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interview with Julia_Holter

interview with Julia_Holter

私は人間を信じているし、様々な音楽に耳を傾ける潜在能力を持っていると信じている

——ジュリア・ホルター、インタヴュー

質問・序文:野田努    通訳:坂本麻里子 Photo by Camille Blake   Mar 22,2024 UP

だから、私は私自身の悲しみについて歌っていただけではなくて、ある喪失について——つまり、私のフィーリングばかりではなく、とても悲劇的な形で世を去ったひとりの若者の喪失について、そして私の姉妹——その喪失を経験した、彼女の悲嘆も歌っている。だからほとんどもう、これは単に自分や自分のフィーリングだけではない、そんな気がするし、そのぶんよく考えた……。

資料によると、この作品の背景のひとつには個人的に悲しいこともあったそうですね(と同時に娘さんの誕生という嬉しいことも)。この質問を作成した人間も、最近個人的に悲しいことがあり、そして、この世界に悲しいことを経験した音楽があることに感謝したばかりです。

JH:ああ、それはとても気の毒ね……。

ありがとうございます。ちなみにそのときはニック・ケイヴとスリーター・キニーを聴いていましたが——

JH:ナイス!

これからあなたのアルバムを何回も聴くことになるでしょう。ところで、ニック・ケイヴは『The New Yorker』の取材で、「悲しみ(grief)は人間を原子レベルで変えてしまうパワフルなものだ」と言っていますが、彼はその経験からある意味スピリチュアルな作品を作りました。あなたは個人的な悲しみを今回どのようにして音楽表現へと発展させたのでしょうか? 深く考えずに、直観的に制作に向かったのか、あるいは、思考を重ねながら作品へと向かったのか。

JH:どうなんだろう? 私にもわからないけれども、良い質問ね。うーん…………その両方が混ざったものじゃないか、と思う。というのも、複雑で——だから、私も悲嘆に暮れているし、その思いはたしかにある。けれども、それすら越えたところに、私の姉妹の悲しみが存在する、という。というのも、私たちが悲しんでいるのは彼女の息子/私の甥の死であって、それに、祖父母をふたり失う経験もあった。けれども、甥は18歳でね。で、そこにはこう……直観的な側面があった。とにかく自分に音楽が浮かんだし、ある意味、現実に起きていたことに音楽が入り込んでいった、みたいな? というのも、このレコード向けの曲に着手したときは、まだそれは起きていなかったから。ところが、制作作業の半ばくらいのところで、甥が亡くなり……たしかあの時点で、すべての曲はスタートしていたと思うけれども、あの一件で、それらも少し変化した。うん、そういうことだった。だから、楽曲は本能的に変化した、と言えると思う。ただ、自然に変化したし……私にとってはとくに、ずっと甥の死と結びつけてきた曲がひとつある。けれども、それは必ずしも明白ではないし、どの曲かは聴いてもわからないだろうけど、ただ、私自身にとってはとにかくそう強く感じられる曲だ、と。
 そうは言っても、現実としては——うん、それはあの曲に限らず、アルバム全体に備わったものだと思う。かつ、私には決しては明瞭ではなくて……少なくとも自分の音楽に関して、そしてアート全般についても、「ある人間の人生のどれが何に当たるか」云々ははっきりしないもので。ただ、思うに、まあ——そうだな、本能的にやったんだと思う。この作品に収めたものは、直観的に含めていった。だから、甥の死に関する私のあらゆる思い、そしてそれにまつわるもろもろはこのレコードのあちこちに存在するけれども、ただしそれらは「これ」というひとつのあからさまなやり方ではなく、レコード全体に浸透している、というか。
 とはいえ……それに加えて——ごめんなさい、ちょっと脱線するけれども——それに加えて、ある種の乱雑さみたいなものもある。きちんとしていない、そう、一種本能的な滅茶苦茶さというか? と同時に、もっと考え抜いた面、思慮深い要素もあって。とくに……だからある意味、アートを作るときは、やはりどうしたってしっかり考えるものだし、その歌が本当に強烈なところから生まれたものであれ、そうではないのであれ、それは同じこと。歌についてじっくり考え、歌詞も考え抜き、どこかを変える必要があるか、何か付け足すべきか、と決断していって……そう、だから、この作品には慎重に考え抜いた要素もある。
 でも、どうしてかと言えば、それはとりわけ……私にとってはまた……うーん、どう表現したらいいだろう? だから、私は私自身の悲しみについて歌っていただけではなくて、ある喪失について——つまり、私のフィーリングばかりではなく、とても悲劇的な形で世を去ったひとりの若者の喪失について、そして私の姉妹——その喪失を経験した、彼女の悲嘆も歌っている。だからほとんどもう、これは単に自分や自分のフィーリングだけではない、そんな気がするし、そのぶんよく考えた……。とは言っても、そうした事柄がどんな風に現れるものなのか、私には明確にはわからないけれども。まあ、自分が言わんとしているのは、そこには責任が少しある、みたいなことだと思う。このアートを甥に捧げること、そしてそれをやることの意味に対する責任。それにある意味、これは私の姉妹に、彼女の悲しみに捧げるものでもあるし……うーん、自分にもわからない! だから、それがどういう風に作品に現れるのか、作品をどう変えたのか、私にもよくわからないけれども、いま言ったようなことが、私の感じることね。

実は、昨年あなたが来日した際に、あなたのパートナーであるタシ・ワダさんを取材したかったのですが叶いませんでした。私たちele-kingは、彼の父上が永眠した際にも追悼記事をポストしたメディアなので、あなたがどうしてこの親子と出会ったのかたいへん興味があります。

JH:ああ、タシとの出会いを知りたい、と?

