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TESTSET

TESTSET

@Zepp Shinjuku

2024年10月20日(日)

文:渡辺健吾 撮影:Daiki Miura Oct 31,2024 UP

 身も心もテクノに侵された人間なら理解してもらえると思うのだが、打ち込み系のライヴにいくとがっかりしてしまうことが多い。いや、多かったと過去形にするべきか。初期のYMOのように生演奏にこだわると、ミュージシャンの技巧に依存して、最終的には人間的な揺れの多いリズムや、レコードにはないギターやキーボードの陶酔系ソロなんかを延々聞かされる羽目になる。逆に凝った作りのレコードの再現にこだわった場合は、演奏の主要な部分はテープ等にあらかじめ録っておいたものを流すだけで面白みに欠けたり、追加される手弾きや歌部分の残念さが目立ってしまったりする結果になった。
 機材がシンセやドラムマシンといったハードウェアからPCをメインに据えるようになって、この様相もだいぶ変わった。例えば2001年の『LOVEBEAT』発売後にときどきおこなわれるようになった砂原良徳のソロ・ライヴは、テクノ系ステージの理想的な有り様をひとつ提示してくれたと感じた。非常に緻密に組み上げられ、完成されたレコードの音を丁寧に再現しながらも、“その場で演奏される生の要素” も組み込んで、原曲と乖離しない範囲でアレンジも加え、家庭用オーディオでは望むべくもない音の迫力やクリアさも伴った贅沢なリスニング体験に仕上げていたからだ。さらに砂原自身もかなり制作にコミットした映像表現によって、引き算の美学で作られたサウンドに、別の側面から足し算を試みていた。タイポグラフィやモーション・グラフィックをモチーフにしたシンプルなものが多かったが、いわゆるVJ的なアブストラクトで昂揚感や陶酔感を演出するヴィジュアルとは異なるアプローチで、音楽体験の向上に寄与していた。
 しかし、砂原自身は電気グルーヴの時代からずっと、あまりライヴをやることに対して積極的ではなかった。それが、ここのところのインタヴューでは、どこでも「レコードよりも体験が重要」「ライヴが最終形だ」ということを言っている。METAFIVEという大所帯のスーパーバンドを経て、TESTSETという4ピースのコンパクトなバンドをやることになった後で、このような価値観や発想の転換が生まれ、バンドのポリシーになってきているのはとても興味深い(彼がソロ作の寡作さとは真逆のペースでエンジニアやプロデューサーという他人のレコードをより良くする仕事に邁進してきたこともあわせて考えると、余計に!)。


砂原良徳(キーボード)

 国内では2024年最後のパフォーマンスだという、10月20日のZepp ShinjukuでのTESTSETソロ・ライヴへ足を運んできた。昨年のデビュー・アルバム『1STST』発売時には基盤となったメンバーの砂原とLEO今井に話を聞いて、恵比寿LIQUIDROOMでのライヴも見に行ったが、今回のステージは自分にとってはそれ以来の久々の再会となる。歌舞伎町の新しいランドマーク、東急歌舞伎町タワーの奥底にある真新しく巨大なハコは、ステージ上だけでなく360度ぐるりとフロアを取り囲むLEDスクリーンが特徴で、ZERO TOKYOと名を変えおこなわれている深夜のクラブ・イヴェントにDJとして出演し、何度もその素晴らしさを味わった砂原の提案でチョイスされた会場だ。
 曼荼羅、もしくは万華鏡的なサイケなヴィジュアルを伴った新曲 “Interface” で幕を開けたステージは、以前とは違い、中心にメインのヴォーカルを担当するLEO今井とギターの永井聖一が陣取っている。横を向いて黙々とシンセ・ベースを手弾きする砂原と、タイトで小気味よいドラミングの白根賢一のリズム隊がその脇を固める格好だ。当初は、やはりゲストというかサポートというか、元々の文化部的な佇まいも手伝って隅の方で少し遠慮気味にギターを弾いている印象だった永井が、野性的に動き回る今井と時折向かいあって絡みを見せる。オレたちはポストMETAFIVEでも、砂原&LEOグループでも、すぐにやめる時限ユニットでもないぞ、というバンドのリボーンの宣言*であるように感じた。

*今井、永井をフロントに据えるフォーメーションは今回が初ではなく、7月19日のLIQUIDROOMの20周年記念ライヴから導入された。


永井聖一(ギター)

