「!K7」と一致するもの

SAULT - ele-king

 何かと人騒がせだが、その実態がなかなか掴めない SAULT (スーともソーとも呼ばれるが、以降は便宜的にスーで統一する)。彼らのニュー・アルバム『ナイン』が突如発表されたのは去る6月25日のことで、Spotifyでは99日間限定でストリーミングやダウンロード購入ができるが、それを過ぎる10月2日以降は消えてしまうということだった。期間限定というフレーズは人びとの購買意欲をそそる常套手段だが、スーの場合のそれは何やら警告のようでもあり、実際に現在は聴くことができなくなっている(そのときに予約受付されていたレコードやCDが輸入盤店にも入荷してきている状況ではある)。アルバム・タイトルの『9』と99日という限定期間を合わせた999という連番は占いで言うところのエンジェル・ナンバーで、新しい物語や出会いがはじまるという希望を抱かせる数字であると共に、イギリスの緊急通報用の電話番号でもある。何かと意味ありげな999だけれど、『ナイン』の場合は後者のイメージに近いだろうか。
 スーにとって2019年の『5』と『7』、2020年の無題の連作『ブラック・イズ』『ライズ』に続く5枚目のアルバムで、極めてハイ・ペースで作品を創作し続けている。しかもその首謀者であるインフローことディーン・ジョサイア・カヴァーは、同時にマイケル・キワヌカ、リトル・シムズ、ジャングルのプロデュースもおこない、2021年だけを見てもリトル・シムズの『サムタイムズ・アイ・マイト・ビー・イントロヴァート』、ジャングルの『フォー・エヴァー』、スーのメンバーでもあるクレオ・ソルの『マザー』と3枚のアルバム・プロデュース、ないしは共同プロデュースしているのだから、並大抵の才能の持ち主でないことがわかるだろう。

 スーのこれまでを振り返ると、ソウル、ファンク、ロック、パンク、ニュー・ウェイヴ、アフロ、エスノなどがゴチャ混ぜになったような祝祭的なサウンドの『5』と『7』、ブラック・ライヴズ・マター運動にも連なる怒りや悲しみのパワーが込められた『ブラック・イズ』と『ライズ』だった。
 一方、『ナイン』はロンドンを代表するシンガー・ソングライターのジャック・ペニャーテと数曲でコラボしていることが象徴するように、改めてロンドンのいまを切り取ったものである。“ロンドンズ・ギャング” と “ユー・フロム・ロンドン” とロンドンがタイトルの曲がふたつあり、また “フィアー” “ビター・ストリーツ” “トラップ・ライフ” などヴァイオレンスをイメージさせる曲が並んでいる。そしてアルコール中毒者をズバリ指す “アルコール”。ロンドンのストリートにおける酒や麻薬、暴力や金を描いた『ナイン』はいままで以上に過酷な内容となっていて、『ブラック・イズ』と『ライズ』の政治的姿勢を引き継いでいる。
 “ハハ” から “フィアー” に至るアルバム前半の流れはそうしたスーのアジテーショナルな姿勢を体現していて、これまでに見られた祝祭性は影を潜め、ハードなポスト・パンク的サウンドを見せている。土着的なブレイクビーツと猥雑なコーラスによる “トラップ・ライフ”、不穏なベース・ラインとミニ・モーグの唸りに呪文のようなポエトリー・リーディングが重なる “フィアー” あたりは、かつてのESGやリキッド・リキッドあたりを彷彿とさせる作品だ。

 そして、父親を殺されたというストリート・キッズのマイケル・オフォのモノローグをフィーチャーした “マイクズ・ストーリー” を挟み、アルバム後半は一変して繊細で内省的な作品が並ぶ。クレオ・ソルが歌う “ビター・ストリーツ” は、彼女のソロ・アルバムでも見られたようなフォーキーなネオ・ソウル調作品。ただし、彼女のアルバムにあった母親の愛や喜びを描いたものではなく、過酷なストリート・ライフを美しいメロディに乗せた逆説的なもの。切々と紡ぐバラードの “アルコール” も、感傷的な歌やメロディがアルコール浸りの惨めな生活とのコントラストを生む。
 リトル・シムズも参加した “ユー・フロム・ロンドン” は、ロンドン訛りの英語をからかうアメリカ人を歌った裏返しのロンドン賛歌。メロウな曲調とリトル・シムズの誇張されたラップが好対照だ。“ナイン” もクレオ・ソルらしいアコースティック・ソウルで、ジャングルのジョシュ・ロイド・ワトソンも曲作りに参加してロータリー・コネクション張りの世界を繰り広げる。そして、最後は “ライツ・イン・ユア・ハンズ” で未来への希望を抱かせつつアルバムは幕を閉じる。ゴスペル調の荘厳で美しいこの曲には、スーのソウル・ミュージックへの愛情がたっぷりと詰まっている。
 パンキッシュにはじまってソウルフルに終わる、スーのストリート・オペラとでも言うべき『ナイン』だ。

SUPER DOMMUNE Presents「DJ IN THE MIRROR WORLD 3」 - ele-king

 もうすぐ投票日だ。同10月31日はハロウィーンでもある。今年も渋谷区は「バーチャル渋谷」への参加を呼びかけている。「バーチャル渋谷」って何? それは、「cluster」というプラットフォームで体験することができる “ミラーワールド”。簡単に言ってしまえば、現実の渋谷をスキャンすることによって生み出された仮想世界だ。
 ということで、昨年のハロウィーンから「DJ IN THE MIRROR WORLD」という刺激的な試みを実践してきた “メタヴァースの使徒” SUPER DOMMUNE が今年もスペシャルな企画を用意してくれた。
 第1回ではエレン・エイリアン、サージョン、ケン・イシイ、ダーシャ・ラッシュが、第2回ではニーナ・クラヴィッツ、Rebekah、Licaxxx が出演している同企画だが、今回の「3」では、なんと、満を持して石野卓球が登場! 石野卓球がアヴァターとなり仮想のスクランブル交差点でDJ、これはかつてないイヴェントになるだろう。
 ちなみに10月29日発売の『ele-king臨時増刊号 仮想空間への招待──メタヴァース入門』では、SUPER DOMMUNE を主宰する宇川直宏氏のインタヴューを掲載しています。めちゃくちゃおもしろい内容のインタヴューですので、ぜひそちらもチェックしていただけると嬉しいです。
 10月31日、投票を済ませたら「バーチャル渋谷」へGO(参加方法などは下記を)。

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DJ IN THE MIRROR WORLD 3
実 施 概 要

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名 称:SUPER DOMMUNE Presents「DJ IN THE MIRROR WORLD 3」
日 時:2021年10月31日(日)22:30-24:00
DJ:石野卓球(電気グルーヴ)
VJ:DEVICEGIRLS
VRDJ:DJ SHARPNEL
VR STREAMING:UKAWA NAOHIRO(DOMMUNE)

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バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021
実 施 概 要

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名 称:バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021
日 程:2021年10月16日(土)~10月31日(日)
場 所:渋谷区公認配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」
主 催:KDDI株式会社、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷区観光協会
後 援:渋谷区
協力パートナー:東急株式会社、東急不動産株式会社、東京メトロポリタンテレビジョン株式会社、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント、株式会社 ローソンエンタテインメント、ChargeSPOT、アドビ株式会社

公式サイト:https://vcity.au5g.jp/shibuya/halloween2021
公式SNS:<Twitter>‎@shibuya5g
<Instagram>@shibuya5g
<YouTube>渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

参加方法:
バーチャル渋谷は、VRデバイス、スマートフォン、PC/Macからご参加いただけます。
clusterの無料アカウント作成と、ご利用されるデバイス用のclusterアプリのインストールが必要です。
clusterアカウント作成:https://cluster.mu/
clusterアプリダウンロード:https://cluster.mu/downloads

