「UR」と一致するもの

Savan - ele-king

 今年のクンビアはどうかしている。驚くほど飛躍がある。近年だとクンビアとレゲトンを交錯させたアトロポリスやマンボとクロスオーヴァーさせたソニド・ガロ・ネグロなど可能性を広げてきた人たちは少なからずいたものの(アルカも『KickⅢ』『KickⅣ』で導入)、それらとは少し次元が違う。ディスコ・ミュージックがアシッド・ハウスに変化した時のような発展があり、少なくとも原型は消し飛んでいる。今年の初め、ハイパー・フォーク・ブリコラージュと銘打って『Levure』をリリースしたアルゼンチンのヨトがスラップスティックなフォークトロニカとしてクンビアを刷新したとしたら、本家コロンビアからのエントリーとなったサヴァンこと環境保護活動家のホセ・ミゲル・ナバスによる『Antes del Amancer(夜明け前)』はサイケデリックなフォークトロニカというのか、ガレージ・ロックをどこかに置き忘れた『スクリーマデリカ』……というのはさすがに言い過ぎか。アルゼンチンが高度な音楽教育を背景にヘンなことをやらかす人たちだとしたら、コロンビアはストリートワイズがそのすべてで、理屈では導けないダイナミズムが本家を本家たらしめている。サヴァンは、南米の人にはありがちだけれど、熱帯雨林の医療儀式とやらに録音方法を委ねたそうで、先住民の語る神話やそのなかで鳥が果たしている役割にインスパイアされた音楽であり、アルバム全体を通してコロンビア北部にある山地(シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ)を歩き回るシミュレーションになっている。確かに〝Pensar Bonito〟を聴いていると高いところに舞い上がっていくような、それこそ〝Higher Than The Sun〟を思い出す感じがある。

 医療儀式というのは平たくいうとヤゲと呼ばれる先住民の下剤を服用することでトリップすることのようで(推測)、感情のブロックを取り除いて無意識に没頭することを意味しているという。ハーモニカを演奏しているデヴィッド・フェリペは毎週末にヤゲを使った医療儀式に参加し、彼の演奏に導かれて儀式の再現に勤めているようで、それはどうやらシャーマンが鳥になるという幻覚状態の再現らしい。サヴァンはフクロウやコンドルなど神話と深く関係している鳥たちの声の周波数スペクトルを分析し、それらをフルート版のガイタ(ジャジューカで使われている木管楽器)で吹くメロディに応用し、それらが織り成すハーモニーを音の彫刻と称している。演奏者の視点は鳥に同化し、遠くまで見通す能力を得て、自然の再生に意識を向けることが目的になる。ヤゲはちなみにテレンス・マッケナでおなじみアヤワスカに似たものだという。また、南米のプロデューサーたちが鳥に過剰な思い入れを持っているのは『A Guide To The Birdsong Of South America』にもよく表れていた通り。

 クラフトワークを自然志向に向かわせたようなオープニングからデヴィッド・フェリペのハーモニカが重用され、これがブルースを思わせる響きを放つ。続く〝Halcón(夜鷹)〟ではヴォーカルにマイタラを起用し、本格的な儀式へと没入していく。アンデス民謡とクンビアを混ぜ合わせたようなフォークトロニカは、ふわふわと宙を舞い続け、続く〝Pagamento(自然への捧げもの)〟が最初の白眉。変調させたカエルと鳥の声を何層にもレイヤーさせ、得も言われぬモヤモヤ感に導かれる。〝Búho(フクロウ)〟は初めて楽器の音がストレートに使われ、マイタラが再び断片的なヴォーカルを吹き込んでいく。さらに〝Pensar Bonito(美しさを思う)〟はきらびやかな弦の響きを組み合わせ、ヴォイス・サンプル(?)が優雅に空を駆け巡る。ここまで自然の描写に努めてきたサヴァンは〝Condor Madre(コンドルの母)〟で躍動感に満ちた一歩を踏み出し、循環コードを執拗に繰り返すせいか、これがまたどことなくプライマル・スクリーム〝Loaded〟のアコースティックな展開に聞こえて。空へ、空へ、コンドルは舞い上がる。一転して〝Colibrí(ハチドリ)〟はオープニングに戻ったようなハーモニカの乱舞。背景に挿入されたノイズの量がハチドリの小ささを浮かび上がらせる。最後は〝Aguíla de Paramo(吹雪の鷲)〟。意外にも厳しい自然の風景でエンディングを迎える。ヤゲによって浄化され、カタルシスを得て解放された人々は心が強くなっているはずだということだろうか。あくまでも医療儀式ということだから、まあ、そういうことなのだろう(最後に〝Pagamento〟を短くリプライズさせていればアルバムの構成としては完璧だったんじゃないかなと思う)。いや、しかし、「和みました」。音楽に限らずなんらかの手段でリラックスできた時、90年代後半に「癒し」という言い方が広まる前は「和んだ~」というのが一般的だった。なんで、日本人は「和んだ~」という表現を捨ててしまったのかな。サリン事件の後で被害者意識が増大したことと関係があるのだろうか。

 コロナ禍で税制が変わり、新自由主義に苦しめられたコロンビアでは毎週のように市民によるデモが起こり、2年前にコロンビア史上初の左派政権が誕生している。現職のペトロ大統領は左翼ゲリラ出身で、親米路線が揺らぐことは必至とされるなか、通貨をドルに変えると宣言したアルゼンチンのミレイ大統領から「テロリストの人殺し」と呼ばれ、早くもコロンビアがアルゼンチンの外交官を国外追放するなど、今月に入ってから不穏な動きが活発化している。ミレイはメキシコやヴェネズエラにも批判を加え、いまや南米の治安を掻き乱す最大級の不安要因であり、アルゼンチンやコロンビアの音楽にもさらなる変化が起きることは間違いない。『Antes del Amanecer』のリリースにあたってサヴァンは「私たちがどんな状況に置かれても、私たちは常にポジティブな思考を働かなければならない」とコメント。ミレイ大統領はちなみにイスラエル支持である。

Gastr del Sol - ele-king

 1991年、ポスト・ハードコア・バンド、バストロを継承するかたちでデヴィッド・グラブスにより結成されたバンドは、93年にファースト・アルバムを発表、ガスター・デル・ソルと名乗ることになる。同年、ジョン・マッケンタイアとバンディ・K・ブラウンがトータス結成のために脱退すると、入れ替わるようにジム・オルークが加入。デュオ体制となった彼らは94年から98年にかけ3枚のアルバムを残し、ポスト・ロックを代表する1組となった。
 そんなガスター・デル・ソルの、じつに26年ぶりのリリースがアナウンスされている。これまでまだまとめられたことのないスタジオ・ワークと未発表のライヴ音源から構成される『We Have Dozens of Titles』は、〈Drag City〉より5月24日に発売。90年代のデヴィッド・グラブスとジム・オルークによる冒険を、いまあらためて確認するチャンスだ。

artist: Gastr del Sol
title: We Have Dozens of Titles

label: Drag City
release: 24th May 2024
format: 3LP Box Set / 2CD / digital
tracklist:
01. The Seasons Reverse (live)
02. Quietly Approaching
03. Ursus Arctos Wonderfilis (live)
04. At Night and at Night
05. Dead Cats in a Foghorn
06. The Japanese Room at La Pagode
07. The Bells of St. Mary's
08. Blues Subtitled No Sense of Wonder (live)
09. 20 Songs Less
10. Dictionary of Handwriting (live)
11. The Harp Factory on Lake Street
12. Onion Orange (live)

https://www.dragcity.com/news/2024-03-27-gastr-del-sol-reforged

edbl - ele-king

 1st、2nd ステージともにチケットはソールドアウト、客席はおおよそ男女半々、多様で熱心なファンが詰めかけた edbl 初のバンド・セットでの来日ライヴ。3月23日、BLUE NOTE TOKYO での 1st ステージを観た僕がまず感じたのは、イギリスのバンドならではと言える伝統的なステージ運びのさすがのウマさと、そして、ヒップホップ・ビートをベースとするライヴにおける演じる側、聴く側、双方の成熟度合いの高さだった。

