ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  2. MURO ──〈ALFA〉音源を用いたコンピレーションが登場
  3. Taylor Deupree & Zimoun - Wind Dynamic Organ, Deviations | テイラー・デュプリー&ジムーン
  4. Ikonika - SAD | アイコニカ
  5. interview with bar italia バー・イタリア、最新作の背景と来日公演への意気込みを語る
  6. Shintaro Sakamoto ——坂本慎太郎、ニュー・アルバム『ヤッホー』発売決定
  7. Shintaro Sakamoto ——坂本慎太郎、先行シングル「あなたの場所はありますか?」のライヴ演奏MV公開!
  8. HOLY Dystopian Party ──ディストピアでわたしたちは踊る……heykazma主催パーティにあっこゴリラ、諭吉佳作/men、Shökaらが出演
  9. Shintaro Sakamoto ——すでにご存じかと思いますが、大根仁監督による坂本慎太郎のライヴ映像がNetflixにて配信されます
  10. R.I.P. Steve Cropper 追悼:スティーヴ・クロッパー
  11. ele-king vol.36 特集:日本のシンガーソングライター、その新しい気配
  12. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  13. heykazmaの融解日記 Vol.3:≋師走≋ 今年の振り返り WAIFUの凄さ~次回開催するパーティについて˖ˎˊ˗
  14. Eris Drew - DJ-Kicks | エリス・ドリュー
  15. interview with Kneecap (Mo Chara and Móglaí Bap) パーティも政治も生きるのに必要不可欠 | ニーキャップ、インタヴュー
  16. Columns 12月のジャズ Jazz in December 2025
  17. Masabumi Kikuchi ──ジャズ・ピアニスト、菊地雅章が残した幻のエレクトロニック・ミュージック『六大』がリイシュー
  18. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと
  19. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  20. Geese - Getting Killed | ギース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Lana Del Rey- Born to Die

Lana Del Rey

Lana Del Rey

Born to Die

Polydor /ユニバーサル

Amazon iTunes

竹内正太郎   Feb 13,2012 UP

私を悲しませないで 私を泣かせたりしないで
ときに愛は不十分で 道のりは険しいの
それがなぜかはわからないけれど
私を笑わせ続けて ハイになろうよ
あなたも私も みな死ぬために生まれてきたんだから
"Born to Die"(筆者訳)

 本誌の紙媒体版『vol.4』における「マイ・プライヴェート・チャート2011」で、(アルバム、シングル等はごちゃ混ぜでよい、ということだったので)私はラナ・デル・レイを名乗るエリザベス・グラントの"Video Games"を、7位にリスト・アップした。1986生まれの25歳(筆者とタメ)にして、彼女のその悩ましい歌は、美しい季節はもうすべて過ぎ去ったのだ、甘い時間はもう記憶のなかにしかないのだと言わんばかりの、突っぱねた厭世観に満ちていた。表面的に言えば、西山茉希あたりの『CanCam』モデルが、「ベルベット・イースター」(荒井由実、1973)のカヴァーでレコード・デビューしたようなものだ。そのコントラストは、世界中のミュージック・ブロガーをはじめ、『NME』から『ピッチフォーク』までをも巻き込むバズを呼び込み(本稿執筆時点で、You Tubeにおける再生回数は26,135,450回)、当然、デビュー・フルレンスである本作『Born to Die』は、あらかじめビッグな成功が確約された作品であると同時に、悪意の群衆に撃たれるために舞台に上がった哀れな作品でもある。

 話題の作品なので、態度を明確にしておこう。『Born to Die』は、私が期待していたような作品ではない。第一に、私が彼女のハスキー・ヴォイスから当初一方的に連想し、また期待もしていた作品が、例えば『Let It Die』(Feist、2004)の、あるいは『Martha Wainwright』(マーサ・ウェインライト、2005)の最新ヴァリエーションであったためである。第二に、しかし、打ちのめされたシンガー・ソングライター・スタイルの代わりに彼女が選んだのが、 R&B寄りのエレクトロニック・プロダクションであり、重厚なストリングス・アレンジメントであり、結果的にはゴージャスな、グラミー・ビルボード・ポップであったせいである。もちろん、ここはおのずと感想がもっともわかれる点であり、『ピッチフォーク』などが書いているように、「本作はイマイル・ハイニー、つまり、エミネムやリル・ウェイン、キッド・カディの諸作にクレジットされている人間によってプロデュースされており、その豪華絢爛なアトモスフィアが、批判者と理解者のあいだを取り持つ要素となっている」との声もある。(もっとも、彼女の気持ちがわからないでもない。彼女が思春期を迎えた90年代後期は、ブリトニー・スピアーズがデビューするなど、ティーン・ポップが何度目かの最盛期を迎えていた時期なわけだし......)

 また、平均的なリスナーであればなんとなくそうしてしまうように、レディー・ガガが掲げた"Born This Way"と、本作のぶら下げる"Born to Die"とを比較する傾向が、国内外のブロガー(ツイッター・ユーザー)のあいだでも散見される。「抱えるもの」がある者のほうがむしろ自身を強い衝動で肯定しながら生き、上質な容姿を持って生まれて思い出に恵まれた者がなぜ沈鬱として生きるのか、わけがわからない、といったところだろうか。たしかに、成功者にも憂鬱はあるのだろう。しかし、どれだけ富とスポットライトを得ても、人生はどこかの地点でなお満たされない、というのは、ポスト・モダニティ・ライフにおける不可避の、典型の、言いようによってはごく平凡な虚無を、彼女は消化しきれていないだけ、という言い方もできるのではないだろうか。彼女の歌のなかで、男は常に彼女を強く抱き、口づけし、そして不可避に去っていく存在としてのみ、ある。たくさんの男と出会い、ときに関係を持って、ひたすら別れ続けてきた、遊び盛りのブロンドの美女が綴るのは、良くも悪くも、平均的な女子大生がアメブロに開設した失恋ブログのよう。

 しかし、『Born to Die』は飛ぶように売れている。アメリカン・ユーチューブ・ドリームのもっともポピュラーな前例として、本作はこのディケイドにおいて長く語り継がれるのだろう。ただ、はっきり言って、『ローリング・ストーン』誌の大御所、ロブ・シェフィールドが言うように、アルバムを"Video Games"の期待に応えさせるという意味では、まだまだ準備不足だったと思う。そう、下世話な言い方をすれば、まだまだ男文化である音楽ジャーナルが、ひとりの計算高い美女にまんまと利用された感が否めない。いまごろ、一方的に失恋気分を味わっている評論家も多いのではないだろうか。とはいえ、『FACT』誌が、そうしたポップ・ミュージックの偶像文化の楽しみを擁護するように、こう書いている。「ラナと、彼女のバック・スタッフでさえ、彼女が"本物"かどうか、完全にはわかっていないのだ」。そう、歴史的に言っても、これは遅かれ早かれ、いつかは醒める、だがまだはじまったばかりの夢だ。ならば、しばらくはまだ、彼女の思わせぶりに振り回されることとしよう。歴史的に言って、決して報われることのない夢ではあるが......。

竹内正太郎

RELATED

Lana Del Rey- Lust For Life Interscope / ユニバーサル ミュージック

Reviews Amazon iTunes

Lana Del Rey- Ultraviolence Polydor

Reviews Amazon