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石野卓球(電気グルーヴ)
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1989年にピエール瀧らと"電気グルーヴ"を結成。1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃から本格的にDJとしての活動もスタートする。1997年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、1998年にはベルリンで行われる世界最大のテクノ・フェスティバル"Love Parade”のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。1999年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ"WIRE"を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。2012年7月には1999年より2011年までにWIRE COMPILATIONに提供した楽曲を集めたDisc1と未発表音源などをコンパイルしたDisc2との2枚組『WIRE TRAX 1999-2012』をリリース。2015年12月には、New Orderのニュー・アルバム『Music Complete』からのシングルカット曲『Tutti Frutti』のリミックスを日本人で唯一担当した。そして2016年8月、前作から6年振りとなるソロアルバム『LUNATIQUE』、12月にはリミックスアルバム『EUQITANUL』をリリース。2017年12月27日に1年4カ月ぶりの最新ソロアルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』をリリースし、2018年1月24日にはこれまでのソロワークを8枚組にまとめた『Takkyu Ishino Works 1983~2017』リリース。現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。
https://takkyuishino.com

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DOMMUNE
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現代日本のアートシーンの中でも際立った存在感を放つ宇川直宏が、ソーソャルストリームの時代を見据えた新たな文化の発信拠点として、2010年に開局させた日本初のライブストリーミングスタジオ『DOMMUNE』!! SNSの夜明けと言われた時代に「ファイナルメディア」として忽然として現れ、百花繚乱のライブストリーミング番組の中でも、圧倒的な番組の質とビューワー数を誇り、開局以来、世界各国から様々なゲストが来日のたびに出演する唯一無二の文化プラットフォームとして存在し続けている。あのロンドンを拠点とするミュージックチャンネルBOILER ROOMにも影響を与え、BOILER ROOM TOKYOの日本支局もDOMMUNEが担当している。このように『DOMMUNE』は現在世界に溢れているサウンド&アートストリーミング、また、カルチャーストリーミングのほとんど全ての雛形を作ったと言っても過言ではない。現在まで9年間にわたって配信した番組は約4000番組 / 約7000時間 / 150テラ、トータル視聴者数一億を超え、従来の「放送」や「出版」そして「広告」という概念やそのフォーマットが破綻していく現代において、ライブにおける動画配信の実験を重ね、新たな視覚コミュニケーションの可能性を日夜革新的に炙り出し続けている。今もなおその影響力は衰えず、開局10周年を第二章とし、最前衛テクノロジーと共にUPDATEを図り、ファイナルメディア『DOMMUNE』の進化形態『SUPER DOMMUNE』へと展開した。2021年、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
https://www.dommune.com/

Gucci Prince - ele-king

 Gucci Prince をちゃんと認識したのはごく最近。仕事で見ていた配信ライヴの出演者だった。無観客のスタジオ・ライヴで、しかも一番手という難しい出番だったにもかかわらず、のっけから爆発的なエネルギーを表現する彼に圧倒された。いろんな現場を経験して叩き上げてきたのだろう。あと変わったビートが多い。かっこいいラッパーだなと思って見ていると、ライヴ後のショート・インタヴューで「UKガラージがハマるっすね」と話していた。日本の若い世代ではUSのトレンドをローカライズするか、“日本語ラップ” を踏襲するスタイルのラッパーが目立っていたので、UKからの影響を明言した彼により興味を持った。

 Gucci Prince は Tokyo Young Vision 及び Normcore Boyz の一員として知られていたが今年脱退。すぐさまソロ活動を活発化させ、4月から約1ヶ月に1作のペースで新作を発表し続けた。その集大成となるのが10月にリリースされたEP「HEROS」だ。「何かに抗う為に集まったヒーロー達との共作」をテーマに、DABO、鎮座DOPENESS、Kick a Show、KOWICHI、釈迦坊主、Bonbero などバラエティ豊かなゲストを招いている。

 四つ打ちのビートの “FXXKED UP” には昨年の「RAPSTAR2020(ラップスタア誕生)」ファイナリスト・week dudus、夜猫族から Tade Dust&Bonbero のコンビ。ヴァイブス全開の “地獄” にはヒップホップの周縁から存在感を放つ釈迦坊主。続く “CHATAN” は沖縄のクルー・SugLawd Familiar と制作した。彼らの平均年齢はなんと18歳。これは “FXXKED UP” に参加した夜猫族のふたりにも言えることだが非常にスキルが高い。もちろん音楽はうまけりゃいいってもんじゃないが、うまいと表現の選択肢は増える。それを感じさせるのが5曲目の “GAP”。ビートは “CHATAN” とともに G-FUNK だが、こちらでは重鎮の DABO をフィーチャー。“CHATAN” のようなフレッシュさはないが、ベテランだからこそ出せる渋みがラップのいたるところから滲み出る。

 後半は鎮座DOPENESS と Kick a Show を迎えたUKガラージの “Bacon Part. Ⅱ”、そしてダークなUKドリルの “Fake Mandem Remix (feat. week dudus)” と続く。やっぱり個人的にはこのノリと流れが好き。ラストの “NADESHIKO” は ZOT on the WAVE ビートで、川崎の KOWICHI と兵庫の若手・Merry Delo が参加している。

 6曲入りのEPだが驚くほどいろんなタイプのラップ、年代、ビートがある。確かに荒さはある。だがそれを超えるエナジーが楽しい。トレンドにはめていくのではなく、自分だけのフォーマットを作ろうとするパワーがある。それにイントロで「何かに抗う為に集まったヒーロー達との共作」というテーマを宣言しているので、作品としてのまとまりもある。

 私がUKカルチャーを好きなのは、ロック、パンク、レゲエ、ダンス・ミュージックが並列だからだ。日本と同じ島国だが、ダイヴァーシティな土壌があって、それがクリエイティヴィティに反映され、キメラのようなアウトプットを生む。そうして2トーン、〈ON-U〉、ジャングル、UKガラージ、2ステップ、グライムなどなどが生まれた。

 Gucci Prince は FNMNL のインタヴューで、millenium parade や Tempalay について話しており、同時に AJ Tracey と Jorja Smith がUKガラージ/2ステップのクラシックである Sweet Female Attitude “Flowers (SunShip Edit)” をバンド・カヴァーした映像にも言及していた。こういった形で日本のラッパーとバンドがUK的なダンス・ミュージックにアプローチする例は少ないので、今後の活動が楽しみだ。

 だがなにより嬉しいのは、彼がUKガラージやUKドリルをトレンドのジャンル・ミュージックとして受容するのではなく、カルチャーの本質をフィールしていること。UKと同じ島国でも根強い排外主義と保守性が跋扈する日本において、若い世代がカルチャーから自然と多様性を身につけていく姿を見るのは心強い。この『HEROES』にはそんな希望を感じた。

Damon and Naomi - ele-king

 80年代末から90年代にかけてのUSインディにおける伝説のバンド、ギャラクシー500から派生したデュオ、デイモン&ナオミ、このデュオが6年ぶりのアルバムをリリースする。ヴェルヴェッツ直系のロック・サウンドとドリーム・ポップが入り交じり、儚さと優しさが交錯する魅力たっぷりのそのサウンドは、日本でも大いに愛されている。新作でもデイモン&ナオミの柔らかくフォーキーなサウンドとメロウな歌の澄み切った作風は健在。
 しかも今回は、日本のインディ・シーンで大活躍の〈キリキリヴィラ〉からの日本盤。歌詞対訳は彼らの同胞とも言えるSugar Plantの正山千夏が担当しています。いや、素晴らしいです。

https://store.kilikilivilla.com/product/receivesitem/KKV-123

DAMON & NAOMI with Kurihara
A SKY RECORD
キリキリヴィラ

※12月15日発売
歌詞対訳付き
KKV-123
税込定価 2,500円

DEADKEBAB & PSYCHIC$ - ele-king

 新顔を紹介します。かつて一瞬世界を賑わせたバンド、トリプル・ニップルズのヴォーカリストだったDEADKEBABとトラックメイカーのPSYCHIC$、そしてDJのALEX(アレックス・フロム・トーキョーではない)の3人からなるラップ・グループ、デッドケバブ&サイキックス。いま巷話題です。
 で、彼らの7インチが11月3日、限定300枚でリリースされる。ジャケットのアートワークはヴィジュアル・アーティストとしても活動するDEADKEBAB。かなりポップでストレンジで、面白いです。わずか300枚なので、どうぞお早めに。
 
