「F」と一致するもの

interview with Bibio - ele-king

 はじめにビビオの10枚目のアルバムが『BIB10』であることを知ったときはその飾り気のなさに少し笑ってしまったが、しかしこれは、堂々としたセルフ・タイトルということでもある。10枚目にしてたどり着いた、ビビオ以外のなにものでもないもの。20年足らずの間にコツコツと10枚もアルバムを作りながら音楽性を拡張してきたこと、ビビオの揺るがない個性を確立したこと、その両方に対する誇りが伝わるタイトルだ。
 一聴して『BIB10』は、ヴァイオリンの演奏を学んだことによってトラッドでフォーキーな路線だった前作『Ribbons』~EP「Sleeping on the Wing」から踵を返すように、70~80年代のブラック・ミュージック──ヴィンテージ的なファンク、ソウル、ディスコからの影響が色濃いアルバムに思える。以下のインタヴューのスティーヴン・ウィルキンソン自身の言葉に頼ると、夜のアルバムだ。ジャケットの妖艶なサテンのギターが示しているように、シンセやエレキによるエレクトロニックでセクシーなサウンドとともに、ファルセット・ヴォイスで歌いまくっている。歌うこと自体を遠慮していたようだった初期を思うとずいぶんな変化だし、家でのリラックスした時間に寄り添うことに長けたビビオの音楽のこれまでの傾向を考えると、ファンキーでグリッターなディスコ・チューン “S.O.L.” でのダンスフロアへの祝福、その思い切りのよさには驚き気持ちよくなってしまう。それに、これまででもっともプリンスへの敬愛がストレートに炸裂したアルバムでもある。煌びやかで、官能的なのだ。
 ただ、『Ribbons』にソウルの要素が入っていたように、『BIB10』にもヴァイオリンの演奏を生かしたトラッドなムードもあれば(“Rain and Shine”)、アルバム後半、ビビオが得意とするアコギの弾き語りを骨格としたメロウなフォーク・ソングもある(“Phonograph”)。このアルバムで言えば、(歌詞というよりサウンドが)夜になってダンスフロアに向かうところからはじまって次第に朝が訪れるようなストーリーになっているが、様々な音楽が無理なく有機的に混ざり合っているのはこれまでのアルバムと同様だ。

 ビビオは10枚目のアルバムを自ら祝いたいと話しているが、長くビビオの音楽を聴き、その変遷を追ってきたリスナーからしても祝福ムードのある作品だ。わたしたちは彼が地道にプロデューサー、プレイヤー、ソングライター、そしてシンガーとしての幅を広げてきたのを知っているし、何よりも、どんなスタイルでもどこかノスタルジックな温かさを醸すその音楽に親しみを覚えてきた。初期に強く影響を受けていたボーズ・オブ・カナダのノスタルジーがそこはかとなく不気味さを滲ませているのに対し、ビビオのそれは素朴で優しい。
 せっかくの機会なので、『BIB10』の話だけでなく、本人にこれまでのキャリアを少し振り返ってもらった。ここでは新しいビビオと懐かしいビビオが溶け合っているから。

『Fi』と『Hand Cranked』に関しては、機材があまりないという「制限」がもとになって生まれたテクニックがたくさんあったし、それがあのローファイの美学を生んだんだよね。

音楽メディア〈ele-king〉です。あなたの音楽を長く聴いてきた読者が多いので、今回は10作目となる新作『BIB10』を起点としつつ、はじめにこれまでのディスコグラフィについても聞かせてください。あなたは2015年に『Fi』(オリジナル・リリース2005年)を、2021年に『Hand Cranked』(オリジナル・リリース2006年)をリイシューしていますが、こうした初期の作品を振り返ることは、近年の活動に影響を与えることはありましたか。

スティーヴン・ウィルキンソン(以下SW):どのようにかを言葉で説明するのは難しいけど、影響を受けることはときどきある。そのアルバムを作ったときの考え方や姿勢に影響を受けるんだ。今回のアルバムはそこまで影響は受けていないけど、『Ribbons』(2019年)は『Fi』のアイディアやテクニックみたいなものを受け継いでいると思う。『Fi』で使ったギアを、実際に使ったりもしたからね。

では、『BIB10』のインスピレーションは逆に何だと思いますか? 何から影響を受けているのでしょうか?

SW:それは、僕にとってはすごく面白い質問なんだ。なぜなら、何を「インスピレーション」と呼ぶのか、そしてそれが作っている作品にどう機能するのかというのを、僕自身、まだ学んでいる途中だから。アイディアっていうのは降りてくるし、それが何かははっきりしているんだけど、そのアイディアがなぜ出てきたのか、それを実らせた種が何だったのかは、本当に小さくてわからなかったりする。でもたとえば、『Fi』と『Hand Cranked』に関しては、機材があまりないという「制限」がもとになって生まれたテクニックがたくさんあったし、それがあのローファイの美学を生んだんだよね。そして、そこで学んだことは、いまでも生かされている。ギターのレイヤーを作ることはそのひとつ。いま、そのローファイの美学は前よりも洗練されているけど、いまだにあのときに戻ろうとするときもあるんだ。

〈Warp〉からの初リリースとなった『Ambivalence Avenue』(2009年)はあなたのキャリアにおいても重要な作品であり、『BIB10』においても『Ambivalence Avenue』でのエレクトロニックとアコースティックが両立していたのを意識していたとのことですが、いまから振り返って、あのアルバムのどんな点が秀でていると感じますか?

SW:あのアルバムを振り返ると、自分が思い切ったことをやったときを思い出す。とくにプロダクション。ローファイでフォークっぽいサウンドから、あのサウンドになったのは、僕にとっては大きな一歩だったんだ。そして、あのジャンルの幅広さも褒めていい部分だと思う。あのときはたくさんのことを一度にやっていて、結果、僕はそれをすべてあのアルバム一枚に落としこんだんだ。そして、それをみんなが気に入ってくれたから、自分のスタイルを変えてもいいんだという自信がついたものあのアルバムだったね。ローファイやフォークだけじゃなく、いろんなサウンドにチャレンジしていいんだという自信をもらえた。あと、20代のときに作ったアルバムだから、若い精神みたいなものも感じられるんだ。

2019年の〈Warp〉の企画『WXAXRXP Session』のときにもとは『Ambivalence Avenue』に収録していた “Lovers’ Carvings” のセルフ・カヴァーをシングル・カットしていますが、あの曲をピックアップしたのはどうしてでしょうか?

SW:あのカヴァーは、〈Warp〉の30周年記念のためのものだったんだけど、僕が〈Warp〉と契約したのは〈Warp〉の20周年のときで、“Lovers’ Carvings” はそのボックスセットに収録されている曲なんだ。僕にとってあの曲は、僕と〈Warp〉のキャリアの印みたいな作品なんだよ。

ヴァイナルって大事だと思うんだ。レコードだと、ストリーミングやCDみたいに簡単にトラックを早送りしたり、スキップしたりすることができないから。

『BIB10』はあなたの様々な音楽的要素が混ざった作品かと思いますが、単純にオリヴィエ・セント・ルイスが参加しているというのもありますし、ソウル・ミュージックの要素でわたしは第一印象では『A Mineral Love』(2016年)との共通点を強く感じました。あなた自身は、『A Mineral Love』のときに得た経験で大きなものは何でしたか?