 打ち込みメインのクールなヒップホップ・ビートと、元々はギタリストである edbl 自身が奏でるギターや、キーボード、ホーン、そしてヴォーカルといったメロディアスな要素の組み合わせの巧みさで、サウス・ロンドンの地から世界中でのブレイクを果たした edbl。ヒップホップ・ビートを用いるアクトでもいまや通例となったバンド・セットでのライヴは、インストの “Seven Eleven” で幕を開ける。ドラムスの Andrew Finney、ベースの John Wright、キーボードの Jim Baldock に続いてステージに上がった edbl は、他のメンバーとともにコーラスも担いつつ、やや高い位置に構えたテレキャスターのサウンドで曲をリードしていく。大半の曲でリード・ヴォーカルと、そしてラップもひとりで担う大活躍を見せた Jay Alexzander も登場し始めた次曲は “I'll Wait”。早くも Jay と edbl が客席煽りのウマさを発揮し、場内の熱気はグングンと高まっていく。つくりだす音楽とは裏腹に edbl はとてもアツい人で、彼のテンション高めの言動が周りの人々を巻き込んで、驚異的なリリース量の原動力になっているんだなと、謎がひとつ解けた感もあった。


 出し惜しみなし、人気曲のオンパレードだったこの日のライヴ。“No Pressure” に “Just The Same” と続けた後は、ゲスト・ギタリスト、Kazuki Isogai がステージに呼び込まれる。彼と edbl の共作アルバム『The edbl × Kazuki Sessions』から “Worldwide” と “Lemon Squeezy” をプレイ。共作はインターネット上のやり取りでなされたもので、面と向かっての共演はこのときが初となった両者。それでもやはり、同じ時代に同じタイプの音楽を嗜好するふたりのギター・プレイの相性は抜群で、弾きすぎない、ヒップホップ時代ならではのクールなかけ合いで客席を魅了した。
 そう、この夜の edbl バンドは、ヒップホップ・ビートのレコードをライヴでどう聴かせる(再現する)かという、かれこれ30年に及び演じ手側に突きつけられてきた命題の、最適解のひとつを示していたように感じた。2022年7月に、ロンドンの PizzaExpress Jazz Club でおこなわれた彼らのライヴはその音源が公開されている。トランペッターがいないだけで他のプレイヤーはこの夜と同じだけど、そのおよそ2年前の演奏に比べても全体のサウンドは、はるかにブラッシュアップされていた。「すべての楽器を打楽器のように」扱いアフリカン・アメリカンのファンク・ミュージックを確立したのはジェイムズ・ブラウンだけど、この夜の4人の演奏はまさにそれだった。ドラムスもベースもキーボードも、とにかく最小限の音しか奏でない。皆がパーカッシヴで、サステインはほとんど聞かせず、ビートを紡ぐことに専念。主役である edbl だけは時折、エモいソロなども交えギター・ヒーロー的な姿も演じて見せたけど、他の3人がミュージシャンズ・エゴ的なものを見せたのはメンバー紹介時のソロだけだ(それでも3人は終始、とても楽しそうに演奏していた)。90年代半ばにザ・ルーツがブレイクしてきた際、ドラム・マシンのように叩くクエストラヴが話題になったけど、「いまのロンドンのバンドは、ここまで来ているんだ!」と感嘆するほど、ヒップホップ・ビートの生バンド演奏はもはや次の段階に達していると感じられた。そして、そんなバンドが聴かせるミニマルなビートのウマみを感じとり、全員がノリノリだった客席を見ていると、聴く側の進化があってこその、演じる側のさらなる進化だとも思えた。

 “If There's Any Justice” “Be Who You Are” に続いて披露されたデビュー曲 “Table For Two” で改めて客席が沸く。ミニマルなサウンドながら、ギター・インストのジャジーなヒップホップからR&B、ソウルと多彩な曲の数々を連発し、飽きさせないステージングはこれもさすがだ。“Temperature High” “Cigars” “Never Met” に続けたアシッド・ジャズなノリのダンサブルな “Too Much” で盛り上げた後、“Lemonade” で本編は終了。“Nostalgia”、リミックスが最新シングルとしてリ・リリースされた “The Way Things Were” を演じたアンコールも大盛り上がりで、最初から最後まで実に心地よく楽しいショウだった。

3月のジャズ - ele-king

 ジョン・コルトレーンアリス・コルトレーンの音楽や思想を後世に伝えるために設立された非営利団体のジョン&アリス・コルトレーン・ホームは、コルトレーンの一族や〈インパルス〉レコード、デトロイト・ジャズ・フェスティヴァル、ハマー・ミュージアム、ニューヨーク・ヒストリカル・ソサエティなどと提携し、今年2024年と2025年を「アリスの年」と位置づけ、さまざまな企画や催し、出版などをおこなっていくとしている。2月22日にはコルトレーン夫妻の息子であるサックス奏者のラヴィ・コルトレーン、アリスの娘であるシンガーのミシェル・コルトレーンに、アリス・コルトレーンに多大な影響を受けたハープ奏者のブランディ・ヤンガーらが集まり、夫妻とも縁の深いニューヨークのライヴ・ハウス、バードランドで記念コンサートがおこなわれた。そして、これら企画の一環としてアリス・コルトレーンの未発表ライヴ盤が発表された。


Alice Coltrane
The Carnegie Hall Concert

Impulse! / ユニバーサル

 ジョンの死後から4年経った1971年2月21日、ニューヨークのカーネギー・ホールでおこなわれたコンサートの模様を収録しており、もともと〈インパルス〉からリリースする予定で録音していたものの、諸事情でお蔵入りとなっていたものだ。アリスはインドのヨガの教祖であるスワミ・サッチダナンダ・サラスワティに師事しており、そのスワミ・サッチダナンダの統一ヨガ研究所の設立基金にコンサートの収益金は充てられた。アリスにとってはバンド・リーダーとして初めてのカーネギー・ホールでのコンサートとなり、参加メンバーはファラオ・サンダース(テナー&ソプラノ・サックス、フルート、パーカッション)、アーチー・シェップ(テナー&ソプラノ・サックス、パーカッション)というジョンの弟子たちと、コルトレーン楽団のベーシストだったジミー・ギャリソン、そしてセシル・マクビー(ベース)、エド・ブラックウェル(ドラムス)、クリフォード・ジャーヴィス(ドラムス)というラインナップで、そのほかに現代インド音楽の演奏家のクマール・クレイマー(ハーモニウム)、トゥルシー・レイノルズ(タンボーラ)も参加。アリスは1970年12月に5週間ほどインドに滞在し、その体験やサッチダナンダの教えをもとに1971年2月に『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』をリリースした。このコンサートはアルバムの発表から1週間後におこなわれ、アルバムの演奏メンバーだったファラオやセシル、トゥルシーらも加わりし、『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』のお披露目にも当たるものとなった。

 全体で1時間20分ほどに及ぶコンサートだが、演奏するのは『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』から表題曲と “シヴァ・ロカ(シヴァ神の領域)”、ジョン・コルトレーンの代表ナンバーである “アフリカ”、“レオ” と長尺の4曲のみ。“ジャーニー・イン・サッチダナンダ” と “シヴァ・ロカ” は、スタジオ録音盤からおよそ2倍の長さにまで伸ばされた即興演奏が続く。まさにミュージカル・ジャーニーとも言うべき瞑想的で深遠な演奏で、銀河を思わせるアリスのハープの流れのなかを、ファラオやアーチーのサックスが泳いでいく。この2曲でアリスはハープを演奏しているのだが、“アフリカ” ではピアノを演奏している。当初のアリスは1965年にジョンのグループにマッコイ・タイナーの後任ピアニストとして参加していて、その当時を彷彿とさせる演奏である。原初的なアフリカの太鼓を思わせるダイナミックなドラム、モーダルななかにときおりセシル・テイラーのように鋭く覚醒したフレーズを挟むピアノ、激情的な咆哮を上げるサックスと、モード・ジャズとフリー・ジャズの狭間を行くような演奏が30分近く続く。瞑想的な『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』の世界とは真逆の激しいパフォーマンスだ(ちなみに、数年前にこの “アフリカ” の演奏部分をA、B面に振り分けたブートレッグが発売されたことがある)。