DEADKEBAB & PSYCHIC$ - HUSTLER

DEADKEBAB & PSYCHIC$ - Pussy Cat(screwed) teaser



DEADKEBAB & PSYCHIC$
Hustler / Pussy Cat

フォーマット:7インチシングル

レーベル:Paik’n Pô Productions

購入はこちらまて→ https://deadkebab.theshop.jp

Primal Scream - ele-king

 「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」のように、たった1枚のレコードが世界の見方を変えてしまうことがポップ・ミュージックの世界では起こりうるが、プライマル・スクリームの「ローデッド」もそんな1枚だった。世界の見方、見えはじめた景色、考え方、これから聴きたい音楽、これから着たい服、そして行きたい場所、そういったものすべてを変えてしまった。イギリスだけの話ではない。日本においてもまったくそうだった。若者文化を決定的に変えてしまった、これほどパワフルな曲はそうあるものではない。そして、それに続いた壮大な「カム・トゥギャザー」は、いまが変革の季節であることを、念を押すかのように言い聞かせた。ソウルフルな「ドント・ファイト・イット・フィール・イット」は同じようにアンセムとなり、「ハイヤー・ザン・ザ・サン」のサイケデリアに誰もが昇天した。こうした一連の奇跡的なシングルのリリースを経て、『スクリーマデリカ』は1991年9月にリリースされた。レイヴ・カルチャーの時代のまったく新しいサイケデリア、いわば90年代の『ペット・サウンズ』、つまり時代の金字塔である。
 しかしながら、そのデモトラック集が出ると聴いて、正直なところとくに気持ちが上がったわけではなかった。なにせ、まあデモ集なのだ。収録されているアンドリュー・ウェザオールによる“シャイン・ライク・スターズ”のふたつのリミックス(ひとつはまったくの未発表)は聴いてみたいけどねと、そんなようなたいした期待もなく『デモデリカ』を聴きはじめたわけだが、ひとことで言えば、もうすっかり感動してしまった。ここにあるのは『スクリーマデリカ』に収録された曲のいわば青写真であり、それらの多くは、あのアルバムの高揚感を思えば意外なほどメランコリックで、内省的だったことがよくわかる。『スクリーマデリカ』の中心部にあるのは、決して単純な多幸感でもわかりやすい連帯感でもなかった。また、バンド演奏によるそれらの最初の姿からは、それぞれの曲に込められた元のアイデア(ゴスペルだったり、カーティス・メイフィールドだったり、Pファンクだったり、シーズだったり、ビーチ・ボーイズだったり)がよくわかる点も面白い。こうした聴き方は『スクリーマデリカ』をすでに愛聴した経験があるから可能なわけで、この時期のプライマル・スクリームに思い入れがある人には声を大にして推薦したい。完成品はもちろん逸品だけれど、ウェザオールたちに加工される前の生々しいその姿もまた魅力的だった。
 ブックレットにはジョン・サヴェージによる長いライナーノーツ(日本語訳)があり、また、メンバーによる詳細な全曲解説(ボーナストラックは除く)もある。これらも充分一読に値します。
 

Primal Scream
Demodelica

Columbia‏‏/ソニー
※日本盤は10月27日発売

BJ Nilsen - ele-king

 環境のための音楽か。環境についての音楽か。前者はブライアン・イーノが定義した最初期のアンビエント・ミュージック、対して後者はフィールド・レコーディングやさざまなサウンドのマテリアルを駆使したサウンドスケープを展開する現代的な音響作品であると仮定してみたい。
 
 スウェーデン出身でアムステルダムを拠点とするサウンド・アーティストのBJ・ニルセン(BJ Nilsen)は後者にあたるといってよい。彼は90年代〜00年代以降、いくつかの名義を駆使して、さまざまな音響作品を作り続けてきたアーティストである。 ニルセンは環境音をベースに、細やかかつ大胆な電子音響ノイズをレイヤーさせる手法によって、都市空間とノイズの関係を考察/再考するようなサウンドスケープを創出してきた。近年はノルウェーとロシアの北極圏などにおける都市の音響領域と産業地理の問題を音響の側面から追及しているという(ニルセンには『The Acoustic City』という著作もあり、音とテキストの両面から活動をしているアーティストでもある)。
 フィールド・レコーディングの手法による空間意識の自覚化・聴取という意味で、フランシスコ・ロペスの系譜にもあるともいえるが、とうぜん作風は違う。ニルセンはサウンドの融解を実践しているように思う。その意味ではロペスの次の世代のサウンドアートの発展に大きく尽力してきたアーティストのひとりといえる。

 BJ・ニルセン、本名をベニー・ジョナス・ニルセン(Benny Jonas Nilsen)という。1975年生まれの彼は90年代はMorthound名義で活動を行い、インダストリル・ノイズ・レーベルの〈Cold Meat Industry〉などからアルバムをリリースした。00年代初頭はヘイザード(Hazard)を名乗り、〈Malignant Records〉、〈Ash International〉などからいくつかのアルバムをリリースする。
 BJ・ニルセン名義としては、2004年に〈Touch〉から『Fade To White』をリリースして以降、多くのアルバムをソロ、コラボレーション問わず、コンスタントに発表してきた。ニルセンのアルバムは、いわば彼の音響研究の報告書、著作といった側面もある。聴取するたびに、世界と音響に関する思考に触れるような感覚を得ることができた。そして何より音響作品としてサウンドの質感や構成など、非常に美しい仕上がりでもある。
 ニルセンの作品数は非常に多いのだが、それでもあえて代表作を選ぶとすれば2007年の『The Short Night』、2009年の『The Invisible City』、2013年の『Eye Of The Microphone』だろうか。個人的にはアートワークも含めて『The Invisible City』をおすすめしたい。見知らぬ街への旅先、その夜の空気のような音響空間がとにかく素晴らしいのだ。ちなみにこれらのアルバムはすべて〈Touch〉からリリースされた。
 コラボレーション作品も充実している。2006年に〈Touch〉から発表したクリス・ワトソンとの『Storm』、2007年に〈iDEAL Recordings〉から出たZ'EVとの『22' 22"』あたりがよく知られている。私としては2014年に発表されたヨハン・ヨハンソンとの共作『I Am Here』をお奨めしたい。
 ともあれ彼は多作である。ゆえにそのアルバムは00年代以降の電子音響作品を考える意味で重要な指針となってもいる。特に〈Touch〉というエクスペリメンタル・ミュージックの牙城ともいえるレーベルを中心にリリース活動をしたことの意味は大きい(もちろん〈Touch〉以外からのリリースも多くあるのは前提だが)。00年代中期以降の環境音と電子音響のレイヤーという〈Touch〉のレーベル・カラーをとてもよく象徴していたからだ。

 そのBJ・ニルセンがもうひとつのエクスペリメンタル・ミュージックの老舗であり牙城ともいえる〈Editions Mego〉からアルバム『Massif Trophies』をリリースしたのが今から4年前の2017年である。思えばこのアルバムのリリースが今作『Irreal』の布石になっていた。今回取り上げる『Irreal』もまた〈Editions Mego〉からの作品である。
  『Massif Trophies』はイタリアの高山であるグラン・パラディゾ山の登山時の環境音が用いられていたアルバムだったが、『Irreal』はオーストリア、ロシア、韓国、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクなど世界各国で録音された環境音がベースになっている音響作品である。世界各国の音の記憶が旅の記憶のように展開し、そこに高密度の電子音響がレイヤーされていく。
 『Irreal』には長尺の曲が全3曲が収録されている。1曲め“Short circuit of the conscious thought”が15分20秒、2曲め“Motif mekanik”が12分50秒、3曲め“Beyond pebbles, rubble and dust”に至っては38分28秒にも及ぶ。どのトラックもじっくりとその音響空間に浸れる構成・構造となっている。
 サウンドも環境音と電子ノイズやドローンのレイヤーが強靭かつ大胆に展開し、これまでのBJ・ニルセンの集大成ともいえる仕上がりだ。硬質な響きには聴覚の遠近法を変えるような「強さ」がある。しかもときにベースラインらしき音が低音部になるというこれまでにない試みも実践されていた。いわばエクスペリメンタルな音響作品のむこうにかすかに鳴るテクノの痕跡のような聴取感を得ることもできるのである。
 アルバムを代表するトラックは38分を超える“Beyond pebbles, rubble and dust”だろう。この長い時間のサウンドを聴きいっていると、まるで洞窟の中に迷い込むような、もしくは氷河の音響を聴くような感覚になってくる。都市のサウンドスケープがやがて自然の極限のような状態へと変化する感覚とでもいうべきか。
 都市と自然、空間と世界。満ちる音の波と音の集積、交錯と接続、融解と持続。『Irreal』の音響空間は、われわれに「環境」と「音」の関係性を意識させてくれる。ここにある音とそこにある音。聴こえる音と消える音。ニルセンは音をつなぎとめて、つないで、加工して、還元して、長い音響の持続を作る。
 この『Irreal』は彼の最高傑作だろう。おそらくはレーベルである〈Editions Mego〉もそれを承知していた。マスタリングをシュテファン・マシュー、アートワークをスティーブン・オマリーが手がけるという最高の布陣で送り出された。そして今作がレーベル・オーナーのピタとBJ ニルセンとのおそらくは最後の仕事になった。
 
