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Home >  Interviews > interview with Bobby Gillespie & Jehnny Beth - 愛し、愛するのをやめること

interview with Bobby Gillespie & Jehnny Beth

interview with Bobby Gillespie & Jehnny Beth

愛し、愛するのをやめること

──ボビー・ギレスピーとジェニー・ベス、夫婦の崩壊を描いた問題作について語る

   photo : Sarah Piantadosi   Jul 06,2021 UP

恋に落ち、恋に冷め、誰かを愛し、誰かを愛するのをやめる、誰かに愛されなくなる......人間の人生経験は、芸術的経験と同じくらい大切なものだ。
──アンドリュー・ウェザオール

 ボビー・ギレスピーとジェニー・ベスによるプロジェクトのテーマが「夫婦の崩壊」だと知ったときに即思い浮かんだのは、上掲したウェザオールの言葉だった。ぼくはこれをもって本作品の解説としたいと思っているわけだが、もう少し言葉を続けてみよう。
 まずのっけから世知辛い話をすれば、この無慈悲な資本主義社会で家庭などを持つことは、たいていの夫婦はつねに経済的およびメンタル的な不安定さに晒されるわけで、これがじつにしんどい。さらに家族の意味も20世紀とはだいぶ違ってきている。それに輪をかけて感情のもつれなどもあったりするから、夫婦を継続することの困難さは、年を重ねるに連れてより重くのしかかってくる。ジェンダーをめぐる洗練された議論がかわされている今日において、ボビーもまた、なんとも泥臭いテーマに挑んだものだ。
 とはいえ愛の喪失は普遍的なテーマというか、人を愛したことがある人間であれば誰もが経験することでもある。ひいてはポップ・ミュージックの多くは「恋に落ちる」「誰かを愛する」場面を扱い、同時に「誰かを愛するのをやめる」「誰かに愛されなくなる」場面も描いている。オーティス・レディングやスタイリスティックスのようなアーティストのアルバムでは、そのどちらも表現されているように。しかし、「誰かを愛するのをやめる」ことだけに焦点を絞ったものとなると、どうだろうか。それも男女のデュエットによる夫婦の崩壊を描いたものとなると、なかなか思い浮かばない。古風な形態でありテーマかもしれないが、じつはけっこういまどきの話としてのリアリティがある。

 マーヴィン・ゲイ&タミー・テレルが陽光だとしたら、ボビー・ギレスピー&ジェニー・ベスはその影になった部分を引き受けている。70年代のカーティス・メイフィールド風のファンクからはじまる『ユートピアン・アッシュズ』にはブラック・ソウル・ミュージックが注がれているし、ほかにもプライマル・スクリームで言えば『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』に近いところもなくはないが、60年代風のフォーク・ロックやバラードがほどよいバランスで混ざっている。プライマル・スクリームが持っているアーシーな一面、ボビーのあの甘い歌声によく合うアコースティックな響きが随所にあり、作品の主題ゆえにエモーショナルで、作品の主題に反して音楽は温かい。打ちひしがれ、身につまされもするがそれによって解放もされる、渋い大人のアルバムなのだ。
 バックを務めているのは、プライマル・スクリームの面々──アンドリュー・イネス(g)、マーティン・ダフィー(p)、ダレン・ムーニー(d)、そしてベースにサヴェージズのジョニー・ホステル。ほかにチェロやヴァイオリンなどの弦楽器奏者、管楽器奏者も数人参加している。
 以下に掲載するのは、日本盤のライナーノーツのためのオフィシャル・インタヴューだが、ふたりはじつに明確にこの作品について説明をしている。とても良い内容のインタヴューなので、ぜひ読んでいただきたい。(野田努)

interview with Bobby Gillespie

僕はただ、普遍的な真実というものを描きたかったんだ。
経験に基づいた実存的な現実というのかな。

──ボビー・ギレスピー、インタヴュー

質問:油納将志  通訳:長谷川友美

人間はとても複雑な生きもので、人生は葛藤の連続だ。人間関係は葛藤そのものだから、このアルバムの命題は、その“葛藤”について描かれたものと言えるだろうね。そして、その葛藤は痛みを伴うんだ。 

ジェニーとは2015年にバービカンで行われたスーサイドのステージで出会ったのが最初のようですね。翌年、ジェニーがプライマルズのステージで“Some Velvet Morning”をデュエットしています。そこからどのようにして今回のコラボレーションが生まれたのでしょうか?

BG:最初にジェニーと腹を割って話したのは、マッシヴ・アタックのフェスティヴァルのときだね。サヴェージズも出演していたんだ。プライマルのギターのアンドリューがジェニーのことをよく知っていて、彼女にゲストシンガーとして歌ってもらったらどうか、と言ってきて。それがすごく良い感じだったから、アンドリューがジェニーと一緒に曲を作ってみたらいいんじゃない? と薦めてくれた。

あなたはジェニーをどのようなアーティストとして見ていましたか?

