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Home >  Interviews > interview with Bibio - フォークトロニカの天使、ふたたびソウルに挑戦

interview with Bibio

interview with Bibio

フォークトロニカの天使、ふたたびソウルに挑戦

──ビビオ、インタヴュー

質問・序文:木津毅    通訳:原口美穂 Photo by Matt Peers   Oct 21,2022 UP

 はじめにビビオの10枚目のアルバムが『BIB10』であることを知ったときはその飾り気のなさに少し笑ってしまったが、しかしこれは、堂々としたセルフ・タイトルということでもある。10枚目にしてたどり着いた、ビビオ以外のなにものでもないもの。20年足らずの間にコツコツと10枚もアルバムを作りながら音楽性を拡張してきたこと、ビビオの揺るがない個性を確立したこと、その両方に対する誇りが伝わるタイトルだ。
 一聴して『BIB10』は、ヴァイオリンの演奏を学んだことによってトラッドでフォーキーな路線だった前作『Ribbons』~EP「Sleeping on the Wing」から踵を返すように、70~80年代のブラック・ミュージック──ヴィンテージ的なファンク、ソウル、ディスコからの影響が色濃いアルバムに思える。以下のインタヴューのスティーヴン・ウィルキンソン自身の言葉に頼ると、夜のアルバムだ。ジャケットの妖艶なサテンのギターが示しているように、シンセやエレキによるエレクトロニックでセクシーなサウンドとともに、ファルセット・ヴォイスで歌いまくっている。歌うこと自体を遠慮していたようだった初期を思うとずいぶんな変化だし、家でのリラックスした時間に寄り添うことに長けたビビオの音楽のこれまでの傾向を考えると、ファンキーでグリッターなディスコ・チューン “S.O.L.” でのダンスフロアへの祝福、その思い切りのよさには驚き気持ちよくなってしまう。それに、これまででもっともプリンスへの敬愛がストレートに炸裂したアルバムでもある。煌びやかで、官能的なのだ。
 ただ、『Ribbons』にソウルの要素が入っていたように、『BIB10』にもヴァイオリンの演奏を生かしたトラッドなムードもあれば(“Rain and Shine”)、アルバム後半、ビビオが得意とするアコギの弾き語りを骨格としたメロウなフォーク・ソングもある(“Phonograph”)。このアルバムで言えば、(歌詞というよりサウンドが)夜になってダンスフロアに向かうところからはじまって次第に朝が訪れるようなストーリーになっているが、様々な音楽が無理なく有機的に混ざり合っているのはこれまでのアルバムと同様だ。

 ビビオは10枚目のアルバムを自ら祝いたいと話しているが、長くビビオの音楽を聴き、その変遷を追ってきたリスナーからしても祝福ムードのある作品だ。わたしたちは彼が地道にプロデューサー、プレイヤー、ソングライター、そしてシンガーとしての幅を広げてきたのを知っているし、何よりも、どんなスタイルでもどこかノスタルジックな温かさを醸すその音楽に親しみを覚えてきた。初期に強く影響を受けていたボーズ・オブ・カナダのノスタルジーがそこはかとなく不気味さを滲ませているのに対し、ビビオのそれは素朴で優しい。
 せっかくの機会なので、『BIB10』の話だけでなく、本人にこれまでのキャリアを少し振り返ってもらった。ここでは新しいビビオと懐かしいビビオが溶け合っているから。

『Fi』と『Hand Cranked』に関しては、機材があまりないという「制限」がもとになって生まれたテクニックがたくさんあったし、それがあのローファイの美学を生んだんだよね。

音楽メディア〈ele-king〉です。あなたの音楽を長く聴いてきた読者が多いので、今回は10作目となる新作『BIB10』を起点としつつ、はじめにこれまでのディスコグラフィについても聞かせてください。あなたは2015年に『Fi』(オリジナル・リリース2005年)を、2021年に『Hand Cranked』(オリジナル・リリース2006年)をリイシューしていますが、こうした初期の作品を振り返ることは、近年の活動に影響を与えることはありましたか。

スティーヴン・ウィルキンソン(以下SW):どのようにかを言葉で説明するのは難しいけど、影響を受けることはときどきある。そのアルバムを作ったときの考え方や姿勢に影響を受けるんだ。今回のアルバムはそこまで影響は受けていないけど、『Ribbons』(2019年)は『Fi』のアイディアやテクニックみたいなものを受け継いでいると思う。『Fi』で使ったギアを、実際に使ったりもしたからね。

では、『BIB10』のインスピレーションは逆に何だと思いますか? 何から影響を受けているのでしょうか?

