Home > Interviews > interview with Yoshida Yohei group - 光が差してきた
自分が思っているミクロな問題は生活環境が変わっても解決しないし、大きい話でも、PM2.5や異常気象は都市レベルで環境が改善されても避けられない。それでも都市が開発されて、そのなかには幸せなひとや不幸なひとがいっぱいいる。 (吉田ヨウヘイ)
吉田ヨウヘイgroup Smart Citizen Pヴァイン |
■『Smart Citizen』はヴォーカルとコーラス、アレンジ、ギターのリフレインのつくり方などもおもしろかったです。
西田:“ブールヴァード”ですか?
■“ブールヴァード”もそうですし“新世界”も。あとファゴットとフルートとサックスなどの管の使い方もおもしろかったです。アレンジの主導権は吉田さんですか?
吉田:“アワーミュージック”の管楽器のパートをフルートの子がつくったりだとか、いくつかメンバーに託したところもありますが、基本的に9割方、僕が考えています。
■ホーンも含め譜面を書くんですか?
吉田:打ち込んでそれを譜面にして渡します。
■弦楽器の編曲も吉田さん?
吉田:はい。
■ギター・リフのアイデアも西田さんではなく吉田さんですか?
西田:ファーストの『From Now On』のほうが自分のアレンジが多かったです。今回もアレンジしているところもありますが、ギターのリフレインを考えたのは全部吉田です。
吉田:たとえば“新世界”だと、60年代のジャズのレコードでヴィヴラフォンを早弾きしているのがあって、これをエレキでやるとおもしろいんじゃないかと、西田くんに聴かせました。こういうのつくるよって。
■ある曲を聴いて気に入ったフレーズを管なりギターなりに置き換えることはよくありますか?
吉田:ファーストの曲で、ダーティ・プロジェクターズの曲でベースの裏打ちが恰好いいなと思う曲を、ハイハットの裏打ちに応用したりしたことはありますね。全部ではないけどわりとあるかもしれません。
■1曲目の“窓からは光が差してきた”でピアノの背後にノイズがありますよね。それは楽音だけではなくノイズも自分たちの音楽には含むという意志のあらわれですか?
吉田:僕はジム・オルークがすごく好きなんですが、ポップスにそういったものがもっとあるべきだとはいい曲ができたのでノイズを入れてもおもしろいかなと思っただけで、絶対ノイズ的なものを入れていくぞという強い気持ちはないです。
■アルバムはコンセプトをもとに構築したのでしょうか? それとも曲がたまって自然とこういったかたちをとった?
吉田:曲ができて自然とこうなりました。
■なにがしかのコンセプトがあったわけではなかった?
吉田:そうですね。
■『Smart Citizen』というタイトルの由来を教えてください。
吉田:さいきん、「Smart City」という言葉がよく使われているなと思っていたんです。僕はIT系の記者だったので。
■“Smart City”というのはどういったものですか?
吉田:都市全体の電力使用量を機械で管理して環境配慮型の社会にしようという動きなんです。そういうことを考えているときに、ふと、教育施設などの整った、お金持ちしか住めないような都市に住んだらどうだろうと思ったことがあったんです──いま僕はお金がないので。それで“新世界”の歌詞を書いたんです。自分が思っているミクロな問題は生活環境が変わっても解決しないし、大きい話でも、PM2.5や異常気象は都市レベルで環境が改善されても避けられない。それでも都市が開発されて、そのなかには幸せなひとや不幸なひとがいっぱいいるだろうなと漠然と思ったときに、そういった都市のなかで暮らしているひとを描けば今回のアルバムは成り立つんじゃないかと思いました。一曲から発想して全部通底させた感じです。
■歌詞を書くにあたりそういった前提を置いていたということですか?
吉田:いや、それも後づけです。歌詞については全部主人公がちがっているし、一人称で書いているので自然と生活のいろんな場面をきりとった歌詞になっているかなとは思っています。
■恋愛の歌うんぬんではなくて日常の断片を描きたかった?