SW:パッと思いつかないけど、あの作品も、それまでに自分がトライしたことがなかったものに挑戦したアルバムだった。僕にとっては、それが上手くいけば成功を意味するし、そして自信をもらえるんだ。『A Mineral Love』は、確実に新しいスタイルにチャレンジしたアルバムだった。オリヴィエとコラボしたのも、得た経験で大きなもののひとつ。あれがすごく上手くいったから、彼とはコラボをし続けたし、今回のアルバムに至っているからね。僕は、同じひとたちと共演するのが好きなんだ。そうすると数はあまり増やせないけど、そのアーティストと信頼関係を築いていくのはすごく良いことだと思う。その関係か築けているからこそ、オリヴィエとは本当に心地よくいっしょに曲を書くことができるんだ。

『BIB10』はフォーキーな要素が強かった『Ribbons』、あるいはEP「Sleeping on the Wing」からの反動もあったとのことですが、“Rain and Shine” のあなた自身のヴァイオリンなど、その時期の経験が生きている部分もあるように思います。『Ribbons』~『Sleeping on the Wing』のフォーキーな作品で得た経験で大きかったのは、やはりヴァイオリンやマンドリンをご自身で演奏されたことだったのでしょうか?

SW:そうだね。ヴァイオリンは独学で勉強したんだけど、すごく難しかった。でも、どうしてもアルバムで使いたくて頑張ったんだ。それが僕の新しいチャレンジになり、没頭することができた。新しい楽器を自分のサウンドに持ちこむというのは、プロデューサーとしての僕も興奮させられることなんだ。ヴァイオリンをはじめたきっかけは、『Ribbons』のふたつのトラックで友人がヴァイオリンを弾いてくれて、それを見て、僕も学びたいと思ったから。それで、2曲目以降は僕がヴァイオリンのパートを引き継ぐことにした。そして、そこから派生したのがマンドリンだったんだ。

独学でいくつもの楽器を弾けるようになるのはすごいですね。

SW:僕は、アルバムを出すたびに新しいチャレンジに挑むのが好きなんだよ。簡単なことをやるだけじゃつまらないからね。まったく新しいものにしたいのではなく、僕の場合、すでにあるものをさらに築きながら、新しいものを取り入れるというミックスだと思う。新しいことを学ぶことが好きだし、ビビオの意味を広げていきたいとも思うし、何かを発見し続けることがモチベーションになるんだ。

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80年代はデジタルが普及しはじめたときで、みんながよりエレクトロニックなサウンドを作ろうとしていた。未来的というか、機械的というか。でもそれなのに、そこには人間味と、素晴らしいミュージシャンシップがこめられている。

あなたのこれまでの作品は、様々な音楽的要素がミックスされていつつ、それぞれ個性を持っていると思います。ストリーミング・サーヴィスが一般化した現在、シャッフルやプレイリストでのリスニングが増えていると言われますが、そんななかでも「アルバム」という単位が表現しうるものは何だと思いますか?

SW:いまは違う聴き方をしていても、僕らはやっぱりアルバム世代で、いまになってもアルバムというフォーマットを好むひとはいると思うんだよ。それがストリーミングであれ、レコードであれ、CDであれ、アルバムという単位で作品を楽しみたいひともいるはず。僕自身も、スポティファイは使ってないし、プレイリストも作らないしね。アルバムがいまだに重要だという人たちは、必ずいるんじゃないかな。ある意味、アルバムを楽しむには、リスナーはすべてを捧げなければならない。そしてアルバムだからこそ、のめりこみたいと思う旅をみんなに提供できると思う。そして、だからこそ、ヴァイナルって大事だと思うんだ。レコードだと、ストリーミングやCDみたいに簡単にトラックを早送りしたり、スキップしたりすることができないから。針を乗せて、そのままにしておくのがヴァイナルの聴き方だからね。僕がアルバムをヴァイナルで聴くのが好きな理由のひとつはそれなんだ。

では、『BIB10』についても詳しく聞かせてください。先ほども言ったように様々な音楽的要素が有機的に入った作品ですが、前作『Ribbons』との対比で言うなら、エレキ・ギターの活躍が大きいアルバムではあるとは思います。ここ2、3年でエレキ・ギターをよく演奏していたとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

SW:エレキ・ギターは、11歳のときから弾いてる。子どもの頃は、メタル・ロックにハマってたからさ(笑)。最近よりエレキ・ギターを弾くようになった理由は、『Ribbons』がもっとアコースティックが多かったから、その反動なんじゃないかな。何か違うことがやりたくなったんだと思う。エレキって、サウンドのバラエティがすごく豊富だよね。ひとつの楽器で、いろいろなサウンドを奏でることができる。そこが好きなんだ。

あなたのようにマルチ・プレイヤーだと、楽器の選択が多く表現の幅が広がると同時に、選ぶのが難しい場面もあると想像します。実際のところ、楽曲のイメージが先にあって使う楽器を吟味していくのか、作曲するときに楽器が先に選ばれていて曲ができていくのと、どちらが近いですか?

SW:ほとんどの場合、まずはギターを使って曲ができあがる。家やスタジオでギターを手にとって、曲を作るんだ。で、そこで面白いと思うものが出てきたら、それを弾いているビデオをスマホで録る。だから、僕の携帯には短い動画の音楽のアイディアがたくさん溜まってるんだ。なぜ録音ではなくビデオを録るのかというのは、自分が何をどうやってプレイしたかが観られるから。で、そうやって曲ができあがったあと、ピアノとかシンセとか、ギターのほかにどんな楽器を使ったら面白いかなと考えはじめる。どの楽器を選ぶかの基準は、その曲の世界観によるね。ソウルなのか、エレクトロなのか、フォークなのか、その曲が持つムードによって、どの楽器を求めるかが変わってくるんだ。

また、本作ではアナログ・シンセや808などクラシックなドラムマシンを使っているとのことですが、そうした古くからある機材を意図的に使った理由は何でしょう?

SW:僕のスタジオには、新しいシンセと古いシンセの両方がある。アナログって、ソフトウェアには真似できない、すごく豊かなクオリティを生み出すことができると思うんだ。そして、古くからある機材はどれも、その機材にしか出せないアイコニックなサウンドを持っていると思う。あと、それを使いながらも何かモダンなことをするっていうのが好きなのも理由のひとつだね。

あなたはこれまで、ご自身の音楽にあるノスタルジックな要素について話されてきたと思います。『BIB10』には70年代ファンクや80年代の音楽のムードがありますが、そこにも何かあなたにとってノスタルジックな感覚があるのでしょうか?

SW:そうだと思う。僕は、その時代の音楽のプロダクションにすごく魅力を感じるんだ。とくに80年代はデジタルが普及しはじめたときで、みんながよりエレクトロニックなサウンドを作ろうとしていた。未来的というか、機械的というか。でもそれなのに、そこには人間味と、素晴らしいミュージシャンシップがこめられている。エレクトロニックでありながも、グルーヴやハーモニーといった要素がきちんと入っているところが素晴らしいと思うんだよね。僕は、そのコンビネーションが好きなんだ。

今回は曲によってドラムマシンだったり、イアン・ヘンドリーの生ドラムだったりしますが、「この曲に生楽器が必要だ」との判断は直感的なものなのでしょうか?

SW:そうだね。曲ができあがってから、その曲が求めているムードによって決めるんだ。たとえば “S.O.L.” だったら、あの曲ではほかのすべてが生楽器で演奏されているから、そのライヴのエナジーを保たなければと思ったんだよね。やっぱり機械より、サウンドに人間味をもたせてくれるから。あと、“Off Goes The Light” や “Potion” みたいな曲は、生楽器とシーケンスのミックスだからどちらも入れたかった。そんな感じで、曲のサウンドによって決めるんだ。

レッスンやトレーニングを受けたことはない。演奏もだし、プロダクションもそう。興味があったから、自らそれを追求してみた結果なんだ。

『BIB10』はシンガーとしてのあなたの魅力を堪能できる作品でもあります。初期には「自分が歌うことに確信がなかった」と話していたと思いますが、歌うことに自信が持てるようになったのはどの時期だったのでしょうか?

