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interview with Analogfish

interview with Analogfish

メッセージソングの行方

──アナログフィッシュ、インタヴュー

   Oct 08,2014 UP

“PHASE”とか“Hybrid”とか“抱きしめて”とか、いいって言ってもらってる曲とかって、今ライヴでやってても、作ったときと同じようなフレッシュさがあって、お客さんの反応もいつもすごくいいし、自分もいつもいま作ったようなテンションでできてて。

僕も個人レベルでの風化っていうのは起こってると思ってて、その一方では、集団的自衛権や知る権利の問題とか、短いスパンでかなり大きな出来事が起こり続けてる。だから、『最近の僕ら』っていうアルバムのアトモスフェリックでサイケデリックなムードは、ある意味、異常が常態化した日常を表してるように思ったんですよね。

下岡:それはたしかにそうだと思うけど、でもいろんなことが起こってる状態っていうのを特別意識はしてなくて、単純に、自分に起きてることとか、強く思ってたことを忘れて行ったり、そこも含めて音楽にして、あんまり「メッセージ」って切り口にはしないようにって思ってましたね。

具体的に、「この1曲ができてアルバムの方向性が見えた」みたいな1曲ってありますか?

下岡:それはたぶん1曲目の“最近のぼくら”で、演奏がタイトで、ベースが1ループで、あと声だけ。なおかつ、日本語のメロディーで、今歌いたいことが言葉にできて、これが一番やりたかった形に近い。

この曲はいろんな意味でプロトタイプですよね。音数の少なさもそうだし、言葉にしても、極端に言えば、何も言ってない。でも、それがやりたかったと。

下岡:うん、このヴァージョン違いをあと10曲作れればみたいに思ってて。だから、今回のアルバムは普通にそのとき思ったことをただ書いてて、ラヴソングを作りたいと思って、ただラヴソングを書いた曲とかもあるし。

個人的に印象に残った曲のひとつが“Nightfever”で、とくに「センターラインはどこにある?」っていうリリックが気になったのですが、これはどんな意図で書いたものなんですか?

下岡:そのときの感じっていうか……って言ったら、全部そうなんだけど(笑)。何て言うか……上手く言えないなあ。

じゃあ、もうちょっと僕言ってみていいですか?

下岡:はい(笑)。

これも極端な解釈ですけど、「センターラインはどこにある?」っていうフレーズから、僕は右翼と左翼を連想したんです。で、もちろんどっちがいい悪いの話ではなくて、でもいまこの構造がかなり鮮明になってきてる。それをそのまま歌っておきたかった……って解釈したんですけど、ここまでの話を聞くと、ちょっと違いそうですね(笑)。

下岡:それは考えてなかったですね(笑)。それよりも……手すりっていうか(笑)、つかまえられるものを探してる感じっていうか。

編集部:自分の中の支えってこと?

下岡:そうそう。

編集部:直接メッセージを表現しようと思わなかったっていうのは、直接メッセージを言うことがしんどかったってことでもあるのかな?

下岡:いや、しんどいと思ったことは特にないかなあ。

編集部:でも、いまのセンターの話って、内省的なことでもあるわけでしょ?

下岡:しんどいとは思ってなくて、そこを求められてるなって思うことも最近多い。

編集部:求められると引いちゃう方?

下岡:そんなこともなくて、俺そこに応えたいなっていつも思うんですけど。

編集部:そんな感じするよね。むしろ、それを望んでたっていうか、求められるっていうのは、リアクションがあるわけだからね。

下岡:それはすごく嬉しくて、“PHASE”とか“Hybrid”とか“抱きしめて”とか、いいって言ってもらってる曲とかって、今ライヴでやってても、作ったときと同じようなフレッシュさがあって、お客さんの反応もいつもすごくいいし、自分もいつも今作ったようなテンションでできてて。でも、そういう曲って無理に作っても意味がないというか、自然にそれを超えるだけのものができてこない限りは、出す必要ないと思ってて。あとは単純に、今回は最初に言った感じのものが作りたいと思って、実際は1曲メッセージ色の強い曲もできて、録ったりもしたんだけど、今回のアルバムには合わないと思ったから、外したの。

編集部:もったいない(笑)。


「ラヴソングが一番のプロテストソング」とか、「ポリティカル・イズ・パーソナル」とか、そういう言葉ってよく言われるじゃないですか? 僕そういうのあんまりわかんなくて、ピンと来なかったんですけど、今回作ってる終盤ぐらいに、「それってこういうことなのかな?」って、ちょっとだけ思いました。

今回のアルバムの中で、メッセージ性を読み取れる曲というと、あとは“公平なWorld”かなって思うんですけど、これはもともと2006年の『ROCK IS HARMONY』に収録されていた曲ですよね。順番に訊くと、そもそもこの曲は当時どういう経緯で作られた曲だったのでしょう?

下岡:これは……超嫌だなって、不公平だなって思うことがあって、作らないとスッキリしなくて(笑)。

それって、個人的なこと?

