Home > Interviews > interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman - 2013年ミックスCDの旅
MOODMAN Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN tearbridge |
年齢を重ねてみて、わかることのひとつに、新しいモノってあまりないということがある。25歳の頃は「新しい」と思っていた音楽も、それより以前に似たものがあることや、いま「新しい」と思われがちなことも、すでに似たものがあることがわかる。そういう意味で、「リヴァイヴァル」という言い方はフェアでない。それは時代のモードの説明のひとつに過ぎない。
新しければ良いというものではない。そういうスリルは、ときにたしかに目を眩ませるが、同時に疲れることでもある。逆に、新しくないモノが人の心を奪うこともある。それは、よく磨かれていることを意味する。
ムードマンのミックスCD『SF』は1996年の曲ではじまり、1994年に繋がれるが、それ以外の29曲は、ほとんどがこの3年に発表された曲。その多くがダブステップ系だ。しかし『SF』は、大雑把に言えば、僕にはテクノのミックスCDに聴こえる。美しいアンビエントと温かいソウル、多少の遊び心の入ったリズミックで、柔らかいテクノの連続体......。
僕がこのミックスCDを好きなのは言うまでもないところではあるが、年季の入った耳が選んだ31曲を使ったミキシングを、機会あらば、25歳の君にも聴いて欲しい。
ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。
■選曲はすぐ決まった?
ムードマン:選曲自体は、わりと早かった方かな?
■1曲目も? 最後の曲も?
ムードマン:まず、ばーっと曲を出して、曲順とかつなぎ方は組んでいく作業のなかで決めていきましたね。そこは悩みましたけど(笑)。
■あー、そうか。
ムードマン:1曲目(ジョン・ベルトランの1996年の曲)は、もともと別のアプローチで使うことを考えていたんだけど、やっていくうちに「ここかな」という。
■1曲目がジョン・ベルトランで、2曲目がステファン・ロバーズでしょう。1990年代初頭のテクノで、ムードマンの原点なんだけど、31曲の収録曲のほとんどがここ3年ぐらいに出た曲なんだよね。
ムードマン:ですね。今回、作っているうちに大きくふたつのテーマが、ぼんやりと浮かび上がってきたんです。まずは最近、90年代初頭にインテリジェント・テクノの系譜で活動していたオリジネーターたちの動きがまた活発なんですよね。
■カーク・ディジョージオの曲も入っているよね?
ムードマン:カーク・ディジョージオこそ、その代表かもしれないんですが、自身のレーベルを含めてここにきてまたすごく精力的に動いている。BPM130前後の、実にいい湯加減のピュアテクノを頻発しています。ここ2~3年、あまり語られていないかもしれないけど、ものすごい曲の量と質なんですよね。ステファン・ロバーズもそう。原点回帰という意味でも、そのあたりの動きが面白いと思っていた、これがまずひとつあった。あともうひとつは、ここ数年のダブステップの感じを眺めていて、当時のインテリジェント・テクノに近い拡散のベクトルを感じていたんです。
■本当にそうだよね。
ムードマン:当時は大きくレイヴ・カルチャーというのがあって、そこへのアンチまでとは言わないけど、それを異化する形で生まれたアート・フォームがインテリジェント・テクノだったと考えてみると、ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。単純に、BPMもいろいろなことになっていますよね。GPRとか、irdialとかの雰囲気を思い出したりしながら追っかけてました。これがもうひとつの思いで。いろいろ他にも考えたんですけど、今回は、基本的にはそのふたつの気分を結びつけるような選曲でできないかなと。
■だとしたら、その意図はパーフェクトに伝わる内容になっていると思うよ。