 “レオ” はジョンの1966年の来日公演でアリス、ファラオらとともに演奏したナンバーの再演。1978年のロサンゼルスでのライヴ・アルバム『トランスフィギュレーション』でも演奏していて、そのときに「獅子座生まれの人が持つ根源的なエネルギーについてジョンが作曲したナンバー」だとナレーションを入れていた(このライヴ盤でも曲紹介はしているが、音声が小さくて不明瞭)。獅子座生まれのアリスに捧げた曲とも言える。『トランスフィギュレーション』のアリスはすべてオルガン演奏だったが、こちらではピアノ演奏なのでかなり印象も異なる。“アフリカ” の流れを引き継ぎつつ、よりフリーキーに振り切った演奏となっている。中間の鬼気迫る中にも緻密さを孕んだピアノ・ソロは圧巻だ。“アフリカ” と “レオ” はアリスの世界というより、ジョンとアリスが共同で作り出した世界の再現と言えるもので、このライヴを観た人はそこにジョンも存在したと思ったのではないだろうか。


Jahari Massamba Unit
YHWH Is Love

Law Of Rhythm

 マッドリブとカリーム・リギンズによるプロジェクト、ジャハリ・マッサンバ・ユニットのデビュー作『パードン・マイ・フレンチ』から2年ぶりの新作。アルバム・タイトルの “YHWH(ヤハウェ)” は「神」や「創造主」という意味だ。カリームのビートメイカー的なセンスは本作でも健在で、実際にはドラムを演奏していてもヒップホップのビートのように聴こえるし、またJディラ風のよじれやズレを意図的に生み出している。そして、“JMUズ・ヴォヤージ” でのエレピ、“ザ・クラッパーズ・カズン” でのトロンボーン、“ボッピン” でのフルートとマッドリブの楽器演奏は前作よりもさらに充実しており、ミュージシャンとしての熟練ぶりが感じられる。“ストンピング・ガミー” はアフリカ的な色彩を湛えたジャズ・ファンクで、エイドリアン・ヤングとアリ・シャヒード・ムハマンドの『ジャズ・イズ・デッド』プロジェクトに近い感触。“マッサンバ・アフダンス” はサンバのリズムで、1960年代のブラジルのジャズ・サンバ・トリオを現代的にアレンジしたものとなっている。


Tour-Maubourg & Ismael Ndir
The Panorama Sessions

Pont Neuf

 ツール・マーブルグはベルギー出身で現在はパリを拠点とするプロデューサー。ハウス系のDJプロデューサーだが、ジャズ的なピアノ/キーボード演奏を取り入れるなどジャズ・ハウス・クリエーターとして評価が高い。これまで『パラディス・アーティフィシャル』(2020年)、『スペーシズ・オブ・サイレンス』(2023年)と2枚のアルバムを発表していて、それらではディープ・ハウスなどにとどまらず、ダウンテンポやジャズ・ファンク、ブロークンビーツ調と幅広さを見せ、いずれにしてもキーボード演奏が楽曲の軸となっている。『スペーシズ・オブ・サイレンス』では2曲ほどサックス奏者のイスマエル・ンディールが参加した曲があったが、この度そのイスマエルと組んだEPをリリースした。ブリュッセルにあるパノラマ・スタジオでのセッション音源で、ドラマーのフレジュス・メアがサポートしている。ツールにとって、これまでのエレクトロニックな作品群に比べて生演奏に大きく舵を切った意欲作となっている。哀愁に満ちたサックスが心象的なメロウ・フュージョン調の “オープニング・テーマ”、ジャズ・ボッサのリズムを取り入れた “ラ・ベルセウス・デ・ヴュー・アマンツ”、ブロークンビーツ的なリズムにディープなピアノとサックス演奏がフィーチャーされた “サン・テ・ア・ラ・メンテ”。1990年代後半から2000年代のクラブ・ジャズやフューチャー・ジャズの時代、フランスでは〈イエロー・プロダクションズ〉を中心に、DJカム、サン・ジェルマン、レミニッセンス・カルテット、マイティ・バップなどが登場し、ジャズ・ハウス、ブラジリアン・ハウス、トリップ・ホップなどのサウンドが隆盛を極めた。そうした頃の雰囲気を感じさせる作品集である。


Amaro Freitas
Y'Y

Psychic Hotline / unimusic

 ブラジル出身のピアニスト、アマーロ・フレイタスの通算4枚目のアルバム。これまで〈ファー・アウト〉などから作品をリリースしてきたが、今回はアメリカの〈サイキック・ホットライン〉というレーベルからのリリースで、それに伴ってかアメリカのミュージシャンたちと共演する。ブランディ・ヤンガージェフ・パーカーのほかに1970年代からフリー・ジャズ方面で活動してきた大ヴェテランのハミッド・レイクも参加。アメリカ人以外にもシャバカ・ハッチングスやキューバ出身のアニエル・ソメイランが参加するなど国際色豊かなセッションとなっている。2020年にアマーロはアマゾン流域のマナウスという街に居留していたことあがり、そこでの経験が作品にインスパイアされている。アマゾンの自然やそこに住む先住民がモチーフとなり、以前のピアノ・トリオを軸とした作品から、より多彩な楽器群を交えた複合的な作品集となっている。アマーロ自身もピアノだけでなくカリンバ(ムビラ)やパーカッション類を演奏し、アフロ・ブラジリアン的な極めてルーツ色の強いサウンドだ。“エンカンタドス” は野趣に富んだアフロ・サンバ、もしくは隣国ウルグアイのカンドンベ調の作品で、シャバカのバンブー・フルートとアマーロのピアノの絡みは、ブラジルが生んだ奇才のエルメート・パスコアルを思わせるようだ。ブラジルからはエルメートはじめ、アイアート、ナナ・ヴァスコンセロスといった世界的なミュージシャンが登場しているが、彼らはブラジルとその源流であるアフリカの先住民たちのリズムとジャズを結びつけ、土着性に満ちた音楽を発信してきた。アマーロ・フレイタスのこのアルバムも、そうした系譜に繋がる作品と言えよう。

exclusive JEFF MILLS ✖︎ JUN TOGAWA - ele-king

 子どものころTVを観ていたら「宇宙食、発売!」というコマーシャルが目に入った。それは日清食品が売り出すカップヌードルのことで、びっくりした僕は発売初日に買いに行った。ただのラーメンだとは気づかずに夢中になって食べ、空っぽになった容器を逆さまにして「宇宙船!」とか言ってみた。カップヌードルが発売された2年前、人類は初めて月面に降り立った。アポロ11号が月に降り立つプロセスは世界中でTV中継され、日本でもその夜は大人も子どももTV画面をじっと見守った。翌年明けには日本初の人工衛星が打ち上げられ、春からの大阪万博には「月の石」がやってきた。秋にはイギリスのTVドラマ「謎の円盤UFO」が始まり、小学生の子どもが「宇宙」を意識しないのは無理な年となった。アポロが月に着陸した前の年、『2001年宇宙の旅』が1週間で打ち切りになったとはとても思えない騒ぎだった。

 ジェフ・ミルズが2008年から継続的に続けている「THE TRIP」は宇宙旅行をテーマにしたアート・パフォーマンスで、日本では2016年に浜離宮朝日ホールでも公演が行われている。COSMIC LABによる抽象的な映像とジェフ・ミルズの音楽が混じり合い、幻想的な空間がその場に満ち溢れていた。このシリーズの最新ヴァージョンがブラックホールをテーマにした「THE TRIP -Enter The Black Hole-」で、ヴォーカリストとして初めて戸川純が起用されることとなった。公演に先駆けてアルバムも録音されることになり、戸川純は2曲の歌詞を書き下ろし、ジェフ・ミルズがあらかじめ用意していた4曲と擦り合わせる作業が年明けから始まった。レコーディングはマイアミと東京を結んでリモートで行われ、ジェフ・ミルズによる細かい指示のもと〝矛盾〟と〝ホール〟の素材が録音されていく。当初は〝コールユーブンゲン〟のメロディが検討されていた〝ホール〟には新たなメロディがつけられることになり、様々なエデイットを経てまったくのオリジナル曲が完成、オープニングに位置づけられた〝矛盾〟には最終的にギターを加えたミックスまで付け加わった(それが最初に世の中に出ることとなった)。
 レコーディングを始める前からジェフ・ミルズに戸川純と対談したいという申し出を受けていたので、本格的なリハーサルが始まる前に機会を設けようということになった。ジェフ・ミルズがオーストラリアでトゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェストのライヴを終えて、そのまま日本に到着した翌日、2人は初めてリアルで顔を合わせた。戸川純がソロ・デビューして40年。ジェフ・ミルズが初めて日本に来て30年。2人にとってキリのいい年でもある2024年に、2人はしっかりと手を取り合い、短く声を掛け合った。初顔合わせとなるとやはりエモーションの渦巻きが部屋中に満ち溢れる。それはとても暖かい空気であり、2人の話はアポロ11号の月着陸から始まった。

ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。――戸川純

ジェフにコンセプトを訊く前に、戸川さんはこれまで宇宙についてどんなことを考えたことがありますか?