 〈Editions Mego〉を主宰する電子音響作家ピタことピーター・レーバーグは、2021年7月23日に他界した。悲しい出来事である。「追悼」するには若すぎる年齢だ。彼が電子音響、グリッチ、エレクトロニカに残した功績の大きさを痛感することにもなってしまった。
 レーベル側のアナウンスによると、ピタがリリースを手がけていたアルバムまでは確実に送り出されるとのこと。そしてピタがレーベル・オーナーとして関わっていた最後のアルバムのリリースをもって、レーベル最後のリリースになるという。とはいえ〈Ideologic Organ〉、〈Recollection GRM〉、〈Portraits GRM〉などの充実したサブ・レーベルは存続し、フランスの〈Shelter Press〉がリリースを担っていくという。ピタと〈Editions Mego〉の功績の大きさはこれからもより深く継承され、考察され、ピタ/メゴの意志や遺伝子は受け継がれていくに違いない。

 この BJ・ニルセン『Irreal』は、レーベル・オーナーとしてのピタが早すぎた晩年に送り出した電子音響作品の傑作になってしまったわけだが、今は、この研ぎ澄まされた音響空間に没入しつつ、〈Editions Mego〉によって牽引されてきた90年代以降、00年代、10年代、20年代の電子音響/グリッチ/エレクトロニカなどのエクスペリメンタル・ミュージックの進化=深化に思いを馳せたい。

進化するクァンティックの“ラテン” - ele-king

 2000年代初頭より長い活動を続けるクァンティックことウィル・ホランド。当初はジャジーなブレイクビーツを操るDJ/ビートメイカー的なスタイルだったが、次第にソウルやファンクなど生音を重視したサウンドへと移り、さらにラテンやレゲエなど中南米音楽に傾倒していく。2007年には生まれ故郷のイギリスを離れて南米のコロンビアへ移住するが、それはクァンティックのラテン音楽への情熱が本物だったという証しだろう。
 UK時代もラテンを取り入れたダンス・トラックはいろいろ作ってきたが、2008年にリリースしたクァンティック&ヒズ・コンボ・バルバロ名義の『トランディション・イン・トランジション』は、コロンビアのラテン音楽系ミュージシャンたちと作った本格的なラテン・アルバムであった。さらにブラジルが生んだレジェンドのアルトゥール・ヴェロカイと彼のオーケストラも参加するという非常にゴージャスな内容で、もちろんDJ的なセンスが注入された作品であるものの、クラブ・ミュージック・シーンにとどまらず一流の音楽家としてのクァンティックの名前を決定づけた傑作と言えるだろう。

 その後2014年にアメリカへ移り、現在はニューヨークを拠点とするクァンティックだが、コロンビア時代から引き続いてラテン音楽への探求意欲は衰えていない。2019年にリリースした『アトランティック・オシリレイションズ』は、ニューヨークで久々にクラブ・イヴェントやパーティーなどをやっていく中で作られたこともあり、かなりダンサブルなテイストの強いアルバムとなったのだが、この度リースした新作の『アルマス・コネクタダス』は一転して伝統的なラテン音楽の作法に則ったものとなっている。
 『アルマス・コネクタダス』はクァンティックとニディア・ゴンゴーラとの共作で、このコンビでは2017年の『クルラオ』に続く作品である。ニディアはコロンビア南西部のティンビキ出身のシンガーで、彼女がリード・ヴォーカルを務める伝統音楽集団のグルーピ・カナロンの作品をクァンティックが聴き、その歌の素晴らしさに感銘を受けたところからふたりの共演がはじまった。

 ニディアについてクァンティックはこう評価する。

彼女の声は個性があって本当に素晴らしい。すごく美しい声だし、彼女はライターとしての力も持っている。両方が素晴らしいというそのコンビネーションは、彼女の武器だと思うね。彼女のライフ・ストーリーもすごくユニークだし、彼女のお母さんもパフォーマーだったから、彼女は多くの伝統的なシンガーのパフォーマンスも目にしてきた。彼女はかなりディープなヴォーカル文化の中で育ったからこそ、彼女の音楽は唯一無二になるんじゃないかな。コロンビアの伝統音楽であるクルラオやアフロ・コロンビアンの民謡なども理解しながら、彼女は常に新しいアイデアも取り入れている。それも素晴らしい部分だと思う。 (オフィシャル・インタヴューより。以下同)

 ニディアは『トランディション・イン・トランジション』のほか、2014年の『マグネティカ』などクァンティックのいろいろなアルバムに参加し、そうしてふたりの関係性が強まっていく中で『クルラオ』は作られた。伝統的なクルラオとニディアの歌唱に対し、クァンティックのエレクトリックなアプローチが融合したとても画期的なアルバムと評価できるだろう。

 そうした『クルラオ』に対し、『アルマス・コネクタダス』はオーセンティックなラテン音楽色がより強まっている。こうした作風の変化についてクァンティックはこう述べる。

前回のアルバムのサウンドは、もっとダンスっぽくエレクトロだった。コロンビアの、特に太平洋側の民族音楽の新しい解釈で、そういった音楽をエレクトロのサウンド・パレットの上で表現したものだったんだ。ほかにそれをやったことがある人があまりいなかったし、あれは新しい経験だった。一方、今回のアルバムはそれを既に一作目で成し遂げたから、これといって新しいアイデアはなかった。一緒に作品を作ることが一番の目的で、あまり特別なことは意識してなかったね。だから、ダンスフロアにとらわれることはなかったし、前ほどパーティー・レコードには仕上がっていないと思う。今回のアルバムでは色々なものが混ざっていて、軽快な曲もあれば、長い曲も、詩的な曲もあるんだ。どちらかというと、自由さがこのアルバムの方向性だったと思うね。ニディアに宿題として渡したのは、リズムのアイデアと曲の略図的なもの。そこから自由に曲を作っていったんだ。

 ニディアへの宿題とのことだが、基本的にニューヨークにあるクァンティックのスタジオ〈セルヴァ〉でレコーディングはおこなわれている(ちなみにクァンティックは〈セルヴァ・レコーディングス〉も主宰するが、『アルマス・コネクタダス』については長年クァンティックの作品を発表する〈トゥルー・ソウツ〉からのリリースとなる)。事前にコロンビアにいるニディアへデモ音源やいろいろな資料を送って聴いてもらい、彼女がニューヨークに来た際にヴォーカルを録音した。2年ほど前からアルバム制作ははじめられ、コロナによるパンデミック前にレコーディングは完了した。

ニディアとは新しいレコードをまた作りたいとずっと思っていたんだけれど、僕がコロンビアからニューヨークに引っ越してしまったから、実現するのが難しかったんだ。でもあるとき彼女がニューヨークに来ることになったから、そのために材料を集めることにした。それを彼女に送って、ニューヨークに来るときまでにやってもらう “宿題” を渡したんだ。で、彼女は5日間ニューヨークに滞在したんだけど、そのうちの2、3日で超特急でレコーディングしたんだよ。レコーディングはパンデミックの前だった。彼女のヴォーカルをその数日間で録音して、そこから僕がアレンジや他の作業を進めて行ったんだ。ニディアは曲を作るのが本当に早くて、歌詞に関しても素晴らしい歌詞をサッと書ける。ニューヨークに来る前に彼女が前もって書いていた曲もあったし、ニューヨークに来てから一緒に書いた曲もあるんだ。

 楽曲の制作プロセスからも、今回のアルバムが持つ方向性が見て取れる。いわゆるビートメイカー的なアプローチでトラックを作るのではなく、メロディやハーモニーを作っていく昔ながらの作曲方法によるもので、そこからオーセンティックなラテン音楽が生み出されていく。