SW:自信が持てるようになるまでには時間がかかったし、いまでもまだ十分には自信は持てていない。僕はシャイな性格だから、歌うことに関しては、自信が少しもてるようになるまでかなり時間がかったんだ。でもやっぱり、いちばん大きな自信を与えてくれたのは、『Ambivalence Avenue』かな。あのアルバムへの反応が、ヴォーカリストとしてこれまでよりも大きな自信をもたせてくれたと思う。でもステージで、人前で歌う自信はいまだにないけどね(笑)。

たとえば “S.O.L.” などはダンスフロアを想起させるディスコ・ナンバーですが、あなたの音楽はどちらかと言うとホーム・リスニングに適したもののほうが多かったように思います。ダンサブルな曲と座ってじっくり聴ける曲が共存しているのも『BIB10』の魅力ですが、あなた自身は、リスナーが曲を聴くシチュエーションを想定することはありますか?

SW:たまにある。たいていは、トラックが仕上がりに近い時点でそれを考えることが多い。ひとがどんな場所でそのトラックを聴くのか、その可能性がある場所をできるだけ多く思い浮かべるんだ。車とか、地下鉄とか、今回のアルバムだったらクラブとか。それを考えると、この曲がもうすぐ外の世界にリリースされるんだ、と興奮するんだよね。作っている真っ最中は、外の世界のことを全く考えない。その作業にのめりこんでしまう。でもリスナーがどこで聴くかを考えているということは、心に余裕ができて、ゴールが見えてきた証拠なんだよ。

「明りが消える」という “Off Goes the Light” からはじまり、アルバム前半のダンス・チューンが続く展開はストーリーとしても惹きつけられます。あなたにとって、「夜」はどんな魅力を持っていますか?

SW:なぜか僕は、すべてのアルバムを夜か昼かで分けられるんだよね。たとえば『Ribbons』は昼のアルバムだと思うし、今回のアルバムは夜だと思う。でも、それがなぜかはわからない。もしかしたら、ダンスっぽい要素がクラブを連想させるのかも。どちらかというと、エレクトロニック・ミュージックが夜で、フォークが昼って印象かな。

フォーキーで穏やかな “Phonograph” も余韻の残る美しい曲ですが、クロージングの “Fools” はプリンス風のセクシーなソウル・チューンです。この曲をエンディングに置いたのはなぜですか?

SW:理由はないよ(笑)。ただ、それがしっくりきたんだ。あのトラックは、アルバムのために作った最後の曲で、できあがった瞬間、フィナーレみたいな感情がわきあがってきた。これでアルバムが完成したんだ! って気持ちになったんだ。スローなトラックだったし、エンディングにピッタリだと思ったんだよね。曲順は、あまり考えすぎず、直感で決めることが多いんだ。

『BIB10』では10枚目の作品を祝福する気持ちもあったとのことですね。実際、10枚もアルバムをリリースするのは並大抵のことではないと思います。あなた自身が、これまでのミュージシャンとしての活動でとくに誇りに感じているのはどのようなところですか?

SW:これまでのことを独学で学んだことかな。それがメインだと思う。もちろん、ほかのひとに教えてもらったこともあるけど、そのためのレッスンやトレーニングを受けたことはない。演奏もだし、プロダクションもそう。興味があったから、自らそれを追求してみた結果なんだ。機材を買って、どうやって使えばいいのかを探る。僕はそれが好きなことなんだよね。

ありがとうございました!

SW:ありがとう。またね。

J Jazz Masterclass Series - ele-king

 海外でニッチな人気となっている和ジャズ、そのなかでもとくにレア盤にフォーカスし、復刻を精力的に続けている〈BBE Music〉があらたに2作品をリリースする。
 まずは今田勝トリオ+1の『Planets』。1977年に元々同名インディ・レーベルから発表された本作は、当時の日本のジャズ界における代表的ピアニストのひとり。彼の磨きがかかった演奏と洗練された楽曲が披露する作品だ。
 もう1枚は、河野康弘トリオ+ 1による『Song of Island。河野氏が設立した自主レーベル、A.S. Cap から発表されたプライベート・ プレスの激レア盤。ピアニスト、河野康弘トリオが出 した3枚目のアルバムで、佐渡の ジャズ・ライヴ・ハウス、Againで1985 年8月にライヴ録音されたアルバム。
 どちらも世界初のCD化になる。


今田勝トリオ+1
Planets

BBE Music
フォーマット: 1 x LP vinyl, CD、配信
発売日: 2022年10月26日
https://bbemusic.bandcamp.com/album/planets


河野康弘トリオ+ 1
Song of Island

BBE Music
フォーマット: CD, 2 x 12” vinyl、配信
発売日: 2022年11月16日
https://bbemusic.bandcamp.com/album/ song-of-island

Burial - ele-king

 今年頭、ひさびさの長尺作品となる「Antidawn」をリリースし話題をさらったベリアル。本日10月21日、また新たな音楽が発表されている。「Streetlands」と題された3曲入りのEPで、レーベルはおなじみの〈ハイパーダブ〉。ビートはほとんどなく、どうやら「Antidawn」の続編的な位置づけの作品のようだ。年明け1月27日にはヴァイナルも予定されているとのこと。

artist: Burial
title: Streetlands
label: Hyperdub
release: 21st October, 2022

tracklist
1. Hospital Chapel
2. Streetlands
3. Exokind

https://hyperdub.net/products/burial-streetlands

John Cale - ele-king

 ジョン・ケイルのニュー・アルバム『MERCY』が、来年1月23日に〈Double Six / Domino〉からリリースされる。
 まずは客演に注目しておきたい。アニマル・コレクティヴに加え、まさかのアクトレスローレル・ヘイローといった10年代エレクトロニック・ミュージックの重要人物、近年のUKインディ・シーンで大きな影響力を持つファット・ホワイト・ファミリーなどが参加。歌手のワイズ・ブラッドをフィーチャーした先行公開曲 “STORY OF BLOOD” では驚くべきことにトラップ風のビートが鳴っている。
 現在80歳、新しい音楽に関心を持ちつづけるレジェンドによる、これは期待大のアルバムだ。

JOHN CALE
1月20日に最新アルバム『MERCY』をリリース!
新曲 “STORY OF BLOOD feat. Weyes Blood” を公開!

ジョン・ケイルが、2023年1月20日にオリジナル曲を収録したものとしては実に10年ぶりとなる最新アルバム『MERCY』を〈Double Six / Domino〉からリリースすることを発表し、新曲 “STORY OF BLOOD feat. Weyes Blood” をミュージックビデオと共に公開した。

John Cale - STORY OF BLOOD feat. Weyes Blood (Official Video)
https://youtu.be/qgwOid8vdwE

60年近くにわたって、いや、少なくとも彼がニューヨークに移り住み、ルー・リードと共にヴェルヴェット・アンダーグラウンドを結成した若きウェールズ人であった頃から、ケイルは感動すら覚えるほど革新的かつ異端な作品群をコンスタントに発表してきている。そこには例えば『Paris 1919』の妖艶なチェンバー・フォーク、『Fear』のアート性の高いロック、挑発的かつ実験的で深みのある歌曲集『Music for a New Society』(30年後に自身による変奏曲集『M:FANS』を発表)といった音楽史における重要作が含まれている。待望の新作となる『MERCY』で、またもやケイルは、自分の音楽がどのように作られ、どのように聞こえ、そしてどのように機能するかさえも再構築している。12曲からなるこの『MERCY』は、闇夜に生まれた電子音を通して、傷つきやすいラブソングと未来への希望に満ちた考察へと向かっている。

