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interview with Mark Pritchard

トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く

interview with Mark Pritchard

かたやエレクトロニック・ミュージックのヴェテラン、マーク・プリチャード。かたやアリーナ・ロック・バンドのヴォーカリスト、トム・ヨーク。異質なふたりによる注目のコラボ・アルバムははたしてどのように生み出されたのだろう。

質問・序文:小林拓音 Takune Kobayashi    通訳:中村明子 Akiko Nakamura
Photo by PIERRE TOUSSAINT
May 07,2025 UP

 リロードに “Peschi” という曲がある。カール・クレイグの影響下で生まれたとおぼしきそれは、直接90年代の音楽ムーヴメントを体験できなかった者にとって、遅れて生まれてしまったことの無念を永久に増幅させつづける、アンビエント風テクノの名曲のひとつだ。ゆえに後世のためにも、同曲が収められたリロード唯一のアルバム『A Collection of Short Stories』(1993)はぜひリイシューされてほしいところだけれど、マーク・プリチャード(とトム・ミドルトン)による豊かな創造性はその後、アンビエントとしてはグローバル・コミュニケイション『76:14』(1994)へと結実し、エレクトロとしてはジェダイ・ナイツの冒険をうながしてもいる。
 なんとか間に合った00年代以降の作品で個人的に気に入っているのは、うなる重低音とヒップホップ・ビートのなか絶妙に抑制された感傷がしぼり出される、ハーモニック313名義の『When Machines Exceed Human Intelligence』(2008)だ。もちろん、フューチャー・ジャズの動きに呼応したトラブルマン(2004)だったり、スティーヴ・スペイセックと組んでグライムやらフットワークやらを消化したアフリカ・ハイテック(2011)、あるいは再度フットワークやジャングルなどに挑んだ2013年の本名名義のシングル・シリーズなどなど、見すごすことのできない仕事はほかにもたくさんあるわけだけれど(ワイリーのプロデュースも忘るるなかれ)、そうしたディスコグラフィからはつねに時代の尖端に敏感なプロデューサーの姿が浮かび上がってくる。大局的に整理するなら、00年代後半から10年代前半にかけての彼はベース・ミュージックのよき理解者として位置づけられよう。
 そんなイメージを大胆に覆したのが前作、すなわち本名名義では初のアルバムとなった『Under the Sun』(2016)だ。極力ビートを排し、フォーキーなムードまで導入した美しくも不穏な同作は彼のキャリアにおけるひとつの転機といえるが、そこに招かれていたゲストのひとりこそトム・ヨークだった。かたやアンダーグラウンドのヴェテラン・エレクトロニック・プロデューサー、かたやアリーナ・ロック・バンドのフロントマン──。大きく立場の異なる両者による全面的なコラボレイションが、今回のアルバム『Tall Tales(ほら話)』である。

 エレクトロを崩したビートが耳をとらえて離さない “A Fake in a Faker’s World” にはじまる新作は、すでに2010年代につくられていたプリチャードによるいくつかのトラックをとっかかりに、ロックダウンのさなか何度もオンライン上でキャッチボールを重ねることで進められていったという。ベースの旋律と天へと召されそうな上モノとの対比が聴きどころの “Bugging Out Again” や、同様にベースラインが耳に残る “Back in the Game” などにはプリチャードの低音へのこだわりがよくあらわれている。チープな電子音やドラムマシンの素朴な反復が楽しめる “Gangsters” から “This Conversation is Missing Your Voice” へといたる流れも見過ごせない。アルバムはヴァラエティに富む一方で、幽玄なシンセ・ワークとヨークの声の存在感、そしてジョナサン・ザワダによる独特のヴィジュアルのおかげで不思議な統一感をまとってもいる。オルガンらしき音が聖性を演出する “The Men Who Dance in Stag’s Heads” ではだいぶ低いヴォーカルが披露されていて、ヨークのファンにとってもまた聴き逃すことのできない1枚といえるだろう。
 とまあそんな具合に、これまで発表してきたどのアルバムとも似ていない作品を完成させたマーク・プリチャード。彼にとって今回のプロジェクトはどのようなものだったのだろうか。

ぼくの普段の生活がロックダウンと似ていて、ここ12年はいつも地下室に閉じこもって自分の世界にいるからさ。だから引きこもるのに慣れていたという意味ではラッキーだった。

現在もお住まいはシドニーですか? 移住して何年目でしょう? もうシドニーが故郷のように感じられるくらいには時が経っていますか?