曲の多くがギターとベースでデモを録音したものからはじまった。コード重視で、曲のヴァイブを捉えたもの。ニディアに送ったのは、多分10~15曲だったと思う。そこから彼女がお気に入りのものを選んで曲にしていったんだ。そこに彼女が声をのせたものを送ってきて、大体こんな感じになる、というイメージがわかった。そして、そこからまた二人で曲を作っていったんだ。遠距離だから、ライティングはリモートだった。で、ニディアがニューヨークに来たときには、僕が既にいくつかの曲をパーカッショニストとレコーディングしていたから、それに彼女が声を乗せて出来上がったものもあるし、二人でまた作業をして納得がいくまで仕上げていったものもある。曲は全てアナログでレコーディングしたんだ。コンピューターは一切使わず、全部テープ・マシンで録音したんだよ。今回は、前回の時よりもお互いのことをよく知っていたからそれが良かったと思う。お互いをもっと信頼できていたから、より作業がスムーズだったと思うね。

 ほかの録音メンバーはニューヨーク在住のラテン系ミュージシャンたちで、コロンビア、パナマ、ブラジル出身のプレイヤーたちが集まっている。これまでもクァンティックの作品に参加してきた馴染みのメンバーもいる。さらに、以前のアルトゥール・ヴェロカイのオーケストラとの共演が蘇るように、大幅なストリングスの導入が『アルマス・コネクタダス』のポイントに上げられる。

ストリングスは今回のアルバムの中の一つのテーマだったと思う。シンフォニックなサウンドというか、ストリングをより使ったサウンド。アルトゥール・ヴェロカイと一緒に作業をした経験などを通して、ストリングスのことを以前より学んだからね。ブラジルのミュージシャンのストリングスは本当に美しい。ミルトン・ナシメントもそうだし、1960年代のブラジル音楽にはヴォーカルにオーケストラのサポートがついていて、美しいハーモニーがヴォーカルを包んでいるのが特徴だと思うんだけど、今回のレコードではそれをやってみたかったんだ。

 ニューヨークにも独自のラテン・ミュージックの文化があり、サルサなどは現代にアップデートしながら進化してきた音楽である。『アルマス・コネクタダス』のストリングスやオーケストレーションの使い方などをみると、そうしたニューヨーク・ラテンの影響を受けた部分も見られる。たとえばホーン・セクションがゴージャスな “エル・アヴィオン” は1950年代のティト・プエンテ楽団あたりを聴いているようだ。そうしてみると、『アルマス・コネクタダス』はコロンビアとニョーヨークのラテン・カルチャーが融合したものという見方もできる。

 そのほかコロンビアでお馴染みのクンビアに基づく “バラダ・ボラーチャ”、スペイン移民によりキューバから広まったグアヒーラの “エル・チクラン”、キューバ発祥のダンス音楽であるチャチャチャの “アディオス・チャコン” などがあり、“マクンバ・デ・マレア” ではアフロ・ブラジリアンのリズムであるマクンバを用いている。マクンバはアフリカを起源とする南米諸国に根づく民間信仰で、その宗教儀式の際に用いられる音楽のリズムのことも指す。ニディアが生まれ育ったコロンビア南西部の太平洋岸沿いは特にこうした文化背景が強いところでもあり、“マクンバ・デ・マレーナ” はそうした文化、宗教、音楽がバックボーンとなっている。つまりコロンビアやキューバ、さらにブラジルなどアフリカを源流とする幅広いラテン・カルチャーのエッセンスを詰め込んだのが『アルマス・コネクタダス』である。

今回のレコードには大まかに二つのリズムが存在している。その一つがマクンバ。ブラジルのアフロ・ブラジリアンの宗教のリズム。マクンバは僕が好きなリズムで、それをニディアに聴かせて、ブラジル出身のパーカッショニストであるメイア・ノイテと一緒にレコーディングしたんだ。ニディアに勧めたのは、マクンバはニディアの出身のブラジルの太平洋側のクルラオに近いから。だから、それをやってみたらクールだなと思ったんだ。あと、コロンビアではマクンバというのは「クール!」という意味でも使われる言葉でもあるし(笑)。僕はあのリズムが大好きなんだけど、ポップ・ミュージックやヴォーカル曲で使われることがほとんどないから、それをやってみたら面白いんじゃないかと思ったんだ。僕はマクンバのリズムはヴォーカル曲にもすごく合うと思うよ。

 『アルマス・コネクタダス』では様々な風景や世界観が描かれる。ニディアが亡くなったいとこに捧げた “バラダ・ボラーチャ” は、いとことニディアの弟がティンビキの酒場で飲んだくれ歌ったり、踊ったりしている姿を綴ったもので、下町に暮らす人びとの日常的な風景が描かれている。それに対して “アドラル・ラ・サングレ” は、西欧社会のカトリックから植え付けられた宗教とアフリカからコロンビアへ継承された文化の関係性についての曲で、テーマに沿ってサウンドもコロンビア太平洋岸沿いのアフロ・ラテン音楽とアメリカ南部のブルースやゴスペルがミックスしたものとなっている。
 ほかにもティンビキの川で少年が溺れた水難事故を描いた “アディオス・チャコン” などがあり、『アルマス・コネクタダス』には宗教や哲学的なテーマもあれば現実社会の風景や事件が並列されて描かれていて、とてもユニークなものとなっている。これに関してはニディアの歌詞の世界が作り出す部分が大きい。ニディアがティンビキで育んできた精神性や宗教観がいままで以上に色濃く反映されたアルバムであるが、彼女の持つスピリチュアリティについてクァンティックはこう述べる。

ニディアは本当にスピリチュアルな女性で、多くの彼女のアイデアや歌詞にもそれが映し出されていると思う。それが音に出ているときは、他の人たちはそれに触れてはいけない(笑)。ニディアが生み出すその要素は素晴らしいものだし、それを自分の手を加えることで台無しにしてはいけないんだ(笑)。彼女の歌声だけでその素晴らしさが成り立っているから、それを汚さないようにしないと。今回は長い曲もいくつかあり、曲により大きな空間が存在し、彼女の声もより深く楽しめるようになっていると思う。リスナーにも彼女の声が誘う素敵な旅を楽しんで欲しいね。歳を重ね、より多く経験を積んでいることで、彼女の声はよりディープになったとも思うしね。

 アルバム・タイトルの『アルマス・コネクタダス』とは『コネクティッド・ソウルズ』、すなわち『魂の繋がり』を意味する。宇宙のエネルギーの相互関係を示す言葉であり、非常にスピリチュアルなテーマを持つ言葉だ。同時に離れた場所にいる人たちの繋がりを示す。

このタイトルはニディアのアイデア。遠距離で曲を作っていたニディアと僕とか、曲のアイデアを繋げることとか、バラバラの場所に住んでいる人たちが繋がっていることとか、そういったコネクションを意味しているんだと思う。

 コロナによって以前よりも距離をおいた関係性が求められるいま、そんな我々に対する言葉でもある。

Grouper - ele-king

 Shade=物陰、リズ・ハリスらしいタイトルだ。彼女の音楽はつねに、太陽より月光、月光より月影、そして石よりも水、外的ではなく内的な動きにおけるさまざまなヴァリエーションだった。ハリスの作品は、ぼくがこの10年、ずっと追いかけている音楽のひとつで、今朝、待ち焦がれていたその新作がようやく届いた。先行発表されていた2曲を何度も聴いていたので、いつものこととはいえ今回のアルバムもきっと素晴らしいだろうと思っていた。で、いざじっさい聴いてみるとやはり間違いなかった。
 