本作『MERCY』において、ケイルは、アニマル・コレクティヴ、シルヴァン・エッソ、ローレル・ヘイロー、テイ・シ、アクトレスという音楽界で最も好奇心旺盛な若手アーティストたちを起用している。いずれも、ケイルの完成された世界観の中に入り込み、そこで彼が自らの世界をデコレーションし直すのを手伝う、才能溢れるミュージシャンたちだ。ケイルは今年3月に80歳を迎え、特にこの10年間は、多くの同業者がこの世を去るのを見守ってきた。それでも『MERCY』は、彼らこれまで積み重ねてきた長いキャリアの延長上で誕生した作品と言える。ケイルは常に、疎外感、傷、喜びといった古い考えを探求する新しい方法を探してきた。『MERCY』は、その満たされない心が見つけた新たな作品だ。

『MERCY』を構成する楽曲は、ケイルがディストピアの瀬戸際でよろめく社会を見ながら、何年もかけて書きためてきたものだ。トランプとブレグジット、コロナと気候変動、公民権、右翼の過激派、もしくは南極、北極付近で溶けている海氷の主権と法的地位についての考察であれ、アメリカ人の無謀な武装化であれ、ケイルはその日の悪いニュースを自分の言葉にする。今回のアルバム発表に先立ってリリースされた “NIGHT CRAWLING” で、(今もなお) 豊かに生きている人生からの教訓も前面に押し出されている。もし、私たちが常に過去を悔やんでいるとしたら、永久に失望を味わうことになるのではなかろうか? そして “STORY OF BLOOD” でワイズ・ブラッドと共に歌ったように、結局のところ、我々は、我々が知ることのない神に頼るのではなく、お互いを救うことができるのではないだろうか?

“STORY OF BLOOD” では、ピアノの前奏が重厚なビートと眩い太陽のようなシンセサイザーに変わった後、ケイルとワイズ・ブラッドの歌声が、現代の喧騒の中でパートナーを探そうとする2つのファントムのように滑らかに交差する。「スウィング・ユア・ソウル」と二人は願いを込めて歌う。最後のパートで、ケイルはこの存在が自分だけのものでないことを思い出す。「私は朝には私の友人たちを、彼らを迎えに戻る。彼らを光の中に連れて行くんだ」。エミー賞受賞監督ジェスロ・ウォーターズによるミュージックビデオには、ケイルとワイズ・ブラッドが登場し、不穏と静寂が混在する。その深い色調と宗教的な雰囲気は、この曲のダークでスピリチュアルなムードを強調している。

ワイズ・ブラッドの新作を聴いていて、ナタリーの清純なボーカルを思い出したんだ。「Swing your soul」というパートと、他のいくつかの部分で彼女と一緒にハーモニーで歌うことができれば、きっと美しいものになるだろうと思った。しかし、彼女から得たものは、それ以上のものだったよ。彼女の声の多様性を理解してからは、まるで最初から彼女を想定して曲を書いていたかのように感じた。彼女の音域の広さと、音律に対する大胆なアプローチは、予想外の驚きだった。彼女がニコとそっくりに思う瞬間すらあるんだ。 ──ジョン・ケイル

待望の最新作『MERCY』は、2023年1月20日にCD、LP、デジタルでリリース! 国内流通仕様盤CDには解説が封入される。

label: Double Six
artist: John Cale
title: MERCY
release: 2023.01.20

BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13095

CD Tracklist
01. MERCY feat. Laurel Halo
02. MARILYN MONROE'S LEGS (beauty elsewhere) feat. Actress
03. NOISE OF YOU
04. STORY OF BLOOD feat. Weyes Blood
05. TIME STANDS STILL feat. Sylvan Esso
06. MOONSTRUCK (Nico's Song)
07. EVERLASTING DAYS feat. Animal Collective
08. NIGHT CRAWLING
09. NOT THE END OF THE WORLD
10. THE LEGAL STATUS OF ICE feat. Fat White Family
11. I KNOW YOU'RE HAPPY feat. Tei Shi
12. OUT YOUR WINDOW

CD

ブラック・ヴァイナル

ホワイト・ヴァイナル

クリア・ヴァイナル

Crack Cloud Japan Tour 2022 - ele-king

 耳の早いインディ・ロック・ファンにはかねてから注目されてきたカナダのポスト・パンク・バンド、Crack Cloud。『nero』編集長の井上由紀子氏も大推薦していたこのインディ界の注目株が早くも来日する。
 東京公演にはNo Busesのフロントマン「Cwondo」と、DJとして村田タケル 《SCHOOL IN LONDON》
 大阪公演は「石田小榛(Vo)と角矢胡桃(Dr)で構成される2ピース・バンド「HYPER GAL」と、DAWA 《FLAKE RECORDS》がサポートアクトとして出演。

Crack Cloud Japan Tour 2022

【公演概要】
2022年11月24日(木)
東京 代官山UNIT
出演者:Crack Cloud
Support Act : Cwondo、DJ: 村田タケル 《SCHOOL IN LONDON》
開場 18:30 / 開演 19:00
【チケット情報】 前売入場券:¥6,500 + 1Drink Charge
問合わせ: UNIT 03-5459-8630 (平日12:00〜19:00)

TONE FLAKES Vol.149
2022年11月25日(金)
大阪 梅田Shangri-La
出演者: Crack Cloud + Support Act :HYPER GAL 、DJ: DAWA 《FLAKE RECORDS》
開場 18:30 / 開演 19:00
【チケット情報】前売入場券:¥6,000 + 1Drink Charge
[TICKET]11月6日 10:00
ぴあ
e+
ローソン
FLAKE RECORDS(店頭)
問合わせ:Shangri-La 06-6343-8601(平日12:00〜19:00)

ツアー先行販売はコチラから:https://linktr.ee/tamatamastudio

【公演注意事項】
※予定枚数に到達した場合、当日券の販売は行いません。
※本公演はオールスタンディングの公演となります。

東京;
※3才以上の方はチケットが必要となります。なお16歳未満の方につきましては保護者の同伴が必要となります。
※未就学児のお子様をお連れのお客様は入場時に未就学児であることの各証明書が必要となります。

大阪;
※小学生以上はチケットが必要となります。
※保護者1名同伴につき、未就学児童1名まで入場可能。

-新型コロナウイルス対策-
※会場内では常時マスクをご着用下さい。
※こまめに手指の消毒を行って下さい。
※体温が37.5℃以上のお客様は入場をご遠慮ください。
※大声や歓声を禁止させていただきます。
※ご入場は整理番号順となります。


【Crack Cloud】
2015年に結成されたマルチメディア集団Crack Cloudは、異なる角度から、異なる過去の経験を持つ、同じ志を持つ人間で構成されている。
カナダのアルバータ州出身のCrack Cloudは、社会に対する視点と理解を映し出すポストパンクの知恵を持っています。 2018 年にバンクーバーに移り、メンバーのほとんどはその時に出会いました。 2016 年に最初のセルフ タイトルの EP をリリースし、翌年には 2017 年にAnchoring Pointと呼ばれる別のEP をリリースしました。 [12]これらのリリースに続いて、グループは国際的にツアーを行い、End of the road、、およびをロスキルデなどいくつかのヨーロッパの音楽祭に出演し、2020年7月17日に Meat Machine Records からデビュー・スタジオ・アルバム、Pain Olympicsをリリースした後、 2019年 5月から 2020年10月までの間に、 The Next Fix、Ouster Stew、Tunnel Vision、Favor Your Fortuneの4つのシングルをリリースしました。
https://www.crackcloud.ca/

