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Home >  Interviews > interview with Mouse on Mars - 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい

interview with Mouse on Mars

interview with Mouse on Mars

僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい

——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー

序文・質問:野田努    通訳:長谷川由美
Photo : Constantin Carstens
Jun 04,2026 UP

とくにカリブのマーチング・バンドだね。カリブという場所自体が、まさに文化の移動や混交を象徴している。ある場所にあったものが別の土地へと運ばれ、そこでまた変化していく。そういう歴史があるからね。それについては、ルイ・チュード=ソケイがライナーノーツで本当に素晴らしい文章を書いてくれているよ。

最後の曲、 “State of Emergency” が象徴的ですが……

ヤン:“State of Emergency”のリズムの一部はサンプルから取ったもので、僕たちの友人でエンジニアのコンスタンティン・カーステンスが作った素材だったりする。

アンディ:コンスタンティンというエンジニアが、自分で録ったフィールド・レコーディングを聴かせてくれたんだ。そのなかに、路上で金属缶を叩いている音を録音したものがあって。その録音のある一部分が、すでに曲のグルーヴとして機能していた。だから、僕たちはその断片を切り出して、ループというかシーケンスとして使った。それで、そこにすべてを積み重ねていった。あの音をベースにして、少しだけスローにして使ったよ。それとは別に、もうひとつ異なる音もあったね。たしか、列車みたいな音で、蒸気機関車の音(汽笛)だったと思う。
 列車というアイデア……つまり旅とか移動とか、そういう感覚自体が曲のなかにちゃんと残っている。それは、未来へと向かって走っている列車みたいなイメージだった。曲の終盤になると、キューバ出身の管楽器奏者のレジス・キンレ・モリナも参加してくれて、彼がああいう感じのフレーズを演奏してくれた。そこにチューバのリズムも加わって、だんだんとマーチング・バンドのようになっていった。さらに曲の最後には、“Potato Parade”という録音も入っていた。それが最終的に曲に完全にはまった感じだよ。僕たちは「そうか、この曲は永遠に行進し続けるパレードのようなものなんだ」と思った。そのなかでリーは、自分の人生について、亡くなった仲間たちについて語っている。そして、曲の本当の終わりになると、彼は笑いながら「This is the end……this is the end……」と言った。そうして、パレードがだんだん消えていく。しかも、それがアルバムの最後の曲なんだよね。そのあと、彼は実際に亡くなってしまった。

ヤン:昨夜パーティに行ってきたんだけど、そこにペルー人の友だちも来ていた。エール・ホップっていう、ペルー出身の本当に素晴らしいアーティストであり、ミュージシャンであり、パフォーマーでもある彼女と、リー・スクラッチ・ペリーとのレコードの話になった。彼女とパートナーがすごく楽しみにしている、と話していて、そこからペルーの話題になっていった。僕が、実はこのレコードの最後はペルーで終わることを話したんだ。「このパレードの録音はペルーで録ったんだよ。葬送行進曲みたいな部分が、アルバムの最後の曲に出てくるパレードになったんだ」と説明した。そしたらその男性が突然、「ちょっと待って。君たち、いつペルーにいたの?」って訊いてきたんだ。「かなり前だから覚えていないなぁ」って答えたんだけど、彼が「たぶん僕、そのコンサートにいたよ」って。するとエール・ホップも、「えっ、ちょっと待って。私もそのコンサートにいた!」ってね。
 こういうふうに、レコードを通してまた別の繋がりが生まれるのが本当に面白い。しかも、彼らはまだそのレコードを聴いてすらいないのに、その話をしていたら、また新しい接点が見つかる。僕はこういう“接続性”が大好きなんだ。この世界では、僕たちはみんな繋がっているということさ。そして、このレコードはまさにそういうことについての作品なんだ。昨今のように人びとが分断されている時代だからこそね。デジタル・メディアは僕たちを分断しているし、巨大テック企業もそうだ。そこにあるのはコントロールであり、浸透であり、情報の反復なんだ。与えられる情報、追跡される行動、報酬化される振る舞い、禁止される振る舞い。そういうものばかりになってしまっている。僕たちの世界はどんどん小さくなっていってしまっている。でも、このレコードは巨大な世界についての作品なんだ。本来の世界は、本当に無限なんだよ。
 だからこその、『Spatial, No Problem.』というタイトルなんだ。空間、つまり世界に線を引き、繋がりを見出していくこと。そのことに問題はない。それこそが、人間であるということなんだと思う。だから、僕はこのレコードを、この作品とはまったく関係ない録音素材で終わらせるのが本当に美しいと思っているんだよね。
 でも、同時に、その録音はこのレコードそのものでもあるんだ。いろんなミュージシャンたちが行進していって、マイクがあるチューバ隊から別のバンドのドラムへ移動し、また別のバンドへと移っていく。“Potato Parade”に、バンドが延々と続く列をなしている。僕たちはそのなかを歩きながら、いろんなバンドを聴いている。でも、それ全体がひとつの音楽作品のように感じられる。『Spatial, No Problem.』はまさにそういう作品だ。聴き手は、そのなかを移動していく。異なる伝統、文化、リズム、楽器、人格の間をね。それらは互いにコミュニケーションを取り、出会い、平和的に混ざり合いながら、奇妙でぶっ飛んだ音楽のアイデアを一緒に創り上げていくんだ。

