ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Westbam & Takkyu Ishino ──ウェストバムと石野卓球による東阪ツアーが開催 (news)
  2. Tribe Of Colin - Age Of Aquarius (review)
  3. Caribou ──カリブーの新作がまたしても素晴らしい (news)
  4. Roger & Brian Eno ──ロジャー&ブライアン・イーノが初めてのコラボ・アルバムをリリース (news)
  5. Little Dragon ──スウェーデンの素敵な4人組、リトル・ドラゴンが新作をリリース (news)
  6. JME - Grime MC (review)
  7. Squarepusher ──スクエアプッシャーの来日が決定、新曲も公開 (news)
  8. Carl Michael Von Hausswolff - Addressing The Fallen Angel (review)
  9. Jagatara2020 ──80年代バブル期の日本に抗い、駆け抜けた伝説のバンド、じゃがたらが復活! (news)
  10. Oli XL - Rogue Intruder, Soul Enhancer (review)
  11. Four Tet ──フォー・テットがニュー・アルバムをリリース (news)
  12. Brian Eno ──ブライアン・イーノが新曲を公開、保守党に任せれば何もかもうまくいく! (news)
  13. 渡邊琢磨 ──映画『ECTO』が生演奏つきで上映 (news)
  14. 漢 a.k.a. GAMI監修『MCバトル全書』 ――名バトルからあの事件の裏側まで、現行ジャパニーズ・ヒップホップシーンのリアルがわかる『MCバトル全書』が発売中 (news)
  15. パラサイト 半地下の家族 - (review)
  16. Columns NYクラブ・ミュージックの新たな波動 後編:進化する現代のレイヴ・カルチャー (columns)
  17. Jagatara2020 ──復活目前のじゃがたら、ライヴ会場先行販売ほか店舗限定特典&パネル展の開催が決定 (news)
  18. The 10 Best Singles/EPs of 2018 - (review)
  19. Columns TINY POPというあらたな可能性 (columns)
  20. Ovall - Ovall (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jeff Mills- Fantastic Voyage

Jeff Mills

Jeff Mills

Fantastic Voyage

Axis

Amazon

野田 努   Dec 06,2011 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 2011年の驚きのひとつは、ベース・ミュージック系の若いDJがURをかけていたことである。〈ナイト・スラッグス〉のガール・ユニットが"タイムライン"をミックスするとは想像だにしていなかったが、マーティンが"チャンジズ・オブ・ライフ"のピアノ・リフを混ぜて、そしてDJの最後に"アマゾン"をプレイしたときには、本当に、そう、本当に1周回ったんだなと(自分も年を食うわけである)。
 日本で暮らす高校生がドミューンを通じて今年はじめてジェフ・ミルズを見て感動したとしても(実際、そういうメールをいただいた)、それはストーン・ローゼズがブレイクする前にザ・バーズを聴いているようなものかもしれないが、こうした1周期については、正直な話、嬉しい反面、複雑な気持ちにもなる。おそらく理想的な展開とは、もはや"チャンジズ・オブ・ライフ"や"アマゾン"を必要としないほどダブステップから多くの決定打が出ていることだろうし、こうしたデトロイトへの回帰が起きている背景には、レイヴの殺伐さがあることを推測させる。まあ、だとしてもジェイミー・XXのソロ作品を発表しているグラスゴーの〈ナンバーズ〉のような若々しいレーベルがDJピエールの作品をリイシューしたのが2011年なわけだから、何にしても1周して、そして再発見されていることを前向きに捉えたい。ベース・ミュージックの最良の部分はこの先、フローティング・ポイントのような洗練とジュークのような衝動とに分かれていくのだろうけれど、URのような存在はこの両者の溝を埋めることのできる数少ない、そして大きな存在だということに変わりはないのだ。

 本作は60年代のSF映画(つまりSFにおける黄金期の)『ミクロの決死圏』を主題としたCDにして2枚組の大作である。『メトロポリス』にしても『タイムマシーン』にしても、ジェフ・ミルズのSF趣味は基本的にはレトロ・テイストで(そしてコード9は基本的には80年代のサイバー・パンク・テイストで)、『ミクロの決死圏』に関して言えば60年代特有のサイケデリックなヴィジュアルが素晴らしく、映画自体も娯楽に徹した、ある種の冒険活劇である。と同時に、主演女優のラクエル・ウェルチの不自然とも言えるセクシーさも魅力で、2年後の『バーバレラ』ほど露骨ではないものの、SF映画におけるエロティシズムという約束事もしっかり守っている。そんなわけでこの映画はいま観てもファッショナブルに思えるのではないだろうか......たぶん。
 とはいえ、この音楽がノスタルジックというわけではない。『ファンタスティック・ヴォヤージ』は、なんだかんだつねに前向きな、ジェフ・ミルズ流の大らかなアンビエント・ミュージックようでもある。サウンドトラック的な要素がたしかに強いが、彼はこのアルバムでSF的な音色を楽しみ、また主としてメロディに情熱を傾けている。"チャンジズ・オブ・ライフ"や"アマゾン"が重要な役目を果たしていた20年前の彼の音楽には、幻想に頼りがちなリスナーの目を覚ましてきたようなところがあるので、ジェフ・ミルズがいまこうしたリスナーの耳を楽しませるようなファンタジーを発表するというのも興味深い話である。

野田 努