ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  3. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  5. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  6. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  7. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  8. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  9. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  10. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  11. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  12. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Rafael Toral - Spectral Evolution | ラファエル・トラル
  15. 『成功したオタク』 -
  16. Bobby Gillespie on CAN ──ボビー・ギレスピー、CANについて語る
  17. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  18. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  19. ソルトバーン -
  20. Claire Rousay - a softer focus  | クレア・ラウジー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Mark McGuire- Vision Upon Purpose

Mark McGuire

ElectronicIndie RockNew Age

Mark McGuire

Vision Upon Purpose

Amethyst Sunset / Yacca / Inpartmaint Inc.

Tower HMV Amazon

デンシノオト   Jun 27,2017 UP

 マーク・マグワイヤのシンセサイズ・トラック・メイキングの感覚は、マニュエル・ゲッチングでもタンジェリン・ドリームでもなく、クラウス・シュルツェだったのではないか。2015年にリリースされた前作『ビヨンド・ビリーフ』から薄々と感じていたことが、この1年半ぶりの新作『ヴィジョン・アポン・パーパス』で、より明確になったように思われる。
 マーク・マグワイヤをクラウス・シュルツェ的なシンセスト(ギタリストではなく)とすると、エメラルズ解散以降の彼のソロ・アーティストとしての輪郭線がより明瞭に見えてくるのではないか。
 そもそも、ジョン・エリオットやスティーブとスティーブ・ハウシルトがタンジェリン・ドリーム的感覚のシンセストであり、その彼らがマーク・マグワイヤのギターを中心としてバンドを組んだとき、そのモデルケースとしてマニュエル・ゲッチング的な楽曲構造を導入したのが、エメラルズだったといえるわけであり、われわれリスナーは、そのせいか彼にギタリストとしてマニュエル・ゲッチングからの影響関係を見ようとしすぎていたのかもしれない。

 じっさい、マーク・マグワイヤのサウンドの感覚は、クラウス・シュルツェ的なドラマチックな要素が強い。その意味で彼はミニマリストではないのだ。じじつ本作『ヴィジョン・アポン・パーパス』のアルバム冒頭に置かれた“ヴィジョン・アポン・パーパス”の壮大なシンセサイズを聴けば、今、語ったことが証明されるし、エメラルズ解散以降、〈エディションズ・メゴ〉以降のソロ・アルバムを思い出してみると、マニュエル・ゲッチング的なミニマリズム、アンビエント感覚というよりは、よりドラマチックで、インナースペースにトリップするようなサイケデリックなシンセ・ミュージック感覚が横溢していたではないか。
 その彼の音楽的本質が(ようやく?)露わになったのが前作『ビヨンド・ビリーフ』であり、その「成果」がより音楽的に洗練されてきたのが本作『ヴィジョン・アポン・パーパス』だといえるだろう。じっさい本作の彼の音楽はとても自信と力に満ちており迷いがない。

 本作は、「世界中のネイティブ・アメリカンの部族、ヒーラー、メディスン・ワーカーたちと一緒に仕事をする機会」があり、「その経験が本作のヴィジョンのひらめきとなり、各トラックのエーテルの中にも含まれている」とアナウンスされているが、確かに、自身のルーツとトラディショナルな感覚をドイツ的なシンセ・ミュージックと一体化させていく試みは間違いなく成功している。
 同時にギタリストとしても、よりトラディショナルな音楽性を展開している点も聴き逃せない。特に日本盤のボーナス・トラックとして収録された「ウォーリアーズ・オブ・ザ・レインボウEP」収録の“ザ・ファイアー・キーパー(フォー・トマス・ジョンソン・アンド・ジョー・プラム)”ではまるでブルース・ギタリストのような生々しくもオーガニックなギタープレイを披露しており、彼のギタリストとしての真の魅力を満喫することができる。
 本年2017年に〈ヴァン・デュ・セレクト・クウォリティテ〉からリリースされた『アイデアズ・オブ・ビギニング』の系譜にも繋がるギター楽曲といえよう。ちなみにこのアルバムは彼のアンビエント感覚の源泉ともいえる楽曲を収録しているように思える。確かにシンセ・サウンドよりも、こういったギター音楽の方に、彼の本質が表出されやすい。

 いずれにせよ、本作『ヴィジョン・アポン・パーパス』は、ここ最近のマーク・マグワイヤが自身のルーツと個性を再発見したかのような生き生きとした音楽性を披露している秀作であることに間違いはない。マーク・マグワイヤは、エメラルズ以降、第二の黄金期に差し掛かりつつあるのかもしれない……。

デンシノオト