「ZE」と一致するもの

Aphex Twin and Dave Griffiths - ele-king

 すでにご存じの方も多いかもしれないが、やはりお伝えしておこう。去る9月24日、エイフェックス・ツインがエンジニアのデイヴ・グリフィスとともに、無料のサウンド・デザイン・ソフトウェア「Samplebrain」を公開している。どうやら任意にマッシュアップができるようになるソフトのようだ。
「きみのコンピュータにあるmp3データから元のオーディオを再構築することができたら? アカペラ音源や、泡がぶくぶく言ってる音から303のリフをつくりだせるとしたら? クラシック音楽のファイルを再構成してふざけた曲を歌うことができたら?」とメッセージは告げている。「Samplebrain」ならそれができる、と。
 リチャード・Dの声明によれば、アイディア自体は2002年ころからあったものらしい。ちょうどmp3が普及しはじめ、Shazamがローンチしたころだったという。Shazamのべつの利用法を考えるなかで、今回の「Samplebrain」が発案されたようだ。
 お試しはこちらttps://gitlab.com/then-try-this/samplebrain)から。

今年気に入っているミニ・アルバム - ele-king

 人類全体が正しい方向に行く気がしない今日この頃ですが、皆さんはどうお過ごしでしょうか。僕はワクチンの副反応で左腕が痛みます。4回もワクチンを打つと政府によってチップを埋め込まれたりするのも抵抗がなくなりそうで怖いです。さて、今年はいいなと思うミニ・アルバムが多く、しかし、ミニであるがゆえにレヴューなどで取り上げにくかったので、まとめて紹介してみました。ははは。それにしても藤田ニコルは吉野家には似合わない。


Ben Lukas Boysen - Clarion Erased Tapes Records

 ベルリンからヘック(Hecq)名義で知られるiDMのプロデューサーによる7thアルバム『Mirage』から“Clarion”をカット。優しくゆったりとビルドアップされていく原曲がとてもいい。ミニマル・テクノとモダン・クラシカルを柔軟に結びつけることでシルクのようなテクスチャーを生み出したアイスランドのキアスモス(Kiasmos)によるリミックスはベースを足したトランス風。食品まつりによる“Medela”のリミックスはヨーロッパの黄昏をドタバタしたジュークに改変し、モグワイもタンジェリン・ドリーム調の“Love”を強迫的にリミックス。新曲2曲はポリリズムやリヴァーブを効かせた幸せモード。


Andy Stott - The Slow Ribbon Modern Love

 ウクライナ支援を目的として3月18日から24日まで一週間だけ限定配信された7thアルバム。支援を優先したからか、全体的には未完成の印象もあり、通して聴くのは少しかったるいものの、最後まで仕上げたらすごいアルバムになるのではないかという予感をはらんだ作品。ほとんどすべての曲で逆回転が多用され、極端に遅いテンポ、あるいはベーシック・チャンネルそのものをスロウで再生しているような“Ⅲ”かと思えば無機質さが際立つ“Ⅴ”など、中心となるアイディアは「ベーシック・チャンネルをJ・ディラがミックスしたらどうなるか」というものではないかと。これらにリバーヴのループがしつこく繰り返される。


Mass Amore - Hopeless Romantic Not On Label

 デンマークから謎のドローン・フォーク。いきなり回転数を遅くしたヴォーカルで歌う「私はあなたを愛しているけれど、見返りはなにもいらない~」。そして、そのまま恍惚としたような世界観がずるずると持続していく。今年、最も気持ち悪いのはレヤ(LEYA)の2作目『Flood Dream』だと思っていたけれど、マス・アモーレもかなりなもので、アースイーターが全開にした扉は〈4AD〉リヴァイヴァルを通り越してもはや退廃の極みへと達している。エーテル・ミュージックやドリーム・ポップという範疇はもはや飛び越えてシガー・ロスさえ堅苦しく思えてくる。


33EMYBW & Gooooose - Trans-Aeon Express SVBKVLT

 エイフェックス・ツインとのコラボレートで知られるウィアードコアがロックダウン中に幻想的な新幹線や時空の旅を題材に北京で開いた初エキジビジョン「オリエント・フラックス」で、そのサウンド面を担当したハン・ハンとウー・シャンミン(共に上海の元ダック・ファイト・グース。詳しくは『テクノ・ディフィニティヴ改造版』P245)がその延長線上に作成した7曲入り。2人の曲を交互に並べたもので、いつものブレイクビーツ・スタイルから離れてリスニング・タイプを志向し、とくにグースことハン・ハンが新たな側面を見せている。


Coco Em - Kilumi Infiné

 パリはアゴリアのレーベルからケニヤのエマ・ンジオカによるデビュー作。パンデミックで映像の仕事に行き詰まり、ロックダウン中にショ・マジョジがフリーで提供していたビートを使って行われた「セナ・アラ(Sena Ala)チャレンジ」に手応えを得て音楽制作を本格化。ラテンからアフリカに逆輸入されたリンガラ(ルンバ)に強く影響を受け、60年代にケニヤ東部のカンバで流行っていた音源をサンプリングし、トラップやアマピアノなどとミックスしたハイブリッド・タイプ。不穏な始まりからヒプノティックなドラミングが冴え、伝統とモダンの壁を飛び越えたタイトル曲や“Winyo Nungo”など粒ぞろいの曲が並ぶ。


Bernice - Bonjourno my friends Telephone Explosion

 トロントからロビン・ダンを中心とする5人組ポップ・バンドが21年にリリースした4thアルバム『Eau De Bonjourno』のリミックス盤。プチ・ダンサブルに仕上げたイヴ・ジャーヴィスを皮切りにヤング・マーブル・ジャイアンツを思わせる“Personal Bubble”をサム・ゲンデルがジューク風にリミックスするなど、インディ・ポップを小さな引き出しからはみ出させず、徹底的にスケールの小さな空間に押し込んだセンスがたまらない。カルベルズによる“Big Mato”はJ・ディラを悪用し尽くし、オリジナルも実にいい”It's Me, Robin”はニュー・チャンス・レトログレードがふわふわのドリーム・ポップにリミックス。


Tentenko - The Soft Cave Couldn't Care More

 元BiSによるレジデンツ・タイプの4曲入り。Aサイドは80年代テクノ・ポップ風。無国籍サウンドを追い求めていた日本人の想像力を完全に再現した感じ。打って変わってBサイドはマーチを複雑にしたような変わったビートの“Stalactite”と控えめなインダストリアル・パーカッションがじわじわと効く“The Fish Stone”は部分的にキャバレー・ヴォルテールを思わせる。実にオリジナルで、まったく踊れないけどなかなか面白い。ハンブルグのレーベルから。


Tsvi & Loraine James - 053 AD 93

 〈Nervous Horizon〉主宰とウエイトレスのルーキーによるコラボレーション。昨年の白眉だったベン・ボンディとスペシャル・ゲストDJによるワン・オフ・ユニット、Xフレッシュ(Xphresh)と同傾向で、刺すようなビートと柔和なアンビエントを明確に対比させ、美と残酷のイメージに拍車をかける。エイフェックス・ツインが切り開いたスタイルにモダン・クラシカルの要素を加えて荘厳さを増幅させている。耳で聴くパク・チャヌク。レーベルは改名した旧〈Whities〉。


Luis - 057 AD 93

 上記レーベルからさらにDJパイソンの別名義2作目。レゲトン色を薄めてアブストラクト係数を高めている。アルバムやシングルに必ず1曲は入れていたウエイトレスを様々に発展させ、ファティマ・アル・ケイデリやロレイン・ジェイムスの領域に接近、無機質でクールな空間の創出に努めている。6年前の1作目「Dreamt Takes」ではパイソン名義とそんなに変わらなかったので『Mas Amable』以降の大きな変化が窺える。


Sa Pa - Borders of The Sun Lamassu

 上記のアンディ・ストットほど大胆ではないにしてもミュジーク・コンクレートを取り入れてダブ・テクノを大きく変形させた例にモノレイクとサ・パがいる。モノレイクは具体音を駆使し、即物的なサウンドに仕上げるセンスで群を抜き、〈Mana〉から『In A Landscape』(19)をリリースして頭角を現したサ・パことジャイムズ・マニングはデッドビートとのジョイント・アルバムから間をおかずにブリストルの新たなレーベル〈Lamassu(=アッシリアの守護神)〉から新作を。ここではミシェル・レドルフィばりにベーシック・チャンネルを水の表現と交錯させ、日本の語りとスラブの昔話に影響を受けたという桃源郷モードに昇華。収益の半分はブリストルのホームレス支援団体(caringinbristol.co.uk)へ。


Daev Martian - Digital Feedback Alpha Pup

 南アからエレガントなビート・ダウン・ハウス。スポエク・マサンボジョン・ケイシーと活動を共にしていたようで、ビートの組み立てに影響が窺えるも、独自のメロウネスはむしろDJシャドウやフライング・ロータスといった西海岸の流れを思わせる(だからレーベルも〈Alpha Pup〉なのか)。LAビート直系といえる“Gratitude”からフィッシュマンズとフィル・アッシャーが混ざったような”Never Changes”まで。陽気なマサンボも昨年は抑制された『Hikikomori Blue(アフリカ人引きこもり低音)』をリリースし、ブリ(Buli)『Blue』など南アのボーズ・オブ・カナダ化が進んでいる?