 2005年の自主リリースされたCDrがリズ・ハリスの最初の作品だった。タイトルの「Grouper」とは、彼女が育ったサンフランシスコの、ゲオルギー・グルジェフに影響されたカルト・コミューンの名前から取られている。突然両親が変わることさえあったという「Grouper」では、子供はいわば実験対象だった。カルト内では虐待や抑圧も多々あったというが、こうした特殊な生い立ちがハリスの音楽にまったく影響していないと考えるほうが不自然だろう。
 ハリスは、彼女の自我に深く傷を残したであろうそのコミューン名をしかし自らのプロジェクト名とし、2008年にUKの〈Type〉からリリースされた『死せる鹿を丘に引きずりながら(Dragging a Dead Deer Up a Hill)』によって一躍脚光を浴びた。これは彼女の出自がまだ知られていなかった頃の話で、エーテル状の音楽性からコクトー・ツインズと比較されたそのアルバムのスリーヴには、魔女めいた服装をした少女時代のハリスがいる(ぼくは長年別の人物と思っていたのだが、どうやら本人らしい。本当かな?)。それはともかく、音楽はいわゆるゴシックでもシューゲイザーでもない。フォークがその基盤にあることはたしかだが、それは人間の攻撃性をいっきに解除するかのような、繊細でどこまでも静的なフォークなのだ。
 それからハリスは、2011年に自身のレーベル〈Yellow Electric〉から連作『 A I A : Alien Observer』と『 A I A : Dream Loss 』をリリースする。これらはより実験色が強く、歌としての輪郭は滲むようにぼやけ、洞窟の奥深くで演奏しているかのようなその独特な響きゆえにドローン・フォーク/アンビエント・フォークなどと形容された作品だった。ぼくがグルーパーのファンになったのもこの2枚から
 
 繰り返そう。グルーパーの音楽は、どんな作品であれ、極めて静的で、言葉が主張するものではない(彼女は言っている。「歌は、言葉がわからなくても伝えることができる」と)。が、これほど強く、みごとと言っていいほど「ひとり」を感じる音楽をぼくはほかに知らない。たとえ夕刻時の銀座線のホームの人混みのなかであろうと、イヤフォンを通じてこの音楽がぼくの鼓膜を振動させた途端に、ぼくは瞬く間に「孤独」になる。それは不快ではないが快感でもない。憂鬱でも不幸でもない。ただただ、そうなることを知覚する。2013年の『ボートで死んだ男(The Man Who Died In His Boat)』、そして「政治的な怒りと感情的な残骸のドキュメント」と彼女自身が説明した2014年『Ruins』にも、ハリスにしか表現できないその独特な感覚から広がる音響工作のヴァリエーションが試みられている。
 こうした流れとは異なる路線を見せたのが、2018年の『Grid Of Points』だった。ここでは、それまで頻繁に採用していたフィールド・レコーディングや抽象的なエレクトリック・ノイズなどの音響実験を排して、シンプルにピアノをバックに歌っている。最新作の『Shade』もその延長にあるわけだが、作品でフィーチャーされている楽器はピアノではなくギターで、前作以上に飛び抜けてシンプルなフォーク・アルバムとなっている。グルーパー史上、もっともポップな作品と言ってもいい。

 オレゴン州のポートランドで長年暮らしてきたハリスは、昨年は同地のブラック・ライヴズ・マターに積極的に関わっていたが、いろんな事情があって引っ越したようだ。最近のWireに掲載されたインタヴューによれば、彼女が精神不安を抱えているとき、いまもポートランドに住んでいる友人のマリサ・アンダーソンから言われた「水を探しなさい」という言葉を頼りに、ハリスは太平洋沿いの海の近くに移住した。録音の半分はカリフォルニアのタマルパイス山という海から離れた場所でおこなわれているが、作品は、ハリスの説明によれば、いま住んでいる土地の海岸の風景と繋がっている。たしかに、アルバムの冒頭は“海を追って(Followed The Ocean)”とある。それはホワイト・ノイズがミックスされ、過剰にエフェクト処理された昔ながらのグルーパー・サウンドで、この曲が終わって2曲目の“Unclean Mind”がはじまると、どこか別の世界に瞬間移動したかのように場面はいっきに変わる。以降の曲のほとんどは、おおよそアコースティック・ギターと歌だけで構成されている。しかもメロディや歌よりもギター演奏の運指の音量のほうが大きいという、いままで以上に静的な瞬間がたびたびある。また、10年前の作品からにじみ出ていたような不安と悲しみは、この新作のどこかにはあるのかもしれないけれど、しかし『Shade』には、なにかしら清々しさが混ざっているように感じるのだ。もちろん、いまこの作品を聴いているぼくは「ひとり」だ。しかし同時に、心のざわめきには風通しのよい、そう、たしかに水を見つけたときのささやかな喜びがある。
  アンビエントめいた音響実験に関しては、2019年から着手したNivhek名義にて、今後も継続されていくのだろう。

interview with Parquet Courts (Andrew Savage) - ele-king

ニューヨークのアーティストとは、「生き延びるために創造しないといけない必要性」があるひとたちなんだと思う。競争が激しいし、物価や生活費も高い。だから生き延びるために精力的に活動しないといけない。ニューヨークでアーティストとしてやっていくのは昔から非常に困難なことだった。たくさんの血と汗と涙を流さないとやっていけない。

 都市の喧騒が聞こえる。行き交う人びとの姿が見える。彼らはそのテンポを「ダウンタウンのペース」と呼んでいるが、これは、街から生まれたノイズを使って身体を揺らそうとする者たちの音楽だ。
 ニューヨークのブルックリンからイキのいいガレージ・バンドとして2010年代初頭に登場し、ぶっきらぼうだがオリジナル・パンク~ポスト・パンクへのたしかな敬意を感じさせた3作目『Sunbathing Animal』で世に知られたパーケイ・コーツは、00年代なかばのディスコ・パンク/ポスト・パンク・リヴァイヴァルにも、00年代後半のブルックリン・シーンにも間に合わなかったからこそ、特定のシーンに絡め取られることなくマイペースに自分たちの音楽を拡張してきた。その間ノイズをやったりヴェルヴェット・アンダーグラウンドっぽいことをやったりハードコアのルーツを意識したことをやったりしているのだが、バンドとしてのまとまりとパフォーマンス性を一段引き上げたのが、いくらかダンス寄りになった前作『Wide Awake!』だった。初期から持っていた猥雑な音の感触は残しつつも、パーカッションや電子音を整頓して配置することでデザイン性を高めたのである。
 そして、その路線を推し進めたのが、(変名バンドParkay Quartsやダニエル・ルッピとのコラボレーション作を除いて)通算6作目となる『Sympathy for Life』だ。バンド・メンバーたちはアルバムを作りながら、COVID-19によるロックダウンをまだ知らないニューヨークのインディ・パーティで踊っていたという。ストンプ・ビートとワイルドなベースラインが痛快な “Walking at a Downtown Pace”、ポスト・パンク・バンドがサーフ・ロックをカヴァーしたような “Black Widow Spider”、パルスめいた電子音がユニゾン・コーラスとゆったり絡み合う “Marathon of Anger” と、テンポを変えつつも足腰を動かすロック・チューンが続く。同じくニューヨークのLCDサウンドシステムや!!!のように、ハードコア・パンク育ちのキッズがテクノやハウスに触発されて生み出した音楽の系譜を受け継いでもいるだろう。

 アルバムは本格的なパンデミック以前に完成していたというが、ある意味、ロックダウンによってニューヨークが(一時期)失っていたものを封じこめた作品だと言える。人びとが狭い地下やビルに一室や路上に集まって踊ること、そこで交わした社会的/政治的議論を生かし、ともに声を上げること。パーケイ・コーツは以前から歌詞に都市で生きることのジレンマや苛立ちをミックスしてきたが、パンデミックを経たことでその個性がよりクリアに見えることになった。彼らはこのアルバムで、踊って考え、考えて踊っている。以下のインタヴューでヴォーカル/ギターのアンドリュー・サヴェージはパーティ文化をコミュニティと表現しているが、パーティは都市に生きる人間たちにとって考えや価値観をシェアする場としても機能しているのだ。また、ロックダウンによって人びとの集まる機会が失われた2020年のニューヨークにとって、ブラック・ライヴズ・マターが再集結のきっかけだったという証言も興味深い。パーティに通っていたひとたちが、デモの現場で久しぶりに再会するなんてこともあっただろう。
 パーケイ・コーツによる「ダンサブルなロック」は、ロック・リスナーがただ気持ち良く踊れるように設計されて提供されたものではない。異なるジャンルの音楽を聴いていたはずの人間たちが一堂に会して同じリズムで踊り、そこにこめられた問題提起と向き合うものとして、『Sympathy for Life』は野性的なグルーヴを展開している。

ブラック・ライヴズ・マターの抗議活動は、人びとを再び集結させる上で非常に重要な出来事だったと思う。怒りが昂っていたし、とても感情的な雰囲気ではあったけれど、同時にポジティヴな空気も感じられた。ニューヨーカーたちの間では「みんないっしょに乗り切ろう」という意気込みがあった。このような団結力は、俺がこの街に10年以上住んでいていままで見たことがないようなものだった。

いま、海外のミュージシャンのライヴが観られない状況なのでもはや懐かしい気持ちになるのですが、2018年わたしはフジロックであなたたちのステージを観て、すごく踊って最高の気分になりました。『WIDE AWAKE!』、そして本作『Sympathy for Life』とダンサブルなロック・アルバムが続きますが、これはあなたたちにとって自然な流れだったのでしょうか?