【Cwondo】

No BusesのGt.&Vo.としても活動中の近藤大彗によるソロ・プロジェクト=Cwondo 2020年より本格的に活動開始。
1stアルバム『Hernia』、2ndアルバム『Sayounara』に続き、短いスパンでリリースし、3rd アルバム『Coloriyo』を2022年7月6日(水)にリリース
https://tugboat.lnk.to/Cwondo3rdAL

【HYPERGAL】

石田小榛(Vo)と角矢胡桃(Dr)で構成される2ピースバンドHYPER GAL
石田小榛は美術家として、角矢胡桃はノイジシャンとしての活動も行っている。
2021年には2ndアルバム『pure』をリリース
アヴァンギャルドかつミニマルなトラックのループと無機質なボーカルで構成されるサウンドはキラキラと既存の壁を破っていく。
『pure』ではジャケットを新進気鋭の美術家ナカノマサト・ミュージシャンのuamiが手掛け、MVは撮影 渡辺絵梨奈・編集 石田小榛の自主制作で行われるなど、アートワークも注目を集めている
https://hypergal.base.shop/

*海外プレスからの賞賛

"Crack Cloudのライブは素晴らしい。彼らの演奏を観た後、浮遊しているような気分になる"。- ジョン・ドーラン (Quietus、Noisey、BBC)

"...Crack Cloudをバンドとして説明することは、彼らを過小評価することになるだろう" Q Magazine- Qマガジン

「カナダの7人組、Crack Cloudは目を見張るようなスペクタクルを作り出す。- ガーディアン(イギリス)

◎「please yourself」MV
https://www.youtube.com/watch?v=BteWnj3vr1o&t=4s

◎アルバム表題曲「tough baby」のMV
https://www.youtube.com/watch?v=iuiApNB8Ug0

Loraine James - ele-king

 ロレイン・ジェイムスの新作だが、これはちょっと特別なプロジェクトだ。ジュリアス・イーストマン(Julius Eastman)という、犯罪的なまでに知られていなかったアーティストの音源を素材として作った彼女のアルバムで、それならまあ、昔からよくあるリミックスみたいなものだと早合点されてしまうのだが、本作における骨子は、ジュリアス・イーストマンの人生から授かったインスピレーションにある。ぼく自身も、ジュリアス・イーストマンについて犯罪的なまでに知らなかったひとりなので、彼のことを調べて、彼の音楽を聴いて、ただただ驚嘆するしかなかった。
 
 ジュリアス・イーストマンは、不遇な音楽家だった。いまから32年前、ホームレスとして亡くなったクィアの黒人前衛音楽家は、1940年、ニューヨークに生まれている。14歳からピアノを習ったという彼が、大学で理論を教えながら音楽家として活動をはじめたのは、1963年にフィラデルフィアのカーティス音楽院を卒業してから数年後の、60年代後半ことだった。ピアニストでありヴォーカリストでもあった彼は、最初はピアニストとしてデビューし、1970年代前半にかけては自作も発表する。1973年の“Stay On It”や1974年の“Femenine”といった初期作品を聴けば、イーストマンがミニマル・ミュージックの影響下で創作していたことがわかるが、彼独自のポップな解釈もすでにある。喩えるなら、スティーヴ・ライヒのゴスペル・ヴァージョンだ。のちにアーサー・ラッセルと出会って、ぼくの大好きな“Tower of Meaning”(1983)において指揮を任されるのがイーストマンだったこともぼくはこの機会に認識したわけだが(ティム・ローレンスの評伝では、ただその名前のみが記されている)、イーストマンの作品はクラシック音楽の前衛(ミニマル・ミュージック)にまだ片足を突っ込んでいた初期のラッセル作品ともリンクしている。
 イーストマンの人生において重要な出来事のひとつは、1975年にジョン・ケージの“Song Books”なる作品をイーストマンが所属していたS.E.M.アンサンブルの一員として演奏したことだった。そのときイーストマンは男女をステージに上げ、演劇的にエロチックなパフォーマンスを挿入したというが、こうした彼の同性愛者のアイデンティティの発露に対して実験音楽の大家は激怒し、名指しで批判した。当時禅宗に傾倒していたケージにとって作中に私事を出すことは許しがたかったようで、その出来事のみにフォーカスするなら、60年代的な精神に2010年代的な行為が否定されてしまったといまなら言えるかもしれない。まあ、とにもかくにもその時代、もっとも影響力のあった人物からの公での批判は駆け出しのアーティストにはそうとう堪えたろうし、ましてや勇気を持って臨んだ自己アイデンティティの主張が間違っていると言われた日にはたまったものではない。この出来事はイーストマンがアカデミーの世界から離れるひとつのきっかけになったんじゃないだろうか。
 大学を離れNYに戻った70年代後半からは、イーストマンはさらに精力的に創作活動に勤しんでいる。1979年には、“前衛音楽”シーンにおいては刺激的過ぎた作品名の3つの代表作(“Crazy Nigger”、“Evil Nigger”、“Gay Guerrilla”)を発表、それからアーサー・ラッセルと出会って、ラッセルのディスコ・プロジェクト、Dinosaur Lに参加もしている。
 しかしながら、ラッセルと違って彼個人の作品が商業リリースされたことはなく、生活を支える仕事もなかった。イーストマンは家賃も払えず、80年代初頭にはアパートを追い出され、それから死ぬまでのあいだはほとんどホームレス状態だったという。しかも彼の死は、あたかも彼が存在しなかったかのように、それから8ヶ月後に『ヴィレッジ・ヴォイス』が小さく報じたのみに留まった。イーストマンの楽譜が再発見されてあらたに演奏されたり、イーストマンの作品の数々が商業パッケージとしてリリースされるのは、彼の死から15年も過ぎた、2000年代半ば以降の話である。

 本作『私のために美しきものをつくる(Building Something Beautiful For Me)』は、その題名が主張しているようにロレイン・ジェイムスの作品とみていい。作品への感銘もさることながら、クィア・ブラックとしての深い感情移入もあったことと察する。彼女の音楽の特徴がストリート(グライム/ドリル)とオタク(エレクトロニカ/IDM)との融合にあったとすれば、本作においてはそうした二分法を超越している。時空を超え、さらにいろんなもの(ライヒ的なミニマル・ミュージックを含む)が彼女のなかに吸収され、彼女のいう“美しきもの”となって吐き出されている。強いてジャンル名のタグを付けるとしたらエレクトロニカ(ないしはエレクトロ・アコースティック)となるのだろうけれど、90年代のそれとは別次元の、ほとんどこれは詩学の領域に到達していると言っていい。
 非凡な人には、確実に乗っている時期というものがある。今年は、彼女のアンビエント作品集『Whatever The Weather』も良かったし、本作もまた感動的で、ロレイン・ジェイムスがいまアーティストとして最高の状態にいることがわかる。来日が楽しみでならない。

*タイミングが合えば、年末号の紙エレキングにロレイン・ジェイムスの細心インタヴューを掲載予定です。
 
 

Wendell Harrison & Phil Ranelin - ele-king

 これはすごい復刻だ。70年代スピリチュアル・ジャズ三大レーベルのひとつ、デトロイトの〈Tribe〉の代表作が豪華ボックスセット仕様となって蘇る。
 〈Tribe〉のもっとも名の知られた作品であろう、ウェンデル・ハリスンとフィル・ラネリンによる『A Message From The Tribe』は、じつは3ヴァージョン存在している。72年発表のジャケが「崖」のヴァージョン、73年発表の「地球」ヴァージョン、74年発表の「顔」ヴァージョンだ。それぞれの詳細は下記をお読みいただきたいが、今回のリイシューではその全ヴァージョンが網羅されている。とくに「崖」ヴァージョンは、世界初のアナログでの復刻となる。
 そして忘れてはならないのが、〈Tribe〉はたんにレコードを発売するだけの組織ではなかったということだ。「ア・メッセージ・フロム・ザ・トライブ」というタイトルが示しているように、〈Tribe〉はメディアやイベントなどを通して、黒人たちが置かれている状況を発信する、ある種のコミュニティでもあった。その活動の一例が、雑誌『TRIBE MAGAZINE』の発行。今回のボックスセットがすごいのは、その『TRIBE MAGAZINE』全15巻が同梱されているところだろう。入手困難だった同誌の復刻はきっと、文化史的にも大きな意味を持つにちがいない。
 全6枚組+15冊のボックスセット、ご予約はこちらhttps://vga.p-vine.jp/tribe)から。