Daniele Luppi, Greg Gonzalez - Charm Of Pleasure Verve Records

https://ototoy.jp/_/default/p/1358819

 シガレット・アフター・セックスのヴォーカルをフィーチャーしたイタリアの作曲家による5曲入り。ドリーム・ポップのレッテルを貼られてしまったけれど、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド“Sunday Morning”を思わせるオープニングから全体的にはアコギに分厚いストリングス・アレンジなどミシェル・ルグランやバート・バカラックといった60Sポップを正面から受け継ごうとする。キーワードは慈しみ。最近のザ・ナショナルからカントリー色を差し引いた感じかな。ダニエル・ルッピはデンジャー・マウスやレッド・チリ・ホット・ペパーズとの共作などでも知られる映画音楽家。

Fabiano Do Nascimento / Itibere Zwarg Collective - ele-king

 これは注目しておきたいコラボ作だ。リオ出身LA在住で、これまで〈Now-Again〉から作品を発表してきたブラジル音楽の新世代ギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメント(『21世紀ブラジル音楽ガイド』をお持ちの方は144ページを開こう)と、エルメート・パスコアール・グループを支えてきたヴェテラン・ベーシスト、イチベレ・ズヴァルギによる共作がリリースされる。日本オリジナル企画盤とのことで、フォーマットはCDとLPの2形態。華麗なギターが特徴的な、叙情性あふれるサウンドに仕上がっているようです。

FABIANO DO NASCIMENTO & ITIBERE ZWARG COLLECTIVE『RIO BONITO』
2022.12.3 LP Release(2022 レコードの日 対象タイトル)
2022.12.7 CD Release

現ブラジリアン・シーン屈指の人気を誇る実力派ギタリスト/コンポーザーで知られる、ファビアーノ・ド・ナシメントと、エルメート・パスコアール・グループの屋台骨イチベレ・ズヴァルギによるコレクティヴとのユニット作品が、日本オリジナル企画盤としてワールドワイドでレコード&CDリリース決定!!
サム・ゲンデルにブラジル音楽をシェアしたギターの名手であるファビアーノ・ド・ナシメントが、ピノ・パラディーノも魅了したベーシスト/作曲家のイチベレ・ズヴァルギのコレクティヴと美しい録音を完成させた。ロサンゼルスとリオデジャネイロを結び、そこにある共感を見事に捉えた、真に創造的で心躍らせるアルバムだ。(原 雅明 ringプロデューサー)

『リオ・ボニート』は、ファビアーノの作曲した曲を中心に、イチベレ・ズヴァルギ(エルメート・パスコアール・グループのベーシストで、多作の作曲家)と、彼の「コレチーヴォ・ドス・ムジコス」がアレンジしたアルバムである。本作は2021年初頭に、ファビアーノの自宅があるロサンゼルスと、イチベレと息子のアジュリナをはじめ、このプロジェクトに参加したミュージシャンの多くが居住するリオデジャネイロから南に2時間の町、リオボニート(タイトルの由来)で録音された。華麗なギター・プレイと、叙情性溢れるサウンドの響きをぜひ体感してほしい。

【リリース情報】
■ アーティスト名: Fabiano Do Nascimento / Itibere Zwarg Collective (ファビアーノ・ド・ナシメント&イチベレ・ズヴァルギ・コレクティヴ)
■ アルバム名:Rio Bonito (リオ・ボニート)
■ レーベル:rings
■ 解説:原 雅明
■ URL : Fabiano Do Nascimento / Itibere Zwarg CollectiveRIo Bonito (ringstokyo.com)

■ LP
リリース日:2022年12月3日(土)
価格 : 3,600円 + 税
品番:RINR11
LP販売リンク:https://diwproducts.net/items/631e92d623c2aa3df67ee6aa

■ CD
リリース日:2022年12月7日(水)
価格 : 2,600円 + 税
品番:RINC95
販売リンク:https://diwproducts.net/items/631e927df0b1087b108eff9a

Tracklist:
01. Starfish
02. Emotivo
03. Coletivo Universal
04. Strings for My Guitar
05. Luz das águas
06. Theme In C
07. Just Piano
08. Strings for My Guitar “Full Band”
09. Retratos
10. Kaleidoscope
11. Theme In C(Full Version)*Bonus Track

Zettai-Mu“ORIGINS” - ele-king

 大阪の KURANAKA a.k.a 1945 が主宰するパーティ、《Zettai-Mu “ORIGINS”》最新回の情報が公開されている。今回もすごい面子がそろっている。おなじみの GOTH-TRAD に加え、注目すべき東京新世代 Double Clapperz の Sinta も登場。10月15日土曜はJR京都線高架下、NOONに集合だ。詳しくは下記よりご確認ください。

Zettai-Mu “ORIGINS”
2022.10.15 (SAT)

next ZETTAI-MU Home Dance at NOON+Cafe
Digital Mystikzの Malaが主宰する UKの名門ダブステップ・レーベル〈DEEP MEDi MUSIK〉〈DMZ〉と契約する唯一無二の日本人アーティスト GOTH-TRAD !!! ralphの「Selfish」 (Prod. Double Clapperz) 、JUMADIBA「Kick Up」など(とうとう)ビッグチューンを連発しだしたグライムベースミュージックのプロデューサーユニット〈Double Clapperz〉Sinta!! CIRCUS OSAKA 人気レギュラーパーティー〈FULLHOUSE〉より MileZ!!
大阪を拠点に置くHIPHOP Crew〈Tha Jointz〉〈J.Studio Osaka〉から Kohpowpow!!
27th years レジテンツ KURANAKA 1945 with 最狂 ZTM Soundsystem!!
2nd Areaにも369 Sound を増設〈NC4K〉よりPaperkraft〈CRACKS大阪〉のFENGFENG、京都〈PAL.Sounds〉より Chanaz、DJ Kaoll and More!!

GOTH-TRAD (Back To Chill/DEEP MEDi MUSIK/REBEL FAMILIA)
Sinta (Double Clapperz)
MileZ (PAL.Sounds)
Kohpowpow (Tha Jointz/J Studio Osaka)
and 27years resident
KURANAKA a.k.a 1945 (Zettai-Mu)
with
ZTM SOUND SYSTEM

Room Two
Paperkraft (NC4K)
FENGFENG (CRACKS)
Chanaz (PAL.Sounds)
DJ Kaoll
Konosuke Ishii and more...
with
369 Sound

and YOU !!!

at NOON+CAFE
ADDRESS : 大阪市北区中崎西3-3-8 JR京都線高架下
3-3-8 NAKAZAKINISHI KITAKU OSAKA JAPAN
Info TEL : 06-6373-4919
VENUE : https://noon-cafe.com
EVENT : https://www.zettai-mu.net/news/2210/15

OPEN/START. 22:00 - Till Morning
ENTRANCE. ADV : 1,500yen
DOOR : 2,000yen
UNDER 23/Before 23pm : 1,500yen
※ 入場時に1DRINKチケットご購入お願い致します。

【予約はコチラから】
>>> https://noon-cafe.com/events/zettai-mu-origins-yoyaku-7
(枚数限定になりますので、お早めにご購入ご登録お願い致します。
 LIMITED枚数に達した場合、当日料金でのご入場をお願い致します。)

【新型コロナウイルス感染症拡大防止対策】
・マスク着用での来場をお願いします。
・非接触体温計で検温をさせて頂き、37℃以上の場合はご入場をお断り致しますので、予めご了承ください。
・店内の換気量を増やし、最大限換気を行います。
・体調がすぐれないとお見受けするお客様がいらっしゃいましたら、スタッフがお声がけさせて頂きます。

【お客様へご協力のお願い】
以下のお客様はご来場をお控え頂きますようお願い申し上げます。
・体調がすぐれないお客様
・37℃以上の発熱や咳など風邪の症状があるお客様
・くしゃみや鼻水などによる他のお客様にご迷惑をかけする可能性があるお客様
・60歳以上の方のご入店をお断りしています 。

その他、会場 WEB SITE : https://noon-cafe.com を参照下さい。

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● Special Supported by Flor de Cana

The Lounge Society - ele-king

 何年か前にロンドンの新興レーベル〈Speedy Wunderground〉のインタヴューを読んだときに一際印象に残ったのは、イングランド北部の街ヘブデン・ブリッジの少年たちからデモが送られてきたというエピソードだった。サウス・ロンドンのプロデューサー、ダン・キャリー(ゴート・ガールフォンテインズD.C.のアルバムのプロデューサー)がはじめたこのレーベルは当時ノリに乗っていた。19年前半にブラック・ミディブラック・カントリー・ニューロードスクイッドを連続リリースし、このデモが送られてきたと思しき19年後半から20年はじめにかけてはツリーボーイ&アーク、シネイド・オブライエン、ラザロ・カネ、ピンチ、PVAをリリースしていたようなそんな時期だ。そしてロンドンから離れた場所に住むこの北部の15歳の少年たちは自分たちこそそれらに続くバンドにふさわしいと信じてメールを送った(同時にそれはこのレーベルがいかにクールなのかと少年たちが認識していたかということの証明でもある)。
 〈Speedy Wunderground〉に届いた一通のメール、そんなふうにしてはじまったバンドの物語。レーベルのA&Rを担っているピエール・ホールは20年5月の『Yuckマガジン』のインタヴューで少年たちのバンドについてこう語っている。「ダンが最初にこのバンドを聞いて、いかに素晴らしいかって興奮してそれを伝えるために僕にメールしてきたんだ。もちろん僕も気に入ったよ」「レコーディングの日、彼らは模擬テストがあって、ロンドンに出てくるのは校長先生の許可が必要だったんだ。友だちが試験を受けている間に、世界で最もホットなプロデューサーと一緒にレコーディングをしているってめちゃくちゃクールだよね」。そう笑って話すピエール・ホール。そのバンドこそがザ・ラウンジ・ソサエティであって、その曲こそが彼らのデビューシングルとなった “Genaration Game” だった。

 このエピソードを聞いたとき、僕はもうサウス・ロンドンの次のシーンがはじまったのかと驚きそして同時にワクワクした。ウィンドミルに出演していたようなバンドたちの音楽を聞いてバンドをはじめた少年たちが世の中に打って出る、盛り上がりを見せるシーンの裏で新たな物語が立ち上がる、そうやって音楽は脈々と受け継がれていく。ラウンジ・ソサエティの登場は次世代のバンドのはじまりを確かに感じさせるものだった。

