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interview with Juana Molina

interview with Juana Molina

料理はふわふわをそのままに

──フアナ・モリーナ、インタヴュー

質問・文:デンシノオト    通訳:大坪純子   Apr 28,2017 UP

新しいアルバムを作るときに大事にしているのが、いかに前作と違う作品を、違う人間にならずに作るかということ。


Juana Molina - Halo
Crammed Discs/ホステス

PopExperimental

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 フアナ・モリーナの3年半ぶり、7作目のアルバム『ヘイロー』がリリースされる。彼女のアルバムは、遠い海の向こうのアルゼンチンから届く、ちょっと風変わりで、でも届くのが楽しみなグリーティングカードのようだ。あの名作『セグンド』(2000)以降、『トレス・コーサス』(2002)、傑作『ソン』(2006)などのアルバムがリリースされるたびに、「ああ、また、フアナの音の世界に行ける」と思ってしまったほど。シュールで、少し怖くて、だけどポップな、あのフアナ・ワールドに(ちなみに、もはや「アルゼンチン音響派」など死語といっていい)。

 とはいえ、彼女の音楽は、いつも一筋縄ではいかない。じつに不可思議な世界観とサウンドを持っているのだ。それはシュールでもあり、少し不気味でもある。細やかでもあり、大胆でもある。反復的でもあり、非反復的でもある。映像的でもあり、まるで活字の世界のように抽象的でもある。
 本作『ヘイロー』も同様だ。少しダークな夢のなかに迷いこんだようなポップ・ループ・サウンド。親しみ深く、複雑で、しかし素朴でもあり、同時に、そこはかとない怖さや、美しさをたたえているアルゼンチン・エクスペリメンタル・ポップ・ミュージックに仕上がっているのだ。

 今回、アルバムの制作を終え、リリースを待つばかりのフアナにインタヴューをすることができた。ブエノスアイレスからテキサスまでを越境しつつ制作・録音されたフアナ流ダーク・ポップの創作の秘密を、いかにもフアナ・モリーナらしく素直に、しかし謎めいた言葉で、しかし誠実に語ってくれた。とくに本作のラストに収録されたフアナ史上、屈指の名曲(!)といえる“Al oeste”の意外な誕生秘話にも注目してほしい。
 ぜひ新作を聴きながら、ぜひとも彼女の言葉を追っていただきたいものだ。この新作アルバムの魅力が、より一層伝わるのではないかと思う。

食べ物に例えるとしたら、音楽は味みたいなものかな。もしすごく興味があってもっと掘り下げたいなら、その材料を調べればいい。でも私のメイン・ゴールは、完成されたお料理を出すこと。どのパートも互いに溶け込んでいい感じになっているような料理。

前作『ウェッド21』から約3年半ぶりのアルバムですね。アルバムの制作はいつ頃から始められたのですか?

フアナ・モリーナ(Juana Molina、以下JM): 2年前くらいに始めたかな。合間にいろんな邪魔が入って、ゆっくりと進めていた感じだった。最初はアイデアを作るところから始めて、その種が徐々に曲に育っていった感じだったわ。

新作『ヘイロー』のテーマやコンセプトはどのようなものですか?

JM:私はアルバムを作る前にコンセプトを決めることは滅多にないの。まずはいろんなアイデアが降りてくるのを自然に任せて、後から枠に入れていく感じなのよね。そのときもコンセプトっていう感じじゃなくて、ほんと、なんとなく枠に入れてみる感じ。例えば前作にしても、決め込んでタイトルに合うようなアルバム内容にしたとかはなくて、自然とそうなったのよね。

サウンドメイクで意識されたことはどういった点ですか?

JM:新しいアルバムを作るときに大事にしているのが、いかに前作と違う作品を、違う人間にならずに作るかということ。だから新しいことにチャレンジしながらも、自分らしさも失わないでいることを意識しながら作っているわ。自分を新しい方向に誘うことを恐れないで、そういう挑戦を大事にしているのよ。新しいサウンドに挑戦してみたり、ほかの人が私にもつイメージに耳を傾けたり、これまで軽くイメージしていた新たな挑戦にもっと踏み込んでみたり。そういう感じで新しい作品には取り組んでいるわ。

フアナさんの楽曲は「ループ」がポイントと言われていますね。「ループ」は、どのような意味を持っていますか?

JM:ループには意味はないの。すごく自然に出てくるもので、考えてやっている訳ではないから。ループはどちらかというと、自分のプレイ(演奏)の形みたいなものなのよね。この言葉が認知される前から私はこのスタイルでプレイしていたの。あるフレーズを繰り返し弾いていて、それが「ループ」っていう手法だとはそのときはまったく知らなかったわ。それをすることで催眠術的な感じがしていたのよね。いろんな音をループすると、そういう浮遊感みたいな感じが生まれて。でもいまは前よりもループをすることが減ってしまったとは思う。それは、いろんなインタヴューでジャーナリストたちがそのことについて聞いてくるなかで、いままで無意識的だったことが意識的になってしまったから。だからたまにあまり取材を受けない方がいいのかなぁって思うことがある。取材で聞かれたことで、いままで無意識だったことを意識的に気にし始めてしまうから。いままで自然だったからこそ美しく感じていたこともそうじゃなくなっちゃって、マジックが壊れてしまうって感じることがあるの。

なるほど。たいしてヴォーカルは反復から逃れていて、とても自由に感じます。ヴォーカル(ヴォーカリゼーション)で気をつけている点はどういったことですか?