 なお、来週発売の『別冊ele-king VINYL GOES AROUND presents RARE GROOVE』でも、〈Tribe〉は特別な存在としてコラムを設けています。ぜひ手にとってみてください。

WENDELL HARRISON & PHIL RANELIN
A MESSAGE FROM THE TRIBE BOX SET (6 Vinyls + 15 Magazines)

70年代デトロイトの伝説、〈TRIBE〉の代表的なアルバム、PHIL RANELIN / WENDELL HARRISON『A Message From The Tribe』3ヴァージョンを全てコンプリート。加えて70年代のアメリカのジャズ誌では重要なメディア『TRIBE MAGAZINE』全15巻を復刻しBOXセットにして発売致します。

1972年、デトロイトにて初声を上げたジャズ・レーベル〈TRIBE〉。1997年にP-VINEは世界に先駆けて〈TRIBE〉のコンピレーションをリリースし、それを皮切りに一連のカタログのリイシューを手掛けました。〈TRIBE〉の活動はクラブ・ミュージック周辺で再評価され、以来その活動全体が音楽シーンの伝説となっています。
今回リリースするのは〈TRIBE〉の代表的なアルバムでもあり、3種類のタイプがあることでも有名なPHIL RANELIN / WENDELL HARRISONによる『A Message From The Tribe』。これらを全てコンプリートし、加えて70年代のアメリカのジャズ誌では重要なメディアに位置する『TRIBE MAGAZINE』全15巻をBOXセットにして発売致します。

●『A Message From The Tribe』について

1972年発表の「崖」の写真をあしらった1stヴァージョン、1973年発表の「地球」のイラストを使用した2ndヴァージョン、そしてレーベルの主宰者でもあるWENDELL HARRISONとPHIL RANELINの「顔」のイラストが使われた1974年発表の3rdヴァージョン。わずか3年間で3種類リリースされた本作。これらはそれぞれ内容が異なります。

□1stヴァージョン『崖』:他のヴァージョンとは全く内容の異なる幻の初回録音盤が初のLPリイシュー! ボーナス7インチ付き
記念すべきレーベルの第一弾アルバムが世界で初めてアナログ復刻します。Tribeのコミュニティは、発足当初はライブを主な活動としていましたが、その延長で音楽と寸劇と詩で構成されたミュージカルをデトロイト美術館にて公演。その録音を一枚のLPに収めたのがこのアルバム。激しいフリージャズから徐々にブリージンなジャズ/フュージョン・サウンドへと変化していくWENDELL HARRISONの代表曲 “Where Am I” や、自由と自立のためにいま何が必要かを問いかけたメッセージが妖艶に紡がれていくグルーヴィーなヴォーカル・ジャズファンク “What We Need” の最初のテイクがここで聴くことができます。また本作はボーナス7インチを付属。こちらは “Where Am I” と “How Do We End All Of This Madness” を収録。どちらもここでしか聴くことのできないヴァージョンです。

□2ndヴァージョン『地球』:未発表のインスト・ヴァージョンがボーナス10インチとして初のレコード化
このアルバムで一番有名なジャケットと言っても良い「地球」をあしらった2ndヴァージョンは、あらたに再録音された全くの新しいテイク。1stヴァージョンとは収録曲の内容も異なり、より洗練された内容。A面にはPHIL RANELINの楽曲が収録され、1stヴァージョンよりも曲の精度を上げて作られておりファンキーな仕上がりに。B面のWENDELL HARRISONの楽曲は全曲差し替えられ、こちらもグルーヴィーな楽曲が並んでいます。全体的にも1stよりもコマーシャリズムが優先されており、それによって時流に合わせたモダンなサウンドに生まれ変わっています。そして本作には初のアナログ盤でリリースされるインストゥルメンタルを収録した10インチが付属。当時のミュージシャンの演奏力や楽曲自体の素晴らしさがあらわになり、折り重なるようなホーンセクションがクールなジャズファンクとして新しい側面を感じます。これらはジャズの音楽史でも貴重なテイクです。

□3rdヴァージョン『顔』:3つの中でもっとも良い録音に仕上げられたヴァージョンをTRIBE初の45RPM / 2枚組LPに
そして3rdヴァージョンは本作品群における最終形態。2ndヴァージョンから大きくミックスを変え、マスタリングやカッティングまでこだわりリリースされたのが本作。2ndヴァージョンと聴き比べても別物と思えるほど音の違いがはっきりとわかります。特に “What We Need” のファンキーさは、キックやベースの音圧やボーカルの輪郭などが格段にアップし、現在であればダンスミュージックとしても十分に使える音像に変化。そのほか反復するウッドベースのフレーズやローズの音色などがグルーヴィーな “How Do We End All Of This Madness” や、刻んだハットと乱れ打つスネアが印象的なウェンデル・ハリソンらしい疾走感あるジャズファンク “Beneficent” などもファットなビートに進化しています。今回は元の音源を忠実に再現しつつ、アナログは2枚組の重量盤LPでより高音質な仕様にしています。

●復刻版『TRIBE MAGAZINE』について

□全15巻を完全復刻
TRIBEがレコードのリリースと並行して出版していたマガジンがこの『TRIBE MAGAZINE』。70年代当時、アフロ・アメリカンたちのコミュニティで起こっている凄惨な出来事を明確に伝えるメディアが全く無かった中、WENDELL HARRISONが中心となって立ち上げられた黒人のための音楽情報誌兼、ニュース・メディアです。当時のデトロイト周辺のジャズや著名な音楽家などの記事に加え、黒人の歴史家/人類学者のコラムや日常の知られざる出来事をレポートしたニュースを発信。"何も知らなければ何もできない" 〜 "We can't do anything about it, if we don't know about it." を主張しアフロ・アメリカンの自立を目指して発行されていました。また誌面のデザインや写真などもローカル誌とは思えない斬新なビジュアルで、眺めているだけでも楽しめる内容です。
今回、スピリチュアル・ジャズ史上最も重要な紙媒体でもあるこのマガジン全15冊を完全復刻します。『TRIBE MAGAZINE』は現在、非常に入手困難なメディアであり、これは世界中で待たれていた待望の復刊になります。

https://vga.p-vine.jp/tribe

[商品情報]

■早期購入者特典としてオリジナルTシャツ付き!(2023年1月5日まで)

■箱のデザインは2タイプから選べます

ボックス・タイプA


ボックス・タイプB


■伝説のJAZZマガジン TRIBE MAGAZINE 全15冊を完全復刻!
■限定シリアルナンバー入り
■レーベル代表作が3バージョン、デラックスエディションで復刻!(全て見開きジャケット)
■(LP+7”)+(LP+10”)+(45RPM 2LP)
■世界初インスト・ヴァージョン・アナログ化!
■LPは180g 重量盤!
■ジャケット/TRIBEマガジンをモチーフにしたポスター(515×728mm)封入!
(The back side is TRIBE x Pharoah Sanders or Herbie Hancock from Tribe Magazine.)

