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interview with Little Dragon (Yukimi Nagano)

interview with Little Dragon (Yukimi Nagano)

世界を魅了した歌声、北欧エレクトロニック・ポップのさらなるきらめき

──リトル・ドラゴン、インタヴュー

質問・文:小川充    通訳:滑石蒼 photo: Ellen Edmar   Mar 26,2020 UP

 スウェーデンのイェーテボリから登場したリトル・ドラゴンはどこかミステリアスで、でもポップさとか可愛らしさも持つ風変わりなバンドだ。ヴォーカリストのユキミ・ナガノ、キーボードのホーカン・ヴィレーンストランド、ベースのフレドリック・ヴァリン、ドラムス&パーカッションのエリック・ボダンからなる4人組で、学生時代の仲間がそのまま大人になってバンドを組んでいる。ユキミ・ナガノが日系スウェーデン人ということもあり(父親が日本からスウェーデンに移住した日本人のインテリア・デザイナーで、母親がスウェーデン系アメリカ人)、またかつてクラブ・ジャズの世界で知られた存在だっただけに、親近感を抱く日本のファンも少なくないが、彼女のどこか妖精のようにフワフワとしながらコケティッシュさも持つヴォーカルと、エレクトロ・ポップ、インディ・ロック、オルタナティヴR&B、ハウス、ニューウェイヴ・ディスコ、シンセ・ブギーなどさまざまな要素がきらめくサウンドが結びつき、ほかになかなか見ないような独自の個性を生み出している。

 これまでに5枚のアルバムをリリースし、特に『ナブマ・ラバーバンド』はグラミー賞にもノミネートされるなど高い評価を得て、世界中のさまざまなフェスでも大活躍している。そんなリトル・ドラゴンにはいろいろなアーティストから共演やコラボのオファーが届き、ゴリラズフライング・ロータスサブトラクトケイトラナダバッドバッドナットグッドDJシャドウマック・ミラーリトル・シムズなどの作品にフィーチャーされてきた。そんなリトル・ドラゴンが心機一転してレーベルを〈ニンジャ・チューン〉へと移籍し、ニュー・アルバムの『ニュー・ミー、セイム・アス』を完成させた。進化を続けるリトル・ドラゴンがまた新たなステージに進んだことを象徴する作品であり、堅実でありながら型にはまらないR&B、ポップ、エレクトロニックという独特のスタイルに新しい方向性を見いだしながら、変わることなく若々しい精力的なサウンドを鳴らしている。同時にアルバムには内省的な空気も感じられ、ユキミの特徴的な歌声は、移り変わるものごとや憧れの感情や別れを告げることに思いを馳せている。今回はそんなユキミ・ナガノにリトル・ドラゴンを代表して話をしてもらった。

クープでは曲を書いているわけでも歌詞を書いているわけでもなく、操り人形のような気持ちになることもあった。誰かが作ったものをそのまま運ぶ仲介人みたいなね。だからジャズを聴くのがイヤになったことさえあった。

1996年にイェーテボリの学校仲間が集まって結成されたリトル・ドラゴンは、アマチュア時代を経た後、2007年にファースト・アルバムを発表してから『マシーン・ドリームズ』(2009年)、『リチュアル・ユニオン』(2011年)、『ナブマ・ラバーバンド』(2014年)、『シーズン・ハイ』(2017年)と5枚のアルバムをリリースしてきました。いろいろキャリアを重ね、『ナブマ・ラバーバンド』はグラミー賞にもノミネートされるなどアーティストとしても確立された存在になったと思いますが、ここまでの活動を振り返ってどのように感じていますか。

ユキミ・ナガノ(Yukimi Nagano、以下YN):いろいろあったわね。いろいろ(笑)。ここまで来るのに一晩しか経っていないような気がするけど、たくさん曲も作ったし、たくさんライヴもしてきた。いいことも悪いことも経験したわ。でもそれができたのは、私たちについてきてくれるファンがあったからよ。だから、ファンのみんなにはすごく感謝してる。

誰かひとりが突出するのではなく、メンバー4人が作曲、演奏などすべてに渡って平等な形で参加する民主的なバンドのリトル・ドラゴンですが、学校の仲間ということはあるにしても、ここまで長くやってこられた秘訣などあるのでしょうか?