アンドリュー・サヴェージ(以下AS):そう思うね。いままでのバンドの進化というものはすべて、自然な流れだったと思う。変化や進化というものを無理に起こそうとしても、それは見え透いたようになるだろうし、もしかしたら気取っていると思われるかもしれない。でも俺たちはそれには当てはまらないと思う。バンドの11年の活動を見れば、バンドの重要な進化に気づいてもらえると思う。俺たちはいま、サウンドもヴィジュアルもファースト・アルバムのときと違うし、5枚目のアルバムのときとも違う。それはつまり俺たちが人間として進化し、俺たちの志向や音楽に対する考え方が進化し、ニューヨーク・シティという俺たちが住んでいる世界で生活していることの意味や、地政学に対する考え方が進化していることが反映されているからだと思う。そういうものの影響は受けているし、世界も進化しているからね。そういう意味で自然な流れだったと思う。それに、バンドとして同じことを繰り返したくないという思いもある。だから意識的に、バンドとしてのコアなアイデンティティを変えずに、どうやったらいままでとは違うことができるかと考えている部分はあるね。

アルバムはパンデミック前にニューヨークのパーティに通ったことに影響されているとのことですが、どのような音楽がかかるパーティに行っていたのでしょうか?

AS:ロックダウンになる前の話になるけど、俺はレイヴ・カルチャーに興味を持ちはじめた。だからおもにテクノ・ミュージックだ。オースティンは何年も前からディスコ寄りの音楽のDJをしていて、〈ザ・ロフト〉という昔からあるディスコのパーティに行っていたよ。

あなたたちの音楽は、たとえば70年代のニューヨークのアート・ロックからの影響もありますが、もともと自分たちはニューヨークのバンドだというアイデンティティ意識は強い方ですか?

AS:強いほうだと思う。ただ、「ニューヨークのアーティスト」というものが何なのかということが明確ではないから答えにくい質問ではあるね。たとえば、「70年代のニューヨークのアート・ロック・シーン」など人びとが強いこだわりを持つ分野もあるように、ニューヨークは文化的な文脈で定義されることが多いと思う。つまり、あるひとが想像するニューヨークとは、感情的・文化的な経験がもとになって定義されることが多いと思うんだ。だけど、ニューヨークという街を定義するのは難しい。この街はつねに変化しているという性質を持っていて、静止しているということがない。だから「ニューヨークのアーティスト」が何であるのかを定義することが難しい場合もある。俺が思うにニューヨークのアーティストとは、「生き延びるために創造しないといけない必要性」があるひとたちなんだと思う。ニューヨークは競争が激しいし、物価や生活費も高い。だから生き延びるために精力的に活動しないといけない。それはどんな時代でも、どんな文化的要素に紐つけようとしても共通していることで、ニューヨークでアーティストとしてやっていくのは昔から非常に困難なことだった。たくさんの血と汗と涙を流さないとやっていけない。俺たちには昔からそのメンタルが備わっているからニューヨークのアーティストだと言えると思う。

ニューヨークはパンデミックの影響をとくに大きく受けた街だと思うのですが、あなたたちの音楽制作やこのアルバムに対して、パンデミックはどのような影響を与えましたか?

AS:パンデミックがはじまる直前のほんの数日前にアルバムの制作を終えていたから、音楽制作には影響を与えなかった。でもアルバムのリリースには影響を与えた。理想としては2020年9月にアルバムをリリースするはずだったんだけど、それは実現されなかった。その代わり、というかそのおかげで、どうやってアルバムをリリースしていくかという方法について考える時間が増えたから、それについてじっくり考えることができた。たとえば、アルバムのすべての曲でミュージック・ヴィデオを作ることにしたから11のミュージック・ヴィデオが公開されるし、アルバムのプロモーション企画として11のイヴェントが予定されている。それから俺はアルバムのアートワークをすべて担当しているんだけど、今回のアルバム・アートワークには制作に手掛けられる時間に1年間の猶予が生まれた。2020年9月にアルバムをリリースしていたら、これらのことはすべて不可能だった。ツアーができなくなってしまったから、従来の方法でアルバム・プロモーションができなくなってしまったから、こういう流れになったんだけれど、このタイミングでアルバムをリリースできたことは良かったとじつは思っている。パンデミック当時、ニューヨークは俺がいままでに見たことのないような状況だった。最初はものすごく静かだった。
 そして去年の夏にブラック・ライヴズ・マターの抗議活動が起こり、それは、人びとを再び集結させる上で非常に重要な出来事だったと思う。そのときに人びとは再び外に出るようになった。人びとの怒りが昂っていたし、とても感情的な雰囲気ではあったけれど、同時にポジティヴな空気も感じられた。ニューヨーカーたちの間では「みんないっしょに乗り切ろう」という意気込みがあった。このような団結力は、俺がこの街に10年以上住んでいていままで見たことがないようなものだった。だからパンデミックの影響で世界は大きく変わってしまったけれど、そこからポジティヴなものも生まれたと思う。

あなたたちのこれまでの楽曲はよくデザインされたものだったように思います。本作では長時間の即興演奏がもとになったそうですが、それはこれまでの方法論とかなり異なるものだったのでしょうか? そして、その方法はこのアルバムにどんな影響を与えましたか?

AS:まったく異なるものだったよ。アルバムの曲のなかでも、従来の作曲方法で作られたものはいくつかある。“Walking at a Downtown Pace”、“Pulcinella”、“Sympathy for Life” などがそうだ。だけど、今回の新しい方法は40分の音源──おもに俺たちが即興演奏をしているもの──をテープに録音して、ロデイド・マクドナルドの協力を得て、それをひとつの曲にエディットしてまとめていくという方法だった。コラージュを作ることをイメージしてもらえればわかりやすいと思う。

『WIDE AWAKE!』はデンジャー・マウスがプロデュースでしたが、本作でプロデュースに関わったロデイド・マクドナルドとジョン・パリッシュはどのような役割を果たしたのでしょうか?

AS:ロディ(ロデイド)は先ほど話したように、エディットをするというプロセスで重要な役割を担っていた。彼はその方向性にバンドを向かせていってくれた。彼はアルバムの音を操作して様々なテクスチャーを加えてくれた。ギターの音をシンセに通して、アルバムで聴こえるグリッチーでザラザラとしたテクスチャーを表現してくれたんだ。彼は四六時中でも作業したいというひとで、俺たちと作業したときもノンストップでやっていた。そのいっぽうで、ジョンは音の操作や音に介入するということをほとんどしないひとで、とてもクリーンなサウンドを好むんだ。彼はピュアなサウンドを表現する才能に長けていて、マイクを楽器などに近づけて、その音をそっくりそのままテープ・マシーンに直で伝えることが非常に上手い。完璧にそれをやってくれる。素晴らしいよ。非常にプロ意識の強いひとで、ミュージシャンとしても素晴らしい腕の持ち主だ。彼といっしょに録音したものでは、彼はシンセとピアノを弾いてくれている。このふたりの協力がなければ、アルバムはこのような仕上がりにはなっていなかったと思う。

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ニューヨークという街はつねに変化している。だからこそ、現状を表現するということが非常に重要だと思うんだ。アルバムとは、どこでレコーディングされて、どこで制作されて、アーティストがどんなマインドでいたのかという、そのときと場所のスナップショットだと俺は考えている。

本作においてグルーヴが何より重要だったとのことですが、あなたたちの音楽にとって、グルーヴを生み出すためにもっとも重要な要素は何でしょうか?