はい。そして、ヨシ・ワダさんとの出会いや、彼らにどう触発されたか等も教えていただければ。

JH:うん、タシに会ったのは、たしか2007年だったんじゃないかな?

通訳:あ、ずいぶん前なんですね!

JH:フフフッ、うん。ハーモニウムのアンサンブルに参加していて、そこで出会った。ふたりともインド式ハーモニウム、パンプ・オルガンを持っていて……。

通訳:(笑)。すみません、ハーモニウムのアンサンブルという図を想像して、思わず笑ってしまいました。

JH:(笑)いや、気にしないで! 実際、ほんとに可笑しいし……。でまあ、友人がこの、ハーモニウム・アンサンブルをスタートさせて。ハーモニウムを所有するいろんな人が集まって、そうだな、8人くらいいて、みんなでハーモニウムを合奏したっていう。でも、あれはクールだったんだけどね(笑)。出会いのきっかけはあれだったし、私たちは長いこと友人として付き合っていて、そこから8年くらい経って、デートしはじめた。その間にタシの音楽を知っていったし、私たちは他の音楽を一緒に演奏したこともあった。たとえばマイケル・ピサーロといった友人たちの音楽をね。そうやって一緒に音楽をパフォームする仲の友人だったし、それが2015年に付き合うようになった、と。それ以前に彼の父親のヨシに会ったことはなかったけれども、ヨシの音楽や作品は少し知っていた。というか(笑)、カリフォルニア芸術大学で勉強していたときに取ったクラスで、ヨシ・ワダの音楽が取りあげられたことがあったっけ。それにもう、タシの音楽も少し知っていた。ともあれ——タシと2015年にデートしはじめ、一緒にパフォーマンスするようになり、ヨシとも演奏した。だから、3人で数本のショウをやったと思う。それから、パーカッション奏者のコーリー・フォーゲルが加わった形でのショウもあった。でも、私がタシ&ヨシと共にパフォーマンスをやったのは数回くらいで——でも、ヨシとプレイする、あれは間違いなく、自分にとってクレイジーな出来事だった。本当に、とても特別な経験だった。あの機会にもっと恵まれていたら、本当に良かったんだけれども……。

彼女は私にとっての大影響であると共に、私の世代のコンポーザーの多くにも影響を与えている。たぶん、いまから20年くらい前だったら、彼女の影響を認める人はこんなに多くなかったんじゃないかと。彼女はとても大きなインスピレーション源だし……うん、アリス・コルトレーンの音楽は自分にとってかなり重要だと思う。

あなたは、経歴やキャリアを考えればより実験的でよりアーティな方面にいってもおかしくはないと思いますが、しかしあなたは大衆性を大切にしていると思います。“Spinning” のような曲はそういう情熱がないと生まれないのではないかと思いましたが、あなたは音楽作品における大衆性についてどのようにお考えか、お話しいただけますか?

JH:それは、私の音楽について? それとも音楽全般について?

音楽全般におけるそれ、です。

JH:たとえば、ちょっと普通よりも奇妙なのに、それでも人びとがハマれるような音楽?

通訳:はい。ストレンジながら、なぜか多くの人びとにリーチする音楽など。

JH:そうだな、私にはこの、その手の音楽で自分が大好きなもの、それらをゆるく分類するカテゴリーがあって、それを「マジック・ミュージック」って呼んでいるんだけど。

通訳:(笑)

JH:(笑)

通訳:良い名称ですね!

JH:(笑)。思うに、私が音楽に抱く関心、あるいは私の美学というか……たぶん私の美学なんだろうけど、それもある意味、これなんじゃないかと。つまり、探究型で、遊び心があって、驚きもあり、かつ美しい、そういう音楽。私が好きなのはそういうタイプの音楽だし、だから自分も、その線に沿った音楽を作ろうとしているように思える。どうなんだろう? でも、そういう音楽はたくさんあると思うし、自分はそういう音楽が好きだな。ああ、それに……遊び好きで……冷たくない……しかも驚かされる、そういう音楽であれば、人びとは理解すると思う。たとえそれが、「前衛」のレッテルを貼られるものだとしてもね。そこにだって、潜在的に大衆向け(populist)に——いや、それは言葉として適していないかな——だから、音楽オタクだけに限らず、多くの人びとにとってエキサイティングになり得る可能性は内在するはずだ、そう考える楽観的な面が私のなかにはあって。そうなんじゃないかな? 
 まあ、とにかく、私は人間を信じているし——もっとも、人類に対する疑問はたくさん抱えているんだけど(苦笑)、ただ、人びとは耳をオープンに開き、たくさんの様々な音楽に耳を傾ける潜在能力を持っている、そこはたしかに信じていて。それにほら、いま起きていることって、それこそ世界中の音楽を、とても簡単に見つけられるようになったわけでしょ。だから若い人たちも、型にはまらない、より奇妙な音楽な類いの音楽に触れる機会がもっと増えているんじゃないかと。その状況は興味深いと思う。それに、いま言った「奇妙な」というのは、ただ「変だ」ではなく、むしろ「分類不可能」、という意味合いに近い。で、私からすると、そういった分類不可能な音楽の増加は、私たちが耳を開いて音楽にオープンに接している、そのしるしと思える。

通訳:たしかにいまの若い世代は好奇心が強く、知らない音楽や新しいサウンドを聴くのに積極的ですよね。あなたにとっても、良い時代かもしれません。

JH:(笑)その通りだと思う。

質問・序文:野田努(2024年3月22日)

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