戸川純:いまの宇宙について、どんなことが問題かとか、そういうことは考えたことがありませんでした。子どものころの宇宙観と変わらないままです。私は1961年生まれだから、60年代の未来観のまま来ちゃいました。

今回、「ブラックホール」というテーマで歌詞を書いて欲しいというオファーがあった時はどんな感じでした? オファーがあった日の夜にすぐ歌詞ができましたね。

戸川純:はい。ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。

「恐れと憧れ」でしたね、確かに。ジェフはどうでしょう。同じ質問。ブラックホールに最初に興味を持ったきっかけは?

ジェフ:もともと宇宙科学にはすごく興味があったし、僕は1963年生まれなんだけど、僕が子どもの頃、アメリカはNASAとかアポロ計画とか、アメリカ人には避けて通れない騒ぎとなっていて、子ども心にすごく影響を受けました。あと、アニメとかコミックス、映画やSFにと~~~っても興味があった。ブラックホールについて具体的に考え始めたのは、92年にマイク・バンクスとアンダーグラウンド・レジスタンスというユニットをやっていて、その時にX-102名義で土星をテーマにしたアルバム『Discovers The Rings Of Saturn』をつくって、その次に何をやろうかと考えた時、ブラックホールはどうだろうという話をしたんです。その時から企画としては常に頭にありました。

最初にかたちになったのは〝Event Horizon〟ですよね(DVD『Man From Tomorrow』に収録)。

ジェフ:どうだったかな。曲が多過ぎてもうわからない(笑)。

戸川純:63年の生まれなんですね。60年代の終わりまでにアメリカは月へ行くと大統領が宣言していて、ぎりぎり69年にアポロ計画が遂行されました。あれを中継で観ていて、宇宙ブームが全世界で起きて、日本も同じでした。NASAもそうだし、60年代の風景はアメリカと同じじゃないかな。日本はアメリカの影響をすごく受けてますから。子ども向けの「宇宙家族ロビンソン」とか「スター・トレック」(*当時の邦題は「S.0401年 宇宙大作戦」)、あと、私は観てはいけないと言われてたけれど、遅い時間に起きてTVでこっそり観た『バーバレラ』とか。

お二人はSFを題材にすることが多いですよね。ジェフの『メトロポリス』へのこだわりと戸川さんが参加していたゲルニカは同じ時代を題材にしていたり。

ジェフ:SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。自分の経験を有効活用することができるんです。アポロが月面着陸した時は学校中の子どもが講堂に呼び出されて、みんなでTVを観ました。

戸川純:Me too.

ジェフ:僕はそれにとても感銘を受けたんですけれど、ほかの子どもたちは全然、興味なくて。

戸川純:ええ、そう?

ジェフ:まったく違う方向に行ったりと、受け取り方は人それぞれですよね。僕はその時のことが現在に繋がっていますね。

2人とも月面着陸を観た時は宇宙旅行に行ってみたいと思いました?

戸川純:Of course.

ジェフ:小学生にはそれがどんなに大変なことだったかはわからなくて、マンガとかSFではもうどこにでも行くことができていたから、僕はやっと本当の人間が行ったんだなと思いました。

戸川純:大変なことだというのは私もわからなかった。宇宙旅行に行くにはどれだけ訓練しないといけないとか、耐えるとか、何年も地球に帰ってこれないとか、精神が持たないとか、そういうことはわからなかった。

ジェフ:うん(微笑)。

〝矛盾〟の歌詞では宇宙旅行が「13度目」ということになっていますけれど、この数字はどっちから出てきたんですか?

戸川純:(手を挙げる)

どうして13だったんですか。

戸川純:不吉だから。

ジェフ:初めて知った(笑)。

戸川純:謎めいた感じにしたかったんです。

ジェフ:アポロ13号は事故を起こしたよね。

戸川純:ああ。

ジェフ:アメリカにはエレベーターに13階がないんです。

戸川純:日本のホテルにもそういうところはあるかもしれない。リッツ・カールトン・東京は13階には人が泊まれなくて、会社が入っています。

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SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。――ジェフ・ミルズ

前回の「THE TRIP」では「地球がもう住みにくくなった」から宇宙旅行に行くという設定でしたよね。

ジェフ:どちらかというと地球が住みにくくなって宇宙に出ざるを得なかったというよりは宇宙に出ればもっといろんな答えが出てくるという考えでした。

戸川純:うん。

ジェフ:宇宙に出て、ここまで来ちゃったら、もう戻れない。「THE TRIP」というのはそのポイントから先のことを指しています。地球と自分がまったく別の存在になっちゃって、そこから何が起きるのか。リアリティとフィクションを混ぜ合わせることが「THE TRIP」のコンセプトなんです。

戸川純:もっとポジティヴなんですね。

ジェフ:そう、そう。でも、ノー・リターンなんです。帰ることはできないと悟った時点で、そこから冒険が始まる。進むしかないんです。

ノー・リターンは厳しいな(笑)。

戸川純:そこがどんな場所か、ですよね。帰りたくないと思うような場所かもしれないし……

ジェフ:いまはまだ空想上の話にしているけれど、現実的に片道切符で宇宙に行くという必要は出てくるんじゃないかな。

戸川純:そうですよね。

ジェフ:ワン・ウェイ・ジャーニーだとわかっていても火星に行きたい人を募集したら、けっこう集まってたでしょう。地球上でもたとえばイギリスからオーストラリアに島流しにあった人たちは、そこまでたどり着かないと思っていたのに、たどり着いた人たちは生き残ってオーストラリアという国をつくったじゃない?

戸川純:そうなんだ。へえ。

ジェフ:昔から地球規模では起きていたことですよ。

戸川純:面白いですね。ポジティヴでいいですね。

ジェフ:うん。

戸川純:私はネガティヴに考えているところがあるなと反省しました。

ジェフ:いや、それはある意味、当然のリアクションじゃないかな。やっぱりすごく大変なことですから。現実的に宇宙には酸素がないわけだし、酸素がなければ人間は生きられないし。

戸川純:うん。

ジェフ:そういうことを全部克服していかなければならないから。

じゃあ、イーロン・マスクが進めている火星移住計画には賛成ですか? 同じ質問をブライアン・イーノにしたら、そんな金があったら地球環境をよくするために使えと怒っていました。

ジェフ:僕は賛成です。火星に行くことによって地球のこともわかると思うし、地球環境の研究も進むんじゃないかな。

戸川純:なるほどね。

ジェフ:火星も昔は地球みたいな星だったから、どうしてああなったのかという変遷がわかれば地球を救えるかもしれないし。

戸川純:興味深い考え方ですね。

イーロン・マスクはロケットの名前をすべてイアン・バンクスのSF小説からつけていて、SFが現実になっていくという感覚はジェフと似ているかも。

ジェフ:そうなのかな。

では、なんで、今回は行き先がブラックホールになったんですか?

ジェフ:僕にとってブラックホールは自然な現象で、スパイラルというものに僕は関心があるんです。地球が回っているように、太陽系も回っているし、銀河系も回っているし、物理的に回ってるだけでなく、時間や自分たちのライフ・サイクル、昔の考え方ではリーインカーネション……?