価格:434.5 USD(税抜き 395 USD)

[収録内容]

□Message From The Tribe 1st Version [LP+7"]

Side A
1. Mary Had An Abortion
2. Where Am I
3. Angry Young Man

Side B
1. What We Need
2. Angela's Dilemma
3. How Do We End All Of This Madness

Side C
1. Where Am I (7" Short version)

Side D
2. How Do We End All Of This Madness (7" Short version)

□A Message From The Tribe 2nd Version [LP+10"]

Side A
1. What We Need
2. Angela's Dilemma (Instrumental)
3. Angela's Dilemma (Vocal)
4. How Do We End All Of This Madness (Instrumental)
5. How Do We End All Of This Madness (Vocal)

Side B
1. Wife
2. Merciful
3. Beneficent

Side C
1. What We Need (Full Instrumental Version)
2. Angela's Dilemma (Full Instrumental Version)

Side D
1. How Do We End All Of This Madness (Full Instrumental Version)

□A Message From The Tribe 3rd Version [2LP / 45rpm]

Side A
1. What We Need
2. Angela's Dilemma (Instrumental)
3. Angela's Dilemma (Vocal)

Side B
1. How Do We End All Of This Madness (Instrumental)
2. How Do We End All Of This Madness (Vocal)

Side C
1. Wife
2. Merciful

Side D
1. Beneficent


□TRIBE MAGAZINE(完全復刻版)全15冊

□TRIBE MAGAZINE B2サイズ・ポスター

https://vga.p-vine.jp/tribe

●〈TRIBE〉について
モータウンの発祥の地として知られるデトロイトで発足し、70年代ブラック・ミュージック/スピリチュアル・ジャズを語る上では超重要なレーベル、〈TRIBE〉。
1972年にモータウンがロサンゼルスに移転、そこでレギュラーで仕事を得ていた地元の多くのミュージシャンが突然失業していくさなか、デトロイト音楽シーンの新たなコミュニティ/クリエイティブ集団として、ウェンデル・ハリソンとフィル・ラネリンが中心となり設立。当時、アフリカ系アメリカ人達が直面していた貧困や人種差別などの困難な状況の中で、生活や社会がより良くなるよう、音楽やメディア、イベントなどを通してメッセージを発信した。その活動は90年代以降のHIP HOPやテクノなど、クラブ・ミュージック文脈で大きく評価され、2009年にはカール・クレイグによって主要メンバーが集められて作られた『Rebirth』がヒット。近年では『A Message From The Tribe』のオリジナル・レコードがオークションで1500ドルを超えるなど現在でもその影響力は衰えていない。

Surya Botofasina - ele-king

 アリス・コルトレーンのアシュラム(僧院)で彼女の演奏を聴きながら育ったというスーリヤ・ボトファシーナ。つまりアリス・コルトレーンの愛弟子ともいえるこのキーボード奏者/作曲家が、めでたくデビューを果たすことになった。ファースト・アルバム『Everyone's Children』は11/23に発売(デジタルは11/4)。プロデューサーはカルロス・ニーニョとのこと。スピリチュアル・ジャズ期待の新星に注目しておきましょう。

Surya Botofasina『Everyone's Children』
2022.11.4(土) DIGITAL Release
2022.11.23(水) CD Release

カルロス・ニーニョがプロデュースする、アリス・コルトレーンの愛弟子である注目のキーボード奏者/作曲家のスーリヤ・ボトファシーナのデビューアルバム。ジャズシンガーのドワイト・トリブルやミア・ドイ・トッドも参加したスピリチュアル・ジャズの傑作!!

キーボード奏者/作曲家のスーリヤ・ボトファシーナは、アリス・コルトレーンのアシュラムで彼女が弾くピアノとシンセサイザーを聴いて育った。だから、ディープリスニングへと誘う、この瞑想的で催眠的な音楽はとてもリアルなものだ。カルロス・ニーニョがプロデュースを担当し、彼がかつて率いたビルド・アン・アークのジャズ・コミュニティが支えていることも、その証である。(原雅明 ringsプロデューサー)

[リリース情報]
アーティスト名:Surya Botofasina(スーリヤ・ボトファシーナ)
アルバム名:Everyone's Children(エヴリワンズ・チルドレン)
リリース日:2022年11月23日(水)
フォーマット:CD
レーベル:rings / plant bass / spiritmuse records
解説:Hashim Bharoocha
品番:RINC96
価格:2,600円+税

[トラックリスト]
01. SuryaMeditation
02. I Love Dew, Sophie
03. Beloved California Temple
04. Everyone's Children (with Mia Doi Todd)
05. Sun Of Keshava
06. Waves For Margie (with RadhaBotofasina)
07. SuryaMeditation (Reprise) Radio Edit
08. SuryaMeditation (with Swamini Satsang) Excerpt

販売リンク:https://diwproducts.net/items/6322eaca7588610001b7ab98
オフィシャルサイト:https://www.ringstokyo.com/items/Surya-Botofasina

Axis Records - ele-king

 ジェフ・ミルズのレーベル〈アクシス〉が始動して30年目の今年、その記念としてミルズのリリースにおいてもっとも芸術的レコードの1枚に挙げられる「Cycle 30」を300枚のみ再発することをレーベルは発表した。
 同12インチ・シングルのA面には8つの1本溝が掘られており、それぞれが無限にループする1トラックとなっている。これは、デトロイト・テクノにおける貢献者のひとり、故ロン・マーフィーの技術があって具現化できた、まさにレコード芸術だ。レーベル面には樹木のシンボルがデザインされているが、樹木の幹を水平に切断し、露出させたときに現れるサイクルがその8本溝でもある。
 レコードを製造するときに使うスタンプラー(鋳型)には寿命があるが、オリジナルがまだかろうじて使える現在、レーベルはこの機会に600枚をプレスした。残りの300枚は、レーベルが60周年を迎えたときに発売予定。
 とりあえず、欲しい人は、迷わずプレオーダーすること
 

岡田拓郎 - ele-king

 先日、とあるミュージシャンがSNSから距離を取り、ライヴの告知を短いラジオのような音声データで配信していることを知った。早速耳にしてみると、しんと静まり返った場所で微かな虫の音とともに、落ち着いたトーンで訥々と間を空けながら語りかける様子が、まるでそのミュージシャンの即興演奏そのものであるようにも響き、わずか10分だが気づけばじっくりと聴き入ってしまっていた。ライヴの告知なのだから音声の内容を手早く知りたければ倍速で流すこともできる。だがわたしは、その音声を倍速で聴こうとは露ほども思わず、むしろ流れる時間に身を委ね、運ばれるがままに任せていた。それは没入感やASMR的な心地よさと似ているようで異なる、いわば時間そのものの体験とでもいうべきものだった。あたかも没入と離脱の両方に開かれたアンビエント・ミュージックのようでもある──わたしたちは多くの場合、それを倍速で聴こうとはしない。音楽をどのように聴くかは聴き手の全き自由だが、倍速にした際に抜け落ちてしまうもの、別様に変化してしまうものがあるのもまた事実だ。メロディや歌詞、コード進行、リズム・パターンなど、形象化し得る情報はある程度速度を変えても同じように取得できる。他方で引き伸ばされた低速度の時間を聴かせるアンビエント・ミュージックは、倍速にした途端にその本質をごっそりと失ってしまう。10分という時間を体験するためにはまさしく10分の物理的時間が必要なのである。ある種の音楽では、音を媒介することによってこのような時間そのものの体験を聴き手にもたらす。それは日常生活に流れる時間を別の時間へと置き換えることとも言い換えられるだろうか──。