 そうして少年たちは時を重ねる。21年にリリースされたEP「Silk For The Starving」、22年にリリースされたデビュー・アルバム『Tired Of Liberty』、幼さの残る子ども時代の面影は消え去り、その輪郭はどんどんシャープになっていく。このアルバム『Tired Of Liberty』に漂う空気はどうだ? 抑圧されるなかで生まれたエネルギーが理想的にやさぐれて、いにしえの時代から続くアートと不良とロックンロールが暗く輝くステージの上で混ぜ合わされている。
 この1stアルバムには彼らが影響を受けたであろう音楽の要素がそこらかしこに見え隠れする。ザ・ストロークスにトーキング・ヘッズ、NYパンクの匂いがあって、初期のサウス・ロンドン・シーンのバンドと共鳴するようなポストパンクの音も聞こえてくる。ギターの音は艶があり、少しクセのあるヴォーカルはライヴハウスの熱気をそのまま伝える。このアルバムはダン・キャリーとともに彼の自宅のスタジオで2週間で録音されたようだが、その手法はゴート・ガールの1stアルバムをプロデュースしたときに近かったのではないだろうか? つまりほとんどライヴ録音に近い形で、作り込まれた完成度よりも彼らの持つ熱と生々しさをそのまま閉じ込めるようにしてこのアルバムは作られたのではないかということだ。そしてそれはロック・バンドとしてのラウンジ・ソサエティの姿を浮き彫りにする。

 オープニング・トラック “People Are Scary” の70年代の映画のような色合いの少し芝居がかったギターとドラムの音、その音は頭の中にある「銃口を見つめる世代」(“Genaration Game”)のロック・バンドの姿をアップデートさせる。モノクロの世界が色づき、色をまとい、そこにいにしえの映画スターやロックスターの姿が投影されていく。わずかに間を置き静かになだれ込む “Blood Money” のギターのリフがやはりスクリーンの世界の幻想を想起させ心をざわつかせる。ここにあるのは現代の、古典的なロック・スター/ロック・バンドの姿だ。『Tired of Liberty』(自由にうんざり)というアルバムのタイトルは皮肉にみちていて、抑圧された日常の中で存在しない自由を渇望し、押しつけられたものではない自由の形を追い求めているように僕には思える(あるいはそれはある種の解放で、周囲に押し込められた決めつけの箱──たとえばそれはこのバンドはサウス・ロンドン・シーンから出てきたポストパンク・バンドであるという言葉で終わらされるような──の中から出るというような意味合いも込められているのかもしれない)。

 若く反抗的なバンドのその姿は何度でも音楽シーンに興奮とロマンを付与する。そしてこの物語の先をもっと見てみたいという欲求を生じさせるのだ。「あんたの嘘は全て皮肉で塗り固められている」「いつだって金が優先だ/あんたがするように、俺たちがそうするように/その手は血にまみれている」。“Blood Money” においてラウンジ・ソサエティは不健全で不透明な世界に対してそういら立ちを滲ませる(政治的なテーマはどうしたって日常にリンクするとバンドは言う。それはたとえばブレグジットによってヨーロッパツアーが容易にできなくなるとういう形で現れる。あるいはその反対にヨーロッパのバンドが簡単にUKに入ってこられなくなるといった形で。いまやそれが許されるのは既に成功している人たちだけなのだと)。
 それらのフラストレーションは音楽として表現され、楽曲の中に現れる。エレクトロニクスのビートと組み合わされた “No Driver” はレトロムードが漂う世界観で、安っぽいドラマと譲れない美学が混じり合ったような焦燥と暗く沈んだ不安定な疾走が表現されている(逃避的な解放を求めて。だが結局はどこにもいけないのかもしれない。しかしだからこそラウンジ・ソサエティのような音楽が必要なのだと僕は思う)。最終曲、再録された “Genaration Game”、よりラフに崩されぶっきらぼうに吐き捨てられたヴォーカルの興奮はまさにゴート・ガールの1stにおける “Country Sleaze” を彷彿させて、時の流れが可視化され現在のバンドの姿がそこに重なる(それは1周して戻ってくる物語のタイトルの回収のようなものだ)。

 ラウンジ・ソサエティは決して爆発しない。その一歩手前で立ち止まりフラストレーションを抱え続ける。焦燥を煽るギター、不満をぶつける先を探すようなヴォーカル、不健全で不透明な世界へのいら立ち、彼らのEPに収録されている “Cain's Heresy” のビデオに映るゴードン・ラファエル(ストロークス初期2作のプロデューサー)はこのアルバムを聞いていったいなんて言うだろう。新しい世代のストロークスになりたいと野心を抱くバンドのヒリヒリとしたステージのその最初の幕がここに上がり、そしてつられてそのボリュームを上げたくなる。

Fontaines D.C. - ele-king

 ザ・スミスが引き合いに出されるなど、サウンドのみならずその文学性も称賛されているダブリンのバンド、4月にリリースしたサード・アルバム『Skinty Fia』がそれはもう高い評価を獲得しているザ・フォンテインズD.C.。残念なことにフジロックへの出演がキャンセルとなっていた彼らだが、ここへ来て一陽来復、あらためて初来日公演がアナウンスされている。来年2023年の2月、大阪(梅田 CLUB QUATTRO)と東京(Spotify O-EAST)の2か所を巡回。今日におけるインディ・ロック復権を担う5人組のパフォーマンスを、この目にしかと焼きつけるまたとないチャンスだ。これは行くしかないでしょう。

ニュー・アルバム『SKINTY FIA(スキンティ・フィア)』がUKアルバム・チャート1位、を獲得。
2022年を象徴するロック・バンドに成長したフォンテインズD.C.。
無念のフジロックのキャンセルを経て遂に初来日公演が決定!

『Japan Tour 2023』

FONTAINES D.C.

Fontaines D.C.はアイルランドのダブリン出身のポストパンク・バンド。2019年4月、デビュー・アルバム『Dogrel』をリリース。アルバムはNME(5/5)、The Guardian(5/5)、Pitchfork(8.0/10)と各メディアで高い評価を獲得。UKチャートの9位、アイルランド・チャートの4位を記録し、ツアーは軒並みソールド・アウト。Rolling Stone誌は「我々のお気に入りの新しいパンク・バンド」とバンドを絶賛。The Tonight Show with Jimmy Fallon にも出演し、アルバムはRough TradeとBBC 6Musicの年間ベスト・アルバムの1位を獲得。2019年のマーキュリー・プライズにもノミネートされた。2020年7月にはセカンド・アルバム『A Hero’s Death』をリリース。アルバムはUKチャートの2位、アイルランド・チャートの2位を獲得。アルバムは多くのメディアで年間ベスト・アルバムの1枚に選ばれ、第63回グラミー賞の「Best Rock Album」にもノミネートされた。また、2021年4月、バンドはブリット・アワードの「International Group」にもノミネートされた。アイルランドという自らのアイデンティティを問うサード・アルバム『スキンティ・フィア』はUKアルバム・チャート1位、アイルランド・アルバム・チャート1位を獲得し。待望の初来日公演が決定した!

2023年2月17日(金)大阪 梅田 CLUB QUATTRO

2023年2月18日(土)東京 Spotify O-EAST

(問)SMASH:https://smash-jpn.com/

2022.4.22 ON SALE[世界同時発売]

全英2位を記録しグラミー賞/ブリット・アワードにノミネートされた前作から2年、フォンテインズD.C.の新作が完成。
アイルランドという自らのアイデンティティを問うサード・アルバム『スキンティ・フィア』、リリース。

●プロデュース:ダン・キャリー

アーティスト:FONTAINES D.C.(フォンテインズD.C.)
タイトル:SKINTY FIA(スキンティ・フィア)
品番:PTKF3016-2J[CD]
定価:¥2,500+税
その他:世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック収録
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ

収録曲目:
01. In ár gCroíthe go deo
02. Big Shot
03. How Cold Love Is
04. Jackie Down The Line
05. Bloomsday
06. Roman Holiday
07. The Couple Across The Way
08. Skinty Fia
09. I Love You
10. Nabokov
11. I Love You - Live at Alexandra Palace*

*Bonus Track

「Fontaines D.C.の最高傑作」- Rolling Stone ★★★★★
「インスタント・クラシック」- The Times ★★★★★
「息を呑むようなコレクション」- NME ★★★★★
「自分たちの進むべき道がはっきりしたバンド」- DIY ★★★★★
「Fontaines D.C.はここに留まるだけではなく、支配するためにここにいることを証明する」- The Line Of Best Fit (10/10)
「彼らはこれまでの最高傑作を作った」- Dork ★★★★★
「Fontaines D.C.はますます良くなっている」- The i Paper ★★★★★ (Album of the Week)
「この時代の最も重要なグループのもう一つの勝利」- Record Collector
「今世紀最もスリリングなギター・バンドの一つ」- Mr. Porter
「ファンタスティックなアルバム」– Uncut
「巨大なパワーと目的を持ったもうひとつの作品」- The Telegraph

NME (★★★★★)
DIY (★★★★★)
The Times (★★★★★)
Rolling Stone (★★★★★)
The i Paper (★★★★★)
Evening Standard (★★★★)
Daily Express (★★★★)
Daily Star (★★★★)
The Guardian (★★★★)
Upset (★★★★★)
Dork (★★★★★)
The Line of Best Fit (10/10)
Uncut (9/10)
Sunday Times Culture (★★★★ & Album of the Week)
Record Collector (★★★★)
MOJO (★★★★)
Loud and Quiet (9/10)
Louder Than War (9/10)
CLASH (8/10)
Gigwise (9/10)
Examiner (★★★★★)
Irish Times (★★★★)
Pitchfork (8/10)