JM:そういうふうに聴こえる? やっぱり人の意見って聞くと面白いわ。あまり何も意識したことなかったけど、これもこれから意識することになるのかもしれない(笑)。でもそう言ってもらえて光栄よ。本当に自由に歌っているだけなの。でもそれでたしかに解き放たれる気持ちになることもあるかもしれないけど、どちらかというとヴォーカルは音楽の一部って考えているわ。

フアナさんのリズム・アレンジは、とてもヴァリエーション豊かですね。リズムが音楽に与えるものは、どういったものですか?

JM:リズムが加わることで、暗黙さが軽減されて、明確さが増す気がする。リズムもまた、自分が最初に弾いたものによって自然に訪れる。でもリズムに関してそう感じるのは私だけだったりするのよね。それが証明されるのが、ほかの人と演奏しているときに、自分にとっては当たり前のリズムだったものが、ほかの人が弾くとちょっと違ったりして。すごく明らかなリズムだと思っていても、人にとってはそうではないって気づく。もちろん、リズムは人によっていろんな捉えられ方をされると思うのだけど、どうして私がたくさんリズムを重ねるかというと、自分に降りてきたリズムをそういう手法で説明したくて、そうしちゃうのよね。

どの曲も、ベースラインがとても独特です。リズムとベースラインの関係について、どのような点を意識されていますか?

JM:関係については考えないと思う。すべては同じ絵の一部で。リズムかベース、どっちを先に録音するのかにもよるけど、どちらかを先にとったら、次はどちらかが足りない部分を補うみたいな感じかな。私にとって音楽は、パート、パートで別々のものとは感じてないの。私が、もっとも音楽で満足することとは、みんなに完全なものとしてその音楽を届けること。食べ物に例えるとしたら、音楽は味みたいなものかな。もしすごく興味があってもっと掘り下げたいなら、その材料を調べればいい。でも私のメイン・ゴールは、完成されたお料理を出すこと。どのパートも互いに溶け込んでいい感じになっているような料理。

私が街にいようが砂漠にいようがどこにいようが、音楽は自分のうちにあるものだから変わらないのよね。でも歌詞は、見たものを言葉にしたときにそれがいい言葉だったらそのまま歌詞になったりするから、場所は影響すると思う。

フアナさんの音楽は、即興と作曲が絶妙なバランスで同居しているように思いました。アルバム制作においては、どちらの比重が高いですか? もしくは、即興と作曲のバランスをどのようにとっているのですか?

JM:ほとんど即興だと思う。例えばギターとメロディが浮かんだとして、しばらくそれでいろいろ試してみるの。即興でやっているなかで、自分のなかでピンときたものがあればとにかく録ってみる。頭に浮かんだものをすぐに録音するわけじゃなくて、いま言ったみたいにアイデアで少しは遊んではみるけど、特にそのあとこうしようとかそういう構想はなく、ほとんど即興に近い形で曲を作り進めていくの。最終的には即興で録音した音を組み合わせて、曲を作り上げることが多いわ。

“In the lassa”など、部分的にエレクトロニックなトラックがあります。テクノやエレクトロニカなどからの影響はありますか?

JM:ハウス・ミュージックとテクノは好きなんだけど、家ではまったく聴かないのよね。だからじつはジャンルとかもぜんぜんわからなくて。でも私は踊るのが大好きだから、友達がおうちで開くパーティによく行くの。最低月に1~2回は必ずあるんだけど、エレクトロニックな音楽を聴くのは唯一そこでだけかな。そこで「この曲いいわね!」って友達に言うと、「それはハウス・ミュージックよ」ってジャンルを教えてもらったりするわ(笑)。

ブエノスアイレス郊外のホーム・スタジオとテキサスのソニック・ランチ・スタジオで録音されたそうですね。

JM:いちばん大きな理由が、自宅スタジオの機材がいろいろ壊れていたからなの。何かを録音しようとすると、マイクが壊れていたり、ソフトウェアがクラッシュしたり、いつも何か駄目なことが起きちゃって、ほんと何もかもがうまくいかなかった。その状況が何ヶ月も続いちゃって、すごくストレスが溜まったの。そしたら一緒にレコーディングしていたオーディン・シュヴァルツが「もうどこかスタジオに行こうよ!」って言ってきて。でも私は別のスタジオにはぜんぜん行きたくなくて。過去にスタジオでレコーディングして、すごく嫌で、危険なことをしたことがあるから。そもそも自分がレコーディングしようとしているときに、ほかの人がいたりするのがすごく嫌いなのよね。まるで見知らぬ人の前で裸になっているみたいで。あと、スタジオは時間も決まっているし、お金もかかっちゃうし、家にいるときみたいにアイデアが浮かんだら時間とか関係なく、すぐにレコーディングするとかができない。そしたらミックスをしてくれたエンジニアが、テキサスにいいスタジオがあるって教えてくれたの。そのスタジオはテキサスの郊外にあって、住みこみができる貸し切りスタジオだったの。だから24時間いつでも使えるし、街から離れているから気が散ることもないし。値段もリーズナブルだったし。みんなからの「いいから、スタジオ借りてみよう! 過去の悪いイメージは捨てて! 同じことにはならないから!」って言われるプレッシャーにも負けて、スタジオを借りることにしたの。結果、すごくいい経験になったわ。スタジオに行って本当によかったなぁと思うのが、そこで膨大な数の楽器に触れることができたの。新しい楽器っていつだって新しいアイデアになるから、それがすごく良かった。また行ってもいいなぁって思えるようになったわ。

質問・文:デンシノオト(2017年4月28日)

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1971年生まれ。ブロガー。東京在住で音楽ブログ「デンシノオト」などを書いています。
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