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Columns

新ジャンル用語解説

New Genres in Underground Pop Music

野田 努 Sep 06,2012 UP

問題:以下のアーティストをジャンル別に分けよ。ジュリア・ホルター、アイコニカ、アクトレス、ハイプ・ウィリアムス、ダニエル・ロパティン、ジェームス、フェラーロ、ジャム・シティ、ワイルド・ナッシング。
答え:無理。理由としては、ジュリア・ホルターをひとり見ても、シンセ・ポップ、アンビエント、ノイズ、いろいろある。ダブステップ系に括られるアイコニカにしても、フットワーク、エレクトロ......。ハイプ・ウィリアムスやダニエル・ロパティンにいたっては、スクリュー、ニューエイジ、ダブ、シンセ・ポップ、ジャム・シティはUKガラージ、サイケデリック、ドローン、ワイルド・ナッシングはシューゲイズ、ドリーム・ポップ......(以下、略)。

 1980年代後半から1990年代にかけてのジャンル用語を振り返ってみる。シカゴ・ハウス、デトロイト・テクノ、ガラージ、アシッド・ハウス......このあたりからジャンル用語は噴出する。アンビエント・ハウス、ガバ・ハウス、ハード・ハウス(NYのコマーシャル・ハウス)、ヒップ・ハウス(ラップ入りのハウス)、そして舞台をUKに移すと、バレアリック・ハウス、アシッド・ジャズ、プログレッシヴ・ハウス(トランスとほぼ同義)、テクノ、ハード・テクノ、ジャーマン・トランス、ゴア・トランス、インテリジェント・テクノ(大いなる失敗作)、ハード・ミニマル、ミニマル・ダブ、トライバル・ハウス、ディープ・ハウス、そして1994年当時もっとも問題視されたトリップ・ホップ(多くのアーティストがこう呼ばれることを嫌悪した)、そして、さらに多くの批判を促した用語としてIDM(レイヴで踊っている奴はバカという視点に基づく)がある。
 さらにまた、ハンドバッグ・ハウス(その名の通り、ちゃらいハウス)、ジャングル、ドラムンベース、ダークステップ、2ステップ、ビッグビート、ドリルンベース(駄洒落のきいたネーミングだった)、ブレイクコア、ポスト・ロック、グリッチ、アブストラクト・ヒップホップ、ブロークンビーツ......、当時はこうした用語解説を依頼されたものだった。
 ゼロ年代のダブステップ以降もまた、こうしたジャンル用語シーンが活性化している。ことインターネット・ユーザーにとっては、これらは知識というよりもある種のシニカルな情報との戯れでもある。

 たとえば、「hypnagogic(ヒプナゴジック)」、これは2009年の『Wire』誌が言い出しっぺのタームで、ポカホーンティッド、エメラルズ、マーク・マッガイア、ダックテイル、ジェームス・フェラーロなどがその例として挙げられている。おわかりのように、ほぼ同じときを同じくして出てきたある世代の共通的な感覚を『Wire』なりに言い表したタームだ(要するに、正確に言えば、感覚を指す用語で、ジャンル名ではない)。

 ちなみに『Wire』は、「ポスト・ロック」というタームを1990年代後半に生んでいる。これが日本では長いあいだ誤用されている。
 そもそも「ポスト・ロック」とは、トータス周辺に象徴される音で、つまり主義主張を訴えていたロック文化とはまったく別の(まさにポストな)方向性を持つ音楽を意味する。さらに言えばジャズやクラウトロック、さもなければ現代音楽にその源泉を求めている。ゆえにモグワイやシガー・ロス、65デイズ・オブ・スタティックスのような、歌手がいないインストというだけで、基本やってる音はロックな連中にまで「ポスト」を冠するのは間違っている。
 フリー・フォークも同じように、かなり曖昧に日本の音楽ライター界では使われている。これも『Wire』が出自で、この場合の「フリー」とは、フリー・ジャズの「フリー(即興)」に近いニュアンスだった。ゆえにサン・バーンド・ハンド・オブ・ザ・マンのような即興性の高い音楽はフリー・フォークと呼べるが、デヴェンドラ・ヴァンハートは昔ながらのフォークであり、フリー・フォークではない。
 こうした誤用はときには「ま、どうでもいいか」で済ませるが、ときには済ませられないこともある。音楽としての「フリー」を目指しているバンドにとってフォーク(アコースティックな響き程度の理由から)と呼ばれることは、ひとつの解釈という話しではなく、誤謬そのものだ。旧来のフォーク・スタイルに「フリー」が冠せられるのもあんまりである。