●Fontaines D.C.はサード・アルバム『Skinty Fia』を2022年4月22日、Partisan Recordsよりリリースする。プロデューサーのDan Careyと3度目のタッグを組んだ『Skinty Fia』は、全英2位を記録し、BRIT Awards 2021(ブリット・アワード)とGRAMMY(グラミー)にノミネートされた2020年のセカンド・アルバム『A Hero's Death』に続く作品となる。バンドが最初に世界的な注目を集めたのは、2019年にリリースされたデビュー・アルバム『Dogrel』が、その年に最も高く評価された作品のひとつとなり、Mercury Music Prize(マーキュリー賞)のショートリストに選ばれた時だ。それ以来、彼らはここ数年で最も新鮮で刺激的な若いバンドの1つ、として認知されている。BRITS(Best International Group)、GRAMMY(Best Rock Album)、Ivor Novello Awards(Best Album)にノミネートされた後、バンドはパンデミックのロックダウンから戻り、『Skinty Fia』の作業を終える前に、ロンドンのAlexandra Palaceでのチケット1万枚全てをソールド・アウトさせた。『Skinty Fia』はアイルランド語で、英語に訳すと「the damnation of the deer(鹿の天罰)」となる。アルバムのカバーには、自然の生息地から連れてこられ、人工の赤い光に照らされた家の廊下に置き去りにされた鹿が描かれている。大きな鹿はアイルランドでは絶滅種であり、バンドのアイルランド・アイデンティティに対する考えは、『Skinty Fia』の中心をなす。『Dogrel』にはダブリンのキャラクター(「Boys In The Better Land」のタクシー運転手等)のスナップショットが散見され、『A Hero's Death』ではバンドがツアーで世界を回る中で感じた疎外感と断絶が記録されているが、Fontaines D.C.は『Skinty Fia』で、自分たちが新しい人生を別の場所で作り直す中、遠くからアイルランド性を訴えているのだ。D.C.は「Dublin City」の略で、故郷というものが体内に脈々と流れるバンドにとってのこのアルバムは、視野を広げる必要性と、残してきた土地と人々への愛情を解決しようとする姿を見せてくれるものである。『Skinty Fia』には『Dogrel』の荒々しいロックンロールや、『A Hero's Death』の荒涼とした雰囲気が存在する。しかし、三部作の三枚目となるこのアルバムは、より広大でシネマティックだ。Fontaines D.C.は常に進化を続けているバンドだ。結果、『Skinty Fia』には、移り変わるムード、驚くべき洞察力、成熟等が内包され、大きく感情移入できる作品へと仕上がった。

●Fontaines D.C.はアイルランドのダブリン出身のポストパンク・バンドだ。メンバーはCarlos O'Connell(g)、Conor Curley(g)、Conor Deegan III(b)、Grian Chatten(Vo)、Tom Coll(Dr)。5人がダブリンのミュージック・カレッジで出会い、バンドはスタートした。2019年4月、デビュー・アルバム『Dogrel』をリリース。アルバムはNME(5/5)、The Guardian(5/5)、Pitchfork(8.0/10)と各メディアで高い評価を獲得。UKチャートの9位、アイルランド・チャートの4位を記録し、ツアーは軒並みソールド・アウト。Rolling Stone誌は「我々のお気に入りの新しいパンク・バンド」とバンドを絶賛。The Tonight Show with Jimmy Fallon にも出演し、アルバムはRough TradeとBBC 6Musicの年間ベスト・アルバムの1位を獲得。2019年のマーキュリー・プライズにもノミネートされた。2020年7月にはセカンド・アルバム『A Hero’s Death』をリリース。アルバムはUKチャートの2位(1位はTaylor Swift)、アイルランド・チャートの2位を獲得。アルバムは多くのメディアで年間ベスト・アルバムの1枚に選ばれ、第63回グラミー賞の「Best Rock Album」にもノミネートされた。また、2021年4月、バンドはブリット・アワードの「International Group」にもノミネートされた。

■More info: https://bignothing.net/fontainesdc.html

interview with Danger Mouse - ele-king

 それは間違いなく事件だった。ジェイZの『The Black Album』(2003)のリミックスを、あろうことかビートルズの『The Beatles (White Album)』(1968)からのサンプルで制作するという企みは『The Grey Album』(2004)というネット上で流通する作品の形で結実した。その首謀者はデンジャー・マウスという人を食ったような名前をまといキャラ立ちしたプロデューサーだった。ポール・マッカートニーにさえ歓迎されながらも音源使用クリアランスの問題で決して正式にはリリースされないそのスキャンダラスな作品は、ヒップホップにおけるサンプリングというアートフォームの可能性と限界を同時に指し示すものだった。

そしていま約20年の時を経て、マルチプレイヤーとして、プロデューサーとして多くの経験を積んだデンジャー・マウスが、ヒップホップ史上最高のMCのひとりであるブラック・ソートとタッグを組み、再びサンプリングというアートフォームに向き合った作品をリリースした。音声やリズム面の快楽を撒き散らしながらもパズルのように絡まり合う意味をほどいていく面白さを教えてくれるブラック・ソートのリリックと、これまでになくエモーショナルで映像を喚起させるようなデンジャー・マウスのビートの相乗効果は凄まじく、現行のヒップホップ・シーンで盛り上がりを見せるブーンバップ・ルネッサンスに一石を投じる作品となった。『Cheat Codes』と名付けられたこの傑作の成り立ちについて、デンジャー・マウスその人に話を聞いた。

僕が今回求めていたのは、メランコリーでドラマティックなサウンド。

おふたりが出会ってから約20年越しのアルバム完成ということですが、なぜ、どのようにしてこのタイミングでアルバムの共作となったのでしょう?

DM:僕たちが出会ったのは2005年。最初に出会った場所はスタジオで、一緒に音楽やアルバムを作れたらいいねという話になって、そのあとしばらくしてからアイディアをいくつかレコーディングしたんだ。レコーディングしたものは、すごくクールで良かったんだけど、そこからもっと踏み込むつもりで少し寝かせていたら、ふたつのことが起こってしまってね。ひとつはナールズ・バークレイ(Gnarls Barkley)。そしてもうひとつは、タリク(Black Thought)がザ・ルーツの活動で忙しくなったから、お互いに時間がなくなってしまったんだ。で、そこから何年も経って、2010年か2011年にまた会って一緒に曲を作ったんだけど、そのあとまた忙しくなり、またそこから時間が経って、2017年か18年に電話で話した。そのときに、やっぱりどうしてもアルバムを完成させたいという話になって、電話をした2日後くらいにスタジオに入って、制作をはじめて、このアルバムができ上がったんだ。

楽曲の制作プロセスを教えてください。まずあなたがビートを作り、タリクがリリックを書いてレコーディングしていったのでしょうか? 特に普通ではないプロセスで生まれた曲があれば教えてください。

DM:まず僕が、ビートを含めいろいろな種類の音を作って、タリクが朝に僕の家に来て、僕が作ったビートを聴いて、彼がその中から選んだものを使って僕が音楽を書きプレイして、彼がリリックを書き、それをレコーディングした。アルバムのほとんどは、そのプロセスででき上がったんだ。コロナがあったから、ゲストの何人かは一緒にレコーディングできずに別々でレコーディングした曲もあったけど、それはコロナ禍でなくてもあることだから、普通でないとまではいえないかな。エイサップ・ロッキーは一緒にレコーディングしたけど、ラン・ザ・ジュエルズはリモートだったりしたんだよ。シンガーのパートも、別録しなければならなかった部分がいくつかあった。まあ、前からそういうプロセスも経験しているから、めずらしいことではなかったけどね。

今回のサウンドは、サンプリングのループを中心としながらも、マルチプレイヤーのあなたが楽器の演奏を足しているように聞こえますが、どこまでがサンプリングでどこまでが演奏なのか区別できないほど馴染んでいますね。

DM:サンプルだけを使った曲と、サンプルと生演奏がミックスされたものが入った曲があるんだ。それが区別できないほど馴染んでいると思ってもらえたのは嬉しい。それは、僕が意識したことだからね。これまで僕は、生楽器を使った作品もたくさん作ってきたし、サンプルを使った作品も作ってきた。でも今回は何もルールを設ける必要はなかったし、自分が何かを加えたい、加える必要があると思ったらそれを加えるという、本当に直感と自然の流れに任せたやり方で曲を作っていったんだ。僕が今回求めていたのは、メランコリーでドラマティックなサウンド。それを作り出すために、もう少しその感情を表現するために何かが必要だと思ったら、コード進行を考えたり、それに合ったサウンドを自由に加えたり取り除いたりしながら作っていったんだ。

やはり相当意図的なものだったんですね。そのサンプリングされているレコードの演奏に耳を傾けると、ひとつひとつの楽器のサウンドは当然録音された時代のヴィンテージ感があるにもかかわらず、同時にあなたの演奏であってもおかしくないほど現代的でクリアな分離が良いものとなっています。なぜこんなことが可能なのでしょう? 今作はミックス、サンプリング・サウンドの楽器の粒立ちというものに相当気を遣いましたか?

DM:2005年に彼と初めて出会ったときは、まだそこまでそのブレンドはうまくできていなかったと思う。でも、いまはその加減がわかるんだ。もちろん、やってみてしっくりこない混ざり方になってしまうこともあるけど、そのときはボツにするしね。このアルバムで聴くことができるのは、その成功例。どうして可能なのかを言葉で説明するのは、かなり技術的な話になってしまうからちょっと難しい。僕自身も、そういう技術的な部分が必要になってきたときは、エンジニアと一緒に作業するんだ。僕はプロのエンジニアではないからね。大切なのは、自分がその曲に何を求めているのかをきちんと把握していること。何を必要としているのかという目的がハッキリしていれば、それを作り出すために何を取り入れて重ね合わせるべきかがわかるからね。サンプルを使うなら、何のためにつかうのかというポイントを押さえて使いはじめなければならない。それがわかっていれば、作業はグッと楽になると思う。

僕が意識しているのは、その音楽を聴いたときに、その音を誰が演奏しているのかを人びとが想像できないサウンドを作るということ。僕は、リスナーに楽器を演奏している人を想像してほしくないんだよね。

基本はサンプリング・ネタにブレイクビーツの組み合わせという、非常にブーンバップの正統的な手法で制作されているような本作ですが、実はとても繊細な仕掛けがそこかしこに為されています。たとえば “Identical Deaths” のビートは一聴すると、最近オーセンティックなブーンバップ曲で流行っている完全なるワンループ、つまりドラムもウワモノもどちらも含んでいるネタのワンループに聞こえます。でもさらに耳を傾けると、フィールド・レコーディングのような街のざわめきが重なっていたり、後半部分ではラウドなブレイクビーツが絡む間奏があったりと、非常にシネマティックな作りになっています。あなたはこれまでデヴィッド・リンチやダニエル・ルッピなど映画監督や映画音楽制作者とも仕事をしてきていますが、今作の制作にあたって「映像的」な作品を作るという意図はありましたか?