YN:私たちは初期の頃からお金を全部均等にしてきた。誰が書こうが、誰が作ろうが、収入を山分けしてきたのね。その作品自体は全員で作ったという意識だから。それがみんなの意識につながって、うまくいっているのかもしれない。バンドが有名になっていくと、5人のうち2人だけどんどんお金持ちになって、他のメンバーは全然なんてことよくあるでしょ(笑)。ツアーにはみんなで出るし、労力はそんなに変わらないはずなのにね。それが解散の原因になったりする。それは避けたいわ。

新作の楽曲のパブリッシングについても、メンバーが関わった分だけそれぞれパーセントで印税の分配比率が記されていました。ほかのバンドなどではこうした記載を見ることがなく、とても面白く感じたのですが、いつもこんな感じでクレジットするのですか?

YN:そうね。全員が全力で作品制作に取り組んでいるから、毎回そうしてる。どの曲も全員の手が入らないと完成しないと思って制作してるの。だからクレジットにそれを書くのがフェアかなと思ってね。

ユキミ・ナガノさん自身についてはかつてクープというニュー・ジャズ・ユニットに参加したのがシンガーとしてのデビューで、スウェル・セッション、ヒルド、日本のスリープ・ウォーカーにも客演するなど最初はクラブ・ジャズ・シーンで知られる存在でした。それがリトル・ドラゴンのエレクトロ・ポップ調の作品へと変わったとき、戸惑いを感じたリスナーも多かったことを覚えています。そもそも音楽のスタートはリトル・ドラゴンだったわけですが、あなた自身はこうした変容についてどう捉えていましたか?

YN:どのフェーズも自分のキャリアにおいてはなくてはならなかったと思う。いまだから冷静になって言えることだけどね。当時は複雑な気持ちだったわ。クープではフロント・ウーマンだったけど、曲を書いているわけでも歌詞を書いているわけでもなく、操り人形のような気持ちになることもあった。誰かが作ったものをそのまま運ぶ仲介人みたいなね。そこに自分の気持ちは入っていないのに。だからジャズを聴くのがイヤになったことさえあった。ジャズ・シーンから距離を置きたくて。でもいまはもう何も気にならない。ジャズは大好きだし、もちろん聴くようになったしね。だから現状を変えようと思ったら、多少は大胆なこともしないといけないと思う。男性主導の業界の中で若い女の子が生きていこうと思ったら、強すぎるぐらい強くないといけない。それが自分の意に反しててもね。私はそれが得意じゃなかった。いま思えば、クープでの経験にはたくさんの気づきがあったから、私にとって必要なことだったと思う。大勢の人の前で歌うのが好きなんだってことが分かったし、自分のキャリアの序章になったと思ってる。

「私って、これが得意なのかも」って気づく感覚は、ある意味で罠なのよ。その気づきを機に、それしかできなくなってしまうから。成長しようと思ったら、心地が悪いと思う状況に身を置いて、ビギナーに戻らないと。

リトル・ドラゴン、クラブ・ジャズ・シーンでの活動、そしてホセ・ゴンザレスと共演するなどシンガーとして非常に広い間口を感じさせ、またフェアリーなヴォーカルによってビョークに比較されたこともありますが、シンガーとしての自身をどのように分析しますか?

YN:「変わったね」って言われるのは最高の褒め言葉だと思っているの。いちアーティストとして、そういう風に言ってもらえるのは嬉しい。同じことを繰り返すのはいやだから。アーティストとして、シンガーとして、常に新しい私を開拓し続けたい。「私って、これが得意なのかも」って気づく感覚は、ある意味で罠なのよ。その気づきを機に、それしかできなくなってしまうから。私はそれを恐れてる。成長しようと思ったら、心地が悪いと思う状況に身を置いて、ビギナーに戻らないといけないものなのよね。でもそれってすごく難しいことだから、「変わった」って言われることでその努力が認められている気がして嬉しいの。

ユキミさん個人への質問が続きますが、あなたはお父さんが日本人の日系スウェーデン人です。お父さんから何か日本のこと、文化などについて教えてもらったことはありますか?

