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Sho Madjozi

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三田格   Jan 04,2019 UP

 南アフリカから2グループ。ゴム・ミニマルやゴム・ゴスペルなど南アのダンス・アンダーグラウンドはこの1年でどんどん細分化し、ゴムとトラップを掛け合わせたマヤ・ウェジェリフ(Maya Wegerif)も昨年デビューしたばかりだというのに早くもアルバムを完成、時にシャンガーン・エレクトロを交えつつ、不敵で闊達なフローがあげみざわ(と、思わず女子高生言葉)。アフリカのヒップ・ホップというとアメリカのそれに同化してしまう例がほとんどなので、アメリカのプロダクション・スタイルも消化した上で、こうしたフュージョンに挑むのはそれだけでも心が躍る。昨年、ゴム直球の”Huku”が注目されるまでは主にファッション・デザイナーとして活動してきたらしく、なるほど奇抜な衣装でパフォーマンスする姿がユーチューブなどで散見できる。アルバム・タイトルは南アの北端に位置するリンポポ州をレペゼンしたもので、ツォンガの文化をメインストリームに流し込むのが彼女の目的だという。ラップはツォンガ語とスワヒリ語、そして英語を交えたもので、「フク、フク、ナンビア、ナンビア、フク、ナンビア」とか、基本的には何を歌っているのかぜんぜんわからない。きっと「指図するな」とか「本気だよ」とか、断片的に聞こえる歌詞から察するに、若い女性ならではのプライドに満ちた歌詞をぶちまけているのだろう。楽しい雰囲気の中にも負けん気のようなものが伝わってくるし、いにしえのマルカム・マクラーレンを思わせる柔らかなシャンガーンの響きがとてもいいアクセントになっている。

 南アでも広がりを見せるヘイト・クライムは殺人事件に発展する例も少なからずだそうで、なぜか白人やアジア人は襲われず、南ア周辺から流れ込む他の国の黒人たちが暴力の対象になっているという。リンポポ州は南アの最北端に位置し、ジンバブエと国境を接している。先ごろ、軍事クーデターが起きるまでハイパーインフレで苦しむジンバブエの国民たちはかなりの数がリンポポ州に流れ込んでいた。ムガベ独裁が倒れたとはいえ、ジンバブエの状況がすぐに好転したとは思えず、人種的な緊張状態がまだ残っている可能性があるなか、アルバムのエンディングで「ワカンダ・フォーエヴァー」とラップするマヤ・ウェジェリフの気持ちにはそれこそ切実なものが感じられる。「ワカンダ」とは映画『ブラック・パンサー』で描かれた架空の国で、白人たちには知られなかった黒人たちによる文明国家のこと。あの映画のメッセージがアフリカの黒人たちを勇気づけている好例といえるだろう。全体にゴムの要素が強く出ている曲が僕は好きだけれど、とりわけ”ワカンダ・フォーエヴァー”は気に入っている。ちなみにムガベを国賓として迎えていたのは安倍晋三、軍事クーデターを裏で動かしたのは中国政府である。詳細は省くけれど、現在、ドナルド・トランプのヘイト・ツイートが南アの政治を再び混乱させたりもしている。

 モザンビークやナミビアといったヘイトの対象となっている黒人たちをサポート・メンバーに加えたバトゥックもセカンド・アルバムをリリース。ゴム以前のクワイトをダブステップと結びつけたスポエク・マサンボがプロデュースするヨハネスブルグのハウス・ユニットで、2年前のデビュー・アルバム『Música Da Terra』がアフリカ全体の音楽性を視野に入れていたのに対し、2作目は南アフリカのタウンシップ・サウンドに絞ったことで、起伏を抑えたUKガラージのような響きを帯びるものとなった(アルバム・タイトルの「カジ」はタウンシップの意で、音楽的な豊かさを意味する)。そして、哀愁と控えめな歓びが導き出され、おそらくはゴムを支持する層よりも中産階級にアピールするものとなっているのだろう。それこそ荒々しさを残したマヤ・ウェジェリフのような音楽的冒険には乏しいものの、このところ疲れているせいか、レイドバックした優しい音楽性が僕の心を優しく宥めてくれる。“Love at First Sight”は明らかに”Sueno Latino”を意識していて、コーラスが「お前の母ちゃん、お前の母ちゃん」に聞こえてしょうがない“Niks Maphal”だけがヒップホップというかエレクトロ調。ちなみにスポエク・マサンボが昨年リリースしたソロ・アルバム『Mzansi Beat Code』はもっとアグレッシヴな内容で、彼が今年の初めに参加したマリのワッスルーと呼ばれる民族音楽の歌手、ウム・サンガレ(Oumou Sangare)の『Mogoya Remixed』というリミックス・アルバムもとてもいい。サン・ジェルマンやアウンティ・フローなどアフロハウスの手練れが集結し、モダンなアフロ解釈を様々に聞かせてくれる。

 あんまり関係ないけど、南アでW杯が行われた際に流行ったブブゼラは中国製だったそうで、あっという間に人気がなくなってしまい、いまや南アでは在庫の山と化しているらしい。

三田格