BG:彼女のことはサヴェージズの音楽を通してしか知らなかったけど、サヴェージズの1stアルバムを買って聴いてみたんだ。彼女たちの音楽は、とてもミニマルで白黒のコントラストがはっきりしているような印象を受けた。明確な方向性やマニフェストを持っているなという印象だったね。ジェニーは自分の見せ方わかっているし、こう見られたい、こう在りたいというのがとてもはっきりしているところに興味を持った。また、彼女たちの音楽には、たくさんのルールがあるように感じた。ギターソロは入れない、曲はすべて短くまとめる、みたいなね。彼女の音楽を聴いて、批判的思考に基づいた曲作りの世界観、というアイデアが浮かんだんだ。

サヴェージズの音楽を聴いて、ジェニーとのコラボレーションにあたって曲作りに彼女たちの方程式を取り入れるようなことは考えましたか?

BG:それはまったくなかったね。ただ、“Some Velvet Morning”のリハーサルをしたとき、彼女のプロフェッショナルな姿勢には感銘を受けたよ。

実際に一緒にスタジオに入ってみて、彼女に対する印象は変わりましたか?

BG:いや、全然変わらなかったね。依然として彼女はとてもプロフェッショナルだったから。絶対に遅刻しなかったし、歌は素晴らしいし、プロジェクトにとても集中していた。ジェニーは詩を書き留めたノートを何冊も持っていて、日記もこまめにつけていたんだ。“Stones of Silence”のヴァースは、彼女のノートの中から歌詞を拝借したんだよ。それから、僕がコーラス部分を書いたんだ。

基本的にはあなたが曲を書いて、一部の歌詞をジェニーが担当したという感じですか?

BG:曲によって作り方はまちまちだったね。例えば“Sunk in Reverie”や“Living a Lie”は僕が歌詞を全部書いたし、“You Can Trust Me Now”はジェニーが一部を、残りを僕が書いた曲だしね。“English Town”は、「I want to fly away / From this town tonight / So high, so high」の部分だけジェニーが書いて、あとは僕が歌詞を書いた。“Remember We Were Lovers”は僕が書いたヴァースとジェニーが書いたコーラスを組み合わせた曲で、“Chase it Down”はコーラス部分だけジェニーが書いた。“Your Heart Will Always Be Broken”はジェニーがヴァースを、僕がコーラスを書いて、それからセカンドヴァース(Bメロ)も僕が書いたな。

1曲のなかで、実際に会話しているような感じで歌詞を書いていったんですね。このアルバムを聴いていると、男女の対話が聞こえてくるのにはそういう理由があったんですね。

BG:そんな感じだね。半分は僕が書いて、残り半分はジェニーが書いた曲もあるし、9割を僕が書いた曲もあって。男女の対話がこのアルバムのコンセプトだから、メロディと歌詞の関係もちょっと会話のようになっているかもしれない。

アルバムにはプライマル・スクリームの主要メンバーも参加しています。アルバムがプライマル・スクリーム&ジェニー・ベスにならなかったのはどうしてでしょうか?

BG:それはこのアルバムのコンセプトが、トラディショナルな男女のデュエットソングだったからだよ。ボビー・ギレスピーとジェニー・ベスのデュエット・アルバムという体裁を取りたかった。男女の会話の持つダイナミズムにとても興味があったからね。それに、ジョン(ジョニー・ホスティル)もアコースティックギターを弾いてくれているし、プライマルのメンバーだけで作ったわけじゃないからね。ジェニーも歌詞のかなりの部分を書いているし、プライマル・スクリームの曲作りとはまったく違うやり方で作ったレコードだという部分も大きいかな。この20年間のプライマル・スクリームのアルバムは、ほとんどコンピュータで曲作りをしてきたんだ。エレクトロニックなサウンドスケープを主軸にした作品を作ってきた。でも、このアルバムの曲のほとんどはアコースティックギターで書いたんだ。初期のプライマル・スクリームに近い曲作りをした感じだね。

たしかに、このアルバムはプライマル・スクリームの近作に比べてずっとオーガニックな手触りを感じました。

BG:その表現いいね。その通りだよ。

グラム・パーソンズとエミルー・ハリスの“Grievous Angel”、ジョージ・ジョーンズとタミー・ワイネットの“We Go Together”などのカントリー・ソウルに触発されたともお聞きしましたが。

BG:僕たちは、既存の曲をなぞるようなレコードを作ろうとは思っていなかったんだ。あくまでもオリジナルの音作りを目指していたし。ただ、プレスリリースにそう書いたのは、ジャーナリストにどんなタイプの音楽性を持つアルバムかっていうわかりやすい見本を示したのに過ぎないんだよ。トラディショナルな男女のデュエットアルバム、というコンセプトを理解してもらうためにね。

以前にも、『Give Out But Don't Give Up』(1994)で、デニス・ジョンソンとの“(I'm Gonna) Cry Myself Blind”“Free”でカントリー・ソウルにアプローチしていますよね。

BG:あのコラボレーションは、今回とはまったく意味合いが異なるものだったんだ。デニースには、ジェニーのようなアーティスティックなクリエイティビティはまったくなかったし。彼女は曲を書いたことも、歌詞を書いたことも、メロディを書いたことも一度もなかったから。『Give Out But Don't Give Up』の曲は全部僕が書いたものだったしね。彼女はシンガーとして、僕の指示通りに歌ったに過ぎないよ。今回のアルバムは、ジェニーも実際に歌詞を書いたり、曲作りにも参加しているからまったく違う性質のものなんだ。

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