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Album Reviews

Julia Holter

Julia Holter

Ekstasis

RVNG Intl

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野田 努   Apr 25,2012 UP
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E王

 ローレル・ハローは、最近〈ハイパーダブ〉(ダブステップの知性派レーベル)で歌ったそうだが、彼女はその前は、OPNのチルウェイヴ・プロジェクトのゲームスで歌い、それから〈ヒッポス・イン・タンクス〉や〈RVNG Intl〉から作品を出しているので、コズ・ミー・ペインの連中ならほぼすべて網羅しているだろう。ハローが、ミシガン大学に通っていたときのクラスメートにはジュリア・ホルターがいた。
 ジュリア・ホルターはいまときの人だ。彼女のセカンド・アルバム『エクスタシス』の評判が電子空間のそこらじゅうから聞こえてくる。ケイト・ブッシュとジュリアナ・バーウィック、エンヤとジョアンナ・ニューサム、そしてローリー・アンダーソンとナイト・ジュウェルが同じ部屋で歌い、録音し、ミキシングしたら......つまり少々オペラに少々IDM的なアプローチの入ったベッドルーム・ポップ、それがジュリア・ホルターだ。ロサンジェルス在住の27歳の音楽の非常勤講師は、宅録時代の才女、現代的シンガー・ソングライターというわけだ。
 このように書いたからと言って、パティ・スミスやアリ・アップとは対岸にいる高慢ちきな女を想像してはいけない。たしかに向こうのメディがあまりにも「神童(wunderkind)」だとか「アカデミック」だとか言うし(彼女の母が大学教授であるとか)、で、実際彼女のデビュー・アルバム『トラジェディ』は三田格をはじめとするコアなリスナーが目を見張らしているロサンジェルスの実験派を代表する〈Leaving〉から出ているので(三田格によればその〈Leaving〉で売れたってことがすごい、そうです)、まあとにかく、聴く前から先入観を抱いてしまいがちなのだけれど、『エクスタシス』は『トラジェディ』と比較するまでもなく、ポップ・アルバムだ。ナイト・ジュウェルが参加し、そしてアリエル・ピンクのメンバーも参加している。これで少し安心するでしょう。
 が、しかし、これは素人のローファイではない。パンダ・ベアの声の重ね方よりも巧妙な録音、構成、緻密に作り込まれた......、そう、良い意味で敷居の高い音楽。グルーパーがやっていたことを――まあ、良い意味で――エレガントにしたような音楽だ。彼女は言うなれば、ナイト・ジュウェルとジュリアナ・バーウィックの溝を埋める人である。

 ホルターは明らかに、音楽作品、音楽芸術の今日的な価値を問うている。
 1曲目の"マリエンバード"はキャッチーな曲だが、"我々の不幸(Our Sorrows)""同じ部屋で(In the Same Room)""月の少年(Boy in the Moon)"などを聴いたら、――これは決して良い喩えではないが――アニマル・コレクティヴが幼児だとしたらこちらは大学生だと橋元優歩でさえも思わざる得ないんじゃないだろう。声楽風に声が重なり、さまざまな角度からさまざまな電子音が鳴っているというのに、音に隙間すなわちスペースがある。
 "毛皮のフェリクス(Fur Felix)"、ヴォコーダーを使った"女神の瞳・I(Goddess Eyes I)"ではポップスを試みる。シンセ・ポップスだが、80年代の引用ではない。"女神の瞳・II(Goddess Eyes II)"ではしっかりとした、そして押しつけがましくないベースを使いこなしている。"4つの庭(Four Gardens)"におけるジャズとオペラとダブの混合も悪くはない。さしずめ天空のドリーム・ポップといったところだろう。

 『エクスタシス』は、音楽がノスタルジックになるか、あるいはネット時代のポスト・マス社会における素人の氾濫のなかでその価値が相対化されつつあるいま、あらためて美を、そして音楽の進展を主張しているようだ。これはそうした予兆を感じるエレガントなアヴァン・ポップだが、本作が神童の最高作たりえるとはまだ思えない。なによりも慎重すぎる。彼女がベッドルームから出るとき、本物の傑作は生まれるかもしれないが、それでもこれは良いアルバムだ。

野田 努