SW:それは、僕にとってはすごく面白い質問なんだ。なぜなら、何を「インスピレーション」と呼ぶのか、そしてそれが作っている作品にどう機能するのかというのを、僕自身、まだ学んでいる途中だから。アイディアっていうのは降りてくるし、それが何かははっきりしているんだけど、そのアイディアがなぜ出てきたのか、それを実らせた種が何だったのかは、本当に小さくてわからなかったりする。でもたとえば、『Fi』と『Hand Cranked』に関しては、機材があまりないという「制限」がもとになって生まれたテクニックがたくさんあったし、それがあのローファイの美学を生んだんだよね。そして、そこで学んだことは、いまでも生かされている。ギターのレイヤーを作ることはそのひとつ。いま、そのローファイの美学は前よりも洗練されているけど、いまだにあのときに戻ろうとするときもあるんだ。

〈Warp〉からの初リリースとなった『Ambivalence Avenue』(2009年)はあなたのキャリアにおいても重要な作品であり、『BIB10』においても『Ambivalence Avenue』でのエレクトロニックとアコースティックが両立していたのを意識していたとのことですが、いまから振り返って、あのアルバムのどんな点が秀でていると感じますか?

SW:あのアルバムを振り返ると、自分が思い切ったことをやったときを思い出す。とくにプロダクション。ローファイでフォークっぽいサウンドから、あのサウンドになったのは、僕にとっては大きな一歩だったんだ。そして、あのジャンルの幅広さも褒めていい部分だと思う。あのときはたくさんのことを一度にやっていて、結果、僕はそれをすべてあのアルバム一枚に落としこんだんだ。そして、それをみんなが気に入ってくれたから、自分のスタイルを変えてもいいんだという自信がついたものあのアルバムだったね。ローファイやフォークだけじゃなく、いろんなサウンドにチャレンジしていいんだという自信をもらえた。あと、20代のときに作ったアルバムだから、若い精神みたいなものも感じられるんだ。

2019年の〈Warp〉の企画『WXAXRXP Session』のときにもとは『Ambivalence Avenue』に収録していた “Lovers’ Carvings” のセルフ・カヴァーをシングル・カットしていますが、あの曲をピックアップしたのはどうしてでしょうか?

SW:あのカヴァーは、〈Warp〉の30周年記念のためのものだったんだけど、僕が〈Warp〉と契約したのは〈Warp〉の20周年のときで、“Lovers’ Carvings” はそのボックスセットに収録されている曲なんだ。僕にとってあの曲は、僕と〈Warp〉のキャリアの印みたいな作品なんだよ。

ヴァイナルって大事だと思うんだ。レコードだと、ストリーミングやCDみたいに簡単にトラックを早送りしたり、スキップしたりすることができないから。

『BIB10』はあなたの様々な音楽的要素が混ざった作品かと思いますが、単純にオリヴィエ・セント・ルイスが参加しているというのもありますし、ソウル・ミュージックの要素でわたしは第一印象では『A Mineral Love』(2016年)との共通点を強く感じました。あなた自身は、『A Mineral Love』のときに得た経験で大きなものは何でしたか?

SW:パッと思いつかないけど、あの作品も、それまでに自分がトライしたことがなかったものに挑戦したアルバムだった。僕にとっては、それが上手くいけば成功を意味するし、そして自信をもらえるんだ。『A Mineral Love』は、確実に新しいスタイルにチャレンジしたアルバムだった。オリヴィエとコラボしたのも、得た経験で大きなもののひとつ。あれがすごく上手くいったから、彼とはコラボをし続けたし、今回のアルバムに至っているからね。僕は、同じひとたちと共演するのが好きなんだ。そうすると数はあまり増やせないけど、そのアーティストと信頼関係を築いていくのはすごく良いことだと思う。その関係か築けているからこそ、オリヴィエとは本当に心地よくいっしょに曲を書くことができるんだ。

『BIB10』はフォーキーな要素が強かった『Ribbons』、あるいはEP「Sleeping on the Wing」からの反動もあったとのことですが、“Rain and Shine” のあなた自身のヴァイオリンなど、その時期の経験が生きている部分もあるように思います。『Ribbons』~『Sleeping on the Wing』のフォーキーな作品で得た経験で大きかったのは、やはりヴァイオリンやマンドリンをご自身で演奏されたことだったのでしょうか?

SW:そうだね。ヴァイオリンは独学で勉強したんだけど、すごく難しかった。でも、どうしてもアルバムで使いたくて頑張ったんだ。それが僕の新しいチャレンジになり、没頭することができた。新しい楽器を自分のサウンドに持ちこむというのは、プロデューサーとしての僕も興奮させられることなんだ。ヴァイオリンをはじめたきっかけは、『Ribbons』のふたつのトラックで友人がヴァイオリンを弾いてくれて、それを見て、僕も学びたいと思ったから。それで、2曲目以降は僕がヴァイオリンのパートを引き継ぐことにした。そして、そこから派生したのがマンドリンだったんだ。

独学でいくつもの楽器を弾けるようになるのはすごいですね。

SW:僕は、アルバムを出すたびに新しいチャレンジに挑むのが好きなんだよ。簡単なことをやるだけじゃつまらないからね。まったく新しいものにしたいのではなく、僕の場合、すでにあるものをさらに築きながら、新しいものを取り入れるというミックスだと思う。新しいことを学ぶことが好きだし、ビビオの意味を広げていきたいとも思うし、何かを発見し続けることがモチベーションになるんだ。

質問・序文:木津毅(2022年10月21日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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