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デンシノオト   Nov 17,2014 UP

 音楽の永遠性とは何か。普遍性ではない。普遍は世界の側に属しているが、永遠は個人の内側にあるのだから。永遠への希求。それは凍結した時間のようなもので、一種の「死」に近い感覚だ。
そして今年発表された音楽には、そのような永遠性を希求するようなアルバムが、とても多いように思える。刹那の情報の層に世界が覆われていく現在だからこそ、音楽は永遠性=タイムレスな感覚を希求しているのだろうか。たとえば、話題沸騰中のアルカ『ゼン』にも、インダストリアル/テクノのアンディ・ストットの新譜『フェイス・イン・ストレンジャーズ』にも、そして今回紹介するグルーパーの新作『ルインズ』にも、そのような凍結された時間=死のようなものを感じる。

 このアルバムにおいてグルーパー=リズ・ハリスは、ピアノと歌による弾き語りを披露している。これまでのようにギター、シンセなどをほとんど用いることなく、4トラック・レコーダー、アップライト・ピアノ、マイクという簡素な楽器や機材で用いて制作されたという。録音は、2011年、ツアーの合間に滞在したポルトガルのアルジェズールにて行われた。そのせいか、このアルバムには、そのときどきの微かな環境音が、あたかも声とピアノとのアンサンブルのように鳴り響いているのだ。鳥の声、水の音、木々の葉。まるで映画のフィルムから聴こえてくるような音の質感。

 言うまでもなくリズ・ハリスはソングライターであると同時に、2010年代的なドローン/アンビエント・アーティストである(そしてザ・バグの『エンジェル&デビル』にも参加した優れたヴォーカリストでもある)。しかし、このアルバムは、冒頭と最終曲以外は、歌とピアノと、簡素な録音機器のみで録音されたものだ。
 むろんよく聴いてみると、声が重ねられている曲もあるし、環境音も編集されている可能性もあるだろう。しかしそれらはひとつの時間の流れとして極めて自然にアルバムに置かれているので、全体の雰囲気は統一され、まるで凍結された時間のような感覚が生まれているのである。その意味で、本作はデモテープ・アルバムなどではない。きちんと構成されたアルバム作品だ。
 事実、リズは、1曲めに、暗闇の中で何かを打つような音のエクスペリメンタルなトラック“メイド・オブ・メタル”を、ラスト8曲めに、2004年に母親宅で録音されたという11分25秒に及ぶドローン/アンビエント・トラック“メイド・オブ・エア”を置くことで、アルバムに円環性を与えている。そんなエクスペリメンタル・トラックに挟まれるように、彼女の声とピアノ(そして微かな環境音)だけによる曲が収録されているのだ。

 これらの曲は、まずもってメロディが素晴らしい。2曲めのキャロル・キングのような“クリアリング”から3曲めのジョン・レノン・ソロ曲のような“コール・アクロス・ルームス”へ。この流れは完璧だ。特に後者の滴のようにはかないメロディの素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。つづいてインスト・ピアノ曲の“レディリンス”。その瀟洒なミニマリズムは、巷のポストクラシカルを軽々と超えている。そして曲の終わりに唐突に鳴るビープ音。その音はノイズだが、まるでこの曲の、この瞬間に必要な音としてそこに鳴り響いているのだ。“ライトハウス”では蛙の声、自然音、雫のようなピアノ、ささやくような歌声がシルクの層のように重なっていく。メロディは“レディリンス”の変奏だろうか。耳を澄ますと、蛙の音などの環境音は彼女の声とピアノの後ろに鳴り続け、まるで演奏=アンサンブルをしているようにも聴こえる。天国のような平穏と美。曲はまたも環境音で終わり、掃除機でもいれるようなカタっという音がして、“ホロフェルネス”にシームレスに繋がる。この曲も1分33秒のインスト曲だ。ビートルズの“ビコーズ”のイントロのような曲。
 そして7曲め“ホールディング”は7分57秒におよぶヴォーカル曲である。澄んだミニマルなフレーズのピアノに、透明な歌声。構造的にはミニマルな楽曲だが、フローティングする感覚を保持しながら波打つように演奏されるので、まるで空気の流れのように旋律と和声が反復していくのだ(ロバート・ワイアットにカバーしてほしかった)。終盤直前に鳴る雷と雨の音。音楽はそこでいったん途切れ、やがてピアノの数音。そして本作唯一のアンビエント・トラック“メイド・オブ・エア”へと繋がる。淡いシンセ音がミニマルに鳴り響き、やがて記憶が空気の層に消失する……。見事なアルバム構成だと思う。

 このアルバムははじめと終わりの2曲以外は、すべてピアノとヴォーカルによるシンプルな編成の曲だ。しかし、私にはこれまでのグルーパーのアルバム以上に、フライジャイルなアンビエント感覚があるように思えた。これは歌とピアノのよる究極のアンビエント・ミュージックである。そして、アンビエントは記憶に作用する。ノスタルジアの生成。本盤は記憶=ノスタルジアの中に永遠性を凍結したような作品だ。凍結された永遠とは、ほとんど「死」と同義である。だが、それこそ音楽とはいえないか。

 思えば、2013年にグルーパーがリリースしたアルバムの名は『ザ・マン・デッド・イン・ヒズ・ボート』というタイトルであった。記憶の中の死。そして、このアルバムの名は『ルインズ』。つまり廃墟だ。廃墟とは記憶の痕跡であり結晶である。痕跡。結晶。凍結。死。彼女の音楽は、いつもそのような場所から鳴り響いている。そう、時間を越えている場所からの音楽。つまりタイムレス・ミュージックだ。

デンシノオト