーリーとしてはこれでも必要十分と言えるかもしれません。

 しかしながら〈Rockstar〉はいままでそれ以上のストーリーをゲームで描いてきたし、本作でも引きつづきそれをやろうとしていたはず。ただその実践方法がどうにもよくなく、おまけにシューティング・ゲームとしてのデザインと折り合いがつかずに結果として不協和音を放ってしまっているような気がします。

 何よりも問題なのはストーリーの伝達手段をほぼカット・シーンのみに頼ってしまっていること。現代のストーリー重視のゲームは前回ご紹介した『Half-Life 2』が正しくそうであるように、ゲーム・プレイのなかにストーリー・テリングを混在させることが命題になっているのですが、その試みが『Max Payne 3』には見当たらない。カット・シーンそのものの質はいいものの、黙々と戦っては映像が挟まる、その繰り返しになりがちです。


前作までのノベル・シーンを意識した、コマ割りとセリフがカット・インする演出自体はいいのだが......

 これは単純に古くさい。あるいはそれはそれでゲームプレイの引き立て役として小休止程度に挿入されるならまだいいのですが、輪に掛けてよくないのが挿入頻度がとても多い。しかもカット・シーン中にローディングをしているようで、見たくなくても飛ばすこともできない!

 結果としてゲーム・プレイの引き立て役としてはきわめて押しつけがましく、ストーリー重視のゲームにしては古臭くて工夫が足りないと、どちらにとっても不都合ななんともちぐはぐなことになってしまっています。

 〈Rockstar〉ともあろうものがこのような失敗をしてしまったこともまた大きな驚きでしたが、思えば〈Rockstar〉はそもそもストーリーを伝達する仕組み自体はつねに古典的なカット・シーンを使いつづけていて、『Half-Life』シリーズのようなゲーム・プレイとストーリー・テリングの融合、という意識がことさら強いわけではないんですね。そのかわりカット・シーン自体の質、カメラ・ワークやキャスティングといった部分においてハイ・クオリティであることを目指すアプローチのように思えます。

 ただそれがいままでの〈Rockstar〉作品で成立していたのは、どれもオープン・ワールドといういろいろなできごとを十分なプレイ時間、多様な角度から描くのに長けたジャンルだったからなのではないか。その点『Max Payne 3』はひたすら敵と戦いつづけるアクション・ゲームなので、取れるアプローチに時間的にもゲーム内容の幅的にも限りがあった。それでもあえてこだわろうとして、カット・シーン濫用という手に走っちゃったのかなと分析します。しかしそこでマジックを見せてくれよ! というのが自分の期待だったんですけど。

■まとめ

 冒頭でふれたとおり、いろいろな意味で予想を裏切る内容でした。シューティングとしての出来は本物で、いっさいのごまかしがなくシンプルなおもしろさを追求した作りは硬派と呼ぶにふさわしく、FPSやTPSが飽和状態にあるいまのゲーム業界のなかでも、頭ひとつ抜けた完成度と個性を放っていると言えるでしょう。

 しかしながらストーリー・テリングという面ではカット・シーンを濫用するなど硬派なゲーム性にそぐわない安易な作りも見受けられ、全体を見たとき正反対のものが入り混じったちぐはぐな印象も受けます。

 とは言えこうした弱点を差し引いてもなお魅力はあり余るものがあり、今年発売された作品のなかでは屈指の出来であると断言できます。本文では触れませんでしたがグラフィックスやアニメーションも優れており、その面でも2012年のクオリティを味わえる作品です。




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