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木津毅   Mar 05,2015 UP
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 どこにも属さないで、しかしどこにでもフィットする音楽。8年ぶりのアルバムだというのに、まるで平然と、どこか超然と変わらない演奏がはじまる。ホセ・ゴンザレスがギターをつま弾いてそっと差し出す旅情は、いとも簡単に目の前の風景に水彩で色をつけていくようだ。大きな音ではないが、だからこそ、いま隣で鳴っていることに安心させられる。

 じっさい、ソロ・アルバムとしては3作めとなる『ヴェスティジズ&クローズ』はシーンのトレンドはおろか世のなかの流れとはべつのところに存在している。エクスペリメンタルな志向を含んでいたフォーク・ロック・バンド、ジュニップとしての活動をひと段落させたゴンザレス個人のタイミングで、この弾き語りはふとはじめられたという感じだ。2004年のヒット作『ヴェニア』のときにはそのチルアウト志向というか、フォークトロニカなどとも緩やかに共振する感性があったし、インディ・ロック・シーンで非西洋音楽からの引用が急増することを予見してもいた。2007年の『イン・アワ・ネイチャー』の頃にはゴンザレスのそんなあり方はまさにインだったわけだが、いま彼の音楽の無国籍的な佇まいを見ていると、そもそもそうした物差しが必要でなかったことに気づく。アメリカーナの新解釈という側面も持っていたコンピレーション『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』(2009年)において、ゴンザレスがザ・ブックスと風変わりなエレクトロニカ・ポップをやっていたことを思い出してもいいかもしれない。アルゼンチンをルーツに持つスウェーデン人というやや特殊な出自も関係しているだろうが、この2015年においていっそう、彼が特定の枠組みに押し込められることからさっと身をかわしていることが眩しい。

 ホセ・ゴンザレスの楽曲はべたっとした弾き語りでない南米音楽的なリズム感覚を擁していることが魅力だったが、このアルバムでもとくに“レット・イットキャリー・ユー”や“リーフ・オフ/ザ・ケイヴ”などに控えめながらもそうした躍動感を発見できる。だが本人が説明するようにここにはアメリカのフォーク・ロックの要素もあれば、アフリカ音楽からの影響もある。また、余韻たっぷりに響くギターのピッキングにはジョン・フェイヒィの名前を連想せずにはいられない。場所だけではなく時間もやすやすと行き来する。“アフターグロウ”ではそうした彼の音楽の多面性が発揮されており、ブルージーなリズムは重たくならずにごつごつとした手触りを伝えてくる。

 “リーフ・オフ/ザ・ケイヴ”のオフィシャル・ヴィデオはゴッドレス・チャーチ(神のいない教会)での集まりをイメージして作られたという。そこでは特定の宗教を持ち出さずに人びとが集い、歌い、そしてゴンザレスの「光に連れ出してもらうんだ」というスピリチュアルな言葉が繰り返される。それがあまりに自然な振る舞いであるために気づきにくいが、しかし彼はそのようにして何かに束縛されないことをかなり意識的に実践しているのではないか。「捨ててしまおう 重荷を捨ててしまうんだ/忘れてしまおう 我を忘れてしまうんだ(“レット・イット・キャリー・ユー”)」。根無し草として、あるいは旅人として、自我を世界に差し出してしまうこと。それは多くの人間が自分の居場所を守るのに躍起になっているこの時代においてあまりに無防備で、しかしだからこそ勇敢な姿勢に思える。だがゴンザレスはあくまで自然体だ。

 本作はまた、全曲オリジナルとなった彼の歌の魅力をあらためて噛みしめるアルバムにもなっている。「よりよい世界を夢見て 時間をかけて 家を建てる/僕らみんなの居場所を作り上げるんだ」と素朴だが尊い理想が告げられる“エヴリ・エイジ”の、名もない歌うたいがどこからかやってきて自然と歌いはじめたような穏やかな時間。あるいは、アルバムの終曲となる“オープン・ブック”はそのシンプルさゆえにメロディが際立つ彼のキャリアのなかでも屈指の名曲だ。「開かれた本のような気持ち」とは、ページを繰れば簡単に過去にも遡るゴンザレスの音楽の自由さを示しているだろう。我を忘れることは自分を見失うこととはちがう……自分ではないものの価値を信じることだ。そのとき、そこには新しい自分がいるだろう。そのメロウさを少しばかり増しながら、ゴンザレスはこんなふうにアルバムの幕を閉じる。「だけど記憶は残る/傷は同じように感じられないけれど/ページを1枚1枚埋めていく/ほかの太陽たちの温かさに包まれて」。

木津毅