戸川純:輪廻転生。

ジェフ:そう、輪廻転生。すべてがサイクルになっていて、その大元はなんだろうと考えた時に、もしかしたらそれはブラックホールなんじゃないかと。ブラックホールがすべての源だとしたら、それに影響を受けない人は誰もいないんじゃないかということをテーマにしています。

壮大ですね。

戸川純:ビッグ・バン。

ブラックホールとビッグ・バンにはなんらかの関係があると多くの学者は考えています。

ジェフ:そうです。こういうことを考える人はほかにもいると思うんですけれど、この世の中にあるものが全部回りながら動いているのは事実ですから。

戸川純:それは科学的根拠に基づいた事実だと思うんですけれど、私が思う矛盾のひとつに、死んだら意識が闇のなかに消えてしまって、何にもなくなってしまうという感情を持ちつつ、お寺では亡くなった人に祈ったりもするんですね。そういうところが私は矛盾しているんですよ。信じているのか信じていないのか。

ジェフ:そうですね。両方あるのかも。

素粒子の性質も矛盾していますよね。物質なのか、波なのか。

ジェフ:生まれる前に何もなかったとしたら、死んだら何もないと考えるのは自然な考えだし、すべてのものが回っているなら、命も回っていると考えるのも自然なことです。古代のマヤ文明とかで輪廻転生が信じられていたのも何かしら理由があるんじゃないかな。

戸川純:マヤ文明にしても、科学的に立証されている事実として物事が回っているにしても、私はさみしいなと思っていたんですよ。自分が死んだらすべてが終わってしまうということは、自分がこの世に未練が何もないみたいで。また、生まれ変わってこの世に生まれ落ちたいと思う自分の方がポジティヴだから。そうなりたいと思ってはいたんですよ。だからジェフさんの哲学には、すごく影響を受けます。

ジェフ:実際に自分たちの感覚とかサイエンスでは本当のことはまだ知り得ないと思うんですけれど、古代の人たちの知恵というのは無視するべきじゃなくて、そこには何かしら理由があったんじゃないかと思うから。すべてのものが回っているということは、みんなで考えるに値するテーマじゃないかなと思います。

私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。――戸川純

ジェフから年末に「戸川純とコラボレートしたい」というオファーが届いた時、あまりに意外な組み合わせでびっくりしたんだけど、ある種の根源的なものというか、戸川さんのヴォーカルに生きる力みたいなものを感じたのかなと。実際に戸川さんとコラボレートしてみて、オファー前と印象が変わったということはありますか。

ジェフ:いや、思っていた通りでした。ジュンさんのことはかなりリサーチして、音楽を聴いて、映像もたくさん観たんですけれど、複雑な事情をうまく表現できる方だと思いました。そのことはコラボレーションして、さらに実感が深まりました。

戸川純:ありがとうございます。私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。

ジェフ:ジャンルで差別するようなことはしないようにしていて、なんでも聴くようにしてるから、ひとつのことだけをやっていればいいとは思っていないんです。

常にチャレンジャーですよね。

ジェフ:人によってはそういうのは好きじゃないとか、がっかりしたという反応も当然あるんですけど、カテゴライズされたものをやるよりは自分のクリエイティヴィティはいつもチャレンジすることに向かわせたい。

戸川純:ジェフさんほどスケールは大きくないですけれど、私もチャレンジしてきたつもりです。ポップだったり、前衛的だったり。それでがっかりされることもあったのは同じですね。でも、新しく支持してくれる人を発見して、その都度やってきたつもり。私もチェンジしていく方が好きです。たまたまだけど、いま着ているTシャツは21歳ぐらいの時に撮った写真で、いまはこんなことはしないんですけど(と、舌を出している図柄を見せる)、リヴァイヴァルというか、チェンジし続けていたら、それこそまわりまわって、ここにまた戻ってきて。いまの若い人たちがこの頃の、80年代の私を支持してくださるので、その人たちにありがとうという気持ちでつくったTシャツなんですね。そういう回帰みたいなことはありますね。

ジェフ:いいものは時代を超えて評価されるということですね。

戸川純:わあ。

ジャンルとはまた別に、戸川さんがスゴいなと僕が思うのは、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの区別がないというか、国民的な映画やCMに出演したかと思うとパンクはやるわノイズ・バンドともコラボしたりで、なのに戸川純というイメージに揺るぎがないこと。

ジェフ:究極のアーティストなんですね。

戸川純:ありがとうございます。

では最後に、自分にはなくて相手は持ってると思うことはなんですか?

戸川純:アートですね。いま、究極のアーティストと言っていただきましたけれど、自分では自分のことをエンターテインメントな人間だと思っています。いつもどこかショービズに生きている。アクトレスとシンガー、それから文筆業としてやってきましたけれど、エンターテインメントはそれなりに大変だし、アートとエンターテインメントのどっちが偉いとも思わないし、突き詰めて考えたこともありませんが、私はエンターテインメントで、ジェフさんはアート、この組み合わせが今回のコラボは面白いんじゃないかと思います。

ジェフ:ああ、僕ももっとエンターテインメントできればいいんだけど(笑)。もうちょっとオーディエンスを楽しませるとか、そういうことができれば。

ぜんぜんやれてると思うけど(笑)。

ジェフ:ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。僕とジュンさんは2歳しか違わないけれど、やはり61年生まれと63年生まれでは60年代の記憶がだいぶ違うと思うんです。60年代に起きたことの記憶が僕にはあんまりなくて、60年代のことをもっと実感したかった。60年代のことをアーティスティックな視点から理解することができなかったことは自分としてはかなり残念なことです。60年代というのは現在の音楽シーンや文化のスターティング・ポイントだったと思うので、いろんなことを繋げて考えていくと、どうしても60年代に回帰していく。ジュンさんの声には60年代が感じられます。

ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。 ――ジェフ・ミルズ

ちなみに、お互いに訊いてみたかったことって何かありますか?

ジェフ:……。

戸川純:……。

一堂(笑)。

戸川純:たくさんあるけど……。

ジェフ:80年代や90年代から現在までずっと、音楽やファッション、あるいは発言によっていろんな人、とくにいろんな女の子たちに強い影響を与えてきたことを本人はどう思っています?

戸川純:いや、自分で言うのは照れますよ。実際に影響を受けましたと言ってくれる人もいるんですけど、それについて自分でいざ何か言うのは……

一堂(笑)。

戸川純:こんな和やかな場で言いたくはないんですけど、去年亡くなった最後の家族……お母さんが、えーと、暗い影響を私に与えたんですけれど、そのことによって私は奮起してきたんです。お母さんは私に「産まなきゃよかった、産まなきゃよかった」って私に言い続けて、小さい頃から、50代になってもずっと言い続けたんです。私は認めてもらおうと思って、がんばって活動してきて、その時々で喜んではくれるんだけど、ついポロっと「産まなきゃよかった」って。それに負けまいとして、なんとか、その言葉を覆そうとしてやってきたんです。ずっとやってきたので、これからもやり続けることに変わりはないんですけど、だから、なんて言うのかなあ、ジェフさんの話を聞いていて、ほんとにいろんなところでポジティヴだし、タフでらっしゃるし、今日は良き勉強をさせていただきました。Thank you.

ジェフ:こちらこそThank you.

(3月19日 南麻布U/M/A/Aにて)

「COSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』」 Supported by AUGER
会 場:ZEROTOKYO(新宿)
日 程:2024 年 4 月 1 日(月) 第 1 部公演: 開場 17:30 / 開演 18:30 / 終演 20:00 第 2 部公演: 開場 21:00 / 開演 21:45 / 終演 23:15 ※第 2 部受付は 20:30
出 演: Sounds: JEFF MILLS  Visuals: C.O.L.O(COSMIC LAB) Singer: 戸川純  Choreographer: 梅田宏明  Costume Designer: 落合宏理(FACETASM) Dancer: 中村優希 / 鈴木夢生 / SHIon / 大西優里亜
料 金: 一般前売り入場券 11,000 円
チケットはこちらから https://www.thetrip.jp/tickets
主 催:COSMIC LAB 企画制作:Axis Records、COSMIC LAB、Underground Gallery、DEGICO/CENTER
プロジェクトパートナーズ(AtoZ):FACETASM、株式会社フェイス・プロパティー、日本アイ・ビー・エム株式会社、一般社団法人ナイトタイム エコノミー推進協議会、株式会社 TST エンタテイメント
オフィシャルサイト:https://www.thetrip.jp

サウンドトラック盤『THE TRIP -Enter The Black Hole-』

■配信
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全12曲収録
リリース日:2024年3月20日 0時(JST) ダウンロード価格:通常¥1,833(税込):ハイレゾ:¥2,750(税込)
配信、ダウンロードはこちらから https://lnk.to/JeffMills_TheTripEnterTheBlackHole

■CD
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全13曲収録  ※CDのみボーナストラックを1曲収録
リリース日:2024年4月24日 (4月1日開催のCOSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』会場にてジェフ・ミルズ サイン特典付きで先行販売) 価格:¥2,700(税込) 品番:UMA-1147
[トラックリスト]CD, 配信
01. Entering The Black Hole 02. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * 03. Beyond The Event Horizon 04. Time In The Abstract 05. ホール* 06. When Time Stops 07. No Escape 08. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Long Radio Mix)* 09. Time Reflective 10. Wandering 11. ホール (White Hole Mix) * 12. Infinite Redshift CDのみ収録ボーナストラック 13.矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Mix)*  *戸川純 参加曲