 札幌のしゃけ音楽祭、SONICMANIAやLIQUIDROOMワンマンでも、今年のステージでは少しずつ演奏されていた新曲だが、今回のライヴ直前に発表されたEP「EP2 TSTST」でその全貌が明かされた。メインとなるのは、初めてフルに日本語で歌われたリード曲 “Sing City” だ。LEO今井がメインを張ることで、これまであまり前面に出てこなかったタイプの、高橋幸宏のメロウでセンチメンタルな面が受け継がれたようなとても印象的な曲。振り返ると、TESTSETの持ちネタとして、METAFIVEのナンバーのうち当時からずっと継続してやっているのは、“Full Metallisch” や “The Paramedics” だ。これらには、インダストリアルだったりアグレッシヴだったりするテイストを持った、今井の色が強く感じられる。当初は、やっぱり違うバンドを名乗る意義だとか、再出発を強調する意味でもあまりユキヒロっぽさを出さないようにしているのかなとも思っていた。しかし、今井自身が「このバンドはMETAFIVEのスピンオフ」と言っているように、前身とまったく断絶しているわけでもなく、後から参加したメンバー2名に関しても高橋幸宏との関わりがあったところから誘われた部分もあるという。なにより、この曲が今井から「ちょっとTESTSET向きじゃないけど」と提示されたデモが元になっているというのが興味深い。今回はアンコールの1曲目に名残を惜しむように歌われた “Sing City”、今後きっとバンドの要所を締める代表曲に育っていくだろう。


白根賢一(ドラムス)

 過去3作からバランス良く曲が披露されていく中、特に今回は映像の高精細さや迫力とも相まって、バンドの内包する物語性やテーマ性が見えやすいライヴになったと感じた。以前今井に英語の歌詞について質問したら、やはり母国語は英語だからその方がやりやすいし、今後も日本語の曲を書くことはあまり考えられないと言っていたので、今回のアプローチはバンドの伝えたいことをより明確にするという意味で、非常に効果的だった。以前からMVやライヴ用映像のあった曲、例えば鳥の群像とアップを交互に見せつつ、最後に骸と雛という対極的なショットを入れる “Carrion” や、美しい自然の空撮からスタートして徐々に建築物や人の営みに推移していく “A Natural Life” といった曲の具象的描写が、いままでよりもハッとさせられるものに感じたし、砂原ソロ時代からの延長線上にあるようなグラフィカルな表現との相乗効果もあがっていた。
 また、初めて聞いた頃は、ちょっと毛色が違いすぎて浮いている?とも感じた永井のヴォーカル曲。今回のEPで “Yume No Ato” というレパートリーが増えたことで、確実にTESTSETの世界の一翼を担うところへ成長した。ライヴでのこの新曲はまだこれからという感じもあったが、かなり場数をこなしてきた “Stranger” では、時計/時間をモチーフにした映像との絡みや、音源より確実に進化したバックトラック、そしてコーラスで入る今井の声とのハモり具合の気持ちよさが渾然一体となって、今回のライヴのハイライトのひとつと言える、鳥肌ものの素晴らしさだった。


LEO今井(ヴォーカル)

 そして、最後に記しておきたい、中盤のラストのトリビュートについて。前述の永井コーナーに移る前に突如演奏されたユキヒロさんのカヴァー曲、“Glass” がとても良かった。実は昨年の恵比寿ガーデンホールでもやったのだが、見逃していて、もう二度とやることはないかもしれないと悔やんでいたので感激もひとしおだ。そもそも、2014年に高橋幸宏&METAFIVEとして、往年のユキヒロ関係の曲を当時のテクノポップの流儀で再現した「テクノリサイタル」がこのバンドの一番はじめの出発点。でも、そのときですらやってなかったちょっと捻りの入った名曲 “Glass” がほぼ完コピでまた聴けるとは。82年の「What Me Worry Tour」でのスティーヴ・ジャンセンのドラムや土屋昌巳のギター、そしてユキヒロさんの歌が憑依したような恐ろしいほど気合の入ったトラック、ドラミング、歌&コーラス。さらには、歌詞の世界をうまく捉えた雨の水滴や割れるガラスの映像……。このバンドのファンはよく曲を知っていて、人気曲が演奏されるとイントロの少しのフレーズだけでわっと歓声が上がるのが嬉しい。METAFIVEからのファンも多いと言っても、さすがに81年リリースの曲をリアルタイムで愛聴していたひとはそんなにいなそうだが、この日一番くらいの反応があって、ロートルは涙しそうになった。

 MCで今井が紹介していたが、年内残ったライヴの予定は中国のフェスへの出演だという。METAFIVEからの遺産や、高橋幸宏のメモリーという背景情報の一切ないところで積む4人のライヴ経験が、今後どのようなかたちでバンドをドライヴしていくのか、とても楽しみだ。

文:渡辺健吾