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interview with Sharon Van Etten

interview with Sharon Van Etten

彼女のラヴ・ソング

――シャロン・ヴァン・エッテン、インタヴュー

木津 毅    Apr 18,2012 UP

Sharon Van Etten
Tramp

Jagjaguwar/ホステス

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 昨年の個人的なベスト・シングルの1枚がザ・ナショナルの「シンク・ユー・キャン・ウェイト」だったのだが、そこにコーラスで参加していたのがシャロン・ヴァン・エッテンだった。「やってみるよ、でもいまよりマシにはなれないだろう」と繰り返されるコーラスを、中年男個人のぼやきではなく人びとに共有されるものとして表現するために、彼女のあらかじめ憂いを含んだ声が必要だったことはよくわかる。ザ・ナショナルをはじめボン・イヴェールやメガファウンらとギターを抱えて共演するシャロン・ヴァン・エッテンは、現代アメリカの新しいフォーク・ミュージックのネットワークにおけるミューズのような存在になりつつある。
 そのザ・ナショナルのサウンドの要、双子のデスナー兄弟のアーロンがプロデュースしたシャロン・ヴァン・エッテンの新作は、ベイルート、ジュリアナ・バーウィック、ダヴマン、ワイ・オーク、そしてロブ・ムースといったゲスト・ミュージシャンが集まり、その界隈の人脈の充実を示すものとなっているが、それはあくまで、以下のインタヴューで彼女自身が答えているように「私の友だちとアーロンの友だちが混ざり合った結果」である。
 そして何より、そんな自分のことを「放浪者」と冗談めかして呼ぶシャロン自身の声が中心にある作品で、これまでの作品よりも歌のエモーションの幅が演奏のスケールと共に広がっている。ギターの音色が多彩になっているのはアーロンの手腕だろう。その抑制が効いたフォーク・ロックに乗せて、シャロンはときに唇を噛み締めるように、ときに諦めたように、あるいは慈愛をもって、女と男の感情のすれ違いや重なりを歌う。彼女の歌にはどこか恋愛の嘆きの段階を終えてしまったような柔らかい時間があって、そこでは恋の憂鬱が緩やかに受容されていく。それは、彼女の声が悲しみを纏いながらも、愛を求めることをやめないからだろう。

「私の手を取って 震えないでいられるようにして/きみは大丈夫だよって言って」 "ウィ・アー・ファイン"  
 僕はシャロンの演奏を奈良の小さなカフェで観たことがある。「鹿が可愛かった」というシャロンは、ジーンズのよく似合うボーイッシュな佇まいのキュートな女の子だった。が、足を組んでアコースティック・ギターを鳴らし、ひとたび歌いはじめると、空間はひとりの女性が持つ複雑な感情の揺らぎでゆっくりと満たされていった。そんなシャロン・ヴァン・エッテンの声が、これからさらに広い場所に響こうとしている。

ザ・ナショナルのファンだったのよ。彼らに最初に連絡を取ったときは、すごく緊張した。でも、カヴァーしてくれるぐらいなら、きっと私の音楽も気に入ってくれているんだろうと思って、勇気を出して連絡したのよ(笑)。

『トランプ』はインナースリーヴにアーロン・デスナーとあなたのふたりの写真があるように、あなたとアーロンのふたりが中心となって作った作品です。あなたが前作『エピック』のあとで彼と知り合って、プロデュースを依頼する決め手となったのはどういったポイントだったのでしょうか?

シャロン:アーロンと個人的に知り合うようになったきっかけは、友だちとツアーをしていてモントリオールにいたときのことなの。ある朝起こされてヴィデオを見せられたんだけど、それはアーロンたちがオハイオのミュージック・フェスで、私の曲、"ラヴ・モア"をカヴァーしているものだった。彼らが毎年やっているフェスだった。そのフェスのテーマは「コラボレーション」で、みんながほかのみんなのセットに参加してプレイしていたんだけど、そのなかで私の曲をカヴァーしてくれてたのよ。それで友だちが、彼らにコンタクトしてみるように勧めてくれて、そのとき作っていたセカンド・アルバムでプレイしてくれないかってお願いしてみたんだけど、アーロンたちもそのときちょうどレコーディング中で忙しくて、私のアルバムには参加してもらうことができなかった。
 でも、アーロンと私はその後も連絡を取り続けて、アーロンが「デモを録りたいときは、いつでも力になるよ」って言ってくれたから、できるときにちょっとずついっしょにデモを作るようになったの。そんななかでいろんな自分たちの考えを話し合ったり、好きな音楽について語り合ったりしながら仲良くなって、ある日デモが20曲ぐらいになったとき、アーロンが、「デモはもう十分なんじゃない? レコードを作ろうよ」って言ったのよ(笑)。だから1年ぐらいメール交換したり、会って話したり、デモを作ったりしながら、自然にレコードを作ろうって流れになっていったの。

