Home > Interviews > interview with Wild Beasts - 野獣派ポップの色彩
ワイルド・ビースツ。UKはケンダル出身の4人組。現体制ではや8年にも及ぶ活動をつづけている彼らは、ポップ・シーンの異端として各メディアからの称賛を得た『リンボ・パント』(2008年)以降、翌年の『トゥー・ダンサーズ』のマーキュリープライズへのノミネートなどを経て、『スマザー』(2011年)でその人気と評価を揺るがぬものにしたかに見える。
Wild Beasts - Present Tense Domino / Hostess |
その後の初のリリースとなる新作『プレゼント・テンス』について、「彼らの確信がその野心に見合うものになった」と評していたのは『ガーディアン』誌だ。同誌の『トゥー・ダンサーズ』(2009年)のレヴューは「近年ヘイデン(・ソープ ※本バンドのメインのヴォーカル)ほどの驚きをもたらしたロック・ヴォーカリストは他に思いつかない」という文章からはじまっているが、それは、当初彼らがシーンに対して投げかけた「驚き」が、少なからず奇異の感やとまどいぶくみのものだったことを思い出させ、同時に、いつしかそれが堂々たる称賛へと変化していたことを実感させる。気に障るあいつは、気になるあいつになり、オンリー・ワンな存在へと変わった──「野心と確信が見合うようになった」というのは、そういうことだろう。
何が気になるのか、それは彼らの音楽、そしてヴォーカルを耳にしたことのある人ならすぐにわかるはずだ。デヴィッド・バーンやクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーのアレック・オウンスワース、あるいはモリッシーを思い浮かべもする。ヘイデン・ソープのヴォーカリゼーションはスノッブで演劇的だと評されることもあるが、起伏が大きく、耳馴染みのよいとはいえないそれはしかし非常に精神的であり、ポップスというひとつの予定調和性との間に摩擦を起こす。そして、その摩擦そのものがひりひりと音楽を高める──その点、オート・ヌ・ヴのアーサー・エイシンとは、性格は異なれど、性的なモチーフへの強いこだわりや、R&Bを意識する点においてより共通性があるかもしれない。ブラック・ユーモアやエグみのある題材は、トラッドな音楽フォームに彼ら一流の解釈と屈折を加えた楽曲と相俟って、誰も真似のできないかたちをなし、近年作においてはエレクトロニックな方法や発想と結びつきながら洗練の度合いを深めてきた。なんというか、彼らの音楽はけっして「ミュータント」なのではなく、知性と確信とが磨き上げた不屈の皮肉であり批評でありパフォーマンスなのだ。そんなものが堂々とすぐれたポップスとして受け入れられ、称賛を浴びていることがとても心強い。
インタヴューにはそのヘイデンの歌に穏やかな対照を与え、彼らの音楽性を一層深めているもうひとりのヴォーカル、トム・フレミングが応じてくれた。
■ワイルド・ビースツ(Wild Beasts)
英ケンダル出身のヘイデン・ソープ (V/G)、ベン・リトル (G)、トム・フレミング (V/B)、クリス・タルボルト (Dr)の4人組ロックバンド。08年のアルバム・デビューから現在までに3枚のアルバムを発表。09年、2作目『トゥー・ダンサーズ』が英国最高峰音楽賞マーキュリープライズにノミネート。11年3作目『スマザー』が全英17位を獲得。世界中で賞賛を受け、数々の年間ベストアルバムに選出された。14年、ニュー・アルバム『プレゼント・テンス』をリリース。さまざまなメディアが大絶賛し、全英チャートトップ10入りを記録した。
性っていうのは見れば見るほどわかってくるものなんだ。
■“ワンダーラスト”などの性的なモチーフは、あなた方の音楽全体にも重要なインパクトを与えていると思いますが、あなたがたの音楽自体は必ずしも肉体的ではなく、むしろ精神性が勝っているように感じます。ワイルド・ビースツにとってのセクシュアリティとはどのようなものなのでしょうか?
トム:性には間違いなく興味を持っているね。君が言うように、精神性や人間性を性から完璧にかけ離そうとはしていない。その方がいろんな意味でおもしろいと思うんだよね、そうだろ? 音楽はまず体で感じるものだし、イギリス人のミュージシャンはそこまでそれが得意じゃないんだよね。性っていうのは見れば見るほどわかってくるものなんだ。
■たとえば、音楽のフォームとして、R&Bは意識されていますか?