マーク・プリチャード(Mark Pritchard、以下MP):そうだね、こっちに来てもう20年になるよ。

今回のコラボ・アルバムは、あなたがトム・ヨークから乞われて、デモ・トラックを送ったところからスタートしたそうですね。つまり、もとのデモがつくられた時期は曲によってばらばらということでしょうか?

MP:大まかにここ10年くらいのいろんな時期につくったものだよ。いまtrack by trackをやっていてつくった時期を確認したんだけど、大多数が2016年から18年くらい、あとは19年のものもあって、2012年のものあるという感じだった。

いちばん古いものはいつごろのものでしたか?

MP:“Wandering Genie” と “A Fake in a Faker’s World” がたぶん2012年とか……どうだろう、2014年くらいだったかもしれないけど、とにかく、確認したときにこんなに前だったんだなって思ったよ。

あなたはこれまで幾人ものヴォーカリストやラッパーとコラボレイトしてきました。個人的にはスティーヴ・スペイセックとやったハーモニック313名義の曲 “Falling Away” がお気に入りです。トム・ヨークとは以前もいっしょに “Beautiful People” をつくっていますが、彼はこれまであなたがコラボしてきたほかの歌手やラッパーと、どう異なっていますか?

MP:全員ちがうからなあ。仕事の進め方にしても、雰囲気にしても、感じ方にしてもそれぞれ異なっていて、たとえばスティーヴ・スペイセックの場合、ちなみに彼はぼくと同じ年にオーストラリアに移ってきたんだよ。まったくの偶然だったんだけど。新たな場所で音楽の知り合いがいるっていうのは心強かったね。とにかく多くのすばらしいヴォーカリストと仕事をさせてもらっているっていうのはほんとうにラッキーだと思う。スティーヴのやり方は結構トムと似ているかもしれない。アプローチは違ったけど……スティーヴはスタジオでその場で歌詞を書いて歌ったんだ。一方今回のプロジェクトでのトムは、ぼくがトラックを送って彼がヴォーカルをやって送り返してきて、まあだから同じ場所にいるかいないかっていうちがいだけど。同じ部屋でやることの利点もあるし、でも自分の世界に入って求めるものをじっくり見つけたいひともいるから。ふたりの共通点はファルセットのシンガーである点。あとはふたりともすごく才能豊かで一緒に仕事がやりやすいところ。
 トムの場合は、まずいったん彼がつくってこちらに送ってきて、それから話し合う必要がある場合はZoomで話す感じだったね。当時はロックダウンの最中でしかもべつべつの国にいたから。なにかがうまくいっていないとか、なにが必要なのかとか。まあもしパンデミックがなかったら一緒にスタジオに入っていたかもしれないけど、でもトムは当時も複数のプロジェクトを抱えていたし、それにひとりで集中する時間も必要だからね。ひとによっては、気分がのらないとできないとか、心の準備が必要だとか。まあ千差万別だよ。邪魔されたり話しかけられたりせずに集中してやるほうがいいっていう場合もある。ある特定の状態に入って、ひとと話したり分析したりせず、まずはいったん形にするとかね。トムは間違いなくそのタイプだと思う。というかほとんどのひとがそうなんじゃないかな。ぼく自身もそうだし。一度つくって、そのあとで判断、精査するっていう。ちょっと寝かせたほうがよかったりもするしね。翌日になってあらためて聴いたほうがどれがうまくいってなくてどれがうまくいってるかより明らかになるから。トムは間違いなくそういうやり方を好むと思う。前に彼が言っていたけど、噴出するみたいに出てくるんだっていう、それがたくさん出てきて、そのあとに構成や秩序立てをするんだと。なかにはそのふたつの状態を素早く切り替えられるひともいる。ぼくもそういう創作モードから構成モードにすぐ切り替えられるひとに会ったことがあるけど、それが難しいってひともいるよね。

質問・序文:小林拓音 Takune Kobayashi(2025年5月07日)

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