吉田:僕は歌詞をつくるのが苦手で、放っておくと誰にもなんにもつっこまれないような歌詞しか書けないんですよ(笑)。ヤバイっていわれないことだけが目的になっていることがあるんです。
■どうしてそうなるの?
吉田:思いを吐露するのが得意じゃないんだと思います。曲を書くひとにはめずらしい、普通のひとなんです(笑)。西田くんとは長いことバンドをやっているので、歌詞については相談していて、どんな事象でも恋愛に絡めて危ない感じを出していこうという話なんかはけっこう前からしていました(笑)。
西田:人間の体温がない歌詞になるんですよ(笑)。だから恋愛にするとなまなましくなって――
吉田:ディテールを膨らませればさらに恋愛っぽさが増すから、もう、そうしようって(笑)。そうしないとなんで書いているのっていわれがちなんですよ。
■でも、言葉でなにかを訴えかけるより情景を描くことでイメージが誘われるところに、私は好感をもちましたよ。
吉田:ありがとうございます。
■そして『Smart Citizen』には、全9曲の関係のなかで浮かびあがるものもあるとも思うんです。曲順も吉田さんが決められたんですか?
吉田:僕が決めたんですけど、ライヴでやってきた曲順とけっこうちかいです。
西田:最終的にこれしかないなという感じでしたよ。
■ライヴを重ねていくうちに吉田ヨウヘイgroupらしさがうまれていったということですか?
吉田:入って1年目のメンバーが多いので、それはまさにそうでした。
■唐突ですが、みなさん何歳ですか?
吉田:僕がみんなより上で32で、西田が今年27。それがふたりいて、あとは23~24歳ですね。
■吉田さんがお兄さん役ですね。
吉田:どちらかといえば西田がお兄さんで僕はお父さんですかね。
西田:さいきんそれがほんとうに定着してきましたね。
■吉田さんのリーダー・バンドは吉田ヨウヘイgroupがはじめてですか?
吉田:過去にもありますよ。
■このバンドでつづけていくという決意をもって会社を辞めたんですもんね。
吉田:でもそれはけっこうゆるいところもあって。彼とやっていたバンドがうまくいけばいいなくらいのつもりで会社に辞めるといったら、辞めるまでの期間でうまくいかなくなったんです。
■どうしてうまくいなかくなったんですか?
西田:いろんな理由があるけれども、いちばんは僕と吉田さんの問題ですね。
吉田:西田くんが曲を書きはじめて、作曲もいけるかもという感じになってきたんです。プレイヤーとしては僕より彼のほうがレベルが上で、自分がバンドを仕切れなくなってきたというか、やりたいことがうまくとおらなくなって、メンバーも僕より彼の意見を聞きたいという状況にもなってきて。それだったら僕ももう一度自分のやりたいことをやりきらないといけないと思ったんです。
■それがどうしてまたいっしょにやることになったんですか?
吉田:僕と彼はすごくちがうと思っていたんです。僕はフォーキーなうたものをやりたくて、西田くんは演奏力があったのでテクニカルな方向にいきたいのだとばかり思っていました。でも、僕がつくる曲で彼がギターを弾かなくなったら、それまでの自分たちの曲はお互いの影響でつくったものだという感覚が強く出てきたんです。
■では吉田ヨウヘイgroupになって、西田さんは離れていた期間があったんですね。
吉田:つくってから半年経って入りました。さっきのリフの話もそうなんですが、僕がつくっている曲にしても、西田の演奏力が計算に入っているから成り立つところもあるんです。自分の創作に切り離せないところで彼とつながっていたことに気づいたので、仲違いしたこともあったんですが、もう一回やろうかという話になったんです。
西田:いまは過去最高に関係がいいですよ。
取材:松村正人(2014年6月24日)