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Tomoyoshi Date

Ambient

Tomoyoshi Date

Piano Triology

自主リリース

Bandcamp

デンシノオト Nov 28,2024 UP

 『432Hz, As it is, As you are』。『Tata』。『Requiem』。この三作は、アルバム全体が「ひとつ/複数」のレクイエムのようなピアノ作品である。ひとつにしてふたつ、ふたつにしてみっつ、みっつにしてひとつ。いわば単数と複数が同時に存在する音響、音楽とでもいうべきか。もしくは鎮魂と祝福が同時に存在している音楽とでもいうべきか。

 この三つの作品は、アンビエント音楽家の伊達伯欣が2021年から2024年にかけて制作した3本のカセットテープ/アルバムである。まさに「ピアノ・トリロジー」。三作とも伊達の演奏するピアノと電子音や環境音が交錯するサウンドとなっている。近年、伊達は純正律音楽を自動生成する世界初のプログラムに取り組んでいるという。つまり、この「ピアノ・トリロジー」と名付けられた三部作は、伊達の過去の平均律作品の集大成ともいえる作品集なのだ。

 『432Hz, As it is, As you are』は、2021年に〈laaps〉からリリースされた11年ぶりのソロ・アルバムがベースになっている(現在は廃盤)。アルバムには4曲が収録され、それぞれ「光」「熱」「土」「光」という曲名が付けられている。伊達の母方の祖母の姉(山田美喜子)の家にあった1950年代につくられたDiapasonのアップライト・ピアノで録音されている。このアルバムは、その古いピアノを438Hzに調律し録音されたという。アルバムを再生するとすぐにノイズとピアノの境界線が無化されていく音楽だと誰もが気が付くだろう。響きと音が「そこにある」感覚。音楽があり、音がある。そこに境界線はない。そのサウンドスケープのなんという穏やさ。静謐な音空間に身を浸すように聴くこと。『432Hz, As it is, As you are』の音は、われわれにそのように問いかけている。
 『Tata』は2023年9月東京・高円寺のGallery Tataにて行われたSilverGelatin(古書・キュレーション)の展示のための音楽として作成されたこの作品。音と空間が浸透するような音響だ。Tataの店内にある古時計や床、古物、紙の音を用いて作成されたという。「ギャラリーTataへの入場から黄泉の国へと誘われるような、アルバム全体がひとつのストーリーとして構成されています」というように、まるで未知の世界に足を踏み入れるように、ヒタヒタと暗闇を歩むような音楽・音響となっている。音楽とサイレンスの境界線が次第に無化していくような聴取体験がここにある。
 『Requiem』は伊達の親友の葬儀に流された。いわば親友の人生への祝福の思いで制作されたという音楽である。ゆったり響きの雫を確かめるようなピアノの響きはどこまでも透明だ。音と音のあいだにあるサイレンスですらも音楽であるとでもいうように、ピアノの音は時に途切れていく。そして微かに聴こえるガラスのような響きの物音。ピアノと物音はそれぞれに存在するが、同時にひとつの時の中にも存在する。死という鎮魂が、悲しみとしてのみあるだけではなく、魂の旅立ちを祝福するような物音/音楽であること。その穏やかな音の連なりは、聴き手の耳と心のなかにある「音楽と音の境界線」を解きほぐすように無化してくれる。

 伊達のサイトでは、本作について「モノと時間の経過をテーマに作成されたこの三部作は、引き伸ばされて反復するピアノと有機的なエレクトロニクスのマリアージュを特徴とし、リズムと旋律という境界の解体を試みた音楽です」と綴られている。
 さすがに作曲者本人の言葉である。これに付け加えることなど何もない。いわば坂本龍一とアルヴァ・ノトの歴史的競作群以降、電子音響+ピアノの音響領域を拡張(=解体)するようなアルバムともいえよう。全三部作、音の雫のサウンドスケープとでも称したいほどに「美しい」音楽である。
 私はこの三作を聴き、「音がおとずれる」感覚を感じ取った。訪れる。音ずれる。この二つの感覚である。じっとピアノと電子音の交錯に耳を済ましていると、音が一足一足こちらに忍び寄ってくるように聴こえてきた。音楽が「訪れる」感覚である。同時に、ここでは音の境界線がどんどん消失、さまざまな音のずれがそのまま音楽となっていくような感覚も得た。「音ズレる」感覚である。
 
統一ではなく、いくつかの多層な時が静かに流れるような音楽。私にはこの三部作は生活と共にあるピアノ音楽のように思えた。生活とは小さな反復と小さな祝福と小さな喪失の連続である。そしてそれらは決して「同期していない」。バラバラに巻き起こり、そして消えていく。だがそれこそが生きている時間。つまり生活の時間なのだろう。
 伊達のピアノ三部作は、この生活の音・音楽を非同期的に反復することで、この「暮らし=人生」の向こうにある死者たちの黄泉も国の境界線を無化しようとしているように思えた。人生の反復の果てには必ず死が待っている。死は悲しい。だが同時にそこに救いを求めたいのも人間だ。
 私には、この小さな音楽たちが、その世の向こうにある世界にゆく人たちへの弔いの音楽でもあり祝福を捧げる「祈りの音楽」に思えた。ピアノの音はむこうに行く。そしてまた訪れる。一方通行ではない音世界。そう、世界のすべての音は「おとずれる」(訪れる・音ズレる)。無音。環境音。ピアノ。その複数の存在たちがズレつつ、奏でられる音楽。人と生活と地上と天上に捧げる「祈りの音楽」。

 ともあれピアノと音の静謐にして優雅なコンポジションがここにはある。そのピアノの滴るような響きに耳を傾ける時間は、とても贅沢なひとときとなるだろう。時間が許すならばぜひとも3本連続して聴いていただきたい。

デンシノオト