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Anderson .Paak

Hip HopJazzSoul

Anderson .Paak

Malibu

Empire / Steel Wool

Tower Amazon

小川充   Feb 09,2016 UP

 ここ数年、全米では注目すべきシンガー・ソングライター/ラッパーのひとりに数えられてきたアンダーソン・パーク。このセカンド・アルバム『マリブ』は、もはや彼が注目の対象ではなく、スターの座へ駆け上がったことを示す作品ではないだろうか。ロサンゼルス近郊出身のブランドン・パーク・アンダーソンは母親が韓国系で、ミドルネームは「朴」からきている(パーク、パックとも表記されるが、発音的にはパクが近いようだ)。同じ韓国系のトキモンスタとも親交があり、以前はブリージー・ラヴジョイ名義でミックステープを出したり、シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)の作品参加などで実績を上げていく。その頃に発表したファースト・アルバム『ヴェニス』(2014年)は、トキモンスタ、ロー・デフ、タク(Ta-Ku)など若手世代のビートメイカーたちとの制作が中心で、チルウェイヴやジュークを通過したトラップからハウス~シンセ・ポップ調のナンバーまで幅広く収録していた。ドレイクのようにシンガーとしての高い資質を持つラッパーであり(比重としてはラッパーよりもシンガー寄りだろう)、『ヴェニス』がジ・インターネットやフランク・オーシャン、ミゲル、ザ・ウィークエンドなどオルタナR&Bに近似する部分を感じさせたのは、若かりし頃のボビー・ウーマックを思わせるようなソウルフルな歌声と、ポップなセンスを感じさせるメロディによるところが大きい。

 そうして注目を集めるようになった彼は、ドクター・ドレーやDJプレミアにも目をかけられ、ドレーの復帰作『コンプトン』では大々的にフィーチャーされた。そのほかザ・ゲームの『ザ・ドキュメンタリー 2』にも参加するなど、次第にメジャーな存在となっていく。こうしたアンダーグラウンドとメジャーを自在に行き来する立ち位置は、同じ西海岸出身でひとつ年下のケンドリック・ラマーにも重なるところがある。また、直近ではノレッジ(Knxwledge)とノー・ウォーリーズ(Nxworries)というユニットを組んで〈ストーンズ・スロー〉からデビューするなど、ますます動きが活発になっていたところだ。そして、『ヴェニス』から2年、満を持して発表したのが『マリブ』である。この『マリブ』の感触には、ケンドリックの出世作『グッド・キッド、マッド・シティ』を聴いたときに抱いた感想に近いものがあり、それでアンダーソン・パークがケンドリックに並ぶスターになる日もそう遠くはないだろう、と確信したのである。

 今回はゲストや参加アーティストが豊富で、ザ・ゲーム、マッドリブ、ナインス・ワンダー、タリブ・クウェリ、ハイ・テック、スクールボーイ・Q、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ラプソディ、ケイトラナーダから、ロバート・グラスパー、クリス・デイヴと幅広い。特にグラスパーとクリス・デイヴの参加が目を引くが、テラス・マーティンやケンドリック・ラマーの例に見られるように、最近の西海岸のヒップホップ/R&B勢はミュージシャンとのコラボが盛んだ。本作もそうした流れを裏付ける作品であり、“ウォーターフォール”や“ザ・バード”などジャズやソウルの香り高い曲が多い。メロウネスに富むフューチャリスティック・ソウルの“ハート・ドント・スタンド・ア・チャンス”は、バンド・サウンドへと変化していったジ・インターネットに通じる。BJ・ザ・シカゴ・キッドと掛け合いの“ザ・ウォーターズ”から“ザ・シーズン/キャリー・ミー”と続く展開は、LAビート・シーンのエッセンスにディアンジェロを融合したような世界だ。“プット・ミー・スルー”や“シリコン・ヴァレー”を聴くと、もはやヒップホップではなく、ソウル/ファンクのシンガーとしてアンダーソン・パックを評価すべきではないかと思う。“セレブレート”は往年のスタックス・サウンドのようでさえある。アンダーソン・パークはもともとドラマーとしてツアー・ミュージシャンをやっており、いまも実際にドラム演奏を曲作りに取り入れている。ライヴやツアーもギタリストらを交えたバンド・スタイルで行っている。だから、そうしたミュージシャンシップが自然と楽曲に表れてくるわけだ。

 ポモが手掛けるブギー・ディスコ調のトラックに乗せた“アム・アイ・ロング”は、スクールボーイ・Qとの掛け合いがドラマティックに展開していくパーティー・チューン。ダフト・パンク、ファレル、タキシードといった流れに呼応した1曲で、このあたりがメジャーにも食い入るアンダーソン・パークのセンスの良さの表れだろう。そんなセンスの良さ、感覚の敏感さは、ナインス・ワンダーと組んだ“ウィズアウト・ユー”でハイエイタス・カイヨーテの“モラッセス”をサンプリングしているところにも表れている(もはや一種のアンサーソングに近い曲だ)。ケイトラナーダと組んだ四つ打ちの“ライト・ウェイト”から、ザ・ゲームをフィーチャーしたジャジーなヒップホップの“ルーム・イン・ヒア”、そして前述のヴィンテージ感溢れるソウル/ファンク・チューンと様々なタイプの楽曲を入れつつ、アルバム全体としての空気感や統一感を損なっていない点は、プロデューサーとしての才覚や総合力が優れているからだろう。

 バレアリック感覚に満ちた“パーキング・ロット”がアルバムの中で異色と言えば異色だが、この曲もAORの現代的な解釈と位置付けられ、そこには現在のUS西海岸に流れるムードが表れているのではないだろうか。ちなみに、アルバム・タイトルは前作が『ヴェニス』、今作が『マリブ』と地名が続いている。どちらも風光明媚なLA屈指のビーチだ(ヴェニスはイタリアのヴェネチアを指しているのではない)。“パーキング・ロット”で仄かに漂うマリン・フレーヴァーは、こうしたリゾート地にピッタリとくるイメージだ。“シリコン・ヴァレー”も西海岸らしい曲名だが、アンダーソン・パークが『マリブ』の中で描く西海岸はどうも明るいイメージに映る。先にイーグルスのグレン・フライが亡くなったが、イーグルスが『ホテル・カリフォルニア』で描いた西海岸の気怠く退廃的な光景から、今年でもう40年経つことを思い出した。

小川充

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