トム:R&Bは間違いなくよく聴くジャンルだよ。音を一つ一つどう繋げていくか、ちょっと外れている音をどう音楽に取り入れているか、ヴォーカルがどう鳴り響いているか、外れているリズムの技なんかに興味があるんだ。意識しているからなのかはわからないけど、雨がよく降る小さな島に住む子どもたちが動き回れるように、スペースを作り出しているようなイメージが湧くんだよね。4つ打ちのロック・ミュージックよりはしっくりくるんだと思う。
■曲は歌のメロディから先に発想されるのですか?
トム:曲によるね。最初にリリックかタイトルが浮かびあがってきて、それをもとに曲の中心となるアイディアが生まれるんだ。そこからどんどん音楽ができあがっていく感じだね。まとめると、普段メロディがいちばん最後に作り上げられるんだ。
■歌がとても強く繊細で、多くの曲はリニアにかたちづくられているように思います。そんななかで”ワンダーラスト”の吃音のようなタイム感やビートが必要だったのはなぜでしょうか。
トム:とてもシンプルなリズムだよ。だけど4/4のはずが3/4が聞こえるから何かが「抜けている」ように感じて、リズムに落ち着きがないように感じるんだよね。僕たちの音楽においてはドラムがいちばん大事な要素だと思ってる。4/4とか8/8よりは3/4、6/8に当てはまるんだ。フォーク・ミュージックの影響を受けてるんじゃないかな。
■音楽を媒介するSNSなどの普及によって、音楽はより身近なところで完結的・効率的に流通するようになり、もはやポップ・ミュージックが人々の思いや時代の気分といった大きなサイズの共同性を代弁する必要がなくなったように見えます。あなたがこれまで受けたポップ・ミュージックからの恩恵について、教えてもらえますか?
トム:そうだね、いまはどこでも何でも手に入るからね。情報で溢れているんだ。それに対して興味深いレスポンスがさまざまな楽曲の制作。教会・クラシカルなバックグラウンドを持った幼い僕と、いま僕が作っている音楽との架け橋はポップ・ミュージックだったんだ。ボーイズ・II・メンやハダウェイを長波ラジオで聴くのが僕の音楽の学業において大きな役割を果たしたんだ。小さい頃はそれのありがたみに気づけてなかったけどね。
■そんななかで、あなたがたは依然として「大きな」ポップ・ミュージックを引き受け、牽引する存在であるように思います。シーンにおいて、あるいは広くアートの営みの上において、自分たちの役割を意識することはありますか?
トム:そんなにいろいろ考えてたら気がおかしくなると思うよ。何よりも大事なのはとにかく打ちこむこと。おもしろみのあるものを作り出すこと。素直でいること。もちろん観客はほしいし、必要ではあるけど、誰も作れない音楽を作り出さなくちゃいけないんだ。そうするためのいちばんの手段は机に向かってひたすら打ち込むこと。僕たちの役割は何かを言う権限を持つことなんだ。だから、いわば、僕たちが言ったりアクションを起こさない限り起きないことを実現させることかな。
■イギリスにはザ・スミスという素晴らしいバンドが存在しましたが、あなた方からは彼らがどのように見えますか?
トム:正直なところ、僕たち結成当初、ザ・スミスに多大なる影響を受けたんだ。彼らがいっしょに演奏するさま、マーティン・カーシーのブリティッシュ・フォークのギター・スタイルを取り入れるジョニー・マー、モリッシーの歌詞の組み方、北のブラック・ユーモア……全部健在なんだ。
■イギリスの音楽の歴史を考えるときに、もっとも意識するのはどんなアーティストですか?
トム:とにかくたくさんいるよ。パイオニアであることを第一として考えるけど、スロッビング・グリッスル、エイフェックス・ツイン、ペンタングル、レッド・ツェッペリン。一日中話していられるよ。
■では、アメリカのバンドやイギリス以外のミュージシャンで意識する人たちはいますか?
トム:数え切れないほどいるよ。その中から名前を挙げるとすればディーズ・ニュー・ピューリタンズ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ザ・ナショナル、ジ・アントラーズ、フォールズ、スワンズ……。
質問:橋元優歩 翻訳:鈴木未来(2014年4月25日)
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