AS:何だろうな。(考えて)わからない(笑)、良いリズムセクションがあるのに越したことはないね。

Walk at a downtown pace and
Treasure the crowds that once made me act so annoyed
ダウンタウンのペースで歩いて、
イラつかされたこともある群衆を大切にするんだ
(“Walking at a Downtown Pace”)

リード・シングル “Walking at a Downtown Pace” はワイルドなパーティ・チューンで、街の息使いが伝わってくるミュージック・ヴィデオも印象的です。あなたたちにとって、ダウンタウンはどんなものを象徴する場所なのでしょうか?

AS:それは、ニューヨークのダウンタウンのことかい? それとも曲で歌っているダウンタウンのことかい?

曲で歌っているダウンタウンは、ニューヨークのダウンタウンではないのでしょうか?

AS:ああ、確かにそうだよ。その両方について話せばいいか。曲のヴィデオは、ニューヨークの現状を非常にうまく切り取っていると思う。先ほども話したようにニューヨークという街はつねに変化している。だからこそ、現状を表現するということが非常に重要だと思うんだ。ニューヨーク出身のアーティストとして俺たちは、そのときの瞬間を定義しようという狙いがある。アルバムとは、どこでレコーディングされて、どこで制作されて、アーティストがどんなマインドでいたのかという、そのときと場所のスナップショットだと俺は考えている。このヴィデオは、制作された2021年夏のニューヨークがどんな感じだというのを非常にうまく伝えている。ニューヨークがかっこよく描かれていると思うし、曲にすごく合っていると思う。ある意味、ニューヨーク・シティに宛てたラヴ・ソングだと言えるね。

現在のニューヨークのもっとも好きなところと嫌いなところを教えてください。

AS:いまのニューヨークのもっとも嫌いなところは何もかもが高すぎるということ。物価がどんどん上がっているから、ニューヨークで暮らすことが難しくなっていっている。でも(好きなところとして)通常の生活では、ニューヨークでは素晴らしいイヴェントや体験が可能だ。それもじょじょに戻りつつある。音楽イヴェントも再開したし、美術館も再開した。もう少しで通常に戻ると思う。本当にいまの話で答えると、今日はニューヨークでは初めて秋らしい日で、外はすこし肌寒かった。それが良かった。俺は秋が一年で一番好きだから。だから今日のニューヨークにはとても満足している。

『WIDE AWAKE!』ではジェントリフィケーションで変わる街が一部モチーフになっていましたし、パーケイ・コーツは「考えるバンド(thinking band)」だとしばしば言われてきました。本作において、あなたたちがとくに考えてバンド内で話していたことは何でしょう? 政治でも社会でも哲学でも、はたまたバカバカしいことでも何でも教えてください。

AS:資本主義というテーマが引き続き探求されている。このテーマはパーケイ・コーツの歌詞にかなり頻繁に登場する。“Black Widow Spider”、“Homo Sapien”、“Application/Apparatus”、“Just Shadows” といった曲は資本主義がテーマになっている。資本主義を批判する視点で歌詞を書いていると同時に、資本主義に加担している身として書いているんだ。俺たちはプロのミュージシャンとして資本主義制度の一部になっているし、資本主義の恩恵を受けている身でもある。だけどそれに批判的になりたいという欲求もある。世界の大都市や世界の大部分が資本主義の恩恵を受けていると言える。パーケイ・コーツは、資本主義から逃れられないことや、資本主義が俺たちに与える影響について歌っていることが多い。それから、このアルバムの強いメッセージとして「コミュニティ」というものもあって、それはパーティなどに遊びにいってそこにいるひとたちといっしょに踊るというような一体感や、ひととひとの間にある空間やエネルギーという概念を表している。人びとが集まっている一体感というものがアルバムで感じられるから、今作は、楽しくてダンサブルなアルバムになったんだと思う。それに素敵なラヴ・ソングもアルバムには入っているよ。それにしても「考えるバンド(thinking band)」と言われるのは嬉しいね。

Young people enjoying urban habitation
Headlights beaming with western potential
都市での居住を楽しむ若者たち
西洋文化の可能性とともに輝くヘッドライト
(“Application/Apparatus”)

What a time to be alive
A TV set in the fridge
A voice that recites the news and leaves out the gloomy bits
こんな時代に生きられて最高だ
テレビ画面が埋めこまれた冷蔵庫
憂鬱な部分を避けながら、ニュースを読み上げる声
(“Homo Sapien”)

“Application/Apparatus” や “Homo Sapien” ではとくに、テクノロジーに対するアイロニカルな視点が提示されているように思います。このアルバムにおいて、現代の都市のライフスタイルはテーマのひとつだと言えますか?

AS:それはバンドにとってのテーマのひとつだと言えると思うよ。でもアイロニカルな視点と言えるかはわからないな。“Homo Sapien” は辛辣な冗談(サーカスティック)と言えるかもしれないけど、“Application/Apparatus” はアイロニーでも辛辣な冗談でもない。そしてどちらともテクノロジーに対する批判ではないんだ。“Application/Apparatus” はテクノロジーに関与することによって生まれる孤立感について歌っている。それは批判と言うよりはむしろ観察だと思う。“Homo Sapien” は批判ではあるんだけど、多少、からかい半分な感じで批判している。

俺たちはプロのミュージシャンとして資本主義制度の一部になっているし、資本主義の恩恵を受けている身でもある。だけどそれに批判的になりたいという欲求もある。世界の大都市や世界の大部分が資本主義の恩恵を受けていると言える。パーケイ・コーツは、資本主義から逃れられないことや、資本主義が俺たちに与える影響について歌っていることが多い。

“Zoom Out” というタイトルからはどうしてもヴィデオ通話サービスのZoomを連想してしまいますが、歌われていること自体は、かなりぶっ飛んだ無限の可能性が提示されていますよね。これはパーカッションとベースが効いたワイルドなダンス・チューンですが、どういった精神状態を表したものなのでしょうか?

AS:この曲の歌詞を書いたのは俺じゃないんだ。でも俺の予想では、先ほども話した「コミュニティ」という概念に行き着くんだと思う。けど、わからないな、俺たちは自分たちが書いた歌詞の内容についてあまり話さないんだよ。だから俺の予想でしかないんだけどね。いま、歌詞を思い出しているけど、「When you zoom out, the power is now / When you zoom out, together is now」と歌っている。だから一体感(togetherness)についての歌で、ズームアウトするということは、自己という個人のアイデンティティから、コミュニティという、より大きな規模で俯瞰して物事を見るということなんじゃないかなと俺は思う。

先ほども少し話に出ましたが、本作に併せた企画「The Power of Eleven」が面白いですね(アルバム収録曲に合わせて世界各地で開催されるイヴェント。その第1弾として、Gay & Lesbian Big Apple Corpというマーチングバンドが “Walking at a Downtown Pace” をマンハッタンで演奏した)。これはどのような目的意識で生まれたアイデアだったのでしょうか?

AS:(ロックダウンの最中は)この先、コンサートなどのライヴ・ミュージックが可能かどうかがわからないという状況だった。そこでコンサートなどがなくても人びとが集まることのできるイヴェントを企画することにしたんだ。この企画をしたとき、世界が今後どのようになっていくのかは不明だったけれど、世界がどんな状況になっても、拡張や縮小が可能な企画にしたんだ。何かのファンであると言うことは、コミュニティの一部であることを意味する。長い間、コミュニティから外れていたひとたちを、バンドの宣伝になるようなクールな体験を通して、再びコミュニティ内に戻してあげるというのがこの企画の狙いだった。

日本ではまだまだ、パンデミック以前のようにライヴでひとが集まって踊ったり歌ったりするのが難しい状況なのですが、このダンサブルなアルバムをどのようなシチュエーションでリスナーに楽しむことを薦めますか?

AS:自分の家に友人を招いたりすればいいんじゃない(笑)? ひとりで踊ってもいいし。わからないよ、日本の状況がよくわからないからね。自分の家に友人を招いたりしているのなら、自分の家で小規模なダンス・パーティをするのがいいと思う。

最後に遊びの質問です。パーケイ・コーツにとって最高にダンサブルなロック・アルバムを3枚教えてください。

AS:トーキング・ヘッズの『サイコ・キラー'77』。このアルバムを聴いてたくさん踊った覚えがある。ロック・アルバムだよな? それから、ロキシー・ミュージックのファースト・アルバム。セルフ・タイトルだ。あとはなんだろうな……(しばらく考えている)。シルヴァー・アップルズのセルフ・タイトルのアルバム。

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