Home > Interviews > interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman - 2013年ミックスCDの旅
世界の別天地
グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。
Shhhhh Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX tearbridge |
■今回幕開けは〈Sublime Frequencies〉の音源ですが、これはアラン・ビッショップのやっていることに敬意を表したということですか?
Shhhhh:これには裏話があって、タンザニアのすごい声ネタのトラックがあって、じつはそれをオープニングにしようと思っていたんです。
■それはどこから出ているの?
Shhhhh:現地ものでエル・スールの原田(尊志)さんが仕入れてきて、これはすごいと(一部で)話題になった曲です。大人数の合唱曲なんですけど、これが頭だったら、僕が最近やっているワールド・フォーク・セットをパッケージングできるだろうというきっかけの曲だったんですよ。それがライセンスできなかった(笑)。このCDをつくるにあたって、最初にあげていた曲だったので、あれがダメなんですよ、といわれて、エーッって(笑)。
■レーベルはどこなんですか?
Shhhhh:現地のレーベルで、連絡先はgmail。いま考えると、よくそんなところからライセンスしようとしたとも思うんですが、でもやっぱり途方に暮れて、声ネタのオープニング曲を探していたら、これ(Borana Tribe"Borana Singing Wells")にたどりついたんです。これなら最初にもいいし、中盤のヴォーカル曲のパートが生きてくるかな、と。で、〈Sublime Frequencies〉からは半日くらいで返事もらえたんですね。フランスのレーベルはダメだったけど。それで、結局オレはオルタナっ子なんだと思いました(笑)。カット・ハンズと〈Fonal Record〉も返事すごく早かったですもん(笑)。安心とも諦めともつかない宿命を感じました(笑)。オチがついたというか。制作中それで一回楽になりました。
■オルタナティヴとしてのワールドミュージックといことではウォーマッド(WOMAD)的な見本市としての提示方法もあれば、ロス・アプソンの山辺(圭司)さんみたいなプレゼンテーションもあって、Shhhhhくんはその最新型だと思うんですよ。
Shhhhh:ロス・アプソンでルーベン・ラダとエドゥワルド・マテオのCDを「お尻から声が出てる」といって紹介しているのを知ったらウルグアイのひとは怒るかもしれないですけど(笑)、愛があり、誠実に解釈すればいいんだというのは山辺さんから学んだことかもしれないですね。
■「辺境」という形容にも逆説的な価値観がかいまみえますから。
Shhhhh:でも僕はマージナルというよりはもうちょっとわかりやすいポップなものを今回はやりかったですね。
■それこそバランスだ、と。
Shhhhh:山辺さんとか虹釜(太郎)さんの探求は横目で見つつも、わりとふうつに買える12インチを入れるというのも、バランスですよね。
■すでに知っている曲、それこそシャックルトンであっても、Shhhhhくんのつくる流れのなかで聴くとまた違う顔つきになると思いましたよ。
Shhhhh:それがDJの役割じゃないかと思います。だから今回のCDはDJの作品だとすごく思いますね。コンパイラーとしてではなく。
■今回ほかに使いたくて使えなかった曲はありますか?
Shhhhh:ニューカレドニアの音楽ですかね。〈POWWOW〉が終わった後、CMTの家ではじめて聴いたんですが、これ山辺さんの葬式で流れていたらヤバイね、って話になって、なぜか葬式という言葉がCMTの口から出てきたんですよ。
■湿っぽい曲なの?
Shhhhh:そんな感じじゃないですよ。ゴスペルっぽい、とはいえ、ゴスペルじゃなくて、昇華していく感じもあり、海の感じもあるというか、しかも美しいんですよ。カナック族の音楽らしんですが、ジャンルとして存在しているかはわかりません。それもライセンスしようと思ったんですけど、連絡がつかず(笑)。そのかわりといってはなんですが、スヴェン・カシレックさんの曲を最後に入れられたからよかったですけどね。スヴェンさんはハンブルグのひとで、ケニアのヴォーカリストとエレクトロニカみたいなトラックをつくっているんですよね。結局現地ものじゃなくて、クラブよりの音楽ですね。このひとも返事早かったです(笑)。
■アルゼンチン音響派にしろ、伝統的なものをワンクッション置いてアレンジした音楽に、Shhhhhくんは惹かれるところがあるのかな?
Shhhhh:音楽のうしろにある「フォーク」を考えるのが楽しいんです。90年代にレゲエ/ダブってわりと紹介されていたじゃないですか? それはUKからだと思うんです。それと同じで、2000年代に入って、イギリスの〈Soundway〉がコロンビアのコンピを出したのが僕にとっては大きかったんですよ。レゲエを聴いていたひとでもクンビアに流れたひとは多かっただろうし、それはすごくおもしろかった。僕と山辺さんが大好きなチーチャっていうペルーのサーフ・ギター・クンビアみたいな音楽があって、そのコンピもニューヨークから出ていました。2006〜2007年は全体的にラテンものの再発が多くではじめたんです。ニューヨークやイギリスのレーベルが最初だったりするんですが。でも不思議なことにそれはコロンビアとかアフロ・ペルーの音楽のコンピはあるんですけど、白人をコンパイルしたものはなかったんです。『ウニコリスモ』はアルゼンチンの白人の音楽中心ですが、あのミックスCDをつくる前はそんなことも考えていました。アフロ・ラテンのコンピはいっぱいあっても、アルゼンチンの音楽、たとえば(アタウアルパ・)ユパンキなんかは「ど」のつくフォルクローレですが、そういう音楽をまとめたものはないと思ったんですよね。
■ユパンキはよく知られているんじゃない?