DM:僕は比較的すべてのものをシネマティックな捉え方で見ているから、それが映像的な要素になっていると思う。自分が作品を作っているときも、サンプルを探しているときも、僕自身がそういうサウンドに惹かれるしね。でも、意図的に自分の作品を映像的にしようとしているというよりは、それを作り終えたあとに、自然とそうなっていることが多いんだ。僕が意識しているのは、その音楽を聴いたときに、その音を誰が演奏しているのかを人びとが想像できないサウンドを作るということ。僕は、リスナーに楽器を演奏している人を想像してほしくないんだよね。ドラムやギターを演奏する姿を思い浮かべてほしくないんだ。僕が作りたいのは、自分自身の世界を想像できるような音楽。だから、僕が求めている音楽は、背景にいるミュージシャンのことを考えさせない音楽なんだ。映画音楽は、それが実現できてる音楽だと思う。演奏ということを意識させずに人びとの頭の中に入っていく音楽だからね。

普段、視覚的なイメージにインスパイアされて音楽を作るケースはありますか?

DM:いや、ヴィジュアルにインスパイアされて音楽を作ることはほとんどない。それよりも、僕は音楽を聴いて、リスナーが自分のヴィジュアルを作り出し、それを感じてほしいんだ。

今作のシネマティック、という印象は、物語性を感じさせるという意味でもあります。今回のサンプリングされたサウンドの数々は、各楽器や歌声、ドラムの音まで非常に1970年代を感じさせる温かみのあるアナログ感が強調されています。さらに “Aquamarine” や “Saltwater” のように、ベースラインの動きで元ネタのサンプル・ループを4小節以上のコード進行のある叙情的な展開が作られていることで、背後に物語の存在を感じさせる曲作りになっていると感じました。あなたのミュージシャンとしての側面から、コード進行やハーモニーのある楽曲展開は自然と出てくるものでしょうか?

DM:自分が好きなものを取り入れている過程で、自然と出てくるんだ。自分が惹かれるものと、自分が作ろうとするものは似てくるからね。コード進行に惹かれることもあれば、楽器に惹かれることもあるし、テクスチャーに惹かれることもある。そういった魅力あるサウンドに自分が作るものを近づけようとする過程で、より楽しく、より意味のある展開ができ上がっていくんだよ。たとえば “Saltwater” は、サンプルには含まれていなかった感情を加えるために、あのベースラインを追加したんだ。そうすることで、新しいエモーショナルな要素が加わって、より良いものが生まれると思ってね。

そのような楽曲展開への志向が、ヒップホップ的なミニマルなワンループという制約でもあり美学でもあるものとあなたの中でぶつかり合うことはありますか?

DM:それは、僕がずっと前にサンプリングをしばらくやめた理由のひとつだった。デーモン・アルバーンと一緒にゴリラズのアルバムを制作していた頃は、ドラムのサンプルは使っていたけど、音楽的なサンプルはほとんど使わなかったんだ。コード進行やハーモニー、その他いろいろなものを使ってみたくても、サンプルを手にすると、そこにあるものに縛られてしまう。頭の中にアイディアがあっても、サンプルをアレンジして、その方向性を変えることはできない。ずっと前にすでに演奏されたものを、いまいきなり変えることはできないんだ。だからしばらく遠ざかっていたんだけれど、やっぱり良いものは存在するし、僕がサンプリングが大好きなことは紛れもない事実なんだよね。そして、サンプルを使うからこそ生まれる制約が逆に良いものをもたらすこともある。どちらがいいとかではなく、サンプリングと楽曲展開は別物なんだ。僕はそれを混ぜ合わせることができるけど、そこにはやはり生まれるものと失われるものがあると思う。

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個別の楽曲についても少し教えてください。“Belize” にはMFドゥームがフィーチャリングされていますが、『Danger Doom』のリリースから17年が経過しています。どのようにしてドゥームをフィーチャーすることになり、この曲は生まれたのでしょう?

DM:MFドゥームの部分をレコーディングしたのはずいぶん前だった。ドゥームとブラック・ソートは互いのファンで知り合いだったから、ドゥームのヴァースとブラック・ソートのヴァースを2、3曲レコーディングしていたんだ。で、僕がそれを使ってときどき作業はしていたんだけど、結局完成させることができずにいた。でも、このアルバムのために、“Belize” としてきちんと仕上げさせることにしたんだ。で、それが決まってから、このアルバムのムードとフィーリングに合うように、音楽を加えていったんだよ。あと、オリジナルのトラックには悲しみの要素はなかったけど、ドゥームが亡くなったいま、この曲には悲しみが必要だとも思って、それを加えたりもした。だから曲単体の雰囲気も変わったと思うし、アルバムにとても合う作品に仕上がったと思う。

“The Darkest Part” では、キキ・ディーの楽曲のサンプリング・フレーズを使っていますが、そのスピードとピッチを変化させることでコード進行をつけ、キッド・シスターの歌うフックが乗ることで全く新しい楽曲が生み出されています。これはサンプリング素材を使って新しい絵を描くという、非常にクリエイティヴな手法に思えます。どのようにしてこのような手法にたどり着いたのでしょう?

DM:その曲は、アルバムに収録されているものとは最初全く違っていたんだ。曲のほぼすべてが、ドラムのサンプルとキキのサンプルだったからね。すごくゴチャゴチャしていて、複雑だったんだ。で、アルバムができ上がるにつれて、僕が改めてその曲のためにコーラスの部分を書いて、それを歌ってくれるヴォーカルが必要になった。そこでキッド・シスターに連絡を取ったんだ。で、彼女の声はもちろん良かったんだけど、曲がまだまだゴチャゴチャすぎてしっくりこなかったから、ドラムのサンプルを全部取っ払ったんだよね。それから、僕のスタジオで働いてくれているサム・コリンに頼んでドラムを演奏してもらって、それをチョップして曲に加えたんだ。そうすることで、ボーカルがより目立つようになったと思う。その曲は、かなり試行錯誤してでき上がった曲なんだよ。その変化を加えるまで、アルバムに収録しようとさえ思えていなかったんだ。

アルバムの中であなたがお気に入りの曲はありますか?

DM:特別この曲ということはないけれど、“Aquamarine” は、ブラック・ソートの視点から見ていちばんエキサイティングな曲のひとつだと思う。あの曲が持つエモーションも好きだし。

確かに “Aquamarine” は本作の中でもひと際輝いている楽曲のひとつだと思います。あなたの壮大なスケール感のあるビートの上で、タリクがノリにノッて溢れ出すリリックをスピットしている感覚が伝わってきます。これらの楽曲が生まれた環境についてはいかがしょう。アルバム制作で使ったサンプラーやDAW、楽器、マイクなどのレコーディング機材について可能な範囲で教えてもらえますか。ハードウェアのサンプラーは使用していますか、それともPC上のソフトウェアでしょうか?

DM:ごめん。僕は機材に関しての質問には答えないことにしてるんだ。たぶん、ハードウェアのサンプラーは今回は使用していないと思う。ほとんどがソフトウェア。それが僕の原点だからね。『The Grey Album』も全部ACIDで作ったし。いまでもACIDを使ってるんだ。

サンプルを使うからこそ生まれる制約が逆に良いものをもたらすこともある。どちらがいいとかではなく、サンプリングと楽曲展開は別物なんだ。僕はそれを混ぜ合わせることができるけど、そこにはやはり生まれるものと失われるものがあると思う。

なるほど、いまでもACIDを使っているんですね。ありがとうございます。ではハイファイになりすぎないヴィンテージサウンドを表現するために、特に駆使したプライグインはありますか? それも含めサンプリング・ネタとドラムやブレイクビーツをフィットさせるために、どのような点に気を遣いましたか?

DM:その質問にも答えられないんだ。申し訳ない。いい質問だとは思うよ(笑)。スタジオにいてくれたら何を使っているのか見せるんだけど、言葉だけだと説明が難しいんだ。どの点に気を使ったかも言葉にするのが難しい。サンプルを探すときに、自分が他の人が見ているのとは違う部分に注目している音源を探したり、あまりにもハッキリとした特徴がないものを探すことかな。でも、あまり考えずに、これ最高だな! と思うものを選ぶこともある。そのサンプルの原型を崩しても、しっかりと機能するものである必要もある。それが機能するかは、もちろんまずは試してみる必要があるけどね。バランスが大切なんだ。

タリクは以前のインタヴューで「ブライアンの音楽を聴くと、リリックが自然と流れてくることに気づき、解放された気分になった」と言っていました。たしかに “Aquamarine” や “Saltwater” のようなビートにはラッパーを没入させる強烈な叙情的なサウンドを持っていると思います。自分の音楽のどこがラッパーを引きつけるのだと考えますか?

DM:わからないな。ラッパーとはそんなに何度もコラボしたことがないから。エイサップ・ロッキーは、僕がナールズ・バークレイと一緒にやった作品をすごく気に入ってくれたらしい。あの、エモーショナルでダークな感じに惹かれたらしいんだ。ブラック・ソートは、すごく好奇心が強かったんだと思う。彼は、もちろん僕の音楽も気に入ってくれたんだろうけど、僕がどうやって彼とフル・アルバムを作るかにすごく興味があったみたいなんだ。僕がいったい何をするのかが予測できなかったらしい。でも、皆、僕とコラボをする理由はすごくシンプルだと思うよ。ドゥームが僕とコラボしたのも、僕のビートを気に入ってくれたことが理由だったし。

逆に、あなたはタリクのラップのどのようなところに惹きつけられますか? 今作ではタリクの言葉や物語が引き出されるようなビート作りを意図的に目指したのでしょうか?