YN:たくさん教えてもらった。父は70年代にスウェーデンに移住してきたけど、彼自身もアーティストで、自分では気づいていないかもしれないけど、父は私にすごく影響を与えてるわ。日本人的な規律ある人で、働き者だった。生き方を背中で教えてくれたって感じね。毎日必ず家に帰ってきたら、自分の制作をしてた。家賃を払うのに必死になってしまうかもしれないけど、自分が好きだと思えることがあるんだったら、少しでもいいからそれを毎日必ずやるべきよ。それを自分の行動で示してくれた。だから私もそれを見て、毎日詩を書いていたわ。そんな父の存在がなかったら、音楽で食べていけるようにはならなかったと思う。普通の父親とは違って、私の音楽に対する情熱をすごく応援してくれたのよね。「これをやりなさい」なんて言われたことは、一度もないわ。彼が心配してたのは、私が頑張りすぎることぐらい。ただ父は純粋な日本人だけど、日本の音楽を聴かせられた記憶はないのよね。あの世代の人たちって、ボブ・ディランとかジョニ・ミッチェルとかが好きでしょ(笑)。父もそうだから。

スウェーデンのローカル・バンドだったリトル・ドラゴンですが、ファースト・アルバムに収録された “トゥワイス” がアメリカのTVドラマに使用され、ロバート・グラスパー・エクスペリメントもカヴァーしたことによって、アメリカから世界へとリトル・ドラゴンが知られるようになったと思います。『ブラック・レディオ』(2012年)をリリースした頃にグラスパーへインタヴューした際、ユキミ・ナガノの声がとても好きで、コラボしたいアーティストの筆頭に挙げていたのですが、彼のことはどう思いますか?

YN:知らなかった。すごく光栄だわ。ぜひ一緒に仕事したいわね。彼の音楽ももちろん好きだし、人間的にも尊敬してる。“トゥワイス” のカヴァーも本当に光栄なことよ。さっきも言ったみたいに、10年前だったらジャズと聞いただけで嫌悪感を抱いてたから、断ったかもしれないけど!(笑)。いまは、ジャズへの愛を取り戻したからね。こういうのって、面白いのよね。予想もしてない人が私たちの音楽を好きって言ってくれたりする。全然関係ないジャンルとかね。びっくりすることがよくある。私はいつも思っているんだけど、一度曲をリリースしたら、その曲はもう自分のものではないの。みんなのものになる。子どもと一緒よね。成長したら一人前になって、もう親のものではなくなる。曲にも命があって、どう成長していくのかを見るのが楽しいの。

これまでコラボしてきたアーティストはゴリラズ、フライング・ロータス、サブトラクト、フルーム、ケイトラナダ、バッドバッドナットグッド、ビッグボーイ、デ・ラ・ソウル、DJシャドウ、ティナーシェ、マック・ミラー、フューチャー、ラファエル・サディーク、フェイス・エヴァンス、リトル・シムズなど多岐に渡ります。特に印象深かったコラボ、また影響を受けた共演者はありますか?

YN:これまでやってきたコラボレーション全てにいい影響をもらってる。中でもフェイス・エヴァンスは私たちが初めてコラボしたアーティストなんだけど、私がもともと大ファンだったの。アイドルみたいな存在。それで会いたかったけど、叶わなかった経験もあったりして。オファーしてみたら、彼女自身は私たちのことを知らなかったんだけど、お子さんが聴いてくれてたみたいでね。子どもたちが「この人たちかっこいいからやった方がいいよ!」って言ってくれたから、実現したのよ。嬉しかったわ。憧れのヴォーカリストとコラボできて、夢が叶った気持ちだった。

質問・文:小川充(2020年3月26日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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