ムードマン:曲の流れで言うと、新しいものからはじめて古いものに落とす方がその気分は伝わるのか、逆の方がいいのかとか。オリジネイターの作品をもっと入れたらどう聞こえるかとか......構成は50パターンぐらい作ったんだけど(笑)、最終的にはわりと素直にジョン・ベルトランから......というのがしっくり来るかなと。彼とはずいぶん前に一度だけ一緒にDJをさせてもらったことがあるんですが、そのとき、とても喜んでくれて、すごく自分的には支えになったんで(笑)。感謝もこめて1曲目に(笑)。
■ジョン・ベルトランの久しぶりに新作出すんだけど、スゲー良かったし。ところで、31曲も入っているのが驚いたんだけど(笑)。ムードマンにしては詰め込んだなと思って。で、20曲目前後、10曲目台の後半からダブステップ系の曲が続くんだけど、トラックリストを見なければ、ダブステップって気がつかないもん。
ムードマン:「気がつかれないこと」は目指した要素の重要なひとつです、とか言ってみたりして(笑)。
■ほぉ。
ムードマン:カットが早いのは、ここ10年ぐらい僕はデータを意識的に使っていて、もちろんいまでもアナログ盤もいまでもかけるんですけど、データを使う時に限っては、僕の身体感覚では、曲がより素材っぽく感じるというか。いわゆるバトルDJのカットイン/カットアウトとは性質がことなるクイックさというか。ミニマルをかけるときもそうなんですけど、データを使うようになってから素材として音源を使うことの楽しみを知ってしまったというか。この感覚を記録しておきたくて、過去2作のミックスCDはアナログ盤を使ってやってるんだけど、今回はあえてCDJを使ってデータのみでやってみたんです。過渡期のデータでの遊び方みたいなものを残しておこうかと。
■だいたい3分弱で、短いと1分も使ってないものね。
ムードマン:そこは強弱を付けてやったかな。長く使うものと短く使うやつと。曲によっては、バッサリとキーフレーズを抜いてますよ。
■今回はすべてデータなんだね。
ムードマン:今回はそう。
■俺は、いまだにムードマンというと、どうしてもアナログ盤というイメージが払拭しきれないからな(笑)。ヴァイナル・ジャンキーじゃない。
ムードマン:そこからは抜けられないですね。約10年前にデータと両刀になったんですけど、いまでもヴァイナルは......(笑)。
■買ってるでしょう!
ムードマン:ですね。ただ、僕の世代だとやっぱりアナログにこだわる人が多いんですけど、過渡期ではあるけど、データもまたかわいいんですよ。
■ヴァイナルで買ったものは、CDRとかに落としているの?
ムードマン:ヴァイナルはヴァイナルでプレイしますね。ヴァイナルをデータ化するときは、自分でマスタリング的なこともするけど、今回の収録曲はすべてデータで手にいれたものですよ。レアな音源かどうかよりも、かけ方の提案がしたかったということも大きいんです。他ジャンルをと思われる音源を、ディープ・ハウスとしてかける。
■20年前とかさ、土曜日日曜日によく渋谷で会ったよね。ムードマンは決まって両腕で買ったばかりの大量のレコードを抱えていてさ、持ちきれないからタクシーで帰るわとか言って(笑)。
ムードマン:あの頃は、100円レコード棚の主でしたね。ヴァイナルの救出が自分の使命だと思っていた(笑)。まぁ、そこはいまでも変わらないですかね。最近、いい喫茶店が減ってるでしょ。なので、街中で時間が空いても、他に行くところも無いので、レコード店にいくしかないんですよ。まぁ、あとは居酒屋ぐらいかな、居場所は(笑)。以前に比べてプラスされたのは、通販ですよね。毎日、10枚から20枚のレコードが届く始末で......(笑)。
■狂ってるねー(笑)。
ムードマン:いやぁ......(笑)。
■レコード屋さんはものすごく重要だし、レコード屋さんがある街に住みながらアマゾンでしか買ってないヤツはわかってないと思うのね。レコード屋さんは、まず情報が整理されているでしょう。お店のセンスもあって、面だしできる枚数も限られているから、選びやすいというのがあるじゃない。
ムードマン:日本にはいいセレクト・ショップがたくさんありますからね。
■そう、セレクト・ショップなのよ。しかも親切なレコード屋さんだと自分が持っている情報を分け与えてくれるからさ、「こういうのもあるよ」って教えてくれて、自分が知らなかった音も知ることができるじゃない。それはアマゾンにはできないからさ。だから、逆にデータで音源を探すのって......。
ムードマン:そう、難しい。
■難しいよね。
ムードマン:しかもぜんぶよく聴こえるし。
■そうなの?