“Economic Train” みたいなブラスセクション風のメロディが入る曲なんかはじつに新鮮に感じました。スタジオの雰囲気がそうさせたのでしょうか?

ヤン:まさにその通りだね。さっきアンディが説明していたことにも近い。ときにはフィールド・レコーディングだったり、自分たちで録音した素材だったりするんだけど、それをループとして走らせ続けることがあるんだ。というのも、そこにフィルターをかけたり、何か調整を加えたりしたいから。そうやっていじっていくうちに、「おっ、このループ変だな、すごくいろんな要素が入ってる」と気付くことがあるんだ。そこから曲の構築がはじまっていくんだよね。”Economic Train”にも似たところがある。いろんな音が奇妙に組み合わさっていて、それが独特のリズムを生み出しているというか。そこには実際の列車の音も入っているよ。

アンディ:そうそう、それがまさに言いたかったことなんだ。この曲にはマーチング・バンド的な背景もある。基本になっている要素のひとつが、マーチング・バンドみたいなものでもあって。ほら、ドラマーたちが身体にドラムを固定して、ああいうパターンを叩くよね? そういう感覚から作られているんだ。たしか、カリブ由来のものでもあったと思う。そういう小さなインスピレーションが出発点になっていたね。

ヤン:この作品全体の話のなかで、もうひとつ重要なのは“movement(移動)”だと思う。時間や文化、固有性についての話でもあるんだけど、同時に“人や文化が移動していくこと”そのものについての作品でもある。だから、マーチング・バンドの要素がたくさん入っているんだ。とくにカリブのマーチング・バンドだね。カリブという場所自体が、まさに文化の移動や混交を象徴している。ある場所にあったものが別の土地へと運ばれ、そこでまた変化していく。そういう歴史があるからね。それについては、ルイ・チュード=ソケイがライナーノーツで本当に素晴らしい文章を書いてくれているよ。だから、この音楽から聴こえてくるものって、歴史的にもコンセプト的にも人類学的にも、“人間はつねに移動し続ける存在である”ということのメタファーとして捉えられると思う。

アンディ:このレコードで表現されているスタイルの核にあるものは、結局はどれも同じものなんだと思う。彼が愛していたのも、まさにそこだったんじゃないかと思うんだ。それに、おそらく彼は過去にスタジオを焼失してしまったあと、いろいろなプロジェクトに取り組んではいたけれど、本当の意味ではやりきれていなかったことがあったのかもしれない。でも、今回の僕たちの布陣というか、このメンバー構成のなかでは、それがある種きちんと実現できていたというか、そういう感覚があったんだろう。

