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cumgirl8

Indie Rock

cumgirl8

the 8th cumming

4AD

Casanova.S Dec 27,2024 UP

 情報情報情報、情報の波に押し流される。現代に生きる我々はもはや日々更新される情報に抗うことなどできはしない。今日もまた信じる誰かが信じられないことをして知らない誰かに責められる。心の平穏を保つため一旦離れてみようかとそう考えようにもその間に知らない情報が溜まっていく。知っていた方がいいことに知らないと損をすること。我々は得をしたいのではなく損をしたくないだけなのだ。だから買い物するときに評判を調べもせずに買うことなんてできやしない(Amazonというのはもはや商品の買えるレヴュー・サイトだ)。どうせなら良いものが欲しいし、効率的に生きていたい。ログイン・ボーナスを取り逃がすなんてもってのほかだ。そうやって今日もインターネットの空間を漂い続ける、何か良いものを見つけるために、逃してしまうことのないように。そんな世界を我々は生きている。

 そうして閉塞感を抱いて疲弊してもいる。だから心の底でそれを吹き飛ばしてくれるような存在を求めるのだ。そう、そしてこれこそがそれだ。我々(そんな大きな主語が必要ないなら、私)はニューヨークのバンド、カムガール8を聞いてドキドキする。まるでレトロなサイバーパンクの映画から抜け出て来たような空気をまとった存在。クラック・クラウドの1stアルバム『Pain Olympics』のビデオの世界にピンチョンの重力の虹からインスピレーションを得たクラクソンズを混ぜ、そこに初期のHMLTDを加えたような雰囲気を持ちながら、彼らとは違う星からからやって来た人びと。カラフルな文字が踊るゴシップ記事のように低俗で、それでいてそのなかに哲学を潜ませ現代社会に問いかけるサイバー世界の住人たち。アートワークからザ・スリッツをイメージし中身からスージー・アンド・ザ・バンシーズとESGを思い浮い浮かべる。もちろん最初の曲 “Karma Police” からはレディオヘッドだ。だけど曲はちっとも似ていない。この曲は素っ頓狂なヴォーカルのサイバー・シンセウェイヴだ。「コミュニケーション・ヴァケーション/メンタル・マスターベーション」とおちょくるように韻を踏み、下から上へと、あらゆる語句でいらだち、軽快にノーを突きつける。なだれ込むというよりかはいつの間にかはじまっているという感じの次の曲 “Ahhhh!Hhhh! (I Don’t Wanna Go)”──なんて素晴らしいタイトルだろう──はもっと暗く、アナログ・シンセの影が差し、80年代のニューウェイヴ・バンドと00年代のエレクトロクラッシュのグループの間のラインを駆け抜ける。もうこの時点ででワクワクが止まらない。“hysteria!” ではさらに顕著にシンセを使い、70年代80年代、かつて信じられていたレトロな未来の姿の音を表現する。繰り返される暗い世界のフレーズに膨らむベースの低音、チープでふくよかかな宇宙に不安に揺れる心のつぶやきがこだまする。それは現実ではない、サイバー空間の、想像上の未来の音だ(私はここにHMLTDの “Is This What you Wanted?” の夢を見る)。

 もっとパキッとした音で組み立てることもできたのかもしれないが、カムガール8がここでアナログ・シンセの音を選んだことがこのサイバー空間のイメージを決定づけている。音で埋め尽くすようなハイファイで現代的なデジタル・サウンドに仕上げるのではなく、レトロフューチャーな過去から見た未来を表現する。それこそがこのアルバムに自分が最も惹かれる部分だ。Wifiの電波をスマホでつかむような世界ではなく、物理的な回線によって繋がれたワイアードのインターネットの世界。どこからでもではなく、どこかからしか繋がれない不自由な世界。マウスもシンセも線で繋がれて、表現できる容量も色にも限りがある。このアルバムは解放された先にある自由を夢見ていた不自由な時代の幸福にあふれている。

 テクノロジーが進化することで、いまよりずっと良くなる未来の姿を容易に思い描けた時代の夢。それは単純にY2Kリヴァイヴァルだということなのかもしれないが、自分の頭にはフォンテインズD.C.のベーシスト、コナー・ディーガンがインタヴューで話していた言葉が浮かぶのだ。「過去の時代に想像していたような未来の姿を表現したかった。残念だけどいまの時代に未来を想像しても、いい感じの未来が見えて来そうにないからさ。でも過去のある地点、たとえば90年代に思い描かれていた未来っていうのはもっと面白く、もっといいものだったような気がするんだよ」この発言は彼らの4thアルバム『Romance』のプレスショットについてのものだが、カムガール8のアルバムはそれに通じる場所から来たものだと思えてならない。
 彼女たちはもっと俗っぽくユーモアを交えたやり方で、いまとは違う世界の未来を描くのだ。鮮明で情報にあふれた現代のサイバー空間は殺伐としていて、もはや逃げ場として機能する架空世界ではないのかもしれない。繋がりから解放され自由を得たはずなのに、心の多くを占めるのはそれをしなければならないという強迫観念的な不安と間違いを犯すことへの恐れだ。かって夢見た世界とは似ても似つかない。だけどもこのカムガール8の音楽はここではないどこかに行くための逃避の為の音楽ではない。過激な表現を身にまといながらも、ユーモアとバランス感覚を持ってこの世界に希望を提示する。最終曲 “something new” で繰り返される「somebody new/You'll find something true with somebody new」という言葉に自分は希望を持ってこの世界を生きようというメッセージを感じる。あの頃に戻ろうではなく、新しい未来を作ろう、私たちにはそれができるというメッセージ。過激な表現とピュアな心が交じり合った音楽にワクワクするのはそこに今より素晴らしい世界の希望を見出しているからかもしれない。現実を離れた、されども繋がっている、そんなポジティヴなSF世界の広がりをここに感じる。

Casanova.S