 music is music........あったり前だが、音楽を楽しんでいるときにジャンル用語を気にしているリスナーがいると思ってはいない。それでも僕がこうしたジャンル用語をわりと面白がるのは、それら情報のカオスから生まれたタームが、音楽を語る言語の停滞を阻止する役目を果たし、新しい問題提起へと連続させるからだろう。単純な話、これは人の好奇心を煽る。昔はよく、商売熱心なレコード会社やレコー店もジャンル用語をでっちあげたものだったが......(デス・テクノとか、サイバー・トランスとか、あるいはレイヴという言葉さえもジュリアナ東京に差し替えたりもしたが、ことの善し悪しはともかく、それによって売り上げが伸びたのは事実)。

 たしかに新ジャンル用語はときにリスナーを困惑させる。IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)というジャンル名が出てきたとき、「何がインテリジェントだ」と、最初は抵抗があった。が、もうどうでもいいやと思って使っている。IDMという用語の普及とともに、その音楽性も急速に拡大したという事実を前に、「それで通じるなら、ま、いいか」と、「便宜上」使うことにした。IDMをやっていれば知的だとは決して思っていない。 
 最近では、「chillwave」もやっかいなタームだった。「chillwave」はブロガー発の新ジャンル用語として定着した最初の例となったわけだが、その契機となったウォッシュト・アウトやトロ・イ・モアの初期音源(つまり、ネタありきの音楽)からはずいぶん離れたところでも使われている。
 「chillwave」とは、いわば素人の作ったタームだ。それはデジタル文化における情報発信の自由がもたらした最初の結実だ。音楽を楽しんでいる素人の作ったブログから生まれた造語と、レーベルから送られてくる情報のコピー&ペーストで構成される音楽情報サイトと、どちらが文化的に有益だろうか。いずれにせよ、それがどんなに陳腐に見えようが、今日の新ジャンル用語の氾濫は、アンダーグラウンド・シーンの活況を反映しているのである。

 以下、興味がある人のみ参考にしてください。そして、間違い/追加項目があったら教えてください。

screw:わかりやすく言えば、ウルトラマンに出てくるゼットン星人の声だが......音楽の世界では、いまは亡きヒューストンのDJスクリューの編み出した技から来ている。ゆえにジャンル用語ではなく、グリッチと同じように、テクニック用語である。ピッチを落としてミキシングするだけだが、独特の幻覚性が得られることから、ゼロ年代半ば以降から現在にかけて、いろんなシーンで流行っている。オリジナル・チルウェイヴとクラウド・ラップがスクリュー・リヴァイヴァルをうながしている。



footwork(juke):シカゴの速くてくどい、ハードなダンス。チョップとドラムマシン。強いコミュニティ意識から生まれたジャンル用語。DJネイト、DJロック、DJダイヤモンド、DJラシャド等々。彼らの汗は、欧州や日本へも飛び火している。また、こうした固有の地域から生まれたジャンルには、他にもメンフィスの「crunk」、南アフリカの「shangaan electro」、ディプロが見つけた「new orleans bounce」などがある。



