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RIP

R.I.P.:シメオン・コックス/Simeon Coxe(Silver Apples)

R.I.P.:シメオン・コックス/Simeon Coxe(Silver Apples)

野田努 Sep 11,2020 UP

 電子音楽の銀河系のずっと隅っこの広大な闇の彼方に、しかしひとつだけ眩く星があるとしたらそれがシルヴァー・アップルズだ。それは幻想的でありながら、牧歌的だった。90年代にシルヴァー・アップルズが広く再発見されたとき、時代の異端児による隠れ名盤というのも気が引けるほど、リスナーは至福の宇宙旅行──夢のようなオプティミズムに喜びを覚えていた。あのころはソニック・ブームが率先して、それを当時のサイケデリック・ロックの文脈に当てはめもしているが、やはりシルヴァー・アップルズの銀紙に包まれた1968年のファースト・アルバムがはなつ微笑ましいまでの異彩は、あの1枚にしかないものだった。

 それはまだ電子音が装飾的ないしはノベルティ的にしか使用されない時代において、楽曲における中央にその響きを持ってくるという、いわばもっとも初期型のエレクトロ・ポップであり、初期型のスペース・ロックでもあった。
 自家製の電子機材を手にしたシメオン・コックスがドラマーのダニー・テイラーといっしょに録音したアルバムには、この時代のロック・バンドの常識ではあり得ないことがふたつあった。ひとつはギター・サウンドがないこと。もうひとつはバックの演奏は電子音とドラムのみという構成だったこと。ものごとの価値観が大きく揺れていた1968年、舞台はボヘミアンたちのメッカたるニューヨークのイーストヴィレッジだったとはいえ、クワフトワークとスーサイドが生まれる2年以上前のことだ(シメオン・コックスは当時、ジミ・ヘンドリックスとセッションもしている)。

 わずか2枚のアルバムを残して解散し、長らくは歴史から消えたシルヴァー・アップルズだが、80年代後半のスペースメン3以降のサイケデリック・リヴァイヴァルのなかで再発見され、あるいはディープ・リスナーでもあるヤン富田の紹介によって日本でも広く知られるようになった。スペースメン3解散後のソニック・ブームによるバンド、スペクトラムは、1996年にシルヴァー・アップルズのセカンド・アルバム『Contact』の収録曲“A Pox On You”をカヴァーすると、1999年には復活したシルヴァー・アップルズ(シメオン・コックス)との共作によるアルバム『A Lake Of Teardrops』も発表している。他に例えばステレオラブも明かに影響を受けているし、ファンのひとりだったアンドリュー・ウェザオールは復活後(そして最後のアルバムとなった『Clinging To A Dream』収録)の曲“The Edge of Wonder”のリミックスを手掛けている。
 シメオン・コックスが永眠したのは去る9月8日、82歳だった。コズミックでありながら、どこかほのぼの系でもあった彼の音楽は、ふだんは荒んだ心でもあっても、それが開かれたときに素晴らしい旅を約束してくれる。この先も変わることはないだろう。

野田努

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