ムードマン:それはそれでけっこうサヴァイヴァルで、逆に言えば、面白いんですよ。
■今回のムードマンのミックスCDで初めて知った曲がかなり多いんだけど、たとえば、20何曲目かな(笑)、〈スモーキン・セッションズ〉っていうレーベルの曲で、ハーフステップになる曲があるじゃない?
ムードマン:はいはい、ジャズっぽくなる展開のね。
■そう、あれとか、「良いナー」って思ったんだけど、どうやって探すのよ?
ムードマン:もうね、試聴につぐ試聴ですよ。
■おー。
ムードマン:ひとり「良いナー」と思ったら、ずっとそこを追いかける。もうどんどん追いかけるっていう。
■プロデューサーを?
ムードマン:プロデューサーでも、レーベルでも、そのまわりをぜんぶ聴く。今って、ぜんぶ聴ける状態にあるから、それをぜんぶ視聴する。むしろ、テキストはほとんど読まないんです、すみません(笑)。
■はははは。
ムードマン:はははは。いまって、恵まれてますよ。視聴できるんだから。
■寝る時間がないね。
ムードマン:ないない(笑)。嘘、寝てますよ。でも、レコードと同じですよ、掘り方は。僕はセレクト・ショップも好きだけど、値段均一のお店のえさ箱も好きなんですよね。誰かのお薦めももちろんいいんですけど、僕は誰も薦めていないものに愛しさと切なさと心強さを感じるんです(笑)。よくわからないものを買うって、自己が崩壊するいいチャンスなんですよ。
■なるほど。
ムードマン:メディアのあり方としては、いま、過渡期だとは思うんですが、自分としてはアナログでいま掘りたいモノと、データで掘りたいものとがそれぞれ明確にあるんですよ、わりと。ただ、それを日々続けてるっていう(苦笑)。
■(笑)。
ムードマン:今回入っている曲でもアナログで出ているのも多いし、まぁ、どっちで手に入れようかなっていうのは迷いますよね。でも、いまって早く買わないとなくなっちゃうでしょ。そこに参加するよりは、単純にもっと多くの曲を聴きたいだけなんですよ。
■あー、なるほどね。
ムードマン:例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。
■それはいい喩えだね。
ムードマン:俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。
■しかし、伊能忠敬としてデジタルの世界を歩くのって、相当な根気がいるんじゃない?
ムードマン:そこまでたいへんではないけど(笑)、まず、周辺というか、ヘリがわからないんですね。どこが崖だか分からない。
■それはそうだよね。
ムードマン:ヴァイナルは100年ちょいの歴史ですが、もう掘り尽くせないくらいの量があるでしょ。2010年頃には地球上のアナログって、すべてアーカイブ化されちゃうかなぁと妄想していたんですが、ダメでしたね(笑)。まだまだ深い森のような感じですよね。しかも、新しい音楽はどんどん出てきている。狂いそうです(笑)。
■でも、いまほど情報が氾濫している時代もないというか、ホントに情報過多じゃない。情報サイトとか見ると、誰がこれだけの情報を消化するんだよって感じで更新されるでしょ。そういうカオスのなかで、情報をセレクトするのって重要だよね。いかに削除していくかっていうか。
ムードマン:それはひとつコツがあって、ほとんどの情報がコピペなんですよ。だから、コピペをまず無視すること。日々発信されている情報は、誰かのコピペばかりで、オリジナルに当たっていないですよ。はっと気づくと、コピペに洗脳されてる自分がいませんか、と。
■リツイートの文化だよね。
ムードマン:リツイートはまだ誰が拡散したか主体が見えるけど、ニュースとか、評論とかが、コピペの場合も多いですからね。デジタルの世のなかになって、意外と感覚が閉じたかなとしばしば思うのは、そういうことです。コピペが大きな障壁になっていると思う。コピペ、コピペって、何度も口にするとなんだがかわいいですが(笑)。まぁ、でも、そこのたかを外しちゃえば面白い世界が広がっているのでは(笑)。
取材:小野田雄、松村正人、野田 努(2013年4月10日)