UK funky:グライムのハウス化。ソカのセンスが混じっている。ロンドン在住の友人によれば、ほぼ20歳以下限定のノリだとか。

brostep(filthstep):レイヴ仕様のダブステップ。もともとはダブステップもブローステップも同じ場所にいたはずで、こうした識別こそジャンル用語のネガティヴな作用だと言える。ハンドバッグ・ハウスよりはマシだが......。

dream pop:ドリーミーな宅録音楽。チルウェイヴ、クラウドラップ、ヴェイパーウェイヴと違って、盗用すなわちサンプリング主体ではない。ビーチハウス、ピュリティ・リングス、ナイト・ジュウェル、ツイン・シスターほか多数。

cloud rap:ドリーミーかつヒプナゴジックなラップとトラックで、クラウド・ストレージのような共有ファイルからがんがんに音源をダウンロードして作っている、サウンド的にもクラウド(雲のよう)なラップ。リル・B(本人は自分の音楽を「based」と呼んでいる)、メイン・アトラキオンズ、クラムス・カジノ、エイサップ・ロッキー、オッド・フューチャーなどなど。また、「trill wave」という言い方もあって、クラウド・ラップのラップがあるかないかという説明がされている。ストーナー・ラップとも親和性が高いが、別に大麻を主題としているわけではない。



dark wave:コールド・ケイヴのような、ゴシック調のシンセ・ポップ・リヴァイヴァル。ちなみにコクトー・ツインズ系のような気体のような音、マジー・スターのようなウィスパー系を、欧米では、エーテル系(ether、英語読みではイーサ)と呼んでいる。

witch house:冗談めいた、ちょっと痛いジャンル名のひとつ。簡単に言えばゴシックなハウス。ブリアルの影響下で生まれ、スクリューを取り入れている。oOoOOが有名で、ほかにもセーラムとか、†‡†とか、恐怖モノですな。



vaporwave:クラウド・ラップのように、ネットからダウンロードした音源の再利用によって作られているモダン・サンプリング・ミュージックの第三の波。グローバル資本主義への批評性、もしくは抵抗とも解釈されている。ひとつの文化現象としても興味深い。情報デスクVIRTUAL 、インターネット・クラブ、マッキントッシュ・プラス等々。



Burial follower:これは筆者が勝手に言っている。ジャンル名ではなく、ひとつの傾向。悲しく、ダークで、ヴォーカルを加工するところに特徴を持っている。ホーリー・アザー、バラム・アカブ、マウント・キンビー、ダークスターなどなど。クラムス・カジノも、共通の感覚を有している。

drone folk:ギターでドローンしながら歌うことだが、なんとなく雰囲気を指し示す、曖昧なターム。そもそもフォークとは、ポップスと比較して言葉表現が自由なことから、詩的な言語を使えるジャンルとして発展している。ドローン・フォークは、必ずしも一音で構成されているわけではないし、言葉の詩学ももたない。ときにポポル・ヴーといったドイツのコズミックの系譜とも関連づけられる。グルーパー、モーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェルなどなど。



haunted R&B:ハウ・トゥ・ドレス・ウェルをはじめ......ジャンル名というよりは今日顕在化している感覚。ウィッチ・ハウスと同じようなものか。サッド・コアとかね。



dark minimalism:シャックルトンの絶大な影響力によって拡大している。雨後の竹の子のようにこれからも出てきそうな気配。

dark industrial:デムダイク・ステアやレイミ、ブラッケスト・エヴァー・ブラックのようなインダストリアル・リヴァイヴァル。





 一時期は「post dubstep」とはなんだったのかとよく訊かれたが、僕なりに説明すれば、ブリアル以降のハウスのBPMに合わせたベース・ミュージックで、ピアソン・サウンドやジョイ・オービソンなどその一部はテクノやハウスに回帰しているから、その過程だったともいまなら言えるか。
 また、〈ワープ〉の若手としてはダントツに才能がありそうなハドソン・モホークは、少し前は「wonky」などと呼ばれていたが、いまでは死語となりつつある。

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