ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  4. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図
  5. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  8. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  11. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  14. KMRU - Natur
  15. Seefeel - Everything Squared | シーフィール
  16. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  17. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  18. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  19. ele-king Powerd by DOMMUNE | エレキング
  20. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る

Home >  Reviews >  Album Reviews > Julia Holter- Loud City Song

Julia Holter

AmbientClassicalDroneElectronic

Julia Holter

Loud City Song

Domino

Amazon iTunes

橋元優歩   Sep 02,2013 UP

 ジュリア・ホルターをポップ・シンガーとして認識する最初のアルバムになるかもしれない。"ディス・イズ・ア・トゥルー・ハート"などを聴けば驚く人もいるだろう。「モータリック・シャンソン」などとタイニー・ミックス・テープスなどは小粋な表現をしていたが、コズミックな音響とモータリックなビートに乗ったホルターのヴォーカルは、ファイストにもジョアンナ・ニューサムにもローラ・ダーリントンにも、ジョニ・ミッチェルにまで比較できるものだ。サックスがそのジャジーなヴォーカル・ラインを引き継いでしっとりと間奏を歌い上げ、やがてまたホルターへと手渡す。
 "イン・ザ・グリーン・ワイルド"も、ダブルベースが跳ね、ストリングスが不協和音を奏でる、ノワールで前衛的なムードのジャジー・ポップ。"ホルンズ・サラウンディング・ミー"はかなりクラッシュした曲だけれども、ドラムが8ビートで展開するのが意外な印象を与える。ヴォーカリゼーション同様に、ポップスの構造、ポップスの予定調和をかなりきっちりと組み立てていくこれらの楽曲を、筆者はとても新鮮な思いで聴いた。

 アカデミックな環境で育ち、高度な音楽教育も受け、大学ではローレル・ヘイローのクラスメイトでもあったというジュリア・ホルターは、〈リーヴィング〉などロサンゼルスの実験精神とインディ文化のリアルを体現する10年代の名門レーベルから寵愛を受け、存在感を増しつづける宅録女子アーティストたちの急先鋒として、アルバム一枚ごとに注目を集めてきた。
 おそらくははじめからクラシック畑で育ったのだろう。しかもよい距離を保って取り込まれていると感じる。根っからポップスのリズムやメロディの跡を感じさせず、かといってより伝統的な形式性にしばられることもなく、その複雑なプロデュースに反しておおらかな野生児の雰囲気を持っている。
 今作でも"マキシムズ・I"で幾重にも重ねられたサスペンダー・シンバルのディストーテッドなサウンド・スケープ、"マキシムズ・II"のつぶれたパイプ・オルガンとホーン、教会風のコーラスから、ノン・ビートのパート、ピアノとブラスの楽隊風ポップへと不定形に変化していく自由さ、また、ジョン・ケージに範を取り、メソスティックを用いたともいう即興技法の数々などには、これまでと変わらぬものを感じるし、さまざまな意匠がつくされていることがよくわかるが、同時にそうしたことのどれからも自由というか、野心ではなく童心で作っているように見えるところが彼女の素敵なところだ。ローレル・ヘイローにときどき息がつまることがあっても、ホルターで肩が凝るということはないだろう。もちろんどちらにも、だからこその魅力があるわけだけれども。
 今度はポップスをやってみました、という場当たり的なかたちではなく、彼女が手をのばした方向に音楽がついていってポップス風になった、そのような自然さを湛えた好盤だ。今作までのあいだにはもちろんさまざまな思索が重ねられ、たくさんのインプットもあったのだろうが、それが思いがけなくも色っぽい一面を見せたところが"ラウド・シティ・ソング"の果実である。これは「ソング」のアルバムであり、ジャケット・デザインの変化にもそれは著けく表れている。2種あるうちのどちらにも。
 けっして〈ドミノ〉に移籍したから、という理由ではないだろう。

橋元優歩