■アナログレコード
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全8曲収録 LP2枚組、帯・ライナー付き、内側から外側へ再生する特別仕様、数量限定
リリース日:2024年5月下旬 価格:¥7,700(税込) 品番:PINC-1234-1235
[トラックリスト]
A1. Entering The Black Hole A2. Time In The Abstract B1. Wandering B2. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * C1. When Time Stops C2. Time Reflective D1. Infinite Redshift D2. ホール*  *戸川純 参加曲

戸川純 ライヴ

3/31 渋谷プレジャープレジャー(ワンマン)
https://pleasure-pleasure.jp/topics_detail.php/2492

4/12 台北THE WALL(プノンペンモデルとツーマン)
https://www.ptt.cc/bbs/JapaneseRock/M.1709920228.A.4E3.html

ele-king books 既刊

新装増補版 戸川純全歌詞解説集──疾風怒濤ときどき晴れ 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007905/

戸川純エッセー集 ピーポー&メー 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/006617/

戸川純写真集──ジャンヌ・ダルクのような人 池田敬太+戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007462/

Kelela - ele-king

 まるで太陽神かなにかみたいだった。直視することがはばかられる、物理的な光の反射。ブラック・カルチャーでよく参照される古代エジプトと関連があるのだろうか。2023年9月3日、胸に円形の鏡を装着して神田スクエアホールの舞台にあらわれた彼女は、「わたしは光をまとって立っている」という “Contact” の歌詞どおり巧みに照明を利用し、文字どおり光を放っていた。
 黒人文化の入念な研究を経て送り出されたセカンド・アルバムは、ブラックであることと女性であることの両方をエンパワメントする作品だったわけだけれど、光を駆使するケレラはいまみずからが世界を変革するための道しるべになることを引き受けようとしているのかもしれない。好評を得た『Raven』から1年。そのリミックス盤『RAVE:N, The Remixes』もまた彼女の輝きを広く知らしめる作品となっている。

 ケレラがリミックス盤を制作するのはもはや恒例行事だ。ミックステープ『Cut 4 Me』(2013→2015)、EP「Hallucinogen」(2015→2015)、ファースト・アルバム『Take Me Apart』(2017→2018)……今回もングズングズやLSDXOXOといったこれまで一緒に仕事をしてきた面々から、おそらくはフックアップの意図もあるのだろう、まだそれほどリリース量が多いわけではないプロデューサーたちまで幅広く招集されていて、ある種のショウケース的な様相を呈している。
 最大のトピックは、今日もっとも無視することのできないエレクトロニック・プロデューサー、ロレイン・ジェイムズの参加だろう(“Divorce”)。彼女らしい独特のビートにケレラの歌声が絶妙に絡んでいくさまを聴いていると、ふたりのさらなるコラボを期待せずにはいられない。〈Hyperdub〉にも作品を残すカレン・ニャメ・KGによるアマピアノ(“Contact”)、シャイガールのラップをフィーチャーしたJD・リード(“Holier”)、フットワークとジャングルそれぞれのおいしい部分を同居させるDJマニー(“Divorce”)にDJ LHC(“Far Away”)、力強いダンス・テクノでフロアに火をつけるKYRUH(“Missed Call”)、原曲のジャングルから骨格を強奪し幽霊化してみせるA・G・クック(“Happy Ending”)、テイハナによるご機嫌なレゲトン(“Enough For Love”)などなどヴァラエティに富んだ内容で、それこそ先日コード9が言っていたような、現在クールとされているビートを全部用いた鍋料理のごとき1枚に仕上がっている。参加者たちはかならずしもブラックや女性のみで固められているわけではないものの、どのリズムもブラック・カルチャーが育んできたものばかりなのは見過ごせないポイントだろう。
 全篇にわたってたゆたいつづけるヴォーカルのおかげか、これほど多くのプロデューサーが関わっているにもかかわらず音の触感やムードはきれいに統一されている。もはやオリジナル・アルバムと言ってもいいくらいの完成度で、これまでのリミックス盤と比べても群を抜いてるんじゃなかろうか。

 本盤にも参加しているトロントのプロデューサー、バンビー(“Closure”)との対談でケレラは、「まったく異なるアレンジをクリエイトすることが大好きなんです。おなじテーマについて異なる方法で考えることを促してくれるから」と語っている(https://www.interviewmagazine.com/music/kelela-and-bambii-on-the-power-of-the-remix)。彼女にとってリミックスとは、べつの角度から世界を眺めることなのだ。そしてそれは新しい世界を切りひらくことでもある。「メインストリームから外れていたり簡単には理解されないといつも感じてきた人びとのための世界をつくりたい」。ないものにされているなら自分で世界をつくるしかない──そう述べる彼女は、カラリズム(同人種間において比較的明るめの肌色の人間がより濃い肌色の人間を差別すること)とミソジノワール(黒人女性嫌悪)と資本主義の交差が人びとの選択肢を狭めている、だったら自分自身で選択肢をつくるしかない、と提案してもいる。
 多様な才能たちが放つ光をみずから鏡となって反射すること。『RAVE:N, The Remixes』という「べつの選択肢」を用意することで彼女は、『Raven』で見せた新世界の可能性の断片をより遠くまで届けようとしているのかもしれない。荒れ狂う海原でいちるの希望となるような、灯台の光そのものとなることによって。

Larry Heard - ele-king

 シカゴ・ハウスのレジェンドのなかのレジェンド、ラリー・ハードが13年ぶりに来日する。ディープ・ハウスを定義した“Can You Feel It”、ハウスの妖しい光沢を示した“Mystery Of Love”、アシッド・ハウス・クラシックの“Washing Machine”……多くのクラシックを残した重鎮、この機会を見逃すな。

■Larry Heard aka Mr.Fingers Japan Tour 2024

4.26(Fri) 名古屋 @Club Mago

music by
Larry Heard aka Mr.Fingers
ayapam D.J. (WIDE LOOP)
Longnan (NOODLE)

2nd room DJ:
xxKOOGxx (Raw Styelz, VINYL)
HIROMI. T PLAYS IT COOL.

food: ボヘミ庵

Open 22:00
Advance 3,000yen(https://club-mago.zaiko.io/item/363289
Door 4,000yen

Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


4.27(Sat) 東京 @VENT
=ROOM1=
Larry Heard aka Mr.Fingers
CYK
=ROOM2=
SHOTAROMAEDA
SATOSHI MATSUI
Pixie
Hikaru Abe

Open 23:00
DOOR: 5,000yen
ADVANCE TICKET: 4,500yen (優先入場)
(https://t.livepocket.jp/e/vent_20240427)
SNS DISCOUNT: 4,000yen

Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652


4.28(Sun) 江ノ島 @OPPA-LA
- the ORIGINAL CHICAGO -

DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ IZU
artwork SO-UP (phewwhoo)
supported Flor de Cana
Open 16:00 - 22:00
"Limited 134people" Mail Reservation  *SOULD OUT*
5,000yen / U-23 : 3000yen (http://oppa-la.net)
Door
6,000yen / U-23: 4,000yen
Info: OPPA-LA http://oppa-la.net
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-12-17 江ノ島ビュータワー4F TEL 0466-54-5625


5.2 (Thu) 大阪 @Club Joule
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ Ageishi, YAMA, Chanaz (PAL.Sounds)
PA: Kabamix
Coffee: edenico
Open 22:00
Door 5,000yen
Advance 4,000yen (e+ 3/22~販売
https://eplus.jp/sf/detail/4073520001-P0030001)
U-23 3,000yen

Info: Club Joule www.club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F TEL 06-6214-1223

Larry Heard a.k.a Mr.Fingers (Alleviated Records & Music)