下岡:そうそう。で、実際作ることでスッキリできたので、結構大事な曲で。それで今回ガザのニュースとかを見てて、この曲入れたいなって思って、いまのアレンジがライヴでやっても手応えあったから、この形で入れようと思って。

この曲をライヴで聴いたときは衝撃でした。それこそ、ele-kingにレヴューを書かせてもらった、7月のアジカンとの2マンで聴いたんですけど、ちょうど集団的自衛権の問題が大きく取り沙汰されてたときだったし、ブラジル・ワールドカップもやってたから、「僕らが寝ている間に何が起きてるか知ってる?」って歌い出しもぴったりで(笑)、“PHASE”や“抱きしめて”と同じように、また過去に書いた曲が現在とリンクしちゃってるなって。

下岡:そっかあ……でも単純に、ひさしぶりに聴いたら、いい曲だなって思って(笑)。

あの日アジカンが“No.9”って曲をやってて、あれは9条の歌だって言われてるんですよね。近年いろんなミュージシャンが直接的にも間接的にも、社会に対してアクションを起こしていると言っていいと思うんですけど、そういう周りとの比較も踏まえて、自分のやることっていうのをどうお考えですか?

下岡:自分がやることか……プロテストソングとかメッセージソングって、自分がやること云々っていうよりも、出てきちゃうからやってるって感じなんですよね。人によるとは思うんですけど、曲って、そのラインが出てきちゃったら、俺に選択肢はなくて、出てきちゃったら作るしかないんですよ。だから、俺が選べるわけじゃないっていうか(笑)。「こういうことを書こう」って思わないわけじゃないけど、メッセージだったらメッセージが思い浮かんじゃうんで、しょうがないんですよね。

なるほど。わかります。

下岡:この間スパングルの笹原くんと飲んでて、やけのはらくんとか、それこそ後藤くんの話とかをしてて、彼らは論理的な思考を持ってると思うんですよね。頭いいし、話すこともやることも論理的だって。で、笹原くんが「下岡くんはこういう感じ(宙に浮かんでるものを捕まえる仕草)だよね」って言ってて、僕自分はそうじゃないと思ってたんですけど、「でも、そうだな」ってそのとき思って、「もうそれでやろう」って思いました。

その感じはアルバムに出てますよね。すごく感覚的というか。

下岡:歌詞を書いて、言葉の流れはちゃんとできてても、いろんな理由で書きかえるじゃないですか?ちょっとパンチがないとか、生っぽ過ぎるとか。でも、今回は極力それをやらなかったんです。

なるべくそのまま残したと。

下岡:そう、「ここもうちょっと山欲しいな」って思うところも、そのまま残して。

やっぱり、今回のアルバムは恣意的に考えないで、そのままを出すっていうか、それすらも意識しないように作ったってことなんですね(笑)。

下岡:うん、ホントに『最近の僕ら』って感じのアルバムにしようと思ったから。

宙に浮いてるものを捕まえて、それをただ自分を通して出すと。でも、それが結果的には社会のムードを表してるのかもしれない。

下岡:なんかね……「ラヴソングが一番のプロテストソング」とか、「ポリティカル・イズ・パーソナル」とか、そういう言葉ってよく言われるじゃないですか? 僕そういうのあんまりわかんなくて、ピンと来なかったんですけど、今回作ってる終盤ぐらいに、「それってこういうことなのかな?」って、ちょっとだけ思いました。

資料によると、今回の作品は「社会派三部作の完結編」とあるわけですが、ちなみにご本人にこの意識ってあるんですか?

下岡:うーん.....(笑)。

了解です(笑)。では、今回の作品のラストに“Receivers”という曲を置いたのは、どんな意図があったのでしょうか?

下岡:これの最後の塊で歌ってることが、一番いい終わらせ方だなって思って。

「日々が湛える悲しみの~」っていうところですね。僕も大好きです。まあ、三部作かどうかはともかく(笑)、何もない荒野からスタートして、旅路を経て、海に開けたという受け取り方もできますよね。そして、この曲の風を受けて進むヨットのイメージっていうのは、「ここからまたどこにでも行ける」っていう、新たな始まりも予感させました。

下岡:このアルバムって、前向きな感じの曲はとくにないんですけど、唯一そうかもしれないフィーリングを持ってるのが、“Receivers”だと思います。普通に暮らしてて、「楽しい」とか「面白い」はあるけど、「今日は前向き」って、あんまりないっていうか(笑)、それってちょっと不自然じゃないですか?面白いこととか楽しいことが前進力だから、「前向き」っていうのは入らなかったのかなって。

いまの社会状況が混沌としていて、先行きが見えない状態だから、前向きなイメージは外したとかではない?

下岡:それはそれですごい感じますけどね。“不安の彫刻”とか、何のオチもないけど、ただ何となく不安ってことを歌おうと思ったし。でも、僕“Receivers”で気に入ってるのは、「良い事も嫌な事もありそうだね」ってとこで、普通こう歌う人いないなって思って。

普通は「良い事あるさ」ですよね。

下岡:「良い事も嫌な事もありそうだね」って、すげえ当たり前の話だから誰も歌わないんだと思うんですけど、「良い事も嫌な事もありそうだね」ってずっと言ってたら、気分良くなるんですよ(笑)。いまって、それぐらいの上がる感じがちょうどいいなって。

「そりゃあ、どっちもあるよ(肩ポン)」ぐらいの感じだ(笑)。

下岡:そうそう、それぐらいがいいと思って(笑)。

取材:金子厚武(2014年10月08日)

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