DM:彼は最高。彼は僕のお気に入りだし、彼がやることにはすべて奥深さがある。ブレス・コントロールも素晴らしいし、ヴォイストーンもそうだし、すべてが際立っているんだ。彼のすべてが必要不可欠な要素なんだよ。僕は長年彼の声をずっとファンとして聴いてきたから、ビートを作っている時点で、彼がラップを乗せたらどんな感じになるかが想像できるんだ。彼がこんな風にラップをするなら、こういうビートにしたらいいかな、とかね。で、もしビートとラップが合わなければ、彼が他の方法を試してくれたりもするしね。でもたいていは、ビートを作っている時点でなんとなくそれが彼の声と組み合わさったらどうなるかを想像できるんだ。

あなたはヒップホップ・アーティストに限らず幅広くプロデュース・ワークをおこなっていますが、ラッパーにビートを提供するビートメイカーとプロデューサーの大きな違いはなんでしょうか?

DM:そのふたつは全然違う。誰をプロデュースしているかによっても変わるけど、プロデュースに関しては、一からすべてをはじめる。制作をはじめるときには何もできていなくて、最初に思いついたコードやピアノ、ギター、リズムやドラムビートといったアイディアの周りにサウンドを構築していく。こちらの方が、よりコラボっぽいんだ。一緒に曲を書いて、一緒に楽器を演奏するから。一方で、ビート作りは、より瞑想的。ひとりで部屋にいるという部分も大きな違いだしね。でもどちらの場合でも、作業の過程で偶然起こる奇跡を期待していることに変わりはない。それを待って、それを元に曲を作っていくんだ。作業中にミスをして、そこから良いものができることもあるしね。形式的なソングライティングではなく、僕はそっちのやり方が好きなんだ。

ではプロデューサーとしてその作品をプロデュースする際に最も重要なことはなんでしょうか?

プレイリストの一部としてではなく、アルバムとして作品全体を楽しんでもらえたら嬉しい。日本ってまだCDショップがあるんだよね? アルバムを買ってそれを最初から最後まで聴くって素晴らしいことだと思うから、ぜひそうしてほしい。

DM:自分のフィーリングを信じることかな。他の誰かが難色を示しても、それに心を揺るがさないこと。何かに対して最高だと思ったら、それを貫かないと後で必ず後悔するから。これはいい! と思ったら、その気持ちを信じてそのまま進みつづけることが大切だと思う。

あなたのブロークン・ベルズの活動や様々なアーティストのプロデュース経験は、久々のヒップホップ・アルバムとしての今作の制作にどのような影響をもたらしているでしょう?

DM:いちばん大きかった影響は、曲の構成とアレンジメントの仕方だと思う。あとは、メロディックで悲しい感情の表現かな。“No Gold Teeth” みたいな曲からはその影響は感じられないかもしれないけど、アルバムのほとんどはその影響を受けていると思う。あとは、考えすぎないこと。何か良いものがすでにできているなら、そこからあまりこれでいいのか、もっと手を加えた方がいいのかと深く考えすぎず、そのできたものを信じること。サンプルも、ときにいじりすぎずにそのまま使った方がいいものもあるしね。シンプルであることの大切さも、そういった経験から学んだと思う。

トラップがメインストリームとなって以降、それでも依然としてサンプリング主体のヒップホップは生き続け、進化しているように見えます。あなたは数多くの楽器を扱うミュージシャンでもありますが、『Grey Album』以降ずっと中心的な制作方法であるサンプリングという手法はあなたにとってどんな存在ですか? サンプリングというアートのどこに魅力を感じていますか?

DM:難しい質問だな(笑)。どんな存在かを説明するのは難しいけど、魅力なら答えられる。サンプルにおけるベストな部分は、作業をしながらも、そのサウンドのファンでいられること。自分で楽器を演奏していると、ちょっと自意識過剰になってしまって、自分のやっていることだけに耳を傾けてしまうことが多々ある。でもサンプリングをしているときは、ただそれを流しているだけで美しいサウンドを聴くことができるんだ。あと僕は、再文脈化することが好きだから、すでに自分と深い関係のある曲をサンプリングするのは好きじゃない。曲全体が大好きな作品は、それを変えたいとは思えないからね。あと、他の人びととのつながりが強すぎる曲も選ばないようにしている。多くの人がすでにつながりを持ってイメージが固定したものではなく、自由にアレンジしても心地がいいものを選ぶようにしているんだ。

日本のヒップホップ・ヘッズたちも、このアルバムを歓迎しています。日本のファンたちへメッセージをお願いします。

DM:僕はシンガーやフロントマンではないから、こういう形で誰かに向けてメッセージを伝えるのは得意じゃないんだ(笑)。だから、このインタヴューで話したことを僕からのメッセージとして受け取ってほしい(笑)。今回のアルバムは、たくさんのレイヤーが重なってひとつの作品ができている。だから、プレイリストの一部としてではなく、アルバムとして作品全体を楽しんでもらえたら嬉しい。日本ってまだCDショップがあるんだよね? アルバムを買ってそれを最初から最後まで聴くって素晴らしいことだと思うから、ぜひそうしてほしい。

今日はこの素晴らしいアルバムの成り立ちについていろいろと興味深いお話を伺うことができました。どうもありがとうございました。

DM:日本には何度か行ったことがあって、日本は大好きな国なんだ。タリクはつい最近、ザ・ルーツのライヴで来日したばかりだしね。今日はありがとう。

Shintaro Sakamoto - ele-king

 『物語のように』から“ある日のこと”のミュージック・ヴィデオが公開された。これは、坂本慎太郎が作画、編集まで手がけた究極のDIY手描きアニメーション。コピー用紙に鉛筆とマーカーで描いた約650枚の絵をスキャンし、PhotoshopとPremire Proで編集して作ったという。必見です! 

ある日のこと (One Day) / 坂本慎太郎 (Official Music Video)

 なお、9月30日には国内盤LP『物語のように』リリース、10月26日からは国内ツアーも開始する。

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Shintaro Sakamoto LIVE2022 "Like A Fable” TOUR

10月26日 (水): 昭和女子大学人見記念講堂 (東京)
11月15日 (火): Zepp Namba (大阪)
11月16日 (水): クラブ月世界 (神戸)
12月05日 (月): キャバレーニュー白馬 (熊本/八代市)
12月07日 (水): 桜坂セントラル (沖縄)

●Official Web: https://l-tike.com/shintarosakamoto

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interview with Jockstrap - ele-king

 男性用下着を名乗る彼らが最初に注目を集めたのは、2018年のEP「Love Is The Key To The City」だった。ストリングスを効かせたラウンジ・ミュージックとグリッチという、ある意味で対極のものを融合させるアイディアは、現在の彼らの音楽性にも通じている。すなわち、ある既存の音楽をもとの文脈から切り離し、自分たちの感性に引きつけて再構築すること。いわばメタ的なポップ・ミュージックである。それを理屈優先ではなく、自然にやってのけているところがジョックストラップの強みだろう。
 ともにギルドホール音楽演劇学校に通っていたふたり、ヴォーカリストでありヴァイオリニストでもあるジョージア・エラリーと、プログラミング担当のテイラー・スカイから成るロンドンのデュオは、その後〈Warp〉と契約。「Wicked City」など2枚のEPを送り出したのち〈Rough Trade〉へと移籍、このたびめでたくファースト・アルバムのリリースとあいなった。
 初のアルバムではほとんどの曲にヴァイオリン隊がフィーチャーされている一方、多くの曲で電子ノイズやパーカッションなどが単調さを遠くに退けている。先行シングル “Concrete Over Water” に顕著なように、展開の読めなさもまた彼らの武器だろう。
 ときにシュールでときにロマンティックなエラリーの詞にも注目しておきたい。そもそもジョックストラップなるバンド名がそうなわけだが、「自分に触れると/いつだってわかる」(“Glasgow”)のマスターベーションのように、通常「(女性がそれを)公言するのは好ましくない」とされるセクシュアルな表現を遠慮することもない。“Greatest Hits” では「想像して 私はマドンナ」と歌われている。飾らずに官能をさらけだすスタンスも、本作の魅力のひとつだ。
 クラシカル、ジャズ、ハウス、ダブステップなどなどの小さな断片が違和感なく調和した、このみずみずしいエレクトロニック・ポップがどのように生み出されたのか、BCNRの一員として来日していたジョージア・エラリーに話を聞いた。

ダブステップはとてもエモーショナルだし、音の幅を広げるというか、どこまで動物的でモンスターみたいな音にできるか、みたいなおもしろさがあると思います。

今回はジョックストラップの取材ですが、先ほどBCNRのチャーリー・ウェインとメイ・カーショウの取材に立ち会ってきました。フジロックはどうでしたか?

ジョージア・エラリー(Georgia Ellery、以下GE):環境もいいし、お客さんもじっくり聴いてくれたし、ステージのセットアップもよくて最高でした。

日本は初めてですか? どこか行かれましたか?

GE:素晴らしいですね。東京大好きです。こんなに熱帯的でトロピカルとは思っていませんでしたけど、暑いのは好きだから。街も刺戟的で、ファッションもとてもすてき。

いまイングランドも熱波到来でめちゃくちゃ暑いですよね。

GE:湿気は向こうのほうが少ないんですが、暑いといろいろ故障しちゃったりするんです。暑すぎて電車が走らないとか。古い線路だと、一定以上の温度になると危ないみたいで。最近はコーティングをして熱対応にしているみたい。すごく不便ですね。

暑さでライヴに支障が出たりはしないんでしょうか? 曲順がトんだりとか。

GE:(フジの)ステージ上はちょっと暑かったけど、それほど大変ではなくて。ちょうどわたしたちの出番のときに曇ってきたから大丈夫でした。虫が楽器に止まったりして良かったです。

ジョックストラップの結成は2017年です。バンド名が一風変わっていますが、どのようなコンセプトではじまったプロジェクトなのですか?