そうしたなかで、音響的な面でペリーが影響を与えたところがあったら、教えてください。

ヤン:うん。彼はときどき、「これ弾ける?」とか「こういうふうに演奏できる?」というように頼むことはあったけれど、自らミキシング・ボードに触れることはなかったね。〈Black Ark〉スタジオを焼失し、ジャマイカを離れて以降、リー・スクラッチ・ペリーはプロデューサーであることをやめて、自分の声をインターフェースとして使うようになっていた。僕たちのスタジオでも、まさにそういう感じだった。本当に魔法のようだったし、彼のディレクションは彼の存在そのものや、言葉を通じておこなわれていた。それがとても興味深かったね。
 リーはアンディが素晴らしいギタリストだということを知らなかった。それで、あるときリーが「アンディ、ギターは弾ける? このトラックにリズミックなギターを入れてくれないか?」って言ったんだ。アンディは「もちろん」って答えて。たしか“Rockcurry”だったと思う。それで、リーが「こういう感じで弾いてくれ」って言ったんだけど、その言い方が本当に素晴らしくてね。というのも、彼が普段やっていることの本質が現れていたから。彼は方向性を示すとき、まるで詩のような言葉で表現するんだ。彼はつねに呪文のような、詩のような話し方をしていたね。それが彼なりの貢献の仕方であり、ディレクションであり、影響の与え方であり、作曲方法でもあった。
 本当に驚異的なんだよ。リーには“いまはミュージシャンとしての自分”“いまはプライヴェートな自分”みたいな切り替えがなかった。そこに境界線は存在しなかったんだ。すべてがつねにリアルで、同時にパフォーマンスで、魔法で、プロダクションで、人生で、真正性そのものだった。僕には本当にすごいことに思えたんだ。それが、僕たちともとても相性が良かった。どの瞬間も本物で、ものすごく強度の高い精神状態だったと思う。彼は、その強烈さを彼なりの言語や言葉を使うことでコントロールしていたんじゃないかな。
 言葉が彼にとってのインターフェースであり、緩衝地帯であり、交渉の場だった。そのおかげで彼は、ミキシング卓の前に座ってプロデューサーとして機能しなければならない、という立場で現実と向き合うよりも、ずっと自然に現実を扱えたんじゃないかと思う。彼は物事を観察することができた。彼はupsetter(大番狂わせを起こす人物)であったのと同じくらい、observer(観察者)でもあったんだよね。

〈Black Ark〉スタジオを焼失し、ジャマイカを離れて以降、リー・スクラッチ・ペリーはプロデューサーであることをやめて、自分の声をインターフェースとして使うようになっていた。僕たちのスタジオでも、まさにそういう感じだった。本当に魔法のようだったし、彼のディレクションは彼の存在そのものや、言葉を通じておこなわれていた。

制作のプロセスについても教えてもらえますか? まずはあなたがたがラフなトラックを作ってペリーに歌ってもらい、さらにそれをあなたがたがブラッシュアップさせた感じなんでしょうか?

ヤン:まず、簡単な前提として、リー・スクラッチ・ペリーが参加することになった時点で、アンディとの電話でも彼自身がレゲエはやりたくない、と言っていたんだよね。そのことを踏まえて、いくつかのスケッチは用意していたよ。アンディがアンドレア・ベルフィと録音していた素材については彼から説明できると思うけど、実際には、予め準備されていたものと、リーがそこにいたことで自然に湧き起こったものの両方があったということだね。
 さらに言うと、リーが帰ったあとになって初めて気付いたものまであったんだ。これはもう、一曲まるごとの話なんだよね。完全なストーリーになっている。でも、それが起きている最中は僕たちも気付いてなかったんだ。セッション中にベースラインやちょっとしたメロディに乗って即興をはじめて、それがほんの30秒くらいの出来事だった。でも、僕たちがやるべきことは、その断片をループさせることだけだった。少し反復を与えてやると、リーがその上でジャムを続けていった。彼は何かを掴むと、その瞬間から即興をはじめるんだ。短いベース・ラインだったり、一瞬のメロディだったりね。それで、そのフレーズ自体はもう過ぎ去っているんだけど、リーはそこからさらに展開していく。それで、スタジオで気付いたんだよ。もしこのままメロディを走らせ続けたら、リーが続けていることと完璧に噛み合うぞ、ってね。
 でも、それを理解するのは本当に頭を使う作業でもあったんだ。いろんなレイヤーのプロダクションが同時進行していたからね。もちろん、最初からいくつかのスケッチはあったよ。でも、実際にはそんなに多くなかったね。アルバムの3分の1くらいは提案として持ち込んだ素材で、別の3分の1、あるいはそれ以上はスタジオで自然発生したものだね。そして、残りの3分の1、あるいはそれ以上は、あとになって振り返って初めて「おお、これは完全に一曲になっているじゃないか!」と気付いたもの。しかも、その時点では僕たち自身まだ完全には理解できていないんだ。もう、次のアルバム用の素材じゃないか、というレベルでね。
 すごく面白い瞬間もあった。セッション中に突然現れたんだけど、少し奇妙な、またマーチング・バンドとかパレードみたいな雰囲気の瞬間があって。そのときにリーが日本人について歌いはじめたんだ。とても愛らしい曲なんだよ。ちょっと変わったリズムなんだけど、ものすごく喜びに満ち溢れている本当に美しい曲で。あとから、これは20分の曲にもできるということに気付いたんだ。ベースラインもメロディも全部揃っていて、全員の演奏も完璧で、しかもリーが物語を語っている。だから僕たちは、それをただ延ばすだけで良かった。そのあとになって、神戸のブラス・バンド「三田村管打団?」に参加をお願いした。
 それは森本アリも参加しているグループで、彼は僕たちのレーベル、〈Sonig〉とも関わりがある。彼は以前、スクラッチ・ペット・ランドやファン・クラブ・オーケストラの作品にも参加していて、僕たちの小さなレーベルである〈Sonig〉から作品をリリースしている。だから、この神戸のブラス・アンサンブルには、すべて完成したあとにトラックを送って、「セッション中に起きたことを録音したんだけど、ブラスを入れてくれないか?」と依頼したよ。
 これから出る次の作品には、彼らが参加することになるよ。面白いのは、それが実際のセッションからずっとあとの出来事だということなんだよね。彼らは、神戸で自分たちのパートをレコーディングしたんだ。つまりこれは、単なる“空間的な距離は問題ない(Spatial, No Problem)”だけじゃなくて、“時間そのものもまた、飛び越えることも厭わない(Time, No Problem)”ってことなんだよね(笑)。