彼らがあなたの曲をカヴァーしたって聞く前から、彼らの音楽は知っていましたか? どう思っていましたか?

シャロン:うん、前からザ・ナショナルの音楽は知っていたし、実際彼らのファンだったのよ。だから、彼らに最初に連絡を取ったときは、すごく緊張した。でも、カヴァーしてくれるぐらいなら、きっと私の音楽も気に入ってくれているんだろうと思って、勇気を出して連絡したのよ(笑)。

あなたの目から見て、アーロンのプロデュースはどういったものでしたか? 具体的に特に印象的だったことはありますか?

シャロン:彼との作業は、すごく快適なものだったわ。最初はちょっと緊張していたけどね。でも、何か新しい仕事をはじめるときって、そういう感じじゃない? 慣れて、どうやったらいちばん良いかってわかるまでに、ちょっと時間がかかる。でも、1回慣れたらすごく落ち着いて、快適に作業ができたわ。彼とは、なんていうか、いっしょにグルーヴをうまく捕まえられるって感じがした。彼の作業の仕方は、私がこれまでやってきたものとは、まったく違ったけどね。私はこれまで、余計なものはまったく入れないで、一直線にレコーディングをするようなやり方をしてきた。でも、彼はできるだけいろんな可能性を最初に全部取り込んで、そこからいらないものを排除していく。私のやり方とは真逆だった。でも面白かったわ。ジェンガって知ってる? まるでジェンガみたいだと思った。何本ピースを取ったら、全体が崩れちゃうかっていうような。積み上げて、そこから崩れるぎりぎりまでピースを外していくっていうか(笑)。

このアルバムにはたくさんのミュージシャンによるたくさんの楽器の演奏がありますし、非常にアレンジのスケールが増しています。

シャロン:作っているなかで、今回はたくさん友だちに参加してもらおうと思ってはいたのよ。でも、誰がいつレコーディングに来られるかはわからなかった。しっかりとしたスケジュールを組んで、他のミュージシャンの予定を押さえてとか、そういうやり方をしたわけじゃないから。ここで1週間、またこの時期に2週間、誰かこのタイミングで来られる? みたいなやり方だったの。参加してくれたメンバーは、私の友だちとアーロンの友だちが交ざり合った結果だけど、すごく計算してこういう形になったわけではなかったわ。

これまでの作品と、制作のプロセスでもっとも違う部分はどういったところでしたか?

シャロン:私自身にとって大変だったのは、他の人に、私が求めている音は具体的にこういう音なんだって、言葉にして伝える方法を学ぶことだった。音を言葉で説明することが、あまり上手じゃなかったのよ(笑)。実際、アーロンが私の通訳になって、他の人に私が求めている音を説明してくれたりもしたわ(笑)。私にはどうやって伝えたらいいのかが、わからなかった。それは私にとって、新しい挑戦だったと思う。誰かが参加してくれた場合、その人が曲に自由にアイディアを持ち込んでくれることは素晴らしいと思うけど、時には私自身がどういう方向性で作品を作り上げようとしているのかってことを、伝えなきゃいけない必要もあった。今回作業したことで、そういうコミュニケーションの仕方が前よりは上手になったって思うわ(笑)。

本作のたくさんのゲスト・ミュージシャンのなかではジュリアナ・バーウィックの参加が意外だったのですが、彼女とはどういった経緯で知り合ったのですか?

シャロン:彼女は大好きよ。もともと、彼女の音楽がすごく好きだったの。ファンだった。去年いっしょにツアーもしたんだけど、いっしょにいてすごく楽しいし、面白くて思いやりがあって、とても美しい音楽も作る、最高の人よ! それで、アルバムに参加してくれないか頼んだら、もちろん!って。すごく嬉しかった。

取材:木津 毅 (2012年4月18日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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