GE:じつはバンド自体よりも先に、名前が決まっていたんです。ヘヴィ・メタルのバンド名が大好きで、「ジョックストラップ」ってどこかアイアン・メイデンみたいにエロティックな感じもあるし、ハードコアな感じもあるから。もともとわたしが考えていたコンセプトがあって、テイラー(・スカイ)に「こういう名前で考えているんだけど、一緒にやらない?」って聞いたら「いいんじゃない?」ってすぐOKしてくれました。おかしな話だけど(笑)。でも母親は「え!?」って。「なんでそんな名前にしたの」みたいな(笑)。でもスポティファイにもそんな名前のひとはいなかったし、いいかなって。

どういう音楽性のバンドにするかも決まっていたんですか?

GE:初めはどういうサウンドになるかぜんぜんわかりませんでした。わたしがつくったデモをもとに、テイラーがプロダクションを加えるかたちで。彼のプロダクションがどういうものか、フェイスブックにクリップみたいなものを上げていたから、だいたいはわかっていたけど、それらが融合したときにどういうものができるかは、そこまでよくわかっていなかった。

エラリーさんが作詞・作曲、スカイさんがプロデュースの担当ですが、作詞・作曲を済ませたあとは彼に任せる流れですか?

GE:最初は個別でつくるんですが、テイラーのつくってきたプロダクションを聴かせてもらって、ふたりとも気に入ったものがあった場合はそれを追求していく。それからふたりでエディットしながらいいものへと仕上げていくんです。互いが互いの作詞・作曲、プロダクションに興味があるから、ふたりでゴールを定めて共同作業していく感じかな。

先にトラックがあって、それに味つけしていくというパターンもあるのですか?

GE:今回のアルバムではそういう順番でつくったものが何曲かあって、“50/50” って曲なんかはテイラーのトラックの上にわたしが重ねていく、という手法をとりました。

いま話に出た “50/50” は「アー、エー、ウー、イー、アー」と母音で歌い上げるのが印象的です。これにはなにか参照元などがあったのでしょうか?

GE:彼が聴かせてくれたサンプルがあったんですが、それにたいするわたしの解釈が母音みたいだなと思ったから。

リリックはどのようなプロセスで書くのでしょうか?

GE:リリックを書くときはいつも、詩みたいに短い感じで書きます。内容としては、自分が個人的に体験したこと……自伝って言うのかな、そこで生まれた感情を受け入れたいときに、詩的に書く。それがリリックのベースになっていますね。

リリックを書くうえで、小説や詩など文学を参照することはありますか?

GE:シルヴィア・プラスというアメリカの詩人。彼女はシュールなイメージの自伝的なものを書いています。あと、おなじくアメリカの作家の、キャシー・アッカー。スリルのある近代的なライティング・スタイルで、散文やストーリーを書くひとです。

今回リリックでもっとも苦労した曲はどれですか?

GE:“Debra”。これも最初にトラックがあって、それにリリックを載せていきました。ビートがかっこよかったから、その要素に合わせていい歌詞を書きたいと頑張っていたんだけど、すごく難しくて。結局、ゲームの『あつまれ どうぶつの森』の内容についての歌詞になりました(笑)。

わたしたちは1曲1曲がヒット曲みたいなものをつくりたい

『あつ森』はふだんからけっこうプレイしているんですか?

GE:かなりね(笑)。

『あつ森』もその一種に数えられることがありますが、最近はメタヴァースが話題です。そういった仮想空間でアヴァターを介してコミュニケイションをとることについては、どう思っていますか?

GE:わたしはあまりほかのひとと一緒にはやらずに、ひとりでやることが多いんですが、やっぱりその空間は完璧なヴァーチャル・ワールドで、とても心地いい。一種の逃避ですね。インスタグラムのヴァージョンでフォロウするのが楽しくて、よくやっています。

もし『マトリックス』の世界のようにテクノロジーが発展したら、そちら側の世界で暮らしてみたいと思いますか?

GE:バランスが重要ですよね。難しいことにも直面するだろうし。

これはスカイさんに訊くべき質問かもしれませんが、ほとんどの曲に変わった音だったりノイズだったりが入っていますし、展開がまったく読めなかったり、実験的であろうと努めているのがわかります。ただ気持ちのいいポップ・ソングをつくるのではなく、実験的であろうとするのはなぜでしょう?

GE:テイラーはつねに新鮮なサウンドを求めていて、そこに刺激を感じるひとなんです。いままで聴いたことのあるものだとつまらないと感じるタイプだから、いつもじぶんの限界に挑戦して、聴いたことのない音を追求していますね。彼は11歳のころからプロダクションをやっていて、自分のスタイルに磨きをかけているひとだから、非常に独特な方法で(サウンドを)追求しているし、そんな彼を尊敬しています。

彼はどういった音楽から影響を受けたのでしょうか?

GE:確実にダブステップだと思う。わたしもそうなんだけど、そこからいちばん影響を受けているかな。ダブステップはとてもエモーショナルだし、音の幅を広げるというか、どこまで動物的でモンスターみたいな音にできるか、みたいなおもしろさがあると思います。あと、ブロステップやハウスからも影響を受けていますね。

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ダブステップのアーティストだとだれが好きですか?

GE:スクリレックスかな。あとトータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズ。ハウスにエモいヴォーカルが入っている感じで。ジェイムス・ブレイクが出てきたときも、そのポスト・ダブステップにとても感銘を受けました。彼はソングライティングもすばらしいから、そこからも大きな影響を受けていますね。あとはジェイミー・エックスエックス。エモーショナルかつダンス・ミュージックで、そのふたつの要素の融合に惹かれますね。

では、ダンス・ミュージック以外で影響を受けた音楽はありますか?

GE:70年代のジョニ・ミッチェルとか、80年代のコクトー・ツインズとか。80年代のオルタナティヴなミュージック・ライティングとかが好きですね。

そのあたりはリアルタイムではないと思いますが、どのようにして発見したのでしょう?

GE:ジョニ・ミッチェルやボブ・ディランは両親からの影響で……似たようなテイストがわたしにも引き継がれているのかも(笑)。テイラーの場合は、両親が実験的な音楽が好きだったから、父親がジェイムス・ブレイクのアルバムを聴かせてくれたり、母親がスクリレックスのライヴに連れていってくれたりしたみたい。

バイオグラフィーによると、クラシック音楽を聴いて育ったのですよね? そちらの道に進まなかったのはなぜですか?

GE:テイラーは12歳ぐらいのときにコンピューターを手に入れてから、じぶんで音楽ができることに気づいて、電子音楽のプロダクションにのめりこんだんだと思う。わたしの場合は、そこまでクラシックの演奏が上手じゃなかったし、オーケストラに参加するのもいやで、もっとちがうことがしたいと思ってジャズを専攻することにしました。

ヴァイオリンを習っていたそうですね。じつはわたしもかつて習っていたことがあるのですが、ヴァイオリンをやっていてつまらないと感じたのはどんなときですか?

GE:あなたも! つまらなかったというわけじゃなくて、弾くのは好きでした。オーケストラとかもね。ただちょっと堅いというか、世界が狭いというか。やっぱりわたしはダンス・ミュージックも実験的な音楽も好きだったから、ヴァイオリンだとクラシック向きすぎて、じぶんの作曲には合いませんでした。わたしはもっといろいろな道を探求したいから。あと、わたしってけっこうまじめなほうだと思うんですが、プロだと1日9時間くらい練習するんです。それはちょっと無理かなって。ほかにやりたいことがたくさんあるし。

本作のほとんどの曲にストリングスが入っていますね。やはりヴァイオリンの音を入れたかった?

GE:EPをつくったときに初めてストリングスのオーケストラを導入したんですが、そのときわたしたちの独特なサウンドがまとまった感じがしたから、アルバムをつくるとしたら入れようと思っていて、そうなりました。じぶんたちの持っているスキルの活用ですね。

ジョックストラップの作品に、あなたの出身地であるコーンウォールの要素は入っていると思いますか?

GE:意識的には、ないかな。むしろロンドンという都会の街の要素のほうが強いし、歌詞にもそういった部分は出ていると思います。

ちなみにBCNRとジョックストラップとで、もっとも異なっている点はどこでしょう?

GE:BCNRだと、みんなでリハーサル・ルームに集まって演奏しながら作曲して、ライヴを経て曲が完成していくんですが、ジョックストラップの場合はテイラーのベッドルームで集中的に作業して、曲を完成させてから初めてライヴで披露します。だから作曲のプロセスがいちばんちがう部分かな。

「ハイパーポップ」ということばがあります。ジョックストラップはそれと同時代に属しながら、それが持つある種の過剰さや空虚さとは異なる方位を向いている印象を受けます。

GE:たしかにハイパーポップから影響は受けていると思う。とくにソフィーにはね。彼女はすごく独特なスタイルだし、彼女にしか表現できない音楽のランゲージが存在する。テイラーにもそういう部分があると思うから、ハイパーポップとの共通性はあるかもしれません。とくに前回のEPはハイパーポップに近いものだったかも。

今回は初のアルバムです。流れがあり、それをしっかりと聴かせようという意思を感じました。

GE:アルバムにするってなったとき、曲順を考えなきゃいけないから通して聴いていたんですが、それまではあまり意識していませんでしたね。すべてがそうというわけではないけど、曲は時系列順だったり部類順に並べていて、EPも時系列順に並べています。1曲1曲のサウンドが大きくちがうから、曲順を考えるのはかなり難しかった。ひとによっては “Glasgow” を1曲目に持ってくるべきだって意見もあったんですが、最近つくった曲だから最後のほうに持っていって。そうすることで、わたしたちの進化の過程を表現したかったんです。ほかのアイディアとしては、ダンスっぽいトラックを前半に、アコースティックなものを後半にしようという案もありましたけど、それもなんかちがうなと。

マスタリングしていないヴァージョンをラジオに送って、一度かけてもらったことがあるんですが、それを録音してマスタリングすることで、ラジオの周波数の音が出せました。“Greatest Hits” はラジオのヒット曲についての曲だから

ほかのアーティストの音楽を聴くときは、アルバムを通して聴きますか?