通訳:そうしたお話を聞いてから、またアルバムを聴き直すのが楽しみになりました。作品の解説書を読み込むことで、いろいろな発見があるというか。

ヤン:それって本当に素晴らしいことだと思うんだ。インタヴューは、楽譜のようなものにもなり得るからね。インタヴューは、一種のスコア(設計図/楽譜)になり得るんだよ。誰かがインタヴューを読むことで、最良の場合、その人が作品を“聴く”“見る”感覚そのものが変わる。何かを学だけじゃなくて、その作品をどう辿っていけばいいのか、どのように作品のなかを航海すればいいのか、そのための新しい道筋を与えてくれるんだ。だから、いまこうして君と一緒にそのスコアを書く機会が得られたことにとても感謝しているよ。

最後に、MoMとしての、この先の夢、抱負、野心などをお聞かせ下さい。

ヤン:僕たちにはとくに何か大きな野望や計画があるというわけではないんだ。ただ、いまこの瞬間から次の瞬間へという感覚で進んでいるだけ。でも、確実に決まっているのは、『Spatial, No Problem.』のインスタレーションをロンドンのバービカン・センターで行うことだね。いまはアルバムを空間化する作業を進めていて、いわば3D体験というか、立体音響的なオーディオ体験へと変換しようとしているところ。そのあと、アメリカでも『Spatial, No Problem/』のスペシャル・オーディオ・インスタレーションを実現できるように、Meyer Soundと話を進めているところだよ。願わくば、日本にも持っていきたいと思っているんだ。
 あと、いまはリー抜きでこの素材をどのようにライヴで演奏するかについても模索している。僕たちはそれを、“ダブのダブのダブのダブ”って呼んでいるんだけど(笑)。つまり、音楽をさらに先へと運んでいって、反復して、別ヴァージョンを作り続けていくということ。エコーのエコーのエコー、みたいな感覚だね。実際、バービカンでもそういうことをやろうと思っているんだけど。まあ、今後のマウス・オン・マーズはそんな感じだね。『Spatial, No Problem.』という作品が、しばらくのあいだは僕たちを忙しくさせるんじゃないかな。

いまだにこんな風に、MoMのサウンドを更新していることに驚きました。 “To the Rescue” みたいな、ちょっと間が抜けたような曲も楽しくて良いですね。

ヤン:僕たちもいつかはちゃんと大人になる必要があるんだろうね。きっと、そのうち成長するんだと思う。たぶん、いつかはね(笑)。でも、僕は死ぬことについても受け入れている。その上で、それも悪くないなと感じている。だって、美しさというものを信じるなら、それはいつか消えてしまうからこそ存在できるものだと思うから。もし、何ひとつ消えない世界だったら、美しさも存在しないだろうし、興奮もなくなるだろうし、愛も生まれないと思うんだ。僕は、そういうものすべてを、とても愛している。だから、物事が消えゆくことを、とても幸福に感じているよ。自分自身も含めてね。

序文・質問:野田努(2026年6月04日)

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