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The Amazing Births

The Amazing Births

Younger Moon

Cylindrical Habitat Modules

三田 格   Nov 08,2011 UP
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E王

 マーク・マッガイア(エメラルズ)の新ユニットによる1作目(前2作はカセットで、定冠詞はなかった)。エレクトロニクスをメインに扱うジュリアン・ガライアスとのタッグで、ガライアスはソロで展開するシナプティック・フォリエイジやヒーティッド・ヴォイドのほかにアダム・ミラーとのクロウテイションズ、さらにはコメット・ボディーズとしても昨年あたりからカセット・リリースなどを開始したニュー・フェイス。前後してリリースされたマッガイア『ゲット・ロスト』のアートワークも手掛けている。いささかスピッたユニット名は......どちらのセンスなのだろう?

 エレクトロニクスのループにギターを絡めるという構成は『ゲット・ロスト』とほぼ同じで、シンセサイザーはさらに重層的。ギターもカッティング・ワークがメインで、メロディを聴かせるのはラストの1曲ぐらい。もっといえばシンセサイザーはあくまでもギターの脇役だった『リヴィング・ウイズ・ユアセルフ』から適度な拮抗関係へと移行した『ゲット・ロスト』への変化は、きっとガライアスがもたらしたものなのだろう。奔放なギター・サウンドが抑制されている分、『ヤング・ムーン』の方ほうが想像力に導かれている感じがあり、何よりも〈メゴ〉への移籍とともに薄らいでしまったドローン回帰が彼らの意欲を物語る。〈ノット・ノット・ファン〉や〈OESP〉がシンセ-ポップを展開するなど、ドローンがゼロ年代のように創造の戦場ではなくなってしまったことはもはや明白だし、グローイングの物まねにしか聞えないマインド・オーヴァー・ミラーズ『ザ・ヴォイス・ローリング』など、シーンは惨憺たる状況にあると思えるからである(ギター・オンリーのドローンを展開する2枚組CDR『ギター・メディテイションズ2』の、とくにディスク1は傑作だと思うけど)。

 神経症的な電子音の錯綜に導かれる"ダイアル・アウト"がまずはいい。マッガイアのパブリック・イメージを裏切って、とにかく不安を煽りまくる。エメラルズでいえば『ソーラー・ブリッジ』の頃まで戻ってしまった感じか。数え切れない要素の音が縺れあったまま、最後まで混沌とし続ける。部分的にはルー・リード『メタル・マシーン・ミュージック』のハイ・スピード・ヴァージョンにさえ聞えてくる。さらにモーンフルに、あるいはよれよれと曲は続く。"P・K・リッパー"というのは超能力の切り裂き魔という意味だろうか?

 「マーク・マッガイア=ゼロ年代のマニュエル・ゲッチング」という図式はここにはない。イエロー・スワンズやダブル・レオパードとはまさか言わないけれど、強迫的に繰り返されるカッティングや黒雲によって覆い尽くされるようなベースの蠢きは一種の暴力衝動を浮かび上がらせることもある。エッジの立った凶暴性というよりも、彼(ら)の場合は真綿でどうのというあれである。『アメジスト・ウェイヴス』や『ゲット・ロスト』が晴れた日のそれだったとしたら、曇り空をドローンで表現したものといえるだろう。ラ・デュッセルドルフ"シルヴァー・クラウド"をカヴァーして欲しいと思うのは僕だけだろうか。

 また、マッガイアと同じくドローンへの奇妙な執着を見せているのがイクスプレスウェイ・ヨー・ヨー・ダイエッティングことパット・マウアーで、スクリューとドローンを結びつけた展開は、さすがにほかに例を見ない(シュローム『バッド・ヴァイブス』の後半がちょっとそんな感じだった)。潰れたバス・ドラムが延々と連打されるので、ドローンとは言わないだろうと自分でも思いたくなるのだけれど、元はテクノだろうと思われる素材をそれとして機能しなくなるほど変形させ、曲全体の雰囲気はリズムのそれではなく、うなりの持続のように聞かせてしまう。ある種の傑作だった『バブルサグ』ではヒップホップに聞えないヒップホップをこれでもかと聞かせたマウアーがララ・コンチータと組んだダイアモンド・カタログ『マグニファイド・パレット』ではあてどない混沌に不安定な失踪感を与え、破壊のためのサウンドトラックを実現する。80年代のインダストリアル・ミュージックに広く認められた苦悩のメタファーでもなく、90年代の空虚さとも距離があり、ゼロ年代の無手勝流から生まれた「何か」を発展させたものなのだろう。どこかに素直な衝動を感じるためか、茫漠としていながらも聴き終わった後に空しさが残ることはない。位置づけが本当に難しい人だけれど、作品としてはかなりの力作だと思う。カセット・オンリーのレーベルから初のアナログ・リリースだったりするし。

三田 格