 ゴッドファーザー・オブ・ディープハウス、シカゴハウスのオリジネーター、Mr.FingersことLarry Heardはシカゴのサウスサイドで生まれ、両親のジャズやゴスペルのレコードコレクションから音楽に興味を示すようになる。ローカルバンドでドラムを演奏していたが、シンセサイザーに魅かれ、1984年からシンセサイザーとドラムマシンでの音楽制作を開始する。1985年、Mr.Fingersとして”Mystery Of Love” でレコードデビュー。シカゴではハウスミュージックが全盛期を迎える中、1986年にリリースされたMr.Fingers ”Can You Feel It”は説明不要のハウスミュージック名曲として知られる。
 1988年にリリースされたMr.Fingersファーストアルバム『Amnesia』や、Fingers Inc.(Larry Heard、Robert Owens、Ron Wilson) アルバム『Another Side』ではハウスミュージックの創造性を追求し、シカゴハウス最高峰アルバムとして評価されている。1992年、ディープハウスを背景にR&Bやジャズ、コンテンポラリーな要素を取り込んだ、Mr.Fingers アルバム『Introduction』でMCAよりメジャーデビュー。
 1994年、Black Market Internationalよりリリースされた、Larry Heard名義としてのファーストアルバム『Sceneries Not Songs, Volume One』では、フュージョンやニューエイジをLarry流に昇華し、チルアウトやダウンテンポに傾倒した作風によってアンビエントハウスという言葉を産んだ。
作品はその後もコンスタントにリリースされながらもLarryは突如シーンからの引退を宣言し、コンピュータープログラミングの仕事に専念するためにメンフィスに移る。
 Track Mode主宰のBrett Dancerを筆頭に、アトランタのKai AlceやデトロイトのTheo Parrishらの功労によって、アンダーグラウンドなネットワークを通じてLarryは再度シーンと接触し、2001年にLarry Heard名義のアルバム『Love's Arrival』のリリースを伴いカムバックする。
現在もメンフィスを拠点に活動し、Mr.Fingers名義での最新アルバム『Around The Sun Pt.1』(2022年)、『Around The Sun Pt.2』(2023年)を自身主宰のレーベルAlleviated Records&Musicからリリース。
 彼の過去の作品が数多く再発されている近今、13年振りの来日となる。

http://alleviatedrecords.com

Jeff Mills - ele-king

 ブラック・ホールをテーマにしたジェフ・ミルズのニュー・アルバム、戸川純が参加したことでも話題になっている『The Trip – Enter The Black Hole』が3月20日より配信にて先行リリースされている。またCDとアナログの発売も決定(CDは4月24日、LPは5月下旬)。なおCDは、サインつきのものが4月1日におこなわれる同名の舞台作品の会場(ZERO TOKYO)にて先行販売されるとのこと。LPは、内側の溝から外側の溝へ向かって再生されるという、かつてURもやっていたデトロイト仕様だ。これはぜひアナログ盤を入手しておきたいところ。下記のリリース情報およびイベント情報をチェックしておこう。

CEDEC AWARDS 2023 サウンド部門優秀賞受賞

40年以上の歴史のなかから選び抜かれた名盤950枚を紹介

好評につき在庫切れ状態がつづいていた一冊が
絶えることなき需要に応えるべく新装版として復活!

監修者にしてゲーム音楽研究の第一人者、田中 “hally” 治久によるロング・インタヴューを追加掲載。この5年の変化を語りつくす。
現状に合わせ一部のレヴュー内容をアップデイト、柱や索引も読みやすく再レイアウトした決定版。

「日本のゲーム音楽は、この国が生んだもっともオリジナルで、もっとも世界的影響力のある音楽だ」と『DIGGIN'』のプロデューサー、ニック・ドワイヤーは言う。これは、長年ゲーム音楽を研究し続けてきた本書執筆陣が、それぞれに思い続けてきたことでもある。ゲーム音楽は単なるゲームの付随物で終わるものではなく、かけがえのない価値を様々な形で具有している。〔……〕本書はゲーム音楽の歴史に散らばる何万枚ものサントラ盤やアレンジ盤から、これはという名盤たちを「音楽的な」観点から選び抜いた、ありそうでなかったディスクガイド本である。 (本書序文より)

監修・文:田中 “hally” 治久
文:DJフクタケ/糸田屯/井上尚昭

A5判並製/304頁

目次

新装版の刊行に寄せて──田中 “hally” 治久インタヴュー

序文
凡例

第1章 試行錯誤の黎明期

ゲーム音楽レコードの胎動 | ヒア・カムズ・マリオ! | アレンジの模索 | 声なき時代のゲーム歌謡

第2章 サウンドチップの音楽

任天堂 | ナムコ | コナミ(アーケード) | コナミ(家庭用) | タイトー | セガ | カプコン | データイースト | アイレム | SNK | アーケードその他 | 家庭用その他 | 古代祐三 | 崎元仁・岩田匡治 | 日本ファルコム | 日本テレネット~ウルフチーム | パソコン系その他 | 海外 | リバイバル

第3章 ミニマムサンプリングの音楽

スクウェア | コナミ | タイトー | ナムコ | セガ | カプコン | ソニー系 | 任天堂 | 家庭用その他(SFC) | 家庭用その他(PS・SS・N64ほか) | アーケードその他

[コラム] インターネットミームと非公式ゲーム音楽リミックス ~All Your Base are Belong to Us~ (糸田屯)

第4章 ハード的制約から解放された音楽

最初期(カセットテープ~CD-ROM初期) | 劇伴作家の仕事 | シンフォニック | シンフォニックロック | アコースティック~ニューエイジ | プログレ | フュージョン | ジャジー | シンセロック | ハードロック/ヘヴィメタル | ロックその他 | アンビエント~エレクトロニカ | クラブミュージック | ディスコ~ダンスポップ | ポスト渋谷系 | 音楽ゲーム | ヴォーカル | ジャンルミックス | その他 | CD-ROMから聴けるゲーム音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト

第5章 ダウンロード配信世代のゲーム音楽

エレクトロニカ | エレクトロニック・ダンス | 80sリバイバル&ウェイヴ系 | レトロモダン(チップチューン進化系) | ロック | シンフォニック | アコースティック | ジャジー | ジャンルミックス | 民族音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト2

第6章 アレンジバージョン

第一次バンドブーム | フュージョン | プログレ | ロック | 管弦・器楽 | アコースティック | シンセ | ダンス&クラブ | ジャンルミックス | ヴォーカル | その他

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト3

第7章 アーティストアルバム

日本(バンド) | 日本(ソロ/ユニット) | 海外

索引
あとがき

田中 “hally” 治久(たなか・はりー・はるひさ)
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。チップ音楽研究の第一人者で、主著に『チップチューンのすべて』、共同監修書籍に『ゲーム音楽家インタヴュー集──プロのベテラン18人が語るそれぞれのルーツ』『インディ・ゲーム名作選』ほか。さまざまなゲーム・サントラ制作に携わる傍ら、ミュージシャンとしても活動しており、ゲームソフトや音楽アルバムへの楽曲提供を行うほか、国内外でDJ・ライブ活動も展開している。

DJフクタケ
90年代よりDJとして活動。95年に世界初のGAME MUSIC ONLY CLUB EVENT「FARDRAUT」開催に関わるなど最初期から活動するVGMDJであり、ゲーム音楽関連アナログ盤のコレクターでもある。2014年より歌謡曲公式MIX CD『ヤバ歌謡』シリーズをユニバーサル・ミュージックよりリリース、2017年には自ら企画した玩具・ゲーム関連タイアップ楽曲集CD『トイキャラポップ・コレクション』シリーズを発表。『レコード・コレクターズ』、『昭和50年男』など雑誌連載の他、書籍『アニメディスクガイド80’s』や各種WEB媒体への寄稿なども精力的に行う。

糸田 屯(いとだ・とん)
ライター/ゲーム音楽ディガー。本書以外の執筆参加書籍に『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』(DUBOOKS)、『ハヤカワ文庫JA総解説1500』(早川書房)。共同監修書籍に『ゲーム音楽家インタヴュー集──プロのベテラン18人が語るそれぞれのルーツ』(ele-king books)。『ミステリマガジン』誌にてコラム「ミステリ・ディスク道を往く」連載中。

井上尚昭(いのうえ・なおあき)
2001年、ウェブサイト「電子遊戯音盤堂」を開設。“レコード会社別で捉えるゲーム音楽レビュー” を主旨とし、当時はrps7575というペンネームを用いていた。洋邦・映画・アニメ・実写問わずサウンドトラック全般が守備範囲で、別名義でDJプレイなども行う。商業誌初寄稿となる本作を機に、リアルサウンドやIGN Japan、CDのライナーノーツなど、執筆領域を伸長。 本業はサウンドデザイナーで、TV・映画・広告・イベントなどを主とし、ゲーム関連ではeスポーツの大会映像や、開発会社のCI、プロモーション動画の為のサウンド制作歴がある。