Shhhhh:でもクラブ/レア・グルーブ的解釈ではけっしてないじゃないですか? だからブエノスアイレスって僕にとってのポコッと残された場所だった、というのはいま思えばありますね。〈Honest Jons〉とかでもトラディショナルなアルゼンチンものって1作も出していないんじゃないですかね。〈Soundway〉などの再発ものであまりないんですよね。
■いわれてみればそうかもしれないね。
Shhhhh:あとアルゼンチンは黒くないんですよ。南のほうだとカンドンベが出てきて、マテオみたいになるんですが。
■黒っぽさ、白っぽさは気にするほうなの?
Shhhhh:後づけですけどね。
■聴く前にそれで選ぶことは?
Shhhhh:ないです。でも僕は白いほうが合っているかなとは思いますね。
■Shhhhhくんの軽快さはリズムを溜める方向ではないからね。
Shhhhh:そうかもしれないですね。たとえば黒人のテクノ、デトロイト・テクノを僕はいっさい通っていないんですよ。それよりも、四つ打ちならトランス、あるいはハウスやディスコ・ダブなんですね。ヒップホップなんかも好きでしたけど、トライブでしたから。
■トライブは黒さはあまりないですね。
Shhhhh:そうですね。フリージャズはすごく聴いていましたけど、それも黒さというよりはドン・チェリーのあの感じでしたから。
■アイラーとかコルトレーンではなくてね。
Shhhhh:もっとインターナショナルものですよね。
■『ブラウン・ライス』みたいな?
Shhhhh:どちかといえば『Mu』のファースト・パートですね。『Mu』のファーストに針を落としたときの衝撃は忘れられないです。知らない国のお祭りというか、それこそ、カット・ハンズ"Black Mamba"と同じようなショックを受けました。これをジャズっていっていいの?! と思いつつ、やっぱりジャズだな、と。何かしらフォークな要素に惹かれるはそのときからあったんでしょうね。あとあれが好きでした、〈off note〉。ご存じですか?
■もちろん知っていますよ。
Shhhhh:大好きなんですよ。コンポステラとか、聴きまくっていました。
■コンポステラはボアダムスと並んで日本の90年代を代表するグループだと思いますよ。
Shhhhh:それは僕と同じですね(笑)。トランスのパーティとか、若いからタイパン(タイパンツ)履いて行くじゃないですか? その次の日は寝ないで吉祥寺曼荼羅の篠田昌已13回忌のライヴに行ったこともあります。あれは西東京のフォークじゃないですか(笑)。篠田さんのチンドンの要素と、あとはクレツマーですよね。じつはアルゼンチンってユダヤ移民が多くてクレツマーが盛んなんですよ。ルーツをたどるとユダヤ系の名前が多いんですよね。『ウニコリスモ』のときも、クラリネットの感じがコンポステラを思いだすな、と思ったこともありますから。それでアルゼンチンの音楽に入りやすかったというのはあります。そう考えると全部つながっている気がしますね。
■音楽のある要素を聴きとって拡大する耳がShhhhhくんはある気がしますね。つなげていくというかつながっていくというか。いまの世の中では、どんな音楽にもたどりつけるけど、情報がありすぎることでさらにその先に踏みだそうとすると迷っちゃったりするじゃない?
Shhhhh:文脈だったり妄想の映像だったり国籍だったり、そういうものは重要だと思います。この前、つなげるとき、どういうことを考えているんですかってお客さんに訊かれたんですけど、単に自分のなかの文脈を勝手につくっているんですよ、とそのときは答えたんですけどね。DJはみんなそうだと思いますよって。
■じゃあDJするときは何に一番留意するの?
Shhhhh:DJのときは低音とグルーヴをキープしないと場が成り立たないというのはあります。抽象的なコラージュもやりたいと思うんですけど、結局酒場というかひとが集まるとみんながみんな、そんな音を求めているわけではないので、普遍的なグルーヴは必要だというところに、何度も戻りますもん。最大公約数が四つ打ち、イーヴン・キックなのかそうじゃないのかというのもすごく考えていて、この前もEYEさんとそういう話になって、人類のダンス・ミュージックの最大公約数は四つ打ちじゃないか、とEYEさんはそのときいっていて、『エル・フォルクローレ・パラドックス』では自分なりの解釈を提示したつもりです。四つ打ちじゃなくても普遍的なビートを出す、誰にもわかるものをやろうと思いました。(了)
取材:松村正人
取材:小野田雄、松村正人、野田 努(2013年4月10日)