GE:アルバムを通して聴くものもあります。アルバムの曲順によって流れがある作品もすごく好き。でもわたしたちは1曲1曲がヒット曲みたいなものをつくりたいから、そういった曲を並べるという作業がすごく難しくて。カニエ・ウェストもトラックリストを考えるのには苦労しているんじゃないかな(笑)。全曲ノリノリのアッパーチューンだと、べつに流れとかはないと思うから。

三曲目のタイトルはまさに “Greatest Hits” ですが、これがまさにそういった感覚をあらわしているのでしょうか? マドンナのようなヒット・ソングをつくってみたいという曲ですよね。

GE:“Greatest Hits” をアルバム・タイトルにしようというアイディアもあったんです。でも、すべてが “Greatest Hits” にはならなかったから(笑)。この曲はけっこうつくるのが大変で、マドンナっぽいサウンドもあるんですが、やっぱりテイラーはワンアクション加えたかったみたいで。OPN とザ・ウィークエンドのようなテープっぽい音を入れたくて、サンプリングを多用していますね。あとは、マスタリングしていないヴァージョンをラジオに送って、一度かけてもらったことがあるんですが、それを録音してマスタリングすることで、ラジオの周波数の音が出せました。“Greatest Hits” はラジオのヒット曲についての曲だから、そういったプロダクションをしたかったんです。

いまは2032年だと仮定します。10年前にこのデビュー・アルバムが出た意味とは、なんだったと思いますか?

GE:テイラーにとっては、新鮮味のないものかも。古いからもうダメ、みたいな(笑)。でもやっぱりヒット曲というか、バンガーであってほしいですね。名曲は変わらず名曲だから。

JOCKSTRAP x WAVE

いよいよ今週9/9にデビュー作をリリース!
ジョックストラップ 、WAVEとのコラボ・アイテムを同時発売へ!

ロンドンを拠点とする新生オルタナティブ・ポップ・デュオ、ジョックストラップの待望のデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』の世界同時リリースに合わせてWAVEとのコラボレーション・アイテムを発売することが決定した。

今回アルバムに使用されたアートワークを配したロングスリーブTシャツ、Tシャツの2型をリリース。9月9日(金)からWAVEオンラインストアとSOFTHYPHENにて発売する。

WAVE (ウェイヴ) ONLINE STORE www.wavetokyo.com
INSTAGRAM @wave_tokyo

80〜90年代を中心に “音と映像の新しい空間” としてカルチャーの発信基地のように様々な文化を発信する存在だったレコードショップWAVEの新しいプロジェクト。音楽、ファッションだけにとどまらない様々なカルチャーミックスをベースに情報を発信。

LONG SLEEVE TEE ¥8,800 (TAX IN)

TEE ¥7,150 (TAX IN)

名門ギルドホール音楽演劇学校で出会い、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのメンバーでもあるジョージア・エラリーとテイラー・スカイが2017年に結成したジョックストラップ。既存のスタイルを解体し、それを巧妙に組み直して全く新たなジャンルを生み出すような時間的そして空間的に激しく混乱した形のポップ・ミュージックを作り出すことで注目を集めている。また、先行シングル「50/50」はシャネルのキャンペーン・ビデオやステラ・マッカートニーのランウェイショーに使用されるなど音楽の領域を超えた話題も提供している。

2022年のカオス、喜び、不確実性、陰謀、痛み、ロマンスを他にはない形で表現しているジョックストラップの待望のデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』は、9/9世界同時発売。本作の日本盤CDには解説および歌詞対訳のDLコードが封入され、ボーナス・トラックを追加収録する。輸入盤は通常LPに加え、数量限定グリーン・ヴァイナルが同時発売される。

label: Rough Trade / Beat Records
artist: Jockstrap
title: I Love You Jennifer B
release: 2022.09.09 FRI ON SALE

国内流通仕様盤CD RT0329CDJP ¥2,200+tax
 解説+歌詞対訳冊子
輸入盤CD RT0329CD
輸入盤1LP (通常ブラック) RT0329LP
輸入盤1LP (グリーン・ヴァイナル) RT0329LPE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12868

Quelle Chris - ele-king

 テレンス・マッケナはドラッグの伝道者だと思われているけれど、本業は植物学者で、植物が人類を進化させてきたという思想がその核をなしていた。植物は酸素や食べ物を生物に与えてきただけでなく、最近では木陰をつくり出したことで生物が海から陸に上がれる手がかりをつくったのではないかということも言われている。そして、植物(とくにキノコ)がつくり出す幻覚物質が人類の脳を発達させてきたというのがマッケナの仮説で、セカンド・サマー・オブ・ラヴの時期になるとスペースタイム・コンティニウムやイート・スタティックと組んで彼は自説をレイヴァーたちに説いて回った。なかでもインパクト大だったコラボレーションがコリン・アンガスとミスター・Cによるシェイメンとの“Re: Evolution”で、ドラッグと音楽が結びついたカルチャーが世界を一変させるという誇大妄想がここまで肥大した例は珍しかった。シェイメンは元はロック・グループで、セカンド・サマー・オブ・ラヴの到来とともにフォームを変えていくものの、音楽性が貧しかったからか、同じようなトランスフォームを経験したハッピー・マンデーズやプライマル・スクリームほどは後世に語り継がれる存在にはならず、往時を知る人たちのノスタルジックなアイテムにとどまっている。とはいえ、セカンド・サマー・オブ・ラヴによって世界が変わると信じ込んだ彼らの信念は“Re: Evolution”だけでなく、同じ6thアルバム『Boss Drum』から最大のヒットとなった“Ebeneezer Goode”で最高潮に達していく。♪E、最高~、E、気持ちいい~と、あまりにMDMA讃歌が過ぎるという理由で放送禁止となり、TV出演の際は歌詞を変えて演奏しなくてはならなかった同曲は当時でもコマーシャルすぎてどうでもいい曲だったこともあり、イギリスやアイルランドで1位、ヨーロッパ総合でも4位という記録を叩き出す。彼らがそこまで多幸感を抱き、世界が変わることを信じた原動力はそして、なんだったのか。それはおそらくソヴィエト崩壊である。シェイメンがまだロック・バンドだった時期にリリースされたサード・アルバムは『In Gorbachev We Trust(英語の慣用句「神に誓って」のパロディ)』と題され、ジャケット・デザインには茨の冠を頭にのせたミハイル・ゴルバチョフの肖像が描かれている。マーガレット・サッチャーがいち早く評価したゴルバチョフは冷戦を終結させた“西側のヒーロー”ではあったものの、その後はどん底を這いずり回ることとなったロシアからプーチンが現れ、ロシアを立て直した過程を知っている僕たちにとって、ゴルバチョフの評価というものがあまりに一面的な価値観のものでしかなかったことはゴルバチョフの訃報に反応するのがやはり西側諸国であり、ロシアでは冷たいムードに覆われているという報道でも確認できる通り。


 デトロイトのヒップホップ・プロデューサー、クエール・クリスのソロ7作目は『Deathfame』と題されている。「死に装束」ならぬ「死に名声」とでも訳せばいいだろうか。J・ディラに見初められ、ダニー・ブラウンの初期作に名を連ねてきたギャビン・クリストファー・テニールは2011年にソロ・デビューし、オルタナティヴなサウンドにこだわりつつ、デトロイト・マナーの硬いビートを持続する。全体にストイックなジャズ・フィーリングが畳み掛けられるなか、タイトル曲では音楽産業との確執が語られ、死と引き換えに名声を手に入れるかどうかという葛藤へと踏み込んでいく。「どんなハグにも傷つけられ、殴られれば着想がわく」と苦境を客観視しつつ、「誰かほかの人間になりたい」と泣き言をリフレイン。元々、作風は一貫してダークで、スカしたところはあっても希望にあふれるサウンドとはとても言いがたかったものの、不協和音が織りなす意外性だったり、独特の遊び心や実験精神がもたらす抜け道のような爽快さに救われていたものがここへきて完全に八方塞がりとなった印象を与えるサウンドへと固まり出し、ついに閉塞感情から抜け出られなくなったかと思わせる一方、その徹底ぶりと凝縮度から過去最高の完成度という声も出ている。各曲のタイトルもストレートで、“Help I’m Dead”、“Alive Ain’t Always Living(ただ生きているだけ)”、”Die Happy Knowing They’ll Care(彼らが気にかけていると分かればハッピーに死ねる)”と婉曲表現ですらない。こうした主観の表明に説得力を与えているのが重くならないスモーキーなベースラインや奇妙なスネア、そしてネイヴィー・ブルーの多彩なピアノ・ワーク。ベースラインの自由度を差してか、「アンダーグラウンド・レジスタンスとは似ていないが工業都市デトロイトの歴史に当てはまるサウンドで、マッドリブと同様にアクトレスも想起させる(大意)」と見るピッチフォークのレヴューも面白い。レジデンツとマッシヴ・アタックが出会ったような“King In Black”、サイプレス・ヒルとDJプレミアが鉢合わせした“The Agency Of The Future”、あるいはクライマックスに置かれた“The Sky Is Blue Because The Sunset Is Red”ではデビュー当初のヴィンス・ステイプルズも呼び戻される。「死と名声」といえば広告塔として統一教会に利用された安倍晋三は山上容疑者にも逆の意味で広告塔として利用され、それで終わりかと思ったら、さらに岸田内閣にも広告塔として理由されるというではありませんか。ないがしろに近いゴルバチョフとは対照的な扱いで、しかし、さすがに3回目ともなると品がない(費用は麻生のポケットマネーでいいんじゃないかな。理屈じゃないみたいだし。でも、それじゃ国葬じゃなくて麻葬になっちゃうか)。


 ちなみにクエール・クリスが4年前にジーン・グレイと組んだ『Everything's Fine』は彼のキャリアとはまた違ったユニークな内容で、全体にサイケデリック色が強く、暗い時代のデ・ラ・ソウルといったところ。可能ならこちらを先に聴くことをオススメします(2人は共同作業を経てそのまま結婚。ジーン・グレイはジャズ・ピアニスト、ダラー・ブランドの娘で、90年代にはナチュラル・リソース、00年代はブルックリン・アカデミーのメンバーとして活動し、ソロ作も多いMC)。

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