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アリス・コルトレーン - カーネギーホール・コンサート

 365日かけて元の位置に戻るこの地球という美しい岩の上では、作品を聴き、理解し、前日とは違った見方ができる日が365ある。私たちは、地球上の多くのひとがアリスやジョン・コルトレーンのステージを見たことがないであろう時代を迎えようとしている。コルトレーンは2人とも、やがてモーツァルトのように男女の神話のような空間に住むことになるだろう。幸いなことに、私たちには写真があるし、アーカイヴ映像も少しはある。今後新しい世代がこのコンサート、ファイアー・ミュージックとスピリチュアル・ジャズの両方を、そしてアリスとジョン・コルトレーンの一期一会のみごとな融合を解釈し、再評価することになるだろう。

 本作『アリス・コルトレーン~カーネギー・ホール・コンサート』は、ノスタルジアの魅力が二重に構成されている。アルバム・タイトルには「アリス コルトレーン」の名前だけが反映されており、初心者にとっては、そこで聴ける音楽への期待を膨らませることになる。 ただし、実際の録音は追悼と祝福だ。アリスとジョン、2人のアーティストは2024年現在では故人だが、これが録音された1971年当時においては、ジョン・コルトレーンはその4年前に他界しており、依然としてジャズ界のヒーローだった。私たちはまずここで、アリスがジョンのライフワークのなかに創造性と愛を見出していることを知る。そしてまた、アリスが自分の種を植え、宇宙の木々に囲まれているのを聴くことができる。このコンサートは、ある伝説的な人物の出発が、別の人物の上昇の夜明けを始めるという、彼らの芸術的パートナーシップの図式なのだ。

 本作では、スピリチュアルな瞑想やヴァイブに満ちたリラクゼーション集中法からフリー・ジャズ世代の衝撃的なカオスの叫びまで、レコーディングのバランスはシーソーのように変化している。この音の組み合わせが当時どう捉えられ、いまどう捉えられるかは興味深く逆説的だ。往年のジョンの『アセンション』(1965)の爆音をまだ渇望している聴衆にとっては、アルバムの後半はカタルシスだったろう。しかし、それはアリスが必ずしも望んでいた姿ではない。本作において彼女は、 『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ(Journey in Satchidananda)』(1971)に収録された表題曲と “シヴァ・ロカ(Shiva-Loka)” で自分自身とその正体を示している。1968年から1973年にかけて、アリスは4人の子供を持つポスト・ジョンの世界での大きなプレッシャーにもかかわらず、信じられないほど多作で、作品のなかで東洋(インド)のスピリチュアリティを探求することに熱心だった。同世代の他のアーティストとは異なり、アリスはそれから何十年も経った2007年に他界するまで、彼女のスピリチュアルな旅から離れることはなかった。ゆえに1971年以降のアリス・コルトレーンの音楽が具現化していった芸術的ヴィジョンの息吹を考えると、このレコーディングには必ずしもアリスの世界すべてが録音されているわけではない。

 しかし、本作を歴史のない音楽として、ジャズの長大な理念のなかに漂う音として受け止めるなら、味わうべきものは多い。アリスがハープという楽器を選んだことは、彼女がジョン以降をどのように歩みたいかを表現する上で重要な意味を持っている。ハープにはジャズの歴史がない。つまり、典型的なヴィルトゥオーゾ(名演奏家)的ジャズの装飾を忌避する、記憶のないサウンド・クリエーターとして機能できる。ジョンもそういうアーティストだった。ハープによってアリスはムード、質感、感情、純粋な表現、メロディ、瞑想、そしてもっとも輝かしいに悟りに集中する。歴史の重みを軽やかに避け、アーティストたちは新しいものの先駆者として自由に表現する。

 アルバムの後半の、獰猛な “アフリカ(Africa)” と “レオ(Leo)” に近づく前に、アリスが選んだ “ジャーニー・イン・サッチダーナンダ” と “シヴァ・ロカ” は、夜の闇と昼の明るさの完璧なコントラストであり、東洋のスピリチュアリティと自由な表現のユニークな融合を示している。アメリカがまだベトナム戦争という失敗に膝まで浸かっていた頃、アリスのゆらぎのあるハープ・フライトのクレッシェンドは、その世代で誰もが苦しんでいた不安に対する治癒として機能したのだろう。

 そして、ノスタルジアへの頌歌として、アリスは楽器をピアノに替え、ジョンがそばにいた時のポジションを再現した。“アフリカ” と “レオ” におけるエネルギーの放出は、グループがどれだけ爆発を起こせるかの耐久テストとなった。ジョンは不在だったが、代わりにファラオ・サンダースアーチー・シェップ、セシル・マクビーなど、ジョンがもっとも信頼したコラボレーターたちが参加している。感動的な音のカデンツは、幸運にも彼らに導かれた聴衆に畏敬の念を抱かせた。音楽はインスピレーションを与え、自己発見へと駆り立てる力を秘めている。そのエネルギーは決して衰えることはない。最後の音が鳴りやむのを心いっぱいの拍手で祝福する聴衆に温められている。

 

Alice Coltrane - The Carnegie Hall Concert

written by Kinnara : Desi La

  On this beautiful rock called Earth, that takes 365 days to return to its original position, there are 365 different days to listen and understand a work or see it differently than the day before. We are coming at a point in time where no one on Earth will have seen Alice or John Coltrane on stage. Both Coltranes will soon inhabit a space like Mozart as a myth as much as a man and woman. Luckily we have pictures. And a few bits of archival footage. Each following generation will from now on interpret and reevaluate this concert, both fire music and spiritual jazz, and the unique once in a lifetime union of Alice and John Coltrane.
The allure of nostalgia is two fold in this release, Alice Coltrane - The Carnegie Hall Concert. The title reflects only Alice Coltrane’s name and to the uninitiated, that would be their expectation of the music contained. The actual recording though is a reflection and/or a celebration. Both artists, Alice and John are now deceased as of 2024 but at the time of recording in ’71, John Coltrane was a not so distantly deceased hero of the jazz world having passed away almost 4 years previously. We see Alice view the love of her life’s work within herself and creative work. In the same concert we hear Alice plant her own seeds and surround herself with cosmic trees. This concert is a diagram of their artistic partnership with one legend’s departure initiating the dawn of another’s ascent.
The balance in this recording is a seesaw from spiritual meditation and vibe-filled relaxation concentration techniques to the shock chaos screaming of the free jazz generation. How this sound combination was viewed at the time and could be viewed now is intriguing and paradoxical. For the audience still craving the sonic blasts of yesteryear ASCENSION, the latter half of the recording was catharsis. But that isn’t who Alice necessarily wanted to be. She showed herself and what she is with “Journey in Satchidananda” and “Shiva-Loka.” Between 1968 and 1973, Alice, despite the immense pressures of a post-John world with 4 children, was incredibly prolific and intent on exploring eastern (Indian) spirituality within her work. Unlike other artists of that generation, Alice never left that spiritual journey until she passed away many years later in 2007. Given the breath of artistic vision that Alice Coltrane`s music would come to embody after 1971, the recording in a way robs us of completely experiencing Alice’s world.
If we take the album as just music without history, as just sounds floating in the lengthy ethos of jazz, there is much to savor. Alice’s choice of instrument in the harp is instrumental in expressing how she wished to navigate post-John. The harp has no real history with jazz. So it operates as a memoryless sound creator avoiding the trappings of typical virtuosic jazz. The type that John was clearly known for. The harp allowed Alice to focus on mood, on texture, on feelings, on pure expression, on melody, on meditation and most gloriously enlightenment. Without the weight of history, artists can embrace freedom maneuvering as vanguards of the new.

  Alice’s choice of “Journey in Satchidananda” and “Shiva-Loka” before approaching the ferocious “Africa” and “Leo” were perfect contrasts of the darkness of night and brightness of day displaying her unique blend of Eastern spirituality and freeform expression. As the US
was still knee deep in the failure that was the Vietnam War, Alice’s fluctuation crescendos of harp flight acted as band aids to the anxiousness everyone suffered from in that generation.
Then in an ode to nostalgia, Alice switched to piano refilling the position she held with John by her side. Here the burst of energy with both tracks “Africa” and “Leo” became endurance tests for the number of explosions the group could launch. John was absent but supplanted by some of his most trusted collaborators like Pharoah Sanders, Archie Shepp, and Cecil McBee among others. Cadences of sonic emotion left a sense of awe for those in the audience lucky enough to be initiated by them. The music is inspiring and holds the power to nudge towards self-discovery. The energy never wanes, cherished by an audience that blesses with heart filled applause as the last sounds die off.

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