 ソングライター/ギタリスト/プロデューサーの岡田拓郎が未曾有のジャズ・アルバム『Betsu No Jikan』を完成させた。むろんジャズといってもいわゆるストレートアヘッドな4ビートのそれではない。だが9月27日に渋谷WWWで開催された特別編成でのリリース記念ライヴを観ても感じたが、ジャズの傍流に位置付けられてきたフリー~スピリチュアル~アンビエントの系譜──奇しくもその3日前に他界したファラオ・サンダースが生涯を通じて歩んだ足跡とも幾ばくか重なる──を、日本のフリー・ジャズから音響系までを踏まえたうえで、岡田流のポップス的感性でアップデートしているように聴こえたのだ。そう、岡田はまずもってポップス的感性を持ち合わせたミュージシャンであった。テン年代前半はバンド・森は生きているではっぴいえんど以降の日本語ロックに新たなページを刻み、バンド解散後はソロ名義で『ノスタルジア』(2017年)および『Morning Sun』(2020年)と、あくまでも歌およびポップ・ソングを中心とした作品をリリースしてきた。だが同時に彼はこうしたポップ・ミュージックと並行して、即興/ノイズ/アンビエントの文脈でも先鋭的な音楽を制作し続けてきた人物である。森は生きているとして活動する傍ら、フルート奏者/作曲家の池田若菜率いる即興トリオ・發展に参加し、同時期に即興的な魅力に溢れたソロ・ギター作『Lonerism Blues』(2014年)を発表。エレクトロニクス/コンポーザーの duenn とはドローン・アルバム『無常』(2016年)およびアンビエント/環境音楽作品の『都市計画』(2020年)を共作し、自身の bandcamp ではとりわけコロナ禍以降、実験的なソロ作品を精力的にリリースしてきている。なかでも昨年はレコーディングから公開までわずか半日で仕上げた、しかしながら奇跡的なまでに高いクオリティを誇る傑作フリー・インプロヴィゼーション作品『Guitar Solos』が少なくないリスナーの度肝を抜いたことだろう。

 そのような岡田拓郎のポップス的感性と実験精神がジャズのムードを纏いながら極上のサウンドへと結実したのが本盤『Betsu No Jikan』である。『Morning Sun』から数えると約2年ぶりのアルバムであるが、すでに述べたようにこの間にも bandcamp で複数のソロ作をリリースしている。制作に約2年を費やし、多数のゲストを交え、録音上の編集を巧みに施した本盤は、制作期間半日・ソロ・一発録音の『Guitar Solos』と好対照を成すアルバムでもある。本盤では、岡田を除いて唯一全楽曲に参加している打楽器奏者・石若駿との即興演奏を主な素材としつつ、他のゲスト・ミュージシャンの録音を交え、マイルス・デイヴィス=テオ・マセロ流の編集作業を経て、いわば想像上のアンサンブルへと編み上げられた。

 ジョン・コルトレーンの名曲 “A Love Supreme” の大胆なアレンジとなった1曲目では、折に触れて同楽曲のテーマをセッションの中で吹いてきたサックス奏者サム・ゲンデルが客演し、柔らかなシンセやサックスの響きと祝祭的な打楽器のグルーヴ、そして水音や鳥の声を彷彿させる音などが渦を巻くように絡み合う。続く2曲目 “Moons” は収録楽曲中唯一の歌ものである。とはいえ囁く歌声は前面に出るというより全体のサウンドに浸透し、谷口雄の煌びやかなピアノや細野晴臣のリズミカルなログ・ドラムと交わってミニマルな反復感を生み出していく。3曲目 “Sand” は岡田と石若のデュオだが多重録音によって万華鏡のような豊かな音のバリエーションと変化を聴かせる。アルト・サックスで大久保淳也、ベースでマーティ・ホロベックが参加したカルテット編成の4曲目 “If Sea Could Sing” は、あたかも森の樹々が風に吹かれてざわめくように音を鳴らし、スピリチュアルかつアンビエントな静けさを醸し出す。アルバム制作の起点になった楽曲でもある次の5曲目 “Reflections / Entering #3” はこれまでのゲストに加え、ネルス・クライン(g)、ジム・オルーク(b, synth)、ダニエル・クオン(vln)、山田光(as)、香田悠真(cello)、カルロス・ニーニョ(perc)、増村和彦(perc)と、総勢12名が参加した10分にのぼる大作だ。その人数に比して前半はむしろ離散的な音の響きが空間性豊かな落ち着きを生み、シンバルの降り注ぐパルスやサイン波のような持続音が張り詰めた空気を奏でると、一転して後半では高速ドラミングを基調としたサウンドに変化し、アルバムで白眉と言っていい苛烈なカオティックさへと至る。そして最後の6曲目 “Deep River” ではピアノの伴奏に乗せて、他の楽曲とは打って変わってヴィブラートを強調した大久保のサックスが宇宙の癒しと交信するように地を揺らすと、ゆったりとしたビートでモンド・ミュージック風の合奏がはじまっていく。

 “Deep River” の震えるサックスが出現したとき、真っ先に想起したのはアルバート・アイラーの慈愛に満ちた叫びだった。収録された楽曲は岡田と大久保によるオリジナル曲だが、“Deep River” といえばアイラーが非破壊的な郷愁を誘うサウンドで吹き込んだ黒人霊歌の曲名でもある。その意味で『Betsu No Jikan』は単にジャズ的なムードを漂わせているだけでなく、コルトレーンからはじまりファラオ・サンダースを経由してアイラーへと至る、父・子・精霊のジャズの三位一体がアルバムを通じたひとつのモチーフとなっているとも言える。ただしそこで基層を成す即興演奏は通常のジャズにおけるような、共有されているフォーマットからの逸脱やその変形ではない。むしろ即興演奏それ自体がフォルムを生み出すフリー・インプロヴィゼーションに近しいあり方をしている。だがさらに言うなら、音を演奏家のコントロール下に置くことでフォルムを生み出し、あるいはコミュニケーションを図ろうとすることとも異なっている。ここには音をあるがままとするような特異な即興演奏の捉え方がある。岡田はそれを次のように説明していた。

音楽というものが、水とか風とか葉っぱが揺らぐような自然の音……人が手を加えていない、自然がそのまま鳴っている音のような状態になればいいなというのはずっと考えていることで。今回の制作におけるインプロビゼーションというのは、そういう音を発生させる装置という側面で考えていたように思います
(「岡田拓郎、〈言語〉と〈編集〉の先の音楽を追い求めて──『Betsu No Jikan』をめぐるロングインタビュー」)

 「自然の音」を発生させる装置としての即興演奏。するとここでは即興演奏を録音することが、「自然の音」のドキュメント、すなわちあたかもフィールド・レコーディングのように捉えられているとも言える。演奏家がどのような音を発するかということと同等かそれ以上に、発された音をどのように聴き取るかという耳の視点が創作上の要点となっているのである。あるいは録音によって時間を音楽化する行為に焦点が当てられていると言ってもいい──フィールド・レコーディングとは音を記録する以前にまずもって時間を切り出す手段であるからだ。そのようにして収集された無数の「自然の音≒即興演奏」が、本盤では多層的に重ねられ切り貼りや加工が施されながらも、まるで全体が「自然の音≒即興演奏」でもあるかのようにより大きなひとつの時間の流れを生み出している。それは倍速の欲望を喚起する類の時間とはほとんど対極にある、風景としての音楽にも似た可聴化された時間の流れである。ならばわたしたちが本盤を再生するとき、そこには単に興味深い響きが現れるだけでなく、それまで流れていた日常生活の時間が丸ごと別の時間へと置き換えられてしまうのだとも言えるだろう。それが音響結果を付帯的なものとする実験音楽ではなく、あくまでもポップス的感性に根差した岡田流のジャズ・サウンドで提示されていることも付け加えておかねばならない。

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